仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral 作:大ちゃんネオ
最後の戦場に集いしライダー達はミラーワールドの惨状に唖然としていた。
街の中心部から離れた小高い住宅地にいたスティンガーとジャグラーは遠方からドラグランド・マヤヴィオラの全体像を見つめていた。
「なにあれ!? あんなの怪獣じゃん!」
「最後の戦いがこんなんとか、アリスの奴、ふざけてやがる」
「少なくとも、あいつの近くにはいかない方がいいよね」
あんな怪獣の足元なんてごめんだよ!
そう言うジャグラーに同意しようとしたスティンガーであったが、背後からの気配に嫌なものを感じ取り振り向く。
そして、手のひらを返した。
「……いや、そうも言ってられないみたいだ」
「え? どういう……うぇっ!?」
ジャグラーがスティンガーと同じ方向へ目を向ける。
すると、タイルが敷き詰められた地面が波打ち、巨大な蔦が現れる。
蔦は蛇のように鎌首をもたげると、目など持たないはずなのにスティンガーとジャグラーを見つけたと大きな口を開けた。
「逃げるぞ!」
「う、うん!」
スティンガー達は急いで自分達が乗ってきたライドシューターへと飛び乗り急発進。
蔦は次々と現れ、追跡してくる。
「に、逃げるったってどうするの!?」
ライドシューターのコンソールパネルに焦るジャグラーが映し出される。
焦っているのはスティンガーもまた同じ。乱暴な口調で返事をした。
「とにかく走って生き残るんだよ! くそ! ガチで最後にするつもりらしいな、アリスの野郎!」
「ミ、ミラーワールドから一旦出た方がいいんじゃない!?」
「そうしてぇけど、見ろよ。あいつら、鏡になりそうなもんを食ってやがる」
蔦は巨大な口を使って車を噛み砕き、カーブミラーを吸い込み、ミラーワールドと現実世界を繋ぐものを破壊していく。
ライダー達を逃すつもりはない。
この戦いで全てを終わらせるつまりなのだ。
「時間は十分もねぇ……。敵と出会わずに死ぬ可能性すらあるってのかよ」
「あのモンスターに殺されるか、時間に殺されるか、ライダーに殺されるか……」
ジャグラーは酷く怯えた様子でいた。
彼女はスティンガーの願いを叶えるために協力しているのだ。
最後の二人となった時、茜はジャグラーのデッキを手放して瀬那を最後の一人とし、瀬那の願いを叶えるつもりでいた。
しかし、これではそんなこと言ってはいられない。
二人共生き残るなど、不可能だろう。
ジャグラーはそう思い込んでしまった。
「……まだ死ぬって決まったわけじゃない。アタシらが生き残れば、そうすれば、きっと何か……」
「瀬那……うん! そうだね!」
茜は瀬那の言葉を信じることにした。
ここまで来たらもう、突っ走るしかない。
覚悟を決め、二人はライドシューターを加速させる。
しかし、二人を阻む蜘蛛の巣が突然花開くかのように現れライドシューターは糸に絡まってしまった。
「これって!」
「あの変態野郎かよ!」
「見つけた……私の愛しい人」
蜘蛛の巣を隔て、土煙の向こう側から現れる純黒のライダー、ウィドゥ。
脅威は後方からも迫り続けていた。
スティンガー達はライドシューターから飛び降りると、蔦がライドシューターを咥えて、噛み潰す。
苦境に立たされたスティンガーは舌を打った。
「どうするの瀬那!?」
「……どうするもこうするもねぇだろ……」
「瀬那……?」
「あいつぶっ殺して進むしかねぇだろ……他のライダー共も、邪魔してくる奴も全部! そうじゃねぇとアタシもお前も死んじまうんだ!」
「……瀬那。分かった、戦うよ。生き残ろう、二人で」
フンと素っ気なく返したスティンガーをジャグラーは笑った。
そして、それぞれの武器を手にしウィドゥへと向かい駆け出す。
「これが最終決戦かー。って、こらー! なに勝手に終わらせようとしてるんだい! せっかくのライダーバトルを!」
蔦の追撃を掻い潜るレイダーは瓦礫の山を駆けていた。
聖山市の中心部、聖山駅前にいた遊はドラグランド・マヤヴィオラのお膝元から戦いをスタートしたものだから大変なんて言葉では済まされない。だが、それでもまだその程度で済んでいるのは彼女の強さ故だろう。
