作品に対するモチベーションは依然としてあるのですがブラウザエラーが頻発し書く意欲が削がれまくっていました
どうにか二話が完成したので投稿します
記憶空間 2008年
オレがこの記憶の世界に来て早3年が経過した。あれからオレはレイの家に居候としてガキ達と生活する事になり、スラム生活が始まった。住めば都とはよく言ったもので、慣れれば悪臭もそこまで気になるものではなくなっていた。
レイとは不定期ながら鍛錬を繰り返し、時が進むに従ってレイと一緒にいる期間が長くなっていった。
レイの師である老人と一度会ったが、レイが師事するのも納得の行く仙人のような雰囲気を纏う全く隙のねえジジイだった。結局それからすぐどこかへと旅立ってしまったが……その際レイは老人の名前を貰い、ティーグの性を名乗るようになった。
結局会ったのはその一度きりだが、あのジジイにはどことなくファンと似たモノを感じた。あまり面識のないオレが一言言えるとすれば、只者ではないという事だけだ。
一方で生活そのものは決して豊かとは言えるものではなかったが、レイ達と一緒にいるとそんな不便な生活も悪くはないと思うようになって来ていた。
とは言え金銭があるに越した事はない。オレはその審美眼を利用し、時折外に出てはフリーの鑑定士としての仕事を始め生計を立て始めた。
最初こそあまり仕事は来なかったが地道にコツコツ信頼を重ねた結果、今ではそこそこ仕事が入って来るようになり、そこで得た金のほとんどはレイ達の生活費に充てている。
そして現在。オレはその鑑定士の仕事を済ませ、レイ達の住む家へと戻って来ていた。
「ただいまー、帰ったぞ」
「お帰りリリィ。今回の収穫はどうだった?」
「今回は太客だったからな、結構いい稼ぎになった。いい肉も買って来てっから、今日はご馳走だぞ」
オレは笑いながら肉の入った大きな袋をレイに渡す。流石に高級とは行かねえが、それでもここでは贅沢と言える程度の肉だ。仕事が軌道に乗って来た事もあり、育ち盛りのガキどもに食わせてやれる程度にはなって来た。
金も貯まって来たし、そろそろこの家も少しはマシに改装出来そうだな……
「ありがとう。悪いな、問題がなければ俺も外の仕事に行きたい所なんだが」
「気にすんな、お前はこっちでガキ共を護ってんだからよ。外から来た連中の護衛で金も貰ってんだし十分だろ」
オレが来て少しして、レイは外から来た観光客を主にスラム内護衛兼ガイドを始めるようになった。これが意外と需要があるようで、オレ達の資金源の一つとなっている。
他のガキ達も頑張って稼いでいるおかげで、スラム住みにしてはかなりまともな生活水準になりつつはあるが、まだ安定はしていない。
「にしてもお前……ホントにデカくなったよなあ。3年前は年齢相応だったのに」
「そうか? あんまり気にもしてなかったけど」
「オレが見上げるようになってる時点で分かるだろ。出会った頃はオレがお前を見下ろしてたんだぞ?」
3年と言う年月の中でレイは急激に成長し、現在ではアイツを知る者なら寄り付かなくなる程度にはその強さはスラムに知れ渡る程になった。加えて15歳になる前にも関わらず既に180㎝を越える筋骨隆々の長身、長くなった紅髪、端正な顔立ちと知らない奴が見れば大人と見間違えられる程だ。
流石に長い髪は縛って纏めているが、オレの知るレイに近い容姿になりつつあり、大分頼もしさを感じさせるものになって来ている。オレも一応平均よりは高い方なんだがな……育ち盛りってレベルじゃねえぞ。
「3年もあれば成長するには十分だろ。大げさだな」
「お前程成長する奴は稀だっつの……ところで、連中の動きはあったか?」
「アイツ等か……ここ最近はあまりない。喜ばしい事ではあるんだが、こうも動きがないと嫌な予感がしてくるな」
そう言うレイの表情は先程までとは打って変わって曇りが見える。
この3年、スラムに住んでいる中でいくつか問題も起こった―――その中で一番大きい問題が、マフィアの存在だ。
オレが来た頃、レイは11歳という年齢で既に不良連中に目を付けられていた存在だった。そんな連中を撃退し続けていれば、いずれそれらの元締めをしているマフィアに行きつくのはほぼ必然と言えた。
それだけなら撃退すれば済む話なのだが、厄介なのはマフィア共がその強さに目を付けて勧誘をしつこくして来る事。10代半ばで大人どころか本物のマフィア顔負けの力を持っているレイを自分達の一員として迎え入れようとしているのだ。
レイはそれを拒否し続けていたが、回を重ねる毎に勧誘の手段が過激化しつつあり、前回に至ってはガキ共に明確な危害を加えようとして来やがった。
当然オレとレイはブチ切れ、その時来た連中全員を半殺しにしてやったが……ここまで強硬手段に出ている奴等だ。完全に諦めたとは思えない。
「そうだな……他のガキ共もある程度戦えるようになったものの、流石にマフィアの連中と戦える程じゃねえ。この調子だと今度はガキどもを誘拐する可能性もあるぞ」
「それは俺も同じ事を思ってた。だからそれを未然に防ぐため鍛錬の時間を増やすと同時に、前から考えていたあの計画を実行に移そうと思っている」
「計画……自警団の事か」
「ああ、マフィア連中の被害を受けているのは俺達だけじゃない。表面化していないだけでそれなりの数存在している。それらを集め、結成出来れば……連中も簡単には手出し出来なくなる」
