鉄血のオルフェンズ エンゼル・クライシス   作:虚無の魔術師

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数カ月ぶりどころか数十カ月ぶりの更新………ほんと申し訳ないです。


深紅の堕天使

「私の名前はセスティア、セスティア・リペアシェイルです。…………言葉に出来ますか?」

 

「セスティア、リペア………シェイル。言葉、出来た」

 

「ええ、そうです。良く言えました」

 

 

セスティアは優しく微笑みながら、不思議そうに言葉を口にしたエイルを褒める。頭を撫でられながらも大人びた顔立ちの少年はたどたどしく頷く。

 

その様子を、二人の少女と深紅の機体は静かに見守っていた。

 

 

「だいぶ喋れるようになってきたみたい」

 

「…………意外と早いな。教え始めてまだニ、三分だぜ?」

 

【───当然だろう。彼は君達のように普通の人間ではない】

 

「………普通の人間じゃない?」

 

 

物静かな少女の呟きに、小柄で快活な少女が納得している。すると深紅の機体 アーゼナル・ユニットが当たり前と言わんばかりに納得してきた。二人の少女はアーゼナルが口にした言葉に疑問を持ち、即座に反応する。

 

 

だが、アーゼナルがそれに答える前に────上を見上げた。同時に響く轟音と衝撃。明らかな異音に反応する少女達に、アーゼナルはいち早く察知した異音の正体を言葉にする。

 

 

【────また侵入者か。だが、さっきとは違う…………手練れのようだ】

 

 

一本道の通路。地上に繋がる唯一の出口の方から、ソレは接近していた。大型のバインダーを翼のように展開し、バインダー内部のスラスターを放出して飛翔する機体。地面に降れることなく、その機体は翼を広げて此方へと突撃しているようだった。

 

その侵入者の歩む道を阻害するように、複数の機械────アーゼナル・ユニットの従属兵器 プルーマが殺到する。虫のような群体を為して迎撃するプルーマを前に、正体不明の敵機が動いた。

 

 

────バインダーに隠されていたであろう、大型のクローアームが飛び上がったプルーマの一機を叩き潰した。複雑間接を有したアームによる打撃に、飛び散る残骸と部品。

 

仲間が撃破されてもプルーマは悲しむこともない。数に任せて敵の排除を優先する。だが、敵機が展開したアームクローにより薙ぎ払われ、叩き潰され、ある個体は左右のクローで分解された。

 

そして、群体たるプルーマは思考を共有し、周囲にいるプルーマと連携し、一塊となって突撃する。アームクローによる攻撃に対処、その隙を狙うためのフォーメーションだろう。

 

 

だが、バインダーの内側から姿を現した────ニ門の機関銃砲が銃弾を撒き散らした直後、プルーマ達は粉々に消し飛ばされた。赤熱する銃身、回転を終えた機関砲を連結させたアームを下げた謎の機体はプルーマの残骸を通り過ぎ─────開けた空間へと飛び出した。

 

 

『─────ふっふっふー、中々面白そうじゃないかー。

俺も混ぜてくれるかなー?』

 

 

ギョロと動いたモノアイが辺り一帯を見渡す。そして此方を見上げる少女達の姿を視認するや否や、呑気そうな声が響いてきた。謎の機体のパイロットであることは明白だ。

 

 

「誰だテメェ! そんなデカイもんで現れやがって!名ァ名乗りやがれ!」

 

『────ゼーラ・バグラザン。フールフールのパイロットだよぉ』

 

「バグラザン………?────まさか、セブンスターズの!?」

 

 

セブンスターズ。武装組織 ギャラルホルンの最高決定機関たる七つの血族を示す二つ名。バグラザンはその一つ、つまり目の前にいる機体を操る男はギャラルホルンの重要人物ということになる。

 

 

「狙いは、地下に眠っているモビルアーマーですか」

 

