フェンリル横浜支部「team coyote」   作:ざま菓子

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回収

 

 

 間が寝込んでから二週間が経った。間が倒れた事態は直後に大騒ぎになり、ソフィアへの責任が問われるままに三日が過ぎ、間への集中治療が約四日に渡って施されたが回復傾向はなかった。

 病室から出た天野は身体精神共に限界だった、既に三日は徹夜しておりろくに休めていなかったのだ。

「ん……」

 ふと、エレベーターから降りてきた人影を見る、ロングヘアをたなびかせ両手に缶コーヒーを持っていたのは、青桐だった。

「おぅ天野さんよ。差し入れ持ってきたぜ」

「……ありがと」

 片方の缶コーヒーを受け取り、青桐に促されるまま長椅子へ座る。二人そろって深いため息をついた。

「何かわかった感じか?」

「わかったように見える?」

 天野は無理矢理笑ってみせるがどことなくぎこちない。それを見るなり青桐も深いため息をついた。

 間が意識不明となった件はフェンリル研究部員が総力を挙げて調べている。という報告を高堂から聞き一時はほっとしたチームコヨーテだったが、それもせいぜい四日までだった。回復どころか判明した点さえ知らされないまま日々を過ごしてきた一同は、徐々に希望を失っていった。そもそも、研究部員が総力を挙げて調べているというのも眉唾物だった。

 その間本人は、研究室や研究機器などに散々運びまわされた結果、今は病室のベッドで死んだように眠っている。そう、死んだように。

「ざまさん、もしかしてずっとこのままなのかな」

 ふと佐々木がそう漏らしたことがあった。その時だけは否定したが、もしかするとチームコヨーテの全員がそう思っていたのかもしれない。そんな暗い空気だった。

「大丈夫か? あんまり無理すると今度はユーが倒れることになるぞ」

 青桐はほんの慰めのつもりでそう呟き、その場にいるのが辛くなって席を立ち、スタスタとエレベーターへ姿を消した。

「――ッ!!」

 残された天野は悔しさのあまり、コーヒーの空き缶を壁に投げつけたのだった。

 

 

 

 

佐々木:『青さん、任務だってよー』

 青桐が自室に戻った直後、佐々木からそう電話が入った。こんなときの任務……あまり出る気はしなかった。しかし、体調不良で休むわけにもいかない。

青桐:『ういっす、どこにいけばいい?』

佐々木:『出撃ゲートにいるから、神機の調整してから来いよ』

青桐:『ういーっす』

 気乗りしなくても指定で発注された任務には出なければならない。何よりこの状況で仲間に余計な心配はかけられない。青桐は渋々出撃の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

装備情報

佐々木竜太郎

剣:発熱ナイフ新(ショート)

銃:ビューグル砲新改(ブラスト)

装甲:強支援シールド改(シールド)

 

 

青桐拓馬

剣:鉄乙女剣真(ショート)

銃:スワロウ(スナイパー)

装甲:抗貫通バックラー(バックラー)

 

 

弓川義太

剣:肉斬りクレイモア改(バスター)

装甲:抗炎タワー改(タワー)

 

 

松崎葵

剣:冷却チェーンソー改(ロング)

装甲:尾盾イヌガミ真(シールド)

 

 

ソフィア・P・コーデリア

剣:雷刀改(ロング)

銃:ティトラカウアン(アサルト)

装甲:抗汎用シールド改(シールド)

 

 

 

 

     午後2時 旧品川埠頭

 

 旧品川埠頭は旧品川駅付近にある出島のようなところで、住居というよりは工場や物流センターなどの工業建造物が大多数だった。海沿いにはコンテナが並んでいる。最もコンテナは後から運び込まれたものなので見た目は新しいが、建造物の方はアラガミによってかなりの痛手を被っていた。

