第十回 書いてみたいけどなかなか書きだせないお話を短編で書いてみたステークス 作:雅媛
「お前、選抜レース手抜きだったろ」
「ん……」
広々としたトレーナー室を一望できる窓際のデスク、そこのワーキングチェアに腰掛けている俺は、丸めた背中に暗い鹿毛を垂らしたアイツにそう言った。アイツは耳をピンと立て、しかし俺の方は見なかった。
「手抜きじゃない、むしろ手が入りまくってるよ。最後のハロン棒までスパートをかけない縛りを設けてたんだ」
「それで3、4バ身は差をつけるんだから人の心ないよな」
「ウマ娘だもの」
悪びれもせずにそう言ったアイツの背中から目を外して、俺は手元の二つ折りのゲーム機に目線を戻した。アイツは弓チクで俺は大剣。溶岩地帯で相手取る歪な双角の悪魔はすでにその立派な双角に尻尾をぶった斬られて満身創痍。
レースのミーティングやらをする場所であるここトレーナー室だが、最近はもっぱらリアル集会所と化している。Wi-Fi飛んでるからマルチもできるし、とはアイツの言。
これでも、昔よりかは図々しさが抑えられているように感じられるのだから、アイツのあれは筋金入りなんだろう。
思わず大袈裟にため息をついてみせると、アイツの耳はぴこぴこ二回揺れた。
「何がお前をそう変えたのかね……」
「そりゃ君しかいないだろ」
その瞬間、アイツの弓矢が鏖殺の暴君のか細い命の燈が灯った蝋燭ごと吹っ飛ばす。感動的なクリアBGMが二つ折りゲーム機のやっすいスピーカーから割れて響く中、俺はアメジストのような瞳に見つめられた。
「一芝居打ってあげたんだから責任取りたまえよ? なぁ――先生」
ゲソ足みたいだなって言うと烈火の如く怒る白い一筋の左巻きメッシュに顔の周りだけ濃い色の鹿毛。緑色のつるのメガネをかけ、右耳には宝石の飾りをつけたアイツ――シンボリルドルフはしたり顔でそう言う。
「そんな性格に育てた覚え無いんだけど」
「小3にモンハン教え込むやつがよく言うよ」
「小3からモンハンやってないやつがおかしい」
今時のガキはバイオもやってる。そう付け加えると、ルドルフは自分を棚に上げ、まるでどうしようもないものを憐れむように首を横にふる。
そして、集会所の軽快な音楽が流れているゲーム機を置いて、パイプ椅子から立ち上がったアイツは、明朗な足取りで俺の前まで来た。よく顔を見ると目元のクマが著しい。
「まあともかく、改めてこれからよろしく頼むよ先生…… あー、トレーナー君?」
ふへ、と効果音がつきそうなニヤケ顔のアイツをぶん殴る気も湧かない。
「あぁ…… シンボリ家からは冷たい視線を送られ、常にシリウスから背中を刺されないように気をつけつつその他のトレーナーから孤立する生活の始まりか……」
「シリウスは、そうかもね」
ケラケラと笑ったルドルフの顔は、随分前に出会った時と何も変わらない。それが良いのか悪いのか、俺には判断できないでいる。
「……というか、君いい加減サンブレ買いたまえよ、WORLDにすら触れずいつまでトライベースに魂を縛られるつもりだい? どうせ私に姫プされるんだから面倒でもないだろ」
「ええええええ……」
「そんな顔しない!」
"キャラクター一覧
・シンボリルドルフ
概要
悪い大人の影響を受け、不真面目(正史ルドルフ比)で漫画ゲーム等々あらゆる娯楽に没頭する遊び人と化した。おかげで近眼の進行が止まらなくメガネが必需品と化している。
レースは基本的にやる気がない。つええ奴とやり合う時には心が躍るが、最近はゲームしてた方が楽しい。
レースに出る時、自分に対して何かしらの縛りを設けて少しでも楽しもうとすることがある。
得意技はダル絡み。
全てのウマ娘が幸福である世界、なんて考えたことがない
・ルドルフトレーナー
概要
悪い大人、ウマ娘に関わる仕事をしたいと思ってトレーナー免許を取得していたが、トレーナー免許を取る為に頑張りすぎてやる気が出なかったので、トレーナーになることもなくぐだぐだと家庭教師の仕事をしていた。
ある時、近所の広めの公園でチビのルドルフと遭遇して遊びに付き合わされ、シンボリ家の縁ができる。その後も度々遊んでやり、しばらくしてシンボリ家にルドルフの教育係を任されるというミラクルが起こる。
初めのうちは真面目に取り組んだが、彼が思った以上にワガママなガキのルドルフはまともに勉強をしない。
あの手この手で勉強に気を引かせる為、最終的に色々な娯楽で釣るという方法を取り、それは成功を収めることになるが、同時に、チョイスした娯楽が完全に彼の趣味だったが為に、また、レース以外に楽しいと思えるものを大量に与えてしまったが為に、ルドルフの人格形成に甚大な歪みを発生させてしまう。
老け顔。"
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