アンデッドアンラック 不■の否定者   作:獅羅

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No.004 聞いた事のある名前

 

8月24日

 

 

 早々にウェザリングのクエストを終え、ユニオン本部に戻ってから半月と少し。俺はニコのラボへ足を運んでいた。

 理由はスポイル捕獲のクエストに向かったシェン、アンディ、そして風子の三人が目的地であるロンギングに到着したと報告があったためだ。

 報告を聞いたのが丁度トレーニング中と言う事もあって、やる事を終えてから向かったので俺がラボに来た頃には既に三人ともロンギングの中に入っていた。

 

 

「おう、来たかレイ。アイツらはもっぱらスポイルの攻略中だ」

「あっお疲れ様です。レイ様」

「お疲れ、ムイ。シェンのお守りも大変だろ?」

「いいえ、そんな事は全くありませんよ?」

 

 

 キョトンとした顔をみせながらムイはそう返す。

 ムイはシェンの直属の部下だ。戦闘狂であるシェン(バカ)のストッパーとして必要不可欠な存在で、否定者ではないものの戦闘面でも大きく活躍している。

 まあムイ自身もシェンの許可なく古代遺物(アーティファクト)を多用したり、大概危うい部分があるが……そういうところはシェンがカバーしたりしてお互いを補い合っている。

 こんな状況でもなければお似合いのカップルなんだがな。

 

 

「そうか、ならいい。さて三人の方はと………ん?」

 

 

 なんだあの穴。せっかく張られたバリゲードにドデカい穴が空いてる上にそこに大型トラックが突っ込んでやがる。

 

 

「オイニコ。あの穴は一体なんだ?」

「アレか……不死(アンデッド)が開幕ミサイルをぶちかましてな。出てきたゾンビ共をトラックで轢きながら突っ込んで突入した」

「……何やってんだアイツ」

 

 

 不死だからってパワープレイが過ぎるぞ。少しは慎重に行けよ、バカなのか?

 

 

「で、その後は?」

不死(アンデッド)は女のゾンビと式挙げるって言って教会に行った。で」

「シェン様と風子様は生き残りがいると思われる地下道に降りて行ったのを確認しました」

「成程……何がしたいのかいまいちわからんが、生き残りがいるって事はすぐに腐る訳じゃないんだな?」

「ああ。一定の時間経過で腐敗が始まり、ゾンビになる。その辺りは先行した調査員や不死(アンデッド)で実証済みだ」

 

 

 確かに調査員の話は俺も資料を読んで知ってはいる。だが妙だな……スポイルの件が発生してから既に数日が経過している筈だ。なのに何故生き残りがいるんだ?

 ウェザリングの時も生き残りはいたがそれは範囲外にいたからだ。今回の場合は地下とは言え明らかに範囲内、スポイルの(ルール)を受けている。何かしらの抜け道があるのか?

 

 

「……動きが出て来たな」

 

 

 ニコの言葉を聞いてモニターを見ると、教会が崩壊し、中からアンディとスポイルと思われるUMAが出て来る。

 そしてアンディが鐘に向かって両拳を発射し、その鐘をスポイルに直撃させる。鐘の音を合図にアンディが召集を掛け、それを聞いたゾンビ達がスポイルを目指して走り出す。

 

 

「ゾンビと共闘してる……そんな事があるのか?」

「恐らく不死(アンデッド)が半分ゾンビ化した事でゾンビ達と意思疎通が出来るようになったんだろう。その状態でヤツが発破をかける事によって、標的をスポイルに向けさせたってトコだ」

「そういう事か。アンディが不死である事、ゾンビ達に自我が残っているからこそ出来る戦法だな」

 

 

 先程はバカだと思ったが、脳筋のように見えて頭はかなり周るようだ。そもそも数十年間もユニオンから逃げるなんて事、並大抵の事じゃ出来はしないだろう。

 そう考えているとゾンビの一体が風子と接触する。

 確か風子の否定能力である不運(アンラック)は直接接触が発動条件だったか……少しして風子に触れたゾンビがスポイルに接触すると、近くにあった看板が折れスポイルに直撃する。

 アンディがそれに気付き、風子に接触してからスポイルに接触しろとゾンビ達に伝える。

 

 

「考えたな、ゾンビ達を不運の時限爆弾にする事でより多くのダメージを与える訳か」

 

 

 確かにこれなら直接スポイルに接触しなくとも効率的にダメージを与えられる。如何せん倫理的に問題しかないが、ジュニアになってしまった以上彼らが元に戻るのは不可能だ。全員それを分かった上で一矢報いるため乗ったのだろう事は容易に想像がつく。

 だが、それでもまだ足りない。スポイルを無力化するには。

 俺の考えを代弁するかのようにムイが口にする。

 

 

「ですがまだ決定打に欠けています。この威力ではスポイルからコアを取るのは不可能です」

「だな……効いてない訳じゃないが腐敗というルールのせいでシェンと不死(アンデッド)が近接戦に持ち込めない。その上不運(アンラック)は能力はともかく戦闘向けじゃねえ。流石に穴はあるだろうが、このままじゃジリ貧になるぞ」

 

 

 ニコの言う事ももっともだ。ただでさえ厄介な(ルール)なのに明確な攻略法は未だ掴めず。

 しかもその後スポイルはゾンビ達を喰らい、フェーズ2へと移行した。

 移行したスポイルはシェン達にレーザーを向け溜めるが、シェンが不真実(アントゥルース)を使用した事で明後日の方向へとレーザーが放たれる。

 その光線はニューヨークニューヨークにある自由の女神像に直撃し、瞬く間に女神像は崩壊。それを見たムイは絶句するが、すぐにシェン達に通信を取る。

 