 嵐でも来るかと疑いたくなる暗雲の下、佐々木率いるミッションメンバー達はコンテナの上に陣取っていた。その空気は重い。

「全く! やってらんないよ!」

「松崎さん、神機は大切に扱おうよ……」

 自分の神機をコンテナにたたきつける葵に、それをなだめる弓川。

「なんで私がこいつと一緒に任務に着かなきゃなんないのさ!」

 そう叫んだ葵が指さしたのは、俯き、静かに神機の手入れをしているソフィアだった。指さされても、顔を上げず委縮するように神機を手入れしている。

 今回の任務はここ旧品川埠頭に現れたグボロ・グボロとヴァジュラの討伐だ。チーム編成は5人、佐々木をリーダーにして行われる。

「まだソフィアさんのせいって決まったわけじゃ……」

「いいや! 絶対そうだよ! バカのアタシでもわかる!」

 自分の事をバカだと開き直る姿勢を堂々と振りかざす葵は今やフェンリルの大部分を占めるソフィア否定派の人間だった。その逆に人を嫌う事そのものを嫌がる弓川はどちらかと言えばソフィア肯定派に属していた。

「ね……ねぇ佐々木先輩、先輩からも何か言ってやってくださいよ」

 弓川は支部への連絡を終えた佐々木へバトンを渡そうとする。が、その佐々木でさえ、ソフィアを擁護するのには難色を示した。適当にお茶を濁されしょぼくれる弓川と、それを後目にフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く葵。チームの心はバラバラに揺らいでいた。

「えー……では、今回の任務についてもう一度説明するから、よく聞いとけ」

 佐々木が神機を肩に乗せて説明を始める。

「今回はグボロ・グボロとヴァジュラを複数討伐、ついでに付近の小型アラガミの討伐。別に難しい任務じゃねぇな。最初に散開、索敵。発見次第応戦、オペレーターは赤島ちゃんだ。これでいいな?」

「「異議なし」」

「よろしい、じゃあ早速索敵に動いてくれ、二人一組になっても良し、単独で動いてもよしだ。死ぬんじゃねぇぞ」

「「了解!」」

 葵と弓川は元気よく飛び出した。それを見送ると、佐々木はふと後ろを振り向いた。後ろでは青桐が銃のバレットルーム――実銃でいうところの薬室――にバレットを押し込んでいた。 

「じゃあ青さん、そろそろ俺らも行くか?」

「……なぁタロス、妙じゃないか? このミッション」

 ピクリと……佐々木とソフィアの二人が反応した。ソフィアはそのまま俯いたままだが、佐々木は後頭部を掻いた、心当たりがあるのだ。

「…………実はこの任務、東京本部の本部長が直々に発注した任務らしい」

「夏美本部長が!? ……あ、いえ、なんでもありません……」

 ソフィアが驚いたように顔を上げ、すぐにまた俯いた。落ち込んでいるというよりは、怯えているらしい挙動だった。

「しかも特記事項の欄に【ソフィア・P・コーデリア隊員を必ず同行させるように】とまで書いてあった。絶対に何かあるに違いねぇぜ」

「間違いなく何かあるじゃんか、どうするんだ?」

「アラガミの討伐はあの二人に任せて、俺らはソフィアちゃんの周りで動く、それで問題ないと思うんだけどなぁ……」

「OK じゃ行くズラ、ソフィアさんも行くズラ」

「は、はい!」

 三人は神機を手にコンテナから飛び降りた。

 

 

 

 

 三人が埠頭の道路を走っていると、どこかから銃撃の音が聞こえてきた。

「今のは!?」

 佐々木はいつものハイテク眼鏡、インフォグラス(仮)を起動して葵と弓川の位置を掴む。二人の反応のすぐそばにアラガミの反応が示されていた。

「あいつら……やり始めたか! 大きさ的にグボロの方か!?」

 待ってましたとばかりに無線が入ってくる。

弓川:『こちら弓川! 埠頭の西側でグボロ・グボロ二体と遭遇! 松崎と二名で交戦します!』

佐々木:『了解だ! 気をつけろよお前らッ!』

 ブチッと通信を切ると、再び周囲を見渡した。インフォグラス(仮)にアラガミの反応が複数映り込む。

「オウガテイル……いや堕天オウガだな」

 青桐が後ろからそう呟いた。青桐の言う通り、道路の奥から青黒い影がいくつかこちらへ走ってくる。

 通常のオウガテイルが極低温に特化したものが堕天オウガテイル、性格や捕喰傾向は通常と大して変わらないが、攻撃に氷が混ざる為攻撃力が若干高く、なにより痛い。

「接近される前にやっちまおうぜ、狙撃大歓喜だぜ」

 青桐が佐々木の後ろから照準を付け、超高温のレーザーバレットを放つ、一度に三本放たれたレーザーは螺旋を描きながら敵に向かって直進、堕天オウガに直撃する直前で弾かれたように軌道を変え、堕天オウガをやり過ごした……かと思うとレーザーはそのまま軌道を変え続け、堕天オウガ達を後ろから貫いた!

