○○:『』←この表記は無線での会話を表しています。
9,荒ぶる神々の炎舞
旧横須賀
急横須賀駅から歩いて数分の交差点、旧本町3丁目、道路に面して建っていた大きなショッピングモールはアラガミによって全壊、その周辺もほとんど消失してしまったため、現在はフェンリルによって外部居住区の拡大範囲として使用されている。海軍の乗り合わせた軍艦などはアラガミに任せるかのように朽ちるのを待っていた。軍艦などからの弾薬や燃料の漏洩が懸念されているが、もはやどうしようもない。
そんな殺伐とした世の中でも人類は娯楽と欲求を忘れない生き物らしく、アラガミがいつ襲ってくるかもわからないのに仮設住居で店を構えたり、子供達が仲良く遊んでいたりしていた。
「うーむ・・・・・・どうも慣れないなぁ、こういう場所は」
「まぁそういうなよ、楽しもうぜ!」
佐々木が先陣を切って率いるチームコヨーテのメンバーは午後1時、パトロールという名目で神機を持たずに遊びに来ていた。神機使いが外部に出る場合は神機の携行が必要なのだが、自己責任であれば携行しなくても直接的な懲罰はない。佐々木はハイテンションで出店を回っていく。
「やれやれ・・・・・・親戚に会おうとしただけなんだがなぁ・・・・・・」
藤牧が首の後ろを掻きながらぼやく。元々は藤牧が旧横須賀に居る親戚のところへ行こうと思っていたのだが、佐々木の強い志願に押されてやむなくチームコヨーテ全員を連れていく羽目になった。今はその帰り道にあたる。山ノ丈が両手に豚汁を持って、横からトコトコと歩いてきて嬉しそうに言った。
「いやぁにしてもここの人達はガチで優しいな! フェンリルの俺らに対しても普通に接してくれるなんてさ!」
「丼さん、何気に楽しんでるよなぁ」
「普段籠もりっきりだからな」
「青さん、お前も人のことは言えないだろう」
間は反対側の青桐をチラリと見やる。何故かその手にはどうやって作ったのか想像もつかないピンク色のコッペパンが。
「はぁ・・・・・・全く」
間はどうもむずがゆいものを感じながらも、これも日頃の疲れを癒すためと、程々に楽しむことにした。
「お?」
青桐はふと、出店の一角に視線をやった。その先では、なんと神機整備士、天野雪が唐揚げ棒を買っていた。
「なぁざまさん、あれって雪ちゃんじゃね?」
「え? あ、ほんとだな。あの白衣は目立つわ」
青桐に言われて間も気づいた。と同時に向こうもこちらの存在に気づいたらしく、驚きの表情をしたままその場に固まってしまった。
「あぁ、天野さんもサボりたいんだなぁ・・・・・・」
青桐と間はイタズラっぽくニヤニヤと笑うと、藤牧達を置いて天野に歩み寄った。天野はばつの悪い表情で苦笑いしつつ視線を逸らす。
「天野さ~ん? ここで何をなされてるんでしょうねぇ~?」
「う・・・・・・これはその。いやぁなんというか・・・・・・参ったなぁ、あはは」
間には大体理由に想像がついていた。恐らく自分達がここに来る相談をたまたま近くで聞きつけ、ちょっとした気まぐれで一緒に来てしまったのだろう。そんなことは露知らず、青桐は全力で天野をからかいにかかる。それを遠くから見つけた藤牧は大きくため息をつきつつも、山ノ丈のポップコーンをカリカリかじっていた。すると・・・・・・。
突如視界の隅から現れた素早い何かが、ストレートに藤牧の腹部にクリーンヒットした。
「ぶべぁ!?」
「ひゃっ!?」
藤牧に当たったそれは衝撃で押し返されて尻餅をついた。一方突然腹部に爆破的な突撃を食らった藤牧は苦悶の声を漏らす。
「だ、大丈夫かマッキー? ・・・・・・ククク、プヘッ」
藤牧の横で山ノ丈は笑いをこらえきれずに吹き出した。
「いってぇ・・・・・・ん、大丈夫?」
突然藤牧にぶつかってきたのは、まだ中学生かそこらくらいの少女だった。揺れるショートヘアから白い顔が覗いている。至って普通の私服姿だった。起きあがった少女は腰元をさすりながら苦笑いする。
「あ・・・・・・はい、大丈夫です。すみません」
肌は白いが、雰囲気や表情は元気少女そのものだった。敬語がぎこちないのを見るとやはりまだ中学生くらいなのかもしれない。
「あの、このあたりで女の人を見ませんでしたか? 長い髪の女の人!」
「長髪の女性? 心当たりはないけど・・・・・・お母さん?」
「うん! ちょっとはぐれちゃって今探してるんです!」
「そっか、見つかるといいな」
「はい! えーと・・・・・・お名前を聞いてもいいですか?」
「藤牧ってんだ、君は?」
「篠木彩矢(しのぎ あや)っていいます!」
「篠木ちゃんか、早く見つかると良いな、お母さん」
「はい!」
最後まで元気よく少女は答え、さささっと走り去っていった。山ノ丈が藤牧の脇腹をつつく。
「へぇ~? お前も案外子供受けいいんだねぇ~」
「んだよ、悪いかよぉ・・・・・・あれ?」
藤牧は少女が尻餅をついたあたりを見ると、そこにクマのキーホルダーが寂しそうに転がっていた。拾い上げるとクマがぷらんぷらんと目前で揺れる。
(あの子の落とし物か? だとしてももうどっか行っちゃってるしなぁ・・・・・・まぁこの辺うろついてればすぐ会えるだろ。そんなに広くねぇし)
藤牧はポジティブに解釈し、キーホルダーをポケットに突っ込んだ。
一方間達は出店の唐揚げ棒をつまみながら、近くの石場に腰を下ろしていた。
「やっぱり私達の話聞いてたんですね、天野さん」
「科学者や裏方ってのはどうも外で休む機会が無いからね、まぁこのご時世どの仕事も変わらないだろうけど、それでもたまにはこうして外に出ておきたいものだよ」
「でも天野さん大丈夫なのか? 神機使い以外は滅多に外に出ちゃいけないって聞くがね」
「あぁ、チームコヨーテが数人同行してるって無理矢理理由付けて出てきたの」
「うっわぁえげつねぇ・・・・・・それで何かあったら俺たちの責任かよ」
「そーゆーことね、せぃぜぃ私を守りなさーい」
「・・・・・・天野さん、お酒入ってませんか? ねぇ?」
間と青桐が天野を挟むようにして座っている為か、男女関係なく上手く話が噛み合っていた。そんな中、ポツリと天野が聞いた。
「ねぇざまさん・・・・・・」
「はい?」
「あれ以来神機やざまさんの調子はどう?」
青桐も姿勢を正す、間が自分の違和感について青桐達に明かしてしばらくぶりだが、間の様子に変化があったような発言はなかった。だからこそ心配なのだ。間がまだ仲間に隠し事をしているのではないかと。それを知ってか知らずか、間は当たり障りの無い返事を返した。
「うーむ、特別何かが変わったってことはないかな、症状が消えたわけでも無いみたいだし・・・・・・まぁ皆に相談したおかげで少しは気が楽になったけどね」
「ざまさん、コヨーテメンバーじゃない私だからこそ言うけどね、もう少し友達を頼ってあげなよ? まぁ本当に大丈夫ならそれはそれで結構だけど」
