それが起きたきっかけは長沙城の潜入調査をしていた密偵からの報告であった。
「これは……」
「一斗、貴方はこれが分かるのかしら?」
「あぁ……これは……曲輪だ……」
魏の首都でもある許昌で報告を受けた魏の天の御使いである東郷一斗は報告の竹簡を見ていた。
「曲輪というのは何かしら?」
「……俺がいた時代から更に500年は過去の戦国時代という時に城の防御で活用されていた。内外を土塁、石垣、堀などで区画した区域の名称なんだ」
「……という事は……」
「あぁ、間違いないと思う……荊州の三好は俺達と同じ未来の人間だろう」
「……なら天の御使いは四人いた……という事になるわね」
一斗の言葉に曹操は溜め息を吐く。これまでは蜀、呉に天の御使いがいたというのに実は荊州に四人目がいたとなると曹操も頭が痛い話であった。しかし、一斗はあえて別の策を思い付くのである。
「なぁ華琳。蜀と呉に使者を送ってくれないか?」
「使者を? 一斗、貴方何をする気なのかしら? 蜀と呉に喧嘩でも売るの?」
「いや、喧嘩を売るのは荊州だ。但し、ちょっとした策になるが………」
そして一斗が曹操に耳打ちをすると曹操は色々な表情を変えつつも納得はした。
「その策……為せば成るのね一斗?」
「俺の命を掛けていい」
「馬鹿ッ。貴方の命なんて掛けていいもんじゃないわ」
「ご、ゴメン……」
軽く頬を叩く曹操に一斗は頭を下げる。
「でも一斗の覚悟は分かったわ。直ぐに使者を蜀と呉に出す」
「ありがとう華琳」
斯くして魏から蜀と呉に使者が向かうのである。蜀と呉も使者の言葉を受けてどうするか悩んだが二国ともそれを受け入れ二国から内密の使者が許昌に向かうのである。
表向きは許昌にいる皇帝ーー劉協が蜀と呉に官位と王の地位を与えるためであったが、裏向きは全く違っていたのである。
「蜀の天の御使い、北郷一刀です」
「魏の天の御使い、東郷一斗です」
「呉の天の御使い、西郷一翔です」
三人の天の御使いが集結したのである。一斗の狙いはそこにあった。一斗は蜀と呉の天の御使いを集めて会談をしようとしたのである。
「そういや北郷って聞いた事が……まさか聖フランチェスカ学園の……」
「はい。2年生です」
「という事は同学年か。俺もなんだよ。俺は2-F組だ」
「え、本当に?」
「そうなのか。俺も2年生だ。俺は2-H組でな」
三人はまさかの同じ学園で同学年と分かり会話が弾んだ。それから三人は現代の話をしたり現代を懐かしんだりしていたが不意に口を開いたのは北郷一刀であった。
「それで一斗、俺達を集めたというのは一体……」
「あぁ……荊州の事なんだ」
『……………………』
一斗の言葉に2人は表情を変えた。
「荊州は正直言ってヤバい。早めに潰しておきたいと思うんだ」
そう主張するのは一翔である。南陽での一件が響いているのだろうと2人は思うがその通りである。
「一国だけで対処したなら痛いしっぺ返しを喰らうのは必然だと思うよ」
「けど……」
「だが……それが三国でならどうだと思う?」
『ッ』
一斗の言葉に2人は驚きの表情をした。まさか一斗は……。
「一斗、まさかとは思うが……」
「……一刀が思っている通りだよ。俺は………魏・蜀・呉による『三国同盟』を締結して荊州に事当たりたいと思うんだ」
『ッ!?』
一斗の言葉に2人は息を飲む。史実にて諸葛亮孔明が劉備に対し天下三分の計を具申したように天の御使いは他の天の御使い達に三国同盟の締結を具申したのである。
「正直、これまでの戦争をしていたら被害は増えるばかりだろう。魏だと夏侯淵が定軍山で討ち取られたり魏延が馬岱に斬られたり……ね」
「それは確かに……だな」
「けど、曹操とかは了承しているのか?」
「納得してもらっているよ。これ以上、民達が戦の被害を出さないためにはこうするしかないと思う。無論、劉協もだ」
「成る程な……」
「しかし同盟をするにしても国境線はどうするんだ? 現状維持のままか?」
「それに関してはちょっと当てになりそうなのがあるかな」
一斗はそう言って大陸の地図を出して2人に見せる。
「俺が考えているのはこうだ」
一斗は筆を使い線を描く。一斗案の国境は以下の通りであった。
『魏』領土
幽州・冀州・青州・并州・涼州・兗州・徐州・豫州・司隷・荊州(南陽郡・江夏郡)
『蜀』領土
益州・雍州・南蛮・荊州(南郡・武陵郡)・交州(交趾郡・九真郡・日南郡)
『呉』領土
揚州・交州(鬱琳郡・南海郡・蒼梧郡・合浦郡)・荊州(長沙郡・零陵郡・桂陽郡)・台湾
「フム……荊州と交州は完全に分割すると?」
「領土を平等にしようとしたらそうなるからな。それに荊州は三国の緩衝地帯も兼ねている。それと呉が割合が少なくなるから台湾も増やしてみたけど」