「青さん……何あの動き」

「暇つぶしに作ったお遊びバレット、一旦敵の前で軌道を変えて、油断したところを後ろから回り込んで撃ち抜くバレットだぜ」

 得意げに話す青桐の神機から、件のバレットが吐き出され、代わりのバレットを差し込む。そうこうしている間に、さらに小型アラガミが集まってきた。

「……!」

 青桐は即座に状況を把握する。

(後ろにコクーンメイデン雷型堕天種が3体、前方にはザイゴート高温型堕天種5体、そして右側から赤いヴァジュラテイル2体、左側から堕天オウガ3体……)

 三人は背中合わせになって周りのアラガミに対峙する。佐々木が口を開いた。

「よし、俺が前のザイゴートをやるから青さんはヴァジュラテイル、ソフィアちゃんは堕天オウガを頼……」

「待ったタロス、お前は堕天オウガとコクーンメイデン堕天だ、俺はザイゴートを狙撃する。ソフィアさんはヴァジュラテイルと応戦してもらおう」

「りょ、了解です!」

「まぁ別にいいけど……な!」

 三人は神機を切り替えつつ陣形を変え、ザイゴート堕天とヴァジュラテイル側にソフィアと青桐、その反対側に佐々木が配置された。一呼吸おいて戦闘が始まる!

 佐々木はビューグル砲新改の銃口をまず堕天オウガに向けた。装填したバレットは放射系炎バレットと爆撃系――着弾と同時に爆発するオラクルバレットの通称――雷バレットの二つ。無論今撃つべきは前者だ。

「……ッ!」

 佐々木は銃形態のまま囲まれないよう注意しつつ堕天オウガとの距離を詰め、近距離で照準を合わせると、飛び上がると同時に炎放射を放った。

「――!!」

 堕天オウガが一匹、身を溶かすような高熱に耐えきれず吹き飛ばされる。一方佐々木は反動を利用しバック宙のように後退、剣形態へ神機を変え、地を蹴り、もう二匹を素早く斬り伏せた。ブラストの機動力の低さをショートと佐々木自身の身体能力で補う佐々木の得意戦法だ。

 佐々木の反対側で交戦している青桐とソフィアも順調だった。ソフィアはヴァジュラテイルの攻撃を反復運動でかわし、ベリィロールにも似た跳躍斬りでヴァジュラテイルの片方を襲う。雄叫びを上げるヴァジュラテイルにも物ともせず、雷刀改で片割れの方も両断した。

 青桐は既に堕天ザイゴートを大部分撃墜していた、不規則な軌道を描くレーザーバレットが堕天ザイゴート達を貫いていく。

「――!?」

 直進してくるレーザーをとりあえず避けはしたザイゴート達だったが、その直後にどこからか降りかかってきたレーザー群に対処できず、そのまま成すすべなく貫かれた。

(一本だけレーザーを直進させて気を引き、同時に撃ち上げておいた球体から本命の射撃を行う……完璧だな)

 青桐は横浜支部内でも指折りのバレットエディターだ。バレットエディットはパソコンのプログラミングと似通ったものがあり、普通の神機使いは中々理解しがたいものがあるのだが、青桐はいとも容易くバレットを構築してみせる。

「よし、じゃあ最後だ」

 佐々木がそう呟くと、佐々木のビューグル砲新改、青桐のスワロウ、ソフィアのティトラカウアンが一斉に後方の堕天コクーンメイデン達へ向けられた。堕天コクーンメイデン達が反撃しようとするよりも、三人の銃口からバレットが放たれる方が早かった。

 

 

 

 