「わかってますよっと」
今度は青桐が近くに転がる石で遊びながら聞き返した。
「そういや天野さんはどうなんだ? 何か悩み事とか無いのかい? んんん?」
「ちょ・・・・・・こら、髪をユサユサさせるな」
天野はうっとうしそうに青桐の髪を払い、考え込むように唸った。
「うーん・・・・・・そうだねぇ」
ぼんやりと空を眺めていたが、やがて首を横に振る。
「思い当たらないから多分無いんじゃないかな・・・・・・まぁ、何が悩みで何がそうでないのか、わからないのが悩みだね」
天野は一人で自己満足的にそう言ってから、どこからともなく取り出した缶ジュースを開けた。青桐と間は揃ってその場に寝そべった。
一方藤牧達はさっきの少女を探しつつ、適当に食べ物を買って楽しんでいた。
「見つかった? 丼さんよ」
「いや、周りには注意してるんだけど見つからないな」
山ノ丈は缶コーヒー片手にため息混じりで答えた。二人の前を、少女のように子供達が横切る。
「一般の人にもまだこんなに平和そうにしてる人達がいるんだなぁ」
藤牧がふと、そんなことをつぶやいた。驚いたように山ノ丈が言い返す。
「お? 珍しいな、マッキーがそんなこと言うなんて!」
「お前なぁ・・・・・・曲がりなりにも防衛班だぞ? 一般人の平和を守りたいと思うのが普通だろ!」
「あぁそういえばお前防衛班にいたんだっけ、すっかり忘れてた」
苦笑いを浮かべる藤牧の肩を山ノ丈がぽんぽん叩く。
「まぁ平和上等じゃないか、例え世界がアラガミだらけだとしても、希望は捨てちゃいかんよ」
「何お前ちょっと良いこと言おうとしてんだよ、珍しい」
藤牧は広場で子供達と遊ぶ佐々木をちらりと見やった。
「でもそうだよな、いつでも平和を夢みたいってもんだ」
仮設住宅の間から覗く海が、いつもより穏やかに見えた。この海の先にはフェンリルの住居船がある、ここにいるのは抽選に落ちた人だろう。そんな状況でもこうして娯楽を忘れないでいられるのは、人類の誇れる事かもしれない。と藤牧はぼんやりと考えた。
「ほ~れ! こっちだこっちだ~!」
「お兄ちゃん待って~!」
公園のような広場で、佐々木は数人の子供達と遊んでいた。じゃれついてくる子供達を避けてからかっているだけなのだが、子供達はまるで実の兄と遊んでいるかのように喜んでいる。近くで見ている大人達からの視線も、自然と温かいものになった。佐々木は遊びながら、アラガミが繁栄する前の世界を思い出していた。公園や家で遊ぶ子供達、世間話に興じる母親達、休日に子供と遊ぶ父親、遠くへ遊びに行ったり、祖父母の家に行ったり。そんな光景が思い起こされた。
(あんな光景が、もう一度見られたらいいな・・・・・・いや、見せるんだ)
佐々木は自分の腕輪にそっと片手を添える。世界にあの光景を再び現わすために、この力を使っているといっても過言ではないのだろう。
「どーしたのお兄ちゃん?」
「ん? なんでもないよ。さぁ捕まえて見ろ!」
子供達に顔を覗かれ、はっと我に返った佐々木はまた子供達との遊びに身を投じた。
「はしゃいでんなぁ、あいつも」
その様子を藤牧達は近くから眺めていた。山ノ丈の買ってきたポップコーンを口に放り込む。山ノ丈がふと思い出したように聞く。
「ところで青さん達どうしたんだ?」
「さぁ? 多分その辺にいるだろ、帰りまでにいなかったら連絡すりゃいいべ」
「そうだな、ん、おいマッキー、タロスが呼んでるぞ?」
「あ?」
見ると、佐々木が藤牧の方を手招きしている。お前も加われ、とでも言いたげだった。藤牧は今日何度目かのため息をつき、思い切り立ち上がって佐々木に駆け寄っていった。
石場に寝そべる間と青桐、二人に挟まって缶コーヒーを飲んでいた天野、天野が空になった缶をどうしようかと悩んでいると、いきなり間が飛び起きた。
「ひゃ」
驚きのあまり天野は空き缶を落としてしまった、間はそれすら気づかないかのようにぼーっとどこか一点を見つめたかと思うと、きょろきょろと周りを見回した。
「ど、どうしたのざまさん?」
「・・・・・・今、一瞬だけどアラガミの気配を感じた」
「えっ?」
間は生まれつきなのか、それとも例の症状のせいか、アラガミへの直覚が鋭かった。青桐の話でそれを知っていた天野は眉間にしわをよせ、小声になって喋る。
「近くにアラガミが?」
「反応が微弱すぎてよくわからないから、多分近くじゃないと思う・・・・・・思い過ごしかな」
「だといいんだがな」
青桐が反対側からむくりと起きあがった、全て聞いていた。と言いたげな体だ。
「ざまさんの直覚ってよく当たるからな、外れてんならそれに越したことはねぇんだけどさ」
間は頭に手を当てて考え込むが、答えは出てこなかった。励ますように青桐は続ける。
「といっても今アラガミが来たところで俺らもすぐに対応できないんだから心配したってはじまらないだろ、そんときは神機よろしくな天野さん」
「う、うん・・・・・・」
「なんかすまん、妙なこと言った・・・・・・」
「ドントウォーリーって奴だぜざまさん」
青桐は再び寝そべってグーサインを突き出す。間や天野も妙な緊張感を持ちつつも、青桐のように横になった。
それから30分は経っただろうか、佐々木がそろそろ疲れてきた頃に異変は起きた。
突如、下から突き上げるような地震と轟音が一帯に響いた!
「「「「「ッッッ!?」」」」」
間達は文字通り飛び起き、藤牧達は大きくよろめいた。直後に一般人の悲鳴が木霊していく。
「「「うわぁぁああぁああ!!」」」
「「「「いやぁぁああぁぁぁ!」」」」
地震の呼応がさらに何度か続き、今度はどこからか炎が上がり始めた。
「まずい・・・・・・!」
青桐は素早く携帯を取り出す。電話の相手は・・・・・・。
「丼さん! 今どこだ!?」
『青さんか! 中央近くの広場にいる! マッキーとタロスが一般人の避難誘導してる最中だ!』
「おっけ! 俺たちも行くわ!」
電話を切り振り向くと、間と天野が力強く頷く、三人は急いで走り出した。
周りの炎が徐々に大きくなっていく、焼かれた果てに崩れ出す仮設住宅、それに押しつぶされる人。そんな光景の中を駆け抜けていった。広場には比較的被害が少なく、藤牧や佐々木がその中心で一般人を誘導していた。広場からなら安全ではないが一般人の避難はできそうだった。
「竜! 状況はッ!?」
合流するや否や怒鳴るように訪ねる間に、佐々木は言葉を濁した。
「いや、それが・・・・・・元々どれくらいいたのかよくわからないから、一体どれくらい避難できているのかわからねぇんだよ!」
「全員生還じゃないのは確かだ!」
間はゆっくりと眼を瞑る。
(・・・・・・炎や悲鳴で集中できないが・・・・・・確かに感じる。さっきのより強力なヤツ……それも複数ッ!)
