仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral   作:大ちゃんネオ

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Encounter Girls

 目の前が暗くなったかと思ったら、急に正常な視界を取り戻した。

 病院の駐車場で、モンスターを倒した後もあって……。

 

「ふふふ……」

「君は……」  

 

 こちらを見つめ、妖しく微笑む悪魔の角を生やしたようなライダーがいた。

 ライダーは嘲笑い、僕を見つめるだけ。

 陽炎のように揺らめき、ライダーの姿は霞む。

 攻撃してくる様子はない。だが、敵意は感じる。

 不気味。

 幽霊とでも遭遇したかのようであった。

 

「なんなんだ、君は」

「ふふふ……ふふふ……」

 

 角のライダーは嘲笑う。

 お前は既に攻撃され、黄泉比良坂を転げ落ちているのだぞと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺意というものを抱くなんて、あり得ないと思っていた。

 誰かを殺してやりたくなるようなことなんて、無縁だと思っていた、けれど。

 まず、最初にして最大の殺意が芽生えた。

 アリス。

 こいつだけは、なんとしても殺さなくてはいけない。

 そして今。

 ……正直に言うと、私は他のライダーに対して殺意というものを抱いたことはなかった。

 殺し合いに参加しておいて何を、と他のライダーは言うだろう。

 けれど、実際そうなのだから仕方がない。

 いまいち、他のライダーを心から殺したいとは思えなかった、のだが。

 

「こいつだけは別ね……」

 

 仮面の中、呟く。

 足下には倒れるツルギ、燐。

 初めて相見えるライダーであるが、燐の命を奪おうとした。

 ああ────。

 

「殺すには、充分過ぎる────」

 

 番える矢から青い炎が噴き出して、角のライダー目掛けて放つ。

 並のモンスターなら一撃で仕留めることも出来る威力だ。

 

「ひっ……!」

 

 角のライダーは小さく悲鳴を上げ、咄嗟に頭を抱えながら屈んだ。

 舌打ち。

 背中に装着されている矢筒から次の矢を取り出す。その間に、角のライダーも地面に落としていたクロスボウを拾い上げて矢を放ってきた。

 けれど、ろくに狙いも定めていない矢が当たるわけもない。

 赤い鏃の矢が右に逸れていくのを冷静に見つめながら、二射目。

 

「きゃっ!?」

 

 再び、舌を打つ。

 今度は自分からクロスボウを盾にして防いだ。

 それにしても、こいつ……。

 いや、考えるのはやめよう。

 こいつのことを考えるのは無駄なことだ。矢も鈍る。

 このままトドメを刺すことだけを考え────。

 いや、優先事項が出来た。

 燐の消滅が始まってしまった。

 足下に倒れる燐の白い鎧が粒子となって少しずつだが消えかかっている。

 他のライダーなんかより、燐の方が大事だ。デッキから契約モンスターであるガナーウイングが描かれたカードを引き、左手に備わる弩型の召喚機に装填。

 

【ADVENT】

 

「来なさい、ガナーウイング」

 

『キュオォォォン!』

 

 耳をつんざく鳴き声と共に、風を裂いてガナーウイングが現れる。

 今は一刻も早く、燐を連れてミラーワールドから脱することが最優先。

 角のライダーは戦意を失くしたのか動きはない。

 この隙に、ガナーウイングに燐を運ばせて人目のつかない場所からミラーワールドを後にする。

 ……あいつは、もしまた会うようなことがあればその時に殺そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドの近くに置かれた小さな鏡から少女は現れた。

 少女、昏見夕花はベッドに倒れ込み荒れた呼吸を整えようとしていた。

 

「あの人……つよい……」

 

 息も絶え絶えに、夕花は呟いた。

 確実にツルギを仕留めることが出来た。しかし、彼女が現れてしまった。仮面ライダーアイズの乱入。

 こうなってしまうと、夕花には辛い。

 病に冒された身体を、デッキの力で誤魔化しながら戦う。

 戦うと言っても、ファイナルベントによる奇襲でライダー達を眠らせ、身動きの取れなくなったところを仕留める。戦いというより、狩りに近いようなもの。

 ゆえに、あの展開でアイズが現れてしまうと不利になってしまうのだ。

 今回はツルギを救出することを優先し、退いてくれはしたが次はそうはいかないかもしれない。

 

