IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
入学初日の授業が全て終わった夕方。
その教室では2人の男子がいた。片や広げられた教科書とノートを前に頭を抱え、片やその姿を見て頭を悩ませている。
「……今の説明でどれぐらいわかった?」
「全然、わかりません」
「まぁ、そうだよなぁ」
翼にとって、いや、このIS学園に通う者ならば当然知っている知識だが、それは一朝一夕で身につけられるものではない。
少なくとも月単位の時間が必要だ。
(どうするかな……。無理やり叩き込めなくはないけど、そんな勉強の仕方がいつまでも続けられるわけない。
かといって時間はそこまでない。今やらなきゃどんどん追いつけなくなるし)
悩み混んでいた翼を見て一夏は申し訳なさそうに表情を暗くさせる。
「悪い……翼。いきなりこんなことやらせて」
鎮痛な面持ちの彼に対して翼は数度の瞬きを挟んで微笑んだ。
「いいさ別に。正直さ、まだ初日だけど俺は一夏にかなり助けられた。
同じ男がもう1人いるってだけで安心感? みたいなやつがあってさ」
「ああ! それわかる!
同性がいるってだけで色々楽だなってもうすでに実感してる」
「そういうことだ。だから一夏が気に病むことじゃない」
翼本人からその言葉を聞いた一夏は安心したように息をついて笑みを浮かべる。
「わかった。なら、全力で頼る!
その代わり、翼もなんかあったら相談してくれよ。心許ないかもしれないけど助けるぞ、俺」
「ああ、その時は頼むよ。
さて、話を戻すぞ。今日はとりあえず……ここまでやろう」
翼は一夏の前に広げられていた教科書のページを指差した。
ページにして2ページ、今までのペースなら20分程度の量だろう。
そう予想した一夏は自分に喝を入れるように頷いた。
「ああ、分かった」
その反応を見て翼が「よし」と説明を再開しようとした所だった。
「ああ、織斑くん、岸原くん。まだ教室にいたんですね。よかったです」
教室の出入り口にはいつの間にか彼らの副担任の真耶が立っていた。
彼女の声に応えるのは横目で時計を見た翼だ。
「山田先生、どうかしましたか?
まだ教室は使える時間ですよね?」
「ああ、その話ではないんです。
えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言った部屋番号が書かれている紙と鍵を2つずつ差し出す。
名目上、生徒達の保護のためにIS学園は全寮制となっている。
実際は監視、ということが正しいのだがそれを知っているのは極々少数だろう。
「俺達の部屋って、まだ決まって無いはずじゃ?」
一夏は真耶に問いかける。
彼の言うとおり彼らの部屋は決まっていなかったはずだ。
理由は単純に2人が男だからである。
さすがに女子ばかりの場所に男2人を無策で放り込むわけにもいかず、かと言ってわざわざ自宅から通学されては下手をすれば拉致されてしまう。
そこでしばらくは護衛付きで登校を、という話だった。
「そうなんですけど、やはり事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理やり変更したらしいんです。
ただそのせいでどちらかは女子と同室に––––」
2人は真耶のその言葉を聞くとすぐさまじゃんけんを始めた。
初戦の結果はどちらもチョキを出したためあいこ。
「ふむ、あいこか」
「だな。それじゃ––––」
2人が手を引っ込め次の手を出そうとしたところで真耶は聞く。
「って何してるんですか?」
「えっ、ジャンケンですよ」
翼はさも当然のように答えた。
それにどこか曖昧に答える真耶を傍目に一夏は急かす。
「翼、次だ」
「ああ」
「「ジャンケン、ポンッ!!」」
そのジャンケン後、2人の反応は真逆だった。
翼はその手、チョキを出した手を天高くに掲げ、一夏はその手、パーを出した手を地面に叩きつけていた。
「山田先生、1人部屋の鍵を下さい」
翼は嬉々とした表情で手を差し出す。
「えっ、あっ、はい」
いきなり話しかけられたのに驚きつつ、真耶は少し慌てて翼に一人部屋の鍵と紙を渡す。その後に一夏に二人部屋の鍵と紙を渡した。
翼はそれらを貰った後にふと思い出すように呟く。
「あっ、そういや荷物ないから家から持ってこないと」
「あっ、荷物なら––––」
「荷物なら私が手配しておいてやった。ありがたく思え」
真耶の言葉を先回りして言ったのは千冬。いつの間にか真耶の隣にいたっていた。
「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと、端末の充電器があればいいだろう」
そう付け足した千冬は真耶を呼びに来たのか目配せをする。彼女はそれに頷くと翼たちの方を向いて言う。
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。
夕食は18時から19時、寮の一年生用食堂で取ってください。
ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。ただ、その、織斑くんと岸原くんは今のところ使えません」
「えっ、なんでですか?」
一夏はすぐさま首をかしげた。
その表情から本当に理由がわかっていないらしいことを見抜いた翼は額を手で抑えため息をつく。
「お前馬鹿か? まさか女子と一緒に入りたいなんて言うのか?」
「あー、そっか」
「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!? だっダメですよ」
真耶の教師として当然のような言葉が一夏に飛んだ。
彼は慌ててそれにすぐさま首を横に振り否定を表す。
「い、いや、入りたくないです」
その言葉を真耶は頭の中でどう解釈したのか妙なことを言い始めた。
「ええっ? 女の子に興味が無いんですか!? そ、それはそれで問題のような」
まだここだけで止まったのならよかったのだが、なぜか真耶のその言葉は伝言ゲームのように広まり早くも女子の話しに花が開き始めていた。
「織斑くん、男にしか興味が無いのかしら?」
「えっ、じゃあ、もしかしたら岸原くんと……?」
「「「きゃ~~~!!」」」
そんな女子達の黄色い悲鳴が教室や廊下に響く。
「あ、えっと、それじゃあ私達は会議があるのでこれで」
女子に2人の風評被害を与えた真耶はそう言い残して千冬と教室から出ていった。
噂話の方をどうにかしようかとも翼は思ったが、先ほどまでいた女子たちは廊下から姿を消していた。
「……俺は一度部屋に行くけど、一夏はどうする?」
「俺も疲れたから部屋に行く」
「んじゃ、一緒に行くか」
「ああ」
翼と一夏は軽い雑談を交わしながら教室を出た。