その日も男は有能な冒険者を追放した   作:ギル・B・ヤマト

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三話 魔王亡き世界で冒険者は何を求める?

 

「リッカさん初めまして。私はエリスって言います。クエストのバディ、よろしくね!」

「は、はいっ。シルバーの人と組むなんてすごく嬉しいですっ。よろしくおねひゃい!?」

「あはは、そんなに緊張しなくていいよ」

 

 エリスがやけ酒をした翌朝。

 日も昇りかけた所でまだ涼しさを感じる時間帯。人気の無い街の中に二人の冒険者が居た。

 一人は歴代で二番目の速さでシルバーに昇進した、噂の新人冒険者エリス。

 もう一人は同じく新人冒険者。金稼ぎの為に宝珠石が有名なこの街へやってきたリッカだ。メナーシャから聞いた話だとこの女性は僧侶と聞いていだが、実際に見てみれば確かに僧侶としか言いようがない服装をしている。

 

 ロングスカートで手首まで白の絹で覆われていて、肩や腰辺りに金色のラインが付けられている服装は、新聖都教会クーストが指定する僧侶の正装だ。

 木の十字架を首から下げていて、持っている長棒の先端には大聖女の加護が付与されている硬い魔石が付いている。回復に使われる魔石だが物理にも強く叩いて武器にもなるメイスが彼女の装備品らしい。

 後ろで一つにまとめている艶やかな金髪も含めてその姿は、まさしく僧侶らしいの一言。

 

「リッカさん。それで今回が初めてのクエストって聞いたんだけど」

「は、はいっ。故郷から旅立ったばかりで」

「なるほどね……だからミナーシャさんは私をクエストのバディにしたんだ」

 

 これで逆光さえあれば文句無しに大聖女の使徒と言えるのだが、残念な事にリッカは影に覆われている。

 町が薄暗いからでは無い。もっと身近な物が彼女を覆い被さっていただけの話である。

 

「悪いんだけど、一回宿に戻ろっか」

「はい。分かりました! けどなんで宿に?」

 

 エリスは少し申し訳なさそうにしながら、先輩冒険者として一つ指摘した。リッカの後ろを見て。

 

「それだけバッグが大きいと、流石に危ないからね」

「……あっ、た、確かにこんなに大きいと……そうですね」

 

 およそリッカの三倍くらい大きいバッグ。

 何を入れたらそうなるのか、なんでそんな重い物を平然と持っているんだとツッコミたい所は何個かあるが、今は一旦置いておこう。

 

 ギルドから出る前に所長から言われた言葉を思い出した。

 

『色々、困った子ちゃんだけど助けてあげてね。その分高くしてるから』

 

 僧侶らしいと思ったと同時に、彼女は本当に初めてクエストを受けるんだと改めてエリスは感じた。まあ要は色々面倒な所があるよと言うメッセージだったのだ。

 

(あれはそういう意味だったんだぁ〜所長〜……)

 

 所長の言葉を噛み締めるも、そう言えば自分も最初はそんな風だった事も思い出した。

 

『エリス。僕に迷惑をたくさん掛けるのはいい。でもこれだけは守れ──』

 

 先輩に何度そう言われた事やら。今は苦い思い出でもあるはずだが不思議と口角が上がってしまう。追放されても彼女は冒険のロマンを追い求められずにはいられないからだろうからか?

 

「あ、す、すみません。迷惑かけてしまって」

「大丈夫大丈夫。私も最初はそんなもんだったよ。でもリッカさん。これだけは守ってね」

「はい?」

 

 

「自分の命を大切にして行動する事、いいね?」

 

 

「……はい!」

 

 人差し指を上げて笑顔で言えば、リッカも釣られて笑顔になる。どうやら先輩冒険者として後輩の気持ちをフォローする事はできた様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のクエスト内容は、簡単に言えば魔法石類の採取」

「確かギルドから渡されたピッケルとその他の道具を使って袋に入れて持ち帰ればいいんですね?」

「そうだね。初心者にちょうど良いクエストだ」

 

 エンコウン街を飛び出て目的地である森へ向かっている二人。僧侶リッカは先輩冒険者のエリスの言う通りバッグを宿に置いてきた。

 今の彼女は必要最低限の採掘道具と非常食だけ持っている。それ以外のクエストに必要な物はエリスが小さい道具袋(自分で買った物)に入っていて、エリスがルンルンしながら持っている地図もその一つだ。

