IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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終わり際の一悶着

 場所を移し、翼たちが現在いるのはIS学園の寮の廊下。

 彼らから見て右側は巨大なガラス窓が並んでおり、暗くなり始めた茜色を色を廊下に映している。

 その向かい側に部屋への扉がずらっと並んでいた。

 

 紙と鍵に書かれた番号と扉に書かれている番号とを見比べて合っていることを確認した翼は同じことをしていた一夏の方を向く。

 

「隣の部屋だったんだな」

 

「ああ、らしいな。部屋は別だけど配慮してるってことかな?」

 

「かもな。まぁ、隣同士なら話もしやすいだろ。変な時間じゃなかったらいつでも来てくれ」

 

「ああ、分かった。

 あ! 落ち着いたら一緒に飯行こうぜ」

 

「そうだな。じゃあどっちか声かける感じで」

 

 そう言葉を交わして彼らはそれぞれに割り当てられた部屋に入る。

 部屋はかなりシンプルでベッドが2つあり、その正面に机と椅子のセットが間仕切りを挟んで並んでいた。

 もともと二人部屋ということもあり1人で使うにはあまりにも広い部屋だ。

 

(監視、はあるよな……)

 

 誰かに見られているという不快感があったが今はそれよりも休みたい気分だった。

 翼はすぐさまベッドに飛び乗る。

 心地良いベッドの反発と柔らかさにしばらく身を任せた。

 

(あー、寝心地いいな……)

 

 安心し緊張の糸も切れたのか目が閉じていく。

 

「ふぁ~」

 

 大きな欠伸を1つすると枕に顔を埋めた。

 

(このまま少し眠ろう……流石に少し疲れた)

 

 襲ってくる睡魔に身を任せて微睡み始めたその時──

 

 ドンッ!!

 

 ──という音が隣の部屋、より正確には一夏が入っていった部屋から聞こえてきた。

 しばらくは我慢しようとしていたがその音が止む気配が感じられず翼は上半身を起こす。

 

「なんだ? 初日から喧嘩か?」

 

 当人同士の問題であるならば翼が介入する理由はないが、それを判断するにもまずは様子を伺うべきだろう。

 そう結論付けた翼はベッドから起き上がって部屋から出た。

 

 そして隣の部屋へと向かおうと向いたところで一夏が扉の前で尻餅をついてる姿を見た。

 

「一夏? お前何してんだ?」

 

 脂汗を浮かべていた一夏は現れた救世主のような翼へと縋るように訴えかける。

 

「つ、翼! 助けてくれ! 箒が!」

 

「箒? ああ、お前の幼馴染の……」

 

 頭に箒の顔を思い浮かべることはできたがそこから先、なぜこのような状況になっているのかまでは至らず一夏に疑問を投げかけようとした。

 その直前──

 

 ドンッ!!

 

 ──という音ともに扉を貫いた木刀の切先が一夏の鼻先スレスレを通り過ぎた。

 

「「!?」」

 

 見えないはずなのにその場所を貫けるほどの殺意。

 これはいよいよもってまずいかもしれないと思った翼は背中に冷や汗を流しながら頷いた。

 

「よ、よし分かった。俺が少し話をしよう、っていうかしないといけないと思う。

 たぶん当事者同士より間に誰か挟んだ方が冷静になれるかもしれない」

 

「おお、本当か、ありがとう翼!」

 

 翼は扉をノックしようとしたところで一度止めて息を整えると改めて手を伸ばしてノックして扉の向こうにいるであろう人物に声をかける。

 

「あ〜、篠ノ之、さん? 岸原だけどちょっといいか?」

 

「なっ、岸原!? ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

 聞こえたあと扉から遠ざかる音とガサゴソと言う音が聞こえたあとに扉が開いた。

 

「ま、待たせたな、なんの用だ?」

 

「まぁ……苦情、かな?

 なにがあったのか知らないけど隣の部屋にだいぶ響いてきてたぞ」

 

 翼にそう言われて箒はハッとして目を見開くと分かりやすいほどに申し訳なさそうな顔をして少し俯いた。

 そんな時、ハラハラとした様子で2人を見守っていた一夏の顔が目に映った。

 

「それもこれも一夏の!!」

 

「ああ、わかった! とりあえず篠ノ之さん、少し落ち着いて話をしないか?

 あっ、一夏は俺の部屋に行っててくれ。終わったら呼ぶから」

 

「わ、分かった。あとは任せたぞ、翼!」

 

 一夏はそう言うと逃げるように翼の部屋に入って行った。

 それを見届けて翼は不満気な表情の箒の背中を押しつつ彼女たちの部屋に入った。

 

◇◇◇

 

 ようやく落ち着いたのか箒は窓側のベッドに座り、翼はその向かい側にある同じくベッドの上に座ったところで切り出す。

 

「それで……なにがあったんだ?

