IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
データ取得を目的とした学年別トーナメントの一回戦を全員が終えたのはVTシステムの事件からは一週間が過ぎたあとのことだった。
トーナメントが中止になりはしたが、それでもある種の賑わいがあった日々から日常にIS学園は戻る。
翼はいつものように教室の扉を開いて自分の席に座り、鞄に入れていた教材を確認する。
そんなを見て教室を見回した一夏が声をかけた。
「シャルルは? 風邪か?」
「あれ? いないのか?
先に行っててくれって言ってたんだけどな……」
「そっか。まぁ風邪じゃないならいいか。
シャルルもまだ忙しいだろうしな」
「そうだな。調書は取り終わってると思うけど隣国だし、なにかごたついてるのかもな」
翼と一夏含めそれぞれに雑談をしていた中で教室の扉が開かれる。
数名が見る中で入ってきたのは真耶だったがいつもと少し様子がおかしい。
まだSHRすら始まっていないというのにかなりふらついていた。疲れているというよりも大きな精神的ダメージを受けたように見える。
「み、みなさん、おはようございます。
今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといますか、ええっと……」
真耶の妙に歯切れの悪い説明にほとんど全員が首をかしげたが翼だけは違った。
戦闘の時にもたびたび感じるようになった電撃的な直感。
歯切れが悪い真耶と「すでに紹介は済んでいる」という言葉。
この場にいないシャルロットと「先に行ってて」という言葉。
そして先ほどから覚える妙な寒気。
翼はいつの間にか頭を下げていた。
浮かぶ冷や汗とすぐに聞こえてくるであろう声が彼、いや、彼女ではないことを祈る。
「じゃあ、入ってください」
「失礼します」
翼の祈りは届くことはなかった。
今はあまり聞きたくなかった声の主を見るために諦めて顔を上げた彼の先にはスカート姿の彼女がいた。
「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」
そう言うとシャルロットは最初の転入した時と同じように丁寧に頭を下げた。
「ええっと、デュノア君はデュノアさんでした、ということです。
はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります」
教室が一斉に様々な声を上げる。
困惑、驚愕や落胆に加えてわずかだが歓喜も混ざっていた。その調子のままあれやこれやと言い合っていた女子のうちの1人が「あっ」と声漏らした。
「そういえば岸原君と織斑君って一緒に大浴場使ってなかった?」
「「「あッ!!」」」
そのまま女子たちが事実から妄想に話を繋げるとほぼ同時、教室のドアが蹴破られたかのような勢いで開いた。
「そこの男2人! ちょっとツラ貸しなさい!!」
「誤解だ。鈴!」
「そうだ! そもそもそれ以前に見て知ったんだから一緒に入るわけ、あっ」
一夏の弁解に続いた翼が滑らせた言葉に教室にいた者全員が固まった。
翼は気が付いて慌てて両手で口を押えていたがもう遅い。
「は? 見た?」
「翼、お前なんでそこで墓穴を……」
「い、いやつい口が」
「……へぇ、そう。まぁ、あんたなら死にはしないでしょ」
鈴音はそう静かに光の消えた目で言うと甲龍を部分展開。それも腕や足ではなくアンロックユニット。
甲龍のアンロックユニットには衝撃砲である龍砲の生成機能があるため展開した目的はそれを使うことである。
「い、いやいや、待て待て!
さすがにそれは本当に死ぬだろ!」
「そうよ。半分ぐらいはそのつもりだもの」
そう言い捨てた鈴音はためらうことなく龍砲を放った。
たしかに部分展開は間に合うがそれでも肝が冷えることには間違いない。
(なるほど。これが鈴なりの罰しかたか、え!?)
