「オレが孫文台だ。ま、短い間だろうが宜しく頼むな」
孫堅の陣に赴くと案内された幕舎で孫堅がいた。
「袁術軍司令官の三好だ、此方こそ頼む。孫堅殿の軍は今後どのような展開を?」
「江夏郡は後一息で占領する。その後は長沙郡に攻め込むつもりだ」
「フム……ならば此処は長沙郡を共に攻めるつもりはないか?」
「何……?」
将和の言葉に孫堅はジロリと睨み、孫堅から殺気が溢れてきたが将和は特に身構える必要はしなかった。
「蔡瑁の軍勢を一気に叩きたい魂胆だ。蔡瑁の軍勢を叩いた後は武陵郡を攻める腹だ」
「成る程。共同作戦というわけか……」
「あぁ。どうだろうか?」
「……良し、乗った」
「ではそれで」
将和が幕舎を出ると孫堅は直ぐに重臣らを集める。
「奴の目的が分からん」
「確かにのぅ。しかし堅殿、それでも引き受けたのは何かあるのか?」
宿老でもある黄蓋がそう言うと孫堅は肩を竦める。
「……似ているんだ。一翔にな」
『ッ』
「ではまさか……」
「あの三好とか言う者も天の御使いと?」
孫堅の言葉に程普がそう言うも孫堅は首を左右に振る。
「それが分からん。何となくしかオレも断定出来ん」
「まぁもしかしたら無害かもしれんのぅ」
「三好は置いとけ。取り敢えずは長沙郡の攻略だ」
「密偵からの報告では黄祖を主力にした軍勢が準備を整えている最中とあります」
「チッ、あの陰険女か……構う事はねぇな。蹂躙してやらぁ」
まだ若輩ながらも荊州攻略には周瑜も参加しており、周瑜の言葉に孫堅はそう言うのであった。その後、袁術軍2万7000と孫堅軍1万5000はそれぞれ洞庭湖、下儁から侵攻を開始した。
「おのれ!!」
蔡瑁は黄祖に全力で死守を命令し、後詰めとして自身も同じ一族の蔡和、蔡中らも引き連れての約2万6000で出陣したのである。そして長沙で防衛に当たる黄祖は始めから孫堅狙いだった。
「袁術軍はどうとでもなる。が、孫堅だけは別だ。奴を討ち取らねば私達に未来は無い」
黄祖はそう訓示して下儁へと向かう。その為将和の軍勢はほぼ無傷で洞庭湖周辺を占領し、黄祖軍の後方へと回り込む事に成功する。
「恐らくは蔡瑁はこれを狙っていたのでしょう」
「なら策はあるか魯粛?」
「三好様は引き続き黄祖軍を追って後方から攻撃して下さい。我々は羅県で蔡瑁軍を引き付け地形を利用した戦いをしましょう」
将和の問いに魯粛はそう言う。
「ウム。なら指揮は魯粛、お前に任せる。お前が日頃から言っている大言壮語、見させてもらう」
「は、ハハッ!! 必ずや期待に応えてみせます!!」
将和の言葉に魯粛は緊張しつつもやり遂げてみせる表情をし頭を下げる。袁術軍の軍勢は二手に分かれて進撃を開始する。
その一方で孫堅軍は下儁付近で黄祖軍と激突していたが両軍とも戦力は互角であるため一進一退の攻防が続いていた。
「押し込めェ!!」
孫堅自ら指示を出すも黄祖は粘り強く守勢をしており孫堅の苛立ちは募るばかりであった。だがそれでも黄祖軍を小高い山にまで追い詰める事に成功し、そこへ将和の軍勢も到着したのだ。
「先陣は孫堅殿が取られるが宜しいかと」
「当たり前だ。オレを此処まで虚仮にした黄祖のクビはオレが取る!!」
軍儀にて孫堅はそう言い放ち、将和も特に反対意見はなかった。しかし……。
「しかしながら、斥候からの報告だと山の周囲は長江へ注ぐ川もある事。逆襲の対処も構えすべき事かと」
「何だと?」
将和の言葉に孫堅は自身の剣である『南海覇王』を抜き将和の首筋に添えた。
「テメェ……誰にモノを言ってんだ? オレは孫文台だぞ?」
「それがどうした?」
「何?」
「貴様が誰かとは関係ない。貴様の行動次第で味方の兵が多く死ぬかもしれないという事を理解しろ」
「黄祖がオレを殺すと?」
「『窮鼠猫を噛む』という。無謀な突撃はやめろと言ってんだ。少しは配下の事を考えろや」