 

「…………で、でもビックリしました。私はてっきり馬車で移動すると思ってましたよ」

 

 自信満々に歩くエリスの二歩後ろで自信なさげに歩いているリッカが聞いた。木が所々生えた草原はのどかな物で微風が気持ち良い。魔物が盛んに活動している場所でもないからとても静かで、二人の足音やエリスの鼻歌がよく聞こえる。

 

 ただ景色はいいが目的地の森らしき姿が一切見えない。さっきの質問はいつ辿り着けるのか分からない不安から来たものだった。

 

「確かにリッカさんの言う通り。馬車を使用して移動することもあるよ。重い荷物とか乗せれるし、歩行での移動より体力温存できるからね」

 

 ただ、と言葉を付けてエリスは持っていた地図を後ろのリッカへ見せた。エリスの指が刺した先にはさっき自分達が居た『エンコウン街』とこれから向かう『古の森跡』が書かれている。

 

「見て見て。街からクエスト場所までの距離はそう遠くないでしょ」

「え、え〜と……はい。多分」

 

 目と鼻の先、と言うかリッカの光景が地図で埋め尽くされてしまうほどに近くまで来たエリスに少し驚きながらも、要領を得ない返事をしている。

 

「だから歩いている。この距離だと、使うお金と楽になる部分が釣り合わないし、それに」

「それに?」

「リッカさんはまだ冒険者成り立てだからね。足腰鍛える意味でも歩きにしたんだ。馬車は使うって言っても、最後は足で渡っていくんだし。五、六時間歩き続けるなんて当たり前だよー」

 

 今の彼女達が歩いているのは比平原な上に持ち物も少ない状態だ。とても歩きやすいが勿論、冒険者達が歩く道路は常に整備されているとは限らない。

 魔物討伐のクエストを受けていれば、いつか二十キロ超えの荷物を持って山道を歩く事になるだろう。

 魔力で力持ちになれると言っても大変な事には変わらない。一般人は魔物と戦う所ばかり目に行きがちだが、それ以前やそれ以降の移動だって、地味に大切な部分だ。

 

(金欠で馬車が使えないというシンプルな理由もあるけど……)

 

 まあ今回はやけ酒が原因でお金が無いのが理由だが。新人冒険者がそんな事を知る由は無かった。

 

「へー……それは大変ですね。いや、私も他人事じゃないですけど。なら歩きましょう。歩いて歩いて憧れの冒険者に一歩ずつ近づきます!」

 

 悲しい事情は一旦置いといて。

 

 腰を少し曲げてニコリとするエリスは、言いたかった事を口に出せて満足したのか、それとも後輩の前向きな言葉に満足したのか再び前へ向いて歩き出した。

 自信満々にワクワク気分も追加されたのか見るからに彼女は楽しそうにルンルン歩いている。

 

「エリスさんはとても楽しそうですね。なんだか危険な場所に向かっているのにそんな事感じさせない雰囲気してます」

「ん、まぁね。私、冒険にはワクワクしてしょうがない性分でさ。冒険者になったのも冒険への憧れからなんだよね」

 

 エリスから帰ってきた返答に、へーと珍しそうな表情をするリッカと、鳥のさえずりは相変わらず聞こえており彼女達の周りは平和な空間のままだ。

 

 

『……エリスはなんで冒険者に?』

 

 

 村で先輩に同じ事を聞かれた時もそんな空間での出来事だった。

 

 平和でのどかでただ暮らすにはなんの不満のない幸せな場所。けど心のどこかで何かが引っ掛かってて、冒険の寄り道で来たヴォルフと出会ってその何かが封印の鎖から解放されるように吹き飛んだ。

 

 失った物を追い求めるように。心の奥に潜む熱の正体を掴む為に、彼女はポケットの中の世界から飛び出したんだ。

 

 先輩と一緒に憧れを求めて。

 

「そう言えばリッカはなんで冒険者を始めたの?」

「私ですか……え、ええと聞いても笑わないでくださいよ……?」

「もっちろん。私だって命懸けの冒険者に、ロマン追い求める為になったんだからね。笑う資格なんてないと思うし」

「で、では。私はその、大聖女さんに憧れてなったんです」

 

