その日も男は有能な冒険者を追放した   作:ギル・B・ヤマト

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七話 かつて魔王を倒したパーティーがあった

「なぁ知ってるか? あの期待の新人……確か名前は」

「エリスか。噂だとパーティー追放されたらしいな」

 

 ガヤガヤガヤガヤ……

 

 多種多様な人間が集まる冒険者ギルドでは、冒険者があーでもないこうでもないと会話をしていた。

 昼間から酒を飲んで入り浸っている大人達が建物内を活気で満たしている。

 

「あの有能な冒険者が追放されるとはなぁ。追放した奴は無能だろ」

「いやいや分からんぞ。才能がある奴、実力がある奴が他人を見下す事なんてよくあるこった。表には出てないだけで裏じゃあやばい問題起こしてたとか……」

 

 青い魔法石の置物の近くで話していた男二人もその例外ではない。テーブルを跨いで二人の冒険者があーでもないこーでもないと世間話に花を咲かせていた。

 酒でも飲みながら特に根拠もない持論を展開する二人だが、話す事に夢中ですぐ上で起こった青い光にも気付きやしない。

 

「うおっ、なんだ!?」

「上から人が落ちてきやがった!?」

 

 ギルド内を活気で溢れさせていた人々のガヤガヤ声は、突如乱入してきた落下音やジョッキが壊れる音で終演を迎える。

 その場が沈黙で支配されたギルド内では、冒険者もギルド職員もみんな同じ方向へ視線を向けている。

 

 派手な音をぶちまけた血まみれのリッカ(張本人)へ。

 

「いっ……たい。はやく伝えないと……」

「お、おい。誰かヒーラーとギルド職員を呼べ! こいつスゴイ傷負ってるぞ!!」

 

 片腕は消えて、綺麗な服の大半は血で真っ赤に染められている。そんな状態の女性が突然出てきたら周りの雰囲気は嫌でも変わるだろう。

 

 ギルド内は騒然となり、ヒーラーを探そうとする者、ギルド職員を呼びに行こうとする者、野次馬で倒れている女性の近くまで寄ろうとする者と様々な冒険者が同時に動き始める。

 

 建物の広さと比べて人口密度が多いこの場所で、大勢の人がバラバラに動き出せば多少の混乱は必須と言える。

 一人の女性が命を掛けて戦っている中、そんな混乱による行動の遅延は問題だ。

 

 だが今から起こる混乱も、遅延も訪れる事はなかった。

 

『ハイハイ、みんな静かにして!!!』

 

 一人のエルフがそう大声で言えば魔法でもかかったかの様に群衆は自然と静かになった。

 緑の髪に緑の宝石の目を持った女性のたった一言で、このギルドは彼女の支配下になったのだ。

 

「ミナーシャ所長、いきなり上から怪我人が落ちてきたんです!」

 

 一人の冒険者が支配者の名前を呼ぶ。

 エンコウン街の冒険者ギルドの支配者にして、歴戦の猛者と噂される謎が多い彼女の名を。

 いつもは優しさ溢れる顔も今は少し硬い。

 

「……あぁ飛行石が発動した訳ね。これは面倒事の匂いがするなぁー」

「所長いかがしますか?」

「まずはこの場を納めようか。あの目撃者っぽい二人は残して、それ以外の無関係者は一旦外に出しておいて。あと聖教会に倒れている子を運ばせる準備を」

「分かりました。ただしヒーラーは?」

「緊急手当は私でいい。けど一人は助っ人呼んでおいて」

 

 短く静かな会話の後で、所長の隣に居た眼鏡をかけた中年男(副所長)がすぐに冒険者とギルド職員を誘導し始めた。

 その背中に頼り甲斐を感じながらミナーシャも行動を始める。

 

(様子を見た感じ悪いなぁー。魔力の流れも死にかけてる)

 

 少しだけ触れただけでミナーシャの手は真っ赤だ。余程の出血量だと確信した彼女は、さらに情報を得ようと負傷者の顔をマジマジと見る。

 

 どこか童顔で副所長とは反対で頼りなさを感じる。

 何かをしでかしそうで目を離せない優しげな表情だ。だが違和感がある。

 この感じの顔は少し前に見た事があったような、そんなモドカシイ感覚に陥るが……

 

(……リッカ?)

