仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral   作:大ちゃんネオ

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Sweet Bite

 薄暗い館内に青い光。

 足元を泳ぐ黒い影。

 この床に映し出された魚影を見るのが好きだったりする。

 

「影ばかり見てないで本物を見たら」

 

 美玲先輩にそう言われ、顔を上げる。

 眩しい。

 アクリルに阻まれた向こう側は異世界だ。

 生身の人間は息が出来ず、水という世界に適応した生き物だけが存在を許される。

 まるで、ミラーワールドのようだ。

 ライダーでなければ入ることは出来ず、入れたとしても制限時間がある。一枚だけの隔たりがある異世界。

 そんな世界に悠々と存在し、甘い言葉で水底へと引きずりこもうとしてくるアリスはさながら人魚のよう。

 

「燐?」

 

 心配そうに僕の顔を覗き込む美玲先輩。おかげで、嫌な考えから脱け出すことが出来た。

 

「あ……すいません。考え事してました」

「そう……。ところで燐」 

「なんですか?」

「あの白いのはなに?」

 

 白いの?

 美玲先輩が指差した方を見上げると、この大水槽の中を泳ぎ回る魚達より倍以上は大きいイルカに似た白一色の生き物がいた。

 

「ああ、スナメリですよ。この辺りの海にいるんです」

「へぇ……。なんか、想像つかないわね。外国の海にいそうなのに」

「普通の魚ばっかりいるイメージしかないですよね~」

「そうね。なんとなく燐に似てるわ」

「えっ。に、似てる? スナメリと? スナメリと似てるってことですか!? 美玲先輩!」

 

 すたすたと歩き去っていく美玲先輩を追いかける。

 その後もいろんな魚を楽しんでいた……のだが。

 まず、水族館には魚以外の水辺の生き物もいるのだ。

 コツメカワウソとか。

 

「燐に似てる」

 

 ビーバーとか。

 

「燐に似てる」

 

 ペンギンとか。

 

「燐に似てる」

 

 …………。

 屋外にあるペンギンコーナーで美玲先輩が本日四度目の「似てる」が出た。

 

「なんなんですか、僕に似てるって感想」

「だって、似てるんだもの」

「どこがですか」

「……似てるんだもの」

 

 さいですか。

 もう理由を訊ねるのは無意味だろう。

 聞いても仕方のない答えだろうし。

 

「はあ……。ん?」

 

 ため息をついた時、気付いた。

 あのバスに乗ってたサングラスの女の人がわりと近くにいた。

 あと、そのお連れの人だろうか。眼鏡で小柄な人もいる。

 小柄な人はともかく、あのサングラスの人はどこか見覚えが……。

 

「燐、そろそろお昼にしましょ。なかなかメニューも凝ってるみたいよ」

「あ、はい!」

 

 いや、本当に見覚えあるんだよな。

 あの背丈も、何か身近に……。

 

「痛っ」

 

 美玲先輩に横腹をつつかれた。

 いやどつかれた。

 

「なんですか……」

「他の女のこと考えてたでしょ」

「いや……いや、そうですけどそうじゃなくて……。ああ、ほら早く行かないと席埋まっちゃいますよ!」

「むう……」

 

 話題を無理矢理変えたかのように見えるが仕方ない。なにより、あまり座席数がないのも事実なのだ。

 待ち時間は減らしたいのでちょっと急ごう。

 

 

 

 

 

「今のは少しバレかけたんじゃないか?」

「いやぁ、少しヒヤヒヤしたねぇ」

 

 射澄と彩果は燐達がペンギンコーナーから屋内に入って行ったのを確認してから言葉を発した。

 射澄はサングラスを外し、ニヤニヤとした顔を浮かべている。

 

「ずいぶん満足そうだな」

「いやぁ、だってあんな面白い美玲が見れるなんて、今後の人生であるかどうか! 見てたかい! 恐らく、今日までずっと考えてただろう燐くんとの会話シミュレーションが全く機能せず、かわいい動物を燐くんと似てるとしか言えない美玲だよ! いじらしいねぇ、ふふふ、ふふふふ。一生物のネタだよ」

「悪用してやるな」

 

 ニヤニヤから悪い顔となっている射澄を彩果が注意する。

 当の射澄は全く意に介した様子はない。

 

