横浜支部 第一作戦室
ソフィアが入隊した翌日の正午、早速チームコヨーテに集合がかけられた。作戦室に一人腰かけていた高堂は、来訪者に挨拶する。
「よしよし、全員来ているな……ソフィア君、昨夜はちゃんと休めたかね?」
「はい! とてもよく」
ソフィアと共に作戦室に入ってきた間はチラリと彼女の方を向いてから、視線を高堂に戻した。高堂は椅子に深く腰掛けたまま片手でやんわりと合図をする。
「二人が一番乗りか……まぁいい、まだ時間はあるし、二人とも楽にしてくれ、全員そろってから作戦会議を始める」
言われるがまま、間は近くの長椅子の端っこに腰掛ける。すると、何故かそのすぐ隣にソフィアも腰を下ろしてきた。異性に慣れていない間は身体が一瞬強張るのを感じた。
(ソフィア・ペパーミント・コーデリア……調べれば調べるほどわからない人間だが……一体何を思ってこのチームに入ってきたんだろう……元々昔の身内だけで構成されたチームだ。第三者が入りづらい環境のはずなんだが……)
特に話しかけもせず、ただ黙って思考を巡らす。しかし、ソフィアは間にそれ以上の思考を許さなかった。
「間少尉、チームコヨーテの皆さんは面白い方ばかりですね」
「ん、あぁ……ざまさんでいいよ、そうだな、このチームは面白い奴らばかり。変わった人間ばかりとも言えるね」
そういえば彼女も少尉であったか、と間は昨夜の資料を思い出す。ソフィアについての資料は全て間の部屋に保管してある。捨ててもいいという指示だったが、何故かなかなか捨てようと思えなかった。
「昨日タロスや青さんとたくさん話しましたが、皆さん個性豊かで話しやすいですッ!」
「ははは、そうだなぁ、タロス――私は親しみを持ってあいつを竜と呼ぶんだが――は人当たりがいいからな、青さんも見た目はアレだが一度絡めば話のネタは尽きないし、仲良くしといて損はないと思うよ」
ソフィアは間の顔をじっと見つめた。思わず間は視線を逸らすが、彼女は少し声を落として話してきた。
「私とざまさんは割と相性が良さそうです……私の直感がそう告げていマス……こンカイのニんム、楽シミデスネ……」
間がその言葉の意味と発せられた殺気を理解する前に、佐々木達が一斉に入ってきた。
「全員いるな……よろしい、では作戦会議を始める」
作戦室中央のテーブルを、高堂とチームコヨーテで囲む、テーブルに内蔵された画面に地図が映し出される。
「今回の作戦『廃工場掃討作戦』は名前さながら至ってシンプルだ。旧千葉市のとある地点に密集している廃工場群がアラガミに占領されたという情報が民間から寄せられた。今朝から数名の先遣隊が調査に出向いているが、状況はあまり芳しくなく、正確な情報も得られないままだ。そこで君達に討伐班として出撃してもらいたい」
地図がズームされ、工場を模した立体図形が6、7個映される。廃工場群は特に規則性を持たず、そこかしこに点在していた。
「午後1時に出撃ゲートからヘリで現場に向かい、先遣隊と入れ替わりで作戦開始、先遣隊を回収した後、機内で情報を受け取っておくように…………作戦の終了時刻は明確には規定していないが、日没前の終了が望ましい。出現しているアラガミに規則性はなく、万能に対処できる装備を持っていく事をお勧めする」
現場に行くのに約1時間半として、作戦に使える時間は盛って4時間というところ、トラブルがなければなんとか遂行できるレベルだ。
「……本作戦はさほど重要ではないにしろ、数が特定できていないが故油断ができない、十分に注意して任務に当たれ、それから今回はソフィア君のウォーミングアップも兼ねている、一応留意しておいてくれ」
「「「「了解」」」」
「えー? ウォーミングアップにしてはハードル高くない支部長?」
佐々木がソフィアの方を向いて口を尖らせる。高堂はニヤリと微笑んで付け加えた。
「コーデリアの階級は強襲少尉だ、戦闘技術はもしかするとお前達より高いかもしれないぞ?」
「げ、マジで?」
唖然とする佐々木を余所に、高堂は話を進める。
「作戦の流れはリーダーに任せる、今回のリーダーは誰にする予定だ? 特に決まりがないならいつも通り間少尉にやってもらうが」
「異議なーし」
気の抜けた佐々木の返事に間は顔をしかめそうになるが、かといって特に何か言うこともなかった。
「では、今回も間少尉がリーダーだな、先遣隊と連絡が取れるようにしておくから、それまでに大まかな方針を立てておくように」
