仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral   作:大ちゃんネオ

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Dark Side

 叶えたい願いがあるのなら、このデッキを手に取りなさい石墨彩果。

 最後の一人になれば、どんな願いも叶えてあげましょう。

 

 

 なんて、詐欺のような。

 そんな甘言に踊らされるわけ、ない。

 そう、思っていた。

 身体が、本能が欲した。

 どんな願いも叶えるという力を。

 だから、私はライダーになった。

 馬鹿げている。

 無数の少女達の命を引き換えにどんな願いも叶えるなど。

 馬鹿げている。

 そんな幻想を信じて、仮面ライダーアロメダとなって戦いに挑んだ自分も。

 だからせめて、他のライダーの命を奪うことだけはしないと誓った。

 意外と才能があったのか、今日まで生き延びて三人のライダーのデッキを回収することが出来た。

 しかし、ライダーの数は私の想定以上に多く、私が殺さないようにしたところで犠牲者は増える一方。

 せめて、一人でも生き延びる人がいてくれればいい。

 そんな願い、最早通じない段階まで来てしまったのかもしれない。

 

 上下左右コンクリート造り。

 無数に並んだ自動車。

 地下駐車場に響く、戦いの音。

 

「喰らえ!」

 

 百足のような剣が勢いよく振るわれる。

 当たれば大ダメージ。しかし、振りが大きければ避けるのも容易い。

 後方へと飛び退き剣を回避すると、両手剣の切先がコンクリートの柱を砕いた。その隙に双剣を握り締め再び距離を詰める。

 こちらの武器はシャチの背鰭のような形状の双剣。

 リーチと威力は敵、仮面ライダーテレドラに軍配が上がるが取り回しの良さと速さで言えば私に分がある。

 小柄な体格にあった戦法でよかった。

 私にはテレドラのような体格の良さがない。ライダーになってもパワー勝負はごめんだ。

 

「はっ!」

「ちょこまかと……!」

 

 あの剣の間合の内側に入ってしまえばこちらのもの。

 間合の内側に潜り、テレドラに何もさせない。

 鋭い斬撃を浴びせ続け、ダメージを与えていく。

 

「チッ! しつこい!」

「くっ!?」

 

 攻撃力の低さが仇となる。

 テレドラは手甲で刃を受け止め攻撃のリズムを狂わせると剣を握り締めたままの右の拳で仮面を殴り付ける。

 脳が震える。

 いいのを、もらった。飛びかける意識を繋ぎとめ、よろけた足を確実に地面につけて踏ん張り、耐える。

 続く攻撃が何かと目を逸らさずに見つめ続けたおかげで、横薙ぎに振るわれた剣を双剣で受ける。

 だが、威力が凄まじい。

 まともに受けるのではなかった。

 両手が痺れ、双剣を握る力が保てない。

 

「おらっ!」

 

 力任せの前蹴りが腹部を蹴飛ばす。

 中のものを吐き出しそうになる感覚に襲われると、今度は背中に強い衝撃。

 駐車してあったバンに思い切り背中を打ち付けたのだ。

 

「はあ……はあ……」

「おっと、やりすぎちゃった~。メンゴ~」

 

 愉しげに言い放つテレドラにはもちろん謝罪の気持ちなど一切入っていない。

 当然だ。

 彼女はライダーとしての当たり前を実演しているのだから。

 

「……お前は、アリスから私を殺すよう指示されたのか。神前を殺した時のように」

 

 確証はないが、そうなのだろうという推測は出来た。

 神前が死んだ時の状況は異様で、アリス本人も現れた。

 何か理由があって、アリスにとって神前が不都合だったから殺されたと私は推測していた。

 

「ん~? 鋭いなぁ、半分は正解だよ」

「半分……?」

「アリスに頼まれたは正解だけど~。殺せってのは違うんだよね~」

 

 殺せという指示ではない?