ばっと眼を開いた間は焦りの声をあげる。
「アラガミが近くに何体かいる!」
「何ッ!?」
そのとき、丁度誘導が終わりかけた所だった佐々木と藤牧は条件反射的に構えを取るが、肝心の神機がない。
「一旦本部に戻るぜ! あまりにも準備がなさすぎる!」
「そんな! 本部に連絡すれば!」
「それが運びつく前に俺たちがやられちまうっつうの!」
佐々木と間が言い争っている間にも、周りに炎が上がっていく。
(時間がねぇ・・・・・・急いで脱出しないと俺達も手遅れに)
「今は喧嘩してる場合じゃ」
冷静に状況を見た青桐は言い争っている二人の間に入って強引に中断させる。周りを見渡すと、もう住居区のほとんどに火が回っていた。広場に集めた一般人の避難は完了しつつある。
「おい、まずはこっから離れるぞッ!」
山ノ丈の言葉を聞いて、コヨーテメンバーは一斉に走り出した。その途中にある通りにさしかかった時、ふと藤牧が足を止めた。
「?」
藤牧の視線の先には、こちらへ走ってくる小さい一般人の姿があった。
「あれは・・・・・・まさか!」
藤牧はその姿に見覚えがあった、自分に勢いつけて突進してきたあの少女、篠木だった。後ろから佐々木の声が飛んでくる。
「マッキー! 何してんだ!」
「一般人だ! 一般人がこっちに!」
篠木の方も藤牧に気づいたらしく、あの時のように全力で走ってきていた。
「藤牧さん!」
「篠木ちゃん!」
藤牧も篠木に向かって走り出そうとしたその時、激しい爆発音が響いた。
「! 危ねぇッ!」
「きゃあぁぁッッ!!!」
佐々木が叫んだ。脇の仮設住宅が倒壊し、二人を分断するかのように道を塞いだのだ。佐々木の声がなければ藤牧の命も危なかったのかもしれない。
「ぐっ!」
「やめろマッキーッ! 無茶だって!」
崩れてきた瓦礫の山は激しく燃え猛り、横断する者を許さない。なんとか乗り越えようとする藤牧を佐々木と山ノ丈が止める。
「今は戻って神機を取ってくるのが最優先だッ! 今は何もできないッ! 引き返すんだッ!」
「・・・・・・くそっ!」
歯がゆい思いのまま佐々木達と走った。
(必ず・・・・・・必ず助けて見せる・・・・・・こいつを返すためにも・・・・・・!)
前方では、間が走りながら電話をかけていた。
「天野さんッ! 車の準備はいいですか?」
『うん、ざまさん達の車はちゃんと見つけたよ! あと少しでそっちに着く!』
「了解!」
炎と瓦礫の中をコヨーテ達は突っ切っていった。
しばらく走って大きな交差点へ出る。道路以外は見渡す限りの廃墟群、そこを縫うように、一台の車が洗練された運転で走ってくる。
「乗ってー!」
運転席から天野が顔を出した。間は天野に自分達が乗ってきた車を探して乗ってくるように言いつけたのだった。コヨーテメンバーは突っ込むように車に乗り込んだ。
「支部にはどれくらいで着く!?」
「わからない!」
「天野さん、後ろに乗ってくれ! 私が運転する!」
間は後部座席から降りて天野と入れ替わりに運転席に乗り込んだ。佐々木が後ろから聞く。
「ざまさん、免許は?」
「無いけど大丈夫だッ! 捕まってろよ皆ッ!」
間はアクセルを踏み込み、急ハンドルを切って方向を変えた。そのままアクセルを離さずに瓦礫を避けていく。
「ざまさんなんつ-運転しやがるッ!」
「知るかいッ! チンタラ走ってたら遅くなるッッ!」
そう言いつつもドリフトや障害物を避けるテクニックはある意味、無免許とは思えない大胆さがあった。しかしその途中、アクシデントが起きた。
「? おい、なんだこれ?」
青桐がふと小窓の外を指さして言った。間を除く他もこぞって小窓を見る。
「な、なんだこりゃ?」
小窓に水滴がついているのだ、それも内側に。山ノ丈が水滴に触れて、何か言おうとしたその時、運転席で声がした。
「やばい! コンゴウ堕天と氷結グボロだ!」
「「「何っ!?」」」
運転席の間はフロントガラスの奥に映る物を見て顔色を変えた。前方にコンゴウ極低温適応型堕天種と、グボロ・グボロ極低温適応型堕天種、通称氷結グボロが居座っているのだ。しかも運の悪いことに、揃ってこちらを追跡しているようだ。
「なんとか振り切れッ!」
佐々木の指示に、間は無言で頷き返した。すぐに手前の交差点をドリフトで曲がる。が、二体はすぐについてきた。
「車で振り切れるか!?」
「わからんよ! やってみるけど!」
間も必死でハンドルを握る。直後、車に衝撃を受けた。
「ッッ! あいつら砲撃してきやがった!」
最大まで踏んでいるアクセルを無理矢理踏み込む。すると、後部座席から何かが飛んできた。
「こいつでどうにかしろッ!」
青桐の声が飛んでくる。
「お前なんでこんなもの・・・・・・」
「天野さんが持ってた!」
「てへ」
と、天野。
飛んできたのはスタングレネードだった、間は片手でそれを拾い上げる。
「全部でいくつほど?」
「それを含めて三つ! あと車に置いてあったのが一つ!」
「全部ください! タイミングを見て投げる!」
間は窓を開けてサイドミラーを確認する、二体のアラガミはまだしっかりと追ってきていた。
手荒ながらも正確性の高い間の運転が、廃墟群の間を滑るように走り抜けていく、時速80キロ越えでここまで走れるのなら、無免許でも大したものだ。
「すごいな、どこでこんな技術を?」
「・・・・・・ゲーセン」
一同ぽかん。
旧横須賀の街道を中心に複雑に曲がりながら走行していたが、それでもアラガミは執拗に追ってくる。だんだん攻撃の命中率が上がってきていた。
山ノ丈はスタングレネードの内一つを見て、ふと気づいた。
(そういえば車に置いてあったのは軍用スタングレネード――閃光だけでなく爆音も出るタイプ――だったな・・・・・・・・・・コンゴウ・・・・・・グボロ・・・・・・)
一つのパターンを思いついた。その途端に冷静さを取り戻す。
(・・・・・・やってみるか)
「ざまさん、 ゆっくり減速してくれ、いつでもアクセルを踏み込めるように、車に置いてあったスタングレネードと天野さんのやつを一つずつ渡してくれ」
「・・・・・・? わかった」
ゆっくりと減速し、スタングレネードを投げられる距離まで詰める。山ノ丈は窓を開けて身を乗り出した。慎重に間合いを計り、投げた。いつだったか電車型に変異したクアドリガと戦った時に間達が使った戦法だった。
サイドミラーを通して運転席の間も閃光を確認した。直後ハンドルを切って交差点を曲がる。
(これでグボロを引き離した・・・・・・あとは)
山ノ丈の読みは当たった。交差点を突進するように曲がってきたのは、コンゴウ堕天だけであった。四足歩行での猛烈なスピードで車を追ってくる。
「ざまさん! もう一度速度を落としてくれ!」
再び減速、山ノ丈は今度は軍用の方を手に持ち、コンゴウ堕天の頭めがけて放り投げる。凄まじい閃光と甲高い音が周囲を貫いた。
「――ッ!」
爆音を耳にしたせいで運転が若干鈍ったが、すぐに落ち着いた。また急ハンドルを切って旧横須賀街道に戻る。
「どうだっ!?」
「追っ手はないッ! このまま走れ!」
再び踏み込まれる急アクセル。粗雑かつ大胆な運転で支部へと向かった。
それから10分後、支部の入り口近くに車を停車させると、6人は車から飛び出してアナグラを駆ける。
「天野さんッ! 急いで神機の準備をッ!」
「了解ッ!」
旧横須賀本町三丁目広場
火事が起きてから30分近くが経過した。一般人は大部分が避難したが、未だに状況が把握できていなかった・・・・・・炎は燃え広がり続けている。
そんな火事現場の隣に位置する旧本町三丁目の交差点に、フェンリルマークの車とスケボーが滑り込む。車のドアが開き神機使い達・・・・・・チームコヨーテが神機を持って飛び降り、広場へと身を投じた!