「はい」
「では、午後1時に出撃ゲートへ集合するように、以上!」
間は作戦室を去る高堂に軽く敬礼し、つきっぱなしのテーブル画面に映し出された地図を見下ろして作戦を考えようとする。藤牧達は作戦室を出て各々の準備に入った。一人ぽつんと佇んでいると、先ほどのようにソフィアが身を寄せてきた。
「今回はどのようにしますか? ざまさん」
「敬語はなくていいぞ? そうだな……現場を見ないとちょっと考えが及ばないが、せっかく全員が出撃するんだ、戦略性をもって臨もうと思う。ソフィアさんは戦闘が得意らしいね?」
「ソフィアでいいよざまさん、敬語も不要……まぁ……ね。そうみたいね」
「? ……まぁいいか、じゃあソフィアも準備にかかって、私はしばらくしてから準備にかかる」
「了解です、上官」
「上官はやめてくれよ……同じ階級のくせに」
間がちょっと照れくさくなると、ソフィアはくすくすと笑いながら作戦室を出て行った。その後ろ姿を見送ると、間はふとため息をついて天井を見上げた。
(見た目も態度も普通の女の子だ……あれが私と同じとは……いや、まだ実戦での様子を見ていない……まだわからないぞ)
再び地図に視線を落とし、作戦をぼんやりと考え始めた。
アナグラ内 ラウンジ
間とソフィアが作戦室で対談している一方で、佐々木は青桐と一緒にラウンジで麦茶を飲んでいた。
「なぁー青さーん」
「なんだねタロス」
「ざまさんとソフィアちゃんってさ、なんかいい感じじゃね?」
「あぁ…………まぁな?」
佐々木がニヤケながら身を乗り出す、悪い予感が青桐の中に沸いて出た。
(あ……なんか嫌な感じ)
青桐は長年の勘でこの後の台詞を察する。
「絶対いい感じだよな? なぁ?? これはざまさんにも恋路のチャンスだぜ!?」
「お前あんまり余計なことするなよ、そういう点がお前がざまさんに嫌われてる原因の一つなんだぜ?」
「うへへへへ……」
聞いちゃいない、とばかりに青桐は麦茶の氷をかき回す。
佐々木は以前からこういうやつなのだ、静かな恋愛観を持つ間と違い、佐々木は恋愛に対する意識が非常に軽い。なんでも過去には二股どころか三股か四股かけたこともあるとかないとか、彼に泣かされた女子も少なくないという。
「まぁ勝手にしろよ、怒るのはざまさんだろうし……でも程々にしてやれよな」
「わーったわーった!」
全然わかっちゃいない、青桐は説得をやめた。
午後1時 屋上出撃ゲート
集合時刻、チームコヨーテと高堂は屋上のヘリポートに集まっていた。各々の神機は調整されヘリへ積んである。
「それではチームコヨーテの諸君、幸運を祈る。吉報を待っているぞ」
「イエッサー!」
何故か佐々木が元気の良い返事を返す、青桐たちもそれを追うように返事を返し、ヘリへ乗り込んだ。
ヘリが強風と共にアナグラから離れ、手を振る高堂の姿が小さくなっていく。それを見送り、それぞれ気を楽にしてくつろぐ。戦いの前の休息、というやつで、大抵のゴッドイーターは横になるなりして仮眠をとるのだ。
間は自分の隣で静かにしているソフィアを横目で見る。そしてその二人を向かい席で佐々木が見る。その佐々木を隣の青桐が眺める。という図式を藤牧と山ノ丈は眺めることとなった。
(((なんだこりゃ……)))
廃工場群 上空
1時間ほどして、間は外の暗さで目を覚ました。どうやら揺られているうちにうっかりまどろんでしまったようだ。しかし、それより衝撃的な事態が間に起こる。
(ん? 足に何か乗って……えぇッ!?)
視線を自分の膝下に落とすと、なんと自分の太ももを枕にしてソフィアが眠っているではないか。
(うわっ……うわわわわわわ)
突然目の前に現れたソフィアの無防備な寝顔に間は思わず跳ね上がりそうになったが、膝枕状態である以上下手に騒ぐと起きてしまう。それより心配なのは佐々木の目線だ。佐々木にこんな場面を見られたらなんと言われるかわからない……!
(……よかった、竜も寝てるみたいだ……マッキーと丼さんは……こんなとこで将棋か。こちらには気づいていない……あ、青さんは!?)
助けを求めるように青桐に視線を向ける。青桐は頭を垂れていたが、その両肩は小刻みに上下していた。声こそあげていないが、必死で笑いを堪えている感じだ。
(青さーん……! 笑ってないでこの状況をなんとかしろー……!)
