百鬼夜行と同時に夏油傑は高専に襲撃をかけた。乙骨憂太を殺して特級過呪怨霊『祈本里香』を手に入れるためだ。彼は乙骨との戦闘で特級仮想怨霊『化身玉藻前』を出しているが、その力を振るわれることはなかった。直後に発生した夏油の『うずまき』と乙骨の呪力砲の衝突の結果、後者が押し勝ち、それに巻き込まれる形で化身玉藻前も消滅したからだ。
後に乙骨は疑問に思う。なぜ夏油はわざわざ玉藻前を出したのか。うずまきの材料として使い潰したくなかったのだとしたら、あの呪霊には一体どんな術式が刻まれていたのか。しかし、結局いくら考えても分からなかった。その真意を問いただす相手はもう死んでいるのだから。少なくとも彼はそう思っていた。
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獄門彊が発動したことによって拘束されてまさに封印される直前の五条悟、その前には親友の亡骸を利用した術師───偽夏油とでもしよう───がいた。
「いつまでいい様にされてんだ傑」
彼は親友の肉体にそう呼びかけるが、偽夏油には何の変化もなかった。
「悟、そんなところに私はいないよ」
そんな時、彼は後ろからそう言われた。
「は?」
「どうなっている・・・?」
振り返って声の主を見た五条は困惑した。偽夏油も同様に目の前の光景を疑っている。
「偽物に負けるとは情けない。君らしくないじゃないか」
「すぐ、る・・・?」
「それ以外の誰に見える?」
そう。その人物は夏油傑の姿をしていた。顔立ちや体格、着ている服の何から何まで偽夏油と同じだったが、たった一つだけ───額に縫い目がないという点が違った。六眼に映る情報はまたもや目の前の人物を夏油だと言っている。しかし、だとすると偽夏油の存在に説明がつかなくなる。
「君は、誰だ?」
「君こそ誰だ。私の身体を好き勝手に使って、あげく私の『家族』まで利用した。この罪は重いぞ」
「ははっ、なかなか真に迫まった演技だ」
夏油(?)の怒りのこもった言葉に対し、偽夏油は笑いながら遠回しに『そっちだって偽物だろ?』と伝えている。どうやらすでに相手が何かしらの術式で夏油に擬態した者だと断じているようだ。それもそのはず、偽夏油が使っているのは本物の肉体だ。それに加えて、体を乗っ取った時には肉体の持ち主の記憶が流れ込む。彼───少なくとも見た目は男性───には本物がすでに死んでいるという確信があった。
「違う」
その考えを否定したのは五条だった。
「なんだよ・・・死んでなかったのかよ、傑」
その言葉には隠しきれない嬉しさが滲み出ていた。
「何を言っているんだ。私は一度は死んだ。それは君が一番分かっているだろう?」
呼び覚まされる去年の12月25日の記憶。五条は自分の思いの丈を親友に告げた後、その息の根を止めた。六眼で確かめたのだ。間違いなかった。
「私としては君に殺されるのも一つの良い終わり方だったんだけど、その前に保険を作ってしまっていたからね」
「保険・・・?」
「私自身の呪物化さ」
「やれやれ、とんだ茶番だ。五条悟、私の時は君の魂が否定してるだの何だのと言っていたが、今回は見抜けないのかい?夏油傑は呪物化の方法なんて知らないよ」
「君は私の記憶を持っているんだったね。だったら特級仮想怨霊『化身玉藻前』の術式を知っているかい?」
「
「やはり警戒しておいてよかったよ。術師の死体なんて情報の山だ。私としては硝子以外に解剖されるのはごめんだったけど、悟は変に気を回すからね。だから私は事前に自身との縛りを結んでおいた」
「『私が死んだ時に肉体が保有している記憶の一部を消す縛り』。具体的には玉藻前の情報や私の高専時代の記憶だ。君の杜撰な猿真似もそのせいかな。本当は死体から記憶を読み取る系統の術式を想定していたんだけど、こんな形で役立つとは思わなかったよ」
「だとすると、君の言う玉藻前の術式が呪物化というわけか」
「ネタばらしはもういいかい?悟も窮屈そうだし、同じ顔が2つ並ぶのもあまり良くない」
「復活する方法を用意していたことには驚いたが、君では私に勝てないよ。術式も同じ、肉体のスペックも同じ。だが、君とは生きてきた時間が違う」
「これだから老人は嫌だね。術式の扱いが私よりも達者なのはそうかもしれないけど、だからって私の完全上位互換みたいに宣うのはやめてほしいな。君と私は顔が似ているだけの別人だ。これからそれを証明してあげよう」
「君のポテンシャルを十分理解した上で言っているんだけどね。呪霊だって手持ちが少ないだろう?」
「そっちと比べたらそうだろうね。でも、分かってるだろ?最後に物を言うのはフィジカルだ」
「違いないね」
「お一い、傑。自分の偽物を倒すのはいいけど、俺のこと忘れてない?」
「忘れてないよ。君の封印はちゃんと解くさ。あれを使うのはちょっと気分が悪いけど」
「あ一あれな。俺も昔グサグサ刺されたから、あれで助けられるのはなぁ・・・」
「文句言うなよ。君があんな厳重に封印したせいで、見つけるのに相当苦労したんだけどね。ミゲルなんて2週間は寝込んでたし」
「まあいいや。じゃあ、あとは任せたよ、親友」
「あぁ。問題を片付けた後でまた会おう」
「獄門彊、閉門」
その言葉が呼び水となって、五条悟の封印が完了する。今はルービックキューブのような箱の中だ。
「会話が終わるまで待ってくれるなんて、意外と気遣いができるじゃないか」
「最後に会話させてやろうと思ってね。何しろこれから君は死ぬんだから。肉体の強度を上げてきたんなら都合がいい。今度はそっちの体をもらうとしよう」
「君の方こそたくさん呪霊持ってそうじゃないか。全て私がいただくよ」
続きは虚式「茈」で消し飛ばされました。
夏油が復活してから何をやっていたのか、メロンパンに勝てるのかなどについては想像にお任せします。ただ一点、この場には真人と漏瑚がいたはずなんですけど、何で出てきてないんですかねぇ?
あれ?タイトルの特級呪物『夏油傑の変な前髪』出てなくね?