装備情報
間遼太郎
剣:クレメンサー真(ロング)
銃:ガトリング砲改(アサルト)
装甲:抗汎用シールド改(シールド)
佐々木竜太郎
剣:過冷却ナイフ改(ショート)
銃:28型ガット改(ブラスト)
装甲:強回避バックラー硬(バックラー)
備考:山ノ丈特製ハイテク眼鏡装備
藤牧圭助
剣:冷却チェーンソー真(ロング)
銃:縮地(アサルト)
装甲:臥龍大甲(タワー)
備考:山ノ丈特製スケボー持参
青桐拓馬
剣:鉄乙女剣零(ショート)
銃:スワロウ(スナイパー)
装甲:抗属性バックラー改(バックラー)
山ノ丈絃汰
剣:トックスピック(ショート)
銃:ギガス砲(アサルト)
装甲:オセロー(シールド)
白花:『白花です! 聞こえますか?』
青桐:『聞こえる聞こえる』
白花:『周囲に中型のアラガミ反応多数! 火事の原因はそのアラガミだと思われます! 今、そこの騒動を抑えられるのはチームコヨーテだけです!』
藤牧が佐々木達から離れたところでスケボーを止める。
佐々木:『マッキー! スケボーで広場を走り回って生存者とアラガミの捜索! 俺達は分散して捜索だ! アラガミの討伐より先に一般人が完全に避難したかどうかを確認するッ!』
藤牧:『おっけ!』
天野:『同じ回線から失礼するよ』
白花:『天野さん!?』
天野:『状況が状況だし、さっきまで現場にいた人間だからね、ある程度の補佐はできるよ。白花さんはいつも通りオペレートしてください』
白花:『わかりました!』
天野:『それと青さん』
青桐:『ん? なんだお?』
天野:『青さんの神機を整備するとき、私が暇つぶしに作ったバレットを装填しておいたから是非とも活用してよ』
青桐:『お、おう』
間:『じゃあそろそろ行こうぜ、気配が強くなってる!』
山ノ丈:『あぁ、じゃあ俺とタロス、ざまさんと青さんで分かれよう。圭助はスケボーでの単独捜索でいいか?』
藤牧:『おっけ、任せろッ!』
佐々木:『捜索開始!』
『『『了解ッ!!』』』
各組は行動を開始した。間は青桐と、佐々木は山ノ丈と、藤牧はスケボーに乗って移動を始める。入り口から見て左側に走っていた間達は、数分と待たずに敵の群れに遭遇した。超高温に適応したグボロ・グボロ、通称ファイアーグボロ。それが群を成して二人の神機使いを睨む。
間:『あ、こちらざまさん、極高温に対応したグボロ・グボロ堕天種の群を見つけた。交戦開始』
佐々木:『こっちも何体かのシユウを見つけた! 戦うぜ!』
白花:『了解、双方御武運を!』
佐々木の方では、一本の通りに何体かいるシユウの先に佐々木と山ノ丈の姿があった。
拳を握り殴りかかってくるシユウを回避して、トックスピックと過冷却ナイフ改で迎え討つ、文字通り過度に冷却されたナイフによる冷撃と、トックスピックの猛毒がシユウを痛めつけていく。
それとは別のシユウが数で襲ってくるが、素早く動く二人を捉えられない! やがて毒で弱ったシユウが逃げようと後方へ跳躍した直後、不自然な痺れがその個体を襲った! フェンリル製の対アラガミ用ホールドトラップだ。
「へっ・・・・・・悪いな、そっちに行くのは読めてたんだ」
一足遅く回り込んだ佐々木が神機を構えて嘲笑う、そして連撃がシユウを襲った!
「タロス! 大分毒が回ってきたぞ!」
「サンキュ! あとは任せて援護してくれ!」
一方、間達はファイアーグボロと暴食パーティーの真っ最中だった。
「はははッ! 熱くてトロッとしてなおかつ濃厚なこの食感! 風味! 飯が何杯でも食えるぞ!」
間は隙あらばファイアーグボロの魚体を神機で喰っていた。青桐はただひたすらに氷結レーザーで魚体を撃ち抜いていく。
「食らえ・・・・・・スパイラルレーザー!」
青桐は天野が込めてくれたバレットを撃つ。銃口から三本のレーザーが同時射出され、真っ直ぐ直進する一本のレーザーに、残る二本が螺旋状に追従する本数重視のバレット。天野独自の強化技術により、その威力は普通にエディットするよりも大きかった。口から尾ビレまで貫かれぐったりとしたファイアーグボロを、後ろから間という捕喰者が襲う!
「ざまさん、お前それ何匹目だよ?」
「えーと・・・・・・7匹目かな? いや8だったかな?」
楽しそうに首をかしげる間を見て、ファイアーグボロ達が竦み上がったような気がした。楽しい食事会は終わらない。
一方藤牧は喧噪から離れて、高速で火事場を疾走していた。
(どこだ・・・・・・どこにいるんだ? 確かはぐれたのはこのあたりのはず・・・・・・!)
最後にはぐれた一般人、篠木を探して藤牧はスケボーを飛ばしていた。
しかし、その行く手をコクーンメイデン高温適応堕天種が阻む!
「チッ・・・・・・クソッ! 止まっていられっかよッッ!」
一度スケボーから飛び降り、着地しざまに一匹真っ二つにする。次から次へと現れた奴らは、瞬く間に藤牧を取り囲んだ。
「・・・・・・しゃーないか」
飛来してきたフレイムジャベリンを冷却チェーンソー真ではじき、樹木を伐採する仕事人のように、手近のコクーンメイデン堕天を切断。間髪入れずにさらにもう一体断ち切る!
「危なっ」
後ろからのコクーンメイデンの攻撃をすんでのところで回避、カウンターでもう一体切断、神機を振り上げさらに一体、藤牧の連撃は終わりを知らない。
最後の一体を駆逐し終え、藤牧がスケボーを取ろうとしたその時だった。足下に太い杭が突き刺さった!
「ッ!?」
藤牧は反射的に後方へ退く。見るとそこには真っ赤なボルグ・カムラン・・・・・・極高温に適応したボルグ・カムランの堕天種が立ちふさがっていた。さっき藤牧の足下に突き刺さったのは、このボルグ・カムラン堕天の巨大針だったのだ。
そんなボルグ・カムラン堕天の鎧と鎧の隙間に、何か大きなものが挟まっていることに気づき、驚愕した。
(あれは・・・・・・まさか、篠木ちゃん・・・・・・!?)
