仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral 作:大ちゃんネオ
あまりのことに、思わず口を手で覆っていた。
「射澄……」
「なんだい?」
「まさか……射澄が恋心を理解するようになるなんて……」
「ははは、失礼だな相変わらず」
冗談はさておき。
「女子会の意味がようやく分かったわ。まさか、射澄と恋ばなすることになるなんて」
「私も思ってもみなかったよ。まあ、物騒な話も付録でついてくるんだけれど」
物騒な話。
それもそうだ。射澄なら、このことに気付いた時点で様々な疑問に辿り着くだろう。
さて、何から話したものか……。
「それじゃあ本題に戻って……燐くんのこと、好きなんだね」
「ええ。愛してる」
「そんな台詞を真顔で言えるの流石だよ」
事実だし、もう隠すようなことでもない。
射澄相手であるし。
「ふむ、愛する彼をこんな戦いに巻き込みたくないというのは納得だ」
「でしょ」
「そうだね……。ただ、戦いに巻き込ませようとしないのはアリスも、なのだろう? 燐くんが男だから?」
「……それは、分からない」
いや、一つだけ確かなことはある。
「でも、あいつは燐を狙ってる。理由は分からないけれど、あいつは……」
「美玲はアリスのことをどれだけ知っているんだい?」
「他のライダーが知らないことを知ってるわ。射澄、信じられないかもしれないけれど……この世界、時間が巻き戻っているのよ」
そう言うと案の定、射澄は鳩が豆鉄砲をといった顔に。
仕方ないことだけれど、気持ちは分かるけれど。
その、私がおかしくなったみたいに思わないでもらいたい。
「鏡の中の世界とかあるんだから、時間ぐらい巻き戻るわよ」
「いや、まあ……そうなんだけれどね。流石に話が飛躍したからね……」
「……ま、時間が巻き戻った。それは事実よ、アリスが言ってたし……巻き戻る前の記憶をアリスから思い出させられたわ。かつて、そこで私と燐は付き合ってたの」
「待って。待ってほしいお願いだから。いくら私でも流石に情報量がだね」
そう大した情報は与えていないと思うのだけれど。
流石に射澄も時間が巻き戻ったということは受け入れがたい事実ではあるか。
私自身、アリスに言われなければ気付くことなどなかった。
射澄は目頭をおさえながら天井を仰いでいる。
射澄なりに事実を事実として飲み込もうとしているようだ。
「……それで、燐くんと付き合ってたって?」
「そうよ」
「ちなみにどちらから告白を」
「燐から。急に呼び出されて、告られた」
「私の知る咲洲美玲という女は数多の男子生徒を振ってきた氷の女だったと思うけど?」
本気では言っていない。
顔がニヤついている。
「もちろん。私のことをトロフィー扱いしてるなら振るわ。でも、燐は違った。ちゃんと私のことを見てた」
思い出す。
あれは初夏のことだった。
前の私は弓道部に所属していた。
部活終わりに呼び出されて、告白された。
飾った言葉なんか無かった。
本当に真っ直ぐな想いを言葉にして、最速最短一直線。
まあ、その方が私の好みだ。
言葉を飾ると嘘のように聞こえてしまうから。
「なるほど。それで付き合い出したと」
「ええ。燐はいい彼氏で可愛くて……」
「興味深いけれど今は別の話をしようか」
「遠慮しなくていいのよ」
「それで付き合ってたら……時間が巻き戻ったと」
しれっと無視された。
この怨みは大きいぞ。
「まあ、そうだけど。全部なかったことにされてた」
「ふむ……それを認識しているのは思い出させられた美玲と巻き戻した張本人たるアリスだけ、か……。そうなるとアリスと燐くんの間には何か関係があったと考えるのが妥当だ」
それが一番の問題だ。
燐から聞き出したいところだけれど、燐だって時間が巻き戻ったことを認識してはいない。
前のことを覚えていないのに、いきなり燐は私と付き合ってたのよ。なんてことを言ったら異常者扱い間違いなし。
頭のおかしい女だとは思われたくない。
それに……。
「聞くのが、怖い……」
「え?」
「燐がアリスとどういう関係だったのか……。もしかしたら私とは遊びで……」
「ふむ……。やはり恋とは面白いものだね。美玲がそんなことを不安がるようになるとは」