 どういうことだ。

 まるで理解が出来ない。

 不都合なら消せばいいだけの話を、殺さないとは。

 

「頭良くても流石に混乱するよね~。アタシも聞いた時は意味分かんなかったし。でもま、面白そうだったしね~。ななるも死んじゃったみたいだし、暇になっちゃったからさ~」

「何をする気だ……!」

 

 ふぅん……と息を鳴らすと、テレドラは語り始める。

 

「石墨彩果。17歳。中学は青葉の成績優秀ちゃん。そんなのがなんで聖高にいるのか。いいとこ行けるはずなのにね~」

「……! お前……!」

「調べたよ、あんたのこと」

 

 やめろ。

 

「あんたは勉強が出来ても融通が利かないタイプで、教師からは好かれても同級生達とは反りが合わなかった」

 

 やめろ。

 やめてくれ。

 

「でも~そんなあんたのことを気に入ってくれた先輩がいた」

「やめろ!」

 

 その口を塞いでやる。

 今すぐ、今すぐにだ。

 

「おっと。まあまあ聞いてって、間違ってたら訂正してくれていいからさ~。最後まで聞いてからだけど」

 

 殴り付けた拳を容易く受け止められ、捻り上げられる。

 耳元で、聞きたくもない話を囁かれ続ける。

 

「あんたと同じ生真面目な人だったんだね~。成績優秀、品行方正。アタシとは正反対だウラヤマシイ~」

「離せッ!」

「はいはい慌てなくても話しますから。んで、その先輩が三年の頃。受験だねぇ、志望校に行きたいねぇ、大事な時期だね~ってストレスで押し潰されそうになっていた! タブンネ。ここはアタシの妄想~」

 

 そんな、冗談交じりに話すな。

 あの人のことを。

 私が、したことを。

 

「受験勉強のストレスで先輩は~魔が差してしまったんだろうね~。成績優秀、品行方正、みんなの模範のような先輩さんは、やっちゃったんだね。万引き」

 

 心臓が、大きく跳ねたような止まったような。

 生きた心地がしないとは、このことか。

 本当に、この女は……全てを、知って……。

 

「先輩の万引きの現場を見たんでしょ、キミ」

「……」

「見逃してあげればよかったのに」

 

 あ、駄目だ。

 全部、知られている。

 

「融通の利かないあんたは先輩のことを糾弾した。もちろん、店にも言って警察にも連絡がいった。その結果、先輩は~……アレ、ドウナッチャッタンダッケ? 教えてくれるカナ?」

 

 ……言えない。

 言えるわけがない。私の口から、あの時のことを。

 言える、わけが。

 

「……アーオモイダシタ! 推薦も取り消されて、なにもかもパーになって、自殺、したんだよね」

「うっ……!」

「おいおい吐くなよ。仮面の中で吐いたら悲惨だゼ」

 

 身体中がおかしい。

 身体の中、全部かき回されてるみたいで、汗をかいて暑いのか寒いのかも分からない。

 

「つまりあんたは、慕ってた先輩を自殺に追い込んだってわけだ。そんで、聖高に逃げたと。青葉にいたやつが来るわけないしな」

「わた、私は……」

 

 受け止めたと、思っていたはずなのに。

 もう自分の中で整理をつけたと思っていたはずなのに。

 他人から過去を掘り起こされたことで、こんな風になるなんて。

 

「そんなあんたの願いは先輩を蘇らせることとか? あん?」

「ッ! そのカードは!」

 

 いつの間にか、テレドラはカードをデッキから引き抜いていた。

 私のデッキから、メモリアカードを。

 

「Changeling……? 変わりたいってコト?」

「……そうだ。もう、こんな私は嫌だ……また、まだ、誰かを傷つけているかもしれない私が……。だから、私は……!」

 

 そうだ、願いを叶えて変わるんだ。

 私は、私は!

 

「ふぅん……じゃあ、変われば」

 

 蹴飛ばされた私がテレドラの方を向くのと同時だった。

 両手で引き裂かれる、メモリアカード。

 

「あ、あ……ああ!」

「メモリアカードが破れた時、願いは反転して振りかかる……だっけ。どうなるか見物だね」

 

 薄れていく意識、とも違う。

 裏返っていく意識。

 オセロがひっくり返されるように、何かが、表層となって────。

 

「────」

「おーい。何か変わった?」

「……あは」

 

 目の前の敵にドロップキックをかます。

 ああ、ああ、さっきはさんざんやってくれた。

 殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。

 殺してやる。

 

「ってぇな……!」

『役目は終わりですテレドラ。下がって結構ですよ』

 

