その日も男は有能な冒険者を追放した   作:ギル・B・ヤマト

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一話 Q.何故その男は追放するのか?

 

「君、このパーティーに必要ないから出てっていいよ」

「え?」

 

 まだ朝日が登ったばかりで静かな宿屋の部屋の中、僕は()()()()()()()追放宣言をする。

 重大な事を前触れもなく言われたからだろう、緑髪の女性は実感が無さそうに顔を傾げるだけだった。

 

「もう君は必要ない。クビだからここでお別れだ」

 

 突き放すようにそう言った僕はまたいつもの様にお金の入った袋や必要最低限のアイテムを黙々と机の上に置いていく。

 

「……あのっ!」

 

 追放宣言を受けて放心していた彼女がやっと声をかけてくる。彼女の顔を見ると納得がいかない様だ……()()()()()()()()()()()

 

「どうした? こっちは君が出ていけるよう準備しているんだ。今回の宿の分はこっちが払っておくし何も問題ないと思うんだが……」

「そうじゃありませんよ!?」

 

 僕の言葉を遮って彼女は机を叩いて、部屋には静寂が戻った。

 

「何で、何でいきなりそんな話になるんですか!? 昨日まで普通に会話してたし、クエストも問題なく進んでいましたよね!?」

 

 確かに昨日まで追放に関する話は全く無かったし、彼女の冒険者ランク昇進が掛かったクエストも問題無く進んだ。というより僕の手伝いが必要ないだろうと思えるほどには。

 

 理由はそこだ。

 

「驕るわけじゃありませんが、私は先輩が教えてくれた事はしっかり出来たと思います」

「そうだな。僕が教えたように罠を張れていた。君が上手にやったから魔物も罠にハマって比較的楽に狩ることができた」

 

 昨日のクエストがまさにそうだ。

 昇進クエストだから普通なら苦戦するはずなのに、アッサリとこの子はクリアした。

 

「剣の練習だって先輩の教え通りに素振りを毎日百回以上してます。それだけじゃなく自分なりにあった剣の練習も追加でやって、この前褒めてくれたじゃないですか!?」

「そうだな。基本を蔑んで応用に走るといった初心者にありがちな事はしてないし、問題なく成長に繋がっている」

 

 僕の教え通りに修行した上で新しい特訓方法を思いついては実践している。僕は彼女に頼まれて新しい修行方法を確認して見るが悪くない。効率の大小はあるけど方向性はしっかりしている。

 最適とまでは行かないが自分に合った訓練方法を見つけている甲斐もあって、剣術の成長速度も速い。

 

「昨日も何の問題も無く昇進クエストを終えてきました。もっと上手くなる様努力はしますが……このランクなら十分な成果だと思います!」

 

 このパーティーから離れたくない。認められたいという焦りから、彼女は慌てて首にかけているプレートを手に取ってわざと誇示してくる。

 銀色に光っているプレートのランクはシルバー。

 冒険者ギルドが定める五つ(実質的には四つ)の冒険者ランクの下から二つ目だ。

 

 しかしシルバーと言っても彼女を侮ることなかれ。

 

 ()()並の冒険者ならブロンズから昇格するのに数年。

 才能がなければずっとなれないと言われるのがシルバーだ。

 

 それを彼女はたった三ヶ月で昇進を果たしてみせた。

 

「先輩の足手纏いにならない様に頑張ってきたつもりです! パーティーに入れてもらった時は弱かったですけど、シルバーに上がれた時やっと自分が強くなってるんだって実感できたのに……」

 

 拳を握りしめながら話す彼女はとても辛そうだ。

 顔も俯いていて彼女の悔しさがこちらまで伝わって来る。

 

「それに私はまだ()()()()()()()()()()()()()()にも会っていません……私はメンバーに会う資格すらないのですか!?」

 

 声を荒げてそう言った彼女の瞳には涙が流れていた。

 辺境の村で彼女と会って、そこから成り行きで冒険者として育てることになったがこの三ヶ月間は楽しかった。

 

 しかし──

 

「そうだ」

 

 僕はハッキリと告げる。

 

「君は強い方だと思うよ……終末事変後なら特にね。それでも僕と君の実力には大きな溝がある」

「──ッ」

 

 その事は彼女も自覚しているだろう。

 どうしようもない事実を突きつけられた彼女は辛い顔をしている。

 

「君が苦戦した魔物を簡単に倒したのは誰だ? 毎日やっている剣の模擬戦で全て君を打ち負かしてきたのは誰だ?」

「……先輩です」

「ならさらに聞くけど、その時の僕の姿を見て君はすぐに追いつけると思う?」

「……いいえ」

 

 おそらく僕の見立てでは五年ほどは掛かるだろう。まあ並の人なら僕に追いつくこと事態無理な話なのだが。

 ……嫌な喋り方をしていると自覚しながら話を続ける。

 

「君が思う通りだ。君の強さだと今のパーティーに置いておく必要がない。たとえ強さが追いつくとしても遥か先の話になる。そこまで待つこともできない」

 

 そう言った僕は必要な物は全て置いたか確認をしてから彼女の隣を通る。これ以上ここに居る必要は無いと言うように部屋の出口へと歩き出した。

 

