仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral   作:大ちゃんネオ

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Shooting Arrow

『ああもう! あの女は何をしているんですか!』

 

 反転した文字でタイトルが綴られたハードカバーの本が白い壁に向かって投げ付けられる。  

 ミラーワールドの少女、アリスの苛立ちが様々な形でぶつけられていた。

 小さな本棚は倒され、椅子は蹴り飛ばされ。

 自らの部屋を荒らすアリスには一切の躊躇がない。

 それには、ある理由があった。

 

『……あたっても、しょうがありませんか』

 

 深呼吸し冷静さを取り戻すと、部屋が元あった形へと修正されていく。

 この部屋の時が、巻き戻って。

 

『まあ? 正直うまくいくとは思ってませんでしたし~。ここはひとつ手を打つとしましょう。……彼には、ライダーバトルに、仮面ライダーに関わってもらいたくはありませんから』

 

 部屋の中央に置かれた姿見。

 だが、その鏡には亀裂が入って姿見としての機能を果たせそうにはない。

 それでも、アリスにとっては大切なもの。

 どれだけ部屋を荒そうと、この鏡だけは絶対に傷つけることはしない。

 床に散らばるぬいぐるみや小さな子供向けの玩具を避けながら、姿見の前に立ったアリスは鏡面に手を当てた。

 

『燐くん……』

 

 寂しげに呟かれた少年の名。

 冷たい鏡に、アリスは彼の熱を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝には弱い。

 頭は回らず、瞼は鈍重。

 それでも起きなければいけないのは学校があるため。

 ライダーバトルのことがあるとはいえ、いつも通りの日常を過ごしておかなければ色々と問題があるのだ。

 休んでパパに連絡とかされても困る。

 それに燐には会っておきたいし……。

 

「あぁ~……そうだ、燐からデッキ……」

 

 昨日のことはちょっと反省。

 燐からあんなことを言われてしまったので、少し戸惑ってしまったのだ。

 もしも、あそこで燐に私の願いを言っていたら……。

 いや、それをしても無駄なのだ。

 アリスを倒さない限りは。

 そうやってライダーバトルのことを考えて、無理矢理頭を回せばなんとなく頭が冴えてきた気がする。なので、起き上がる。

 アラームが鳴ってから、5分かかった。

 相変わらず、本当に朝に弱い。

 こればかりは仕方がない。私は宵っ張りなタチなのだから……。

 

「……は?」

 

 ベッドに腰かけると、向かいには私の机がある。

 あるのだが、ない。

 机の上に置いていた、燐の鞄がない。

 慌てて立ち上がり、机の前に立つ。

 すると、燐の鞄の代わりにこんなものが置かれていた。

 

『御剣燐の鞄は私がいただいた。怪盗イスミ』

 

「射澄……!」

 

 いくら友人とはいえ、これはちょっと、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。

 目覚めてからスマホを見ると射澄さんから「鞄を取り戻したから学校に来たら図書室に来たまえ」というメッセージが入っていた。

 なので、いつもより早く登校。

 鞄を持たずに登校するのは、ちょっと周囲の目が気になるけれど仕方ない。

 それにしても、こんな朝っぱらから図書室が開いているのだろうか?

 昼休みとかに図書委員の人が開けてるイメージだけれど。

 そんな疑問を吹き飛ばすかのように、図書室は既に開いていた。

 そして当然こんな朝に図書室に人影はない。

 ……この人を除いて。

 

「やあ、おはよう」 

 

 なかなか、清々しい朝の挨拶であった。

 にこりと明るい笑顔で、お手本のような挨拶。

 そんなことをする人だとは、正直思っていなかった。

 図書室の番人と呼ばれ、授業以外は図書室に籠り読書に明け暮れる美人だが変人、神前射澄。

 彼女が図書室にいない日は無いとすら言われ、読書を邪魔しようものならば豊富な語彙のナイフでめった刺しにされてしまうという噂すらある。

 あくまで、噂。

 僕は美玲先輩経由で知り合ったからか、他の人よりかは親しくさせてもらってはいるけれど、たしかに人当たりが良いかと言われるとNOだ。

 だからこそ、意外。

 