「わたしが勝つには……」

 

 確実に、誰の邪魔も入れることなく、ライダーを始末していく。

 難しいかもしれないが、やりきらなければいけない。

 

 わたしは、ライダーの誰よりも、生きたいと願っているから────。

 

「そういえば、りんちゃん遅いな……」

 

 トイレに行ったきり、戻ってこない。

 こんなに長いものかな?

 もし、あのモンスターに食べられちゃってたりしたら……。

 

「大丈夫だよね……」

 

 モンスターはあの白いライダーが倒したみたいだから、平気なはず……。

 きっと、お腹の調子が悪いんだ。

 そう思い込むことにして、りんちゃんを待とう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 角のライダーの嘲笑う声が消えていく。

 かわりに、少しずつ聞こえてくる声。

 

『……ん。……り……。……燐』

 

 あ……美玲先輩の、声?

 

『燐くん』

 

 墜落していく。

 立っていた場所に、急に底なしの穴が空いたかのような突然の落下感覚。

 目が見開き、身体が起き上がる。

 反射的な動作。呼吸は荒く、前触れのない覚醒に身体がついていけていないようだった。

 

「燐」

 

 声に反応して振り向くと、美玲先輩がいた。

 いつもと変わらぬ、感情を悟らせぬ顔。いや、心配してくれている……?

 ともかく美玲先輩の姿を見て、ようやく視覚を取り戻したかのような感覚に陥る。

 あまり人気のない公園のベンチで寝かされていたようだった。

 少しずつ、自分が置かれている状況も飲み込めてきた。

 ミラーワールドでモンスターを倒してから、謎のモンスターの鳴き声を聞いて────眠ってしまったのか。

 そうであれば、先程のは夢。 

 悪魔みたいな角を持ったライダーが嘲笑い続けていたのだ。

 そこから……どうして、美玲先輩が?

 

「大丈夫?」

「えっと、なんで美玲先輩が」

「……たまたま病院の近くにいたら、燐がライダーにやられそうになってたから助けたのよ」

 

 そっか、たまたま美玲先輩が病院の近くにいてくれたのか……。

 運良く助かった……。

 

「それは……ありがとうございます」

「怪我とか、してない?」

「大丈夫です。そういうのは、全然」

 

 何をされたの?

 そう訊ねられたので、起こったことを正確に話した。

 夢のことも。

 

「……なるほど。凶悪ね。ミラーワールドにはライダーとて10分程度しか存在出来ない。眠らせて、そのまま放置してしまえば後は勝手に消えてくれる」 

 

 そこまで話して、美玲先輩は何か気付いたようで顎に指を当てる。

 

「でも、わざわざ燐にトドメを刺そうとはしていた……。眠らせるだけでは、足りないということ……? 燐、夢の中にもそのライダーがいたのよね?」

「はい。ずっと、なんか笑ってて不気味で……」

「そいつとは戦ったりした?」

「いえ……。向こうも、手を出してくる様子もなかったですし夢の中とも思わなくて……警戒だけして……」 

「なるほど。仮説だけど、恐らく眠りから覚める方法もあるのよ。そうじゃなければ、わざわざトドメを刺そうとする理由はないわ。……ライダーの中身が、どうしても自分の手で人を殺したいような奴じゃない限り」

 

 思わず唾を飲み込んだ。

 どうしても自分の手で人を殺したいような奴という言葉に、真実味のようなものがあったからだろう。

 美玲先輩はそんな異常者を知っているように思えた。

 

「ライダーは基本的にはそこらに普通にいるような女子ばかりよ。けど、今はだいぶ数が減ってきて癖の強い奴等ばっかりになってきているから、気を付けなさい」

 