『………モビルアーマー、ただのスペース・デブリちゃんが知ってるとは思えないけどねぇ。奪ってきたモビルスーツ以上の代物は、そこの赤いモビルスーツ以外無さそうだなー』

 

 

飄々とした口振りに、セスティアは口を閉ざした。自分達の事情を明らかに理解した口調に態度。呑気な態度とは裏腹に、油断ならないとセスティアは気を引き締める。

 

 

「それなら私達に構う必要はないのでは? スペースデブリである私達を売るつもりなら、話は別ですが」

 

『さて、どうだろうねー。君達は接触しているはずだろ? この地下に隠された『遺産』と。どんな物か、個人的に興味が湧くねぇ』

 

「………………」

 

 

思わずセスティアは、隣にいたエイルを庇うように前に出た。モビルアーマー アーゼナル達が護っていた『遺産』、それは長い間眠っていたエイルの存在に他ならない。

 

もし知られればどうなるか、そう考えたセスティアの無意識な動きだった。────だが、それは悪手だ。

 

 

『─────成程ぉ、()()()なのねぇ』

 

「っ!!?」

 

 

静かに動いた単眼が、エイルを捕捉した。

彼が此方を、エイルを見たことに気付いた少女達が一斉に身構える。同じくアーゼナル・ユニットがプルーマを従え、前に出る。そんな彼等を見渡したゼーラはモビルスーツを操り、人差し指を突き付けた。

 

 

『こんな遺跡に隠されてる『遺産』が、子供なんてぇ驚くなぁ。モビルアーマー、だっけか? それに護らせるなんて、普通なワケない。まぁ、同志達には良い土産になるかもねぇ』

 

「っ!彼は、渡さない!貴方達には!」

 

『渡して貰う必要はないよーん。力尽くで奪うだけだし、ねぇ?』

 

 

そう言った瞬間、ゼーラの駆る《フールフール・スカイダー》が飛び上がる。背中のバックパックと連結したジェットブースターにより飛翔したモビルスーツは、少女達を見下ろしていた。まるで機体に乗るのを待っているかのように。

 

 

「………どうするセスティア。このままやるか、それとも逃げるか?」

 

「彼を置いて逃げるのが得策…………ですが、そんな事はしません。人としての道理を失えば、私達は本当の意味でデブリです。私達は、人間ですから」

 

「流石、セスティア。私も同感」

 

「…………ま、見捨てて逃げるなんて底意地悪いしな。私もやるだけやるよ」

 

 

そう言って、少女たちは近くに置いていた自分達のモビルスーツに乗り込む。二機のグレイズと一機のモビルスーツが起き上がる中、ゼーラは楽しそうな声を響かせた。

 

 

『へぇ、量産型のグレイズは兎も角…………ヴァルキュリア・フレームかぁ。他二体よりも、君の機体を壊すのは惜しいねぇ。まぁ、仕方ない。軽く遊ばせてもらうよーん?』

 

『はッ!やってみろ!私たちに勝てるんならな!』

 

 

少女二人が駆るグレイズのライフルが、戦いの火蓋を切った。狭い空間の中で争う彼等を見るエイル、彼は戸惑ったようにセスティア達を見ていた。

 

 

「セレスティア、皆………」

 

【─────話が主よ、貴方に問う】

 

 

そんな少年に、アーゼナル・ユニットは淡々と問い掛けた。膝を着いた機兵は頭を垂れるようにしながらも、少年を静かに見据えていた。

 

 

【我々は、堕天使。絶対神に反し、人を導くことを選んだ異端なるモノ。私は翼であり、剣である─────旧き友との約定に従い、私は貴方の力を護り通してきた。全ては、貴方の望む願いの為に】

 

 

自身の手を見下ろしたアーゼナル・ユニットが、無機質に語る。自分達はあくまでも兵器でしかない。他人の命を奪い、正しき決定に逆らった、悪と仮定されるべき存在であると。そう語ったアーゼナル・ユニットは、此方を見上げる少年へと再度問い掛けた。