「この頃の台湾は先住民しかいないんだっけ? 入植して開拓していけば十分なお釣は来るな……」
「だろ? これを考えるのに三日三晩考えて今、寝不足でもある」
確かによく見ると一斗の目の下にうっすらとクマがあったりする。
「どうだろうか?」
「うん……俺は良いと思う」
「確かに。で、国は一つに纏めなくていいんだろ?」
「今の時点はな」
「今の時点? となると……」
「何れはと俺は思っている。少なくとも100年から200後に緩やかに統一で良いと思う。五胡とかの問題もあるしな」
「あー、そうか。北方は五胡もいるもんなぁ」
「確かにな」
「なら……これで良いか?」
「あぁ……国を分けても平和だったら桃香ーー劉備の願いだからな」
「雪蓮ーー孫策達も揚州を保持出来たら大丈夫だと思うしな」
一斗の言葉に2人は頷く。兎も角方針は決まった。三人の天の御使いはそれぞれの国々に戻り曹操、劉備、孫策ら首脳陣と話をする。三国の面々達は多少驚きつつも三人の天の御使い達の覚悟を見て受け入れる事にしたのである。
蜀と呉は再度許昌に使者を出し同盟の締結を了承となる。それに伴い、皇帝劉協は曹操、劉備、孫策に対しそれぞれ魏王、蜀王、呉王の位を送り独立した王朝の建国を許可した。
それにより大陸に魏・呉・蜀の3つの国が誕生したが後漢よりは下の位置であった。そして三国が最初にした事は三国による『三国同盟』の締結であった。
後漢の暫定的な首都でもあった許昌にて三国の代表が集められ、(魏は曹操に荀彧、一斗。蜀は劉備に孔明、一刀。呉は孫策に周瑜、一翔)それぞれが書類に調印して同盟が成立したのである。
三国同盟は以下の通りの内容であった。
・三国間で相互に領土権の尊重、不可侵を約束する(相互不可侵条約)
・三国は互いの発展のために留学生を出す事
・他国から攻められたら三国は共同して対処に当たる事
等々が記載されており主要な項目は↑の通りであった。そして荊州の長沙城では将和が次々と舞い込む報告に苦笑するしかなかった。
「成る程成る程……どうやら荊州は三国にとっては共通の敵のようだな」
「まぁ仕方ありませんね~。特に蜀は」
「蜀は自業自得だろ」
「否定はしませんね~」
将和のツッコミに隠はそう返す。他の者達も頷いていたりする。特に元劉備側の人間だった愛紗等首を強く縦に振る程である。
「ですがご主人様、警戒は必要かと思います」
「だな……また軍の編成か」
愛紗の言葉に将和は溜め息を吐く。漸く荊州軍の師団から軍への編成を終えたばかりなのにこれである。
「取り敢えず今日はこれくらいにしておこう。明日から忙しくなる」
将和は早めに軍議を切り上げたが七乃を呼び寄せた。
「どうしました将和さん?」
「あぁ……特別水軍の編成はどうだ?」
「はい。今のところは順調ですねぇ。皆さん、新しい船に大分熱を入れているみたいですから」
于吉の支援によりキャラベル船やキャラック船用で密かに集められた水軍関係者や船員達の錬成は順調であった。将和はそのうち、錬度が高い船員を集めて2隻を先に『あの場所』へ出していた。2隻は南海郡を出ると陸地から見える、見えないギリギリを航行しながら大陸伝いに北上していきやがては半島に辿り着き、そして『 』の場所に向かっている最中であった。
「分かった。引き続き頼むよ」
「分かりました」
「あ、それと密偵なんだけどさ」
「何ですか?」
「ある噂を流してほしい」
「ある噂を?」
「おぅ。内容はーーー」
そして数日後、許昌である噂が流れてきた。
「五胡が攻め込んでくると?」
「情報では涼州、幽州、并州からそれぞれ5万ずつとの事です」
「……一斗、どう思う?」
「……荊州の噂かもしれない」
「……十中八九、それでしょうね。無視してみるかしら?」
「それも良いけど……幽州は五胡がよく侵入しているから真実かもしれない」
「……………分かった。取り敢えず三方面の軍を用意しましょう」
「大丈夫なのか?」
「あら、その分は蜀と呉に兵力を出させたら良いだけの話よ」
「成る程。1本取られたな」
曹操の言葉に苦笑する一斗である。そして魏は五胡への対処を行いつつ数ヶ月が経過した。
「そうか。2隻は戻ってきたか」
「はい。取り敢えずは航路も確定したとの事ですね」
「そうか………」
七乃の言葉に将和は安堵の息を吐いた。これで航路も確定したのならば後は航行もしやすいだろう。
「あの……将和さん?」
「どうした七乃?」
「あの……何か考えてますか?」
「…………………まぁ、一応はな。皆の未来のためにかな」
「未来……ですか?」
「あぁ。未来をだな」
将和はそう言って七乃の手を取り自身の胸元に引き寄せ、そのまま抱き締める。
「あ………」
