フェンリル横浜支部「team coyote」   作:ざま菓子

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接触

 

 

 旧横浜市街

 

 

「待てっ! 逃がしゃしねぇぞ!」

 フェンリル横浜支部、チームコヨーテの間は今、朝から追っていたディアウス・ピターをとうとう追い詰め、旧市街を走り回っていた。

 ゴッドイーターからは帝王とも呼ばれるこのアラガミは3週間ほど前に埼玉だった場所で確認され、二日前に旧横浜に現したという情報が横浜支部に寄せられた。しかし人手が足らず、誰も怖がって討伐任務に出なかったことから、間は一人、朝一番で討伐に出かけていたのだった。

 数時間の激しい戦闘の後、疲労を押し殺しつつなんとか帝王を追い詰めるまでに至ったのだ。廃墟群を脱兎の如く走るディアウス・ピターを、間という狩人が追う。

(オラクルの残弾はない……なんとか剣だけで仕留めないと……)

 ディアウス・ピターはビルの陰に逃げ込んだ。

(あの角を曲がり際に……)

 しかしその直後、破壊的な爆発と共にディアウス・ピターが大きく吹き飛ばされてきた。

「!?」

 間はとんでもない形で帰ってきたディアウス・ピターが動かないのを確認して、爆発のした方向に注意深く近づいた。砂煙が舞う中で、間は人影のようなものを確認する。

(誰だ……? 援軍かな)

 砂煙がうっすらと薄れ、人影が徐々にはっきりしていく。そこには、フェンリルマークのフード付きコートを着た何者かが銃形態の神機を片手に佇んでいた。

 間は警戒を解き、なるべく友好的に話しかける。

「協力に感謝します。えっと……どこの所属の方でしょうか?」

「…………。」

 フードを被っているので人相がわからないが、全体的な体つきから察するに女性のようだ。黙ったまま神機を降ろす。すると、素早く懐から小さい何かを間に向けて放ると、素早く背を向けて逃げ出した。

「あっ……ちょ」

 間は投げられたものを見てぎょっとした。

(スタングレネードッ!!)

 気づいた時にはもう遅く、間は目の前を閃光に包まれ、人影を見失ってしまった。

(なんだってんだ……? 一体……)

 間は不審に思いながらもディアウス・ピターの方へ戻り、捕喰回収をしてから無線を繋いだ。

間:『こちら間。白花さん、聞こえますか?』

白花:『はい。如何でしたか? 帝王と呼ばれるアラガミは』

間:『私も腕には自信がある方なんだが……それでも数時間かかった。でもなんとかなったよ』

白花:『それはよかった。至急そちらに回収班を向かわせますね。帰還ポイントを送信します』

間:『よろしくお願いします。それから白花さん』

白花:『はい?』

間:『今しがた所属不明の神機使いを見たんだが、そっちのレーダーに反応はなかったでしょうか?』

白花:『? いえ、特に反応はありません』

間:『そうですか……まぁいいです。ありがとうございました』

 間は無線を切り、高所に移動する。脳裏に浮かぶのはさっきの神機使いの姿だった。

(あれは間違いなく神機使い……しかし、レーダーに反応がないということは別支部? いや、応援なら無線で知らせてくるはずだ。レーダーに反応も出る……なら、誰なんだ? ディアウスピターがやられた以上錯覚なんてことはないはずだ。スタングレネードも使ってきた……実物だ。それより不思議なのは、何故姿を消したかだ……それにあの気配……謎多い人物だな)

 間は廃墟になったビルの屋上に上り、迎えのヘリを待つことにした。やがてヘリが来るその間にも、例の人影が姿を現すことはなかった。

 

 

 

 

 

 数日後の昼、突然チームコヨーテに集合がかけられた。コヨーテ全員に召集がかかるのはコヨーテ結成以来だった。

 エントランスに支部内の主要人物が集まる。佐々木、青桐、藤牧、間、山ノ丈、天野、白花。そして女性と高堂だ。

「諸君、新人を紹介しよう」

 高堂がそう切り出すと、新人と呼ばれた女性は一歩前に出て深々とお辞儀をする。

「初めまして、ソフィア・ペパーミント・コーデリアです。本日付で横浜支部に転属となりました。よろしくお願いします」

 新人……ソフィアはやや細身で小顔、ショートヘアの美しい金髪を備えており、女性というより少女といった方がしっくりくる。あどけない面差しを残していた。透き通るような声質で日本語の発音も全く違和感がない。長袖のシャツにジーパンというスタイルも、本人独自の良さを際立たせている。

