仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral   作:大ちゃんネオ

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Knight Conflict

 ミラーワールドの繁華街には当然ながら人間は存在しない。

 存在するのはミラーワールドに在来するミラーモンスターと仮面ライダーのみである。

 

『ギィ!』

 

 銀色の身体のクマバチの特性を持ったモンスター、バズスティンガーフロストが火花を上げて地面を転がり、ポールに背中をぶつける。

 フロストが吹き飛んできた方向にはドラグダガーを両手に構えるツルギ。フロストはツルギに怒りを抱き、両手のニードルを地面に叩き付けるとツルギへと向かい駆け出していく。

 

「……」

 

 フロストとは対照的にツルギは感情らしいものを感じさせず、ドラグダガーを手の中で回して逆手に持ち替え迫るフロストを迎え撃つ体勢。

 跳躍するフロスト。 

 右手のニードルをツルギへと向け、貫こうとする。

 

【GUARD VENT】

 

 ツルギの前に躍り出る紅い影。樋知十羽子が変身する仮面ライダーエクスシア。

 エクスシアはその背に飛来してきた天使の翼を背負うと、翼がエクスシアを覆いフロストのニードルをガードする。

 弾き飛ばされたフロストに向け、今度は上谷真央が変身する仮面ライダージュリエッタがノコギリのような刃の槍、シャークラッシャーを構えてフロストへと接近。槍をモンスターへ叩きつけ、フロストはよろめき歩を乱した。

 瀕死のフロストの目の前、突風のようにツルギが現れる。

 

「ぜあッ!!!」

 

 繰り出される、斬撃の旋風。

 無数の剣閃を刻まれ、バズスティンガーフロストは爆散。

 ツルギは慣れた手つきでドラグダガーを回しながらベルトの右と腰のハードポイントに納めた。

 そこへ、エクスシアとジュリエッタが近付き労いの言葉をかける。

 

「お、お疲れ様です……」

「流石、その名と噂に違わぬ剣の冴えですね」

「噂?」

「あら、知りませんでしたか。ライダー達の間であなたのことは噂になっています。戦いを止めようとする、やたら強い剣士がいると」

 

 やたら強い剣士という言葉が引っ掛かったツルギではあったがそこはスルーすることにした。

 

「その噂のおかげで私達は貴方に辿り着くことが出来ました。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします。一緒にライダーの戦いを止め————」

 

 そこまで言いかけた瞬間、ツルギ達の間を砲弾が裂く。

 爆破の衝撃でツルギ達は吹き飛び倒れる。それでもすぐにツルギは立ち上がって敵を警戒。

 すると、そこにはツルギも予想していなかった光景が広がっていた。

 

「今日こそ消してやるよ、バグ野郎」

 

 大きく口を開いた黒いトカゲのようなバズーカを下ろしながら、仮面ライダーカノンが言った。

 その隣には仮面ライダーテレドラ、仮面ライダースティンガー、仮面ライダージャグラー。少し下がって、若草色のスーツに白い鎧を纏った子犬のようなライダー、仮面ライダーメイサが立ち並んでいた。

 

「なんで、こんなにライダーが……」

「テメェが邪魔くせぇからだろうが」

「ライダーバトルを止めようとした罰、受けてよねぇ!」

 

 スティンガーとテレドラが叫び、各々の得物を構えてツルギへと向かい駆ける。

 ツルギは咄嗟にスラッシュバイザーを抜いて、スズメバチの身体を模した手甲で殴り付けるスティンガーを躱し、テレドラが振り下ろすムカデのような剣をスラッシュバイザーで受け流す。更に、ジャグラーが振るった鞭がツルギへと迫るが、スラッシュバイザーで鞭の先を切り裂き防御。

 今度は仮面ライダーメイサが円形の盾を正面に構えて突進してくる。

 

「……っ! やあぁぁぁ!」

「チッ」

 

 ツルギがメイサの突進を闘牛士のように寸前で回避する。だが、回避した先の正面には仮面ライダーカノンがバズーカ、ヘッドカノンの砲口をツルギへと向けて引鉄を容赦なく引いていた。

 あれに当たるわけにはいかないと飛び退いて回避したツルギの目の前に、エクスシアが立っていた。

 

「十羽子さん、今の状況はマズい! 退きましょう!」

 