 だいぶ、数が減ってきている。

 何気なく言われたその言葉が突き刺さった。

 こんなことのために、命を落とした少女達がいるのだと痛感させられる。

 ライダーとなった少女以外にも、この街の人々だって……。

 なんの関係もなかったのに、理不尽に巻き込まれて死んでいっている。

 さっきはたまたま病院にいたから、あそこでモンスターに襲われる人を出さずに済んだけれど……。

 

「……ん?」

「どうかした?」

 

 一気に、背筋が冷たくなった気がした。

 それを思い出して。

 

「……病院!」

「え、ちょっと、燐!」

「すいません美玲先輩失礼しますぅ!」

 

 急げ急げと走り出す。

 幸い、病棟が見えるぐらいの距離ではあるので時間はかからないだろうけれど。

 それにしたって、トイレに行くと席を経ってから30分近く過ぎている!

 なんて言い訳しようかと、考えながらダッシュ!

 

 

 

 

 

 一人、公園に取り残された美玲は茫然と燐を見送った後、視線を下げた。

 紺色のスカートを撫でる。

 先程まで、燐の寝顔がそこにあった。

 ミラーワールドから出て、燐が目覚めるまで……といっても、ごく僅かな時間であったが美玲は燐に膝枕していたのだ。

 それを、燐はまるで気付いていない様子だった。

 腹立たしい。

 少しは意識しろと思う。

 まあ、今回は眠った原因が原因だ。それどころではなかったのだろうと自分に言い聞かせて怒りを鎮める。

 鎮めると、あることを思い出して思わず声を漏らした。

 

「あ、あぁぁぁ……」

 

 頭を抱え、太ももに向かって美玲は呻いた。

 

「……デッキ、取り上げておけばよかった……」

 

 仕方がない。

 燐の寝顔が悪い。

 私のせいじゃない。

 また、自分に言い聞かせる。

 そんな様子を、公園に遊び来た女の子が目撃していた。

 

「おねえちゃんなにしてるのー?」

「……後悔」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走ってきたことを悟られぬよう、息を整えてから病室に入った。

 苦笑いを浮かべながら。

 

「あ、あはは……ごめんお待たせしました……」

「りんちゃん……!」

 

 夕花ちゃんの頬が、フグのように膨らんでいた。

 そ、そんなに怒ることかな……!

 

「あ、えーと、トイレがちょっと大変で……あはは……」

「むう……!」

 

 睨んでいる……。

 すこぶる機嫌が悪い。

 どうするべきか……。

 

「あ、あの、下のコンビニで何か買ってきますので許していただけないでしょうか……? な、なにか甘いもの……! アイスとかさ、好きだったよね! まだ暑いし……」

「りんちゃん!」

「は、はい!」

「そんなものじゃ釣られないよ!」

 

 うっ……。

 

「ごめんなさい……。そうだよね、もので釣るような真似までして……。本当にごめんなさい……」

「えっ! あ、いや、そんなに反省しなくても……。……じゃあ桃のゼリーとバニラアイスでゆるしてあげちゃいます」

「……! 分かった! 買ってくるね!」

 

 コンビニに向かおうとすると、夕花ちゃんが呼び止めた。

 夕花ちゃんは身体を寝かせると、どこか眠そうな声で言った。

 

「……ふぁ~。今日はつかれちゃったから、ゼリーとアイスはまた今度ね。あと、学校のお話、また聞かせてね……」

「……うん。分かった。また来るよ」

「りんちゃん……。約束だよ」

「うん、約束」

 

 約束と言うと夕花ちゃんは微笑んでくれた。そして、間を置かずに穏やかな寝息が聞こえてきた。

 起こさないように小さく、おやすみとだけ呟いて病室を後にする。

 約束。

 桃のゼリーとバニラアイス。

 そして、学校のお話。

 吹奏楽部に興味があるというのでこれは必ず。あとは、文化祭に向けた各部の活動の様子を取材した時の話なんかもいいだろう。

 ……10年ぶりの再会。

 そして、お別れへのカウントダウン。

 あんなに元気な様子でいたけれど、余命宣告を受けている。

 

「……いや、あんまり考えないようにしよう」

 