 一夏が故意に君が嫌がるようなことをするとは思えないし、君もたぶんなんの理由もなく木刀を振り回すことはしないはずだ」

 

「……それは、言えない」

 

 少し言いかけたように翼には見えたが返ってきた答えはそれだった。

 彼には彼女がこの件についてなにか話すようにも見えないがそのままではこの事件が解決できない。

 誰が悪いのか、なにが原因なのか、起こったことに対する罰を決めることはできない。

 

(……どうしたもんかな。どうにか聞き出すか? でもどうしたら話してくれるようになる? 同性ならともかく、今日初めて会った女子だぞ)

 

 次に切り出す言葉を考え始めた時にふと映った箒の姿格好に翼は違和感を覚えた。

 そしてその違和感の理由はすぐにわかった。

 

「あっ! ……あー、そういうことか」

 

 そしてそれがわかった途端頭を抱え込む。

 

(なるほど。たしかにそれなら木刀振り回されてもおかしくないし、一夏も慌てるよな)

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 箒からしてみればいきなり声を発したかと思えば急に頭を抱え込んだのだ。

 驚きと困惑がない混ぜになってもおかしくない。

 

 そんな彼女に翼は問いかける。

 

「なぁ、篠ノ之さん。たぶんシャワー浴びてなかったか?」

 

「ッ!? な、なぜわかった?」

 

「髪が少し濡れてる。そんな綺麗な黒髪を見るにきちんと手入れはしてるだろうからシャワー後に髪を乾かさないなんてことするとは思えない。

 それに今気付いたけどその剣道着も着古されてるように見えるのに着付けが甘い。たぶん俺が来たから大慌てで着たんだろ」

 

 事件の顛末としては至極単純な話。

 部屋に入った一夏が部屋を見ていくうちに先に部屋にいてシャワーを浴びていた箒が相手が少女であることを前提にかなりラフな格好で挨拶だけでもするつもりで出てきたのだ。

 

 しかし、相手は一夏、男だった。

 いくら幼馴染とはいえ気が動転してしまうのも頷ける。

 

 そんな翼の簡単な推論を箒は否定することはなく、少し驚いた様子で頷いた。

 

「よく、わかったな」

 

「状況を見ただけだよ。

 いや、でもさ……篠ノ之さん、流石にやりすぎだと思う。

 一夏が見ようと思って見てないってのはすぐにわかったんじゃないか?」

 

「ぐっ!?」

 

 自覚があったのか箒はジト目の翼に対して反論を捻り出す。

 

「だがあいつは! あいつは久しぶりにあった私に! 私が声をかけるまでなんの言葉もなく、しかもあまつさえは、裸を!」

 

 言葉と表情にあるのは怒りだった。

 しかし不思議とそこに嫌悪感はないように翼には見える。

 

 強いていうのならば嫌ではない。しかしまだ心の準備ができていない、といったような表現が近しいような気がした。

 

(でも、教室では違うって……いや、あれは付き合ってるかどうかに対してか……でも否定してたよな。結構強めで)

 

 その疑問が先立ってしまい、いつもならばその言葉がデリカシーがないものだと気付くはずのその言葉を翼は口にする。

 

「もしかして篠ノ之さんって一夏のことが好きな––––」

 

 その全てが部屋に響くよりも前に箒は近くに何故か置いてあった竹刀を翼へと振り下ろした。

 頭に当たるギリギリのところで反射的に出した両手が木刀を白羽取りで止めた。

 

「危ない、危ないから! や、やめ、やめてくださいお願いします!」

 

 立っている箒に対して座っている翼。

 その態勢の差のせいか女子である箒の木刀がじわりじわりと翼の頭部をめがけて進んできている。

 

「なっ、なぜ分かった。私がい、一夏のことを、好きなのだと……」

 

 後半は小声で何を言っているのか理解できないが翼は構わずに言う。

 

「いや、なんとなく、だ。

 なんかあんまり嫌そうに見えなかったし、怒ってたのも自分を認識してないことに対してだったし、それでそこまで感情を持つってあるのかなって」

 

「それだけか?」

 

 箒は呆気に取られて竹刀にこめる力をゆるめる。

 

「あ、ああ、とりあえずこれを納めてくれないか?」

 

「あ、す、すまない」

 

 箒は自分がしていたことを思い出し竹刀を下ろす。

 翼はとりあえずの命が助かったことに胸を撫で下ろすと確認のためにもう一度問いかけた。

 

「んで、もう一度聞くが、篠ノ之さんは一夏のことが……」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

 そう答える箒の顔は赤い。

 図星を突かれたためか翼とも目を合わせようとしない。

 