 流石のツルギも多勢に無勢、十羽子や真央を巻き込むわけにはいかないと撤退するよう呼びかけた。

 しかし、エクスシアは。

 

「そうですね、まずい状況ですよね……あなたは」

「えっ……がっ!?」

 

 エクスシアは召喚し、手に持っていた剣で逆袈裟にツルギを斬った。

 突然のことに反応しきれずツルギはもろに攻撃を食らい、踊るように後退り、膝をついた。

 

「そんな、どうして!」

「最初から仲間になるつもりなどありませんでした。苦しむ人々を救済するために、ライダーバトルは必要なのです!」

 

 剣を振り翳すエクスシア。裏切りにショックを受けるツルギだが、今はとにかく生き延びることが最優先である。

 振り下ろされた剣をアスファルトの上を転がって回避し、逃げようとするがライダーの数が多い。

 ツルギは取り囲まれ、猛攻に晒される。

 

「やあっ!!!」

 

 ジュリエッタの槍を半身になることで回避しながら柄を握り、勢いを利用してツルギはジュリエッタを槍ごと投げ飛ばし、メイサへとぶつける。

 

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「真央さん!」

「なにやってんだよボンクラども!」

 

 敵軍に隙が出来たかに見えたが、まだツルギは囲まれたまま。

 即席の集団であることは戦闘の様子からツルギは察しているが、やはり数というのはそれだけで脅威だ。

 たった一人で戦うツルギに対しては。

 けれど、相手は所詮即席だとツルギは自分に言い聞かせていた。

 高度な連携が出来ているわけではない。

 特に、仮面ライダーカノンは自分自身が得意とする中遠距離からの銃撃というアドバンテージを使えないでいる。

 突破するならそこかと、ツルギは狙いを定めた。

 

「いくぞ……!」

 

 左右から迫るスティンガーとジャグラーの攻撃。スティンガーの手甲をスラッシュバイザーで弾き、ジャグラーへは左手で右腰にマウントしたドラグダガーを抜くと同時に投擲。

 回転する刃がジャグラーの鞭を先端から真二つに切り裂いていき、右肩のアーマーに直撃。ジャグラーは怯み、スティンガーが体勢を崩した今、道が開けた。

 

「っ!? やばっ!」

 

 カノンはツルギの視線がこちらに真っ直ぐ向いたのを強く感じた。

 鋭利な、切り裂くような視線。

 ツルギの太刀のような瞳が、カノンを貫く。

 咄嗟にカノンは銃型召喚機カノンバイザーを手にし銃口をツルギへと向ける。だが、ツルギの方が早かった。

 カノンが銃を手に取ることなど容易く予想出来た。

 ゆえに、カノンより速く動けた。

 ベルトにマウントしていたもう一本のドラグダガーを背後から抜刀。ジャグラーに向けて放ったように、投擲。

 引金が引かれるよりも速く、ドラグダガーはカノンバイザーを直撃しカノンの手から弾かれる。

 それと同時にツルギは地面を蹴ると、カノンの肩を踏み台にして更に跳ぶ。

 鏡、錆びれたカーブミラーまでひとっ飛び。

 するはずだった。

 

【ADVENT】

 

 音のした方を向く。

 一拍置いて、ツルギへと白い糸が放たれる。糸はツルギの左腕に巻き付いて強い力でツルギを引き込んだ。

 

「ぐっ!?」

 

 地面に落ちたツルギはそのまま糸の主、巨大な黒蜘蛛のモンスターの元へと引っ張られていく。

 だが、幸いにも縛られたのが左腕だったため糸を右手で持っていたスラッシュバイザーで切り裂き窮地を脱する。

 

「私も混ぜてよ……私を愛して……!」

 

 現れたのは、黒いベールで仮面を覆った喪服のようなライダー。

 仮面ライダーウィドゥ。

 

「くっ!」

 

 鋭い蜘蛛の脚のような鋭い爪を装備した右手をウィドゥは振るう。

 あと一歩のところでミラーワールドから脱することが出来たという事実がツルギに精神的疲弊を強いる。

 ウィドゥの爪とスラッシュバイザーが斬り結ぶなか、テレドラ達が加わってツルギはまた振り出しに戻される。

 だが、さっきと違ったのはウィドゥはカノンやテレドラ達の仲間というわけではないようだったこと。

 