そう、鎧と鎧の隙間に、篠木の身体が挟まっていた。ぐったりと力が抜け、ボルグ・カムラン堕天の動きに振り回されている。
普通のボルグ・カムランならばまだしも、身体そのものが高温のボルグ・カムラン堕天に一般人が長く接していれば、当然ただではすまない、ただでさえ周りが大火事で気温が急上昇している上に、熱い鉄とずっと触れ合っていれば、火傷か熱中症になるのは時間の問題だろう。
(マズい・・・・・・! 早く倒してなんとかしねぇと・・・・・・!)
その頃、間達はほとんどのファイアーグボロを喰い終えたところだった。
「いやぁ喰った喰った」
「ざまさん、これで全部か?」
「あぁ、そのはずだ」
間はファイアーグボロの体液を滴らせている神機の捕喰形態を剣へ戻し、無線に手をかける。
間:『こちら間、グボロ堕天との戦闘を終了、これより・・・・・・』
「ざまぁッ!!」
間の通信は、すぐ隣の青桐の悲鳴によってかき消された。
天野:『? どうしたの!?』
「ざまさんッ! あれッ!」
青桐は広場へと続く通りを指さした。その通りに目を向けた間も、声色が変わる。
「まさか・・・・・・あれは!」
そこには、口や手元から炎が溢れ、間達に敵意を向けるアラガミが立っていた。しなやかな身体、逆鱗を持つ背中、接触例が最も少ない新種の人型アラガミ、ハンニバルだった。
白花:『間さん!』
間:『わかってる! ハンニバルに遭遇! 撤退は不可能、この大火事の主犯と断定して交戦を開始する!』
佐々木:『勝てるのか!? 相手はハンニバルだぜ!?』
間:『やるだけやる!』
青桐はすぐさま引き金を引くが、バレットが出ない。
「オラクル切れッ!? ちっくしょうこんな時に!」
天野:『青さんッ! 無理はしないでッ! 回復するか剣形態で慎重に攻撃して!』
「先行くぜ青さん!」
間は神機を構えた。ハンニバルが走ってくる。地響きをおこさんとする勢いで接近してくるハンニバルが間達のいる地点まで達するのに、長い時間はかからなかった。
ハンニバルは篭手で薙ぎ払い攻撃、それをひらりと交わした間はカウンターの要領で神機を振り降ろした! が、ハンニバルは篭手のついていない方の腕で間の神機を掴んだ。
「ッ!? しまっ・・・・・・!」
「危ねぇッ!」
青桐が叫んだ時にはもう遅かった。間は神機ごと投げ飛ばされ、焼け焦げた出店に叩きつけられる。
「げほっ・・・・・・! なんつー力だ・・・・・・」
ハンニバルは、間にとどめを刺そうとはせず、代わりに近くにいた青桐を狙い始めた。まるで人間のような格闘攻撃を、青桐はギリギリで避ける。
(ハンニバル・・・・・・速い! 早くオラクルを回復して狙撃しねぇと・・・・・・!)
そこで、青桐は足がもつれて転んだ。その上から、ハンニバルが拳を握りしめる。
天野:『青さん避けてッッ!』
(ッ!)
ハンニバルの拳が振り降ろされる。青桐が死を悟りかけたその時、振り降ろされている拳が冷気とともに爆発し、その軌道がズレた! そのチャンスを逃さず青桐は身体をよじって起きあがる。間が起き上がらぬまま強引にハンニバルの拳を狙い、爆発する氷系弾丸を撃ったのだ。
青桐:『悪いなざまさん』
間:『いいや・・・・・・来るぞ!』
青桐は警告を聞いて、ハンニバルの尾による攻撃を回避する。今度は動きに余裕がある。しかし、形勢は明らかに不利だった。
白花:『間さん! 青桐さん! 撤退してください! 危険です!』
間は返事を返せない、撤退などできないのだ。自分たちより遙かに高速で動くこの『無慈悲な王』から逃げるなど、例えスタングレネードを使っても無理だろう。
「青さんッ! これ使え!」
立ち直った間は銃形態へ変え、ファイアーグボロから奪い取ったアラガミバレットを受け渡す。レベル3まで引き上げられた青桐は神機を振りかざすも、ふと思い出したようにつぶやいた。
「俺にどないしろってんだよ・・・・・・」
間:『そのまま攻撃を避け続けて! 無理に攻撃するな!』
青桐は間の真意をはかりかねる。ハンニバルを挟んで、間は青桐の反対側に立った。
一方、佐々木の方はシユウの群を片づけ、間達のところへ向かっているところだった。
「丼さんッ! もう少し頑張れよぉ!」
「え・・・・・・ちょ・・・・・・普段引きこもってる奴にこれはキツいぞ・・・・・・」
(こいつ本当に偏食因子入れてるのかなぁ・・・・・・)
もう息が上がっている山ノ丈を連れて、佐々木は瓦礫を軽々と飛び越えていく。
白花:『佐々木さん、あまり無理はしないでください、周囲の気温がどんどん上昇していきます』
佐々木はそれを聞いて、ハイテク眼鏡『インフォグラス(仮)』の気温表示を見て目を見開いた。
「な・・・・・・70℃越えッ!?」
そこでようやく、佐々木は自分の身体に伝う汗の量を自覚する。バケツの水を被ったような汗の量だった。
(まさか・・・・・・丼さんの息が上がってる原因はこれか?)
佐々木はふと、この後のハンニバルとの戦いを想像する。いくら4対1でも、この気温の中での長期戦は耐えられない。外気温70℃以上はサウナにも匹敵する。サウナなら多少の水蒸気があるが、ここには水蒸気などない、乾燥した空気の中で戦うことになる。
(飛行機型サウナの中で戦うようなもんだぞ・・・・・・!)
火事は神機の氷系バレットで消し止められるような規模ではない。かつて高速道路上で火災を鎮火した例があるが、今回はもっと強力なバレットでなければ鎮火ができない。
(どうすればいい・・・・・・どうすれば・・・・・・)
二人は本町3丁目の大きな交差点が見えるところを通りかかった。そこで山ノ丈がストップをかける。
「待てタロスッ! こっちだ!」
「・・・・・・?」
同じ頃、藤牧はボルグ・カムラン堕天に囲まれていた。
「鬼畜な量だな・・・・・・!」
篠木を挟んだ個体と戦っている内、それとは別の個体が次々に現れ始めたのだ。額の汗を拭い、敵軍を見渡す。
「おっしゃッ・・・・・・! どっからでもかかって来いよッッ!」
針が藤牧めがけて突撃してくる。サイドステップで回避し、間髪入れずに地面に突き刺さった針へ、作動させたチェーンソーの刃を押し当てる。金属音が響き、数秒で針が折れた。隙ができた個体に斬撃を叩き込み、さらに縮地で追いうちをかける!