 恥ずかしそうに顔を少し赤ながら彼女はそう言った。いつも以上に落ち着きがないようで、無意識に髪を触りながら言っている。

 

 大聖女ジェネス。

 魔王を倒した四人の偉人の一人だ。

 語られる偉業は人類を脅やかす巨悪を倒した事と、呪いによって枯らされた星の自然を元に戻した事の二つ。

 

 聖女の名を冠する通りに回復の逸話を持つ生きる伝説だ。

 

「わ、笑わないんですね。エリスさんは。住んでた村で話した時はよく笑われたんですが……」

「まぁ私もリッカと同じだからねぇ〜。憧れた人は違うけど、私も成りたいって思って旅に出たから」

「それは勇者様ですか?」

 

 勇者レイ。

 リッカから出たのは模範解答。

 男の子なら、冒険者なら一度は憧れる浪漫の極地であり夢の頂。魔王を倒す旅が綴られた有名な本『伝説の旅』の主人公だ。

 もし全ての街で四人の内なら誰になりたいと聞かれたら、間違いなく一位を取るだろうザ・主人公。

 

 彼女も勿論、勇者に憧れはある。理想を体現する人物に浪漫を感じるのは当然の事だ。

 

 でもそうじゃない。

 

 彼女自身でも言葉にできないが成りたいと思ったのは勇者でも大聖女でもなくて、

 

 

「殺しの化身」

 

 

 そんな物騒な名前を付けられた男だった。

 

「……エリスさんは殺しの化身になりたいのですか?」

「不思議に思う? まあ珍しい事は否定しないよ。だって勇者と比べて地味だし」

 

 勇者は空の闇を晴らす光の力を持ち、大聖女は星全土にかけられた呪いを消す祝福を持ち、狩人は賢者以上の知識と三十キロ以上離れた敵を射抜く腕がある。

 

 皆んな分かりやすくて派手な能力を持っている。

 けど殺しの化身は違う。人外だと思わせる様な力は持っていない。

 

 でも憧れた。

 

 何故なら──

 

 

 

 

「エリスさん、敵ですっ!」

 

 和やかな雰囲気から一転。リッカの鋭い声が響く。

 挨拶を除けば後輩と先輩の初めてのコミュニケーションだったのに邪魔するものが現れたらしい。

 

 その下手人は彼女達の死角の木から現れた。

 

 迫ってくるのは狼系統の魔物。剣のように鋭い目線を向けてきて全力疾走している。ただ遠い。まだ三百メートルはありそうな程の距離だ。

 

(でも人馴れているね)

 

 ギルドで指名手配されていた魔物の情報と一緒だ。体は所々傷だらけで右目に至っては斬られている。

 

「リッカ、撃たなくていいから炎魔術の詠唱をしたまま構えて」

「は、はいっ! ……主人よ私の──」

 

 僧侶だが回復以外の基本的な魔術が使える事は街で確認済み。リッカは緊張しながらも杖の先端を狼の魔物に向けて詠唱を始める。

 するとどうか。オオカミが最短距離で走っていたのをやめてジグザグに走り始めた。人間が扱う炎魔術がどんな物かよく分かっている証拠だ。

 

 つまり今のリッカでは身が重い相手でもある。

 

「距離からして……よし。リッカ! 当たらなくても良い三発炎魔術を撃って」

「分かりましたっ!」

 

 指示通りに炎の玉を三発放つが躱された。

 慣れない動きで炎を放つ人間と、焦る事なく的確にしかし確実に近づいてくる狼。力量差は明らかだった。

 

「回復魔法の準備を!」

「わ、わかりましたがエリスさんは何をっ!?」

 

 剣を抜き歩き始めたエリスにリッカは聞く。

 

「倒しに行く。あとリッカ。回復魔法の準備始めたら()()()()()()()()()()()()。お願い」

「……はいっ!」

 

 ハッキリとしたリッカの返事にエリスは満足そうに頷きながら剣を抜く。鞘から抜かれた剣はマグマの中に入ってたのかと思うほど刀身が紅くなっている。

 

 無詠唱だ。

 それもゴールド冒険者ですら難しい程の精度や自然を誇った無詠唱。

 

(すごいなぁ……)

 