「愛して! 愛させて! たくさん!!!」

「くそ! 変態が邪魔すんじゃねぇよ!」

「あなたは愛してくれるでしょ? ねえ!?」

「ご、ごめんなさい! きゃっ!」

 

 ウィドゥの狙いはツルギだけではなかった。

 この場にいるライダー全員がウィドゥに愛を求められていた。

 ウィドゥに愛を求められたメイサは反射的に謝罪してしまうと、ウィドゥはメイサへと向けて爪で斬りつけた。

 だが、メイサの堅牢な盾が爪を阻む。

 防御力が高いようで、傷ひとつつかなかった。

 それが、ウィドゥの愛を燃え上がらせてしまった。

 

「盾は嫌い……私達を拒むから! 私の愛をっ! 受け入れてよっ! 麗美と瑠美の愛を!!!」

「きゃあぁぁぁ!」

 

 何度も何度も何度もメイサの盾を爪で掻くウィドゥの猛攻。

 メイサは反撃することも出来ず、ひたすらに盾を構え続けることしか出来ない。

 しかし、ここまで一方的で強烈な攻撃を受け続ければいかに強固な盾と言えど破られてしまうだろう。

 なにより、盾よりも先にメイサの方が先に限界を迎えてしまいそうだ。

 かなりの衝撃を受け続けて、腕が悲鳴を上げ始めている。

 それを見抜いたツルギは駆けた。

 

「ぜああっ!!」

 

 攻撃を潜り抜け、ツルギはウィドゥに向かって飛び蹴り。メイサを責めることに夢中だったウィドゥの横腹にツルギのキックが直撃。

 ウィドゥは突き飛ばされ、メイサはウィドゥという名の苛烈な嵐から救われた。

 盾を下ろすと、眼前には真白い大きな背があった。

 その背に見惚れていると、ツルギは背中越しにメイサへと目を向ける。

 こちらを見られたことに驚くメイサであったが、不思議と安心感を抱いてしまう。

 鋭い、剣のような瞳を恐ろしく感じていた。

 だが今は、力強くなにより優しい瞳に見えた。

 

「……君は退くんだ」

「えっ……」

「本当は、戦いたくないんでしょう。……そんな気がしました」

 

 メイサはその言葉に胸を打たれた。

 断ることも出来ず、なし崩し的に参加してしまったこの戦い。

 自分を襲ってきた相手にこんな言葉をかけることが出来るなんて、なんて優しい人だろう。

 

「に、逃げるなら一緒に……!」

 

 だから、メイサは勇気を出した。

 こんなこと、言える自分ではなかったのに。

 しかし、ツルギは黙って首を横に振った。

 

「そうしたいけど、状況が変わった。あのライダーを止めないと。見境なく襲う奴は危険だから……。君だけで行くんだ。走って」

 

 ああ、振られた。

 メイサはそんな風に思ってしまった。

 多分、彼は自分とは行ってくれないと確信した。

 だから、メイサは走り出した。

 

「ありがとう……御剣くん……」

 

 そう言い残して、メイサは走り出した。

 

「なんで、僕の名前を……」

 

 一瞬不思議に思ったツルギだが、すぐに頭を切り替えた。

 今はまだ戦場である。

 幸いなことにウィドゥが全員まとめて相手してくれていたおかげで息を整える時間が出来た。

 ツルギはウィドゥを止めるべく、駆け出す。

 ソードベントを使い、リュウノタチを召喚。飛来してきた太刀を掴み取りながら戦場の中心へ割って入る。

 

「もうやめろ! こんな戦い!」

「チッ……白いのも黒いのも潰してやる!」

「愛! さっきの蹴りはすごい愛だった! もっと愛して私達を!」

「チッ……やめろって言ってるのが分からないのか! くそっ————!」

 

 怒りが、純白へと還っていく。

 肉体と精神は闘争のためのものへと切り替わり、研ぎ澄まされる。

 

「————」

「私達も愛してあげるーーーっ!!!!」

 

 迫るウィドゥの爪を太刀で切り上げて弾き飛ばす。がら空きとなったウィドゥの胴。デッキを破壊する絶好の機会だったが、背後から迫るテレドラの殺気を察知したツルギはウィドゥを蹴り飛ばすことで勢いをつけてテレドラとの距離を詰める。剣を振るえぬ間合に入り込まれ、テレドラになす術なし。ツルギは柄頭でテレドラの仮面を殴り飛ばし、左方向からジャグラーが振るった鞭を回避しジャグラーへと迫る。