 何処から現れたのか、尻餅をついたテレドラの前にアリスが現れる。

 

「アリス……。はいはい。帰りまーす」

 

 これ以上ここにいる意味はないとテレドラは立ち上がり、その場を後にした。

 アリスはアロメダと向かい合い、満足気に微笑む。

 

「善であることに縛られていた者が悪に堕ちる。程よく、ライダーバトルをかき乱してくださいな」

 

 影の中に立つアロメダを見つめるアリス。

 ただ一つの願いのため、一人の少女がアリスの駒となった。

 

 

 

 

 

 ライダーの戦いは続いていた。

 更に加熱したと言ってもいいだろう。

 ライダーの数は残り少なく、戦いの終わりが見えてしまったというのが原因だろうか。

 今もこうして、廃工場の中で怒声と鋼がぶつかり合うような音が響いている。

 

「たあっ!」

「チッ!」

 

 銃声。

 黒一色のライダー、仮面ライダーカノンは召喚機でもある銃のトリガーを引く。

 迫る黄と黒の警戒色。スズメバチを思わせる意匠のライダー、仮面ライダースティンガーは左手に盾を構えて弾丸をものともせず突進。

 スズメバチの頭のような盾は火花を散らし、カノンへと距離を詰めていく。

 

「らあッ!!!」

 

 零距離。

 カノンへと、スティンガーの拳が。いや、拳よりも凶悪。スズメバチの身体を模した手甲は隠していた鋭い針を剥き出しにし、カノンを貫かんとする。

 絶対絶命のカノン。

 そこへ、風を切る音。

 回転する白刃がスティンガーの手甲を弾き、怯んだ隙にカノンはスティンガーを蹴飛ばし距離を取ると銃口を向ける。

 だが、再び風を切る刃が飛来し銃を弾く。

 

「なんだ!」

「チッ……ツルギか」

 

【SWORD VENT】

 

 カノンとスティンガーの目に映る、白き剣士の姿。

 飛来してきた太刀を掴み取り、だらりと鋒を地面に垂らし靴音を響かせ歩む、仮面ライダーツルギ。

 その白亜の姿はライダー達にとって死神のように映っていた。

 

「優雅に歩きやがって!」

 

 機敏に動き、カノンは地面に落ちた銃を拾い上げてツルギに向かい発砲。

 放たれた銃弾を、埃を払うような軽やかさで太刀を振るい弾く。

 

「銃は剣より強いんじゃねえかよ……」

「戦いをやめてください」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」

 

 スティンガーが怒気を纏いツルギに向かう。

 勢いよく殴り付けた拳は容易く受け止められ、押し返されスティンガーは下がる。

 

「瀬那!」

 

 仲間のピンチに身を潜めていた白と黒のライダー、仮面ライダージャグラーが現れる。

 カノンとの戦いで奇襲を行うためであったが、カノン以上の脅威の襲来にジャグラーは鞭を振るった。

 鞭の先がツルギの左手首に巻き付く。動きを封じることに成功したとジャグラーは仮面の下で得意気な笑みを浮かべるが、次の瞬間にはジャグラーの予測を超えた事態となる。

 突然、前のめりになる視界。

 バランスが崩れ、足に力が入らずピンと張っていた鞭が弛む。

 

「うわぁっ!?」

 

 何が起きたか。

 ツルギが単に鞭を引っ張っただけである。

 力比べに敗北したジャグラーは転倒。ツルギは無言で巻き付いた鞭をほどき、雑に投げ捨てた。

 

「てめぇ!」

「やめろ。お前達は僕には敵わない」

「んだと!」

「瀬那!」

 

 激昂するスティンガーだが、立ち上がったジャグラーが首を横に振ったのを見て、滾らせた怒りに蓋をした。

 とはいえ、まだ煮たっている怒りは吹きこぼれている。スティンガーは足元に転がっていた廃材を乱暴に蹴り飛ばした。

 カノンはいつの間にか撤退したようで、スティンガーとジャグラーもまたミラーワールドからの退去を決める。

 ツルギを横目に舌打ちし、いつかその涼しげな仮面をぶち壊してやると決意した。

 

「……行った、か」

 