「分かってるよ。……今日は美玲が幸せになる日だからね」

「……?」 

「さぁて、私達もランチと洒落こもうじゃないか。魚を眺めたら今度は地元の魚を食べて楽しむことが出来るんだよここは」

「それは……なんというか、なんというかではないか?」

 

 困惑した顔で微妙な感情を吐露する彩果であったが、あの音を聞いて鋭い目つきとなる。

 射澄もまた同じくで、周囲の鏡となるものを探し、すぐに見つけた。

 オウサマペンギンが展示されているブースを仕切るアクリルに映り込む、サメを思わせる人型のモンスターが二体。

  

「デートの邪魔をする気かな。させないよ」

「神前」

 

 二人は顔を見合せ、人気がなく、展示のため暗くなっているクラゲのブースまで移動してからデッキを取り出した。

 射澄は水色のクジラの紋章が描かれたデッキ。彩果は黒いシャチの紋章が描かれたデッキを、それぞれクラゲの水槽の前に突き出した。

 銀色のベルト、Vバックルがミラーワールドから召喚され、二人の腰に巻き付く。

 射澄は右手の拳を握り締め、自身の胸に押し当てる。

 彩果は瞳を閉じ、深く呼吸。

 

「変身」

「すう……はぁ……変身」

  

 二人は鎧を纏って並び立つ。

 射澄は青と白の鎧を纏い三叉槍を構える、仮面ライダーヴァールへ。

 彩果は黒と白の鎧。手足には装飾として鎖が巻き付いており、鎧と同じ黒と白の円形の盾を左手に持つ。

 名を、仮面ライダーアロメダ。

 クジラとシャチをモチーフとした二人のライダーは水槽からミラーワールドへと飛び込んだ。

 

 ライドシューターから降りた二人は、現実世界ならペンギンを観賞する人で溢れている屋外エリアを駆けた。

 

「たあッ!」

「はっ!」

『シャァァ!?』 

 

 サメに似たモンスター二体は狩りを邪魔されたことに怒り心頭といった様子。

 ヴァールは冷静にモンスターの攻撃を捌き、三叉槍型召喚機テラーバイザーでモンスターを刺突。

 モンスターが吹き飛んだ隙にヴァールはデッキからカードを引き抜き、テラーバイザーへと装填。

 

【FINAL VENT】

 

 ヴァールの足元が波打ち、白い巨躯が浮上。クジラ型モンスター『テラーディープ』が大波をあげながら出現し、その背に乗るヴァールはモンスターを見下ろした。

 

「悪いけど、巻きで倒させてもらうよッ!」

 

 ヴァールのファイナルベント、フォースドエリミネートが発動。

 ヴァールを乗せたテラーディープが白波を巻き起こしながらモンスターへと突撃する。

 第一波がモンスターの動きを封じ、第二波に乗ったテラーディープが加速しモンスターへ突進。

 テラーディープの巨体に衝突されたモンスターは吹き飛び、そこへヴァールが飛び出し、テラーバイザーをモンスターへと突き立て、爆発。

 

 

 

【SWORD VENT】 

 

 円形の盾シウスバイザーの裏側にカードを装填。

 ファルシオン型の黒い刃を手にし、果敢にモンスターを攻め立てるアロメダ。

 モンスターを蹴り飛ばし、デッキからカードを引き、シウスバイザーへ。

 

【FINAL VENT】

 

「はっ!」 

 

 両腕の鎖がモンスターを縛りあげ、地面を水面とし現れたアロメダの契約モンスター、シャチ型の『キューマケトシウス』が口先でアロメダを空へと押し上げ、アロメダはモンスターを吊り下げたまま跳躍。

 そして、一度潜航したキューマケトシウスが大ジャンプ。空中で回転し、拘束されていたモンスターを尾鰭で叩きつけた。

 これがアロメダのファイナルベント。

 サクリファイスドロップ。

 

「よし……手早く片付けることが出来たか……」

「お疲れ様」

 

 アロメダのもとにヴァールが軽く駆け寄り労った。

 二人のモンスターが倒したモンスターのエネルギーが捕食したのを見送り、ミラーワールドを出ようとした二人。

 だが、突然二人の足元に球状の物体が投げ込まれ、爆ぜた。

 

「なっ!?」

「ぐっ!」

 