 そこへ、スティンガーが躍り出てツルギへと手甲の先端、鋭い針を向けて右ストレートを放つ。

 だが、ツルギはスティンガーの脇下を抜けて回避し背後を取ると急反転。スティンガーの背中を蹴り飛ばしテレドラへと衝突させる。

 

「瀬那!」

「くそ、が……!」

「アタシの心配もしろよ!」

「誰がするかバーカ! ラブホ女!」

「んだと!?」

 

 殺気が薄れたせいか、ジャグラーはツルギの標的から外れエクスシアへと向かう。

 しかし、エクスシアは余裕ありげに仮面の中で舌舐めずり。

 エクスシアへと向けて薙ぎ一閃。

 純白の刃を、純白の翼が阻む。

 

「ふふっ……。いくらあなたと言えど、私の盾は崩せませ……なっ!?」

 

 仮面の下、目を見開く十羽子。

 ツルギは斬り抜けた勢いそのままに回転し更にもう一太刀浴びせる。

 驚きはしたものの、そんなことをしてもこのエクスシアの盾は壊せないと心を落ち着かせるが、ツルギは更に回転。

 廻る、廻る、廻る、廻る。

 竜巻の如く。

 更に神業、寸分違わず同じ箇所を斬りつけている。

 これだけの激しい動作にも関わらず。

 そして、鉄壁を誇る天使の翼が斬り落とされた。

 

「馬鹿な!? 私の盾を切り裂くなど!? ですが、盾ならまだ!」

 

 エクスシアのデッキはある意味、ツルギと対極のものである。

 ツルギはソードベントを三枚も所有し、召喚機までもが剣型である。

 エクスシアはガードベントを二枚有し剣すら高い防御力を発揮する。そして、召喚機もまた盾型であり、翼の盾がなくなってもまだ防御力は高い。

 

「十羽子さん!」

 

 相棒の窮地に、ジュリエッタは複数のデッキを取り出す。

 倒したり、策略に嵌めて彼女達が集めたデッキである。この奪ったデッキのカードを使うことで、彼女達は手数を増やし戦いを優位に進めてきていた。

 その、ジュリエッタの持つデッキの中にメタリックグリーンのものを見つけたカノンは、ジュリエッタへと銃口を向けた。

 銃声、一発。

 

「きゃっ!?」

 

 悲鳴と共に右手を押さえるジュリエッタ。

 舞い上がるデッキ達の中、カノンは自身のもとへと落下してきたメタリックグリーンのデッキを掴み取ると、デッキの紋章を確認してほくそ笑んだ。

 

「な、なんで……」

「まあ、見ててよ。面白くなるからさ」

 

 カノンはデッキを近くの車に投げ入れる。

 デッキはミラーワールドから現実世界へと渡り、そして————入れ替わるように深緑の闘士がミラーワールドという闘技場に入場。

 そのライダーの姿に、ツルギとカノン以外のライダーは畏怖の感情を抱いた。

 その、仮面ライダーの名は。

 

「レイダー……」

「うっはーーー! ひっさしぶりだなぁ、この感じ。いいねいいね、イッチャいそうだよワタシ!」

 

 仮面ライダーレイダー。

 喜多村遊、参戦。

 レイダーは興奮した様子でとても楽しそうにしているが、周囲の様子は対照的に冷え切っていた。

 

「おい! どーゆーこと金草!」

「ははっ、ゲームは面白くないとでしょ」

「いやーありがとうありがとう! こうして復活出来ると思わなかったなー! お、そしてあれがツルギくん! 君とはぜひ闘いたかったんだよー! ……その前に」

 

 愉しげな雰囲気だったレイダーが一転して、獲物を見つけた捕食者の眼でジュリエッタの方を向いた。

 

「えっ……」

「ミラーワールドに風紀委員はいらないなー」

 

 左手に握ったメリケンサック型の召喚機、ガッツバイザーのカードホルダーを開き、レイダーはカードをジュリエッタには見せぬよう装填。

 宣告されるは、死。

 

【FINAL VENT】

 

 ビルの上から着地した深緑の巨体。

 レイダーの契約モンスター、ガッツフォルテという巨猿が胸を叩いて雄叫びを上げる。

 

「よっと」

 