 

 

【そんな我々を、貴方は何の為に振るう。何を望み、何を手に入れるために、戦うのか】

 

「………オレ、は」

 

 

永い間の眠りから目覚めた少年に望む未来はなかった。彼の意識は今初めて産まれ落ちたばかりであり、ある意味では腹から出てきた赤子にも等しい。彼は世界を知らない、常識も、他者も、何もかも知り得ていないのだ。

 

だが、そんな彼にも意思はあった。

他者よりも大人びた、人ではない人の姿をした少年。彼が願うことは、産まれて初めて出会い、自分と交流してくれた少女たちのこと。

 

エイルにとって、彼女達が大切だから分からない。けれども、あの優しい少女たちのことは、ずっと頭に浮かんでいる。このままでは、彼女達は消えるかもしれない。機体に乗り込んだ時の少女たちの顔を覚えていたエイルは、アーゼナル・ユニットを見上げて呟いた。

 

 

「セスティア………皆、助けたい。望みは、そうだと………思う」

 

【─────承認完了。アーゼナル・ユニット、機体制御権譲渡。生体認証を経た後に、完全に権限を移転する】

 

 

無機質に答えたアーゼナル・ユニット。その胴体部の装甲が音を立てて開く。ガシャン、と動いた装甲の奥にあったのは、人が入れるような狭い空間。不思議そうに首を傾げたエイルに、アーゼナルは穏やかなほど落ち着いた声で告げた。

 

 

【さぁ、我が主よ。この機体の、コクピットへ】

 

「…………コク、ピット」

 

【我々は、貴方の翼であり剣である─────そしてこれからは、貴方の夢を、願いを叶えるモノとして、貴方を支えよう】

 

 

それだけ言って、アーゼナルは一言も発さなくなった。「………あー、ぜなる?」と呟いたエイルに、機兵はピクリとも答えない。不安そうになったエイルの背中を─────押すものがいた。

 

『────!』

 

 

アーゼナル・ユニットに随伴していたプルーマたち。どうすべきか迷うエイルに、彼等は示すように促していた。そこに乗り込めばいいと。自身の背中を押してくれたプルーマをエイルは撫でると、コクピットへと乗り込んだ。

 

そこにあるのは、操縦席。何故そう感じたのかは自分も分からない。けれど、知っていた。ここが何の為のものか、どうするべきかも。手に取るように、最初からその知識だけが頭の中にあったのだ。

 

 

【生体認証─────完全照合、機体制御権の移転を確認。■■■■フレーム・アウトナンバー アーゼナル。起動します】

 

「■■■■………アーゼナル」

 

 

聞いたこともない名前だが、覚えている気がする。口にした途端、何故か胸の内が落ち着いたのだ。操縦桿を握った彼は、そのまま機体を動かした。操縦法は、頭の中にある知識と肉体が動かしてくれる。エイルはそう確信したからこそ、口にするべき言葉を吐き出した。

 

 

「■■■■・アーゼナル、エイル────出る」

 

 

◇◆◇

 

 

『ぐあっ!?くそぉ!』

 

『………っ!』

 

『ミク!リント!…………!』

 

『二機は無力化した。後は君だよん?ヴァルキュリア・フレーム』

 

 

脚を破壊され、倒れ込むグレイズ。二人の少女、ミクとリントは無事なようだが、セスティアは此方を睥睨する《フールフール・スカイダー》を見据え、片手で持ち上げたライフルの引き金を引く。

 

撃ち出された簡易式ライフルの弾丸の雨を、《フールフール・スカイダー》は大型バインダーに内蔵したブースターで、瞬間的に飛び退いた。クルクルと回転した《フールフール》がバインダーから展開した二問の機関銃が、再び火を噴いた。

 

咄嗟に回避していくセスティアのモビルスーツ。身軽かつ機敏な動きで避け切る彼女の機体に、ゼーラは嬉しそうに笑い声を含ませた。

 

 

