IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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学年別トーナメントⅡ

 今まで目の前で繰り広げられていた光景に圧倒され言葉をなくしていた観客たちはラウラが落とされたことをきっかけに大きな歓声を上げる。

 緊迫した戦闘の興奮がようやく観客席に広がったのだ。

 

 グラウンドに降り立った翼は左手のビームブレードを脇に格納し、棘風(ほこかぜ)を展開。銃口を膝をついたラウラに向けた。

 死に体と呼べる状況だがシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーはまだ残っている。

 

 大型レールカノンは破壊され、ワイヤーブレードこそ数は残っているが刃はひび欠けておりまともに使えない。レーザーブレードは万全だがユニコーンを相手に近接戦闘を仕掛けるだけのエネルギーはない。

 

 そんな相手でも翼は棘風を下すことはない。

 

(もう戦うすべはない。"普通のIS"ならこれ以上構う必要はない)

 

 しかし、それでも引っかかることがある。

 つい昨日に昨夜から受け取ったメッセージに書かれていた内容が本当ならば、まだ終わっていない。

 

(……考えすぎか? 使うのならばもう使っていたはずだ。

 噂話だった? いや、咲夜さんがなんの確証もなく言ってくるとは思えない)

 

 警戒しつつも棘風のトリガーを引こうとしたその時、直感に従って瞬間旋回(クイックブースト)で後退。

 その瞬間、グレネードが翼がいた場所を通過した。

 

「シャルル!」

 

「ごめんね。そんな状態でもまだやらせるわけにはいかないんだ」

 

 シャルルは言いながらラウラの前に立ち、シールドとライフルを構える。

 翼が棘風を収納、華片を展開し中段に構えたところで彼の隣に簪が移動してきた。

 

「ごめん。翼、シャルルを止められなかった」

 

「いや、十分だ。ボーデヴィッヒの戦闘能力はほぼない……おそらくな」

 

 簪は翼が過度に警戒している理由を察することができず、疑問を覚えながらも薙刀の夢現(ゆめうつつ)を展開して構える。

 そんな2人から視線を逸らすことなくシャルルはラウラに言葉をかけた。

 

「ごめん、ボーデヴィッヒさん。本当ならもう少し早く来るつもりだったんだけど、なかなか振り切らせてくれなくて」

 

 しかしラウラはなにも答えない。

 答える余裕がないのか、意思がないのかまではわからなかったがそれでも彼は続ける。

 

「もう諦めたの?

 あれだけ大口叩いといて」

 

「……黙れ。私に構うな」

 

「そっか。わかった」

 

 シャルルはそう言い捨てるとユニコーンを標的にとらえ、スラスターを吹かしながらライフルを打つ。

 

「翼!」

 

「この程度!」

 

 器用に華片で銃弾を弾いた翼は向かってくるシャルルを迎え撃つために真正面に飛び出し、その勢いのまま振り下ろされた華片はすらりとかわされた。

 だがその回避先に滑り込んでいた簪が夢現で薙ぐ。

 

 シャルルはシールドで受けることには成功したが、僅かに態勢を崩した。

 その隙を突くように切り上げられた華片をかわせたがユニコーンの頭部バルカンの射撃を受けてじりじりとエネルギーを削られる。

 さらに続けざまに簪が春雷(しゅんらい)で追撃。

 

 わずかにかすりはしたが回避はできたシャルルに休む間を与えることはなく、華片の刺突が伸びる。

 真正面からシールドで受けることでその衝撃を打ち消すついでに大きく後ろに下がり、そのまま右に移動を始めた。

 

◇◇◇

 

 本来であればそろそろピットに向かわなければならないはずの一夏たちはまだ観客席で彼らの試合を見ていた。

 

「容赦ないわね。あいつら」

 

「まぁ、相手が1人というだけで手を抜くような方ではありませんから。簪さんも同じようですわね」

 

「とはいえ、あの2人の連携を相手にしてはいくらシャルルであってもそう長くはもたないだろう」

 

「いや、まだわからないと思うぜ。箒」

 

 一斉に視線が向けられるなかで一夏は続ける。

 

「さっきの接近戦、シャルルはずっと翼を見てた。なにか狙ってたんだよ」

 

 そう言われて全員が先ほどまで繰り広げられていた戦闘を思い出す。

 