「一応右も左も分からないまま放置するのはアレだから少しの間は育てたけど、シルバーに昇格したしこれ以上パーティーに置いておく義理はない」

 

 扉を開けて一度だけ、後ろにいる彼女に視線を向ける。

 そこには何も言えずただ立ち尽くしているだけの彼女がいた。

 

「それじゃあ、これでさよならだ」

 

 バンっと扉が閉まる大きな音が響く。

 その後の廊下に響くのは一人分の足音だけでとても静かなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パーティーメンバーが一人抜けたので、これをお願いします」

「あ、はい」

 

 冒険者ギルド。

 魔王が世界を蹂躙する前から存在していて、今では魔物を狩る冒険者達に"クエスト"という仕事を渡す施設だ。

 

 まだ日が登ったばかりの時間で、黒髪で眼帯をつけた若い男が一つの紙を提出していた。

 そこに書かれてある冒険者の名はエリス。

 さっき男が追放した女冒険者の名前だった。

 

「あ、あのー……」

「ん?」

 

 少し困惑しながら聞いてくる女性のギルド職員に、男は何かやり忘れている事があるのではないかと思う。

 ミスったか、と目線を下に向けるが杞憂だと分かる。ギルド職員が話しかけた事によって。

 

「エリスさんがパーティーを抜けるって本当ですか?」

「……まあそうだね、少し彼女とは合わなくて」

 

 男が苦笑いしながら答えるとギルド職員は驚いていた。

 一応暗黙の了解でギルド関係者は基本冒険者のプライベートは聞かない事になっている筈だが、そんな事は知らないのかギルド職員の話は進む。

 

「え、でも昨日これでようやくパーティーのスタートラインに立てるってエリスさんがっ……いた!?」

 

 が、背後から現れた緑髪の女性がギルド職員の頭を軽く叩いた事によって話は中断された。本で頭を叩いたエルフの姿はギルド職員より一回り大きいからよく見える。

 

 誰が見ても美人と言えるほどの顔に、宝石を思わせる様な緑の瞳。

 おでこ辺りに冒険者時代の傷が見えるが、煙管をくわえている事によってむしろカッコ良さに拍車が掛かっている。

 

「忘れたの新人君。冒険者にその手の話を聞くのは御法度よ」

「しょ、所長〜……」

 

 優しい声でギルド職員にそう言う所長と、涙目になりながら後ろへ向くギルド職員。そんな光景もあってか所長と呼ばれたエルフは「優しくてクールなお姉さん」に見えた。

 

 そのエルフが煙管を外して……一瞬だけ男を見た後に話を続ける。

 

「人には聞かれたくない事情があるのよ。冒険者なんて尚更……魔王が倒されてからは少しは平和になったけど、冒険者の仕事が危険なのは変わらないままよ」

 

 冒険者は常に死と隣り合わせ。

 

 ()()()()()彼女の言葉に反論できる人など居ないだろう。ついでにエルフの証である長耳も片方欠けている事が、激戦時代である終末事変を生き抜いた猛者の証だった。

 

「だから冒険者の事情に他所が突っ込んだらダメだよ」

 

 所長の容姿でそう言われたら新人も納得するしかない。彼女の様にクエストで体を欠損した人もいれば、大切な人を亡くしたトラウマを持つ人も居るのだから。

 

「というかこの事は少し前に話したばかりでしょう?」

「そ、そうでした……冒険者さん。すみませんでした」

「そう言う訳でヴォルフ。この子のミスは許してやってくれない? 最近来たばかりの子でさ?」

「こっちは大丈夫だよ。一年前にここに来た時は見なかったと思ったけどそうか、新人だったんだな」

 

 お客の前だと言うのに相変わらず煙管を付けたままの所長と、その所長と親しく話す男は互いに軽い笑みを溢した。

 所長は久々に親友の顔を見れたことに対して、男は一年振りだと言うのに全く姿が変わらない長寿種族の姿を見れて。

 

「新人君。私はこの人に用事があるから裏方に回ってて。先輩が呼んでたよ」

「わ、わかりました所長!」

 

 新人は緊張気味な様子を解く事が出来ないまま裏へ回った。残ったのは二人。今はまだ早い朝だから彼ら以外の冒険者はいない。

 

 

 よって崩れた雰囲気になるのは必然だった。

 

 

「はぁ〜……またやった様だなヴォルフ」

 

 所長はカウンターに膝をつき、どこかめんどくさそうな雰囲気を醸し出しながら話し始める。

 

「そう言う君はまだタバコを辞めてないんだな、ミナーシャ」

 

 所長の先程まで頼れる姿は何処かへ吹っ飛んだ。

 代わりにと私生活がぐうたらしてそうなお姉さんに早変わり。

 優しそうな声つきは鋭い声つきに。

 トーンも女性寄りから中性寄りに変化している。

 

 ヴォルフと二人だけになったミナーシャと呼ばれる女性は、その本性を警戒する事なく自分からさらけ出したのだ。

 