 レイダーは軽く跳び上がるとガッツフォルテがレイダーの両足を掴み、あたかもレイダーをハンマー投げのハンマーのように振り回す。

 風を切る音が次第に暴力的になっていき、ツルギはレイダーの排除が最優先と動き出すもカノンの銃撃が阻んだ。

 その一刹那の間に、レイダーがジュリエッタ目掛けて放たれる。

 

「おりゃーーーーーっ!!!!!」

「ひっ……!」

 

 逃げようと背中を向けるジュリエッタだが、間に合わないのは明白。

 それでも、間に合わせるものがいた。

 

「真央さん!」

 

 エクスシアが割って入る。

 エクスシアは召喚機の円形の盾、半壊した翼の盾、更に召喚した肩に装着された大きなアーマーからはバリアが展開されている。

 シールドを全て装備した堅牢な姿に、レイダーの拳が直撃する。

 

「っ!?」

 

 弾かれる、レイダーの拳。

 バリアこそ砕かれてしまったが、エクスシアは防ぐことが出来たと内心安堵する。

 それが、命取り。

 

「ひひっ」

 

 不敵な笑みはレイダーのもの。

 二発目の拳が、翼を穿つ。

 三発目、翼を凹ませる。

 四発目、肩のアーマーを砕く。

 五発目、召喚機をひしゃがせる。

 六発目、翼がもげる。

 七発目、召喚機が真っ二つに折れる。

 八発目、エクスシアの胸部に強い衝撃が走る。

 九、十、十一、十二、十三、十四……。

 十五発目、この一撃で地獄へ行け!

 

「すく、い、は……」

 

 爆発。

 巨大な爆炎が上がり、ライダー達は見つめることしか出来ない。

 

「っと、うーむ。なかなか堅くて手応えあった!」

 

 着地したレイダーは暢気に感想を告げていた。

 そんなレイダーを、笑いながらカノンは祝福した。

 

「あーはっはっはっ! 復帰戦いきなりかますじゃん!」

「鈍ってないか心配だったゾ……って、目当ての相手をやり損ねたなぁ」

 

 爆煙の向こう側にジュリエッタの姿はなかった。

 どうやら逃げ出したらしい。

 

「追う?」

「いや、いいや。戦ってもつまんないだろうし。君と違ってキルスコアを稼いでるわけじゃないしね!」

「はいはい、量より質ってわけね」

「うーん、もちろん質のいい戦いをたくさん出来るのがベストだけどね! その点……君とはたくさん戦えそうだよ! ツルギくん!」

 

 ツルギは冷静にレイダーを見つめていた。

 否、見定めていた。

 レイダーの戦闘能力を測り、試していたのだ。

 それはまたレイダーも同じであった。

 

「ふはっ! 最高かよ君ィ〜! 早速やり合いたいとこ、だけど」

 

 ツルギの身体から浮き上がる粒子。

 レイダー以外のライダーが、等しく同じ現象に見舞われていた。

 ミラーワールドに存在出来る限界時間が近いのである。

 ライダーといえど、ミラーワールドで活動出来る時間は約十分間。

 これを過ぎればミラーワールドに溶かされ、消滅あるのみ。

 ライダーシステムとは言わば潜水服、あるいは宇宙服。

 人間が普通では生存出来ない異界で活動するための装束であり、それを纏ったからといって無制限に活動出来るわけではない。

 酸素が足りなくなれば、水でも宇宙でも死ぬのだから。

 

「今日はお開き! 万全の状態でやり合おうねー! それじゃ!」

 

 一足先にレイダーはミラーワールドを後にする。

 それに続き、カノン達もまた各々現実世界へと帰っていく。

 ツルギは、一人。ミラーワールドに残り続けた。

 俯き、太刀を強く握り締めたその手を真っ直ぐ見つめている。

 

「十羽子さん……真央さん……どうして……」

 

 裏切られた傷が痛む。

 十羽子を守れなかった後悔が苛む。

 また純白に染まった己が恐ろしい。

 何故、あんな風に動けるという疑念もあった。

 自分は一体、何をしている。

 

「う……く、あぁぁぁ……!」

 

 仮面の下、誰にも聞かれぬよう涙を流す。

 このまま、止められないのではないか。

 無力な自分が情けない。

 

『泣かないで……燐くん』

 

 それは、天女が舞い降りたかのようだった。

 羽のように軽やかに、彼女はツルギを抱きしめていた。

 黒衣は幻のように揺らめき、彼女の声はツルギに、燐に深く響き渡るようであった。

 