 改めて考えてみれば今のシャルルから近接戦闘を仕掛ける理由は薄い。

 近接戦になればたしかに2人が誤射を恐れて射撃を行わないという可能性がある。

 

 しかし、シールドエネルギーの総量で負けている以上は強引なダメージレースに持ち込まれて負ける可能性のほうが高い。

 そもそもシャルルが得意としているのは中距離射撃戦であるため、不利な現状でわざわざ2人の懐に飛び込む理由はないはずだ。

 

「それでも近接戦に持ち込んだ、となればたしかになにか狙いがあると考えるのが妥当だな」

 

「一夏、アンタよく気が付いたわね」

 

「まぁ、みんなに鍛えられてるからな。自暴自棄になっている動きじゃなかったし」

 

「となれば狙いは……ッ! 動きましたわね!」

 

 セシリアの言葉に全員がバッとアリーナを向いた。

 

 いつの間にか戦場は空中となっており、翼の華片とシャルルのシールドとライフルが激しくぶつかり合う近接戦闘になっていた。

 傍から見れば拮抗しているように見えたかもしれないが、シャルルの自認としては圧倒的に押されている。

 

(隙が見えない!)

 

 行動と行動に隙間がない。辛うじて見えたとしても自分が動くころにはそこに隙はなく、対応され返される。

 ずっとその繰り返しで大きな一撃は受けないが、着実にエネルギーが削られていた。

 

 反撃のために向けられた銃口を狙って翼は足を振り上げる。

 後退していたシャルルはその攻撃はギリギリでライフルを捉えない。もし捉えたとしてもトリガーを引いた後だと思っていたがユニコーンのつま先からブレードが伸びた。

 

「ッ!?」

 

 ユニコーンのつま先からブレードは赤く発光、ギリギリの距離しか取れていなかったシャルルのライフルを切断。

 シャルルがライフルを翼に投げると同時に爆発、2人の間に爆風が広がる。

 

 その爆風を無視して突っ込んだシャルル。

 彼を認識するや否や翼が瞬間旋回を行おうとした直前、シャルルは瞬間加速を使って突進を仕掛けた。

 それによって瞬間旋回が不発に終わり、大きく体勢を崩した翼は目を見開く。

 

「なに!?」

 

「たしかに翼の瞬間旋回(クイックブースト)はすごいよ。

 でもそれはあくまでも瞬間加速(イグニッション・ブースト)。それなら加速を始める前は足が鈍くなる」

 

 瞬間加速は一度エネルギーを放出する都合上、一時的に機動力は落ちる。

 瞬間旋回もエネルギーの放出量そのものは少ないが同様の原理を用いている以上同じ隙ができる。

 もちろん翼もその弱点は把握しており、自身の不規則な機動で加速するタイミングを予測させないようにしていた。

 

 しかしそれが瞬間旋回の弱点だ。

 翼の機動は基本的に行動と行動がなだらかな線で繋がっているのだが、瞬間旋回を使うときは一瞬止まる足を弱点にしないためにその行動をカバーするような動きになる。

 瞬間旋回の前だけなだらかな線ががたつくのだ。シャルルはその隙を突いた。

 

「いくら翼でも瞬間旋回の弱点を完全に克服することはできなかったみたいだね」

 

「お見事だ。シャルル。

 でも近付いたところで!」

 

「ううん。この距離なら翼相手でも当てられる!」

 

 シャルルが叫ぶと同時、ラファールのシールド装甲がはじけ飛んだ。

 

「なッ!?」

 

 弾けたシールドから現れたのはリボルバーと杭が融合した装備。

 第二世代どころか第三世代ISにも十分に通用するほどに強力無比だが有効攻撃範囲の狭さからまともに使われることがほとんどないそれの名前は灰色の鱗殻(グレー・スケール)

 通称──

 

盾殺し(シールド・ピアース)!」

 

 翼が認識するや否やユニコーンの胸部にパイルバンカーの一撃が叩き込まれた。

 ガンッ! という大きな音が広がり、翼の苦悶の声がかき消される。

 

 灰色の鱗殻はその見た目通りのリボルバー機構を持っているため高速で次弾炸薬が行える。

 それはつまり、連射が可能ということである。

 

「ッ!! ッ!! くッ!!」

 