 そうだ、余命宣告以上に長生きした人だっているのだ。

 きっと、夕花ちゃんだって……。そう、信じたい。

 元気に、生きる力みたいなものを与えることが出来ればもしかしたら……。

 ささやかなものかもしれないけれど、僕は夕花ちゃんの最期のためではなく、夕花ちゃんが元気になるために、夕花ちゃんに会いに行こう────。

 

 

 

 本当に、それだけの理由なのか。

 影守美也と黒峰樹の死から、目を背けたいだけじゃないのか。

 誰かを救えば、二人の死を精算出来ると思っているのか。

 

 そんな声も、僕は切り捨てた。

 

 

 

 

 夕花ちゃんに学校の話を聞かせてあげる。

 そうと決まれば、あとは早かった。

 

「新聞部の御剣です! 取材に参りました!」

「け、軽音部の輝渓二星です……! 軽音部は先輩がいないので、一年生しかメンバーがいないので私が部長をしてまして……。あ、よかったら聴いてってください私達のロックを! しゅ、取材のためにもなると思いますので聴いてください私達のハートとビートを!!!」

「わ、分かりました聴いていきますけどとりあえず順序通り取材をですね……」

「はうっ……すいません緊張しててつい……」

「大丈夫です。二星さんのペースでお話していただければ……!」

 

 軽音部、よし。

 

「演劇部では~部長が脚本を書いたオリジナルの作品を上演する予定です~」

「そうなんですね……」

「……」

「MBTI診断って分かります~? 職業の適性が~ってやつで~あれに支配された世界で自分がなりたい職業に就くために叛逆するって物語なんです~」

「なるほど……。ところで、久遠さん……」

「はい~?」

「その、そちらの方は……」

「あ~麗美ちゃん~? この子は私のペットみたいな可愛い後輩なんです~」

 

 演劇部の久遠綾姫さんの背後にまるで幽霊のように佇む女子生徒が一人。

 その少女の名前は知っている。

 氷梨麗美。

 一年生で、ある意味有名人。

 特に男子が噂するのはその……あまり言いたくはないのだけれど、なかなかに立派な二つの山をお持ちで……。

 夏の水泳の授業なんて、男子だけでなく女子までその山に視線が釘付けになっていたとかなんとか。

 だが、何よりもその人となりが話題にあがるだろう。

 左目を前髪で隠し、よく一人でいるはずなのに誰かと会話しているように何かを呟いているという。

 いわゆる、危ない人として有名。

 触らぬ神になんとやらで、あまり彼女に近付く人はいないと思っていたのだが、まさかこんな人がいたなんて。

 それにしても後輩をペットて。

 

「綾姫……なぐっ……」

「もう麗美ちゃんったら、邪魔しちゃ駄目よ~。ごめんなさいね~」

「ああ、いや、いえ……」

 

 演劇部、ひとまずよし。

 

「君~? なっちゃんのこと知りたいって子は~? この一年生ながらに大人気の放送部員、玄汐夏蜜柑の魅力をしっかり伝えてね~」

「御剣ぃ! てきとーな記事書いたらどうなるか分かってるよなぁ!」

「コポォ!」

「なっちゃんファンクラブ全員でお前をなっちゃんオタクに染め上げてやるブヒィ!」

「ただの布教じゃん」

 

 チッ……うるさいオタク集団達め……。

 

「あ、そういえば夏蜜柑さん。毎朝家に新聞届けてくれてありが────」

「な~~~! ちゃんッ! スペシャル!」

「んー!」

「なっちゃんがなんだって?」

「新聞がどうとか聞こえなかったか?」

「みんな~ちょ~っと待っててね~。お返事は~?」

「ブヒィ!!!」

 

 口を塞がれたまま、放送部の部室から連れ出されるとお隣の視聴覚室前にぶちこまれた。

 