「なんだいそんな豆鉄砲撃たれたみたいな顔をして」

「あ、いえ……おはようございます……」

「うん、おはよう。それにしても早かったね」

「朝イチでメッセージ見ていつもより早く来たので……。射澄さんはいつもこの時間には来てるんですか?」

「ああ。学校が開く7時に来てるよ。そして、ホームルームまで図書室に籠る」

  

 籠るって、いやおかしい。

 図書室だって施錠されてるはずなのに。

 鍵を開けるのも、当番の図書委員のはず。

 そんな疑問が顔に出ていたのか、射澄さんが答えを教えてくれた。

 鞄の小さなポケットから取り出された鍵。

 少し古そうにも見える。

 

「本好きというのは何時の時代もいるものでね。代々、この学校の本好きに伝わる図書室のスペアキーさ。私もある先輩から貰ってね」

「えっと……。それって、いいんですか……?」

「良くはないんだろうね。だから秘密にしてくれたまえ」

 

 なんだか、犯罪の片棒を担がされた気がする。  

 とはいえ、それで誰かが迷惑を被るということもないだろう。

 射澄さんもこれで悪事を働くということはしないだろうし。

 

「そうだ、私が卒業したらこれは君に授けるよ。残念ながら私の跡を継げそうな人材は出てきそうになくてね。その点、君はちょくちょく図書室には来るだろう?」

「いやまあ来ますけど……射澄さんとか歴代の本好きな方々ほどでは……」

「まあまあ。伝統を絶やさないのは大事なんだろう? それに、君ならこれを持つに相応しい本好きな後輩と出会えそうだしね……。と、雑談はここまでにしておいて、本題」

 

 そう言うと、射澄さんは僕の鞄をテーブルの上に置いた。

 本当に、取り戻してる。

 メッセージを疑っていたわけではないけれど、一体どうやって。

 

「ま、私にかかればこれぐらいね。なんて、ただミラーワールドを使ったってだけの話なんだけ……」

 

 得意気に語る射澄さんの言葉が、勢いよく開かれた扉な音で遮られた。

 入口に立っていたのは、美玲先輩だった。

 それも、とても怒っている……。

 仏頂面が更に仏頂面になっている……!

 意味が分からないと思うかもしれないけれど、本当にそうなのだ。

 大股気味に歩き、射澄さんの前に立つ美玲先輩。

 射澄さんの背が高いので、少し見上げるような形になっている。

 

「射澄……!」

「やあ美玲おはよう。珍しいねこんな時間に学校にいるなんて」

 

 怒る美玲先輩とは対照的に涼しげな顔の射澄さん。

 僕は巻き込まれたくないので少し黙っておく。

 

「不法侵入、窃盗犯」

「先に燐くんの鞄を盗ったのは美玲だろう」

「違う、預かってただけ」

「デッキ交換の取引に利用したくせに」

 

 なるほど、射澄さんが強気な理由が分かった。

 何を言われても言い返せるからだ。

 事実、美玲先輩の言葉は綺麗に打ち返されて追い込まれている。

 

「大体何よ怪盗イスミって。馬鹿なの。こそ泥の小説でも読んだ?」

「こそ泥とは失礼な。私は盗られたものを取り返して、本来の持ち主に返した。言わば義賊だよ! それに、言い返せなくてそういうところを攻めてきても無駄だよ」

「……怪盗イカスミ」

「なんとでも言いたまえ」

「読書バカ」

「褒め言葉だねぇ」

「貧乳」

「胸なんて別にどうだっていい」

「尻デカ」

「……一応、燐くんがいるんだ。やめたまえ」

 

 ……あれ。

 

「プールの授業の時に座って出来た跡見てショック受けてたくせに。私のと比べて」

「美玲」

「私から借りたファッション誌の体型について書かれてたページをめちゃくちゃ読み込んでた」

「あのねぇ美玲……!」

 

 美玲先輩……。

 勝ち目がないからって射澄さんのあれこれを暴露するのは……。

 それにしても、案外気にしてるもんなんだな射澄さんも。

 