『君の機体、ヴァルキュリア・フレームは軽量化された機体で、機動性に特化している。その開発思想もあり、全身の装甲を厚くできないのも弱点だけどぉ、明確な弱点は────軽量故の軽さ』

 

『っ!しま────』

 

その意図に気づいたセスティア、彼女の目の前に────凄まじい速度で突貫してくる《フールフール》の姿があった。咄嗟に操縦桿を操る彼女、横に飛び退こうとした彼女の機体を、バインダーから展開されたキャノン砲が襲う。

 

 

ドガァンッ!!、と炸裂した砲弾は、機体の片脚に直撃した。脚自体は欠損していないが、装甲が割れてしまっている。ほんの一瞬、動きが緩んだセスティアの機体に────《フールフール》が突進をかました。

 

 

『きゃああああぁーーーっ!!?』

 

『悪いね。君の機体、マッキーが探してるものの一つなんだよねぇ。アレコレやられても困るし、コクピット奪わせてもらうよーん』

 

 

倍以上の重量のタックルに押し負けた機体を、抑え込んだ《フールフール》が隠し腕を展開する。チェンソーの刃を備えた腕が装甲を切り裂き、コクピットを引きずり出そうとしていた。セスティアは恐怖による涙を堪えながら、キッ!と目の前の敵を見据えていた。 

 

その時のことだった。

 

 

────《フールフール》の刃が装甲を切り裂こうとした、次の瞬間。真紅の機体が、《フールフール》に突撃する。身を任せた突進に、咄嗟に両腕のマニュピレーターで受け止める。手と手、指が指が交差する中、両腕で対応した《フールフール》を駆るゼーラは、真紅の機体を見た。

 

 

『へぇ、君は………そんなもんで、このフールフールにやり合えるって思ったのぉ?片腹痛し、ってねぇ!』

 

『────オレは、君じゃない。そんなものでも、ない』

 

 

両腕の掴み合いを押し返そうとした《フールフール》。だが、エイルに言葉に応じるように、真紅の機体 アーゼナル・ユニットに変化が生じる。

 

全身の装甲が、音を立てて変形し始めた。胴体部のリアクター、三つの光が輝きを増す中、アーゼナル・ユニットは変形しながらも、《フールフール》を押し出し始める。

 

明確な変化の中でアーゼナル・ユニットの頭部も、変形を始めた。

 

 

『オレはエイル。そして、コレは────ガンダム』

 

『な、なにっ!?コイツ、出力が…………ッ!?』

 

 

無機質な一本線のラインを宿したモビルアーマーの顔は、完全に変化していた。二つの瞳を有した、ヒト型に近い顔立ち。展開した装甲から覗いた三つのコアを稼働させたその機体は、《フールフール》よりも強い力で、そのまま壁に叩きつけた。

 

 

────ガンダムフレーム・アウトナンバー アーゼナル。起動します

 

『────ガンダム・アーゼナルだ』

 

 

そう宣言するエイル。彼の言葉と共に、完全な変形を終えた真紅のモビルスーツ────ガンダム・アーゼナルが両腕の拳を握り締め、唸り声のような駆動音を響かせた。

 

 

『ガンダム………お父様が言っていた、あの機体が………?』

 

『────セスティア、聞こえる?』

 

『その声、エイルですか!?貴方が操縦しているんですか!?』

 

 

戸惑うセスティアだが、彼のお陰で助けられたのは事実。最初から敵とは思っていない為、感謝の言葉を述べようとした所で、突如砂煙から飛び出した影が視界に映る。多少の傷を負った《フールフール・スカイダー》が飛翔しながら、《ガンダム・アーゼナル》を見下ろした。

 

 

『はは!やるじゃん!俺のフールフールを圧倒するなんて、褒めてあげるよーん。凄いパワーだねぇ』

 

『…………ありがとうって、言うべき?』

 

『エイル君………いえ、お礼を言えるのは間違っていないですが』

 

 

