IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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前哨戦

 4時間目のあいさつが終わり、全員が席についたところで千冬が一夏へと切り出す。

 

「織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

 

「へ?」

 

 しかし言われた本人である一夏は突然の言葉に理解が追いついておらず素っ頓狂な声と共に首を傾げるだけだ。

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

 未だ疑問符を浮かべる一夏とは正反対にクラスは一気にざわつきだした。

 

「せ、専用機!? 1年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりはそれって政府からの支援が出てるってことで……」

 

「いいなぁ。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

 未だに状況を理解できていない一夏が首をかしげていると、それを見るに堪えかねた千冬はため息混じりに、そして同時に投げやり気味に言う。

 

「岸原」

 

「えっ、あっ、はい」

 

 突然振られた翼は少しの間をおいて一夏に説明を始める。

 

 現在幅広くの国家、企業、研究機関に技術提供がされているISだが、その中心であるISコアの製造技術は一切開示されていない。

 現存するISは全部で632機。その全てのコアは篠ノ之博士と岸原博士夫妻が作成したものである。

 これらは全て解析すらまともに出来ず、博士達以外はISコアの製造ができないのが現状だ。

 

 そして、博士達はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家、企業、組織や機関ではそれぞれ割り振られたコアを使っての研究、開発、訓練を行っている。

 ISコアの取引も厳重に管理されており、アラスカ条約第七項においてすべての状況下でISコアの取引は禁止されてる。

 

 全ての説明を終えた翼だったが、一夏が少し腑に落ちないような顔をしていたのを見てまた少し考え込むとさらに砕いて指を立てつつ説明する。

 

「整理して言うと、

 1、ISは世界に632機しか存在しない。

 2、コアは篠ノ之博士と岸原博士博士以外作れない。だが、博士達はコアをもう作っていない。

 3、一夏が特別待遇。ただし実験体

 って言うことだ」

 

 翼はそこまで言い終えると「これでいいですか?」と視線を千冬に送った。

 それを受けた千冬は満足気に頷くことで答えて言う。

 

「つまりは、そういうことだ。

 本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。

 が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

 

「なんとなく……。

 ん? 俺だけに言われたってことは翼はあるのか? 専用機ってやつ」

 

「ああ、もちろん」

 

 そう言った翼は右腕につけている白いブレスレットを一夏に見せた。

 そのシンプルなデザインのブレスレットには一角獣の首から上のシルエットが刻まれている。

 

 一連の話が終わったのを確認した千冬は視線を真耶の方に向けた。

 

「それでは山田先生授業を」

 

「あっ、はい」

 

 真耶は返事をして黒板の前に立ち授業を再開する。

 

「それでは教科書の––––」

 

◇◇◇

 

 そして午前の授業が全て終わった昼休み。

 食堂に向かおうとしていた翼たちの前にセシリアが現れた。

 

「安心しましたわ。まさか訓練機でわたくしに挑むだなんて、ハンデにしては大き過ぎますもの」

 

「って言うことはオルコットは専用機を持ってるのか」

 

 ラストネームとはいえ一夏に呼び捨てされたことに少し眉を顰めたセシリアだったが、すぐに胸を張って鼻高らかに答える。

 

「当然ですわ!

 代表候補生は新型IS、そのテスト操縦者の意味合いも持っていますもの」

 

 聞いた一夏は翼と箒の方を見て確認を取った。

 2人はそれに頷いて肯定、さらに翼が補足する。

 

「ああ、少なくともIS学園に来ている代表候補はそうだ。

 ここは申請さえすればいくらでも模擬戦ができる。相手も新型なんてことだってできるから自分のとこの実戦データを集めるのにも、相手の情報を探るのにも好都合が過ぎるんだ」

 

「ええ、あなたたちにはわたくしの踏み台になっていただきますわ」

 

「……こっちとしてもイギリスの新型には興味がある。

 まぁ、最長でも10分しかデータが取れないんだけど」

 

 翼が付けたハンデを蒸し返されたセシリアは余裕の表情にわかりやすいほどの苛立ちを表した。

 

「へぇ……まだ言いますのね」

 

「自分でふっかけたことだからな、そりゃ言うとも。

 代表候補生の実力は指折り、なろうと思って簡単になれるものじゃないっていうのは理解できてるつもりだ」

 

 急に肩書きと実力を認める言葉を受けて戸惑うセシリアへと翼はさらに続ける。

 

「でも、それでも俺は勝つ」

 

 はっきりとした勝利宣言。

 その言葉に不安はなく、その目に虚勢もない。

 

 翼の気迫に押されたと自覚できたセシリアはそれを抑え込むように両手を握り締めるとキッと睨みつけて答える。

 

「当日、その大口で負ける姿を晒すのが楽しみですわね」

 

 そう言い残してセシリアは翼たちの前から去った。

 剣呑な雰囲気を押し流すように翼は息をついていつもより少し明るい声音で一夏と箒に声をかけた。

 

「よし、飯食いに行こうか」

 

「ああ、わかった」

 

「うむ、私もいいが……翼、本当にハンデを付けて勝てると思っているのか?」

 