 三人のライダーがミラーワールドから出ていき一人残ったツルギはそう声を洩らした。

 夕花の死から数日、ライダーバトルを止めるためにこんなことばかり続けている。

 廃工場の地面に散乱するガラスから現実世界に戻った燐は影のある表情のまま歩いた。金網のフェンスを揺らし、たった一人で。

 

「止めるんだ、絶対……。こんな戦い……」

 

 誰に聞かれるでもなく、自分自身に言い聞かせる。

 だが、決意とは裏腹にライダーバトルは加熱している。そして、なにより手っ取り早くライダーバトルを終わらせる方法としてデッキを壊せばいいものを壊せずにいることが燐の心に影を落とす。

 デッキさえ破壊すれば、戦う手段はなくなる。

 ミラーワールドを認識することも出来なくなる。

 強制退場してしまえばいい。

 

 けれど。

 思い出すのは黒峰樹の末路。

 彼女は自ら死を選んだ。

 それはきっと、どんなことをしてでも叶えたい願いがあるというのに、そこに至る方法すら奪われた絶望によるもの。

 それからもう一人、デッキを破壊した人がいた。

 仮面ライダーヘリオス。

 久遠綾姫さん。

 彼女はデッキを破壊された後、仲間の黒いライダー、ウィドゥに連れられていった。

 それ以降、彼女は行方不明らしい。

 学校にも来ない。

 家にもいない。

 仲間のウィドゥ。あれはきっと久遠さんといた氷梨麗美さんと思われる。

 彼女も久遠さんと時を同じくしてから学校に来ていないらしい。

 彼女のデッキは破壊していない、が。

 彼女達の身にも何か起こったのかもしれない。

 

 それを思うと、デッキを壊すことが怖い。

 どれだけ決意しようと、やはり怖いものは怖いのだ。

 

 デッキを壊すのは少女達の願いを殺すことと同義。

 願いのために他者の命を奪い、己が命を天秤に乗せた少女達にとって願いとは、命だ。

 願いを殺せば、彼女達も死ぬ。

 この戦いで誰も死なせたくないのに、戦いを止めようとすることは彼女達を死なせるようなこと。

 どうすればいい。 

 どうすれば、平和に終わらせることが出来る。

 

「あ……」

 

 ふと、そんな声が目の前からした。

 顔を上げると、玄汐夏蜜柑さんがいた。

 手にはエコバッグだろう。緑色の袋からは、ネギが顔を出していた。

 買い物帰りらしい。

 うちの学校の指定ジャージの臙脂色のハーフパンツに白い半袖のTシャツに少し使い込まれたようなスニーカー。

 とてもラフな格好である。  

 恐らく家が近所なのだろう。

 

「屈辱だわ……バイトしてるところだけじゃなく、こんなところまで見られるなんて……」

「……いや、うん。えらいね、おつかい」

「おつかい言うな! ……それより、どうかしたの。陰気な顔して。私の囲いの陰キャより陰気よ、今のあんた」

「別に、そんな大したことじゃ……」

「……今からちょっと、時間ある?」

 

 そう誘われ、近くの公園のベンチにエコバッグを挟んで座った。

 どこか寂しい公園で遊具は錆びが多く、雑草も伸び放題だ。あまり、ここを使う子供はいないのだろう。

 

「大丈夫? 冷蔵庫に入れなきゃいけないものとか……」

「生ものはないから平気。で、何よ。大方、ライダーバトルのことでしょうけど」

 

 ……バレてるか。

 当然だろう。彼女もライダーだったのだから。

 僕は彼女からデッキを奪った。

 恨まれて当然と思っていたが、そういう雰囲気は感じないのが不思議だ。

 

「ま、デッキをあんたに渡した私からすれば関係ない話でしょうけど」

「渡したなんて、そんな。僕は、夏蜜柑さんからデッキを奪った……」

 

 僕がそう言うと、夏蜜柑さんの目が鋭いものに変わった。

 声も一段と低くなり、怒っていた。

 

「なに? 私からデッキ奪ったって後悔してるっての? ふざけんなよ」

「夏蜜柑、さん……」

「後悔なんてしたら許さない。……私、あんたに感謝してるんだから」

 