「アリス……!」

 

 咄嗟に飛び退こうとして、動けなかった。

 振り払えなかったのだ。

 アリスを。

 

『もうすぐ、あなたがそんな風に泣かないで済む……戦わなくていい未来が来ますから』

「戦わなくて、いい……?」

『そうです。もうすぐ、ですから。そのためのライダーバトル、でしたから』

「それは、どういうことだ……!」

 

 震える声で問うた。

 そのための、ライダーバトルとは。

 御剣燐が戦わない、泣かないで済む未来のためのライダーバトルだと、そう言うのか。

 アリスは答えない。

 微笑むだけ。

 声が遠くなっていく。

 そして、アリスに背を押された瞬間、燐は街の往来の中にいた。

 人の波に飲まれる。

 ミラーワールドから退出させられ、現実世界に帰されたと理解した燐はポケットの中のデッキを取り出し見つめた。

 

「アリスは、僕のために戦っている……」

 

 何故、という疑問よりも先に納得している自分がいることに驚く。

 何故なら僕は彼女をミラーワールドに独り残し、死んでしまったから

 

「っ……」

 

 意識が飛んでいた。

 戦いの疲れが出たのだろう。あれだけの人数を相手にしていたのだ、早く帰って……。

 いや、駄目だ。

 もう、ここで眠れる……。

 薄い意識の中、名前を呼ばれた気がした。

 誰かに、手を引かれている気がする。

 懐かしい感じだ。

 母さんに手を引かれて歩いているような、なんだか、そんな感覚……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 若草色の花弁が足元に舞い落ちる。

 無数の蔦のようなものがヒトガタの花に纏わりついて、蠢く。蔦の先はワニのような口を開き、ヒトガタのブーケに歯を立てる。

 花は次第に色を落とし、やつれ、萎れて、枯れていく。

 蔦は臓物のように蠢き、浮かび上がった血管のような部位が妖しく花と同じ若草色に明滅していたが、花が枯れると同時に蔦は地面へと吸い込まれていった。

 枯れた花が地に堕ちて、若草色のカードデッキの上に重なると、黒いヒールが花と一緒にデッキを踏みつけ、躙った。

 薄らと地面を揺らす水が跳ね、遠く不気味な白い光を反射させる。

 

「あ、あぁ……!? あ、アリス、なんで、なんでこんな!」

『戦えないライダーは無用ですから、処分するんですよ』

 

 ひどく平坦な声で、アリスは上谷真央にそう返事をした。

 ミラーワールドに連れ込まれた上谷真央を待っていたのは、一人の少女が処分されるところであった。

 悲鳴も断末魔もあげることも出来ぬまま、その少女は殺されていた。

 そして、次は。

 

「そ、そんな……!」

『あなたは、どうです。戦えるんですか』

 

 黒い瞳に感情はないようだった。

 機械的に、問いかけられた。

 返答を誤れば、殺される。

 

「た、戦えます! 私、まだ! だから、殺さないで……!」

『そうですか。では』

 

 アリスは真央から取り上げたネイビーブルーのデッキを投げ渡す。

 両手で受け取った真央はデッキを見つめ、アリスへと顔を向けた。

 

『口ではなんとでも言えますので、証明してくださいな』

「しょ、証明……?」

 

 つまり、戦えということ。

 今、この場で?

 誰と?

 まさか、アリスとではないだろうと困惑している真央の前に、見知った顔が現れる。

 

「石墨さん……。あなた、生きてたんですか!」

 

 風紀委員の真央にとって、石墨彩果は模範的な生徒として友好的な関係をもっていた。

 そんな彼女がここにいる理由とは、つまり。

 

「石墨さんも、ライダーだったなんて……。でも、ここにいるってことは!」

 

 彼女もまた戦えないライダーとしてアリスに囚われたのではないか。

 彩果は自分と同じ境遇であると真央は認識すると、彩果に駆け寄り小さく声をかけた。

 

「石墨さん一緒に逃げよう」

「逃げる?」

「うん。二人なら大丈夫ですきっと……!」

「ぷっ……あはは!」

 

 それは、真央の知る彩果ではなかった。

 狂ったように笑う彩果から真央は一歩、二歩と離れる。

 

「ライダーバトルから逃げるなんて、私よりも悪い子だな上谷? 変身」

 