アイコンタクトによる救助信号も空しく、青桐は笑うばかりで助ける素振り一つ見せなかった。すると、微かに震えていたのが伝わったのか、ソフィアは薄目を開けたかと思うと、間の顎を打ち上げんとする勢いで起き上がった。
「す、すいません……! ついうとうとと……!」
顔を真っ赤にしたソフィアが小声で謝る。間はソフィアに対する言葉より、とりあえずの安堵が先に来た。両肩の力を落とす。青桐の方はより一層肩を震わせた。
「いや、いいよ別に……うん、いいよ。ん? いいよ? いや、うん。いいよ……いいともさ? ん? うん……OKOK」
「ほ、本当に大丈夫ですか?」
「焦りすぎだろざまさん…………」
青桐がようやくまともに言葉を返してきた。このことは黙っておくようにと暗黙の了解を取る。青桐はこういう秘密事についてはかなり口が堅い。ソフィアは相変わらず顔を真っ赤にしたまま俯いているが、間はとりあえず異常事態が去ったことに安堵した。
すると、機内に放送が流れた。通信信号だ。
?:『あー! あー! こちらチームベータの酒井だ! 応答せよ、こちら先遣隊。繰り返す! こちらはチームベータの酒井ッ!』
「「「「……!」」」」
全員がスピーカーに一瞬で意識を集中させる、さっきまで寝ていた佐々木もすぐに目を覚ました。
操縦士:『こちらパイロット、チームベータ聞こえるか』
酒井:『聞こえる! なるべく急いでくれ!』
無線の奥から聞こえてくる銃撃音や咆哮が、緊迫した様子を嫌でも伝えてきた。相当な戦いを起こしてしまったらしい。
操縦士:『了解、こちらで位置を把握した、近くの工場の屋上に上がってください!』
酒井:『了解! 行くぞ!』
ブツリと無線が切られた。本来戦闘を避けるべきである先遣隊があれだけ壮絶な戦いを起こすのは極めて稀だ。ミスでもしたか、あるいはそれほどアラガミが多いのか…………機内に緊張が走る。
ヘリが高度を落とし、廃工場の屋上で両手を振る神機使いの真上に移動する。操縦士の一人がドアを開き、回収作業に入った。手慣れた動作で神機使いたちがヘリへ収容される。
チームベータを回収したヘリは一旦その場を離れ、廃工場周辺を旋回し始めた。
間達が息切れしているチームベータの神機使い二人に席を譲ると、一人が握手を求めてきた。
「いやぁ……! 助かった……! まさかあれだけいるなんてな……!」
「えぇ……! ほんと……」
先遣隊のチームベータは男女一人ずつ、二人とも間達より年上だ。男の方は整った顔立ちにサングラスで、前髪をワックスでほぐし、タンクトップの上にスカジャンを羽織っている。女性の方も凛々しい顔立ちをしており、Tシャツにホットパンツとかなりの軽装だった、露出した真っ白い肌とソフィアよりはるかに白みがかった金髪が機内でもまぶしい。恐らく男の方が酒井だろう。
「無事で何よりです、酒井さん!」
佐々木が顔を明るくして酒井と思しき男性に言った。男性の方も佐々木を見ると、突然声色を変えた。
「佐々木じゃねぇか! お前チームデルタのリーダーなんじゃ?」
「今はほとんどこっちについてるんすよ、リーダーは基本的にこいつっす」
「え、何? 知り合い?」
向けられた佐々木の指を別方向に押し曲げつつ、間は佐々木に聞く。
「いででででで…………あぁ、この人は俺の……まぁ兄貴分みたいなもんだよ、新人だった頃結構アドバイスしてもらってさ、気も合うもんだからそれ以来何かとお世話に…………酒井さん、こいつは俺の古くからの友達で間っていいます。ざまさんって呼んでやってください」
「どうもー」
「どうぞよろしく」
佐々木を仲介役にして、酒井と間はそれぞれ会釈した。今度は藤牧からも挨拶する。
「久しぶりっすね、酒井さん」
「お、マッキーか、お兄さんの噂はたまに耳に挟むぞ、こうして会うのはいつぶりだっけ?」
「アレだ……北海道での大規模防衛作戦の時一緒にいたっす」
どうやら酒井は藤牧とも面識があるようだ。その時、女性の方が身を乗り出してきた。
「ちょっと、私の紹介は無いわけぇ?」
「まぁそう焦るなよレイラ、ちゃんと紹介するさ、な? 佐々木?」
「え、人任せっすか? ……この人はレイラさん。酒井さんの恋人だ」
「どーもーレイラです! ロシア生まれよ!」
どうりで日本人離れした肌色なわけだ……と間は一人納得した。二人の指には、確かに指輪がはまっている。恋人ということは婚約指輪だろう。