 感謝。

 まったく予想外の言葉に、思考が止まる。

 感謝されるようなこと、僕はしていない。

 泣く彼女からデッキを、願いを取り上げたのだ。恨まれるのが当然だ。

 感謝なんて、あり得ない。

 

「……そりゃ、最初は確かに恨んだりしたけど。デッキをあんたに渡してから気づいたわ。ライダーバトルやってた時の私は常にピリピリしてて、弟達から怖がられてたみたい。母さんにも心配かけてたみたいだし。お金さえあれば家族みんなで仲良く一緒に暮らせるって思ってたけど、そのために家族の雰囲気壊してちゃ元も子もないわね」

「夏蜜柑さん……」

「それに、ライダーバトルをやめたおかげでバイトのシフトも増やせたしね。ライダーバトル中はあんまシフト入れなかったから苦労してたのよね~」

 

 つけ足すように話した言葉は照れ隠しだと分かった。

 ほんのりと頬が赤くなっている。

 ただ、なによりも。

 憑き物が落ちたような夏蜜柑さんの顔は、綺麗だった。

 

「だから、ね。後悔なんてしないで。あんたはきっと、正しい。私にしたみたいに、堂々とデッキ渡せって言えばいい。あんたなら出来るわよ。青瓢箪のもやしっこみたいな見た目のくせにやたら強いんだから」

 

 あ、青瓢箪のもやしっこ……。

 放送部だからだろうか、なかなか語彙が豊富だ。

 しかし、普段のあのキャラでは青瓢箪なんて言わないだろうから素の言葉だろう。

 

「……出来るかな、また」

「出来るかじゃなくてやんなさい。私一人だけあんたにデッキ渡したって、なんか癪だもの。他にもあんたにデッキ渡した奴等で被害者の会作ってやるんだから」

「ひ、被害者の会……?」

「そう。デッキ渡した代わりに、あんたには言うことなんでも聞くぐらいしてもらわないと」

 

 いい笑顔で冗談めかして言うが、言うことなんでもはいささか恐ろしい。

 それでも、きっと今よりはマシだろう。

 無理難題でも、笑ってなんとか出来るような、いつかあんなことがあったねと思い出せるような、そんな無理難題。

 それだったら、叶えてあげたい。

 

「ありがとう、夏蜜柑さん。まだ全部ってわけじゃないけど、心が軽くなった気がする」

「そう? まあ気負わずにね。なんかあったら話聞くぐらいはするから」

「……優しいね、夏蜜柑さんは」

 

 僕を見つめる目を見開いた夏蜜柑さんは正面を向くとトンと軽快に立ち上がった。

 そして、作った笑顔と高い声でこう言った。

 

「……え~? なっちゃんのこと、意地悪な人だと思ってたんですか~? なっちゃん、ショックだな~」

「そっちのキャラより素の方が好きですよ」

 

 本心を言うと、夏蜜柑さんは腕を組み呆れたような目で僕を見た。

 

「……あんた一回は刺されときなさい。女に」

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴羽の母が営むスナックに愛舞穂は忍び込んでいた。

 鍵の入ったキーボックスの番号は知っているので容易く侵入出来た。元々、金もなくどこへ行く宛てもないときはここで適当に時間を潰していた身。スナックの営業が始まる前に出ていけばいいのだが、先日から鳴羽が行方不明となっているためスナックは休業となっている。

 

「は〜死んだか〜鳴羽〜。つまんねえよ〜」

 

 ソファにどっかりと座り、一人言にしては大きな声で言う愛舞穂だったが、誰に開けられることもないはずの扉が開く。

 鳴羽の母でも来たかと目を向けるが、現れたのはまったく予想していなかった人物。

 

「金草〜? 何の用? 就活?」

 

 金草遥。

 仮面ライダーカノンの変身者である。

 黒いパーカーのフードを取り、挑発ともとれるような笑みを浮かべて愛舞穂の冗談に付き合った。

 

「誰がスナックなんざで働くかっての。空崎、あんたに話がある」

「話?」

 

 遥はカウンターの回転椅子に腰かけ、放置されていたツマミ用の菓子の小袋を開封しナッツを口に投げ入れてから語り始めた。

 