「小型アラガミってのはこれが全部かい?」

 青桐が肩を回しながら誰にともなく聞く、佐々木がインフォグラス(仮)のレーダーを映す。反応はない。

「アラガミ反応ねぇわ、少なくともこのあたりにはもうアラガミはいねぇよ、グボロ・グボロの反応もだ……どうやら弓川たちも終わったらしいね」

 佐々木はポケットから煙草を取り出し火をつけた。すると、ふと通信が開いた。

弓川:『こ、こちら弓川です!』

佐々木:『どうした弓川?』

葵:『ヴァジュラだよッ! 通常よりでかい個体みたいッ! それに……黒いヴァジュラ!?』

 黒いヴァジュラ……いや、普通のヴァジュラも黒いと言えば黒いのだが、佐々木がその単語に嫌な予感を覚えたと同時に、ソフィアが無線を開いて叫んだ。

ソフィア:『ディアウス・ピターですッ! 撤退をッ!』

葵:『はぁ!? あんたの言う事なんか聞いてられないよ! 見た目ヴァジュラと似たり寄ったりだし、こんなの弓川と協力してさっさと倒しちゃうよ!』

佐々木:『いや、駄目だ葵ちゃん! 引き返せ!』

葵:『大丈夫だよ、佐々木隊長ッ!』

 壮絶な戦闘音を背景にした通信は乱暴に切断された。インフォグラス(仮)で位置を捕捉しつつ駆け足で移動しながら無線を繋ぎなおそうとした時、オペレーターの赤島が珍しく自発的に通信を寄越してきた。

赤島:『隊長、弓川君達の所に【帝王】が……』

佐々木:『わかってるよ! 俺たちも今から行く!』

赤島:『いえ、それなんですが隊長、そちらの方にもイレギュラーが向かってます』

青桐:『いれぎゅらー?』

赤島:『はい、三つ……四つ……合計で六つです、車? のようですが…………』

「「「車?」」」

 三人は駆け足で走りながら揃って顔を見合わせる。こんな時に車が6台も揃って何の用だというのか。

ソフィア:『赤島さん、何か伝達事項は無かったのですか?』

 葵に罵倒された直後だからか、ソフィアの口調は妙に弱弱しい。赤島は気にする様子もなく、普段と同じ調子で返す。

赤島:『いいえ、知らされていません。佐々木隊長は?』

佐々木:『いや初耳だな、映像を送ってもらえるか?』

赤島:『わかりました、隊長の眼鏡と、他お二人のPDAにヘリからの映像をお送りします。』

 三人は建物の陰に身を隠し、眼鏡とPDAに意識を向ける。そこには……。

「……なんだこりゃ?」

 黒塗りに若干の紫模様が入った車体、スモークをまんべんなく貼ったガラスが昼間ではかえって目立っている乗用車6台が、眼鏡とPDAに映った。車種にはそれぞれ違いがあるが、編隊を組んでいるように一定の配置で走っている。

 車の編隊が丁度橋の上を走っている光景が映っているPDAを見て、ソフィアの顔色が変わった。

「これは……?」

「ソフィアちゃん、何か知ってるの?」

「いえ……思い過ごしです、そうです、そうに決まっています…………はい」

 バレバレな隠し文句を並べ立て俯くソフィアを問い詰める前に、佐々木は眼鏡を切り替え弓川達の位置を探った。弓川達は埠頭の南側で交戦しているようだ。大型アラガミの反応が二つ、まるでビリヤードの球のように縦横無尽に動き回っていた。

赤島:『どうしますか、佐々木隊長?』

「…………。」

 即答できない。任務中にイレギュラーが発生するのはマレにある話だが、それに対するソフィアの反応がひっかかる、しかもそれ以前にディアウス・ピターの襲撃というアクシデントまで重なっている。迂闊な判断は事態悪化を招くことになりかねない。

「青さん、どう思う?」

「さぁ? 知ったことじゃねぇなぁ?」

 頭を抱えて何かを堪えているソフィアを見て、佐々木は決断に至る。

佐々木:『赤島ちゃん、俺達は車が来ている北側に行く、葵ちゃん達の様子や戦況、ついでに車の様子を監視してこまめに知らせてちょーだい!』

赤島:『了解です、眼鏡にも情報を送ります』

 通信を切り、佐々木は二人を率いて道路へ出た、銃声や爆発音が遠くから聞こえてくる。

「……!」

 佐々木はディアウスと交戦する部下達が心配になったが、それも一瞬、今は自分が言った通り、北へ向かうだけだ。

 

 

 

 

 

     同刻 横浜支部病室

 

 佐々木達が車目がけて走っている頃、天野はまた一人病室に籠っていた。

「また変化なし……かな?」

 ちっとも良い傾向に向かない間の容態に、何度目かのため息をつく、睡魔が強くなってきていたその時だった。

 

 

ピクリ

 

 

(……ん?)