自様式が欠如しているためか、相手の言葉に素直に応じてしまうエイルに、セスティアは困るしかなかった。ゼーラの余裕に満ちた、それでいて興奮したような嬉しそうな声音が響いてくる。

 

 

『君のガンダム、エイハブ・リアクターを三つも搭載してるなんて面白いどころの話じゃない。こりゃ手に入れなきゃ損って話だねぇ、これ』

 

『────アーゼナルは、渡さない』

 

『だぁから、君の許可なんて必要ないのよん。俺が奪って手に入れる、そんだけだしねぇ!』

 

 

飛び上がった《フールフール》がバインダーの下から展開した二問の機関銃を、《アーゼナル・ガンダム》へと浴びせ続けた。銃身が赤熱するほどの、薬莢が山になるほど転がった中、無傷の《アーゼナル・ガンダム》がそこにいた。

 

両腕を交差させた《アーゼナル・ガンダム》の装甲に、傷一つない。代わりにひしゃげた銃弾が山のように転がっている。ゼーラは無傷のガンダムを見るや否や、ちぇ、と口を鳴らした。

 

 

『無傷、か。全弾撃ち込んでもこれとはねぇ………なら武器を変えよーか』

 

 

大型バインダーに内蔵してあった大型ブレードを握り直した《フールフール》。ブースターの出力を引き上げ、加速した機体が、ブレードを振り上げる。

 

地上でそれを確認したエイルは、正面の制御盤を操作する。何かの操作を終えた瞬間、アーゼナル・ガンダムの腕部装甲が開き、鋭い刃が展開された。

 

 

『へぇ、近接武器もあるのねぇ────面白い!打ち合いとでもいこーか!』

 

 

ブレードを振るう《フールフール》に、アーゼナル・ガンダムは腕から伸ばした展開剣で迎撃する。剣と剣の衝突、火花と金属音の響く剣閃────は起こらず。《フールフール》の大型ブレードが、音を立てて斬り落とされていたのだ。

 

 

『────マジか!?コイツをスパスパ斬るのね!?』

 

 

モビルスーツを斬り捨てるはずの斬撃刀が豆腐のように斬られた事実に、ゼーラは慌てたように舌を巻く。ブースターにより飛び上がった《フールフール》は上空へと退避する。

 

制空を支配するモビルスーツに、セスティアは苦々しく顔を歪めながらも、エイルへと通信を投げかける。

 

 

『あの空に飛ぶ機能、厄介ですね………エイル君、あの機体を撃墜する………遠距離武器はありませんか?出来ることなら、探して下さい』

 

『────あった。これだ』

 

 

エイルが軽く操作した途端、アーゼナル・ガンダムの腕部が変形を始める。装甲が腕部先に集まったと思えば、大型の砲身が展開されていた。キャノン砲のように細長く伸びたその銃口に光が生じる。珍しい武器だ、と目を細めたゼーラの耳に、セスティアが漏らした疑問が聞こえた。

 

 

『まさか、ビーム兵器?』

 

 

直後、砲身から放たれたのは一筋の閃光。高出力の、エネルギーの奔流。明らかな実弾とは違う、ビーム兵器を前に、ゼーラは回避すら行わない。胴体の装甲で受け止めた《フールフール》の前で、ビームは勢いよく弾かれた。

 

 

『失われた過去の技術、ビーム兵器を使うなんてねぇ。けど知らないのぉ?ナノラミネートアーマーに、ビームは通らないんだよぉーんっ!!』

 

【────装甲、展開。炉心回路、並列接続────収束充填】

 

 

ガシャン、装甲が大きく動き始めた。

片腕の砲身が伸びたと思えば、ビームの光が蓄積され始める。またビームか、と呆れたゼーラの顔から笑みが消えた。今度は、殺気のビームの比ではない。機体から観測されるエネルギー反応が、先のビームの数十倍、数百倍のエネルギーを蓄積していた。

 

 