「さて、本題に移ろう……佐々木、書く物貸してくれ。それから大きめの紙も」
「あ、はい……と、持ってないや、誰か持ってる?」
「私があるよ……どうぞ、大きめの紙は……大きくはありませんがコピー用紙がその辺にあったはずです」
間は小さい棚をごそごそと漁り、手帳用の小さいシャーペンとA4用紙を手渡した。
「サンキュー、よし、じゃあ工場の様子と地図を描くぜ? PDAでも見れるんだが、何故か上空だと上手く作動しないからな」
ぼやきながら酒井は床に紙を置き、素早く地図を描画する。地図と言っても紙に四角形がいくつか描かれただけの、簡単かつ適当な地図『もどき』だが。
「まず、これらはどうやら製鉄所の設備群だったらしい、結構大きなところだったらしくいくつかの部署に分かれている、一個だけ名札っぽいのを見つけたんだが、そこに『一号機』と書いてあるのが辛うじて読めた、拾った位置からして、この図でいうところの……」
酒井は自分で描いた図の一番下の四角を指さす。
「ここだな、これが一号機、他のところは調べられなかったから、とりあえずここから順繰りに2、3、4号機と呼んでいくことにする」
酒井の仮定に、全員が頷いた。
「工場は全部で7つ、つまり7号機まである、これ全体で一つの工場らしいな。で、問題はここからだ。この中に大量のアラガミがひしめいていやがった。サイズを問わず、統一性もあまり感じられない」
「そのアラガミの具体的な例は?」
間が顎に手をやりながら説明を求める。酒井はゆっくりと指を鳴らして質問に答えた。
「……主にボルグ・カムラン、シユウ、クアドリガなんかもいたな、小型に関して言えば通常のオウガテイルとコクーンメイデン、コクーンメイデンは堕天種もいたな。まぁ大体そんなもんだ」
「続けてください」
「OK このアラガミ共は工場の間合いを理解しているのか、あまり工場自体を捕喰するような真似はせず――それでもかなり喰ってるみたいだが――工場跡地を拠点にするように動いているらしい」
「へぇ~、最近のアラガミって頭いいんすね」
藤牧が妙に感心する傍らで、酒井はうんうんと頷いた。
「そうだな、工場と工場の間で連携しているような動きはないが、まだそうしていないだけかもしれん……レイラが写真を撮ってきてくれたから、それも参考にしてくれ」
「はい、これよ」
レイラのデジカメを皆で囲む。
デジカメには明らかに廃れた工場と、それに群がるアラガミの軍勢の写真が映っていた。戦闘中に撮ったようで画像は粗いが、それでも惨状を知るには十分だった。全ての写真を見終え、最後に間の手元にカメラが回ってくる、レイラは挑戦的に微笑んだ。
「さぁリーダーさん? この状況をどうやって打破する気かしら?」
間はカメラ画面をスクロールしながら、簡潔に見解を示した。
「そうですね……こちらは少数精鋭、向こうは群れですから……力の差ではなく戦略が物を言いそうです。どうしたものか……と」
スクロールしていくうち、間はある事に気づいた。
「あれ? あの……この壁って瓦礫ですよね? もしかしてこれらの建物って【全て通り抜けできるようになっている】とか?」
「お、よく気付いたねぇ、流石佐々木のダチなだけあるよね」
「いやぁそんな……うへへ」
「竜、なんでお前が照れるんだ?」
間が示した写真には、一見するとわかりづらいが壁に見えていたそれは確かに瓦礫が積み上げられたものだった。この工場の施設は皆向かい合わせになるようにシャッターがあり、閉まっているのもあれば開いているのもあったのだが、その中にはシャッターの代わりに瓦礫が壁を成しているパターンがあった、と酒井は示した。
「あ……ねぇざまさん、ちょっとカメラ貸して?」
「ん、あぁ……ほれ」
肩越しに見ていたソフィアにカメラを渡す、ソフィアはいくつかの写真を見つめたかと思うと、ふと何かに気づいたように顔をあげ、酒井からシャーペンを取ったかと思うと、全ての建物を一本の線で結んでみせた。
「ソフィアちゃん、これは一体?」
山ノ丈が興味深そうに聞いた。ソフィアはデジカメの画面と合わせて皆に見せた。写真を撮ってきた本人さえも興味深げにそれを見下ろす。
「ざまさんの言うとおり、この廃工場は両側のシャッターを開けるとトンネルのように通り抜けることが可能になるようです。そこで、全てのシャッターを開けた場合、この線の通りに行けば最短で全ての建物を通過できます」