「燐くん! 出任せを信じてはいけないよ!」 

「デマじゃない。真実」

「……仲良しだなぁ」

 

 黙っているつもりだったが、ポロっと呟いてしまった。

 すると、二人の口論がピタリと止まった。

 

「……ともかく、次やったらただじゃおかない」

「私も美玲が燐くんの物を盗るようなことがないことを願っているよ」

 

 こうして、口論は終わったらしい。

 だが、美玲先輩の標的は射澄さんから僕に移ってしまうのだった。

 

「燐は早くデッキを渡して」

「……いやです」

「なんで」

「美玲先輩も……一緒にポイってしてくれるなら考えます」

 

 そう言うと、射澄さんが何故か笑った。

 何かがツボに入ったらしいけれど、おかしなことは言っていない。

 

「それは出来ないわ。……叶えたい願いがあるし、私は願いを守りたい……」

「守りたい……?」

「とにかくデッキは手放しなさい。いくら男とはいえ、ライダーになったらライダーに狙われる。戦うことになる。燐にそのつもりがなくても、ね……」

 

 そのつもりが、なくても……。

 昨日の彼女を思い出す。

 黒峰樹。

 射澄さんも僕も彼女と戦う気はなかった。しかし、彼女は僕達を殺そうとしていた。

 本気で。

 だから、僕や射澄さんを守るためにもデッキを壊して……。

 デッキを持っていればきっと、こういうことが続く。

 

「戦ってほしくないの、燐に」

「でも……」

「……一日、時間をあげるわ。よく考えなさい」

 

 僕にそう告げて、美玲先輩は図書室を後にした。

 戦ってほしくない。

 美玲先輩、僕のことを本気で心配しているようだった。

 あんな美玲先輩を見たのは始めて……。

 

 本当に?

 

 どこかで、見た記憶がある。

 

 それを、僕は……。

 

「本当に頑固だねぇ。それに、心配性だ」

「……そうですね」

「……さて、今後の方針なんだけれど、協力するんだ。出来る限り私の近くにいてほしい」

「は、はぁ……」

「この学校にはライダーが多い。学校にいるからといって仕掛けてこないとは限らないしね。お互いの安全のためにも。特に昼休みと放課後は二人で行動しよう」

「あ、放課後は部活あるので」

「え」

「あと今日の放課後は用事があってすぐ学校出なきゃで……」

「そんなぁ! それじゃあ私は安心して図書室に籠れないじゃないか! 君に護衛役をお願いしようと思ってたのに!」

 

 この人、僕のことを利用しようとしてた!

 なんて先輩だ。

 

「それなら早く帰ってください!」

「そうもいかないんだ! 持ち出し禁止の本を読みたいんだよ!」

 

 そんなこと知るかと僕は今日図書室には絶対行かないと誓った。

 予定があるのだ予定が。

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

 教室に入り、友人達に挨拶する。

 なにやら真面目な話でもしていたようで、朝から笑いをかっさらうムードメーカーの垣田くんもシリアスな顔をしていた。

 

「なんか暗いね。どうしたの」

「燐まだ聞いてないか……」

 

 そう言うと、佐藤くんが一度周りを見渡してから何の話をしていたのか教えてくれた。

 

「D組の黒峰、死んだって」

「えっ……」

「自殺らしいよ」

「しかもB組のさ……。燐が取材してた影守さんも、昨日家に帰ってきてないって。行方不明らしいよ」

 

 言葉が、出なかった。

 美也さんのことは分かっていたけれど、黒峰樹さんが死んだ?

 自殺?

 どうして、そんな。

 

「一限、自習になるかもな~。さっき職員室行ったら会議中だって」

「おい燐? どした?」

「あ……いや……」

「燐、仲良くなってたもんな。影守さんと」

「見つかるといいな」

 

 友人達の優しさが、今は痛かった。

 身体が引き裂かれるみたいに、痛かった。

 美也さんが見つかることはない。知っているのは僕ぐらいのものだ。

 黒峰さんだって……僕の、せいなのか?