 地面を転げた二人の前に、コバルトグリーンとバイオレットのライダーが二人立ちはだかった。

 

「やほー。今のはプレゼントだよー。よろこべー」

「石墨もいんじゃ~ん。まとめて消してやるよ!」

 

 気だるげに語るはコバルトグリーンのセミを模した仮面を纏ったライダー、バンジィ。

 ムカデのような剣を肩に置くバイオレットのライダー、テレドラはバンジィとは対照的に闘志に満ちている。

 

「こんな所でライダーと出会うなんて……」

「……台詞から察するに、狙いは私のようだね。石墨君は逃げたまえ」

「馬鹿を言うな。退くぞ二人で」

 

 立ち上がり、武器を構えながら逃走のタイミングを計るヴァールとアロメダ。だが、予想外の事態が起こる。

 

『シャアァァ……』

『キィィィ!』 

 

「モンスター……!」

「この数は、異様だねぇ。あの二人が契約しているものとは思えない」

 

 二人を取り囲むように、モンスターの大群が現れる。

 種類も様々。人型のものから大型モンスターも数体確認出来る。

 

「どうする神前!」

「落ち着きたまえ、と言いたいところだけれど、落ち着いたところでどうにもならなさそうだ。互いにファイナルベントは使ってしまった。今ある手札でなんとか強行突破するしかない」

「突破なんか出来るかよぉ!」

 

 テレドラが駆け出し、ムカデのような剣を両手で勢い良く振り下ろす。

 ヴァールは回避し、テラーバイザーを突き反撃するも剣に弾かれ、体勢を崩されたところを袈裟に切り裂かれる。

 

「あぁッ!?」

「神前!」

「君はあーしと遊ぼうよー」

 

 ヴァールを救おうと駆け出すアロメダの前にバンジィが立ち塞がる。

 セミの羽に似たクリアーな刃の双剣を交差させ、ゆらりと前傾したかと思えば、予想外のスピードでアロメダへと接近し斬りかかった。

 シウスバイザーで防御するも、反撃に出れないアロメダ。バンジィは口調や普段の佇まいとは真逆の苛烈さで攻撃を続ける。

 

「それー」

「ぐっ……!」

 

 斬撃を防ぐアロメダのシウスバイザーをバンジィが蹴り飛ばす。

 後方へとよろけたアロメダの背は何かに衝突。異形の手が、アロメダの肩を掴んで振り向かせると、アロメダは赤と黒のモンスターに殴り飛ばされてしまう。

 モンスター達はさながら闘技場の観客のよう。

 ライダー達の戦いを見つめ、敗者を喰らうつもりなのだ。

 

「これは、困ったねぇ……」

「ははっ! おとなしく殺されろっつーの!」

 

 膝をついたヴァールへとテレドラが剣を振り下ろそうとしていた。

 覚悟を決める射澄。

 剣が風を切る。

 そして、甲高い金属と金属がぶつかり合う音。

 

「なっ!?」

 

 剣は弾き飛ばされ、宙を待って地面へと突き刺さった。

 続け様に風を切る音。

 テレドラはバックステップで回避すると、矢が一本、二本、三本とテレドアが立っていた場所へと降り注ぐ。

 

「射澄!」

「美玲!」

 

 青い翼を背に空を舞い、弓を構える仮面ライダーアイズ。上空からの攻撃というアドバンテージを活かし、青い炎が灯った矢を放ちモンスターの群れを一掃していく。

 

「こそこそ嗅ぎ回ってくれたみたいね」

「それなら後で謝るから!」

 

 これだけのモンスターの大量発生に美玲と燐が気付かないわけがない。

 更にライダー同士が戦っており、そのうちの一人が射澄となれば美玲は戦うことを選択する。

 

 

「邪魔が入ったじゃーん。ま、関係ないけどー」

 

 一方、バンジィはアロメダをただ追い詰めるのみ。

 アイズの参戦にあまり興味はない様子でいた。

 双剣の連続攻撃を畳み掛け、アロメダを圧倒していくが、突然バンジィとアロメダの間に大きな影が割って入った。

 その影の正体に、アロメダは仮面の下で目を見開いた。

 

「これは……!」

 

 モンスターの上半身。

 茶褐色のオイルのような体液を滴らせ、飛来してきたそれはバンジィの攻撃のリズムを崩してアロメダに反撃の好機を与える切っ掛けとなった。

 