「美羽が死ぬ前はそう考えてなかったんだがな……けど、美羽がいなくなった以降、考えたんだ。皆の幸せ、未来をな」
「…………………」
将和の言葉に七乃は答えないが無言で抱き締め返す。
「分かりました。それなら将和さんを信じます」
「……ありがとう七乃」
そう言って七乃にキスをしようとした時、星と包が入ってきた。
「主、朝廷から勅使が………おやおや、勅使は待たせようかな」
「ハハ、それも良いかもしれませんね」
「んもぅ。星さんったら」
「大丈夫だ星。今行くよ」
ちょっと勿体なかったなぁという表情をする七乃の頭を撫でると謁見の間に向かうのである。謁見の間では以前に袁術軍にいた程立がいた。
「お久しぶりです三好様~」
「いや、久しぶりだな程立」
「今は程昱と名乗っています~」
「そうか。それで今日はどうした? 曹操からの使いでは無いのか?」
「はい~……朝廷からの勅使となります。これが勅命です」
程昱はそう言って将和に勅命の紙を渡すと将和は紙を一目して程昱に視線を移す。
「程昱、君は勅命を見てないな?」
「はい~。流石に見ておりませんよ~」
「おぅおぅ兄ちゃん。流石の風もそこは弁えているぜ」
「これこれ宝譿、いらぬ事は言わないのですよ」
「ハハハ、宝譿も久しぶりだな」
「あたぼぅよ兄ちゃん」
「成る程。見てみろ」
将和はそう言う。程昱を見れば程昱も知らぬ様子であったので程昱に紙を見せた。
「……ッ……これは………」
「どうした風? 何か悪い事でも書いてあったのか?」
表情を変える程昱に星がそう尋ねると程昱は頷いた。
「……三好様を朝敵にするとの事です」
『ッ!?』
程昱の言葉に星達は表情を変え、空気も緊張感を持つが将和は苦笑する。
「大丈夫だ星。程昱は知らなかったようだから不問だ」
「………はっ」
将和の言葉に星は槍の構えを解き、程昱もふぅと息を吐いた。
「恐らくは三人の天の御使いの策だろうな。曹操は此処まで細々とはせんだろう」
紙に記載されていたのは荊州牧と不届きに名乗る三好将和を朝敵と致すという事だった。他にも色々と朝敵の理由は記載されていたが将和も途中で見るのを飽きたからである。
「程昱を勅使にしたとなると恐らく三国は軍の動員を完了してそうだな」
「三好様」
「大丈夫。程昱は悪くない、ちゃんと曹操の下に生きて帰す」
「……申し訳ありません」
「心配するな。星、今日は程昱と飲め。恐らく今生の別れとなる」
「左様で……風、今日は飲もうか」
「そうですね~」
将和は程昱を下がらせると星と狼(南陽守備)を除いて今いる全員を集めて軍議を開催した。
「三国の共同だろう。兵力も50万は下らんだろうな」
「ご主人様、此処はこの城で防衛を!!」
「でも愛紗ちゃん。味方はいないと見た方がいいわ。籠城は味方がいるから出来るけど味方がいない籠城は直ぐに落城してしまうわ」
愛紗はそう主張するが紫苑はそう反論する。
「旦那、此処は先に仕掛けてみてはどうだ? 孫呉ならオレが相手してやる」
「それなら私もご同行したいです~」
「その時は私もです」
王双ーー炎蓮の言葉に隠と包はそう発言する。2人とも孫呉討つべしの表情であった。だが将和はそれらを手で制した。
「まぁ待て。七乃、狼に至急伝令を送れ。内容は『南陽を放棄し直ぐに我々と合流すべし』とな」
「南陽を捨てるのですか?」
「いや……全てを捨てる」
「それはどういう事なわけ?」
「その理由を今から話す」
そして将和は口を開き諸将達の前で計画を話すのであった。
「……成る程。それは面白そうだな」
話を終えると炎蓮はニヤリと笑うとそれに釣られて楼杏と風鈴も笑う。
「クククッ……確かに貴方しか思い付かない策ね」
「戦乱続きでコリゴリですからね。案外それも良いかもしれませんね」
「……ご主人様……皆連れて行ってもいい?」
「勿論だぞ」
「なら恋、頑張る」
「ねねも頑張りますぞ恋殿!!」
意気込む恋とねねである。
「旦那、俺も旦那に付いていきますぜ。旦那に拾われた命だ。旦那に預けていやすからね」
「ありがとうな泠牙」
「となると絶対防衛は交州ですね」
「あぁ。だから楼杏と風鈴の軍は先に交州入りしてくれ。猫がいるが恐らくは対処しきれないだろうな」
「分かったわ」
「お任せ下さい」
「霞と恋の軍は機動部隊として動いてもらう」
「任せときや将和!!」
「ん……」
「泠牙は狼と共に遅滞戦を頼む」
「御意。精々奴等を引き付けますよ」
「ん。皆、俺から言うのはただ一つ……生きて出るぞ!!」
『オオオォォォォォォォォォ!!』
斯くして三好軍は動き出すのであった。
御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m