・何故か北郷(東郷に南郷)が言う事は正しいように思え、その通りにする。
反董卓連合後、少しばかりの平和があると思いきや、そうではなかった。冀州で袁紹が幽州へ侵攻し公孫瓉を敗走させたのである。敗走した公孫瓉は徐州牧へとなったばかりの劉備のところへ身を寄せる事になる。
それを尻目に曹操も兗州と更に青州を保有し戦力の拡大を行っていた。洛陽にいる劉協も命令を発しても無視されるので大っぴらに事を荒げる事はしないつもりであった。
「各地で戦乱が止まりませんね」
「さながら春秋三国時代だな」
南陽城で将和達は軍儀をしていたが、何処の報告も戦乱ばかりの報告であった。
「諸侯達の戦いだけではありませんねぇ。徐州や揚州等では黄巾賊の残党が蜂起して劉備や孫策達は手を焼いていますねぇ」
「何してんだアイツら……」
「それに北では曹操も戦力を大幅に増やしています。このままだと袁紹と対峙するのも時間の問題になると思われます」
「まぁあの二人は何れ戦う腹だろうな。益州は?」
「漢中の張櫓との争いが忙しいようで此方までは来ていません」
「ならいいか」
「それで将和、妾達は動くのか?」
美羽の質問に将和は頭をポリポリとかく。
「うーん、微妙だよなぁ。恋達が加わったのは嬉しいがまだウチの部隊との連携が出来ていないから錬成はしないといけないし……」
「攻略するとしたら交州はどうですか? 南ですが海は手に入ります」
そう具申したのは包であった。
「だが交州を攻める理由が無い」
「無いなら作れば宜しいのではないですかぁ?」
将和の言葉に隠はそう反論して机に黄色の布を置いた。その布に将和はスゥッと目を細めた。
「成る程……黄巾賊の残党が交州に現れても不思議ではない……か」
「はい~」
「将和殿、その役目は俺に任せてもらいたい」
「廖化、良いのか?」
「あぁ。黄巾賊の役目なら元の俺がやりやすいだろ。俺の部下にも元黄巾賊の者はいるしな」
「分かった。大元の方針を示す」
将和はそう言って立ち上がり、墨を付けた筆を手に取り地図に書き込む。
「まずは恋、華雄、張遼、ねねは錬成の部隊を率いて南郡と武陵郡の境目で演習を行い、錬度を高めてもらう」
「質問です将和殿。何故、南郡と武陵郡の境目なのですか?」
「交州の支援も兼ねている。他にも東西南北で火急が起きた時にその支援もな。それに恋達の主力は騎兵だから速度は歩兵よりもある」
「成る程なのです」
将和の言葉にねねは納得する。
「廖化は隊を率いて黄巾賊に変装して交州で破壊活動をしてくれ。但し、民への虐殺や略奪は禁ずる」
「御意」
「王平は益州への備えとし部隊を率いて益州との国境で待機」
「御意」
「交州攻略には星、隠、真桜、紫苑、皇甫嵩……じゃなくて張郃に廬植で行う」
「交州攻略出せる兵力は8万程になると思います。他にも南陽防衛で3万、王平さんと恋さん達へのそれぞれ1万になると思います」
「分かった、それで行くか。南陽防衛には七乃、包、李豊、楽就、粱鋼で当たってもらう」
「分かりました」
「お任せ下さい!!」
「それと廖化、黄巾賊への変装だが……民への襲撃はなるべく死者を出さない形にしてくれ」
「難しい事だが……やってみよう」
「第一段階として密偵を放って流言を広めようと思う。包、頼むぞ」
「分かりました!! 大いに広めてやります!!」
「ほ、程々にな……」
斯くして袁術軍の方針は決まった。連日に渡り各諸将達は準備に掛かる中、美羽は将和と共に街に出ていた。
「たまには街に繰り出すのも良いものじゃな」
「確かな。ほら、饅頭だ」
「ありがとうなのじゃ将和」