「やぁぁぁ!!!」

「ちょっ」

 

 盾を構え、バンジィへとタックル。

 パワーではアロメダに分があったか、バンジィは後方へと押し返された。

 しかし、バンジィはあくまで冷静。

 距離を取り、立て直しをはかると共にあのモンスターの死体はなんだったのかを考察する。

 剣を扱うライダーは多いが、あんな風に斬ることが出来るライダーはいないだろう。

 一人を除いて。

 

「……」

 

 無数のモンスターを相手に立ち回る純白の剣士がいた。

 仮面ライダーツルギ。

 言葉を発することなく、太刀が風を、モンスターを切り裂く音。モンスターの悲鳴だけが響く。

 

「どうすんよ、ななる。向こう四人になっちゃったし」

「まー一人でも殺れればいいっしょー」

「強気じゃ~ん。いいね、一人と言わず皆殺しのつもりでいくわ」

「や、それは流石に無理っしょー」

「そこは乗っかれし!」

「ま、このモンスターの数ならねー」

 

 助太刀に現れたツルギもモンスターの相手に手一杯である様子。

 アイズも矢を撃ち尽くし、次々と現れるモンスターを相手取るために弓から双剣に切り替え、上空からのヒットアンドアウェイで戦っているが決め手に欠けていた。

 

「このモンスター達……なぜあいつらを攻撃しない?」 

 

 モンスターの攻撃を掻い潜りながら、アロメダが疑問を抱いた。

 これだけいるモンスターの一体もバンジィとテレドアには攻めかからない。

 まるで、あの二人がモンスターと仲間であるようだ。

 契約しているわけでもないだろうに。

 

「何か、嫌な予感がする……!」

 

 アロメダの胸中に焦りと共に強い恐怖感が渦巻く。

 何か、途轍もない何かが、この戦いの背後にあると。

 

『ふふふ……。ちゃ~んと、仕事をこなしてくださいね~』

 

 屋根の上に腰掛け、戦いを見つめる少女アリス。

 全体をざっと俯瞰すると、今度はツルギに注視する。

 愛おしいものを見つめるように。

 

 

 

 

 

 剣を振るう度に、フラッシュバックする。

 現在の光景と重なり、いつかの戦いの景色が浮かび上がる。

 何時だ、何処だ、何だ、誰だ。

 無数のモンスターを相手に戦うこと。いつかも、あった。

 こんなことが。

 僕は一人で戦っていた。

 そうだ、僕はずっと一人で……。

 

『シャアッ!!!』

「ッ……!」

 

 剣が鈍る。

 余計なことは考えるな。

 振れ、斬れ、断て。

 戦うことだけが僕の存在理由だ。

 

『燐くん』

「ッ!?」

 

 突然、襲いかかってきていた周囲のモンスター達が何かに切り裂かれた。

 下手人は地面のアスファルトを砕いて現れた、根や蔦のようなもの。

 新手のモンスターかと身構えると、足元から目の前の蔦と同じものが現れ、僕の身体を縛り上げて膝をつけさせられた。

 

「これ、は……!」

 

 踠くことも出来ぬほどの拘束。

 これじゃあ……!

 

「燐!」

「美玲、先輩……!」

 

 美玲先輩がこちらに向かって飛んでくる。

 だが、蜘蛛のモンスターの吐いた糸が美玲先輩と背中のガナーウイングごと縛り、美玲先輩は地に墜ちた。

 

「きゃあっ!?」

「美玲先輩!」

「美玲!」

「くっ!」

 

 射澄さんが、黒と白のライダーが、美玲先輩のもとへ行こうとする。

 

「行かせないっての!」

「あーしの相手しろー」

 

 あのライダーとモンスター達が射澄さん達の行く手を阻む。

 くそ、このままじゃ美玲先輩がモンスターに!

 

『燐くん』

「アリス!?」

 

 背後から歩み寄っていたアリスがしゃがみ、僕の左肩に密着するように抱きつく。

 そして、耳元で甘い言葉を囁き始めた。

 

『燐くん。あなたは戦う必要なんてないんですよ。優しくて、穏やかな燐くんにそんな刃物は必要ないんです』

「なにを……!」

『手放しましょう。剣も、仮面も、力を、全て』

 

 手放す?