「なら、このままじゃだめだ」

 

「む、ダメ、とはどういうことだ?」

 

「それじゃその恋は実らないって話だ。

 再会してなんか怒ってる。自分にも原因があるとしても流石にやりすぎってぐらいにしか一夏は思わないぞ。

 とてもだけど好意が向けられてるとは思えない」

 

「う、だが––––」

 

「だが、じゃない」

 

 きっぱりと真正面から言われては箒としても返す言葉はなかった。

 加えて彼女自身もある程度の自覚が多少はあったようで真剣に悩み込んでいる。

 

 しかし、明確な答えは見出せなかったようで半ば縋るような視線と共に翼へと問いかけた。

 

「で、ではどうすればいいんだ?」

 

「んー、篠ノ之さんは何か得意なことって何か無いのか?」

 

「そうだな……りょ、料理ぐらいなら多少」

 

 自分で言うとなると少し自信がないようで恐る恐るといった感じの箒。

 しかしそこに希望を見出した翼は明るい表情で頷いた。

 

「それだ、それは使える」

 

「え?」

 

「一夏に料理を振舞えばいいんだ」

 

「そ、そんな単純なことで……」

 

 箒の顔には怪訝な症状が浮かんでいる。

 だが、翼は顔を横に振ってベッドから立ち上がって彼女と視線を合わせて言う。

 

「単純で良いんだ。誰かからご飯を作ってもらうってめちゃくちゃ嬉しいことなんだよ。

 あとは自然と料理の話題に持っていって話を掘れる。そこから一夏の好みの味とか料理を聞き出すんだ」

 

「なるほど……」

 

「あとは、そうだな。

 その、一夏が好きだって気持ちもちょっとずつ表に出していこう」

 

 料理の話は素直に頷いたがその話になると箒は後ずさると顔を赤らめて首を横に振った。

 

「い、いや! それは無理だ! 私には」

 

「それこそ無理だ。

 想いは言葉にしなきゃ伝わらない。ただでさえ言葉にしても正確に伝わるものじゃないんだからさ。

 だから、だから形にしないと言葉にして何度も何度も伝えないとダメなんだよ」

 

 翼の真剣な言葉は箒の中に入った。

 そのことを示すように彼女は彼にすぐに何か言葉を返すことはない。

 

 しかしそれから数十秒。ようやく箒の中でも決意が固まったのか胸に手を当てた彼女は深く頷いた

 

「わかった。ありがとう、岸原。どれぐらいできるかはわからない、たが、それでも少しずつやっていこうと思う」

 

「……ああ、わかった。応援するよ、篠ノ之さん。じゃあ俺は──」

 

「あ、待ってくれ。

 その、篠ノ之と呼ばれるのはあまり……気分が良くない。できれば箒、と名前で呼んでほしい」

 

 箒の気持ちは翼にはよくわかった。

 親族がそれだけの偉業を成してしまえば自ずと自分達もそういうものを求められる。

 ただ同じ苗字というだけで、その人ではなく、成した者たちの関係者という目で見られるのだ。

 

「わかった。なら俺のことは翼でいい」

 

「ああ、わかった。これからよろしく頼む、翼」

 

 箒のその言葉を受けてこの件が解決したことを悟った翼は部屋を出るために扉の方に向かった。

 そしてドアノブに手を伸ばしたところで箒から言葉が投げかけられる。

 

「そういえば。翼は昔どこかで私とあったことがあるのか?

 今日初めて会ったと思うんだが、どうもそうではない気もするのだ」

 

 そう言われて翼も記憶を探るが彼の方でもそういった記憶はない。

 たしかに箒という名前は両親や数度会った束から聞いたことはあった。

 しかし会ったことどころが顔を見たのも今日が初めてのはずだ。

 

「んー? 気のせいじゃないか? 俺もそんな記憶ないし」

 

「そう、か……うん、そうだな。すまない、引き留めて」

 

「いや、いいよ。んしゃ、一夏と仲良く、な?」

 

 翼はそう言うと箒に柔らかな笑みを浮かべて部屋から出た。

 

◇◇◇

 

 部屋から出て翼はすぐに自室に入ると落ち着かない様子でベッドに腰を下ろしていた一夏に声をかける。

 

「一夏、もういいぞ」

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「ああ、でもちゃんと言葉で頭を下げること。それができればたぶんいつも通りだ」

 

「おお! ありがとうな。翼」

 

 不安気な表情が一転、安心しきった嬉しそうな表情へと変えた一夏は翼の手を握って言うと部屋から出て行った。

 彼が去った扉を見つつ翼は息を吐く。

 

「……昔、過去か。こう考えると、あんまりいい思い出ってないもんだな」

 

 その小さな独り言は他の誰に聞かれることもなく部屋に沁みた。

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