屋台で購入した饅頭を美羽は頬張る。
「賑わっているようで……何よりじゃな……モグモグ……」
「美羽のおかげだよ」
「いや、妾より将和じゃな。将和が提案してくれたのが上手くやっておるのじゃ」
「いや違う。俺は提案しただけ、それを取り入れる決断をしたのは美羽、君だよ。美羽が決断したおかげで街は発展していっているんだ」
「……エヘヘ、何かこそばゆいのじゃ」
将和の言葉に美羽は頬をうっすら赤く染めて将和に礼を言うのである。ふと、美羽は簪を売る店を見つけ、その中でも紫色の簪を見つめた。
「おぉ、妾の髪留めと同じ色なのじゃ」
「買おうか?」
「良いのか?」
「当たり前だろ。親父さん、その簪を一つ」
「あいよ」
将和は簪を買うと美羽の髪留めの横にソッと指した。
「まぁ指す場所は七乃と相談して決めなよ」
「……このままで良いのじゃ」
将和の言葉にフフッと笑うのである。その直後、将和の脳裏にある出来事が思い出す。
『ありがとうお爺ちゃんッ』
「ッ!?」
将和はその出来事に膝から崩れ落ちそうになるも美羽に気付かれないように柱に手を取って崩れ落ちるのを防いだ。
「?? どうしたのじゃ将和?」
「い、いや………何でもないよ美羽……(今のは……)」
首を傾げる美羽に将和は笑みを浮かべてそう取り繕うのであった。
そしてその頃、孫家の本拠地とも言える建業の城では孫策達が軍儀をしていた。
「漸く黄巾賊の残党も片付いたわね」
「あぁ。だが、これからだぞ」
ニコニコ笑う孫策に周瑜はそう釘を刺す。
「ブー、分かってるわよ。それで一翔が持ってきた作戦というのは?」
「簡単に言えば南陽を攻めるという事だ」
周瑜の言葉に孫策は目をスゥッと細めた。
「……やれるの?」
「やる時は袁術軍の主力がいない時だな。揚州を統一したばかりの我々がやれるのはそこしかないな」
孫策の言葉に周瑜は眼鏡を掛け直す。
「あら、益州でも袁術が攻めるのかしら?」
「交州だ」
「……交州?」
「そう。明命の報告では袁術軍は交州を攻める気配をしている」
「うーん、何だって交州なのかしら?」
「南にも土地はある。そういう事だろう」
「ふーん。ま、荊州は欲しいから準備はしておこうかしら」
孫策はそう言うがその数日後に荊州が「交州で黄巾賊の残党が暴れている」という理由の下で交州への侵攻を開始した事に孫策は苦笑しながらも軍の動員を急がせるのである。
将和達の交州攻略部隊は鬱林郡と蒼梧郡からの侵攻を開始していた。なお、鬱林郡には将和と星、紫苑、それに王双を宛がい隠達四人は蒼梧郡に向かわせていた。
「今のところは順調のようだな」
「そうですわね。交州牧の士燮も出てきてはいないようですし……」
「フム……此方としては出てきてほしいがな」
「二方面侵攻をしているから軍の動員が難しいのかもな」
実際にはその通りであり士燮も軍の動員をしていたが交州に侵入していた黄巾賊の残党(廖化隊)への対処もあり思っていたよりも動く事が出来なかったのだ。
(だが警戒はしておくべきだろうな。桶狭間や厳島の例があるしな……)
そう思う将和だったが……将和はどうも言い拭えない不安があった。
『お爺ちゃん、お土産ありがとうね!!』
『行ってきますお爺ちゃんッ!!』
(どうして……あの子の思い出を今頃思い出すんだ……)
かつて、唯一の過ちをしてしまった事で一人の子どもの命が永遠に失われてしまった。その悲劇を繰り返してはならないと将和も誓っていた。だが、その子の事が最近、頻繁に思い出すようになっていた。
(何だ……何かを伝えたいのか……?)