 僕が彼女のデッキを壊してしまったからか?

 昨日の、彼女の取り乱しようが思い出される。

 彼女は、ライダー同士の戦いで願いを叶えようと貪欲であった。

 それを、僕が。

 彼女の希望を、願いを、奪ってしまった?

 それじゃあ、黒峰さんは……僕が殺した?

 

「おい……燐……。大丈夫か……?」

「……うん。その、見つかるといいね」

「そうだな……」

 

 ああ、またやってしまった。

 昔から、得意なんだ。

 心を、圧し殺すことは。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 本当に燐くんの奴め、来ないとは……。

 こういう時はなんだかんだ言っても来てくれるのがテンプレートじゃないか。

 テンプレートなものはありきたりとは思わない。

 テンプレートになるほど大事なことなのだと、私は思っている。

 そう、例えば今読んでいるこの……。

 

「失礼」

 

 読書中の私に話しかけるとは、無粋なやつ。

 

「……恋愛小説とは、意外なものを積み上げているな神前」

「意外とは失礼な。私はジャンルで本を読んでるわけじゃあない」

 

 思わず返事をしてしまった。

 仕方ない。本のことを言われるとつい反応してしまうのが私の悪い癖。

 そして、読書中の私に話しかけてきた無粋な輩はライダーになってから知り合った。

 石墨彩果。

 ライダーになってから知ったというからには、彼女もまたライダーである。

 個人的な印象は小柄な美玲。いや、美玲よりもお堅く真面目だ。美玲はあれで悪ノリには乗ってくるが、彼女は乗ってはくれないだろう。

 後頭部にまとめた髪はお団子。

 お団子……。

 食べたくなってきたな。

 

「それはまた失礼」

「君、いつもはさっさと帰ってモンスター狩りに勤しんでいたんじゃあなかったか?」

「そうだが、少しはライダー達の動向も探っておきたい。神前なら会話してもそこから戦闘にはならないだろうと判断した」

「それなら見当違いも甚だしいな。良いところで読書の邪魔をされて、君にストレスをぶつけたいところだよ」

 

 王道のラブストーリーを堪能していたところだったんだぞ、こっちは。

 出るとこ出たいぐらいには、怒っている。

 

「すまない。なら、手短に……咲洲はどうだ?」

「まったく代わりなし。頑固なものだねぇまったく」

 

 まあ、怒ったとて何か変わるわけでもない。

 戦いたいわけでもない。

 一呼吸置いて、石墨の質問に答えた。

 

「そう、か。ありがとう、いや、すまなかった読書の邪魔をして」

「ま、これからは気をつけたまえ」

「……また失礼を重ねるかもしれないが、今日は何故恋愛小説を?」

 

 何故?

 この神前射澄に本を読む理由を尋ねるとは。

 ……ま、これに関しては理由があるから答えてやろう。

 

「勉強だよ」

「勉強?」

「そう、恋心ってやつのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖山大学附属病院。

 この聖山市で一番大きな病院。

 そこに、10年ぶりに出会う幼馴染みの昏見夕花ちゃんがいる。

 正直、どんな顔して会えばいいか、何を話せばいいか、分からない。

 僕なんかが話していいものか。

 病院までの道中、重い足取りの中ずっと考えていたけれど答えは出ないまま到着。

 そこで、細身の中年の女性に声をかけられた。

 10年ぶりなので最初は分からなかったけれど、夕花ちゃんのお母さんだ。

 ……たしか、母さんと歳は変わらないはずだけどやつれているせいか老いて見える。

 挨拶もほどほどに、夕花ちゃんのいる病室まで案内される。

 エレベーターの中で二人きりになり、夕花ちゃんのお母さんは改めて僕を見ると微笑んで話し始めた。

 

「燐ちゃんも大きくなって……。お母さん似かしら?」

「あはは……たしかに父さんに似てるってあんまり言われないですね、僕も美香も」

「でも男の子だもの。大人になったらお父さんみたいにキリッてしてくるんじゃないかしら。そういえば美香ちゃん、バレーすごいんでしょ?」

「県のなんかにも選ばれて最近忙しいみたいで。今度は美香も連れてきます」

 

 そんな雑談をしていたら、いつの間にか夕花ちゃんの病室の目の前。

 個室のようだ。

 さて、ここまで来たら腹をくくろう。

 さっきの雑談である程度緊張も解れた。

 いざ!