「ライダーの数も残り少ない。ゲームで言うところのファイナルステージだ。一番盛り上がるところだよ。けど、そんな盛り上がりを邪魔する奴がいる」

「あ〜白い子ね」

「そう。目障りだからさ、みんなで潰さない?」

 

 遥の提案に愛舞穂は大声で笑った。

 

「あーはっはっはっ! マジ? らしくなくなくない? ソロが好きなんじゃないの?」

「そうだけど、そうも言ってられないっていうか? ツルギ、あいつはヤバイ」

 

 それには愛舞穂も同意した。

 実際に剣を交えて、その異質さを理解していたからだ。

 

「今のライダーで最強なのはあいつだろうね。それが正統な最強ならアタシも攻略にマジになれる。でも、あいつはゲームで言うところのバグだ。バグは取り除かないとだ。でも、アリスはなんも対応しない。だから、ウチらでやろうってわけ」

「なるほどね〜。ま、いいんじゃない? 協力するよ」

 

 あっさりと快諾されたことが意外で遥は一瞬目を見開くが、すぐに細めて好戦的な笑みを浮かべる。

 舞台の役者は着々と揃いつつある————。

 

 

 

 

 

 

「ふふん。結構大きな舞台だねぇ」

 

 聖山市を見下ろす月山展望台。煌々と輝く夜空と街を見下ろす銀髪の少女、喜多村遊が風に靡く髪をおさえながら楽しげに呟いた。

 

「ゲームのファイナルステージは盛り上がった方がいいじゃん?」

「でも〜……そんな舞台にワタシいないじゃん!?!?!? ズルいぞ皆だけで楽しもうなんて!」

 

 喜多村遊。絶賛、デッキを学校の風紀委員に没収されている真っ最中。

 このニュースはライダー達によって一斉に拡散された。

 あの喜多村遊が、まさかの脱落か!

 ライダーである少女達は嬉々としてこの話を他のライダー達に伝え、最終勝者候補が消えたことを喜んだのだ。

 しかし、金草遥は違った。

 強者のいないゲームなどクソゲーにも劣ると。

 

「まあまあ。待ってろって、舞台はちゃんと整えるから」

 

 密かに、そして確実に整えられていく戦いの舞台。

 終焉。

 戦いを止めたいと願う少年の意志とは裏腹に、終わりへと向かいつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校はいつも通りの日常を感じられて心穏やかに過ごせて良い。

 とはいえ、聞こえてくる会話の中には不穏なものがちらほら。

 

「闇バイトやばいよな」

「お前引っかかりそうだもんな」

「3年の夏音鳴羽って人の遺体、全然見つからないんだって」

「イシズミって先輩も行方不明らしいよ」

 

 イシズミ……?

 

「それ! 本当?」

 

 立ち上がって訊ねる。

 予想外のところから話題に食いつく者がいたので、話をしていた女子は驚いた様子だった。

 それに申し訳なくなると同時にクラス中の視線を集めたことで恥ずかしくもなる。

 

「御剣くん、その人と知り合い?」

「あ……うん。そうだよ」

「そうなんだ……。なんか、昨日から帰ってないんだって。家出とかかもしれないけど……」

 

 家出かもしれないというのは、ちょっとした僕へのフォローだろう。行方不明者が多発している今の聖山市で行方不明になるとは、つまりそういうことだろう。

 なにより石墨さんはライダーだ。

 恐らく、誰かにやられたのではないだろうか。

 

「くそ……」

「御剣くん……? 大丈夫?」

「……平気だよ」

 

 ありがとうと言って席についた。

 左を向けば窓ガラス、鏡。

 早く、止めないと。

 でも僕一人だけで出来るのか?

 美玲先輩……は叶えたい願いがあると言っていた。

 ライダーバトルを止める手伝いはしてくれないだろう。

 でも、嫌だ。美玲先輩が戦うなんて。

 もし、もしも美玲先輩が死んでしまうなんてことになったら、僕は……。

 そうだ、美玲先輩を守るためにも止めないと。

 これ以上、誰も死なせたくない。

 絶対に、絶対に止めてやるんだ。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 行方不明者多発に伴い、部活動は中止。