並のライダーなら開幕即死もあり得た最悪のスタートを乗り切り、レイダーは対戦相手を求めた。
「うぉーい! 誰かいないー!?」
叫ぼうが、これだけ地鳴りやらビルの崩壊やら何やらでかき消されてしまう。
そう、思っていたのだが。
レイダーの仮面を横切る銃弾に、喜多村遊は口角を吊り上げた。
「来たか!」
レイダーが視線を上げる。
黒の銃撃手、仮面ライダーカノンがライフルを構えていた。
「よぉ、喜多村。突然の最終決戦、それもこんないかにもなラスボスのギミック付きステージって感じで水入らずとは言えないけど……倒しに来た」
「ははっ! 流石ゲーマーってところかな。なんでも楽しもうとするのは見習いたいね!」
跳躍するレイダーに、カノンはライフルではなくマウントしていた銃型召喚機を抜き、早撃ち。
しかし、レイダーの重装甲の前には威力が足らず止めるには至らない。
「おおおっりゃっ!!!」
「ふんっ!」
レイダーの巨腕が瓦礫の山を砕く。
カノンは飛び退きながらライフルの銃口をレイダーへと向けて発砲する。それを読んでいたレイダーは瓦礫を踏み付け、畳返し。
銃弾を即席の瓦礫の壁で防ぎ、再度距離を詰める。先程よりもカノンとの距離は近く、回避にあてられる時間は短い。
レイダー有利の距離に詰められ、カノンはライフルを手放し迫る拳を太極拳のような滑らかな動作で受け流す。
「へえ! 銃だけじゃないんだ!」
「実はね」
「でも、銃使いが銃を手放すのはやばいんじゃない!」
そう言い放たれたレイダーのパンチは先程の一発とは音が違った。
すなわち、速さが変わる。
一撃の重さを重視したスタイルから、鋭く素早いラッシュのスタイルに切り替えたレイダーの拳はカノンを確実に追い詰めていく。
先程の攻撃とは違い、受け流す前に次の攻撃が来るからだ。
「おりゃあああ!!!!」
「ぐあっ!?」
胸部を貫くような一撃がカノンを捉えた。
吹き飛ぶカノンは瓦礫の山に衝突し、煙が立ちこめる。
構わずレイダーは追撃。畳みかけるつもりだ。
煙を払い、カノンを見つけたレイダー。
だが、カノンはバズーカ型武装ヘッドカノンを構えていた。
「っ!?」
「ふっ」
トカゲの口から火が吹いたようだった。
至近距離からの一撃。
今度はレイダーが反対に吹き飛ばされる側に。派手に火花を散らし、背中をコンクリートの塊に強打した。
「つあっ……今のは、カード使う時間なんて、なかったと思うけど……」
「戦う前に用意しといた。上手いことこっちに吹き飛ばしてくれてありがと、喜多村」
煙を吐くヘッドカノンを肩に担ぎ、挑発するようにカノンは言った。
レイダーは挑発には乗らない、が。
その闘争心は更に燃え上がった。
「……ひひっ! それでこそだよ!」
「来い!」
ヘッドカノンが再び火を吹く。
放たれた砲弾をレイダーは跳躍して回避し、砲弾は廃墟と化したビルへと着弾。
灰色の煙を突き破り、レイダーが拳を振り上げカノンは狙いを定めトリガーを引いた。
ライドシューターで破壊されゆく街を駆けるアイズの目の前に、ライダーが現れる。
「やほ〜、咲洲」
「空崎……!」
空崎愛舞穂、仮面ライダーテレドラの出現にアイズはライドシューターを停め、降車した。
向かいあうと、テレドラはムカデを模した剣、ピードカリバーをアイズへと向ける。
「何か用?」
アイズが尋ねると、テレドラは何が可笑しいのか吹き出し、笑い始める。
「あはははっ! はあ? ライダーなんだから戦うだけでしょうが!」
テレドラは叫び、ピードカリバーを両手で握りアイズへと振りかざした。
軽快な身のこなしで回避するアイズ。アスファルトを容易く砕くピードカリバーとテレドラの威力に舌を打ちながらアイズもまた武器を召喚する。
【SHOOT VENT】
青い翼の弓と矢筒、ウイングアローが現れ、弓を手にし矢筒は背中のハードポイントへ装着。矢筒から素早く矢を取り出し、テレドラへと向けて矢を放つ。
狙いを定めるような間もおかずに放った矢だが、アイズの、美玲の持つ技能によってテレドラ直撃コースに乗る矢だが、ピードカリバーの腹で防がれ、テレドラは再びアイズへと接近。