「ッ」
将和の殺気に孫堅は思わず『南海覇王』への力が入り、少し血が出るが将和は気にしなかった。
「……チッ。考えといてやる」
孫堅がそう言って軍儀が終わり、軍儀後に黄蓋が頭を下げるが将和は気にしなかった。そして黄祖軍への攻撃が始まり、孫堅軍は猛攻撃をかけて黄祖軍を追い詰めていくも黄祖軍は巨石を落としてまでも追い払おうとしていた。
「チッ、突っ込むぞ!!」
「待つのじゃ堅殿!?」
苛立ちを隠せなかった孫堅は黄蓋が止めるまも無く単騎突撃し戦局の打開をする。その光景は後詰めとして孫堅軍の後方にいた将和も視認していた。
「あの馬鹿……李豊は孫堅軍の後方に詰めて崩壊せねよう努めろ」
「ハッ、お任せ下さい!!」
「10騎ばかしは俺と来い!!」
そして将和は馬を走らせる。無論、孫堅の後を追う為でもある。馬を走らせる事10数分、山頂へ登る路にて黄祖軍の兵士を斬り込む孫堅が見えた。
「孫堅!?」
「ん? おぉ三好か」
「三好かじゃねぇよ!! だから無謀な突撃はすんなって警告しただろ!!」
「無謀じゃねぇよ。オレが突撃すれば敵は崩れるからな」
「そうじゃねぇってーーー」
不意に将和は殺気を感じた。孫堅の奥の草むらを見るとそこには女武将が弓を構えていた。恐らくは黄祖なのだろう。
「チッ!!」
将和は咄嗟に孫堅の前に出る。その瞬間、黄祖が弓を放つ。放たれた矢は将和の額目掛けて飛翔してきたが、鉢金付鉢巻を巻いていた事で矢は弾いた。
「グッ……グゥッ!?」
将和は脳震盪を起こしたが頭を振って多少持ち直し、携行していた弩(装填済み)を黄祖に構えた。
「南無……八幡…大菩薩!!」
昏倒しそうだったがそれでも将和は逃げようとする黄祖に弩を放ち頭に命中させ黄祖が倒れた。
「黄祖ォ!!」
孫堅が『南海覇王』を抜いて黄祖を討ち取ろうと馬を走らせようとした時、山頂方向から黄祖軍の兵士達が巨石を落とした。
「孫堅!?」
「ウォ!?」
隣にいた孫堅を抱き抱えそのまま崖下の川に転落する。なお、巨石は将和達が乗っていた馬を踏み潰した。
「将軍!?」
「下は川だ、直ぐに探しに行くぞ!!」
将和の部下達は慌てて川に向かうのであった。
「孫堅は死んだ事にしよう」
合戦後、将和は自軍の幕舎にて手当てをされながら後から駆けつけた廖化にそう告げた。
「しかし、宜しいのですか?」
「記憶喪失になった者を渡してもどうしようもない。それに孫家の力も弱めたいしな」
将和と孫堅は数キロ離れた下流の砂浜に打ち上げられていた。気絶から気付いた将和が孫堅を起こしたが目を覚ました孫堅からの一言が「貴方は誰だ?」であり話をするうちに自身の名前等も分からないという有り様であった。何処からどう見ても記憶を喪失しており、医師からの見解では流れている時に石か何かを頭にぶつけて何らかの異常になったのだろうという事だった。
将和も最初は記憶喪失のまま黄蓋らに引き渡そうとしたが、史実と同じく力を削るのも手であったので孫堅は死んだ事にする事にしたのだ。死んだ事ーー遺体が無いので行方不明という形にはなるが証拠としては孫堅が身に付けていた頭の飾りに手首のリング数枚を見つけた事にして黄蓋に引き渡したのである。
渡された黄蓋も孫堅の遺品と判断、見つけてくれた将和に頭を下げるのである。それは兎も角、残存孫堅軍は撤退する事になり折角占領した江夏郡も放棄したのである。
「このまま江夏郡も占領しよう。江夏郡の攻略は七乃に任せる」
将和の軍勢は長沙郡もほぼほぼ占領していた。しかし、長沙太守の韓玄は尚も抵抗しようとしたが廖化に唐竹割りされた。城に残っていた重臣達は逃げ出したが、長沙の城に残っていたのは黄忠であった。
「私の命と引き換えに民の命だけは……」
黄忠は武を携えずに将和の陣に訪れ降伏を打診、将和も受け入れるが黄忠も助命した。