 速やかに下校するようにと指示が出た。

 教室から出ていくクラスメイト達は早く帰れる分、これから何をしようかと話している人が多い。

 出来る限り、家など安全な場所にいてもらいたいのだけれど。

 いや、家も安全ではないのか。

 鏡がある限り。そこはミラーワールドの入口なのだから。そして普通の人間に出口は用意されていない。

 それが、ミラーワールド。

 ライダーバトルもそうだが、モンスターのことも考えなければいけない。そもそも、ミラーワールドとはなんなのか。

 ミラーワールドさえなければ、こんなことには……。

 

「……僕も帰ろう」

 

 街中を歩いてライダーがいそうな場所や人間を襲おうとしているモンスターを探そう。

 カバンを肩に提げて、教室を出る。

 昇降口を目指して歩いていると、後ろから声をかけられた。

 振り向くと小柄な女子が立っていた。

 二つ結びという髪型が幼い顔立ちも相まって中学生のようにも見えるけれど、クラス章は2年生のもの。つまりは先輩。

 

「御剣燐さんですか」

「そうですけど……」

「私は風紀委員の上谷真央といいます。このあと、お時間よろしいですか?」

 

 時間はよろしいけれど、風紀委員会の人が何の用だろうか。

 特に風紀を乱すようなことはしていないが。

 

「あっ、その、風紀委員会は関係ありません。すいません、つい普段の癖で……」

「いえ、大丈夫です。それで、どういう用なんでしょう?」

 

 訊ねると、上谷真央さんは水色のカードデッキを取り出して僕に見せつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんみつが三つ。

 僕の目の前と向かい側には二つ。

 上谷真央さんともう一人。丸いフレームの眼鏡におさげの女子高生。聖山高校ではない。お嬢様学校、藤花女学院の生徒だ。

 樋知十羽子さん。

 上谷さんと共に行動しているらしい。

 雰囲気は女子高生というより女学生な二人が和風の店内にいると、明治か大正にタイムスリップした気がしてくる。

 

「あなたはライダーバトルを止めようとしている。そうですね?」

「そう、ですけど」

 

 身構える。相手はライダーだ。ライダーバトルを止めようとしている僕を邪魔に思っている可能性が極めて高い。

 話をしようと誘われて、対話という滅多にないチャンスに食い付いたのはやはり失敗だったかもしれないと後悔……すると思っていた。

 

「私達もそうなのです」

「えっ」

「苦しむ少女達を救済する。貴方も志を共にする者だと思いました。少女達を救うためにも、どうか力を貸してはいただけませんか?」

 

 ……あまりのことに思考がフリーズしていた。

 まさか、僕以外にも戦いを止めようとしている人がまだ残っていたなんて。

 少女達を救済するなんて立派な目標は掲げていない僕なんかが仲間になっていいのかと思うほどだ。

 

「あの、僕なんかで良ければよろしくお願いします!」

「ふふ、よろしくお願いしますね。御剣燐さん」

 

 差し出された手。

 遠慮がちにその手を取った。女性らしい、柔らかな手であった。

 本当に、本当に嬉しい。  

 こんなに嬉しいことはない。この人達と協力してライダーバトルを止めるんだ。

 そう決意した瞬間、戦いを告げる音が鳴った。

 十羽子さんと頷き合い、急いで店を出る。

 

「二人ともお会計! ああもう!」

 

 

 

 

 少し走ると、人通りの少ない路地で女性を狙う蜂のようなモンスターが車のボディから飛び出てくる。

 モンスターに気付き、悲鳴を上げる女性。

 獲物を狩ったと確信したモンスター、だったが。

 

「らぁっ!」

 

 燐の飛び蹴りが、間一髪モンスターを蹴り飛ばす。地面を転げたモンスターは飛び出た車からミラーワールドへと戻っていく。

 十羽子が女性を立ち上がらせ急いで逃すと、少し遅れて真央が合流。

 三人は並び立ち、モンスターが逃げた車へとデッキを翳す。

 同時に巻かれる三本のVバックル。  

 

「「「変身!」」」

 

 舞い踊るライダーの虚像。

 白き剣士、仮面ライダーツルギ。

 真央が変身した青の騎士、仮面ライダージュリエッタ。

 十羽子が変身した赤の天使、仮面ライダーエクスシア。

 三人の仮面ライダーが、ミラーワールドへと向かう。

 その先に待ち受ける運命も知らないまま。

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