「これはない」
Vジャンプをパタンと閉じて男が呟く。
「なんだよブラックフリーザって。バイキンマンかよ」
壁一面にはドラゴンボールのポスターが壮観なほど貼り尽くされており、本棚にはドラゴンボール原作コミックスが、そして部屋中に足の踏み場もないほどのグッズが散乱している。
彼は日本の大人気漫画、ドラゴンボールの大ファンであり、原作はもちろんドラゴンボールGTやドラゴンボール超、ひいては映画やゲームも確実に履修している。
「フリーザの良いところをすべて消し去ってる。そもそも悪のカリスマであるフリーザを修行させることの意味が分からん。もうちょいやり方あっただろ」
口を開けば不平不満。クソオタクここに極まれリ。
彼はドラゴンボールなどでも特にフリーザというキャラに魅了され、そのカリスマ性と圧倒的な悪意に熱狂し、青春を惜しみなく放り投げた。
映画「復活のF」なんかが発表されたときには狂喜乱舞しながら前売券を予約したものである。
だが、彼は宇宙サバイバル編から徐々に丸くなっていったフリーザに違和感を覚えていた。金ぴかで強そうに見えて実際目立たないゴールデン。和解していくフリーザとZ戦士。ライバルキャラを奪われるベジータ。そして最後雑に生き返らせるウィス。それを見ているうちに彼は立派な超アンチへと成り下がっていた。
彼のルーツは小学校2年生まで遡る。たまたまテレビでドラゴンボールの再放送を見た時、その時から彼の運命は決定付けられた。
その後の彼の人生は悲惨そのものであり、小学校時代はドラゴンボールの事しか考えていなく友達など一人もできる事はなかった。中学高校に入ると不登校&引きこもりの社会不適合者製造コンボを喰らい社会復帰が不可能なレベルのゴミ人間へと化してしまう。親に泣かれて渋々行った大学もまともに行かず、アルバイトをして稼いだ金を最低限の食費とドラゴンボールにつぎ込み続ける毎日を送っている。
「あー……もう寝よ」
流石の生活習慣。現在時刻6時(午前)である。
不幸にもその終わった生活のせいで彼は空に輝く命の危機に気づくことができなかった。
或いは、幸運とも言えるかも知れない。
死の痛みと恐怖を一切味わう事なく済んだのだから。
それはほんの小さな、神や
遠く、遠く離れた地にて、彼は装置の中で目を覚ます。
わずかに動く体はこの世界における
死ぬ程短いけどプロローグなんで……
次回から一人称視点となります。