「ッ!?」
藤牧の直感が何かを予知する。とっさにその場所から跳躍する。直後、藤牧の立っていた位置に無数の穴が空いた、別の個体の攻撃だ。あと一秒移動するのが遅れたら、今頃串刺しになっていたに違いない。
「ちくしょう・・・・・・数が多いんだよ・・・・・・!!」
ボルグ・カムラン種の機動力はヴァジュラのそれにも近い。単体なら非常に簡単に処理できる相手だが、単独で複数を相手にまわすものではない。
別の個体の針が飛んでくる。横に走って避けるが、動きが大分鈍ってきていた。無理もない、大火事の中で戦い続けているのだ。いくらゴッドイーターでも痛手になる。
白花:『藤牧さん! 疲労してきたら下がってください!』
藤牧:『そうもいかねぇんだ! 一般人がボルグ堕天にくっついちゃってて、早いとこ助けないと死んじまう!』
白花:『・・・・・・わかりました、御武運を!』
藤牧は神機を剣に変えて構え直し、再び、敵陣に突っ込んだ。
「うおぉおおぉぉおぉおおぉッッッ!!!」
走りながら大きく振りかぶる。ボルグ・カムラン堕天は避けずに盾を構えたが、藤牧は構わず神機を振り払った。防がれるかと思われたが、藤牧は強引に振り抜き、盾を真っ二つにしてみせた。
(今だッ!)
再び跳躍、盾がなくなった個体の胴体部に飛び込み神機を食い込ませる。振り払おうとボルグ・カムラン堕天が暴れようとした矢先、インパルスエッジが炸裂! それがとどめとなってその個体は動かなくなった。そのままさらに数体を相手にする。ボルグ・カムラン堕天の数が・・・・・・徐々にだが減っていく。
脚を斬り、開かれた口にありったけの銃撃をぶち込む・・・・・・剣道の交わし技の要領で針攻撃をいなしていく。双方休憩などない。やがて、ついに篠木を捕らえている個体ただ一体だけとなった。篠木は相変わらずぐったりしているが、容態は悪くなっているはずだった。
(待ってろ・・・・・・絶対に救い出してみせる!)
藤牧はボルグ・カムラン堕天と対峙し、神機を深く構えた。
同刻、ハンニバルを相手にしている間達は、なんとか互角に渡り合っているところだった。
(そうか・・・・・・ざまさんの狙いはこれだったか・・・・・・!)
青桐は間の真意に気づいた。先ほどから青桐のリンクバーストが解除される寸前で間が新しい受け渡し弾を放つ、という繰り返しだった。最初は何がしたいのかわからなかったが、少しずつわかってきた。要するに間は、青桐に狙撃をさせたいのだ。
(気づいたか青さん・・・・・・)
ハンニバルの気を引きながら、間は微かにニヤリと笑った。
(そうさ・・・・・・私は最初から青さんに特攻させるつもりなんか無い・・・・・・バースト時のオラクル回復を利用して青さんに射撃のチャンスを与えているだけ・・・・・・ファイアーグボロから奪ったバレットが役に立ったな)
(多分リロードする暇もオラクルを自己回復する余裕も持てない、だから長時間バーストすることでオラクルを半永久的に回復させる。考えたなざまさん・・・・・・)
基本的に、バーストしている間はオラクルが少しずつ回復していく、即ち今回のようにリンクバーストするタイミングを計り、延々とバースト状態を引き延ばせば、ずっと剣形態であってもオラクルが回復していくことになる。
ハンニバルは疲れを知らずに暴れ回っている。間が注意を引いて交戦しているからある程度のダメージは蓄積されているようなのだが、その動きは鈍らない。
「ぐあッ・・・・・・」
「ざまさん!」
間が炎球による攻撃を装甲で防ぎきれず、またしても吹き飛ばされる。地を這った間は追撃される前に起きあがったが、疲労が溜まってきているようだった。
間に攻撃があたる前に、青桐がハンニバルの首を撃ち抜いた。
白花:『間さん! 無理はしないように!』
その時、ふと青桐は周囲の異変に気づいた。
(妙だ・・・・・・なんかここ、狭くなったような・・・・・・? いや、まさか・・・・・・)
青桐はハンニバルに注意しつつ、周囲を細かく見渡す。疑惑が確信に変わった。
(・・・・・・炎が迫ってきてる・・・・・・!?)
そう、火事の規模が大きくなっている上、ハンニバルの炎攻撃が周囲に着弾しているために周囲の炎が大きくなり、青桐達の動ける範囲が狭まっているのだ。全体が炎に包まれるのも・・・・・・時間の問題。
ハンニバルが手の中にオラクルを集中させ、手に巨大な炎剣を現す。その切っ先は、青桐に向いていた。
「青さん! 全力で避けろ!」
ハンニバルは炎剣を振り回しながら青桐に向かって猛進。その軌跡をギリギリで読みながら、青桐は炎剣を避けていく。長い髪の毛の先が少しだけ焦げた。
回避した直後に放ったレーザーがハンニバルの頭部に当たった。動きが鈍った隙を狙い間と位置を入れ替える。間はすかさず首元を切り上げる。
天野:『ざまさん、青さん、二人とも周囲をよく見て戦って、これ以上交戦するなら場所を変更した方がいい』
青桐:『出来ればそうしたいんだけどなぁ・・・・・・』
青桐は自分達が来た方向を見る。
天野:『・・・・・・・・・・・・? まさか』
青桐:『あぁ、退路が断たれてんだよ』
青桐に冷たい汗が流れた。
同刻、藤牧はボルグ・カムラン堕天をあと一歩というところまで追いつめていた。
(もう時間がねぇ! これで・・・・・・決めるッッ!)
藤牧はボルグ・カムラン堕天のボロボロの盾を捕喰してバーストする。ダウンした敵に向かって走り込む!
「とどめだッ!!」
神機を振りかぶり、大きく飛び上がる。そして、ボルグ・カムラン堕天の胴体部を、真っ二つに斬った! 断末魔の叫びを轟かせ、ボルグ・カムラン堕天はついに動かなくなった。ガラガラと金属音を響かせて鉄の身体が崩れ落ちる。
「篠木ちゃんッ!」
藤牧が崩れたボルグ・カムラン堕天の残骸に駆け寄ると、篠木は薄目を開けた。
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・」
「待ってろ、今! ・・・・・・あれ?」
藤牧は篠木の状態に気づいた。元々鎧の接合部に挟まっていた篠木だが、今はそれに加えて尾が邪魔になり、篠木が挟み込まれているのだ。さらに困ったことに、この個体は最後の抵抗か、活動を停止したと同時に身体を急激に発熱させていたのだ。
「熱っ・・・・・・」
尾を抱え込んで持ち上げようとした藤牧だったが、尾も発熱しているので触れることすらままならない。
(切断するしかない・・・・・・!?)
神機を振りかぶり、オラクルの作用で刃を作動させ尾に押し付ける。尾が肉片や液化したオラクルを飛ばしながら切断されていく。
(よしよし・・・・・・順調だ・・・・・・!!)
1分程で、尾が分断された。尾を蹴り飛ばして、問題の箇所へと移ろうとしたその時、神機に異変が出た。
(あ・・・・・・?)