 力を?

 戦う必要がない?

 たしかに、僕は戦いたくはない。 

 僕が戦ったせいで、黒峰樹さんは自ら命を絶ってしまった。

 もう、そんなのは嫌だ。

 嫌なんだ。

 アリスの左手が白い鎧の上を這う。

 胸元を下り、下腹部を撫で、バックルに填まるデッキに触れた。

 

『もう、いいんですよ。燐くんは戦わなくて。だから、また、二人で……』

 

 甘美な誘いに胸がざわつく。

 こんなことを、もう、しなくても……。

 

「美玲!」

 

 射澄さんの叫びに、引き戻された。

 

「くっ……!」

 

 美玲先輩が蜘蛛の糸に捕まり、今にもモンスター共の餌食にされそうになっている。

 美玲先輩……!

 

「やめろぉぉぉ!!!!!」

『なっ!?』

 

 咄嗟にアリスが飛び退いた瞬間、僕を拘束していた蔦が切り裂かれる。

 自由の身となり、思考はただ彼女を。美玲先輩を救うことのみとなる。

 

【FINAL VENT】

 

 跳躍し、飛来してきたドラグスラッシャーが翼から放った斬撃波を纏い、蜘蛛のモンスターへと向かって加速。

 こちらの殺気に気付いた蜘蛛は振り向き、こちらへと糸を吐き出すも右足に宿った斬撃が糸を斬り捨て、勢いを殺すことなく蜘蛛へと着弾。

 蹴りの命中と同時に斬撃波が蜘蛛に無数の閃光を刻ませ、細切れになり爆散。

 

「美玲先輩!」

 

 美玲先輩を縛る蜘蛛の糸をリュウノタチで斬り、抱き起こす。

 

「燐……」

「大丈夫ですか!?」

「ええ……。ありがとう」

 

 よかったと、一瞬胸を撫で下ろすもすぐに思考を切り替える。

 まだ無数のモンスター達と二人のライダー。

 そして、アリスがいる。

 モンスターに囲まれ、美玲先輩と背中を合わせリュウノタチの鋒をモンスターに向ける。

 その時、ふとモンスターの群れの隙間からアリスの姿が垣間見えた。

 アリスは小さな子供が静かに怒っているかのように固く口を結び、両手は黒いスカートを強く握り締めていた。

 

『どうして……』

「え……」

『燐くんが戦う必要なんて、ないのに……』

 

 彼女の瞳から頬へと光が伝った。

 彼女、は……。

 いや、あの子は……。

 重なる。

 同じ姿の、孤独な少女の姿と。

 

「燐!」

「ッ!」

 

 モンスターが襲いかかってきていた。

 ああ、邪魔だ!

 どうして。

 どうして。

 どうして、彼女は泣いている。

 僕のせいなのか。

 僕が、彼女を?

 アリス(友達)を、泣かせた。

 

「燐!?」

 

 モンスター達を斬り捨て、彼女のもとへ駆け出していた。

 しかし、アリスを守るようにモンスターの軍勢が邪魔をする。

 斬っても、斬っても、湧いてくる。

 たったの、10m程度の距離なのに。

 とても、遠い。

 そうして、僕の口は自然と誰かの名を叫ぼうとしていた。

 

「キョ────」

 

【FINAL VENT】

 

 だが、突然感じ取った誰かの死の気配に、誰かの名は遠く霞んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァール対テレドアはテレドラが圧倒していた。

 攻撃的なデッキとテレドラ、空崎愛舞穂の気性が合わさり凶悪なアグレッシブさを発揮。

  

「くっ……」

「お友達が助けに来てくれたのも無駄っぽいね~」

 

 ツルギとアイズはモンスターの相手で手が塞がっている。

 アロメダはバンジィとの戦いに気が抜けない様子。

 

「頭のいい神前にクイズ~。ここ、ミラーワールドで弱い奴より許されないもの、な~んだ?」

「何を言って!」

 

 テレドラは慢心していると、その隙を突いてテラーバイザーで突きを繰り出す。

 だが、テラーバイザーはテレドラのムカデのような剣、ピードカリバーでテラーバイザーを振り払う。

 赤紫色の蛇行した刀身に、百足という文字を体現するかのように褐色に染まった百の刃が強烈な印象を抱かせる魔剣の鋒をテレドラはヴァールへと向け、クイズの答えを言い放った。