「21歳、国籍上はイギリス人だが、両親は亡くなられており、ここ3年ばかり日本で暮らしてきたそうだ。新型神機使いで、事前演習、オラクル適合率、共に優秀。彼女の希望もあってチームコヨーテに配属させたいのだが、構わないだろうな?」

 高堂の問いかけに、間はチラリと佐々木を見る。駄目だソフィアの可愛さに見惚れている。青桐……も駄目っぽい。山ノ丈が代わりに答えた。

「まぁ、大丈夫といえば大丈夫っすけど……マッキーはどうよ?」

「んー……本人が希望してるんならいいんじゃないの?」

「なら決まりだ、天野、それから間。情報の引き継ぎ等で話があるから、一緒に来い」

「はい」

 天野はともかく、自分が呼ばれたことに違和感を覚えた間だったが、ここは頷くしかない。

「? ……はい」

「それではソフィア君、ようこそ横浜支部へ、チームコヨーテは変なのばかりだが悪い奴はいない。早いとこ仲良くなって任務に臨んでくれ、頼んだぞ」

「はい!」

「それじゃ支部長」

「うむ」

 天野は高堂の後ろについて間を手招きする。はっとした間がソフィアの前を通り過ぎるその瞬間、間は背筋が一瞬で凍りつくような気配を感じた。気づかれないように脇目でソフィアを見やったが、彼女の表情からは何も読み取れなかった。

 三人はエレベーターに乗り込む、何故だか気まずい雰囲気だ。

「……。」

 間はソフィアについて思考を巡らせていた。

(ソフィア・ペパーミント・コーデリア……何者だ? 初対面な気がするが……そうでない気もする……いやいや、あの気配はつい最近感じたものだ……何だ?)

 高堂は間の不審を感じ取ったのか、話題を切り出し始めた。

「天野、君は先日、東京の夏美本部長のところに行ったそうだね?」

「……。」

 事実だった、先日、青桐と共に東京の本部に出向いていた。隠しても仕方がない。

「ええ、行きましたよ。それが何か?」

「ん……いやぁ、実は今しがた入隊したソフィアは、夏美本部長本人の手で送り込まれた神機使いなんだ」

「……?」

 天野は夏美の名前が出た途端、警戒の色を見せた。

「夏美さんから……?」

「あぁ、それで本人の話なんだが、ソフィアはここで神機の適合試験を行っていない。そこで彼女の神機の事前検査を行ったところ、どうも全体的に数値が高いんだ」

「!」

 天野は反射的に、高堂に気取られないように間を見る。間の神機のステータスも【例の事情】によりかなり高い。天野は高堂が間を呼んだ理由を察した。

「先に神機管理室に寄って資料を渡す、それを見て検討の上、今後も注意を払ってほしい」

「了解しました」

 エレベーターが止まり、通路を通って神機管理室へと向かう。間はもちろん、天野もいたたまれない不安に駆られながら。

 神機管理室……正確にはその休憩室を貸切り、三人でソファーに座る。

「さて、天野……これが資料だ。こいつを元に、君の手でもう一度神機を検査してみてくれないか? 彼女の神機なら、Cプロット4番に収納されている」

「はい、ではしばらくお待ちください」

 天野が休憩室から出ていくと、高堂は間の真正面に座り、間の眼を見つめる。

「待たせたね、間少尉……話というのは他でもない、彼女のことだ」

「……はぁ」

「君は、自分の身体が少しばかり特殊、ということは知っているんだったね?」

「えぇ、知ってます……まさか」

 間は自分の疑惑を確信にする。

「その通り、どうやら彼女も、君と同じ様子らしいんだよ」

「!」

「といっても実は特別証拠があるわけじゃない、単に憶測のようなものなんだが……君は彼女の近くに寄った時、何か感じなかったか?」

「感じたような、感じてないような……?」

「そうか……」

 高堂の電話が鳴った。立ち上がって部屋の隅へ移動し、何やら話し込みはじめる。間はソフィアについてさらに思考を進めていた。

(私と同じ……? あの背筋に感じたのはそういうことか……でもあれはもっと冷たい……殺気のようなものだった気がするが……)