「面白がらないで、本気なんだから……」
「燐くんはそんな不誠実な子じゃないだろう? モテはするかもしれないけれど」
「ダメ、モテないで」
他の女の影がちらつくのは、嫌。
不安になるから。
燐は優しいから、たくさんの人から愛されるということは理解している。
けれど、私はそうじゃないから。
燐みたいになれないから、燐を離したくない。
「……話をまとめよう。美玲、君の願いは燐くんということでいいかな」
「ええ、そうよ」
「だけど、それをアリスは許さない。だから、美玲の一番の狙いは……」
「……アリスを殺す。こんなことをするアリスを」
私と燐を引き裂くあの女を、私は許さない。
決して。
そのために、他の少女の命を奪うことになろうとも私は必ずアリスを殺す。
「……友達が殺意を持っているというのは複雑な心境だけれど、仕方ないのかな。アリスはライダーバトルを起こした元凶でもある。アリスを止めることが全てを終わらせることに繋がる」
「ええ、そうね」
「まったく、もっと早く言ってくれれば協力なりなんなりしたのに」
「仕方ないでしょ。信じてもらえると思わなかったわけだし」
「まあ、そうだろうね。でもどうするつもりだい? 時間を巻き戻すような相手をどうやって倒すか算段は……」
そう、それが問題であった。
あの女、そもそも倒せるのか。
人の姿をしてはいるけれど、人間なのだろうか。
それとも、そういうモンスターなのか。
なんであれ、倒さなければ。そうでなければ私と燐に未来はない。
「思い付けば苦労しない。少しでもあいつに近付くためにライダーバトルは積極的にやってたけど……」
「そうか……。いや、仕方ないさ。ライダーバトルなんてものを仕組むような相手なのだから」
尋常な相手ではない。
そう付け加えると射澄もまた黙ってしまった。
アリス攻略を考えているようだけれど、やはり考えるには情報が足りない。
早々に射澄は白旗を上げた。
「やはり底知れないね」
「そうね……。情報を集めようにも何も……」
「ひとまず、アリスのことは今後も探るということで……。この事、燐くんには?」
「分かってるでしょ」
「ああ、伝えないでおく。……たまたまライダーになってしまったと思っていたけれど、運命なのかもしれないね……」
運命。
そんな言葉が、燐に纏わりついているというのなら……。
私が振り払う。
燐の運命は、私だけでいい……。
「いやぁ、それにしても愛し合っていた二人が時間という濁流の果てに引き裂かれ、片や君はかつての記憶を保有しているのだから、さぞかし辛かったろうね」
「本当にそう思ってる?」
「もちろんだとも。たしかに私は君や燐くんほど感じやすい方ではないけれどね。それでもだよ……そんな君にこれを差し上げよう」
射澄が取り出した二枚の紙切れ。
いや、それを紙切れなんて言ってごめんなさいという気持ちだ。
「聖山うみの森水族館のチケット。母さんが知り合いから貰ってきてね。折角だから二人で行ってきたらどうだい?」
「射澄……!」
「良い友だろう?」
「最高。人生最高の友達よ」
「え、でも待って……どうやって渡せば……」
「いつものようにさらっといけばいいだろう」
「え、無理。無理。無理……」
「思った以上に限界だ……」
そんな美玲を見るのは初めてだと宣う射澄。
それはそうだろう。こんなところ、いくら友達でも見せられるわけがないのだから。
いや、でも、もう見せてしまった……。
ニヤニヤと笑う射澄の脳天にチョップしてやった。
翌日。
こうなれば覚悟を決めるしかない。
さらっと、さらっと……。
いつも通りに……いつも通り?
いつもの私ってどんな感じだっけ。
「落ち着け私……。さっとチケット渡して誘えばいいだけ……」
深呼吸し、部室に。
部長他数名と挨拶し、いつもの定位置となっている席へと座る。
燐へチケットを渡すのも大事だけれど、新聞部という部の一員としての活動も大事。
既に取材済みではあるので、原稿に起こすだけである。
Bluetoothイヤホンを取り出し耳につける。私の取材はスマホのボイスレコーダーを活用したものなので、こうして聴きながら文章にしていく。
そうして、作業に集中すること一時間。
燐が来ないわ!!!
