袁術配下の紀霊は袁術の母親である袁逢の頃から仕えていた老将であった。武に優れており袁術が他の勢力に負けずに張り合えたのも紀霊がいたからこそであった。
その紀霊が長年に渡り汚職を行っていたのだ。紀霊は軍の予算をちょろまかしていた。それは些細なカネであったが他家から見ればかなり多めの予算をちょろまかしており(資金が豊富にある袁家だからこそ張勲も気付いていなかった)だからこそ張勲も最初は動けなかった。
「なら俺が行こう」
「三好さんが……ですか?」
「あぁ。一人なら身軽で大丈夫だ。だから申し訳ないが張勲は紀霊を呼び出してほしい」
「紀霊さんをですか?」
「あぁ。袁術様の謁見で奴を包囲して捕縛するか自害してもらう」
「ッ」
張勲の問いに将和はそう答え将和の言葉に張勲は表情を変える。
「紀霊さんを……」
「確かに紀霊は袁逢様の代から仕えているのは知っております。ですが紀霊は律を乱して軍の予算を懐に入れ込んでいる……ならば相応の報いは必要ではないかと? それともこのまま見逃しますか?」
「ッ………紀霊さんを呼びましょう」
「御意」
張勲の決断に将和は頭を下げて準備に取り掛かるのであった。数日後、紀霊は袁術の前に呼び出されるが直ぐに張勲が用意した手勢50に包囲されたのである。
「こ、これは……」
「年貢の納め時というやつだよ……紀霊さん?」
「貴様は……最近仕官してきた三好か!?」
「あんたが軍の予算をちょろまかして懐に入れ込んでいるのはバレてんだ」
「なッ!?」
驚く紀霊を他所に将和は汚職が記載されている竹簡を紀霊の前にばら蒔く。それを拾い竹簡を見る紀霊だが顔をみるみる青ざめていきそこへ張勲が前に出る。
「紀霊さん、せめてもの情けです。これまでの汚職していた予算を返納して追放だけに留めます。紀霊さんッ」
「黙れ小娘!!」
紀霊は最早これまでとばかりに剣を抜く。
「たかが雑兵ごときにワシを討ち取れるものか!!」
「じゃあ雑兵でなければいいんだな?」
「なッ!?」
意気込む紀霊に将和が刀を抜いて歩み寄る。
「この……紀霊と分かっていてもか!!」
「それがどうした!!」
将和は一気に駆け寄り上段から斬り込むが紀霊はそれを防ぐ。それを見た将和は右足で紀霊の腹を蹴り紀霊は転倒する。
「ガッ!?」
「取り押さえろ!!」
将和の言葉に兵士達が慌てて紐で紀霊を捕縛する。
「……紀霊さん、残念ですが……」
「……好きにしろ……」
張勲の言葉に紀霊も遂には観念し首を打たれたのである。なお、同じく紀霊の配下であった雷薄と陳蘭も同様の罪をしていたので捕縛され首を打たれたのである。
「三好さん、この度はありがとうございました」
「いや、そんな事はないですよ」
謁見の間で張勲と将和は改めて話をしていた。
「ですがあのままでは紀霊さんに予算を抜き取られる一方でした。民達が血と汗、涙を流して納める予算ですから取られるのは溜まったものではないですよ」
「そうですか……」
「それと……私の真名『七乃』を受け取ってほしいです」
「……宜しいので?」
「はい。三好さんなら信頼出来ますからね」
「………分かった、受け取ろう。ただ、俺の元々いた場所は真名というのが無くてな。名の『将和』が真名に近いから将和と呼んでくれ」
「えッ!? じゃあ始めから真名に相当する名を私達に……?」
「まぁそうなるな」
「……(そこまで私達を信頼しているのですね……)分かりました。将和さんと呼ばせて頂きます」
「あぁ」
この瞬間、将和が袁術家での台頭が決まった瞬間でもあった。それから将和は袁術と謁見をし七乃の口添えもあり袁術も将和を信用し真名の『美羽』を呼ばせてもらう事になるのである。
ちなみに袁術ーー美羽も堕落しており特に蜂蜜水は大の好物でもあった事から毎日飲む程七乃が甘やかしていた。その為、堕落していた美羽と七乃は将和からのどぎつい喝が入ったのは言うまでもない。
「この馬鹿者!!」
「ピィィィィィィ!? な、七乃、将和は妾の家臣ではないのかや!?」
「アハハハハハ……また将和さんに怒られる……怒られる……怒られる……仕事が増える……」
「七乃ォ!?」