ソフィアは写真を見ただけで建物の位置とシャッターのついている面を全て把握し、それらを最短で駆け抜けるルートを導いたのだ。ある程度の知能が無ければここまでは出来ない。
ルートは歪んではいるものの、大きく円を描いていた。間はソフィアが書き加えたルートを指でなぞっていく…………線の終わりに指を到達させると、ふと顔を上げた。
「よし、作戦が決まった。皆聞いてくれ」
「拝聴させてもらおうかね、チームコヨーテの偵察少尉さんよ」
酒井は頬杖をついて意見を促した。間は頭の中でもう一度考えを反芻させるように指を回してから話し始めた。
「まずこの中でさらに3班に分ける。仮にA、B、Cとする。Aは列の先頭に立ち、倉庫の中を突っ切って通り道を確保する事に専念。シャッターが下りている場合は、作動できそうなら機械操作で開け、できなきゃ破壊。瓦礫に至っては問答無用で破壊するんだ。次のBは――これが一番重要だ――Aの後方で倉庫内のアラガミを殲滅することに専念する。Aの作業を妨害しないようにアラガミの注意を引く役割を果たす。最後のC、これは倉庫を突破した後、再びその倉庫を閉鎖する目的で動いてもらう。つまり、コヨーテが全員倉庫に入ったらシャッターを閉めるかシャッター付近を破壊するかして入口を塞ぎ、逆に出て行ったら同様に出口を塞ぐ、これはアラガミの増援や逃走を抑える役割がある。この編成でソフィアの描いたルートを辿る…………どうだ?」
「ほう、で、その編成の内訳は?」
「一応考えとしては、Aが竜とマッキー、Bが私、Cは丼さんと青さんについてもらおうと思ってる……ソフィアには私のところについてもらいたいんだけど、大丈夫か?」
「ハイ! 受けて立ちます!」
ソフィアの張り切った声が間を後押しした。
「OK ではソフィアはBに入ってもらう。じゃあ……」
間の言葉を遮るように、ヘリの機体が衝撃と共に大きく揺れ動いた。
操縦士:『アラガミに捕捉されたようですッ! 討伐班は至急出撃してくださいッ!』
「「「「ッッ!!」」」」
「じゃあ皆! 早足で悪いが頼むぞ……出撃ッ!」
各々の手に神機が握られ、ヘリから飛び降りた。
:装備情報:
佐々木竜太郎 先行突破
剣:獣剣老陽序(ショート)
銃:大食胞改(ブラスト)
装甲:強回避バックラー硬(バックラー)
特殊装備:山ノ丈特製ハイテク眼鏡
藤牧圭助 先行突破
剣:ブラッドサージ(ロング)
銃:縮地改(アサルト)
装甲:臥龍大甲(タワーシールド)
間遼太郎 殲滅
剣:クレメンサー真(ロング)
銃:虎銃新改(アサルト)
装甲:抗汎用シールド改(シールド)
ソフィア・P・コーデリア 殲滅
剣:雷刀改(ロング)
銃:ティトラカウアン(アサルト)
装甲:尾盾キンキ(シールド)
山ノ丈絃汰 後方支援
剣:ペイジ新(ショート)
銃:強化レールガン改(スナイパー)
装甲:対属性バックラー硬(バックラー)
青桐拓馬 後方支援
剣:アイスドリル真(ショート)
銃:スワロウ(スナイパー)
装甲:ソロネ(バックラー)
廃工場群
チームコヨーテが降り立つとほぼ同時に、早々に辺りから小型アラガミの群れが湧き出てきた。間達は一か所に集まりつつ、臆さず神機を構える。
白花:『チームコヨーテの皆さん、お待たせしました! これより廃工場掃討作戦を開始します! 間少尉はチームメンバーの点呼後、即刻作戦に移ってください!』
「皆いるよね!? そんじゃ早速……」
間の言葉が、妙に遮られた。
不審に思った青桐達が振り向いたが、間は俯きじっとしているだけだ。
「……ざまさん? 早く指示出せよ!」
佐々木が叫んでも、しばらくは何も反応しなかった、近くのオウガテイルが咆哮してようやく、ピクリと首が動いた。
「あ…………ああ、作戦通り竜とマッキーは先行してくれ! 青さん丼さんは後方を頼んだ!」
「? ……大丈夫かー?」
青桐が横目で間を見る。顔を上げていた間は表情こそいつも通りだが、その瞳は何かが抜け落ちたような雰囲気を宿していた。間の腕輪にソフィアの右手が添えられているのを青桐は確かに見た。
「……?」
違和感に思いつつ、青桐はアラガミを数体撃ち落とし、佐々木達の後を追った。