 一瞬、指先が動いた気がした。天野はしばらく目を凝らして見ていたが、数分経っても再び動くことはなかった、そもそも動いてなどいなかったのかもしれない。

(気のせい……か、疲れてるな)

 天野は最後に間を注意深く見た後、静かに病室を出た。 

 

 

 

 

    旧品川埠頭

 

 佐々木達三人は最後の一角を曲がろうとしていた。弓川達の戦況は現在良好、ヴァジュラを倒しディアウス・ピターと交戦中だった。

「ストップ! ストーップ!」

 先頭の佐々木が二人を制す、静かなエンジン音と共に、数台の車が目の前に停車した。

(黒い車体に紫模様……スモークガラス、間違いない……こいつらだ)

 とはいえ、場数を経験している佐々木はこの程度に臆さない。神機を後ろ手に持ち、コホンと咳払いして声を上げた。

「えー、俺達は対アラガミ特殊部隊フェンリル、横浜支部のゴッドイーターです! ただいまこの埠頭にてアラガミと交戦しており大変危険となっております! 速やかに撤退してくださぁい!」

 佐々木は極めて事務的に車に向かって話しかける。車からの応答はない。ただシンとしてその場に居座っていた。

(……?)

 佐々木も、後ろにいた青桐も不審感をあらわにする。同じことを叫ぶ佐々木の代わりに青桐が赤島へ無線を送る。

青桐:『赤島さんかい? さっき言ってた車と遭遇してるんだけど、忠告に応じてくれないんだが』

 当の赤島も想定外だったようで、しばらく考え込んだり手元の資料を漁ったりする物音を発した後、『説得を続けてください。支部長にかけあってみます』という半ばお手上げな返事が返ってきた。その直後だった。

「大変危険となっております! 速やかに撤退して……?」

 ガチャ、と先頭の車のドアが開かれ、中から黒服にサングラスの男が現れた。

「あ、すみません。ここから先は現在交戦区域なので通行は……」

 佐々木はようやく活路が見えた思いで男に近づいた。しかし。

「!!……タロス危ねぇ!」

「ッ!」

 男は後ろ手からサブマシンガンを取り出し佐々木に向かって連射してきた。佐々木は後方ステップで身を引き素早く装甲を開いて銃弾を受け止める。間一髪、青桐が叫んでいなければ腹に穴でも開いたかも知れない。

 気づけば他の車からも同じような格好の人間が次々に降り、その手にはアサルトライフルやらサブマシンガンやら物騒な銃器が握られている。サブマシンガンを放った男が片手をあげて合図したのと同時に、一斉掃射が始まった!

 青桐はソフィアの腕を掴み物陰へ隠れ、佐々木も装甲を開いたままゆっくりと後ずさりする。

青桐:『赤島さん! 例の車から人が降りてきた……!』

赤島:『こちらもカメラで確認しました! 至急上の者に確認します、それまではなるべく最小限の抵抗に留めてください!』

 ズガガガガガ! と壮絶な弾幕を佐々木は強支援シールド改で受け止める。いつものようにバックラーで来ていたら受けきれなかったかもしれない。

(くそ……なんだっていうんだ畜生……!)

 神機の装甲はアラガミの攻撃はもちろん、実物装甲の効果もある。もちろん物によって防御能力は様々で、佐々木の持ってきた強支援シールド改なんかは前線に立って防御するというより、後ろに立って流れ弾を防ぐ、いわば予備装甲の役割に適していた。よって、あまり長時間の強い攻撃に耐えるような使い方は向いていない。

 しばらくするとふと弾幕が弱まり、佐々木の装甲にかかる力が軽くなった。佐々木は一瞬で敵の様子を察する。

(!? ……そうだ、リロード!)