翼がユニコーンの腕とアームドアーマーDEを展開し、衝撃に備えたところで彼と鈴音の間に割り込んで来た存在があった。
「ら、ラウラ・ボーデヴィッヒ? な、なんで」
2人の間に割り込んできたのはIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開しているラウラだった。
予想外の乱入者に翼は呆気にとられていたがすぐに礼を言う。
「あ、ありがとうボーデヴィッヒ」
「怪我はないな?」
「あ、ああ、おかげさまでな。
ボーデヴィッヒも元気そうでなによ──むぐっ!?」
それは突然だった。
翼は突然胸倉を掴まれラウラに引き寄せられたかと思うと唇を彼女に奪われていた。
少し触れあうような初々しいフレンチキスだったが顔が離され翼が見たラウラの顔は満足げだった。
「……は?」
「お前は私の嫁にする。これは決定事項だ!
お前だろうと異論は決して認めん」
目を白黒させ状況を吞み込めたいなかった翼だったが、ラウラの言葉で意識を現実に戻すことができた。
「あ、え? よ、嫁? そこは普通、婿じゃ」
「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。
故に、お前を私の嫁にする」
「だ、誰だそんなデタラメ教えたやつ……」
「あっ、あっ、あ……!」
ハッとして翼が向いた先に居たのはぱくぱくと口を動かし声にならない声をあげていた鈴音だ。
彼女は向けられた翼の顔を見て怒りと羞恥、少しの嫉妬を織り交ぜて叫ぶ。
「あんたねえぇぇえっ!!」
「ちょっと待て!
今のに俺の落ち度なかっただろ!」
「アンタが悪いに決まってるでしょうが!
絶対! 全部! アンタが悪い!」
「どんな理屈だよ!」
翼は生命の危機を感じて教室の後ろ側の扉から廊下への脱出を試みたが、その瞬間──
「ッ!?」
強い何かを感じてギリギリのところで翼は立ち止まった。
そしてそれとほぼ同時に鼻先をレーザーが通り抜ける。
明確な殺意に冷や汗を浮かべた翼は恐る恐るレーザーが飛んできた方向を向いた。
「あらあら、翼さん? どこかにお出かけですか?
私、実はどうしてもお話ししたいことがありまして、突然ですが急を要しますので」
レーザーを撃った本人、セシリアの声は柔らかいものだ。おまけに「おほほほ」と笑みを浮かべてる。
しかし、その顔は明らかに怒りが浮かんでいた。
彼女はその表情のままゆらりと立ち上がりながら手に持っていたスターライトmkⅢに加えてビットも展開した。
「そ、そうか。わ、悪いが。俺も急を要するんだ。後にしてくれ!」
翼は言うと今度は窓の方に向かう。ここは2階だが着地の瞬間にISを展開すれば問題ない。
だが、翼の行動は足元に突き刺さった薙刀によって妨げられた。
小さく「ひっ」と声を漏らした翼へと簪の冷たい声が向けられる。
「翼、今のはどういうつもりか教えてもらえる?」
「簪!? いったいつから」
「鈴が教室に入ったところから。
本当は止めるつもりだったんだけど、ね」
ついぞここまでかと翼が腹をくくったところでシャルロットがつかつかと彼のもとに歩み寄る。
「あ、シャルロット! た、助けてくれないか?
俺はされたほうでシャルロットもそれを目の前で──」
「翼って他の女の子の前でキスしちゃうんだね。僕、びっくりしちゃった」
顔は笑っている。
笑っているが妙な寒気も同時に覚えた翼は本能的に捲し立てるように口を開いた。
「シャルロット、さん。
あれは俺がしたわけではなくどちらかといえばされたと言うほうが正しいのであって、なぜISを展開しているのか聞きたいんだけど?」
「さぁ?
なんでたろうね」
パンッ!と炸薬のはじける音ともに露出するのは六七口径のパイルバンカー【
(これ、さすがに死ぬなぁ。俺……)
その日のホームルームは轟音と爆音、そして絶え間ない衝撃でクラスは文字どおり揺れた。
ちなみに助けなかった理由を一夏は──
「まぁ、されても少し仕方ないところはあるよな。翼ならとっさにでも反応できただろうし」
と語り、箒は──
「……気持ちはわかる」
とどこか腑に落ちないような自分でもよくわからないのか戸惑った顔で翼に語った。