大きな体育館のような一号機の入口のシャッターは開いており、チームコヨーテはアラガミ達の中心部へ颯爽と突入した。ブリーフィング通り、佐々木と藤牧が先陣を切って道を開き正面のシャッターまで走り抜ける。工場の真ん中まで来た間とソフィアは背中合わせで神機を構えた。たちまち二人を取り囲むようにアラガミが押し寄せてくる。
「サて、いキマしょウか……ザマサン」
「OK 存分に食い荒らしてやるぜ」
「フフフ……」
ソフィアは神機をおおげさに構え直す、すると彼女の腕輪から気化したオラクルのような黒い煙となって勢いよく噴出し始めた。それに呼応するかのように、間の腕輪も同じように黒煙を放ち始める。
「!?」
驚いた間は、同時に頭痛を感じこめかみを強くおさえた。そんな隙だらけの間に、オウガテイルの体が飛んでくる。しかし、その牙が間に届くことはなかった。反射的に、弾かれたように、間がオウガテイルを迎え討ったのだ。
「はぁ……」
ソフィアは一瞬暗い顔をしたが、すぐにアラガミを片っ端から切り始めた。鋭い雷刀の切っ先がアラガミを次々に切り伏せていく。間もそれに合わせ、クレメンサーを振るう。
酒井が報告してくれた通り、小型アラガミは基本的にオウガテイル、コクーンメイデン、シユウ等だった。滑空してくるシユウに飛び回し切りを放つソフィアはさながらソバットを放つ格闘家に見えた。その様子は見る者に強襲少尉の称号を思い出させた。
前方では、瓦礫の壁に銃撃や斬撃を叩き込む藤牧達の姿が、後方には作動させたシャッターが下りるまで、銃撃でアラガミを牽制する青桐達の姿が見えた。出口開放にはもう少し時間をかけそうだが、入口の封鎖はもう時間の問題だった。その時青桐と佐々木から無線が入った。
青桐:『ざまさん、大丈夫かお?』
佐々木:『ソフィアちゃんもなんか黒いの出てるけど大丈夫? 神機不調なんじゃね?』
神機を一振りして、間は無線に応じる。その間もアラガミ討伐の手は休めない。
間:『あぁ大丈夫。気にしない気にしない……!』
ソフィア:『私も大丈夫、気にしないで! それより入口の封鎖は!?』
山ノ丈:『これならあと一分かからんよ、こっちが済んだらそっちに合流するわ』
佐々木:『ざまさん後ろッ!』
「ッ!!?」
間の後方上空から、オウガテイルが迫ってきていた。直感で間に合わないとわかる。全ての時間感覚が濃密なトランス感覚に陥る。しかし意識に反して神機を持つ手はしっかりと背後のアラガミをとらえ、人間の能力を大きく無視して体は後ろに向けてひねられていた。振り払われたクレメンサーにオウガテイルが吹き飛ばされ、オウガテイルの悲鳴で間のトランス感覚が消れた。我に返り、無線に触れる。
間:『問題ないぞぅ』
佐々木:『おうこれなら問題ないな』
青桐;『だな』
山ノ丈『だな』
藤牧:『こらお前ら仕事しろ』
ソフィアは銃形態に切り替え、アラガミの残党をまとめて撃ち抜く。それが終わると同時に前方の壁が打ち砕かれた。
間:『よし次ッ!』
隊列を組みなおして一号機を脱出、青桐が瓦礫と天井に放ったレーザーで出口が塞がれ、一号機は完全に封鎖された。
すぐさま二号機に到着するが、今度は入り口も出口も両方瓦礫で塞がっていた。入口を塞いでいる瓦礫を全員の銃撃で破壊する。
一号機同様、佐々木や間達が先行し、青桐と山ノ丈は入口に残る。脇にある操作盤をいじった山ノ丈が叫ぶ。
「駄目だ青さんッ! シャッターが動かねぇッ!」
「ならぶっ壊すだけだな!」
青桐は待ってましたとばかりに躊躇なく銃口を上へ向けた。
一方、出口を一撃で破壊した佐々木達は間達と一緒になってアラガミ殲滅に動いていた。
大胆に神機を振るう間の隙を、無駄のない動きでソフィアがカバーする。お互いに一進一退、以心伝心状態と言っても過言ではないこの二人が初対面二日目と言っても誰が信じるだろうか? 長年一緒にいた佐々木でさえも、その相性の良さにどことなく敗北を感じた。
二号機内は一号機と比べてアラガミが少なく、佐々木達が活躍する事もなく工場内のアラガミは撃滅された。出口のシャッターを作動させ次の工場へ走る。
次は五号機――ソフィアが結んだルートは工場を順繰りに回っていなかった――だった。しかし、入口へ入ろうとした瞬間……。突然、空から大量の隕石が降ってきた。
「危ない!」