チェーンソーから、プスンと小さく煙が出たかと思うと、今まで動いていたチェーンソーが動かなくなった。同時に、藤牧は自分の中に空虚感を感じる。
(まさか・・・・・・)
チェーンソーやドリル系の神機は作動させるのに使用者のオラクルを消費する。普通なら消費は微々たるもので大して気にならないが、戦闘を始めた頃からずっと稼働しっぱなしだったために、ついにオラクルが切れたのだった。
「おい嘘だろ・・・・・・こんな時にッ!」
神機を脇に置いて篠木の容態を見る。既に息は弱く、肩を上下させてようやく呼吸が出来ているようだった。体中から汗が吹き出ていて、顔全体が病的に赤い。ほぼ確実に熱中症だった。炎に直接当たったような火傷はないが、このままでは後十数分と待たずに命を落とすだろう。
さらに、不幸な事態が藤牧を襲う。
白花:『藤牧さん、もう火が・・・・・・!』
藤牧の周りを炎が包んでいた。もはや炎との距離は10mもない。
(くそっ・・・・・・自分を取るか篠木ちゃんを取るかッ!?)
藤牧は一度、背を向ける。しかし、そこから動かない。いや、動けなかった。篠木に向き直り、神機を振り降ろす!
(例え刃が動かなくても! 力押しでどうにかできるはず!!)
「うぉおおぉぉおぁぁぁあああああ・・・・・・!!」
歯を食いしばり、腕に力を込める。チェーンソーの極低温と鎧の極高温が激しく対立する。あろうことか、鎧は不自然に堅かった。おそらく、不幸にも篠木を捕らえたのは鎧の防御力に恐ろしく特化した個体だったのだろう。篠木を救出できるタイムリミットはもう残り5分前後しかない・・・・・・!
(大丈夫・・・・・・いける!)
10秒・・・・・・20秒・・・・・・50秒・・・・・・少しずつだが、神機がめり込むように鎧を切断していく。1分・・・・・・2分・・・・・・半分近く鎧を削った時、神機に込める力が弱まり、藤牧の焦りと不安が頂点に達し始める。同時に、炎の熱が藤牧を襲い始める。
(うぐ・・・・・・・・・・・・)
一旦神機から手を離し、短く深呼吸する。すると、篠木が目を開けた。
「あ・・・・・・の・・・・・・」
「! ・・・・・・大丈夫か!?」
もうすぐ命を落とすかもしれないというのに、篠木ははっきりと目を開け、落ち着いた調子で話した。その様子が逆に、藤牧の不安を煽る。
「藤牧さん・・・・・・逃げてください・・・・・・」
篠木は確かにそう言った。藤牧は呆気にとられ、神機を取るのも忘れてぼんやりと篠木の言葉を聞く。
「・・・・・・え?」
「もう・・・・・・多分私は・・・・・・手遅れです。ほら、もう藤牧さんの後ろにも炎が・・・・・・お願いです・・・・・・私は他人を巻き込んで・・・・・・死にたく・・・・・・・・・・・・な・・・・・・」
「篠木ちゃん!? おい!!」
篠木はまた目を閉じ、身体の力を抜いた。息絶えたかと一瞬誤解したが、まだ息がある。
(・・・・・・俺に、一般人を見捨てろと?)
不意に、一般人に気遣われたという悔しさが藤牧の中に芽生えた。その途端、諦めかけた意志が・・・・・・再び闘志を取り戻す。
(・・・・・・ふざけ、俺は・・・・・・俺達ゴッドイーターは、一般人を助けるためにあんだろうが! 例え自分が助からないとしてもッ!)
拳を握り、突き刺さった神機を掴む。再び腕に力を込め、切断を試みる!
(もう半分以上切れてるんだ・・・・・・! あと少し・・・・・・少しで・・・・・・!)
残り時間はもう2分を切っている。残り100秒・・・・・・80秒・・・・・・。
(20秒だ・・・・・・20秒もあれば、この娘を担いで脱出できる・・・・・・!)
70・・・・・・60・・・・・・。ふと、手汗で神機の柄から手が滑り落ちる。同時に、藤牧を熱する炎が大きくなる。
(チッ・・・・・・そ・・・・・・んな・・・・・・)
両手の平を見る。今度は柄ではなく、手の平で押し込むように、神機を上から押さえつける。
(まだだ・・・・・・これでいける・・・・・・!!)
残り50秒。
(間に合え・・・・・・間に合ってくれ・・・・・・!)
40・・・・・・38・・・・・・34・・・・・・28・・・・・・。
ガッ!・・・・・・短くそう聞こえた。ついに問題の箇所は切断され、挟み込まれていた篠木の身体がダラリと傾く。
「おっと・・・・・・」
篠木を肩に担ぎ、周りを見渡す。炎が目前に迫り、もはや逃げられそうになかった。
(くそっ・・・・・・せっかく助けられたのに・・・・・・!)
歯を食いしばり、強行突破しようとしたその時だった。藤牧の身体に冷たい爆風が吹き付けた!
(! なんだ!?)
冷風に混じり、氷の塊が飛んでくる。それらは藤牧を狙う様子はなく。周りの炎に向けて放たれていた。
煙をあげながら、通路を形成するように炎が弱まった箇所ができた。その方向へ走る。藤牧達がいたところだけ炎が強かったらしく、一旦抜けてしまえば脱出は容易だった。氷塊が飛んできた方向へ走った。
「おまえ等・・・・・・!!」
そこには銃形態の神機を構えた佐々木と山ノ丈がいた。
「マッキー早くこっちに! ざまさん達がそろそろやばい!」
「おっけ! その前にこの娘を!」
「わかった、一緒に車へこの娘を運ぼうぜ!」
「ラジャー!」
山ノ丈は一目見て、藤牧の連れている女の子が熱中症だと見抜いた。先頭に立って藤牧を誘導する。少し走った先には、チームコヨーテが乗ってきた車が広場内に乗り入れていた。
「あれ? こんなところに停めてたっけ?」
「ちょっと事情があってここまで乗り込んだ! ほれ、乗れよ!」
佐々木、山ノ丈と共に、藤牧は篠木を抱えて車に乗り込む。身震いするほど寒かった。
「うわっ、なんだこりゃ!? お前等風邪引くぜ!?」
「熱中症でぶっ倒れるよりマシだろうがッ!」
佐々木は急いで車を発進させる。
「でもお前等どうやって・・・・・・それにさっきの氷は?」
「ここから支部へ戻るとき、氷結グボロとコンゴウ駄天いただろ? 丼さんがそれを思い出して、二人でそいつらを倒しに行ってたんだよ」
「正確にはアラガミバレットを奪いにな、おかげでかなりの数が取れた」
通りを直進して、角を曲がると、そこにはハンニバルと戦う間と青桐の姿が。
「その子はここに置いていこう。この車内なら多少は安全だし熱中症の危険はない!」
「風邪は引くかもしれんがな」
藤牧を応急処置した後、三人は神機を持って車から出る。
佐々木と山ノ丈はまず照準を青桐と間に合わせ、受け渡し弾を放った。
「ざまさーんッ! 青さんーッ!」
「竜!」
「うぉぉみなぎるぅぅぅぅ!!」
再度リンクバーストしてハイテンションになった青桐は、早速ハンニバルの背中に照準を向けた。
「食らえ! 濃縮アラガミバレットッ! シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトッッッッッ!!!!」
「あっちょっ・・・・・・待て青さん!」
山ノ丈が止めるより先に、濃縮ラピッドフロストが放たれた。幸か不幸か、放たれた3つの氷塊はハンニバルの背中へ命中した。いや……してしまった。