心の中で、叫んでいた。
おかしい。燐は各部への取材を終わらせたと聞いている。
そしたらあとは私と同じく原稿の作業に入るはずなのに。
いつもは部室に来て作業しているはずなのに。
「どうした咲洲?」
「……部長。その、今日燐は?」
「ん? 燐なら用事あるんでって今日は休みだぞ」
「えっ」
「原稿ももう貰ったし、仕事が早くて助かるわぁ。あ、そういえばなんでも病院にお見舞いとかなんとか言ってたな」
病院……?
病院って、この前も……。
荷物を急いでまとめる。
「咲洲?」
「お疲れ様です。あ、これお願いします」
原稿提出。
これで文句はあるまい。
とにかく、聖山大学病院だ。
「やあ美玲。燐くんにチケットは渡せたかな?」
「今から渡しに行くところ」
「なるほどね。それで、渡す算段はついたのかい?」
雑談しつつ、なんかしれっとついてきてるなこいつ。
人の恋路を観戦しようというのか。
悪いけど私の恋はF1でも競馬でもないのだ。
「いや、邪魔するつもりは毛頭ないよ。ただ昨日の戦いで学校にあれだけライダーがいるのが分かったんだ。一人でいたら危ないだろう?」
「なら許す」
「ありがとう。それで、渡す算段は? 恋愛は心理戦だよ。駆け引きを制する戦略をだね」
「射澄」
射澄の前に立ち、目を見てきっぱりと言い放つ。
「駆け引きとか戦略とか……私の辞書にはないから」
「え」
「直球勝負よ」
振り向き、再び小走りで昇降口へと向かう。
下駄箱からローファーを取り出し、靴を履き替え外へ。
射澄も普段あまり見せない急いだ様子で追い付いてきた。
「ちょっ……! 美玲! もっと恋を楽しもうよ!」
「射澄……あんた、恋愛小説の読みすぎで頭の中ピンク色になったんじゃない?」
「それはあるかも」
素直に認めるのか。
「一番は友人の幸せを思って、だよ。ついでに楽しませてもらってるけど」
「こら」
「まあまあ。美玲のこんなとこ見るのは初めてなんだ。友達として興味深い」
「面白がらないで。……ま、いつか射澄が恋をしたら同じことしてやるわ。覚悟して」
「私はいつも恋をしているよ。そう、ほ……」
「本じゃなくて人間にね」
黙り込んでしまった。
まあ、射澄に人間の恋人が出来るなんてこと、何度時間を巻き戻してもそうそうないだろう。
ちなみにだが射澄は四十代になってから、しれっと結婚してそうと思っている。
「それで、どこに向かうんだい?」
「大学病院」
「なるほど。それなら南北線だ」
射澄の言う通り。
大学病院へは聖山地下鉄の南北線に乗るのが一番だ。
燐も乗ったに違いない。
ここから地下鉄にアクセスするなら、聖山駅の地下通路を通って紅葉通り駅に向かう。
バスロータリーを抜けて、地下通路への階段を下る。
下ると同時に思考も巡る。
「……誰のお見舞いなのかしら」
「さあねぇ。でも、わざわざお見舞いに行くぐらいだ。親しい関係だと思うよ」
まあ、そうだろう。
ただこの場合、私が危惧しているのは見舞う相手が女。それも歳の近い……だった場合だ。
どういう関係?
どれぐらいの関係?