回避は難しいと判断したアイズはウイングアローでピードカリバーを受け止める。
ウイングアローの弓幹は刃となっており、近接戦闘にも対応していたが、パワータイプのテレドラと機動力を重視したアイズで鍔迫り合えばテレドラが有利。押し負かされ、アイズは蹴り飛ばされてしまう。
「ぐっ!」
「ははっ! そんなもんかよ!」
「チッ……」
追撃するテレドラを躱し、矢筒から再び矢を手にしたアイズだがテレドラを引き離すことが出来ない。
回避一方で、テレドラの口が回る。
「避けてちゃ勝てないっしょ!」
「うるさい奴……」
「それともアタシを勝たせてくれるってわけ! お友達のところに行きたいってわけ!?」
「ッ! こいつ……!」
「あんただって願いがあるからライダーになったんでしょ!」
「そうよ、けど!」
アイズは引き離せないテレドラに対して策を講じた。
番えた矢に力をこめ、青い炎が矢に灯ると、矢をテレドラ向けてではなく地面へと向けて放った。
アスファルトが爆ぜ、青い炎が燃え上がりテレドラが怯んだ隙に大きく後方へと飛び退いて距離を取りながら、矢を三本一度に手にし、着地と同時に連続して矢を放った。
「なっ!? チッ……がっ!?」
一射目こそ防がれたものの、続く二の矢、三の矢は防ぎ切れずテレドラに少なくないダメージを与えた。
「聞かせてもらいたいわね、そこまでして叶えたい願いが何なのか」
冷静に、特に興味はないことを尋ねた。
言葉による揺さぶりも、アイズの武器のひとつである。
「アタシの願い……? そんなん、
正直、予想外というか。
アイズは肩透かしを食らったように、戸惑った。
「は……? そんなことの、ために……?」
「そんなことなんかじゃない!!!!!!」
「ッ!?」
テレドラの猛追が再び始まる。
しかし、先程までとは迫力が違った。
テレドラを止めようと放つ矢の直撃を食らってもまるで効いていないようで、アイズは接近を許してしまった。
ピードカリバーの猛攻をウイングアローで受けるのも精一杯。
相手を惑わそうとして、完全に地雷を踏んでしまったのだ。
「こんな、こんなふざけた名前のせいでアタシはこうなるしかなかった!」
「くっ……名前なら手続き取れば変えられるでしょ!」
「それじゃ遅えよ!」
「ぐあっ!?」
胸部に直撃を食らうアイズ。
地面に叩きつけられ、起きあがろうとするとテレドラが襟首を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
「咲洲……咲洲美玲……いいなぁ……綺麗な名前でさぁ……。こんな、こんな名前のせいでアタシがどんな奴等に目ぇつけられて、上手に生きてくためにどうしなきゃいけなかったかなんて、分からないでしょ……。だから、普通の名前の子になって、まともに生きるんだ! アタシはぁ!!!」
「がっ!?」
テレドラはアイズを蹴飛ばすとピードカリバーを投げ捨て、杖型召喚機ピードバイザーを手にし、デッキからカードを引き抜き、装填。
【FINAL VENT】
廃墟と化した街を駆け、ピードレッドラーが現れるとアイズに噛みつき上空へと放り投げる。
そこへ、テレドラが跳躍しアイズを羽交い締めにしピードレッドラーへと向けて落下していく。
そして、ピードレッドラーの身体をスケートボードのコースとしてアイズをボード代わりにして滑走。
「神前のとこに送ってやるよ!」
ピードレッドラーの身体を滑り、頭をジャンプ台として飛び上がったテレドラは勝利を確信した。
だが、アイズは。
「くっ……。私、はぁッ!!!」
落下しながらもカードを引いたアイズ。
召喚機もまた左手に握り締めている。
腕を自由にしたのが仇となり、アイズもまたカードを切った。
【FINAL VENT】
「なに!?」
蒼天より青き翼、ガナーウイングが現れテレドラへと突進。
吹き飛ばされたテレドラは落下して地面を転がり、自由の身となったアイズの背にガナーウイングが合体。両足にはウイングクローを装着し、テレドラ向けて急降下。
「はあああああッ!!!!!」
「えっ————」
ボレーキックが直撃し、テレドラは爆発。