 箒の不安気な表情と問いかけに対して翼はにこやかに答える。

 

「五分五分だろうな。でも最終的に俺が勝つよ。

 使ってる機体が違うからな」

 

 翼はそう言うと右腕についている白いブレスレットを箒に見せると微笑んで食堂に向けて歩き出した。

 

◇◇◇

 

 その後、翼達は食堂に到着したのだが──

 

「なんなんだ、この人の数」

 

「混んでるなぁ。席空いてるか?」

 

 セシリアと話していたせいか一夏の言うとおり、食堂は席が空いているのか怪しいぐらいに混んでいた。

 

「あっ、あそこ空いているぞ」

 

 キョロキョロと周りを見ていた箒がちょうど3人分空いている席を指差しながら言った。

 

 数分後頼んだ料理が乗ったトレイを取り空いていた席に翼達は座る。

 

「「「いただきます」」」

 

 それぞれ言い食べ始める。

 食べ始めて約数分後翼はふと思い出して一夏に向け言う。

 

「あっ、一夏、言い忘れてた」

 

「ん?」

 

「今日の放課後訓練するぞ」

 

「えっ?」

 

 あまりにも唐突な言葉を聞いて一夏は箸で挟んでいたご飯を茶碗に落とす。

 彼が突然のことに呆気に取られているうちに翼は「んー」と唸り声を上げると箒の方に視線を向けた。

 

「一夏って昔、何か運動とかしてたか?」

 

「昔は私と一緒に剣道をしていた」

 

「お、なら好都合だ。

 元々やってたならそれをISの操縦の方に置き直せばいい。オルコットに対抗できるまでにはならないかもしれないけど、それでも短時間である程度はマシになるかもしれない」

 

 そう言った翼は綺麗に骨を取った焼き魚の身を一口食べるとそれを飲み込んで一夏に告げる。

 

「よし、じゃあ放課後は剣道場に集合な」

 

「え? マジ?」

 

「もちろん」

 

 翼はにこやかに、しかし確かな圧を持ってそう答えた。

 

◇◇◇

 

 そうして時間は進み、放課後。

 IS学園の様々な場所に点在する施設の1つ、剣道場。

 

 昼食の時に決めた予定どうり、翼達はそこで訓練をしていた。

 手始めに今の一夏の実力を見ようということになり、彼と箒とで軽い打ち合いをすることになった。

 

 のだが──

 

「……あ〜」

 

「どういうことだ」

 

「いや、どういうことって言われても……」

 

 結果としては一夏の負け。別にそれだけならば大きな問題もなかったのだが、問題はその負け方だった。

 試合時間は約1分、試合の展開もその長さに応じたほど稚拙なもので一夏の完全な完封負けだ。

 

 苦笑いを浮かべるしかなかった翼とは違い、箒は怒りを表情と竹刀を握りしめることで表す。

 

「……どうしてここまで弱くなっている!?」

 

「えーっと、受験勉強してたから、かな?」

 

 頬を掻きながら苦笑いを浮かべた一夏。

 それに対し箒はこめかみを痙攣させながら質問した。

 

「一夏、お前中学では何部に入っていた?」

 

「帰宅部。3年連続皆勤賞だ」

 

「あ、それはすごいな。立派なことだ」

 

 感心して頷く翼とそれに対して少し照れながらも「だろ〜?」とどこか呑気な一夏。

 2人の間には穏やかな空気が流れていたが、箒は違う。

 

「––––なおす」

 

「はい?」

 

「鍛え直す! IS以前の問題だ! これから毎日、放課後3時間、私が稽古を付けてやる!」

 

「えっ、いや、それより先にISのことを––––」

 

「まぁ、それ以前の問題ではあるのは間違いない」

 

 一夏の反論の言葉が終わる前に翼が遮った。

 

「正直あれじゃ、ISに乗っても振り回されるだけでまともに扱えないぞ。

 ISはロボットじゃない。パワードスーツだ。補助はあれど動くのは自分なんだ」

 

「うっ」

 

 と図星を突かれたじろぐ一夏を見て箒は––––

 

「軟弱者め」

 

 軽蔑の眼差しを一夏に向けながら言い、更衣室に向かった。

 

 翼はそれを見送ると、挑発を含ませながら言う。

 

「さて、どうする? 現在最底辺の織斑一夏くん?」

 

「……」

 

 一夏は少し俯いてから何か決心したように顔を上げた。

 

「決まってるだろ。最低辺なら後は上がるだけだ!」

 

 はっきりと言い、落ちていた竹刀を拾って素振りの構えを取る。

 

「ああ、その意気だ。俺も付き合ってやるよ」

 

 翼はいつの間にか持っていた竹刀を一夏に向け構えた。

 

「えっ? でも、翼、お前防具は? いくら竹刀でも当たると怪我するぞ」

 

「心配すんな」

 

 少し笑いながら言い、その表情を真剣なものにさせる。

 

「今のお前の攻撃は絶対に当たらないから」

 

 言うと同時一夏向けて竹刀を思いっきり振り振り下ろす。一夏はそれを下段からの切り上げで受ける。

 その後連続で竹刀同士が激しくぶつかり合う音が道場に響いた。

 

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