第十回 書いてみたいけどなかなか書きだせないお話を短編で書いてみたステークス   作:雅媛

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あなたは、マーちゃんのことを覚えていますか?


アストンマーチャン、海へ行く

「ざざーん、ざざん。波の音は今日は大人しめですね。良い天気です。

 おはようございます。時刻は夜明け前、午前5時です。

 うっすらお日様が上り始めて明るくなり始めました。」

 

 寄せては返し、砕けて白く泡立つ波が打ち寄せる港町。

 船着き場の辺りには早くも数人の釣り人らしき姿が見える。

 

「夜からずっと釣りをしてたのでしょうか、それとも今来たのでしょうか。結構たくさんの人がいますね。これはマーちゃんのラブリーさを広めるチャンスです。」

 

 スマホに音声を録音しながら、何故か物陰に隠れるようにして釣り人達へ近づく影が一つ。

 

「こそこそ。さりげなく、あの中に混ざって──おや?」

 

 釣り人達に混じる、白いウマミミ。

 ワゴン車の荷台でガサゴソと作業をする男を後ろから覗き込むようにする姿は、釣り人ばかりのこの場所には不釣り合いな程小柄で若く見える。

 

「おや。おやおやおや。あれはもしかして―」

 

「うん?」

「あっ」

 

「よ、っと。いやー、びっくりしたよ。まさか学園ならともかくこんなところで会うなんて思わなかったし」

「しょぼん。まさかこんなにあっさり見つかるなんて思わなかったのです。凄腕エージェントマーちゃんの『凄腕』は返上ですね。」

 

 勢い良く釣竿をしならせ、小魚に見せかけたルアーをかなり離れた水面へと投げ入れる。

 ゆっくりと手元のリールを巻き上げながら時折竿を振って小魚が泳いでいるかのように見せることも忘れない。

 堂に入った手つき──レースでも釣りでも大物を釣り上げると豪語するウマ娘、セイウンスカイの動きには迷いはなかった。

 その隣では、同じようにルアーを投げ入れる彼女のトレーナー。その手つきはまだぎこちないながらも全くの初体験という訳でもないようだ。

 

「それで、お二人はデートですか?」

「んー、どちらかというとこの人が仕事しないように監視ですかね。たづなさんと理事長の公認ですよ、どれだけ仕事してたんですかねぇ、もう!」

「というのを良いことに荷物持ち兼運転手にされたわけさ」

「なるほど、お二人とも仲良しさんですね」

「う。なんでしょう、この押しの強さどこかで見た気が……」

「そういえばヒシアマゾンと良く一緒にいるよね」

「そっかー、そうでしたかー……うへぇ」

 

「……で、アストンマーチャン。どうしてこんな朝早くからここに?」

 釣竿の動きから目を離さないまま、トレーナーから問われたアストンマーチャンは。

 

「──この海から、呼ばれた気がするのです」

 

 はるか彼方より昇り始めた朝日を、どこか寂しげな微笑みで見つめた。

 

「元々、マーちゃんはもうここに辿り着いているはずでした。」

「全ての命は海に辿り着きます。マーちゃんは、それが少し早く来るだけだったはず、でした」

 

「あの人は、私を呼び止めて。まだこれからなのだと、私の『その先』をまだ見たいのだと。……そう言って、私を引き留めたのです」

 

「……そして、あいつは忽然と姿を消した」

 

 今そこにいたはずの気配、残された熱。

 書きかけの4コママンガの原稿。

 レース研究の資料やトレーニング理論の論文。

 

 しかし、彼女の『専属レンズ』。

 ──アストンマーチャンのトレーナーの姿だけが、忽然とトレーナー室から消えた。

 

「だから、マーちゃんは探しに来ました。──海は、全てが行き着く場所ですから」




マーちゃんを引き留めたあの瞬間から、いつか書こうと思っていたテーマでした。アストンマーチャンは「忘れ去られなかった」、ではその反動はどこへ向かったのか?あの日とは逆に、今度はマーちゃんに探して貰おうというわけです。アストンマーチャンは、(実馬もウマ娘も)良いぞ。

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