真っ白の灰になった七乃に驚愕する美羽であった。そして将和も美羽を鍛える事にし自身がかつて培った帝王学を教授するのである。
「むぅ。本当は毎日帝王学したいが……」
「文官もそうですが武官も少ないですからねぇ。先日の粛清の時も紀霊派の武官達も粛清されましたから……」
「……いっその事、募集をかけるか。例の文官の育成はまだまだ掛かるから今は即戦力が欲しいからな」
「ですね。直ちに立札を立てていきましょうか」
七乃は将和の案を採用し直ちに立札を立てて武官・文官の募集をかけたのである。武官は武に自信がある者、文官は文字が読め、書ける者を優先して採用する事になる。
「今日は南区の戸籍調査か」
将和は街に出て数人の兵士と共に住民の戸籍調査をしていた。戸籍調査も一定の時を置いて調査しなければ住民は増えていくので直接赴いての調査が必要だった。本来なら下っ端の役人に任せればいいのだが、汚職の事件もあり役人も数を減らしていたので将和にまで手が回ってきたのだ。
文官の育成もしているがまだ三ヶ月は掛かる見込みだったのでそれまでの辛抱だろう。
そして調査をしていき昼食も済んだ頃、一通りの調査も終わったので兵士達を城に返して自身は街に繰り出していた。
(お、本屋か。たまには本も見るか)
本屋を見つけた将和は店に入り書物を見ていくと『孫子』を見つけた。
(『孫子』だ。久々に見るかな……)
竹簡の書物であり写本のだがそれでも歴史的価値はあるので将和は『孫子』を読み更けるが途中で店主の咳払いに退散しようとしたが横に何故か息を荒くし股をもぞもぞする女性がいた。
「……………」
「はぁ……『孫子』は何度見ても良いですぅ……」
(確かこの娘って……)
顔を赤らめて同じく『孫子』を見る女性に将和は声をかけ、店主の迷惑になるからと店から出して近くの茶店に連れてきたのである。
「本当にすみません~。私、書物を読むと興奮しちゃいましてぇ……」
「此方こそ急に声をかけて申し訳ない。ま、茶でも奢るよ」
「ではお言葉に甘えましてぇ……」
互いに茶を啜り、喉を潤してから自己紹介とした。
「俺は姓は三好、名は将和だ。字は無くてな」
「私は姓は陸、諱は遜。字は伯言ですぅ。揚州の出になります」
「ほぅ、揚州か。ん? 確か陸氏は呉県の……」
「はい~。でも私は傍系の生まれなんです」
「成る程な。その陸氏の君が何故此処に?」
「実は仕官先を求めていまして……」
「仕官先? 仕官先なら孫家でも良かったんじゃ……?」
「私もそう思ったのですが、どうも運が無かったみたいで断られました」
(ファーwww)
茶を啜りながらのほほんと喋る陸遜に将和は仕官を断った孫家に内心プギャーm9(^д^)していた。
(まぁ抱えるなら傍系より直系を優先するわな……)
「それで最近、南陽が賑やかと聞いたので此処まで来たんですよ~」
「成る程ね……(フム……)」
将和は頷きつつ陸遜に提案してみた。
「どうだろう陸遜殿? 俺は張勲殿と知り合いでな。陸遜殿が良ければ城まで案内はするぞ?」
「あら~。それは宜しいのですか?」
「あぁ。袁術家では文官や武官が足りてないらしくてな。猫の手も借りたい状況なんだ」
「成る程。なら私は猫の手でしょうかね?」
「ハハハ、とんでもないとんでもない。『孫子』を読める者は猫の手以上だよ」
「あらあら、これは1本取られましたね~。なら宜しくお願いします三好さん」
「あぁ、任された」
そして将和は陸遜を城まで案内して七乃に会わせるのである。なお、そこで将和も武官(文官も)として活躍しているのがバレたのである。
「三好さんも武官だったんですね~」
「ハハハ。騙して悪かった、でもこれも駆け引きの一つだろ?」
「成る程。それは納得しますねぇ」
「ちなみに書物庫は見ても良いがちゃんと節度を弁えてな?」
「頑張ります~」
(何か怖いな……)
そう思う将和であった。なお、陸遜が節度を守らずに書物庫で発情するまでの日にちは掛からなかったという。
それはさておき、陸遜が加入してから数日後、更に客将としての加入があった。
「姓は趙、諱は雲、字は子龍です」
「程立と言います」
「戯志才です。宜しくお願いします」
「あぁ……宜しくな(うーん、どう見ても魏最初に出会う面々だな……)」