「あんたねぇなんで私が新聞配達のバイトしてんの知ってんのよ!?」

「いやぁ、朝早くにたまたま目が覚めた時にカーテン開けて外見たら、あれ? 今の夏蜜柑さん? って」

「って、じゃないのよ! いい? それ絶対他の誰にも言うんじゃないわよ!」

「え、なんでですか?」

「ダサいでしょ新聞配達のバイトしてるなんて! キャラにあってない!」

「そうかな~? 偉いな~って思いますよ。ギャップ萌えとかあるじゃないですか」

「~~~っ! とにかく! 絶対に言わないでよ! 言ったらあんたの身体中の穴という穴にイヤホンぶちこんで私のASMR音声流してやるんだから!」

「はーい」

「本当に分かってるの!?」

 

 ふふ、駄目だ。

 この人面白い。

 なるほど、素はこんな感じなんだ。

 ネコ被ってんなぁ。

 まあ、何はともあれ取材は受けてもらって放送部よしと。

 そして、肝心の吹奏楽部。

 吹奏楽部はパート毎に教室で分かれている。音楽室のある二階にやってくると、あちこちから主に管楽器の音が聞こえてくる。

 取材場所は、音楽室。

 

「お疲れ様です~。新聞部で~す」

「お、来た来た。おいで~」

 

 入室すると、特に楽器の練習をしている様子もない生徒から声をかけられた、のだが。

 おお、ギャルだ。

 吹奏楽部にもこういう人いるんだなぁ。

 スカート短いし、髪の毛すごいなぁ。

 くるっくるしてる、くるっくる。そして金髪。

 髪に関して特に校則でも定めてないうちでもなかなかにここまでやる人はいない。

 日焼けサロンにでも行ってるのか浅黒い肌。

 メイクもバッチリ決まっている。

 すごいなぁ、吹奏楽部とは思えないというと両者に失礼か。

 

「御剣燐です。よろしくお願いします」

「うぃっす。アタシはねーラブって呼んでー」

 

 ラブ?

 本名だろうか?

 まあ、いてもおかしくはなさそうだし、失礼だけれどそういう名前をしてそうだ。

 

「んー? 気兼ねなくラブって呼んでよ~」

「あはは、はい。ラブさん」

「さん付けやめろし。あぶさんみたいじゃん」

 

 そこであぶさんが出てくるのもなかなかだなこの人。

 

「えーと、じゃあラブ先輩」

「えーやだー堅苦しすぎー。ラブでいいからラブで」

「あー……じゃあ、ラブ……」

「は~い!」

 

 いい笑顔で返事をされて、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 

「あ、敬語も無しね~。堅苦しいのヤだから」

「あ、あはは……そうなん、ですか?」

「ほらもう敬語使ってる~! リンっちとアタシの仲なんだから気にしないでいいってば~」

 

 そう言って、ラブさんは自然と僕の左腕に絡み付いてきた。

 二の腕をつうとなぞられ、背筋にこれまで感じたことのないような感覚が走る。

 

空崎(くうざき)!」

 

 身動きが取れなくなっていると、怒鳴り声が響いた。

 演奏中だった部員の皆さんもそれぞれの楽器を吹くのをやめて、怒鳴った人物に注目していた。

 怒鳴ったのは、ラブさんとは正反対の人物であった。

 黒髪を肩のあたりで切り揃え、きちっとした黒縁の眼鏡をかけた女子生徒。

 完全な委員長タイプだ。

 

「……チッ」

 

 ラブさんが舌を打った音であった。

 小さかったけれど、密着されていたので僕の耳には届いていた。

 

「なにー? そんな怒鳴んなし」

「いいから、彼から離れて。空崎には関係ないから」

「はーい」

 

 案外、あっさりとラブさんは引き下がってくれた。

 

「はあ、堅物来てつまんなくなったから帰るわ」

「空崎! またサボるの!」

「別にいいでしょー。最後の演奏とか興味ないからさ。それじゃあね、リンっち」

 

 僕には笑顔で手を振り、ラブさんは帰っていった。

 その姿を見送り、眼鏡の女子生徒はため息をつく。

 率直に申し上げると、僕には何がなんだかでついていけていない。

 そんな様子を見かねてか、眼鏡の女子の先輩が優しく声をかけてくれた。

 

「ごめんね、あれに絡まれるなんて……。部活来てないと思ってたから」

「いえ……。あの……ラブさんは吹奏楽部、なんですか?」

「ま、一応ね。あんなじゃなかったんだけど……。とにかく、気を付けた方がいいよ、君」

 

 気を付けた方がいい?