ソフィアが叫び、チームコヨーテは装甲を上に向けて開く。降ってきた隕石は隕石ではなく大型ミサイルだった。大型のミサイルが大量に空から降ってきたのだ。
「ッッ! これは……まさか」
藤牧が歯ぎしりしながら事態を確認する。
「心当たりがッ!?」
「これは多分……」
言い終わらない内に通信が入る。
白花:『緊急事態発生ッ! 作戦領域にテスカトリポカの反応を確認! 周辺にトマホークミサイルを乱射している模様ッ!』
「やっぱりだ! テスカの仕業だぞこれッ!」
「テスカトリポカってアレかッ!? 何もない所にいきなりミサイル出せるって奴かッ!?」
藤牧の予感に間や佐々木も動揺する。作戦要綱にはおろか、酒井の報告にもそんな情報はなかった。しかもテスカトリポカといえば極東にも発見例がほとんどない接触禁忌種、例えチームコヨーテといえども余裕で戦える相手ではない。
白花:『規模からして、周辺一帯のアラガミのリーダー格だと思われます。至急討伐をお願いします!』
無線が切れると同時に近くで建物の倒壊音。
「アラガミの大量討伐にテスカの討伐かー、大変だな」
山ノ丈の他人事感漂う発言を青桐が紡ぐ。
「テスカもそうだし周辺のアラガミもやんなきゃなんだろ? 手分けしないと無理じゃね?」
「同意見です。テスカトリポカを討伐する班と今まで通りの行動をする班に分かれましょう」
ソフィアも頷いて間に判断を求める。
「そうだな……まぁいいさ、私とソフィアで討伐に向かう。竜、そっちの指揮はお前とマッキーに任せるよ」
「りょうかーい…………気をつけろよ?」
佐々木達を後目に、間とソフィアはPDAに映し出されたテスカトリポカの反応へ向かった。
「……。」
間達が見えなくなると、青桐は無線をある周波数に合わせてコールした。
天野:『やぁ、任務後に報告に来ると思ってたけど、やっぱり連絡してきたね青さん』
青桐:『天野殿、ざまさんの神機の反応に変化はなかったかお?』
天野:『あったよ、飛び切りの変化が、現在進行形でね』
青桐:『どんな反応なんだ?』
天野:『簡単に言うと、神機本体のバイタルバランスが著しく変動した。計器の故障を疑うくらい滅茶苦茶に、測定できない変動パターンだよ』
青桐:『ソフィアちゃんの方は?』
天野:『こちらも変動してたんだけど、状態は極めて安定していたよ、安定しつつ能力が滅茶苦茶上がったんだ』
一瞬訳が分からなくなったが、要するにソフィアはかつての間のように著しい能力向上を見せ、間の方は能力が向上したというより暴走に近いものがあるということだ。
天野:『気をつけて、任務が終わったらすぐに調べるから、もしものことがあったらその時は頼んだよ』
青桐:『わかったお』
無線を切ると、青桐は間の走っていった方向を見た。
(やっぱりざまさんは大丈夫じゃあない、急いで終わらせなきゃな……)
「青さん、どう思う?」
「どうって?」
佐々木が唐突に話を振ってくるので、青桐は頭上にハテナマークを浮かべる。
「今回のソフィアちゃんの様子、おかしいと思うよな?」
「あぁ、あとざまさんな」
それから佐々木達は一つ二つ意見を交わしたが、二人の異常について結論が出ることはやはりなかった。やがて山ノ丈の「とにかく今は任務終わらせようぜ、それからでも遅くないだろ?」という言葉で、佐々木達は再び工場攻略にかかった。
一方、間達は早くもテスカトリポカに遭遇していた。工場の廃材置き場らしい場所に鎮座していたテスカトリポカは複数のボルグカムランを従えており、その様はさながら古き集落の長のようだ。二人に気づくと、周りのボルグカムラン達と一斉に攻撃を仕掛けてきた。
ソフィアは数体のボルグカムランを翻弄する。バースト時の佐々木に匹敵する機動力で地を駆け抜け、隙を見つけては斬撃とインパルスエッジを浴びせる。
間はテスカトリポカの気を引きつつ距離を取り、ミサイルポッドに照準を合わせ続けていた。
(変だ……バーストしたわけでもないのに身体が軽い……ソフィアに腕輪を触られた時からずっとこの感触だ…………ソフィア……私に何をした?)
間は自分の腕輪を見る。全体的に黒く発光し、言葉で言い表すことのできない禍々しい気を放っていた。しかしソフィアの神機はそれ以上の変化を見せていた。黒い瘴気を放ち、腕輪も神機も同じように禍々しく光っている。
その時、テスカトリポカが前面装甲を開き、大型ミサイルを亜空間へと放った!