ああ、嫌な想像ばかりが頭に浮かぶ。
「ポーカーフェイスが常の美玲だけど、流石に崩れてるねぇ」
「わ、悪い!?」
「そう心配しなくていいってことだよ。燐くんは君を止めるために戦うって言った子だよ? 多少仲が良いだけじゃ出来ないことだと思うけど」
「でも……燐はみんなに優しいから……」
私だけが特別とは言い難い。
昨日の戦いだって、他のライダー達が戦うのを止めようとしていたし。私だけ特別なんてこと……。
「山の天気もびっくりの急変ぶりだ。恋は直球勝負なんだろう? そんな弱音吐いてたらへなちょこストレート……ボール球ならまだしもデッドボールか暴投だよ」
「そう、だけど……」
「それに、だ。燐くんはみんなに優しいと言ったね。でも美玲はそんな燐くんの特別になれた、選ばれた女だろう? 見せてほしいね、正妻の余裕を」
そうだ、私は正妻……。
燐と恋人だったのだから、怖じ気づく必要なんてない。
堂々としていればいい。
「……ありがとう。覚悟を決めたわ」
「それでこそ美玲だ」
見事なドヤ顔。
恋に迷うヒロインを助ける友人役が出来て満足といった様子だ。
「お礼は弾んでおくれ」
「そうね。射澄が恋に悩んだら背中を押してあげるわ」
「えぇ? そんな予定なさそうなのに」
「案外あるかもしれないわよ。四十ぐらいになったら」
「遅いなぁ……そうだ。今から私も燐くんを狙ってドロドロの昼ドラルートを」
「絶対にやめて」
まったく、冗談でもやめてほしい。
ただでさえ、面倒な相手からちょっかいをかけられているのだから。
「ま、とにかく健闘を祈る」
駅のホームに着くと、そう言って射澄は敬礼していた。
どうやら本当については来ないらしい。
まあ、見られていてはこちらもやりにくい。
射澄はちょうど北方面へ、私は南の方に用があるのでここでお別れというわけだ。
なので、私も敬礼で返す。
「チケット渡し作戦、必ずや成功させる」
前に見た第二次大戦の頃が舞台の恋愛映画に出てきた軍人を思い出しながら言った。
二人して駅のホームということも忘れ、笑った。
美玲と射澄が通りすぎていった地下通路の中。設置されているミラーの中、独り佇む黒のセーラー服の少女アリス。
彼女は唇を舐めると、獲物を捉えた蛇のような瞳で嗤っていた。
『あーあー。いけないんだー』
悪事を見つけた子供のように、そして愉しげに呟くと、ミラーワールドにアリスの笑い声が高らかに響き渡る────。
夕花ちゃんは今日も楽しそうに学校の話を聞いていた。
時折、夕花ちゃんは質問を投げかけてきて、答えられないものもあったが、これは収穫だ。
記事を読んだ人は、こういう疑問を抱くかもしれない。そういった疑問に先回りして応える記事が書ければ、また一歩栄えある聖山高校新聞部の部員として成長出来るだろう。
「ねえ、りんちゃん」
「なに?」
「そういえばーなんだけど、りんちゃんの将来の夢って、記者さんなの?」
「え、あー……別に、そういうわけじゃないんだよね」
新聞部に入部した理由は部長に押し切られてしまって……というもの。
実は三年生の世代がおらず、今年の一年生が入部しなければ廃部になるかもしれない……というので、中学生の時から仲が良かった部長に懇願されてしまって、というわけである。
中学の時はサッカー部だったけど、高校に入ったら何か新しいことがしたいとも思っていたし、ちょうどよかったというのもある。
「そうなんだ……じゃあ、りんちゃんの夢は?」
「夢……」
考えてみたけれど、あまり夢らしいものはなかった。
強いて言うなれば……開きかけた口を閉じる。
それは、夕花ちゃんの前で言うにはあまりにも傲慢な願いであったからだ。
普通に穏やかに生きたい、なんて。
言えるわけもなかった。
「……わたしはね、あるよ。夢」
「……どんな夢?」
「────生きる。生きるの、何をしても……」
夕陽に背を向けた夕花ちゃんからは、病人とは思えないほどの鋭利な迫力があった。
これでは、まるで……ライダーのようだ。
「それでね、元気になればりんちゃんといっしょに学校にもいけるし、こんなところじゃない、たのしい場所にあそびにいけるでしょ?」
ライダーのようだと思ったのは、杞憂だったか。
いつもの無垢な笑顔を浮かべる夕花ちゃんに少し、戸惑ってしまう。