 堂々とした佇まいにサラッと行う高等技術。

 不安を一切感じさせない頼りがいの背中を見せつけてくるシルバー冒険者に、リッカは尊敬が混じった眼差しを向ける様になる。

 

「よぉし、それじゃあ」

 

 そうして尊敬の念を受けた彼女は、剣を抜いた瞬間に走り出して──

 

 

「へぶっ!?」

 

 

 ──石に躓いた。

 

「へ?」

 

 フルスピードになる直前に石に引っかかって、それはもうカッコ悪く転んでしまった。

 勢いで走り出す物だから受け身すら雑で、持っていた強そうな剣はぶっ飛んで明後日の方向へ。剣を持ってない左腕なんか()()()()()()()()始末。ズズッーと地面を滑っていくのはもはやギャグで、さっきまで真剣なリッカでさえ呆気に取られるほど。

 

 でもここは現実。爆発に巻き込まれたら死ぬし、死んで生き返ることもない。彼女は間違いなく狼の目の前で致命的な隙を見せてしまった。

 

「ガァッ!」

 

 言われるまでもなく狼にとってそれはチャンスだった。

 

 己の姿を見た時に白い衣を着た人は怯えて、その隣にいる剣を持つ人間は慣れた様に自然体に構えていた。

 

 その慣れた人間が隙を見せてくれた。

 見逃す理由が無い。

 

 この距離なら仕留められると狼は十数メートルから跳んだ。その大きさからは考えられないウサギの様な飛び方をした狼の狙いはただ一つ。

 倒れた人間の首だ。

 

 走って襲うには微妙だが。

 跳んで襲うには丁度いい距離でタイミングもいい。

 

 倒れた状態で上から襲ってくる相手に対応するなんて無理だろう。()()()()()()()()()()()()

 

『!?』

「予想通り跳んだね」

 

 跳んだ瞬間に待っていましたと言わんばかりにエリスが立ち上がった。不測の状態に陥った人間のそれじゃない。分かってて立ち上がりやすい姿勢で転んだ行動だ。

 

 

 でなければ左腕が岩魔法で固められている筈がないだろう。

 

 

 己の失態に狼はようやく気付いた。

 だが跳んでしまった以上は着地するまで体を動かす事は難しい上に、魔法を使うにしてはこの距離は短すぎた。時間がない。このまま首を噛み付くのも当然無理。

 

 殺せると思った時から敗北は決まっていた。

 

 

『ガウッ!?』

 

 エリスの体目掛けて噛みついてきた狼を横に避ける。

 代わりに岩魔法で固めた左腕を狼が噛み付く位置に持ってきて……

 

 左手で狼の舌を掴んだ。

 

 今度は転びはしない。襲ってきた狼を地面に叩きつけて押さえつける。

 舌を掴まれた狼は体の構造上暴れる事が出来ず足掻くしかない。

 

 けどその足掻く時間すらエリスは与えない。

 

 残りの右手でいつの間にか抜いていた()()短剣で刺す。

 狙うは狼の脳がある所……目の少し後ろ。

 

 たったの一撃。

 

 短剣はしっかりと脳を貫き、頭蓋骨の中に入った紅い刃は宿した炎によって中から点火する。つまりそれを意味するのは死だった。

 

 その証明に足をバタバタと足掻いていた狼の動きは止まり、緑の床に横たるのは魔物だったモノ。生き物としての輝きを失った物であった。

 決着である。派手に殺すわけでもなく静かに確実にエリスは指名手配された狼を殺したのだ。

 

「…………魔力の動きも鈍くなってる。死んだ真似じゃないね」

 

 

 

 ──何故エリスは殺しの化身に憧れているのか?

 

 

 勇者や大聖女に最新の狩人のように派手ではない。

 『伝説の旅』でも最後に仲間になり、他の人みたいに華やかではない。付けられた名前の通り殺しの技術と物騒なものだ。

 

 けれどエリスはそんな彼が好きだった。

 エリスは彼に一種のロマンを感じていたからだ。

 

 

 殺しの化身。

 

 それは勇者や神の力、森の賢者の様な特別な力を持たずに魔王殺しの偉業を成し遂げた者だ。

 

 人の技術のみで超人達に並んだ男。

 エリスが冒険者になった原点が彼だった。

 

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