 

「夕花、入るわよ」

 

 夕花ちゃんのお母さんが扉の前で声をかけると、中から「うん」と返事が。

 病気を患っているとは思えないような、明るい声だった。

 扉が開き、夕花ちゃんのお母さんの後をついて歩く。

 

「あ……」

 

 僕か、彼女か。

 いや、二人共だったのだろう。

 息のような、声を漏らしていた。

 ベッドの上の少女は十年という歳月を経ているけれど、すぐに彼女が昏見夕花ちゃんであると認識した。

 童顔で中学生に見えるけど、歳は僕のひとつ上。

 大きな瞳は僕を捉えて、ぱちくりと瞬きしていた。

 そう、ずっと瞬きをしていた。

 

「あの……えっと、燐です」

 

 気まずさからか、なんて挨拶しようか考えていたのにまったく格好のつかない第一声となってしまった。

 それでもまだ、夕花ちゃんは茫然としている。

 

「もう夕花ったら、せっかく燐ちゃんが来てくれたのに……」

「なんで……」

 

 ようやく、言葉らしい言葉を発した夕花ちゃんであったが、続いて出た言葉は衝撃的であった。

 いや、衝撃的が過ぎた。

 

「なんでりんちゃん、男の子の制服着てるの?」

「え?」

 

 聖山高校は男子は学ランで女子はセーラー服。

 最近はジェンダーフリーとかいうものもあるらしいが、我が校で採用する予定は今のところなさそうだ。

 ……いや、そうじゃなくて。

 

「せ、夕花、燐ちゃんのこと女の子だと思ってたの……? ずっと……?」

「だって、ずっとみんなりんちゃんって呼んでたし、可愛かったし……プールで遊んだ時、わたしの水着のお下がり着てたよ!」

 

 それについては僕も認識はしている。

 だが、記憶にはない。

 僕がまだ物心つく前の話で、母さんがまだ小さいからいいでしょと着せたらしい。

 ……それが原因で、彼女は僕のことをずっと女の子だと思っていたらしい。  

 

「えと、その……一応、昔から一人称は僕なんだけど……」

「ボーイッシュな子だと思ってたの!」

 

 さいですか。

 しかし、えーと、これは……一応謝るべきなのだろうか……。

 同性の友達と思っていたのに大きくなってから再会したら実は異性でした、みたいなものは漫画とかではあるかもしれない。

 それが今、この場で起きてしまっている。

 けれど、特にロマンチックな展開にはならないだろうこの場合は。

 妙な罪悪感に胸が痛くなってきた。

 

「ご、ごめんなさい……」

「謝らなくていいのよ燐ちゃん……!」

「いや、でも……」

「大丈夫だから気にしないで! そうだ……」

 

 夕花ちゃんのお母さんはそう言うと、扉の前まで歩いて僕達の方を振り向くと笑顔で言った。

 

「つもる話もあるだろうから、あとは二人でどうぞ」

「えっ!?」

「お母さん!?」

 

 それじゃあと静かに閉められる扉。

 気まずい沈黙が病室に充満した。

 

「……えーと、とりあえず座ってよ」

「う、うん……」

 

 ベッドの傍らの椅子に腰掛け、再び沈黙。

 何を、話せば、いいのだろう。

 

「……りんちゃん、もう高校生なんだよね」

「えっ……うん……」

「楽しい? がっこー」

 

 学校なら楽しい。そう答えようとして、言葉が詰まった。

 ライダーのことを思い出して。

 美也さん、黒峰樹さんのことを思い出して。

 

「りんちゃん?」

「あ……た、楽しいよ!」

「そう? いいなぁ。ねえねえ、りんちゃん聖山でしょ? 文化祭すごいって、おかあさん言ってた」

「うん。部活もいっぱいあってそこらの学校の比じゃないぐらい盛り上がるんだ」

 

