IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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意味はなくとも

 更識姉妹にいいように弄ばれ、自室のベッドで意識を半ば飛ばしていた翼だったが、そんな彼をねぎらうような言葉が一夏からかけられた。

 

「聞いてくれ翼!

 山田先生にさっき言われたんだけど大浴場が使えるようになったらしい。早速今日使えるらしいけど一緒に行、ってお前なんかやつれてないか?」

 

「……まぁ、そのあたりは風呂に入りながら話す」

 

 そうしてたどり着いた大浴場を見て翼と一夏は揃って感嘆の声を上げた。

 

「おお〜、これはすごいな……」

 

「パンフレットで見てはいたけど実物はこう、圧倒されるな」

 

 教室の数、トイレの数や食堂含めた共有施設の大きさなどでIS学園の規模の大きさは様々なところでわかるが、大浴場もその例に漏れていない。

 

 すぐ目につくのが4、50人が同時に入れそうなほどの大きい湯船。

 その左右にはジェットバブの付いている湯船が複数あるのに加えて檜風呂やさらにはサウナ、全方位シャワー、打たせ滝までも完備してある。

 ここだけを見てしまえばちょっとしたホテルや大衆浴場と間違えるほどの充実っぷりだ。

 

 予想をはるかに超えるものにある種の興奮を覚えて素っ裸で設備を見て回りたかったが、その気持ちを抑えて軽く体を洗った2人は一番大きな湯船に入った。

 

「──と、いうわけで晴れて仲直りできたって感じだ」

 

 翼が話していたのは楯無と簪のことだった。

 話を聞き終えた一夏はにこやかに笑って翼をねぎらう。

 

「お疲れ様、でいいのか?

 まぁ、よかったな。翼」

 

「ああ、本当に……仲が良すぎてこれからが怖いぐらいだ」

 

 今日のようなことがこれから度々起こるとを考えると頭を抱えたくなるが、それは贅沢な悩みなのだろう。

 少なくとも互いが互いを腫れ物のように扱わなくてよくなった、ということは素直に喜べることだ。

 

 そう考えながら湯舟を楽しんでいた翼と同じようにリラックスしていた一夏が「そうそう」と思い出したように切り出す。

 

「シャルロットにもこの風呂を使ってほしいって思ってるんだけどさ。翼はどうだ?」

 

「断る理由がないな。

 とすると、入る時間を俺たちの中で分けるのがいいか。その日丸々使っていいって言っても断ってきそうだし」

 

「そうだな。上がったら一緒に話しに行こうぜ」

 

「ああ、普通に過ごすだけでも気苦労は多いどろうし、こういうリラックスできる時間は作ってやりたいよな」

 

 そのまま2人の話題は湯質になり、IS学園の設備の規模の話から入学してすぐの話、そして数時間前の戦闘へと移る。

 

「そういえば一閃二段の構え、だったか。あれはすごかった。

 あんな技いつの間にできるようになってたんだ?」

 

「翼が簪のところに行くようになって少しだな。

 シャルロットに『翼でも攻撃するときは動きが止まるからそこを突くのはどう?』って言われてさ。

 でも翼の動きの合間に入るなんてことできる気がしなかったからカウンターを入れることにしたんだ」

 

「なるほどな。いい考えだ」

 

「まぁでもあの居合を受け止めるって考えると正直どうなんだって感じなんだけどな」

 

「……いや、一夏ならたぶん行けるよ。

 お前は感覚が鋭い。直接振られたら体が勝手に動く」

 

 なにを根拠に言っているのか一夏にはわからなかったがなぜか「そうかもしれない」と思えた。

 わずかだがたしかに前に進んで強くなっている感覚がある。

 もしこれがまだ続くのならばいずれは翼に勝てるようになるかもしれない。

 

(まぁ、それがいつかって感じなんだけど)

 

 一夏は目の前にある大きな壁に小さく笑みを浮かべると翼も同じように笑いながらそれを切り出した。

 

「楽しいなIS学園は」

 

「楽しい、か? まぁたしかにそうだけどさ。

 お前はそうでもないだろ? いつもなにかしら巻き込まれてるし」

 

「それでもだよ。友だちと笑って話して、真剣に訓練して、飯を食って風呂に入る。

 こんな当たり前がこんなに楽しいなんて思わなかった」

 

 当たり前の日常だが岸原夫妻の息子として過ごしているなかで岸原 翼として見てくれる存在は片手で数えられるほどしかいない。

 そんな彼にとってはあまりにも新鮮で満ち足りた毎日だ。

 

 その日常ではなにも得るものがないかもしれない。

 翼の目的に進展を生まないかもしれない。

 しかし「それでもいい」と思えるほどに翼はこの日常に価値を見出していた。

 

(そう、なにも得られなくても。それでも俺はこの時間が好きだ)