 そんな言葉に、間抜けな「え?」という声が出てしまった。

 すると、別の女子の先輩が色々と教えてくれた。

 

「あいつに気に入られたの、分かんない? あいつはねぇ、気に入った男がいたらすぐに手ぇ出す奴だから気を付けてってこと」

「なんか誘われても断るんだぞ~。まあ、そういうの苦手そうだけどね、君」

「あいつに彼氏取られた~とかそんな話聞くよね~」

「この間、大学生っぽい人達と屋戸岐いたってよ」

「マジ?」

「ほんと、名前通りだよね~」

 

 ラブさんに対する言葉達を遮るように、眼鏡の先輩が手を叩いた。

 

「はい練習に集中! ごめんなさいね。そもそも私が遅れたのが悪いんだし、君は気にしないで。それじゃあここだと煩いから別の教室行きましょうか」

「はい……」

 

 音楽室を出て、別の教室へ。

 その道中、ふと気になることを訊ねてみた。

 

「あの、すいません」

「なに?」

「その、ラブさんのお名前……名字はクウザキっていうんですか?」

「あー……そう。空に北山崎の崎で空崎。空崎愛舞穂(らぶほ)

 

 フルネームを知った瞬間、僕はフリーズした。

 世の中には、いろんな名前があるものだ。

 そう、自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴羽~起きろよ鳴羽~」

 

 3-C教室。

 放課後なので当然、生徒の数は少ない。

 そんな教室でヘッドホンを耳に当て、机に突っ伏す一人の少女の肩を揺らす空崎愛舞穂。

 寝ていた少女は不機嫌そうに欠伸を漏らしながら身体を起こした。金に緑の混ざった長い髪が揺れ、ヘッドホンを耳から外して首にかける。少々不健康そうに見えるような白い顔で寝惚けた目をこすり、半目で愛舞穂を見上げると、間延びした声で返事をした。

 

「なーにー? 寝てたんですけどー」

「ヤろうぜ鳴羽~」 

「はあー?」

 

 赤紫色のデッキを見せつけ、にんまりと笑う愛舞穂に対し鳴羽という名の少女は呆れた顔を浮かべた。

 

「またー? ムカつくことあったらあーしと戦うのやめなー」

「いーじゃん別に~。なんだかんだ言ってノってくれるしさぁ」

「まあねー。戦わないと終わんないしー」

 

 ニヤリと笑みを浮かべ、鳴羽はメタリックグリーンのデッキを見せることで返事とした。

 

「それでー? どこでヤんのー?」

「ここ」

「えー? マジー?」

「誘われてバンバンやってくるかもね~。虫がさ」

「虫はあーしらでしょー」

 

 そう嘯く鳴羽と愛舞穂のデッキにはそれぞれ、蝉と百足の紋章が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、それじゃいっちょやるかー」

「毎回思うんだけど、トイレで変身はないんじゃないー?」

 

 場所を移し、女子トイレ。

 手洗い場の鏡の前に愛舞穂と鳴羽の二人は立っていた。

 

「いーじゃん。誰にも見られないとこってここぐらいだしさぁ」

「そうだけどさー」

 

 文句をつきながらも鳴羽はデッキを鏡に翳し、銀色のベルト「Vバックル」を召喚し装着。

 それを見て愛舞穂は好戦的な笑みを浮かべ、同じくデッキを鏡へと向けてVバックルを巻き付ける。

 

 鳴羽は両手で耳を押さえ、相手を見下すように首を傾げ不敵に笑う。

 愛舞穂はデッキを突き出した左腕をピアノのように右手が弾奏し────。

 

「へんしんー」 

「変身っ」

 

 鳴羽にはメタリックグリーンのアーマーを纏い、オレンジ色のマフラーが首元から伸びていた。

 仮面はヘッドホンのようなものが両耳を覆っているのが特徴的。

 名を、仮面ライダーバンジィ。

 