 それからだっただろうか。

 十年という月日の壁は取り払われて、かつてのように話をすることが出来た。

 夕花ちゃんは目をキラキラとさせて学校の話を聞いていた。

 学校に行くことが叶わなかった夕花ちゃんにとって、僕のなんてことない日常は眩しく映ったのだろう。

 

「いいなぁ、がっこう。わたしも……」

「夕花ちゃん……。そうだ、文化祭に向けていろんな部活を取材するんだ。だから、今度はその話しよ?」

「ほんとう! そうだなースイソウガクブが気になる」

「吹部ね、了解」

 

 スマホのメモアプリに吹部のことを記録して……。

 唐突だが、雉を撃ちに行きたくなった。

 

「ごめん夕花ちゃん。ちょっとトイレ行ってくるね」

「うん。いってらっしゃーい」

 

 病室を出て、トイレへ。

 ……雉撃ち終わり。

 とはいえ、雉を撃つような体勢にはならず。今時、和式のところもなかなかないけれど。

 手を洗うと、目の前には大きな鏡。

 鏡。

 

「……」

 

 どうしても、美也さんと黒峰さんのことを思い出してしまう。

 どうして、こんな……。

 後悔に苛まれた瞬間、激しく鋭い頭痛に襲われた。

 

「ぐ……! モンスターか……!」

 

 頭の中に響く音にはまだ慣れない。

 それでも、こうして痛みに悶えている時間はない。

 こんなことをしている間にモンスターは人を襲う。

 人が、死ぬ。

 美也さん、みたいに。

 なんの罪もない、関係もない人達が死ぬ。

 そんなことを許してはおけない────!

 

「変身!」 

 

 ツルギへと変身し、鏡の中へ。

 大勢の人がいるはずの院内には、まるで人の気配はなくなる。

 いるのはただ、モンスターだけだ。

 

『シャァァァ……』

  

 赤と黒の怪人が、僕を見つめる。

 怒っているようだった。食事を邪魔されて、だろうか。

 ふざけるなよ。

 お前らなんかに、お前らなんかに奪われていい命なんてない!

 

『シャッ!』

 

 モンスターは巨大な手裏剣のような武器を手にして迫る。

 こんな狭いところで、そんなでかいものを。

 案の定、振りは大きく回避は容易い。

 だが……。

 

「……!」

 

 得物のせい、だろうか。

 モンスターに昨日戦った、黒峰樹が変身していたライダーの姿が重なった。

 

「チッ……」

 

 彼女とモンスターであるこいつは違う。

 モンスターは、殺していい奴等だ。

 こいつを殺さなければ、誰かが殺される。

 その誰かはもしかしたら、夕花ちゃんかもしれない。

 そうでなくとも、人が死ねば誰かが悲しむ。

 そんなこと、そんなこと。

 

「させるかぁ!!!」

 

 斬撃を躱してモンスターの顔面を殴り飛ばし、デッキからカードを抜いてスラッシュバイザーに装填。

 

【SWORD VENT】

 

 ベルトのハードポイントに装備されたのは、二振りの短剣。一振りは右手に、もう一振りは右腰に提げていた。

 ドラグダガーを手にし、切先をモンスターへと向けて歩み寄る。

 

『シャ……!』

 

「……」 

 

 モンスターは震えているようだった。

 怯えている?

 ああ、こいつらも恐れを抱くということはするのか。

 しかし、命乞いは出来ないらしい。

 

『シャァァァ!!!!』

 