 

 翼は天井を見上げて登る湯気を見ると小さく息を吐いた。

 

「今なら、行けるかもしれない」

 

「行ける? どこに?」

 

「俺の本当の父親の墓参りに、だ」

 

◇◇◇

 

 複数の大型モニターが並んだ管制室のような場所に咲夜はいた。

 部屋の照明自体は少し暗めに設定しているのだが、それでもモニターから放たれる光のおかげで明るい印象を受ける部屋だ。

 

 身に纏うのはクラシックなメイド服の上に白衣というかなり変わった組み合わせだが、彼女しかいないため誰からも指摘されることはない。

 そんな彼女が小さく笑う。

 

「──そうですか」

 

『うん、ごめん。

 たぶん誰かに言わないとまた逃げるかもしれないから咲夜さんには聞いてほしかったんだ』

 

 電話の向こうから聞こえるのは申し訳なさそうで照れくさそうな翼の声。

 それに対して咲夜は柔らかい声音で返す。

 

「いえ、とんでもありません。むしろ喜ばしく思いますよ。

 私もご一緒……しないほうが良いですね」

 

『うん。大丈夫。1人で行けるから。

 あ、でもよかったら行った話は聞いてほしいかも』

 

「ええ、わかりました。

 その際は飛華(あすか)も一緒でいいですか」

 

『ああ、もちろん。その時はまた連絡するよ』

 

 必ず来るであろうその日を少し頼みにしつつ翼はこの電話をかけた本題を切り出す。

 

『それでどうだった?』

 

「VTシステムの研究施設から取得したデータによると条約締結後も研修は続いていました。

 翼さんのデータも入っていましたから華片のデータがあったのも当然でしょう」

 

『わざわざ俺のデータを?』

 

「どうやら各国は翼さんを研究対象ではなく、仮想敵として定義しているようです。派手に動きすぎましたね」

 

 IS学園に入学してからイギリス、中国の代表候補生と戦い互角以上に渡りあえている。それだけならばまだ研究、監視対象にとどまっていただろう。

 だが、そこに岸原夫妻の息子であり、自身でもIS開発が可能という点が加われば危機感を覚えるのは当然のことだ。

 操縦技能、開発能力のどちらも兼ね備えた存在がしかも男性IS操縦者。なにをしても良くも悪くも世界に与える影響が大きすぎる。

 

『そんなつもりはないんだけどな。

 あ、そういえばVTシステムのデータを取れたってことはミラージュコロイドは使えたんだ』

 

「ええ、大きな不具合はありませんでした。ただ末恐ろしいものではありましたね。

 全力で飛べないというデメリットこそあれどISのハイパーセンサーすらかいくぐれるとは思いませんでしたよ」

 

『副産物だったんだけど予想以上の成果でよかった。

 施設そのものは?』

 

 翼から聞かれて咲夜はモニターに表示されたウィンドウを見る。

 表示されているのはISコアの暴走による爆発によって生まれた大きなクレーターだ。

 もともと殺風景な荒野に映る明確な死の跡を咲夜は伝える。

 

「塵すら残っていませんよ。もし公の施設でしたら大変なことになってたでしょうね」

 

『……束さんか』

 

「ええ、彼女としてはあのようなものは許せないでしょうし。私としても残す必要性は感じれません」

 

『わかってる。俺も同じ意見だ。ラボに保管をお願い。

 トレースそのものに興味はないけどISの自動操縦システムに関してのデータは見てみたい』

 

「承知しました」

 

 翼は最後に「ありがとう」と言って通話を切った。

 

 先ほどまで彼の声を伝えていた端末を名残惜しそうにじっと見つめた咲夜は視線をモニターに移す。

 その大型モニタに表示されているのは2機のISであり、それぞれの上部には名前も表示されている。

 

 1機は『ユニコーン・オーバードレス』。

 グレードレスで使用できるようになった瞬間旋回(クイックブースト)の使用を前提としたユニコーンの改修機体だ。

 

 もう1機は『レオ』。

 翼がユニコーンで得た戦闘データ、開発データを基にフレームはユニコーンと共通、外装も一部流用しつつも多数の装備、システムが実装されている機体である。

 

「フェイズシフト装甲、ミラージュコロイド、そしてイミテーション・コアを用いた疑似シンクロシステムであるトランザム」

 

 どれも世界が翼という存在を危険視するに十分すぎる代物だ。

 1つだけでも各国の勢力バランスを崩せてしまえるほどの機能であり完成度を持つそれらを翼はさも平然と考案し実現させている。

 

(翼さんが望めば世界を相手にしたとしても……)

 

 そんな荒唐無稽な妄想を咲夜は鼻で笑って一蹴した。

 

「そんなこと世界がひっくり返らない限りありえませんね」

 

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