 彩果は仮面ライダーアロメダへと変身し真央へと躙り寄る。

 アロメダが本気で殺しにかかっていることを理解した真央は逃げ出すしか出来なかった。

 暗い、暗い、地下の空間。

 神殿のような巨大な柱が天を支え、地面は数センチほどの水に覆われて走ろうが歩こうが足音を隠せずこの空間に反響させる。

 

「上谷、お前はルールを守る善い人物だと思っていたが、モラルはなかったようだな。自らの欲望のために他人の命を奪う悪人!」

 

 響く、アロメダの声が。

 壁や柱に浮かび上がるアロメダの影は騎士ではなく恐ろしい怪物のよう。

 

「いや……いや……!」

 

 振り切れない。

 どこまで走っても、この空間は終わらない。

 

「終わらないよ上谷。戦わない奴は、終われない。だがせめてもの情けだ、私が終わらせてあげよう」

 

 アロメダが左手に握った盾型の召喚機にカードを装填する。

 

【ADVENT】

 

 空間に反響した音声に真央は恐怖した。

 アドベント。

 つまり、契約モンスターが現れる。

 警戒心は最大級に達する。

 そして、恐怖のメーターが振り切れた。

 

「死にたくない死にたくない死にたくない!」

 

 真央は、震える手でデッキをVバックルへと挿入し、変身した。

 そのまま乱暴な手つきで槍を召喚して身構える。

 どこから来ようとモンスターもアロメダもこんな目に合わせたアリスも殺してやるという殺意が湧いていた。

 恐怖が殺意に変換されたようだ。

 そんなジュリエッタとは反して、アロメダの影は消えていた。

 声もしない。

 召喚されたであろうモンスターも現れない。

 静寂。

 それがジュリエッタを狂わせた。

 

「はあ……はあ……ふぅ!!!」

 

 突然、振り返ったジュリエッタが槍を叩きつける。 

 当然、空振る。

 今度は左に槍を振るう。

 空を切る。

 槍を両手で強く握り締め、仮面の下は血走った目が敵を探し、見えない敵を生み出す。

 

「はあっ!!! ゔぇあっ! しぃぃぃ……やぁ!!!! はあ……はあ……」

 

 乱れた呼吸が反響する。

 水音激しく、荒ぶるジュリエッタを柱の影からアロメダが見つめていた。

 

「ああ、流石に見苦しいな。もういいだろう。やれ」

 

 呟きは命令。

 アロメダの背後に立つ背鰭が潜航する。

 

「ははっ……あははっ! 生きてる! 生きる生きる! そうだ私はあいつらを見返してまた————」

 

 水柱が、ジュリエッタを覆った。

 落ちていく水。

 黒い巨大なシャチに似たモンスターが、ジュリエッタの下半身に喰らいつき、浮上していた。

 

「え、あ?」

 

 突然、視界が上がっていったジュリエッタは何が起きたか理解が遅れた。

 興奮状態にあったジュリエッタに、痛覚がすぐ走らなかったことは幸いだったであろうか。

 強烈な痛みに意識を手放してしまった方が幸せではなかっただろうか。

 理解する。

 何が、起きたか。

 

「い、い————!」

 

 断末魔が何重にもなって、響き渡る。

 高い防御力を持つライダーのインナースーツは食い破られ、アーマーは噛み砕かれて、肉は裂かれて骨は断たれて。

 柱に映る影のジュリエッタの姿はどんどん噛み砕かれ、飲まれて小さくなっていく。

 最後まで残っていたのは手であった。

 これだけは、食べないで。 

 そう、叫んでいるようだった。

 

「素晴らしい……こんな素晴らしい音を聴いたのは初めてだ! こんなものを知らずに生きてきたのか私は……」

 

 アロメダは神々しいものと出会ったかのように浸っていた。

 そして、変身を解いて彩果は背中から地面に倒れ込んだ。

 髪も服も濡れる。そんなことはどうでもいい。

 とにかく今は、笑いを堪えられないようだった。

 

「ぷっ……くく……はははっ! ああ、これまでの人生全てが馬鹿らしい。善? 正義? ルール? モラル? そんなくだらないものに縛られていたなんて!」

 

 水と共に笑い転げるアロメダを宙から見下ろすアリスは酷く冷たい目をしていた。

 そして、一言。

 

『駒が笑ってる』

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