 愛舞穂が纏うは赤紫。

 全身のアーマーに棘のような装飾が施されており、それは百足の脚を模した物。

 触覚のような二本の角を持ち、迷宮のようなソリッドから敵を見つめていた。

 仮面ライダーテレドラという名を愛舞穂は気に入っていた。

 

「それじゃあ楽しもうぜ~」

「今日こそあーしに殺されるかもね~」

 

 くすくすと嗤いながらバンジィは背から鏡に吸い込まれていく。

 バンジィの言葉を鼻で笑い、テレドラもまたミラーワールドへと向かう────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹奏楽部の部長さんへの取材を終えて、家に帰ろうと校舎の階段を降りていた。

 そんな時、話し声や楽器の音に混じって違う音が耳をつんざいた。

 その音を聞いた瞬間、身体が強張る。

 戦いの音、だ……。

 

「……」

 

 ポケットの中のデッキに触れる。

 止めないと、誰かが死んでしまう。

 止めないと、誰かが殺してしまう。 

 

「でも……止めて、いいのか?」

 

 黒峰樹さんのように、戦いを止めてしまったから、自ら死を選ぶなんてことになってしまうのではないか。

 僕の、せいで、人が……。

 鳴り響く戦いの音に耳を塞ぐ。

 僕は……。

 目の前の鏡に映る自分がいた。

 この鏡は、初めて僕がミラーワールドに入った鏡であり、同時に美也さんを飲み込み、死へと追いやった鏡。

 

「美也さん……僕は……」

 

 美也さんの死の原因であるミラーワールド。

 美也さんだけじゃない。ライダーである人達も、ただこの街で暮らす人達も、ミラーワールドのせいで死んでいる。

 こんな、鏡なんかのせいで……!

  

 デッキを、鏡に映していた。

 ベルトが巻かれ、居合のように舞い────。

 

「変身!」

 

 純白の鎧を纏う。

 誰も死なせたくない。

 もう、これ以上。

 だから僕は、剣になる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実の世界では運動部が青春に汗を流す校庭も、ミラーワールドでは闘技場のひとつに過ぎない。

 広い土地を二人で独占し、その少女達は殺しあう。

 メタリックグリーンのライダー、バンジィは蝉の羽に似たクリアーな双剣を巧みに操り、赤紫のライダーテレドラはムカデがそのまま剣となったような奇剣を豪快に振り回していた。

 

「あっはっはっ! やっぱ戦うって楽しすぎ~!」

「うわーやばー。セントーキョー? じゃん?」

「鳴羽も楽しんでるっしょ!」

「おっと。まーねー」

 

 豪快な一閃を紙一重で回避し、距離を取ったバンジィは双剣をだらりと下げながらテレドラの様子を見る。

 が、ここで第三者の登場となった。

 

「んー?」

「おっ!」

 

 校庭を突っ切って走るライドシューター。

 バンジィは仮面の下でめんどくさそうな表情を浮かべ、テレドラはご馳走が来たというような歓喜の表情を浮かべる。

 停止したライドシューターのフードが上がっていくと、現れる純白の鎧。

 太刀の刀身のような鋭いバイザー状の複眼が緑色に発光し、バンジィとテレドラを睨み付けているかのよう。

 

「初めて見る子だね~。名前はなんてーの?」

 

 ライドシューターから降りる剣士にテレドラが問いかける。

 

「僕は……」

 

 その言葉に、バンジィとテレドラは怪訝な顔をする。

 仮面でくぐもってはいたが、男の声だったからだ。

 

「僕は、仮面ライダーツルギ……。戦いをやめてください!」

 

 ミラーワールドに名乗りを上げたツルギ。

 そんな少年の言葉を、少女は。アリスは聴いていた。

 

『どうして燐くんはそんなに……()()()()()()()

 

 誰に聞かれることもなく、アリスの独白は夕陽に消えていく。

 逆光にシルエットだけを浮かばせるアリスの表情は、伺えなかった。

 




TVSP新キャラクター
仮面ライダーメア 
原案 夜野千夜様

夏音鳴羽/仮面ライダーバンジィ
原案 春風れっさー様

素敵なキャラクターありがとうございます!
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