「どうした主? 難しい顔をしたりして……」
「いや……済まん……」
星の返答にそう返す将和であった。そしてその言い拭えない不安は的中してしまうのであった。数日後、伝令が慌ただしく将和の幕舎に駆け込んできたのだ。
「伝令ェ!!」
「何事か? 士燮が動いたか?」
「違います!! 某は呂布隊からの早馬でございます!!」
「恋から? 何かあったのか?」
「はッ、揚州の孫策が動きました!! 総勢10万程が揚州から進軍し南陽城を攻撃中との事です!!」
「な、何ィッ!?」
「孫策………」
伝令からの報告に将和も思わず床几から立ち上がる程であった。その横では王双が記憶を探ろうとしていたが出てこなかったので諦めていた。
「それで南陽城は?」
「現在は防戦中との事!! 我々の下に早馬が来たのは3日前です、某はそのまま此方に駆け込んで来ました!!」
「主、此処は戦線を離脱しましょう!!」
「待て!! 此処で先に我々が引けば蒼梧郡を攻略中の隠達に全ての被害を受ける事になる。同時に撤退するしかない!!」
「ですが撤退をどうやって……」
「伝令、陸遜達の下へ行ってくれ!! 恐らく3日で着くだろう。そのまま撤退するよう伝えてくれ!!」
「御意!! 直ちに蒼梧郡へ向かいます!!」
将和の言葉に伝令は頭を下げて幕舎を出る。
「紫苑、悪いが撤退の指揮をしてくれ。俺は騎兵500と共に先に南陽へ戻る」
「分かりました。3日後に撤退します」
「済まん。星は紫苑の下で補佐してくれ」
「任された」
「旦那、俺は行くぞ」
「王双、お前……」
「もしかしたら記憶が戻る可能性があるかもしれない……だろ?」
「……分かった。直ちに各隊へ連絡!! 廖化にも伝令を出せ!!」
斯くして将和と王双は騎兵500を率いて先に撤退を開始するのであった。そして南陽城では残っていた守備隊3万余名が孫策軍10万から防戦していたのである。
「準備良し!!」
「放てェ!!」
南陽の城内から真桜が開発した投石機6機が次々と石を飛ばして外にいる孫策軍へ曲射の形で攻撃する。城の櫓では七乃や包達が指示を出しつつ応戦していた。
「弓隊は絶えず射撃を続けるのです!! 弩は敵の指揮官級を狙撃しなさい!!」
櫓で七乃が怒号を放つ。既に防戦は3日目になっていた。しかしながら依然として袁術軍の士気は高かった。兵士達は全て袁術のために戦っていた。また美羽も負傷した兵士達に手当てをしたりして君主としての存在を知らしめていたのである。
「真桜、貴女の武器を借ります!! 構えェ!!」
包は真桜が開発していたモノの隊を率いて城門を開かせ突撃してくる孫策軍に狙いを定める。そのモノは槍の柄に筒状の鉄器を取り付けており、その中に火薬→石の順で詰めていた。また、その鉄器の上部には小さき穴があった。
「よく狙って……撃ェ!!」
モノを持って照準をしていた兵士は火に付けた棒をその小さき穴に押し込む。その瞬間、ドンッという盛大な音と共に中に詰められていた石が発射される。発射された石は狙っていた敵兵士の胸を鎧毎貫き、敵兵士は血を大量に吹き出しながら倒れたのである。
それは一人ではなく多数の兵士達であった。
「な、何だあの槍は!?」
「槍から雷が出たぞ!!」
「オラは嫌だ!? やってられるか!?」
孫策軍の兵士達は次々と逃げ出していくが包は更に次弾装填して再度射撃をする。
「この兵器は凄い!? 将和様も何てモノを作らせたをんだ……」
包は兵士が持つ兵器ーー火槍を見て歓喜の声をあげる。コイツさえあれば孫策軍等押し返してやれる。そう思う程であった。
「火槍……銃というわけか……やはり三好という将軍は俺と同じか……」
報告を聞いた孫策軍の天の御使いである南郷一翔はそう確信する。
「あの門は避けよう。遠からず近からずで攻めて敵の消耗を導くんだ」
「御意!!」
南郷隊が包の火槍隊を受け持った事で孫策軍は他の城門への攻撃が出来た。
「報告!! 西門で奮戦していた李豊様、敵将太史慈に討たれ討死!!」
「同じく北門で奮戦していた楽就様、敵将黄蓋に討たれ討死!!」
「クッ……残るはこの東門と南門……呂布隊らが駆け付けるまで粘るのです!!」
七乃が叫んだ時、チリーンと音がした。七乃の周囲にいた兵士2人が瞬く間にやられて倒れる。
「貴女は……甘寧!?」
「……張勲、此処で死ねッ」
「大将軍!?」
「粱鋼!?」
「此処は我等で抑えます!! 大将軍は今のうちに後退を!! 我等が主君を!!」
「……スミマセン!!」
駆け付けた粱鋼の言葉に七乃はそう言って後方に下がる。しかし、その途中で粱鋼が討たれる報告を聞く。