 

 蹲っていた事、体の大半が赤くなっていた事で遅れたが、ここでようやく負傷者の正体に気付けた。

 その顔付きは紛れもなくヒーラーの新人冒険者のもの。リッカは比較的安全な古の森跡でクエストをしていた筈だ。なら……

 

(エリスは一体? それにこの子の肩に残ってる魔力の残滓は、もしかして……)

 

 ミナーシャの脳裏に緑髪の女性が過ぎる。

 リッカのランクに近い冒険者の中で、一番信頼出来ると判断して同行させたシルバー冒険者の姿が。

 

 例えゴールドランクの敵に遭遇しても対処できる筈の彼女がいて、何故こんな惨事になってしまったのか。

 

「そこの冒険者二人、この子はどうやって現れたの?」

「え、ええとあまり覚えていないんですが、少なくとも空から降ってきたのは確かです」

「そう言えばこの子が落ちてくる前、青く光ってたよおな……」

(やっぱり飛行石でここまで飛ばされた様だね)

 

 戸惑いも混じりながら話した男から出た情報によって点と点が繋がっていく。飛行石は高級故にヒヨッコどもでは買えない代物だが、彼と行動していたエリスなら話は別だ。

 彼なら過去の経験で絶対に追放した人達に渡しているだろう。そう考察していると、閉じていた目が僅かに開く。

 

「しょ、ちょうさ、ん……?」

「起きたようね」

 

 今でも消えそうなほと弱まっている声。顔半分を血で彩られたリッカの口がかすかに動いている。

 

「あまり喋らない方がいいわ。少し休んで──」

「はや、く、たすけて…………」

 

 力が入らずとも精一杯伸ばすリッカの手をミナーシャは優しく掴んだ。掴んだ手は今だに恐怖で震えて彼女の目からは涙が流れている。

 喋るだけで苦しそうだ。実際にリッカの言葉も痛みのせいで途切れ途切れになっている。

 

「魔物が……暴れてるです。エリス、先輩が…………」

「エリスちゃんが……?」

「せん、ぱいが戦っている、んです……はやく助けないとっ!」

 

 でもリッカはそれ以上に"彼女"を心配していた。

 今でも死んでしまいそうな体に反して、その目は死んでいない。

 

「大丈夫よ。エリスちゃんは必ず助ける。だから今は『しっかり休んで』」

 

 けれど安心させるようにミナーシャが話せば、糸が切れたようにリッカは気を失ってしまった。

 勿論死んだ訳ではない。アクシデントによる疲れと魔法で深い眠りに落ちただけだ。

 

「あ、あの所長さん。私は一体どうすればいいですか……?」

「新人ちゃん良いとこに来たね」

 

 ミナーシャが振り返れば昨日の夜に……ちょうどヴォルフとの手続きをしていた新人が不安そうな顔でこちらを見ていた。

 

「貴女は『焦らずに』この子の体を起こさせて。あとこの子に第二種回復薬(エヴォレス)を」

「は、はいっ!」

 

 ミナーシャはいつも通り優しい声で彼女に指示を出す。事務処理は苦手なタイプだが聖教会の訓練を受けている彼女なら適任と言えるだろう。

 緊急時に必要な回復系統の魔道具を彼女はしっかり用意していた。

 

《主人よ……奇跡を呼び──》

 

 新人ギルド職員が詠唱を始めれば光の粒子が無数に浮かび上がる。

 夜空の星空を立体化すればこんな風になるのだろうか。大聖女ジェネスによって作られて魔道具は、秘められた神秘を解き放ちリッカに"奇跡"を授けていた。

 

 回復魔法の応用。

 彼女の体は止まり、怪我がこれ以上悪化する事はない。

 間接的に時間を操る回復薬は人類の努力の結晶と言える。

 

 

 

(さて……いい加減私も本気を出さないとな)

 

 そして同時に。

 眼鏡を外した彼女も──

 

 

 

【古の民よ、我に叡智の結晶をを──】

 

 ──ミナーシャも新たな奇跡を生み出す。

 

 呼び起こされるのは古代の神秘。

 第二種回復薬(エヴォレス)の粒子を緑色に上書きした正体は、詠唱者の片腕から生えてくる無数の木の根っこだった。

 

 終末事変で無くした腕の代わりにと、深緑の苔に覆われた千年代の自然の神秘が生み出されていくそれは、人類が生み出した結晶ではない。

 

 自然が生み出した結晶。

 再生と破壊と還元を司る、膨大な星の歴史がミナーシャの肩から誕生していた。

 

 無数に出たそれはそれぞれのルートを通りながら、リッカの無くした片腕……傷口へ向かっていく。

 

(うわぁ所長さんがなんかスゴイ魔法使ってる! って今はそうじゃなくて治療治療)

 