レイは以前からこのダラヴィがマフィアの温床になっている事、警察がその体制の腐敗により全くアテにならない事に憤りを感じていた。そこで彼が考えたのは反感を持つ者達による一つの秩序の形成―――自警団の結成だ。
搾取を伴うマフィアの偽りの秩序より、自分達の事は自分達でなんとかする自立と言う名の秩序を立ち上げる事で、ダラヴィに自浄作用を齎そうというのがレイの考えだ。
「幸い同じ考えを持つ奴は多い。後はそいつ等に鍛錬を付けさせればここの秩序を保つ事は出来るはずだ。連中に搾取されるくらいなら俺達でここを守るべきなんだ」
「それにはオレも同意だ。流石に全員がオレ達みたいに徒手空拳でやれる訳じゃねえから、何らかの武器や防具の支給もすべきだとは思うが……これは最悪オレがどうにかするとして、後は結成のタイミングだな」
結成は一種のパフォーマンスのようなものだ。それが派手なものであればある程水面下にいる被害者達にいい影響を与えやすくなる。従って明確にマフィアと対立するというスタンスを宣言出来れば必然と反感を持つ連中を集めやすくなるだろう……当然人格面等を調べた上で自警団に加入させる事になるが。
「そんなの早い方がいいだろ。準備が出来次第結成する……これ以上アイツ等の好きにさせてたまるか」
「お前ならそう言うと思ったぜ。一応水面下で手は回してあるから、結成自体は近いうちに出来る筈だ。サイラ達も準備を手伝ってくれてるしな」
「そうか、それなら早く結成出来そうだな」
サイラはガキ達の中でもレイと同い年で且つ、レイが不在の際には幼いガキ達の世話をしている少女だ。
加えて物覚えも非常に良く鍛錬もそつなくこなす為、自警団の設立の際には副リーダーとして据える予定であり、サイラ本人もそれに納得している。
おおよそ本来の流れと大きな違いはねえとは思うが……問題なのはレイがいつどこで不労を発現させるのかだ。
記憶の中とは言え数年も一緒にいれば嫌でも情は出る。いつそれが来るのが内心身構えている。
三年という月日の中で否定能力の解釈も少し拡張されたものの、正直言ってしまえばこの時間が終わって欲しくないとも思ってしまう。
安野雲の言うあの人がどんな目的で追憶互換をオレ達に使った真意は分かってはいるが……この先に待つ悲劇にオレは心の準備が出来なくなって来ている。アンダーに入った時に決意はした筈なのに、それが揺らいてしまっている。
思案に耽るオレを見てレイが心配そうにオレの顔を覗いてくる。
「おいどうした? 暗い顔して」
「いいや、なんでもねえよ……そういえばお前に渡すモンがもう一つあった」
誤魔化しも兼ねてレイに渡し忘れていたモノを懐から出し、レイに渡す。
「君伝の新刊だ。少し値は張ったがな……ちゃんとインド版買って来たぞ」
「おおマジか! そろそろ出る頃かと思ってたんだよ!」
オレが外に行く理由の一つは「君伝」の新刊を手に入れる事にある。
記憶世界に来てから間もない頃、レイは暇を見ては拾って来たであろうボロボロの漫画やテレビに他の子供達と一緒に釘付けになっており、度々その作品に出て来た技を真似したりしているのを良く見かけた。
その中でもレイが特に読み込んでいたのが「君伝」だったが、当の本自体は拾い物のため巻が飛び飛びでページが欠け、酷い匂いを放つモノすらあった。
見かねたオレは外での仕事をするついでに本を新調。以降新刊が出る度に買って来るようになった。
さっき言った通りやや値は張るが、依頼の報酬のお陰で本一冊買う程度なら何の問題もない。
「ホントお前は『君伝』好きだな。他の何よりも目を輝かせてるように見えるぞ」
「当然だ。『君伝』は俺の生きがいの一つだからな、完結するまでは絶対に生き抜いてみせるさ」
そこまで言うか……確かに20年も続く大長編作品になるだけあってかなり面白い作品だとは思う。オレはある出来事でチェーンという少女に出会った事が切っ掛けで『君伝』の存在を知り、全巻通しで読んだからその面白さは理解している。
もっとも色々あってそれを教えてくれたチェーンとはあまりいい関係とは言えなくなってしまったが……『君伝』が予言書であるという予測を建てられたし、安野雲からオレだけにコンタクトを取って来た事からそれはほぼ確実なものとなった。
結果として記憶世界ではあるがレイと親睦を深められたのはデカい。それによってまた別の問題が出たのは差し引いてもだ。
ふとレイが時計を見て焦り出した。
「やべ、もうこんな時間か! これからガイドしなきゃいけないのに忘れてた! さっさとこの肉をサイラに渡して来ないと!!」
「料理はいつも通りオレとサイラ達で作っておく。安心して行って来い」
「ああ、頼んだリリィ! 行って来る!!」
そう言ってレイは大急ぎで走り出す。オレがプレゼントした時計が役に立って何よりだ。
……記憶の中である以上、レイが不労を発現するのは避けようがない運命だろう。今はまだそれに対する覚悟は出来ていねえ。
だからその時が来るまで少しはマシな結末になるよう、オレも抗ってみせる。
記憶の中だけであったとしても、それはきっとレイの為になるとオレは信じているから。
二話目終了
三話目以降はこれから書く予定なのでまた時間が空くかと思います
一応空いた期間の間に過去の否定者やループ後に関する設定を練っていたのでいずれ表に出せるよう頑張りたいと思います
歴代不労を見たい?(先代は確定で出します)
-
見たい
-
見たくない