 数分たたず、高堂が電話を切って戻ってきた。

「すまない、急な用事が入ってしまった。天野が神機の調査結果を持ってきたら目を通しておいてくれ、読んだ後は私宛で白花オペレーターにでも渡しておいてくれればいい、それから……」

 高堂はポケットから数枚を資料を間に差し出した。

「これを渡しておく」

 それはソフィアについての個人データだった。

「それはコピーだ。君にあげよう、要らなければシュレッダーにでもかけておくがいい……それじゃあ彼女については頼んだぞ」

 それだけ言って、高堂はさっさと部屋を出てしまった。あっけに取られた間はふと、渡された資料に目を落とす。

(ソフィア・ペパーミント・コーデリア……21歳、どんな神機タイプでも扱う、階級は少尉、好きなものは紅茶とアイス……嫌いなものはアスパラ? 父親と母親についてのデータは無いが国籍上はイギリス人……)

 最初のうちは個人情報や演習のデータ等が並んでいた。しかし、資料を目で追うにつれて、情報の趣旨が変わっていく。二枚目の資料は正規の型ではない、第三者が個人的に後付したデータだった。

(! 東京本部に入隊時、神機の適合記録はなし、神機の数値も高い。これは間遼太郎少尉と同じ状態である……? なんだこりゃ)

 資料を読み終えたのとほぼ同時に、天野が資料を持って入ってきた。

「あれ? 支部長は?」

「あぁ、急用で帰った、私が代理で見ておくようにってさ」

「そう……」

「……。」

 またも気まずい空気が流れる。天野はゆっくりとソファーに座りながら口を開く。

「ねぇざまさん……」

「……あのソフィアとかいう子、私と似てるらしいな」

「……神機の解析データ……これ」

 間は横目でそれを見ながら受け取る。そこには大きな【名称不明、照合不可能】の文字が印刷されていた。その下には【同データ一件】の文字が寄り添うように印刷されている。

「これはまさか、私の腕輪や神機に潜在的に埋め込まれてたとかいう何かと一緒のものが出てきたということか?」

「そういうことみたい、ちなみにこれは神機の数値、こっちはソフィアさんの、こっちはざまさんの、こっちは全く違う人の数値データなんだけど……」

「……なんだこりゃ……」

 間は三枚の資料を見比べて驚愕する。間が普通の神機使いより数値が高いのは自分もコヨーテメンバーも知っている、しかしソフィアの神機の数値は、間の数値をさらに大きく上回っていたのだ。天野は顎に指先を当てて考え込んだ。

「妙なんだよねぇ……この数値、ざまさんの神機もかなり高い方なんだけど、ソフィアさんのはそれを更に上回る数値なの。夏美さんは何考えてるのやら……それに渡された資料にも書いてあったけど、書類上はソフィアさん、神機の適合試験をやってなくて、東京本部にいた時には既に神機使いだったらしいじゃん? これってざまさんと同じだよね?」

 間は若干額に汗をかき始めていた。なんだか嫌な予感がしていた。

「あぁ、私と恐ろしくよく似てる……今後も注意が必要だな、天野さん、すまないがこのソフィアって人の神機の事と……あと念のため私の神機についても留意しておいてくれないかね?」

「うん、了解」

「それじゃあ、私はこの辺で戻るぜ、よろしく頼むぜ」

 間は足早に休憩室を出た。

 足が重い、間の脳裏には自分の謎の症状と、今朝の謎の人物が浮かんでいた。

 彼女と症状が一致していれば、自分も同じ経緯をたどってここにいる可能性は高い。彼女について調べれば自分についても何かわかるのかもしれない……。

 

 

      エントランス

 

 

「へぇ~、じゃあソフィアちゃんは純粋なイギリス人なんだ!」

「うん! その通り!」

 間がエントランスに戻ると、ソフィアはチームコヨーテに囲まれ会話の中心になっていた。

「純粋生粋大抜粋のイギリス人!」

 どっと笑いが起きる。噛まずに言えることから察するに彼女の持ちネタなのだろう。会話の様子を、間は遠くから見ていた。

(彼女が私と同じだとは思えないが・・・・・・まぁ任務に出ればわかるのかもな)

 間はだんだんと、少なくとも今は確認できないことだと悟っていき。大人しくソフィアとの会話の輪に入った。背筋に冷たいものを感じながらではあったが。

 

 

――To be continued――




今回は区切り点ということでかなり短めです。

ディアウス・ピターが弱すぎ? いやぁまさかそんな。
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