「……あ、ああ、うん。そうだね。だから、治療頑張ろう!」
「……うん」
そうして、面会の時間は終わり。
またね、と病室を出ようとした時だった。
「あ、あのねりんちゃん。最近はからだの調子いいからね、先生が外に出てもいいかもって」
「わ……本当! よかったね」
「うん……! それでね……もし、外にあそびにいけたらね……その……りんちゃんと……」
「うん。一緒に行くよ」
「やった。じゃあ、海にいきたい。約束だよ」
「うん。約束」
約束に無邪気な笑みを浮かべる夕花ちゃんにまたねと手を振り今日は解散。
外はもう夕焼けから夜空に移り変わるところ。
オレンジに青が混ざっていって、綺麗だ────。
「燐」
「美玲先輩……なんでここに」
夜の青を引き連れて来たかのように、美玲先輩が立っていた。
僕に用があるらしい。
「なんですか、デッキなら……」
「ん」
え?と困惑の声が出た。
差し出されたのは、水族館のチケットであった。
僕は自分を指差すと、美玲先輩は首を縦に振った。首を縦に振られたので、恐る恐る美玲先輩からチケットを頂戴する。
「土曜日。十一時集合」
「えっ」
「時間通りに来なさい」
「は、はい……」
「ところで」
用件はこれだけかと思いきや、まだ何かあるらしい。
「誰か知り合いが入院してるの」
「えっと……その、友達が入院していて……。十年ぶりくらいにこっちに戻ってきて……」
「友達……幼馴染みってやつね……。男、女?」
「女の子です」
そう答えると、美玲先輩はため息をついた。
「歳は……?」
「僕の一個上なので美玲先輩と同い年ですよ」
そう言うと、美玲先輩は一度天を仰いでから俯き、首を横に振っていた。
「美玲先輩……?」
「名前は」
「え、昏見夕花ちゃんって……昏睡の昏を見るで昏見で、夕焼けの夕に花でセッカちゃんです」
「そう。それで、具合はどうなの」
「……余命宣告を受けていて、あと一年ほどだって、全然そんな風には見えないんですけど……頑張って病気に負けないようにしてるんだと、思います……」
最近は身体の調子がいいからと言っていたけれど、確実に夕花ちゃんの身体は病に蝕まれているのだろう。
生きたいという彼女の願いを踏みにじって。
「……そう。詮索して悪かったわね」
「いえ、そんな……」
「私は他の予定あるから。明後日、約束破らないように来て」
「は、はい……。えと、お疲れ様です」
美玲先輩を横切り、帰路についた。
他の予定があると言っていたけれど、美玲先輩は何の用事があるのだろう。
この前も病院の近くに来ていたし、この辺りで何かあるのだろうか。
……まさか、彼氏さんがこの辺りに住んでいるとか?
まあ、美玲先輩なら彼氏の一人や二人。もしかしたら彼女も一人や二人いるかもしれない。
……だとしたら、この水族館のチケットはなんだろう。
流石に恋人のいる人と出かけるなんて……。
いや、もしかして新聞部の取材で手伝えってこと?
でも文化祭が近い今の時期にわざわざ外の施設に?
まさか、もう既に文化祭後の記事のことを……流石だなぁ。
それにしても、何故だろう。
美玲先輩に恋人がいるかも。なんてことを考えてから、胸が痛い。
駄目だぞ御剣燐。
僕なんかが、あの人に釣り合うわけないのだから。
だから、この想いには蓋をするのが正解なんだ。
だから、水族館のチケットをもらったからって勘違いして舞い上がったら……駄目。
「……やった」
通りがかりのおばさんが、怪訝な目で僕のことを見てきた。
味のしない夕食を食べ終えた頃、ミラーワールドが音を放った。
モンスターが現れたんだと、キャビネットに入れていたデッキを取り出し身構えると病室の扉が開かれた。
看護師さんかと思ったけれど、違った。
白と紺のセーラー服に水色のリボン。大きくて、切れ長の瞳。
肩より少し長いぐらいの黒髪は、乱れもなく、艶やかで、わたしなんかと全然違う、美人。
すらりとした体格で、歩き方も綺麗。
堂々としていて、わたしは声を上げることすらも忘れていた。
「やっぱり、ライダーだったわね」
「あなたは……」
そうなのだろうとは思った。
けれど、こうして病室に乗り込んでくる人がいるとは思わなかった。
「病人をライダーにするなんて、流石に私もさっきまで半信半疑だったわ」
「ああ……この間の、青の……」
「ええ、そうよ」