 モンスターは命を投げ捨てたようであった。

 飛びかかって来るモンスターの姿はスローモーションに見えた。

 すれ違い様に、胴を切り裂き、背中を後ろ蹴りで吹き飛ばす。

 だめ押しにドラグダガーを投擲すると、モンスターは巨大手裏剣で防いでみせた。それで勢いづいたのか、再びモンスターは挑みかかる。

 けれど、こちらにはもう一本ドラグダガーがある。

 右腰に提げたドラグダガーを逆手で抜刀し、袈裟に斬り上げる。

 更に、斬り上げからの刺突。

 首筋目掛けて振り下ろすが、モンスターの反応がなかなか速かった。

 飛び退くモンスターは壁に張り付いてそのまま逃亡。

 ヤモリのような奴。

 だが、逃がしはしない。 

 先程モンスターに弾かれたドラグダガーを回収し、二振りとも投擲。

 プロペラのように回り、風を斬るドラグダガーはモンスターの首筋と脇腹を切り裂くもモンスターは逃げ続ける。

 いよいよ、壁をぶち破り外へと逃げるが……そのダメージではもう思うようには動けまい。

 モンスターが破壊した壁から外を見下ろす。

 無数に車が並ぶ、病院の駐車場を命からがらと逃走していた。

 

「……終わりだよ」

 

 スラッシュバイザーとカードを抜いて、終わらせる。

 

【FINAL VENT】

 

 助走をつけて、空へと飛び出る。

 飛び蹴りの体勢を取ると、背後に飛来してきたドラグスラッシャーが追随し、両翼から黄金の斬撃波を放った。

 斬撃波は十字となって僕に纏いつき、一気に加速。

 風を斬る音に気付いたのか、モンスターは肩越しにこちらを見た。

 それが、最期の景色。

 

 スラッシュライダーキック。

 

 モンスターはキックの打撃と斬撃波に切り裂かれる。

 四つの部位に切り刻まれたモンスターを貫いて、着地。瞬間、爆炎に包まれる。

 

「……終わった」

 

 戦いが終わり、空を見上げていた。

 モンスターのエネルギーが輝きを放ちながら上昇していた。

 ちっとも、綺麗だとは思わない。

 そんなものを、ドラグスラッシャーは捕食していた。

 モンスターとの契約。

 こうして、ライダーは契約モンスターに餌を与えなければいけないという。

 与えないと、契約違反となってモンスターに喰われる。

 なるほど、あのアリスという少女は考えたものだ。

 たしかにこうすれば、ライダーは必然的にモンスターの食事のためにミラーワールドに赴かなければいけない。

 そうして、ライダー同士が出会うこともあるのだろう。

 モンスターとの戦いは、ライダーとの戦いに。

 

「ふざけてる、そんなの……」

 

 拳を強く握り締める。

 こんなこと、絶対間違って────。

 

【FINAL VENT】

 

「えっ……」

 

 遠く、何か獣の声が聴こえた気がした。

 それを最後に平衡感覚を奪われ、視界は狭まり、黒に染まる。

 何が、起きて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れるツルギのもとへ歩み寄るライダーが一人。

 暗い紫のアーマー。右肩にはマントを纏い、何よりもその鉄仮面の角に目がつく。

 何か獣の角か。見ようによっては、悪魔の角にも見えてくるだろう。

 

「……」

 

 ツルギを足下に、ライダーはクロスボウを構えた。

 後頭部に狙いを定め、トリガーに指をかける────。

 

「ごめんね……」

 

 幼げな少女のか細い声。

 仮面越しに曇り、なにより意識のないツルギには届かぬ謝意。

 震える指で、トリガーを引く。はずだった。

 風を切る音が迫る。

 

「きゃっ!?」

 

 クロスボウを弾き飛ばしたのは、上空から放たれた矢であった。

 そして舞い降りる、青い翼の弓使い。

 そのライダーが地上に降りると、背中の翼は外れる。その翼は、青いライダーの契約モンスターであった。

 青い鷹に似た巨鳥の名はガナーウイング。

 黄金色の鋭い瞳が、角のライダーを睨み付けていた。

 ガナーウイングと同じく、青いライダー……仮面ライダーアイズもまた角のライダーを射抜くような視線を向けていた。

 

「謝るぐらいなら、やめたら」

 

 冷たく、角のライダーへと言い放つと、青い翼を模した弓に矢を番える────。




新キャラクター紹介

・石墨彩果 原案 teru@T様
・昏見夕花 原案 夜野千夜様

ご協力ありがとうございます!
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