 

「レーザー軌道上の建造物が消滅、最早『腐る』の(ルール)以上の威力です! 絶対に当たってはいけません!!」

「オイオイなんだあのレーザー……俺が戦ったウェザリングよりヤバい攻撃だぞ」

 

 

 しかもあのレーザーを連発可能と来た。シェンとアンディの二人ですら回避するのに手間取る速度でだ。

 そしてウェザリング同様近づくだけで腐らせる……いやもはや分解のレベルだなコレ……最早近接戦で戦うのは不可能と言っていい。

 そんな中でシェンが一時離脱する。もしかして如意金箍(にょいきんこ)を取りに行ったか? アンディの戦いを見て何かを掴んだな。

 

 

「―――ここにいたか、レイ」

「わざわざラボまで来るなんて珍しいな。急用か、ジュイス?」

 

 

 戦いに抜け道が見えて来た所でラボにジュイスが入って来た。わざわざ俺を名指しするとは、重要な話があるって所か?

 

 

「少し話したい事があってね。こっちに来てもらえるか?」

「結構いい所だったんだがな……了解、すぐ行く」

 

 

 戦いの行く末を見ておきたかったが、こればっかりは仕方ないか……俺はジュイスと共にラボの外へと出る。

 

 

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「で、話ってのは一体なんだ?」

「既に本部に残っている他のメンバーには話している事だが、シェンから事前に連絡があってね。『戦勝の神(ヴィクトール)』が出てくる状況になったら残留しているメンバーで相手をしてくれと言われている」

「『戦勝の神(ヴィクトール)』? シェンが度々話していた奴の事か?」

「そう見て間違いないだろう。止めなければシェンと風子が危ない」

 

 シェンと一緒に行動すると時折喜々として話す英雄の話。それが戦勝の神(ヴィクトール)と呼ばれる名前通り戦場に勝利をもたらす男の事だ。

 過去の英雄として語られているらしいが、正直文献を読んでも明確な存在が描かれていない謎の英雄という事しかわからなかった。おとぎ話の英雄の方がよっぽど克明に描かれているレベルだ。

 そんな戦勝の神(ヴィクトール)が今行われているクエストで出てくるだと? いくら何でも突拍子がなさ過ぎる。シェンは何を根拠に……まさか。

 

 

「…………オイ、まさかアンディがそいつだってのか?」

(シェン)はそう見ているようだ。不死(アンデッド)の否定者である彼が戦勝の神(ヴィクトール)であるとね」

「アンディがどれくらい生きてるかはわ知らんが、確かにそう考えれば辻褄は合うな……」

 

 

 だがイマイチ解せない部分もある。確かにアンディは強いが相手次第では普通に苦戦するし、戦い方もところどころ粗さを感じる。言っちゃ悪いがアイツの言う戦勝の神(ヴィクトール)のイメージにはとても繋がるとは感じない。

 だが前々からの疑問もあった。戦勝の神(ヴィクトール)の名前を聞く度、何故か懐かしさを感じる事だ。出会った事もない英雄の名前になんでこんなに親しみを覚えるんだ……?

 

 

「おい、ジュイス! 出て来たぞ、戦勝の神(ヴィクトール)が」

 

 

 疑問を解消する間もないまま(エンブレム)からニコの声が響き、思考が中断される。俺とジュイスは急いでラボに戻る。

 ラボに戻った俺達が見たのはスポイルのコアを右腕に持つ、アンディと瓜二つの男だった。

 違うのば黒く長い髪、カードのような物体が刺さっていない。そして何より、アンディとは纏う空気が違う。一目見ただけで紛れもない強者だという事がわかる。

 

 

「あれが戦勝の神(ヴィクトール)……」

「頭に刺さったカードを抜いた後ああ(ヴィクトールに)なった。そしてスポイルを難なく瞬殺しやがった」

「マジかよ……あんなに苦戦していたスポイルをあっさり……ニコ、端末貸してくれ」

「あいよ」

 

 

 ニコから渡された端末で少し時間を巻き戻し、宇宙を周るカメラからスポイルのコアを奪う一部始終を視る。

 再生能力も戦闘技術もアンディの比じゃない……飛ばした指から自分の分身を作り出すなんて、相当な解釈拡張をしないと出来ない事だ。

 報告書ではカードを刺しているのは余計な記憶に蓋をしており、そうしないと狂うためだと書かれていた。カードを抜いてそれらの記憶を解放したと考えるのが普通だろう。

 だがこれはそういうレベルの話ではない……雰囲気、経験、否定能力の解釈。その全てが別人としか言い様がない。

 まさか、戦勝の神(ヴィクトール)というのは……

 

 

「やはりこうなったか……ニコ、円卓メンバーに通達を。メンバーの準備が出来次第、ムーブを使ってロンギングへ飛ぶ」

「了解、30秒で済ませる」

 

 

 戦勝の神(ヴィクトール)を見たジュイスは迅速に指示を出し、ニコが各メンバーに通達を送る。

 俺もまたすぐに戦闘に入れるよう無形霊魂(かたちなきたましい)を出し、体に取り込んでいく。ジュイスに聞いてからすぐに準備しておいたのが幸いした。

 しかし気になるのはそのジュイスの事だ。基本いつもヘルメットを付けているから、俺はジュイスの表情が完全にわかる訳ではない。だが戦勝の神(ヴィクトール)を見た瞬間、彼女の気に僅かに揺らめきを感じた―――古い知己に出会った喜びと、哀愁のような感情を。

 

歴代不労を見たい?(先代は確定で出します)

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