爆炎の中、立ち上がったアイズは一瞬脇腹を押さえながらふらつくも再びガナーウイングの翼を広げて空を舞った。
「……射澄」
爆炎を見つめ、友の名を呟くと前を向いて飛翔。
愛する人を探し、アイズは空を翔けた。
『一人脱落……。あとは、拮抗していますか。制限時間で死ぬ確率が高い。つまらないですね』
蔦の上に立ち、街を見下ろすアリスがため息混じりに話した。
各地ではライダー達の戦闘が行われており、始まってから五分が経過したというところである。
ライダーがミラーワールドに存在出来る制限時間の折り返しが過ぎ、刻一刻とライダー達の命が失われようとしていく。
「アリス! くそ、このままじゃ美玲先輩まで……!」
『燐くん』
「……?」
『その名を口にしないでください』
明確な怒りを露わにしたアリスに燐は言葉を失った。
アリスという少女の奥底をようやく見たからだ。
息を飲み、燐は確かめるように言葉を紡ぐ。
「……どうして、僕を……君は、誰なんだ」
『それはいずれ分かることです。今は何も気にせず、待っていてくださいね。燐くん』
そうアリスは声を弾ませ、笑顔を燐へと向ける。
そんな中、アリス達の足元には一人のライダーの姿があった。
「アリス!」
アリスの名を叫ぶ白と黒のライダー、アロメダ。
その姿に燐は安堵した、石墨彩果は生きていたと。
『何の用です?』
「私にライダーの相手を! 戦わせろ!」
「石墨さん……? そんな、なんで」
『あなたはメモリアカードを失ったからもう願いを叶える資格もありませんが……。まあ、どこかの戦闘をかき乱すぐらいは出来ますか』
アロメダの有効活用法を思案するアリス。
そこへ、燐の名を叫ぶものが現れる。
「燐!」
「美玲先輩!」
『あの女……』
ガナーウイングを背に纏い飛ぶアイズ。
拘束されたツルギの姿を見て、救出を第一に考えたアイズはウイングアローを手にし、ツルギを縛る蔦へと攻撃を繰り出そうと加速。
しかし、地上からの銃撃を食らいアイズは地へと堕ちる。
「美玲先輩!」
「くっ……石墨、あなた……」
アロメダはヒレのような形状の銃を二丁構えていた。
二つの銃口をアイズへと向けて、接近していく。
「聞かせてくれ、君の悲鳴を!」
落下の衝撃によるダメージからまだ立ち上がれないアイズ。
だが、そんな二人の間にアリスが舞い降りた。
『駒として使えるかと思いましたが……。その女に手を出すのは許しません』
「アリス……ああ、悲鳴なら君のものでも構わない」
容赦なく、引鉄が引かれる。
放たれた銃弾は全てアリスへと命中する弾道を駆ける。
避ける素振りも見せぬアリスはまっすぐ銃弾を見つめ……次の瞬間、銃弾は逆行しアロメダの拳銃へと全て戻っていった。
「なに……?」
「一体、何が……」
『私は優しいので説明してあげますが、銃弾を巻き戻しただけです』
「……ふざけるな!」
乱射するアロメダ。
だが、全て弾はアリスの目の前で止まっては戻っていく。
『ここまで馬鹿な駒とは思いませんでした。責任を持って、始末しましょう』
アリスは自らのカードデッキを掲げ、アロメダの処分を通告した。
桜色のカードデッキがアロメダへと向けられ、黄金のVバックルがアリスの身体に巻き付けられる。
「アリスも……ライダーだったのか……」
『私も、少女ですから。変身』
デッキをバックルへと装填し、舞い踊る金色の虚像が重なりアリスは鎧を纏う。
桜色と紫、そして金色。
花吹雪が舞い、その変身を彩る。
全身に荊が巻き付いたかのような鎧。
仮面には花冠を戴き、鎧各部の黄金から眩い輝きを放っていた。
『仮面ライダーブロッサム。開花の刻です』
圧倒的な力の気配に変身を見つめていた三人の身体は強張っていた。
しかし、誰よりも死を感じ取ったアロメダが恐怖心から咄嗟に脅威の排除に動いた。
再び、銃撃。
最早、思考はなかった。
とにかく攻撃というの名の防衛行動。
人は恐怖に支配された時、防御ではなく攻撃に走る。
もう、それは無意味だと思い知らされながら。
ブロッサムは黄金に縁取られた円形の鏡。召喚機、華召鏡ヴィオラバイザーを正面へ向ける。
鏡が光を反射した一瞬、一枚のカードが薄らと映る。
黄金の翼が描かれたカードが。