三人に挨拶をしながらそう思う将和であった。なお、趙雲が将和に武を申し込んできたので勝負をしたが将和の勝利であった。
「くっ……参りました……」
「紙一重……だな趙雲」
「御冗談を……(この者……思っていたよりも強き者だ……)」
「まさか星が負けるなんて……」
「おぉ……ぐぅ……」
『寝るな!!』
「おぉッ。これはこれは」
なお、これ以降も趙雲は将和に何度も勝負を挑むのである。そして数ヶ月が過ぎた時、文官の育成も第一陣が終了し第二陣の育成が開始された。
「成る程。このような育成があるのですね……」
「まぁな。何でもかんでも全て自分で解決しようとするのではなく他の者達にも手伝ってもらう。そうしないと負担が増えるばかりで最悪だと………」
「成る程……」
戯志才の問いに将和はそう答える。実際、第一陣の文官が投入された事で政務の運用も少しばかりではあるが向上になっていたのは事実であった。
「三好殿、盗賊が発見されたようだ」
「ん。即応隊で初期の対応をしようか。趙雲、出撃準備を」
「任された」
将和も武官の仕事を忘れてはおらず、賊等の不測な対処をするために即応隊を編成していた。数は750名しかまだ少なかったがそれでも初期対処は可能であった。そして将和と趙雲は盗賊退治のため出撃したのである。
「趙雲!! 前に出過ぎだ!! 一旦味方の位置まで下がれ!!」
「心配御無用!! 私に傷は付かぬ!!」
「あんの馬鹿野郎がッ!!」
「助太刀ですかな? 感謝致す!!」
盗賊を発見した将和隊であるが趙雲が先走って突出して斬り込むが直ぐに包囲されてしまう。しかし、趙雲は持ち前の武によって包囲を崩して場を切り抜けるのであるが合戦後に趙雲は将和に頬を叩かれた。
「な、何をなさる!?」
「お前が大馬鹿野郎だからだろ!!」
「お、大馬鹿野郎ですと!?」
「それしか無いだろ!! 何故直ぐに突撃するんだ!! 例え賊なんぞお前からしたら烏合の衆かもしれんがその一瞬の隙がお前の命を刈り取るんだぞ!!」
「ですが私の武には!!」
「気付いていなかったのか? お前の右斜め後ろにいた2名の槍兵の存在を?」
「槍……兵……?」
「明らかにお前は見えていなかったぞ。しかも今の発言からしてお前、槍兵の存在に気付いていなかったな?」
「ッ……」
「幸いにして俺が斬り込んだから槍兵は逃げたけどな。勝手に突撃なんぞするな」
「………………」
「お前が死んだらどうする? 悲しむ者は三人はいるぞ」
「三人……」
「程立に戯志才。そして俺だ」
「ッ」
将和の言葉に趙雲はハッとする。確かに二人は自身が死んだら悲しむだろう。だがこの前にいる男も……?
「お前の武は天下一品だ、そんな武を無駄に死なせるわけにいかんぞ」
「ッ!?」
自身の腕を信頼してくれている。将和の言葉に趙雲は胸が酒を浴びたようにカァッと熱くなる。そして趙雲は素直に将和に頭を下げるのである。
「三好殿、真に申し訳なかった。私もまだまだ精進して参ります」
「ん。じゃあ帰ろうか。帰ったら酒でも飲むぞ」
「肴は勿論」
「メンマだな」
「当然です」
二人は笑みを浮かべ将和隊は盗賊を討伐し南陽の街に帰還するのである。これ以降、趙雲は武を強く強調する事なく隊の運営にも力を出すのである。
そして賊を討伐した事で南陽の街も更に活気が溢れ、袁術家への仕官を求める者が出てきた。
「姓は魯、諱は粛。字は子敬です」
「フム……魯粛殿は徐州の出と聞くが徐州では仕官する者がいなかったのか?」
「はい。私の智を有効に活用してくれる者はおりませんでしたので旅をしていました。そして南陽が栄えていたので立ち寄り、市井を伺うと袁術家は民を第一に考えていると判断し、袁術家ならば私の智を活用してくれると思い仕官をと伺いました」
「成る程ー。私は良いと思いますが将和さんはどうですか?」
「俺も良いと思う。魯粛殿、今日から袁術家で宜しく頼むよ」
「感謝致します。我が智にて袁術家を大きく飛躍させましょう」
「ハハハ。有言実行、頼むよ」
そして魯粛も文官(軍師)として袁術家入りするのであった。
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