「貴女にも子はおろう。その子の為にも此処で死んではいけない」
「……ありがとうございます」
将和の言葉に黄忠を頭を下げるのであった。なお、袁術軍入りも打診しこれも了承され主に弓隊を率いる事になる。そして将和の軍勢は武陵郡、零陵郡を攻略した。特に零陵郡の太守劉度は嫡子劉延に武将邢道栄を付けて交戦したが魯粛の策により邢道栄を廖化に討たれ、劉度も降伏したのである。
これにより残るは桂陽郡に籠る蔡瑁らであった。この攻略には黄忠も参戦しておりその得意の弓を以て蔡和、蔡中を討ち取る事にも成功している。そして肝心の蔡瑁も桂陽城が攻め込まれた際に将和との一騎討ちに敗北しこれも討ち取られたのである。
「これで荊州は袁術家(ウチ)のモノだな……」
荊州全土を手に入れた袁術家である。それは内側的には荊州を素早く手に入れるというモノもあるが対外的には黄巾賊の討伐の為にやむを得ない措置でもあった。(荊州に黄巾賊が大量発生し、劉表が病と称して討伐していないので朝廷からの命令という名目)
特に軍備は大規模に増強され常備兵力も5万は用意可能であったのである。また、先程も述べたが黄忠も加わり武将の増強も成されているが文官の方も増強がされていた。
「鄧芝と申します。字は伯苗です」
「ん。採用」
「え?」
「何か問題があるか? お前は仕える為に来たのだろう?」
「も、勿論です」
「だから採用。使えるか使えないかは此方で判断するんだから気にするな」
「御意(何と大胆な……成る程。面白い人ではありますな)」
将和に頭を下げる鄧芝はそう思うのである。そして朝廷ーー十常侍からの手紙が届いた。
「ふむぅ……七乃、これは何としたものじゃの……」
「どれどれ……うーん、十常侍の連中は考えましたね」
軍儀で七乃は十常侍から届いた手紙を将和達に公表する。
「つまりは軍を率いて各地の黄巾賊を討伐しろか。まぁ荊州の事を目に瞑った代わりだろうな」
「これは断りきれませんね」
「というよりも冀州の黄巾賊を平定しろって明らかに袁紹の後始末だな」
この頃、冀州を牛耳っていた袁家の袁紹だが黄巾賊に手を焼いており他方からの救援に頼る一方だったからだ。
「ま、仕方ないか。美羽、直ちに軍勢の準備に入る」
「ウム。頼むのじゃ」
将和は遠征への準備に移行した。武将及び軍師の同行は黄忠、隠、廖化、そして将和の身の回りの召使いとして孫堅ーー王双が加わった。孫堅の保護後、孫堅をどうするかで悩んでいたが取り敢えずは将和の召使い(要は面倒を見ろという事)として働いていたが記憶喪失にも関わらず武に関しては一流であった。記憶は無くとも身体は覚えているという事であり、将和も同行を許可したのである。また、その時に偽名で王双と名乗っている。
そして派遣するのは総勢3万の兵力であった。将和の軍勢は南陽を出陣すると一路冀州に向かうのである。なお、その道中で北方の村に別れの挨拶のため南陽を離れていた李典こと真桜と二人の友人を送るため同じく南陽を離れていた趙雲こと星と合流したのである。
「主達の軍勢が冀州に来ると冀州の民が噂していたので此処で待っていたよ」
「ウチもやな」
「そうだったのか。それでも加わってくれて嬉しいぞ」
「そうですね、戦術の手が増えますぅ」
将和の言葉に隠も賛同する。その後、将和の軍勢は冀州に入ったところで別の軍勢と遭遇した。
「旗は分かるか?」
「旗は……『呂』です!! 他にも『長』『華』の旗もあります!!」
(待てや……それって確か……)
そして将和の軍勢は別の軍勢の正体を知る事になる。
「あれは……深紅です!! 『呂』は深紅の旗です!!」
「やはりか。となるとあれは……涼州の部隊だな」
斯くして将和は三国志最強の武将と出会う事になるのであった。
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