 新人はその光景を見るが()()()()()()()()()()()魔法が発動しているが為に冷静に詠唱を続けていた。

 目の前で起きているのは魔法の上澄の上澄。

 究極の領域に達した技だというのに。

 

「所長さん。こちらの準備は完了しました」

「分かった」

 

 所長の返事は簡素に。

 今の彼女が優先するべき事はこの事態を引き起こした魔物の判定。リッカの肩に僅かに残っている魔力の残滓を読み取る事だ。

 

 自然とは星の一部であり、末端と言えど先を辿ればこの世界の全てを生み出した強大な生命()へ辿り着く。

 魔物もそれは同じ。故に遥か前から存在している太古の存在(世界樹の枝)の記憶を媒体に、敵の正体を見破る。

 

 

(さてどんな厄介者が出てくるか)

 

 

 突如として彼女の脳裏映る光景。

 ノイズが混じりながらもそれが森の中で、奴と遭遇した瞬間なのは察知できた。後ろの特徴的な木がそう教えてくれる。

 肝心なのは一瞬──エリスに助ける前に映ったディピィグルヴェルフ(卑劣な狩人)だ。()()()()()()()の魔物には間違いないが。

 

(…………チッ。アイツの悪い予感が命中したか)

 

 心の中で口が悪くなるがゴールドランクの敵が出てきたからではない。ディピィグルヴェルフ(卑劣な狩人)の体に無数に付いている宝珠石が見えたからだ。

 

「……所長、何か分かりましたか?」

 

 生やしていた世界樹の枝をリッカの傷口から離せば、恐る恐る新人がそう聞いてきた。

 リッカの方は既に治療を終えて白かった肌も生気を取り戻しつつある。

 

「あぁ……この子をこんな風にした奴は分かった。ディピィグルヴェルフ(卑劣な狩人)さ。ソイツが古代の森跡でこの子を襲ったんだ」

「それってゴールドランクの……!」

 

 淡々と話す所長とは反対に新人の顔は驚きでいっぱいだった。だがそうなるのも仕方がない。

 ゴールドランクの魔物となれば小さな街程度、容易に破壊できる存在だ。

 

 百メートルの距離なんて一瞬。

 二十メートルの巨大な岩だって吹き飛ばす怪力。

 このクラスに指定されている魔物や魔獣は強力な奴らばかりだ。

 

 だがまだ良い。

 さらに上の化け物と比べればゴールドランクの魔物は現実的な方なのだから。

 

「……でも、古代の森跡で出てきたのはよく分かりませんけど……まだなんとかなります」

 

 幸いにもエンコウン街にゴールドランクの冒険者はいる。数は少ないが被害を抑える事は出来るだろう。

 

 新人はそう予測して話すが、

 

()()()()

「え……………………?」」

 

 新人の()()()は所長の一言で叩き切きられた。

 

 

 ミスリル。

 

 

 それはギルドから指定されている危険度を表すランクの一つであり、ミスリルは上から二つ目。実質今の世界で一番危険で、誰もが魔法を扱える世界においても非現実と表現される化け物達が属するランクだ。

 

「今回の魔獣は普通じゃない。意図的な強化が施されていた……間違いなくミスリルはあるだろう」

「ミスリル!? そんなのお伽話の……終末事変以来じゃないですか!」

 

 人類を悪夢に突き落とした魔物。

 昔にエンコウン街を瓦礫の集団へ化した破壊者達。ゴールドランクの冒険者だろうと勝つことが出来ない雲の上のような存在。

 

 それがエンコウン街に襲いかかってくる。

 奴らの性質からして何もしないで離れていくなんて優しい未来は来ないだろう。ミスリル……伝説級の化け物が誕生するとは悪夢そのものだ。

 

 

 

 だが悪い知らせはそれだけでは無かった。

 

 

 

「所長、作業の途中すみません!」

「いやいい。報告しろ」

 

 外から息を切らしたギルド職員が走ってきた。

 新人も知っているその人は街の外の監視を担当している人だ。

 終末事変で外から襲ってきた大量の魔物のせいで滅んだ事もあるこの街は、対策として遠いところまで見渡せる監視塔を復興後に建てている。

 その監視塔に居た彼が汗を大量に流しながら来たという事は──

 

「古の森跡から大量の魔物がやって来ています! ブロンズとシルバーが沢山、中には森の奥から出てきたゴールド級も……!!」

「数は?」

 

 職員の言葉を遮りミナーシャは今必要な情報を問う。

 冒険者なら容易に勝てるブロンズランクでも一般人からすれば恐ろしい魔物に変わらないのだから。

 だが聞かれた職員は苦虫を食べた表情をしてすぐに返答はできなかった。質問の重要性は理解しているはずなのに……それとも口を出す事すら難しかったのか。

 

 

 あまりにも絶望的すぎて。

 

 

「………………百は軽く超えています」

 

 新人が声にならない悲鳴をあげ、監視塔でその絶望的な光景を見た職員は現実から目を逸らすように顔を下げる。

 

 ここにいる冒険者で何人いる?