「クッ!!」
その報告にもめげずに七乃は美羽の下に走ろうとした時、右肩に矢を受けた。
「ガッ!?」
「大将軍!?」
矢を放ったのは北門から侵入してきた黄蓋の矢であった。それでも七乃は兵士達に担がれ後退に成功する。そして野戦病院にて負傷者の介護をしていた美羽はふと後ろからの気配を感じた。背中に刃が添えられていた。
「……間者かや……」
「孫策軍家臣周泰にございます」
「ほぅ、虎牢関を占領した者の一人か。成る程の」
「……降伏を」
「……暫し待て。まだこの者達の治療が終わってならぬ」
(何という……これが袁家の惰眠を貪っていたという者なのですか……)
美羽の言葉に周泰も思わず感動すらしてしまう。そして治療が終わった美羽は全軍に布告した。
「白旗を掲げよ!! 戦はこれ以上無理なのじゃ。周泰殿、孫策に伝えよ。城兵と民の助命するならば降伏するとな」
「直ちに伝えます」
周泰は直ぐに消え孫策に伝えると孫策も了承し南陽城は袁の旗が降ろされ孫の旗が掲げられたのである。
孫策は当初、美羽を含めた者達を南陽郡から追放するという事だけであった。しかし、美羽の斬首を主張したのは張昭や南郷らであった。
「幼きながらも袁術は主君の力がある。これを放っては雪蓮の首をかっきるかもしれない(斎藤龍興の例もあるし……)」
「左様。此処で斬らねば後々の禍根が残るであろう」
「でも一翔、敵の三好ももしかしたら天の御使いなのかもしれないんでしょ? 袁術の首を刎ねたら……」
「いや、調べてみたけど三好は袁術の配下であった紀霊をも追い落としている。三好も時期を見てから袁術に反乱するのは必須だったと思う」
「うーん……」
「俺も三好将軍を説得してみるよ。三好将軍は元々呉に来たがっていたわけだし役得かも」
「確かにの。ワシの最大の過ちよ。じゃから今度は必ずにの……」
「うーん……分かったわ」
孫策は渋々ながらも美羽の斬首が決断したのである。翌日、地下牢にいた美羽は広場まで連れて来られた。広場には処刑台が設けられており南陽の民達が集められていた。
「袁術、貴女の沙汰を言うわ」
「何……?」
「袁術、貴女は斬首よ」
「なッ」
孫策の言葉に美羽は目を見開く。
「待て孫策!! 城を明け渡せば助命と了承した筈ではないのかや!? これでは約束が違うではないか!!」
「黙りなさい袁術!! 貴女を生かせば今後も孫家に歯向かう事は必須。ならば此処で禍根を断ち切らせてもらうわ!!」
そう言って孫策は美羽を無理やり処刑台に連れていき、床に座らせる。
「聞け、南陽の民よ!! 袁術の首を以て南陽は袁術から解放されるわ!!」
孫策の言葉に民達はざわめく。
「話が違うぞー!?」
「そうだ、助命の話はどうなった!?」
「袁術様が貴様らに何をしたというんだ!!」
「ッ」
民達の思わぬ反論に孫策はたじろぐがそれでも己を奮い立たせ『南海覇王』を抜く。そこへ叫ぶ声がする。
「美羽様ァ!?」
「七乃!? 包!?」
「美羽様の処刑を阻止するんだ!!」
『オオォォォォォォ!!』
残存袁術軍が美羽の処刑を知り、隠れていた場所から出陣してきたのだ。
「警備隊、迎撃!!」
「雪蓮、今のうちに早く!!」
太史慈や南郷達が防ぐ中、孫策は改めて『南海覇王』を美羽の首筋に当てる。
「最後に言い残す事はあるかしら?」
「良いのじゃな? ……妾の首を討てば孫家は滅ぶぞ?」
「それが最後の言葉かしら? ただの虚仮威しね」
そして孫策が上段に構えると美羽はスゥッと目を閉じた。
(七乃……済まぬ、最後まで妾の為に来てくれて……将和……御主には愛していると言えなかったの……いつか黄泉の世界に来た時に言わせてもらうのじゃ……)
そして『南海覇王』が振り下ろされた。
(将和ッ)
その時、広場にいた者達の時は止まったかのように思えた。孫策が振り下ろした『南海覇王』は美羽の首を綺麗に斬り、美羽の長い金の髪がハラハラと舞い上がる。美羽の頚がドサリと床に落ち、その拍子に将和から貰い髪留めと一緒に指していた紫の簪が宙に舞い、カチャンとバラバラに落ちたのである。
「ぁ……ぁ……………ぁぁぁッ………………………アアアアアアアアアアッ!? 美羽様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
広場に七乃の絶叫が響き渡るのであった。
御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m
横山三国志も基本的に首跳ね祭り状態だから