『エイハブ・リアクター一つ分の、エネルギー量!?馬鹿な、これだけ使ったらモビルスーツを動かす分のエネルギーが………!』

 

【充填、完了────超火力ビーム砲ロンギヌス、射撃】

 

 

操縦桿の握り手の上部、そこに備えられていた半透明なガラスが開く。厳重な体勢で保護された赤いスイッチを押し、エイルはレバーを引いた。それだけで、全てが変わった。

 

────光が、空へ昇る。高出力のビーム砲が、空気を焼くほどの熱と質量を伴い、解き放たれた。破壊光線と呼ぶべき閃光が、《フールフール》へと迫る。ビームを防ぐナノラミネートアーマーを纏う機体を持っからこそ、ゼーラには余裕があった。絶対に、ビームはナノラミネートアーマーを貫くことはない。

 

────そう信じた彼の自信を、直感が否定した。避けなければ死ぬと、前進の本能がそう働きかけたのだ。

 

 

『ッ!!!!』

 

 

慌ててスラスターを噴射し、急いで横へ避ける。だが、ビームの直撃だけは避けられなかった。直撃したビームの光は《フールフール》の脚に命中し────一瞬で、ナノラミネートアーマーごと消し飛ばした。

 

 

『なッ!?ナノラミネートが────ビームに撃ち抜かれた!?』

 

 

有り得ない、とゼーラは混乱する。

ナノラミネートアーマーはビーム兵器を無効化した。だからこそ、かつての『大戦』で人類は勝利し、ギャラルホルンは栄華を極めた。その事実を知るギャラルホルンの名家の一人、あの『大戦』の歴史を調べ尽くした内の一人だからこそ、その事実に慄くしかない。

 

この遺物は、今の世界に遅れを取っているどころではない。それどころか、数百年の歴史を覆すほどの可能性を有した存在なのだ。

 

 

『────あはは、死ぬ死ぬ。今のはマジで死ぬわ、コレ』

 

 

ビーム砲がようやく撃ち終わった直後、浮遊したモビルスーツ《フールフール》からの声が響く。下半身が焼き切れたその機体は、上半身のフライト装備で何とか浮いている状態だ。

 

 

『止めだ止め、今の君達には勝てんね。今だけは撤退してあげるよ』

 

『…………』

 

『────でも忘れないでね?俺達は君を追い回すよ。俺が死ぬか、君達が死ぬか、そうなるまでずーっと、俺達の因縁は続くから。俺以外の奴には殺されないでねー、ばいばーい!』

 

 

そう吐き捨てたゼーラ、《フールフール》は背を向けるや否や、凄まじい速度で飛び去った。先程突入してきた出入り口を突き抜けたその機影が見えなくなってようやく、機体反応も消失した。

 

 

『…………終わった、みたいですね』

 

『(コクリ)』

 

 

唖然としたまま呟いたセスティアに、エイルは頭を振って頷いた。彼等がそれぞれのモビルスーツから降りると、互いの安全を確認した。撃破されたグレイズに乗っていた少女たち二人も怪我はない。当然、セスティアやエイルも同じだった。

 

 

「エイル君、その…………アーゼナル・ユニットさんは?」

 

「………………」

 

 

無言で、エイルは鎮座するアーゼナル・ガンダムを撫でた。先程まで自我を持っていたモビルアーマーだったはずの機体から、声は一つもしない。そもそも存在すら無くなったように消え去った静寂の中、少年と少女たちはただ静かに黙り込むしか無かった。

 

 

 

【────判断が早計だ。私は消滅などしていない】

 

「きゃあ!?」

 

「…………!アーゼナル、生きてた」

 

【死んではいない。そもそも、我々に命という概念は存在し得ない。………いや、止そう。まずは君達に説明するべきことがある】

 

 

プルーマの一機から響く声は、アーゼナル・ユニットのものと同じであった。消失したと思われた意識は別の躯体に移されていたらしい。その声は淡々と、それでいて距離感の近い様子で語った。