しかし、すぐにそのカードは視認出来なくなり、アロメダの放った銃弾は全て鏡に吸い込まれていく。
そして、その全てがアロメダへと返っていく。
威力は倍となって。
「うああああ!?!?」
全身から火花を散らし、膝をつくアロメダを見て鼻で笑ったブロッサムはカードをデッキから引き抜き、ヴィオラバイザー上部のカードホルダーを起こし、装填。
【SWORD VENT】
通常の召喚機とは違い、エコーのかかった音声が響く。
紫の刃の細剣が召喚され、手にしたブロッサムは情け容赦なくアロメダへと打ち付ける。刃は無数に分たれ、蛇腹となってアロメダを襲う。
アロメダは猛攻に晒され、立ち上がることすら出来ない。
「やめろぉ!」
ツルギは叫ぶが、虚しい。
そんな言葉に意味はない。
『あなたの散りざま、美しく飾ってあげましょう』
ブロッサムは剣先を地面に突き立てる
すると、地中で剣先から急速に根のように剣が広がっていき、やがて無数の切先が地上へと向かい————芽吹く。
「ぐはぁっ!?!?」
地中に広がり、無数に分たれた剣が一斉に地上へと表出しアロメダの鎧と肉体を突き破った。
そして、アロメダは爆発四散しブロッサムは剣を地面から抜いて刃を撫でる。
『あぁ、他愛ない』
「そんな……くそ! アリス、もうやめろ! どうしてこんな!」
『どうして、ですか? 全部、あなたのためですよ。燐くん。私はあなたのためだけに、この命を使うのです』
「何を、言って……」
「そいつの話を聞かないで燐!」
ようやくまともに動けるようになったアイズが立ち上がり叫んだ。
すると、ブロッサムは憎々しげにアイズを蹴り飛ばす。
「きゃっ!」
「美玲先輩!」
『あなたは黙ってなさい。卑しいハゲタカ女風情が。あなたは最後に殺してあげますから、待っていなさい』
「アリス! やめてくれ! 僕はどうなってもいいから美玲先輩だけは!」
『この女の味方をするのはやめて燐くん!』
その訴えは、どこかか弱い少女のものな気がした。
圧倒的な力を持ちながら、決して叶わない夢を見ているような、そんなもの悲しさを孕んでいるように燐には聞こえた。
『どうして、私じゃないんですか……。燐くん……』
「アリス、君は……」
『私は貴方が欲しい。他に何もいらない。世界に貴方さえいてくれればそれで良かったのに……。あなたは、咲洲美玲を選んで、世界を選んで、世界を守って死んでいった……。そんな結末、私は認めない。世界があなたを殺すなら、私は世界を殺す。燐くんを奪う世界に、価値なんてありませんから』
「アリス……」
『だから、もう終わらせます。全てを』
ブロッサムは涙を流しながらデッキに手を添え、カードを引く。
そのカードが何か、本能的に察したツルギは叫んだ。
「やめろぉぉ!! もう!」
【FINAL VENT】
ブロッサムはドラグランド・マヤヴィオラの眼前に浮かび上がり、贄となる少女達の中央に立った。
ライダー達は皆、傷だらけで激戦を繰り広げていたのが容易に想像つく。
ツルギと同じように蔦に絡め取られて十字に囚われたライダー達は抗う様子を見せるが拘束から逃れられそうにない。
契約モンスター達もまた契約者を救おうとしているが、ドラグランド・マヤヴィオラの顎下から伸びる双頭の龍の炎と水流によって追い払われてしまう。
「くそ! ゲームの邪魔を!」
「水を差すなんて、しらけることしてくれたね」
「愛……」
「瀬那!」
「ちくしょう……! てめぇアリスだな!」
『ええ、そうですよ。このままですと、味気ない終わりになりそうでしたので、私が華を添えようかと』
ヴィオラバイザーを掲げるブロッサム。
鏡が煌めき、それを合図にしてかドラグランド・マヤヴィオラの全身至る所で次々と花が開花していく。
龍頭の最も巨大な花が開くも、それは地獄の釜が開いたかのような恐ろしさ。
そうして開いた花々は怪光を明滅させ、ライダー達を照らす。
光には何か力が働いているようで、少女達は喘ぎにも似た悲鳴を上げた。
「こ、れは……!」
「くそ、ゲー……」
「あああ〜ッ! 愛!? ちがう、これは愛じゃ……」
「瀬那ぁ……!」
「う、あ……」
俯いたスティンガーは見た。