 

「正解は~戦う気のない奴。弱いだけじゃなく戦う気すらないとか、論外なんだけど!」

「がっ!?!?」

 

 テレドラはピードカリバーを力任せに振るい、ヴァールの胸部を斬りつける。

 地面を転げるヴァールへとピードカリバーを投げつけ、追撃し更なるダメージを負わせると、テレドラはムカデを象った杖型召喚機、蚣召杖ピードバイザーを手にしデッキからカードを引いた。

 絵柄はテレドラを表す、ムカデの紋章。

 

【FINAL VENT】

 

 機械的に宣言された死の宣告に、その場にいたライダー達は皆、テレドラとヴァールに目を向けた。

 

「射澄!」

 

 モンスターを掻い潜り、アイズがヴァールのもとへ向かおうとするも、モンスター達に阻まれる。

 

「神前!」

「いかせないよー」

 

 一番距離の近いアロメダもまた駆け出そうとするが、こちらにはバンジィがいた。

 

「射澄さん……!」

 

 モンスターを切り裂き、ツルギが駆ける。

 だが、それよりも早く。

 水族館の壁が砕かれ、現れたのは赤紫のムカデ型モンスター。

 ピードレッドラー。

 カチカチと大顎を鳴らし、無数の脚をさざめかせると大顎でヴァールに噛みつき、上空へと放り投げる。

 

「ぐあっ……!」

「そ~れ!」

 

 ヴァールへと向かい、テレドラも跳躍。ヴァールを掴み上空でマウントを取り、そのまま落下するとピードレッドラーの頭の上に着地。倒れたヴァールの背をテレドラは両足で踏むと、ヴァールをスケートボードのようにしピードレッドラーの身体の上を滑走。

 

「フー!」

 

 尻尾の先から空へ舞い上がると縦横無尽に大回転し、着地。ヴァールは地面に叩きつけられ、更にテレドラからは踏みつけられ、身体を圧迫。

 テレドラのファイナルベント、フォビドゥーン・サンダーが炸裂した。

 

「ッ……! ュー……」

 

 ヴァールはもう、言葉を発することも出来なかった。

 今の衝撃で、骨は折れ内臓に突き刺さっているだろう。生に必要な呼吸をすることにすら激痛が走る。

 軽やかにヴァールから降りたテレドラはうつ伏せとなり、力なく倒れるヴァールを蹴り飛ばし、仰向けにさせる。

 すると、ヴァールのデッキが砕け、鎧も砕け散る。

 結んでいた髪は乱れ、口から血を流す射澄はただ青い空を見つめた。

 

「射澄ぃぃぃ!!!」

 

 美玲の叫びが木霊する。

 モンスターの群れを強行突破し、射澄のもとへと疾走。

 阻むものは全て斬り捨てながら。

 

「あっはっはっは。一人殺り~。お次は~……おっと」

「くっ!」

 

 楽しげにしているテレドラにアイズが青い双剣で斬りつけるもバックステップで回避されてしまう。

 

「ま、そろそろいい時間だし~。てっしゅ~!」

「待ちなさい!」

 

 テレドラは撤退。それを助けるかのように追撃するアイズの目の前にはモンスター達が立ちはだかる。

 

「邪魔!」

 

【FINAL VENT】

 

 背中にガナーウイングを、両足に鉤爪ウイングクローを装備し回し蹴り一閃。

 モンスターを蹴散らすアイズだったが、爆炎の向こうにテレドラの姿はなかった。

 

「こっちも今日はここまでー。またねー」

「待て! くっ……!」

 

 バンジィもまたアロメダとの戦いを切り上げ、モンスターの群れの向こう側へと消えていく。

 

「ぜあぁぁぁ!!!!」

 

 ツルギは大剣、ドラグバスターソードでモンスターを一網打尽に叩き斬ると射澄のもとへ向かった。

 射澄は、力を振り絞り右手を天へと伸ばし、声は出ないが何か言葉を発していた。

 

「……れ…………め……」

「射澄!」

 

 アイズは変身を解きながら手を伸ばして走った。

 その、親友の手を掴もうと。

 射澄の手に触れようという瞬間。

 美玲の手は、空を掴んでいた。

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