 

 

【改めて、自己紹介をしよう。私はアザゼル、この船の頭脳であり、我が主の眷属として生み出されたもの】

 

「この船………?一体、どういうことですか?」

 

【君達が遺跡と認識しているこのエリア自体がモビルアーマーである私の一部である。私の本来の身体がここに隠されている。詳細は移動の直前に語る】

 

 

そう名乗ったアザゼルは、エイルや少女たちへ確認を求めた。

 

 

【説明をする前に、君達に今後の方針を確認したい】

 

「今後の方針?」

 

【状況を察するに、我々が退けたのはギャラルホルンという一大組織の部隊である。彼等から再び部隊が送られて来る可能性は非常ありうる。その為に、一刻もここから離れる必要がある】

 

 

その通りだ。

ギャラルホルンがまた追撃の手を出す可能性がある以上、自分達も行動しなければならない。だが、問題はこれからの方針。無闇に動くのは得策ではない、自分たちの後ろ盾となってくれる勢力が、もっと仲間が必要だ。

 

思い悩むエイルと、少女たち二人。ふと、そんな彼等の中で、セスティアだけが口を開いた。

 

 

「────一人、当てがあります。私達を受け入れてくれるかもしれない、方が」

 

【その人物は?】

 

「……………オルガ・イツカ。今はCGSにいると聞きました。彼なら、話を聞いてくれるかもしれません」

 

 

◇◆◇

 

「ゼーラ様!お怪我は!?」

 

「平気平気ー。それよりフールフールの整備お願ーい。外装は全部外してー、フレームは…………まぁ下半身の部分は良いや、置いといて。後は何とかする」

 

 

母艦に戻ったゼーラは部下達にそう言って、機体から降りる。整備兵が作業を始める中、近くの椅子に背を預けたゼーラは首を回した。

 

 

「いやはや、とんだ化け物だね」

 

 

溜め息を漏らし、近くに置いてあったドリンクを手に取ろうとする。ほんの少しだけ届かなかったが、何者かがそれを取って、ゼーラへと渡した。

 

ゼーラと似た顔つきの、少女であった。明らかに他よりも官位が違う制服を纏う彼女は、ゼーラを見て一言。

 

 

「お兄様、負けたの?」

 

「うーん、相変わらずドライだねぇ。ゼーレちゃん」

 

 

口数の少ない、それでいて一直線に言い切る少女 ゼーレ・バクラザン。ゼーラと共にセブンスターズのバクラザン家の人間であり、次期当主ゼーラの実の妹であった。そんな彼女から飲み物を受け取ったゼーラは、口に含みながら彼女へ語り始める。

 

 

「結果的には負けだけど、戦術的には勝ちだね。こっちはフールフールの下半身を失ったけど、その代わりに情報を手に入れた」

 

「お兄様ったら…………地下にあった宝物は?」

 

「大当たり。文字通り、失われた過去の遺物(ロスト・テクノロジー)さ。自意識を持つモビルアーマーに、それが守っていた少年────そして、未知数のガンダムフレーム。いいよね、これは」

 

 

非常に面白いものを得たと言わんばかりに、引き裂いた笑みを浮かべるゼーラ。その笑みは、狂気に染まったようなものであった。見る者が見れば怯えるそんな笑顔に、妹であるゼーレは呆れたように首を振る。

 

 

「それで、この事はどちらに伝えます?マクギリス様にですか、それともラスタル様ですか?」

 

「まぁ、マッキーだけでいいでしょ。ラスタル様に伝えると、後々が怖いからねぇ。排除するってんならまだしも、懐柔されたヤバいよね。あの人、そういうことも得意だし………ラスタル様には知らないでいてもらおーかな。そっちの方が、俺達的にも都合いいし」

 

 