 いくらユニコーンといえど連続で打ち出される杭の一撃は大きく響く。

 比較的潤沢にあったはずのエネルギーが目に見えて減っていく。

 

「これで、ラスト!」

 

「いや、まだだ」

 

「え?」

 

 灰色の鱗殻からさらに杭が打ち出されるより先にユニコーンの胸部につけられていた増加装甲が爆発。その衝撃の直撃を受けたシャルルは吹き飛ばされた。

 

「な、ん」

 

「ユニコーンの物理的封印は外部増加フレームだけで十分だったんだけど、どうせならなにか仕込んでおいたほうがいいかなと思ってな」

 

 翼の言う通り、灰色の装甲が弾け飛んだ下には装甲可動部の至るところに板が貼り付けられている。それはあくまでも拘束用で防御力には一才意味がないように見えた。

 

「ッ、でも今ならまだ」

 

「シャルル、俺は1人で戦っているわけじゃないんだぜ」

 

 翼の言葉にハッとしてシャルルはいつの間にか意識から外れていたグラウンドを見る。

 そこには打鉄弐式の6機のアンロックユニットが備えているミサイルポッド、そのハッチを全て開いていた簪がいた。

 

「しまった!?」

 

「翼!」

 

「俺に構うな!」

 

 打鉄弐式から放たれたのは山嵐という名称を表す通りの合計で48発の独立稼動型誘導ミサイル。

 1機に向けるには明らかに異常な量のミサイルの嵐をまともに回避できるわけもなく、ほぼすべてのミサイルの直撃を受けたシャルルは地面に落ちた。

 

 爆風に耐えるために前面に向けていたアームドアーマーDEを下ろし、その下でクロス字にしていた腕を解いた。

 そのまま片膝をようやくといった様子で立てながらシャルルは言う。

 

「……せめて、翼は落とすつもりだったんだけどな。

 僕の負けだよ。翼のほうばかりに意識を向けて簪を見落としてた」

 

「そりゃそういう作戦だったからな。まぁでもさすがに冷や汗が出たよ」

 

「私も。灰色の鱗殻の威力は知ってたけど実際に目にすると予想以上だった」

 

「そう? なら、まぁ満足することにするよ」

 

 頷いた翼は視線をラウラに向ける。

 いまだに彼女は項垂れているままでリタイアする様子はない。

 

(普通、だな。不発だったのか?)

 

 訝しむ翼の隣にいた簪が問いかける。

 

「翼、どうするの?」

 

 うつむいたまま立ち上がろうとしないラウラと華片を持ちじっとしている翼。

 簪としてもどうすればいいのかまるで判断がつけられない状態であり、それはシャルルも同様だった。無言で翼の言葉を待っている。

 

 このまま試合終了まで待ってもいいがこの状況での放置は晒し首と違いはない。

 ならば早々にとどめを刺してしまったほうがいい、と判断した翼は華片を下段に構えた。

 

「リタイアしないなら気後れするけどトドメを刺すしかない。

 俺がやるから簪はそのままでいい」

 

「う、うん。わ、わかった」

 

 翼は警戒しつつユニコーンをゆっくりと歩かせてラウラへと向かう。

 一歩一歩近づく中でふとその考えが浮かんだ。

 

(待てよ?

 もしボーデヴィッヒがあのシステムを知らないとしたらどうだ)

 

 常識的に考えれば搭乗者にあのシステムを教えていないなどありえない話だが、そのありえない話がありえたとするなら今の状況は納得できる。

 となれば次の疑問が生まれる。

 

(システムが自動的に起動するならその条件はなんだ?

 機体のダメージ? いや、それだけで起動するならもうしているはずだ。

 なら、俺なら……ッ!?)

 

「そういうことか!」

 

 翼は叫ぶと同時にアームドアーマーDEのスラスターを全開で吹かせてラウラに迫った。

 

「「翼!?」」

 

 簪とシャルルから名前が呼ばれるが翼はそれになんの言葉の返さない。返せない。

 焦燥に満ちた顔でラウラ、いやシュヴァルツェア・レーゲンを切るために華片の間合いにそれを捉える。

 

(なら、もしそうなら消沈している今のうちにやらないと、じゃないと!)