何かが砕ける音がして、ハンニバルの動きがその場でピタリと止まる。この隙に、間は4人の元へ移動する。
「ははっ、青さん・・・・・・やってくれたなぁ」
「おう・・・・・・我ながらアホな事をしたぜ」
後悔先に立たず、ハンニバルの逆鱗と呼ばれる部分から炎が噴き出したかと思うと、炎が逆鱗を中心に羽を形成し、ハンニバルの殺気が、より強力なものとなってチームコヨーテに向けられた。
「来るぞッ!」
チームコヨーテは態勢を立て直す、ハンニバルは再び炎剣を手に現す、それは今までのより大きく、そして強いものになっていた。ハンニバルは大きく飛び上がり、炎剣の先をチームコヨーテに向ける。
「散開!」
佐々木の指示で、コヨーテは二手に分かれ、元いた場所に炎剣が深く突き刺さった。外れたと知るとハンニバルは炎剣を消し、しなやかに、素早く立ち返る。
天野:『ハンニバル、逆鱗を壊されてお怒りのご様子』
青桐:『はい、ごめんなさい』
しかし、濃縮ラピッドフロストを全弾、それも急所に撃ち込まれたためか、ダメージだけは大きく累積しているようだった。先ほどのような余裕がみられない。
白花:『ハンニバルのオラクル反応が徐々にですが弱まってきています。慎重に、無理はしないでください!』
ハンニバルの両腕がコヨーテを襲う。さらに炎剣を両手にまとって振り回し始めた。交戦する内、藤牧の冷却チェーンソー真が篭手を壊した。
ハンニバルは壊れた篭手を振り回したあと、再び炎剣を腕にまとい、飛び上がったかと思うと、今度は間めがけて急降下してきた。
「おっと・・・・・・」
リンクバーストの影響で、感覚が研ぎすまされた間は、少し横にずれてしゃがむだけでそれを回避する。
「お返しだっ! くらいなっ!」
神機をハンニバルの喉元へ向けて飛び上がった。深く突き刺さったクレメンサー真はハンニバルの喉を貫通して逆側に抜けた。流石のハンニバルもダウンする。
「よっしゃッ! お前等ぶっ放せッ!」
佐々木の怒号と一緒になって、氷系アラガミバレットの弾幕がハンニバルに降りかかる。首元をやられたのが痛手だったのか、ただもぞもぞと動くだけで反撃しようとしない。
間:『よし、虫の息だ。アラガミバレットは!?』
山ノ丈:『悪ぃ! もうない!』
藤牧:『何ぃッ!!?』
天野:『いや、まだある! ざまさんの神機の中に入ったままの濃縮アラガミバレットが!』
佐々木:『そうだよざまさんッ! リンクバーストが続いてる内に撃て! 撃つんだぁッ!』
間はハンニバルの首に突き刺さった神機を引き抜き、背中へ立ち回る。そこで銃形態へ切り替え、銃口を逆鱗に突き刺した。
「くそっ! これでやれなかったら泣くぞ! 打ち砕けろッ!」
佐々木:『行けぇぇぇぇぇえッッ!!!』
濃縮アイスブロウが、ハンニバルの中で炸裂。直後間は神機を引き抜いて飛び退き、ハンニバルの最期を見る。
ハンニバルは弱々しい断末魔を上げながらふらついたかと思うと、その場に倒れ動かなくなった。
白花:『ハンニバル、オラクル反応が消えました! やりましたね!』
「勝った! 勝ったぜおい!!」
「あぁ、コアを摘出して帰ろうぜ」
「おい待て、ハンニバルって確か不死のアラガミなんじゃ・・・・・・」
天野:『あぁ、それはご心配なく』
喜びに浮くチームコヨーテに、天野は安堵の息と共に告げた。
天野:『実はハンニバルの情報は支部に戻ったときから出てたんだ。だから青さん達が出撃する前に、急いで対ハンニバル偏食因子を神機に練り込んでおいたの。ほとんど完成してたんだけどまだ試験段階だったから実装はまだ先になるはずだったんだけどね、でもこれで近い内に全部の神機に実装できそうだよ、実験体になってくれてありがとうね』
間がコアを摘出し、車を発進させた。今度は山ノ丈による安全運転で、だ。
こうして、火事場の中でのアラガミとの戦いは、チームコヨーテの勝利に終わった。
後日 アナグラ内病室
「あ! 藤牧さん!」
体中の至る所に包帯を巻いて入ってきた藤牧と、その仲間達が病室に入ってくると、篠木は病室のベッドの上で明るい声をあげた。
「よっす、篠木ちゃん、その後どう?」
「ふ、藤牧さん・・・・・・どうしたんですかそれ?」
体中包帯だらけの藤牧に、篠木は目を丸くする。藤牧は照れ笑いしながらもちゃんと答えた。
「あぁ、どうってこたねぇよ。こんなのいつもさ」
実は、あの後行った検査によると、藤牧は自分でも気づかない内に体中を火傷していたらしいのだ。いずれも軽度で済んでいたが、範囲が範囲なので、包帯を巻いてしばらく休養を取ることとなった。他のメンバーも体に大きく負担がかかっていたため、しばらくはチーム丸ごと休暇を取ることになった。
ちなみにその後のフェンリルの調べによって、あの広場に居た人は篠木を含めて大半が救出されていたとの報告だった。突然に襲撃によってここまで生存者が残るのは稀で、佐々木達の誘導が功を成していたらしい。
今度は青桐が話しかける。
「篠木ちゃんだっけ? 結局それからどうだたヨ?」
「あ、はい! 今じゃもう元気いっぱいです!」
「あ、そう。それは結構なことで」
その時、病室の扉が開き、一人の女性が入ってきた。長く美しい髪、白い肌。藤牧は直感で、篠木の母親だと察した。
「お母さん!」
「あ・・・・・・どうも・・・・・・!」
たどたどしい動作で篠木のベッドの隣に駆け寄った母親は、藤牧達に深々と頭を下げた。
「娘がご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!」
「いえいえそんな! 迷惑だなんて! これも仕事ですから・・・・・・頭を上げてください」
そっと頭を上げた母親は、藤牧達を見ると心底安心した表情を見せた。そこで藤牧はここに来た目的を思い出した。
「そうだ・・・・・・篠木ちゃん。これ落としていっただろ?」
「あ、それは・・・・・・!」
藤牧と篠木が初めて会ったとき、篠木が落としたあのクマのキーホルダーだった。
「ありがとうございますっ!」
藤牧がそれを返すと、篠木の顔がまた一段と明るくなった。それを見て、コヨーテメンバーも自然と明るい表情になる。母親がまたも深く頭を下げた。
「ほ、本当にありがとうございます! あの、私共に何かできることがあればなんなりと言ってください!」
今度は間がぼりぼりと頭をかきながら応じた。
「一般人に何かしてもらうほど私達は傲慢じゃありませんやい。一つ上げるとしたら・・・・・・」
間はしばらく考えるように唸ったかと思うと、パチンと指を鳴らして振り返った。
「とりあえず風邪を引かんよう、エアコンの設定温度に気をつけときゃいいんじゃないですか?」
――to be continued――
火事です。火事。今回は炎系アラガミのオンパレードですね。
ちょっと早いですがハンニバルを出してみました。ハンニバルは不死のアラガミということでその絡みに関する話も入れたかったんですが、この際吹っ飛ばして話を進めて見ました。天野さんすごい、流石ロリBB……おおっと