「ッ!」
テスカトリポカはトマホークミサイルをワープさせる能力を持つ、状況的に考えて間の上空へ狙ってミサイルを落とすつもりだ。
(!?……これは……)
間の潜在意識が何かに反応する。間は無意識的にそれに従い、侍のように神機を脇腹に当て腰や足に力を込める。トマホーク発射直後のテスカトリポカはオラクルを自己再生しなければならないためしばらくダウンする。
(……わかる…………ミサイルが来ているのが……ハッキリと…………)
間の潜在意識がじわりじわりと何かを予感させている。じっと構えていると、突如全身で爆発した!
(今だッ!)
間は足に込めていた力で力一杯飛翔した。それまで間がいた場所にミサイルが着弾、一瞬で陥没してしまう。
間はミサイルを回避したついでに、テスカトリポカの顔まで飛び上がっていた。
「そこだぁあぁあッッッッ!!!」
間はテスカトリポカの顔面から前面装甲にかけて垂直に斬り裂き、とどめに前面装甲に神機を突き立てインパルスエッジを炸裂させる。そこにキラリと光った雷刀が上空を舞った。
「もらったッ!」
一瞬の剣舞で二つのミサイルポッドが切り落とされる。その時のダメージに耐えかね、テスカトリポカは巨体を横転させた。
間とソフィアは呻くテスカトリポカの前に立つ。ふと、ソフィアがそっと耳打ちしてきた。
「ざまさん、【お腹が空きませんか?】」
「……?」
その言葉を引き金にしたかのように、心臓が脈打つように間の中で何かが覚醒した。
(なん…………これ……は……ッ!)
不思議な闇と衝動が間を支配していく、衝動に耐え切れず間はその場にしゃがみこみ、ソフィアを見上げると、彼女はささやかな微笑を浮かべていた、間はその瞳に底知れぬ恐怖を見た。
「ふふ……ご心配なく、やがてそれは快楽に変わるでしょう、食欲を満たすという快楽に……」
催眠術師のようなソフィアの言葉が間に降りかかる。そしてそれは、間に一つの行動を示した。
間は脇に落ちた神機を強く握り、まだ横になって呻いているテスカトリポカに突きつけた、神機が禍々しい気と共に、束縛から解放されるように乱暴に捕喰形態へと変化した。
「……ッ!!」
(思考が止まっていく……あるのはただ食欲に似たものだけ……アラガミが・・・・・・美味そうに見える…………)
そこで間の理性は限りなく途切れた。目を見開き、口を開けた神機を手にテスカトリポカの巨体を貪り始めた。微笑を浮かべたソフィアも欲望に従ってテスカトリポカを貪る。テスカトリポカは初めこそバタバタと抵抗していたが、身体を半分ほど食われてしまうと、ついに力尽きてしまった。
白花;『テスカトリポカの反応消失! 間少尉、お見事です!』
普段なら律儀に返すはずの白花の無線にも答えない。
白花;『……間少尉?』
白花は不審に思いながらも、しばらくして通信を切った。そのことに気づいたのか気づいてないのかもわからないまま、間はソフィアの隣でテスカトリポカの巨体を喰っていた。
しばらくして佐々木達がビーコンの反応を辿って間達の所にたどり着いたとき、テスカトリポカの姿はどこにもなかった。ソフィアの黒い瘴気や間の腕輪の光も消え、あるのは普通の二人の姿だけだった。
「おう、早かったな竜」
「ん? おう……テスカの砲撃でアラガミが工場ごと吹き飛ばされちまったみたいでさ、いくつか飛ばしてきたんだ。無理そうだったし」
「そっか、まぁそれなら大丈夫だろう。工場ごと破壊するなとは言われてないんだし」
欠伸まじりに言う間に、佐々木達はじっと疑惑の目を向けた。
「ざまさん……大丈夫なの? それにテスカは?」
藤牧の質問に対する間の答えも、どことなく気だるげだ。
「喰ったよ、あまり美味しくはなかったけどね」
「喰ったって……あの巨体を?」
「ああ、大丈夫、コアはちゃんと回収してある」
「そうですよ、何ひとつ問題はありません」
青桐は間の瞳の闇を捉えていた。表向きは普段通り振る舞ってはいるものの、テスカトリポカとの戦闘中も何かが起きたのが予想できた。
なんと反応していいか困っている藤牧達を余所に、上空から強風を伴って迎えのヘリが降りてきた。
「よし、それじゃ帰るとしましょう」
ソフィアは間の手を引いてヘリに向かった、いくつかの不審と疑惑の視線を背中に受けながら…………。
―To be continued――
大分更新に間が空きましたがなんとか投稿できました(そのせいか今回は心なしか長めのような……)
いよいよここから物語が動き出していきます。以後お楽しみに╭( ・ㅂ・)و