自分達を縛る蔦が次々と花をつけて開いていくところを。
やがて上の方まで花で満ちていき……。
「あ、か……」
花が咲く。
人の形をしたブーケのような花が、五つ。
緑、紺、黒、黄、白。
『散りなさい』
ブロッサムが輝きを放つ。
そして、世界が光に包まれると同時に爆発的な衝撃波が世界を襲った。
「うあああッ!?」
衝撃に襲われ、ツルギを拘束していた蔦が折れてツルギは地上へと落下する。
「燐!」
「美玲、先輩……!」
爆風の中、ツルギとアイズは手を伸ばし、互いの手を掴み取る。
引き寄せ合い、強烈な衝撃波を耐え切った二人。
無事な建物などはなく、良くて半壊といったところである。
恐る恐る立ち上がったアイズが周囲の様子を見て、ツルギへと手を差し出した。
「ありがとうございます、美玲先輩……」
「大丈夫? 燐———— 」
「え……?」
アイズの変身が解け、青いデッキが地面に落ちた。
傷だらけの美玲の口から、赤いものが流れる。
腹部から突き出た鋭い鋒が、もぐら叩きのもぐらのように一気に引っ込んでいくと美玲は力なく倒れた。
そして、立っていたのは血塗れの剣を手にしたブロッサム。
『やった……やった、やったやったやったやった。ようやく殺せた、この手で咲洲美玲を殺せた!』
「美玲、先輩……美玲先輩!」
美玲は天を仰ぎ、呼吸を荒くして言葉を発そうとしていた。
今にも死んでしまいそうな美玲を見て、ツルギの、燐の怒りは頂点を突き破った。
「アリスゥゥゥゥ!!!!!!」
スラッシュバイザーを手にし、ツルギはブロッサムへと斬りかかる。
しかし、ブロッサムは花と散って姿を眩ます。
『駄目ですよ燐くん。あなたはもう私のものなんですから』
気配を感じ、ツルギは咄嗟に背後に剣を振るう。
それもまた斬ったのは花であった。
『燐くん。あなたにそんな物騒なものは必要ないんです』
再び、背後。
ツルギがスラッシュバイザーを振るうと、ブロッサムの剣に阻まれ刃が砕ける。
「なっ……まだ!」
『いい加減にしてください』
花吹雪がツルギを襲う。
花弁はツルギに触れた途端に爆発し、ツルギは倒れ伏した。
『燐くんを傷つけたくはないんですが、仕方ありません。ですが、もう……』
倒れたツルギに歩み寄ったブロッサムはツルギのデッキをバックルから抜くと、ビスケットを砕くかのように軽く白いデッキを握り潰した。
それにより、ツルギの鎧は鏡が割れるように消失して燐は生身を晒した。
『これで私が最後の一人! 私は勝った!』
ブロッサムは変身を解いて勝利に酔いしれた。
これで望みを叶えられると、子供のような純粋さと狂気が混ざった笑い声をミラーワールドに轟かせる。
「く、そ……」
拳を握り締める燐はアリスを睨み付けていた。
そこへ、彼の名を呼ぶ声がした。
「り、ん……」
「美玲先輩……!」
燐はよろめきながら美玲のもとへ駆け寄り、転ぶように美玲の前で膝をついて美玲を抱き起こした。
血の泉の中で。
「りん……おねがいが、あるの……」
唇を震わせ、美玲は言葉を紡いだ。
最期の、言葉を。
「美玲先輩待ってください。すぐにここから出て病院に!」
まだ息があるなら助けられるかもしれない。
藁にもすがる思いで燐は近くの鏡を探した。
しかし、燐とてデッキを破壊されてライダーにはなれない。
結末は分かりきっている。それでも、なんとかしようとした。
それを、美玲が首を振って否定した。
「りん……もう、わたしは、だめ、だから……」
「そんなこと言わないでくださいよ……美玲先輩までいなくなったら、僕は……!」
「わたしの、さいごの願い、を……」
「最後の、願い……?」
「りん、を……愛、してる……から、だから……」
「美玲、先輩……!」
冷たい身体に、咲洲美玲の熱はない。
彼女の生命は静かに消え去ったのだ。
その事実を、燐は確かなものとして受け止めて、最後のキスをした。
最後のキスは、血の味がした。
だが、これが今唯一感じ取れる咲洲美玲という人の生きた証。
美玲の亡骸をそっと下ろし、涙を拭った燐の瞳に青いデッキが映る————。
結末を決めるのはあなた達です
(11/19 23:59まで)
戦いますか?
-
はい
-
いいえ