 少なくとも三桁は届かないだろう。

 いや量どころか質でも魔物達に負けている。

 

 ブロンズクランクの冒険者は沢山いるがシルバーになればぐっと下がる。ゴールドは言わずもがな両手で数えられるかどうか、そんな次元の話だ。

 街の護衛の兵士もいるがその人達もブロンズ、良くてシルバーランク。焼石に水だった。

 

 街を守るのに人が全然足りていない。

 

 突きつけられる最悪な事実。

 だというのに──

 

 

 

 

 

 

 ──()()()()()()()

 

「百体の魔物なんて一体どうすれば……!!」

 

 

 新人がそう言った時だった。

 遠方から爆音と共に紫色の光の柱が立った。

 

 

 巨大な一筋の光が空高く舞い上がり雲を突き破って晴天の空を見せつける。だが青い空が見えるのも一瞬。

 森から放たれた紫色の魔力は数キロ離れたエンコウン街も淡い紫色に染めさせた。

 

 そして色が届いたという事は魔力の余波が届いたと言う事。

 

「なによ……あれ」

「……化け物かありゃあ」

 

 外に居た戦士達は残り滓から感じ取った邪気によって悪寒に襲われ、魔法使いは魔力を見る目が良いが故に実態の無い山に圧倒され尻餅をつく。

 

 これがミスリル。

 勇者の本で語られた伝説の存在。

 

 異様な邪気を含んだその存在感によって、数キロ離れているはずのエンコウン街でさえ、奴の雰囲気に飲まれ始めた。

 

 絶望、闇、恐怖……言葉にするのは簡単だが、人間のうちに潜んでいる第六感がこれでもかと言わんばかりに危険ブザーを発している。

 剣を向けられて後一瞬で死ぬ状態。そんな感覚に皆陥っていた。

 

「…………チッ、失敗した。今回の奴は本当に面倒だ」

 

 ただ一人。ミナーシャは平常運転のままだったが。

 片手を顔に当てて何か小言を喋っている。小さい声で他の職員に聞こえないし、手で顔が覆われている為に表情も確認できないが、少なくとも見ていた職員の二人はこう思った。

 

 恐れていない。むしろ怒っている。

 

「しょ、所長…………?」

 

 恐る恐る新人が聞く。

 親から叱られるのを怖がる子供のように。

 ミナーシャの手の隙間から見える目は光っていた。獲物を確実に仕留める鋭さを誇っていた。

 ただ時間も経てばそれも少し弱まり、手を離して監視塔の職員に顔を向けた。鬼を思わせる表情は既に消え、今の彼女は冷徹な仮面をつけたままだ。

 

「古の森跡から出てきた魔物のランクはゴールドまでだったか? ミスリルは?」

「……え? あ、はい! さっきの光を除いて出てきた魔物は最高でもゴールドまでです!」

 

 相変わらず状況は悪夢そのもの。

 しかし報告を受けても平然としているミナーシャは世界樹の腕を操り、二メートルの丈夫そうな弓を創り出す。そして──

 

「分かった。その百以上の魔物は私が始末する」

 

 息をするように彼女は言った。

 

「え、でも数は百を超えてますよ!」

「問題ない。ゴールド程度、簡単に処理できる」

 

 処理。

 まるで魔物狩りを草刈りの感覚でミナーシャは話している。強がりとかつけ上がっている様子なんて全くない。冷静に彼女はそう言ってのけた。

 

「ですがっ!? ……例え百体以上の魔物を始末出来たとしても、古の森跡にはアイツがいます」

 

 そう。根本的な問題が解決していない。

 ゴールドの魔物を十体以上倒してもミスリルが控えている。ゴールドとは比べ物にならない相手が森の奥に潜んでいるのだ。

 

「確かにこの距離でミスリルを相手にするのは骨が折れる」

「で、では……!」

 

 流石の彼女もミスリルは無理らしい。

 まあ言い方が少し軽い気がするが倒すのは難しいとの事だ。

 

「それについても大丈夫さ。アイツがくるからな」

「アイツ……ですか?」

 

 アイツ。

 それは一体誰の事だろうか。あの光を生み出す力の持ち主に勝てる冒険者はここには居ないはずだ。

 ミスリルクラスの冒険者がエンコウン街に居ない事も、近くの街に居ない事も二人の職員は知っている。

 二人は場違いな程に冷静な所長と、その所長の言葉に困惑するしかなかった。

 

 ミスリルを問題なく倒せる存在?

