長門は陸奥の運転で、バルベルデ行きの飛行機の発着する国際空港に向かった。
「乗り込むまではRJが見張ってる。飛行機の中では北方棲鬼が着陸まで一緒よ。わかってると思うけど、2人からの連絡が途絶えたら、娘は死ぬわ」
長門が車から降りると、陸奥はそう言った。アイロン台やまな板を髣髴とさせる独特のシルエットの少女と、真っ白い少女が長門の後ろに立った。陸奥が車に戻ろうとすると、長門は陸奥に質問を投げかけた。
「赤城にいくらもらった?」
「10万ドルPON!ともらったわ・・・けれどながもん、あなたを打ち殺せといわれたら、ただでも喜んでやるわ」
陸奥はそういって挑戦的に嗤った。長門はムッときて掴みかかろうとするが、北方棲鬼に腕をつかまれて止められる。
(・・・力が強い、だがかわいい・・・)
握力は化け物じみている(普通の人なら腕の骨が粉々になる力でつかまれている)のだが、上目遣いで見つめられると、子供好きの長門はつい心揺さぶられてしまう。だが、妹の陸奥が言いったことには悔しさを感じているので「必ず戻ってくるぞ!」と言ってやった。
「・・・ながもん、楽しみに待ってるわ!」
陸奥はどこか期待しているような様子で、車に戻っていった。
「遅れんで、急ぎぃな」
空港の手続きで忙しい長門や北方棲鬼を尻目にRJはずんずん進んでいったり、時折長門に話しかけたりした。
「陸奥とは姉妹艦やそうやな。うちはほっぽちゃんとは・・・んーと、腐れ縁やけど、姉妹とかおらへんから、ちょこっと憧れるわ」
今の長門と陸奥の関係を見れば明らかに的外れな発言だが、RJは気にせず喋り続ける。そうこうしている内に発着ロビーまで着いてしまった。
「ほな、気ぃつけていきな。ええ旅を。・・・そな硬くならんでええって、ビールでも飲んでリラックスせぇな。娘の面倒はウチがしっかり見といたるからな」
ゲス笑いをしながらRJが言うと北方棲鬼も真似して笑う。ほっぽちゃんの将来が心配である。長門は無駄話に付き合わされた礼とばかりに、全身から殺気を漂わせて
「面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる」
と言いうと、北方棲鬼に促されて飛行機に入っていった。
「・・・・・・行ってらっしゃい・・・」
RJはもともと無い胸がさらに無くなったかのような真っ青な顔をして、旅立つ長門を見送った。
「ファーストクラスのAです。・・・・・・同じく7列目のBです」
飛行機に乗り込むと、ちょっと気の弱そうなCAさんが席まで案内してくれる。
「かわいらしいお子さんですね」
CAさんが北方棲鬼に言うと、北方棲鬼は「コドモアツカイスルナ!」と頬を膨らませてぷんぷんと怒った。かわいい。長門もふざけて、
「すまない、手荷物といってほしかったようだ」
といって北方棲鬼を椅子に座らせてあげた。
「コンドヨケイナコトイッタラソノクチヌイアワスゾ・・・」
北方生気は恨めしそうにそういった。長門は軽く無視しながら脱出方法を考えて、CAさんに毛布と枕を用意してもらってから、周囲を確認した。
(誰も見てないな、いまなら・・・)
北方棲鬼は拗ねて窓のほうを向いている。今なら首をへし折ることくらい簡単だ。長門は静かにすばやく北方棲鬼に腕を回すと・・・
「さっきは悪かったな。お菓子一緒に食べないか?」
ほっぽちゃんをひざの上に乗せて間宮羊羹を取り出した。ほっぽちゃんは相変わらず不機嫌であったが、羊羹を一口食べると目をきらきらさせた。
「ウマイゾ!モットオイテケ!」
「いくらでもあるぞ、そうだ、手遊びもしよう。それとも、昔話がいいか?・・・・」
「ワーイ!」
30分後
「ご搭乗の皆様、当機はこれより滑走路へ向かいます。お手荷物は上部の棚におしまいになり、シートベルトをお締めのうえ、お煙草は今しばらくご遠慮下さいませ。機が所定の高度に達しますと、お好みのお飲み物のサービスがございます。しばらくいたしますと、お食事、続いて機内映画を上映致します」
「そして集められた各国の船たちは・・・ん、もう眠ってしまったか」
長門の隣で毛布に包まってほっぽちゃんはぐっすり眠っていた。長門も伊達に一児の母ではない。うまくほっぽちゃんの機嫌を取りつつ、お遊びをして疲れさせ、昔話を聞かせて眠らせてしまった。かわいらしい寝息を立てているほっぽちゃんを横目に長門は席を立った。
「本日皆さんをお世話するスチュワーデスは、妙高、那智、羽黒です」
「失礼」
長門はさっきのCAさんに話しかける。
「なんでしょう?」
「飛行時間はどれくらいかかる?」
「11時間を予定してます」
「そうか。それと、連れを起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる」
長門はほっぽちゃんを指して言った。気持ちよさそうに寝ているほっぽっちゃんを見てCAさんはよくわかった様子で
「はい!かしこまりました!」
といった。それを確認すると、長門は機内をずんずん進んで言った。それに気づいたCAさんの一人が止めようとしたが、気分が悪いと言って通過すると、密かに気密室外に出て、離陸中の飛行機の脚に掴まった。
「とう!」
飛行機が離陸すると、長門は滑走路外の海に飛び降りた。無事浮き上がって滑走路に進入すると、そのまま建物に向かって走り出した。
長門が幼女の首をへし折るなんて想像できなかった。