「その喋り方は久しぶりだね……半年ぶりかな?」

「一年だ。そっちも時間感覚が緩いな。エルフの私より緩いとかどうかと思うぞ」

「冗談だよ。エルフみたいに時間感覚が遅くなってるかなって思ってさ」

「私は都会に慣れたエルフだぞ。そんなの森に引きこもってる奴らだけだ」

 

 しかしヴォルフと呼ばれた男は驚く事なくむしろ懐かしむ様に会話を続けている。その光景は昔ながらの親友のよう。

 だが間違っていない。彼らは昔、同じパーティー居たのだから。

 

「……まあギルドで働いている時くらい外見はな? 話し方一つでも敵を作ってしまうんだこっちは。話し方ぐらいで人の命が落ちる事は無いだろうに、ギルド本部の奴らは……」

「アハハ……」

 

 さっきとの態度の落差といい。ギルド本部の人達が居たら問題になりそうな事をポンポン言う。

 だが周りに人は居ない。と言うより彼女の事だからそれぐらい()()して話しているだろうし同時にヴォルフと呼ばれた男も、ギルドの職場を除けば人が居ない事を理解している。

 そう信頼しているからこそ、こんなぐうたらな喋り方になってしまうわけだが。

 

「それでもう一度聞くが」

 

 少しは懐かしむ様な会話が続きそうだったが、ミナーシャはなあなあにさせまいと会話の流れを改めた。

 

「またやったらしいな。()()()()()()

 

 ヴォルフに向ける目付きも狩り人の様になる。喋り方が変わった時から目付きは鋭くなったが、それ以上に矢の様な切れ味すら感じる程だ。

 

「……まあね」

「……ふぅ〜」

 

 短い返事に対してエルフは煙管を外して息を吐くだけ。白い息はヴォルフを通り過ぎ、そして白い朝日へ消え失せる。

 

 ミナーシャは知っていた。目の前の男が八年前から成り立ての冒険者を追放している事を。

 厳密に言えば冒険者になったばかりの者をパーティーに入れて、ある程度育てたら突き放す行為を繰り返している事を。

 

 側から見れば謎が残る部分もあるがそれを込みにしても、冒険者としては褒められた行為では無かった。

 怪我をした。パーティーのルールを破ったなどの理由で追放するのはいいが、彼の場合だとそんな事は起きてない。

 

 むしろ追放された人はみんな立派な者だ。

 

 パーティーを追放されても心が挫く事なく()()()()()()()()()()()()()()を活用して、その人が得意の分野で活躍している。

 最近有名になっている冒険者パーティーのリーダーや、町の傭兵でエースになっている人物。それらを辿っていくと辿り着くのがヴォルフと呼ばれる男だ。

 

 どう言う訳か彼は優秀な人材をパーティーから追放しているのだ。それが謎が残る部分の正体。

 

「いつまでやるつもりだ?」

 

 何が、とは言わない。ただお前のやる行為はただ虚しいだけだと仲間のミナーシャは言外に伝える。

 

「……いつまでだろうね」

 

 伝わっているのか伝わっていないのか、ヴォルフはそんな返しをした。目を伏せて何か思い出している様な顔で。

 

(結局は平行線のままか)

 

 一年前で起きた事を繰り返しただけだった。

 彼女としては時が止まっているヴォルフにどうしても前に進んで欲しいと思っているが無理強いも良くない。

 余計に拗れるだけだ。

 

「ヴォルフ、依頼だ」

「! ……おっと」

 

 だからミナーシャはクエスト用紙をヴォルフに投げた。

 

 驚きながらも難なくキャッチしたヴォルフは紙を見る。するとさっきまでの表情はどこへ行ったか、真剣な表情を浮かべた。クエスト用紙の左上には紫色のハンコがしてある。

 

「これが今回のクエストか……だけど」

「重要な案件だ……最近は魔物共のの動きも活発になっているからな。何かの予兆なのかそうじゃないのか、取り敢えず調査して欲しいそうだ……いけるか?」

「問題無い。強いて言うなら少し距離が遠い所か。クエストも二個あって、それぞれ距離もある」

「お前なら問題ないだろう。お金も弾んでおく。念の為言っておくが重要なクエストだ。しっかり──」

「『自分の命を大切にして行動しろ』だろ。分かっている」

 

 クエストの用紙を丸めながらヴォルフはそう言った。そんな大切な約束を破るつもりはないと念押しする様に。

 必要な情報は全て言い終えた。後は小鳥のさえずりを聴きながら静かに男は出ていき、所長も無言でそれを見送るのみ。

 そうやって少しは人の気配もしていたこの場所も、完全に朝の青白い寒さを残すだけの殺風景になった。

 

『自分の命を大切にして行動しろ』

 

 女性は煙管をもう一度蒸しながら過去を思う。

 今は居ない彼女達のリーダーだった女性の言葉を。

 精神的支えだった優しくて勇気のある彼女の口癖を。

 

(ヴォルフ。お前が過去に囚われるのはわかる。だがいつかは前に進まないと、アイツが浮かばれないぞ)

 

 朝の寒さを身に染みながらミナーシャは誰も居ない出口を見てそう思った。

 

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