 

 そんなの伝説に出てくる人達しか──

 

 そんな風に二人が考えていた時だった。

 ()()()()()()()()()

 

 

「状況はどうなってる、ミナーシャ」

 

 

 男の声が聞こえた。

 職員の声ではない。優しくてしかし心の奥に芯があり頼れそうな男の声。職員達が振り向けば黒髪で眼帯をつけた若い男が立っていた。

 近くに居る冒険者やギルド職員がミスリルの魔獣の魔力に当てられて混乱しているのに、そんな中でも自然と立っている。

 

「悪いなヴォルフ。クエストを終えてきたばかりだろうが、次のクエストが今出来たばかりだ」

 

 冒険者ギルド……いやエンコウン街の中でも、この二人の間だけはまるで別世界のようだ。どちらも静かで自然体、全く動きが乱れていない。

 

 エンコウン街はあの悪夢の光が放たれてからか街全体、それどころか建物の中まで悪意を煮詰めた紫色の光(非日常)に侵されているのに、対峙している二人の周りだけは色がそのまま(日常)みたい。

 

 ただそれは空想の話。

 新人がそう錯覚しただけの事で、今も誰かの怒鳴り声や悲鳴は聞こえてる。悪夢は今も続いているのだ。

 

 ヴォルフと呼ばれた男も当然分かっているだろう。

 街の住民達の異常な荒れ具合に紫色の世界。

 その上であの莫大な魔力量を持った天を貫く悪の光。

 

 誰も口にはしていないが心の底ではこう思っている。

 

 

 "終末事変の再来"

 

 

「古の森跡で暴れている、この異変を起こした元凶の単騎討伐クエストを依頼する。いけるか?」

 

 男も例外ではない。

 ミナーシャを除けば状況を誰よりも分かっている。

 だが──

 

「問題ない」

 

 彼はそう言い切った。

 

「副所長、すまないが私達はこの騒ぎを起こした元凶を潰してくる。その間、君はここの指揮を頼みたい」

「分かりました」

「うわっ、副所長さんいつの間に!?」

 

 ミナーシャはサラッと新人の隣に居る副所長にそう指示して、ヴォルフと一緒に屋上に繋がる階段を登っていった。

 

 

 その二人の背中に恐れなどなく、あるのは隣にいる仲間の信頼と、人生で培って来た"強さ"のみ。

 

 

 そんな頼り甲斐のある背中を見せつけた所長達だが、取り残されたのは話に追いつけずその場でポツンと立っている新人と監視塔係の二人。

 あと平然としている副所長。

 

「あの副所長……ヴォルフさんは一体誰なのですか? いえ、そもそも所長さんも一体何者なんですか?」

 

 監視塔係の男がたまらず副所長に聞いた。

 新人は今朝に過去を詮索するなと言われた為に表には出さないが、心の中ではブンブン顔を頷いている。

 

「……そうだな。君達はあの方の下に付いたんだ。知っておいた方がいいだろう」

 

 顎に手を添えて数秒、副所長は意を決して口を開く。

 伝説を語るように。

 

「あの人達のランクはアダマンタイトだ」

「え、それって……!」

 

 

 アダマンタイト。

 

 

 それはミスリルのさらに一つ上のランクであり、頂点を意味する事。天才だろうと四人を除いて辿り着く事が出来ない境地。

 

 たった四人だけ。

 四人だけがアダマンタイトの称号を持っている。

 

 副所長の言葉に、新人と職員の顔に驚きが露わになった。

 

 彼女らは知っていたからだ。

 

 アダマンタイトになれる条件。

 そしてアダマンタイトに属する事が何を意味するかを。

 

「という事は、ミナーシャさん達はあの()()()()()()()の人達なんですか!?」

 

 

 このクラスになれる条件はたった一つだけだ。

 

 

「うん。ミナーシャさんは『最新の狩人』と呼ばれていた人だよ。そしてもう一人は……」

 

 

 世界を救う事。

 

 

「……ヴォルフさんは『殺しの化身』と呼ばれていた人だよ」

 

 世界の危機を救った者達が今、動き出す。

 

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