ま、時間の問題だろーがね、とゼーラは笑う。

ギャラルホルン内部で、セブンスターズの一角であるラスタル・エリオンは非常に厄介な男だ。政略も得意とする司令官でもあるが、敵味方と即決しない。可能であれば利益のあるように懐柔し、不可能だと判断すれば孤立させた上で確実に排除しに行く。

 

そんな彼が、あのモビルアーマーの遺産を知れば、間違いなく引き込むはずだ。それは困る。そうでは、自分達の目的が叶うことはない。

 

 

「まぁ、彼等は今のとこ放置。もっと勢力が強くなったら、そのうち地球に来るかもね。その時こそ、本気で相手してあげよーか。

 

 

 

俺の、ガンダム・フールフールと一緒にねぇ?」

 

 

立ち上がったゼーラは両手を広げ、自身の愛機へと笑いかけた。整備兵によって剥がされた装甲、頭部を覆っていた外装が剥がされ、その下の素顔────ガンダム・フレーム特有のフェイスがそこに在った。

 

七十二柱の悪魔、その一つを冠するモビルスーツと共に、ゼーラは楽しみにするのだった。いずれ来る騒乱、三百年は続いたギャラルホルンによる統治が瓦解する程の混沌が起こると確信しながら、笑みを深めて。

 

 

 

「それより、ガンダムフレーム。壊れたみたいですね」

 

「うっ………まぁ脚だけよ………ありゃヤバいね。ナノラミネートを貫通するビームとか、どんな威力だっての」

 

「お兄様、お姉様に知られたら怒られるよ?」

 

「……………あー、姉ちゃん地球に居座っててくれないかなー。地球に帰りたくないねぇー。あ、そうだ。あれ、あのガンダム追いかけるってことで、時間稼げない?」

 

「…………カルタ様、次第」

 




解説

『アーゼナル・ガンダム』

火星辺境の地下遺跡(モビルアーマー内部)にて存在していたガンダムフレーム。本来のガンダムフレームの番外に位置する機体であり、特殊な性能と機能を誇る。動力は超高性能のエイハブ・リアクターであるが、これを三基連結して使用している。

モビルアーマーとしての機能を有したモビルスーツという、従来のガンダムフレームからみても異端とされるコンセプトで開発されている。複数のモビルアーマーとしての変形が可能であり、オールラウンダーとしての特徴を持つ。


武装

『ロンギヌス』

アーゼナル・ガンダムの有するメイン装備であり、超火力ビーム砲。エイハブ・リアクターと連結することで威力を上昇させられることができ、一つ、二つ分のリアクターを全開させることでナノラミネートアーマーを貫通するほどの威力へと変化する。



『変形機構』

モビルアーマー形態への変形機能。戦闘中でも瞬時の変形が可能であり、様々な戦況への順応が可能。

主な形態

『クローター・フォーム』

序盤で登場したアーゼナル・ユニットと呼ばれていた形態。モビルスーツと同じ形態であるが、ガンダムフェイスを隠した偽装形態。この形態では『ロンギヌス』の使用は出来ない。

『ビースト・フォーム』

四足獣のような形態。地上、平地での運動性は高く、高機動性を発揮しやすい。頭部のユニットや背中からブレードを展開しており、相手を切り裂く。背中に砲門二つ搭載しており、そこから威力を抑えた『ロンギヌス』を放つ。

『スコーピオン・フォーム』

サソリのような形態。入り組んだ地形での戦闘を得意としており、強力なステルスを発生させ、相手への奇襲が可能。主なメイン装備が両腕のクローと鋭い針とクローを有した尻尾。頭部ユニットと両腕クロー内部、計三つの砲門を仕込んでおり、威力を抑えた『ロンギヌス』の発射可能。

『ストライダー・フォーム』

戦闘機のような形態。飛行に特化しており、超音速での高機動が可能。戦闘機の先端に砲門を一つ備えており、そこから高出力の、ガンダム形態と同威力の『ロンギヌス』を撃ち出すことができる。


現時点ではこれだけ。実際にはまだまだ変形できるよ!化け物だね!!
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