「どうしてわたしだって気づいたの」
「……病院の近くで遭遇したからよ。ま、なんだっていいわ。ライダー同士が出会ったなら?」
戦うしか、ない。
暗い病院の駐車場で相対する二人のライダー。
青き翼の弓兵、仮面ライダーアイズ。
黄昏の夢へと誘う者、仮面ライダーメア。
夜の青に溶けたアイズの青だが、翼を模した仮面のスリットの奥、黄光放つ鋭い複眼にメアは先程合わせた少女の瞳を重ねていた。
二人は既に互いの得物を手に出方を窺っている。
両者共に弓とクロスボウ使いという遠距離戦を得意とした戦士。
アイズは背中のハードポイントに装着された矢筒から矢を三本抜き取り、一本を番えている。
メアは召喚機でもあるクロスボウに青い鏃の矢を装填し、アイズへと向けていた。
「……」
「っ……」
どちらが先に動くのか、緊張の糸が張りつめていた。
そして、どちらが先に動くのか明白であった。
アイズは射抜くような視線でメアを捉えていた。身体に無駄な力が入っている様子はない。
対照的に、メアの方は身体が微かに震えていた。
アイズはもちろんそのことに気付いている。
自身に向けられたクロスボウの狙いが定まっていないからだ。
そうして、極度の緊張の果てに……メアは矢を撃った。
それと同時にメア、夕花は目を見開いた。
狙いの定まらぬ矢はアイズの仮面を横切っていく。矢が外れたというだけなら良かったが、メアが驚いたのは別の理由。
アイズが、矢を捨て、放たれた矢を恐れずに、接近してきたからである。
二の矢を番える間もなく、アイズはメアに距離を詰める。
そして、勢いよくメアの頭部目掛けて回し蹴りが繰り出された。
「いやっ……!」
「っ! また……!」
空を切るアイズの右足。メアは頭を抱えてしゃがみこむようにしてアイズの回し蹴りを回避。
しかし、回避だけだ。
反撃の行動には出ていない。
アイズは右足を地面につけると、即座に次の一手。
今の回し蹴りの勢いを利用した、逆回し蹴りで屈んだメアを蹴り飛ばす。
「きゃっ!?」
咄嗟にクロスボウ型召喚機で防御したメア。勢いを殺し切れず、クロスボウは宙を舞った。
地に墜ちたクロスボウを蹴り飛ばし、アイズは追撃。
アイズ、美玲は分かっていた。
メアの戦闘能力は低いと。
先日の戦いでその戦法を見て、実際に交戦して、作戦はすぐに思いついた。
カードを使わせない。
格闘で圧倒すれば良いと。
ましてや、いくらライダーに変身しているとはいえ、相手は病人であると────。
「……」
「いや……死にたくない……生きたい……!」
尻餅をついたまま後退るメア。だが、逃げ場はなく、背中にコンクリートの塀が当たったことに絶望した。絶望するメアを前に、アイズの足は止まる。
何故止まる。美玲は自問自答する。
そして、開く必要のない口を開けた。
「……あなたの願いは、なに」
「……え」
聞いてはいけない。
聞いては駄目だと、分かっているのに。
「わ、わたしの願いは……生きること……!」
「……そう」
アイズは矢筒から矢を引き抜き、番える。
引き絞った弦の軋む音。アイズの手は、メアのように震えてはいなかった。
矢を離す指、空を切る音。
メアは、迫る矢に呼吸を忘れた。
「え……」
「……」
矢は、メアの左目の真横に突き刺さっていた。
皮一枚で躱された一射。外したのではない、アイズの狙いは完璧であった。
「どう、して……」
「……生きたいのなら、戦わない方がいいでしょう」
メアに背を向けたアイズはそう告げると立ち去っていった。
強張っていた身体から力が抜け、項垂れるメアは仮面の中で涙を流した。
自分は今ここで殺されるはずだったのだと。
しかし、生かされてしまった。
いつでも殺せるから?
いや、違うだろう。
「
そして、残酷だ。
わたしに戦うなと言うのだから。
戦わないと、わたしに生きるという未来はない。
「りんちゃんと……生きる未来……」
静かに涙を流すメアを遠くから見つめる者がいた。
『あ~あ、美玲ちゃんったら
夜に溶け込む黒衣と長い黒髪だが、大きな黒い瞳が妖しく輝いていた。
アリスである。
『こういう時は、意趣返しで美玲ちゃんにぶつけるところですが……。恋の芽は、早めに摘み取るべきです……』
アリスは植え込みの白い花を摘み、地面に落とす。
そうして、力強く花を踏みつけた。
忌々しく、憎々しく────。