 

 翼が華片で切り上げたがそれはシュヴァルツェア・レーゲンを切ることはかなわなかった。

 ラウラが勢い良く立ち上がり、腕で華片の刀身を殴りつけて弾いたのだ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 

「認めん。ここで貴様に負けるなど!」

 

 今までに加えて先ほどの華片の一撃で相当量のダメージが蓄積しているはずだ。翼が出した概算ではダメージレベルでもD相当はある。

 

「こんなトーナメントなどどうでもいい。

 だが、だがお前は!」

 

「ボーデヴィッヒ! もうやめろ!

 俺に負けたところでお前のなにかが変わるわけでも、終わるわけでもないだろ!」

 

「私に、私に負けなど許されない」

 

 ラウラ・ボーディヴィッヒ。

 それは彼女の名前ではあるが識別記号というほうが近い。

 一番最初に付けられた記号は遺伝子強化試験体C-0037。人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

 

 ただただ戦うために作られ、生まれ、育てられ、鍛えられてきた。

 知っているのは人体への攻撃方法。わかっているのは敵軍への打撃を与えるための戦略。

 それら以外は不要だった。

 

「戦い、勝つことこそが私の価値だ」

 

「価値? そんな1つのことだけで人の価値など決まるものか!」

 

「貴様に……ッ!」

 

 戦士としてあまりにも完成されすぎていたラウラだったが、それはISの適合性上昇のために行われた処置『ヴォーダン・オージェ』によって変わった。

 

 『ヴォーダン・オージェ』

 擬似ハイパーセンサーとも呼べるそれは脳への視覚信号伝達速度の大幅な上昇と超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした肉眼へのナノマシン移植処理である。

 

 理論上は不適合はありえないはずだったがラウラの左目はこれにより金色に変質、常に稼働状態のままカットできない制御不能へと陥った。

 これを境に彼女はIS訓練で後れを取り、トップの座から転落していき奈落の闇へと落ちていった。

 

「貴様にわかるわけがない! 最初から誰かに愛され、認められていた男なんぞに!」

 

 そんな彼女の救い。それが織斑千冬との出会いだった。

 千冬の言葉を忠実に実行するだけで、彼女は再び最強の座に君臨した。

 ラウラにとって千冬は恩人であり、憧れであり、そして唯一自分を救ってくれた光なのだ。

 

「私には、なにも持っていない私には教官が……織斑 千冬が必要なのだ!」

 

「……お前のその苦しみは、お前だけじゃない。

 俺もそうだった」

 

 静かに返された言葉にラウラは咄嗟に言葉を出せなかった。

 翼の声音に同情はない。哀れみもない。彼はただ当時のことを思い出しているだけだ。それを語っているだけだ。

 

「な、にが……」

 

「できなきゃいけないって自分を追い込んでいた。そうすることでようやく自分が許されるって」

 

 ユニコーンが、翼が一歩踏み出してラウラが一歩下がる。

 

「本当にお前の周りには誰もいなかったのか? 本当に味方は千冬さん以外にいなかったのか?

 お前を慕う者は誰1人としていなかったのか?」

 

「知らん! そんな人間など私の周りには──」

 

 ──本当にそうだろうか。

 

 否定しようとしたが、そんな自問によって言葉が止まった。

 少なくともそう自問できる存在たちの顔が脳裏に過ったのだ。

 

 今にして思えば自分は1人ではなかったのではないか?

 周りが拒絶していたのではなく、自分が拒絶していたのではないか?

 もしそうならば彼女たちは自分を笑っていなかったのではないか?

 

(なら、クラリッサたちは私にも同じように──)

 

 ラウラがそれに行き着く数舜前、脳内に声が響く。

 

『否、彼女たちは汝の敵だ。力をもってして従える者たちである』

 

 その言葉がラウラの中に浮かび上がりかけていた1つの答えを細かく裂き、黒く塗り潰した。

 

 瞬間、唐突な飢えを感じた。

 喉の渇きではない。空腹ではない。温もりなどでは断じてない。

 どこまでも力を求める飢えだ。

 

 それを待っていたと言わんばかりに声が問いかける。

 

『汝、自らの変革を望むか?より強い力を、欲するか?』

 

 そんな時だった。突如ラウラの脳がその言葉を聞いた。

 

「ああ、そうだった。私が欲しいものはただの、唯一無二の力だ」

 

 Damage Level……D.

 Mind Condition……Uplift.

 Certification……Clear.

 《Valkyrie Trace System》……boot.

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