 所詮は実銃、銃弾を撃ち尽くせば弾薬を再装填する必要がある。このチャンスを無駄には出来ない。

 それでもしつこく飛んでくる銃弾の中、佐々木は黒服達に背を向け、パルクールの如く建物を駆けあがり逃走した。

「クソッ、逃がした!」

「待て、狙うのは被検体だけだ! 他は無視しろ!」

「被検体はどこだ! 探せ! 少なくともこの埠頭の中にいるはずだ!」

「今逃げた神機使いを追って吐かせろ!」

「よし! 奴を追いつつ被検体を捜索するぞ!」

 黒服は叫びながら次々と車に乗り込み、エンジンを急発進させた。青桐は物陰からその様子を見ていた。

(なんだなんだ……被検体って何の事だ? とにかくこのままじゃタロスが……いや、あいつらの装備は民間レベルじゃない……下手に動くと如何にゴッドイーターでも……)

「……あいつらだ……」

 青桐の横から、震えた細い声が聞こえた。見るとソフィアが震えながら車があった方向に視線を投げかけていた。

「あいつらが……あいつらが……私を……」

「ソフィアさん? 一体何を……」

 被検体……という言葉が青桐の頭を掠めた。もしかしたら……。

「ソフィアさん、もしかして被検体っていうのは……君の事かね?」

 青桐の問いかけに小さく頷くソフィア。その時、唐突に無線が届いた。

佐々木:『二人とも、まだ生きてるか?』

青桐:『こっちの台詞だクソ眼鏡、そっちはどうなってる?』

佐々木:『とりあえず撒いてる。許可が出ないからこっちは防御しか手がないしな』

青桐:『それでいいぜ、あいつらは民間のテロリストだとかそんなチャチいもんじゃないぞ』

佐々木:『なんでだ?』

青桐:『あいつらの装備見たか?』

佐々木:『そんな余裕ねぇよ』

青桐:『だと思った。あいつらはMP5(ドイツ製の軍用サブマシンガン)とかUMP(特殊部隊のサブマシンガン)、あとM70(イタリア製軍用アサルトライフル)とか本格的な装備ばかり揃えてやがった。生半可なテロリストじゃない。テロリストだとしたらデカいお偉いさんがバックにいるよ』

佐々木:『マジか……他には?』

青桐:『確証はないけど、多分あいつらはまだ装備的にも余裕を持ってる、じゃなきゃ会って早々一斉射撃なんかするわけがない』

佐々木:『確かに……まだまだ弾があるってことか』

青桐:『本格的な装備の上に大量の弾薬、民間じゃないのは多分確かだと思うぞ』

ソフィア:『いいえ、彼らはある意味で民間の軍事組織です』

 それまで無線に一切の口を挟まなかったソフィアが突然無線会話に割り込んできた。二人は少し驚いたが、冷静になって続きを促す。

佐々木:『なんで?』

ソフィア:『彼らは……「そこまでだッッ!」

「!?」

 突然の声で会話が遮られた。青桐とソフィアが見上げると、そこにはハンドガンを持った黒服が一人立っていた。それも二人に銃口を突きつけている。

「お嬢ちゃん、お喋りが過ぎるぜ。さぁ、一緒に来てもらうぞ」

「くっ……まだです。まだ帰るタイミングじゃありませんよ……それに私達はゴッドイーター、ハンドガン如きでは死にません……」

 ソフィアは青桐をかばうように立ち上がり、黒服を睨む。しかし、黒服はその口元に嘲笑を浮かべ、余裕の様子で返した。

「ああそうとも、死にはしない……だがね」

 ソフィアの頭に照準を合わせていた銃口が、素早く向きを変え火を噴いた。黒服はソフィアの左肩を撃ち抜いたのだ。

「ぐぅっ……あっ……!」

「ソフィア!」

「動くな」

 よろめくソフィアを支えようと立ち上がった青桐に銃口が向けられる。

 ソフィアの左肩からは血がトクトクと流れ出た。ゴッドイーターはオラクル細胞で身体的に強化されているから実質的なダメージは一般のそれと比べて軽いが、銃弾の衝撃だけは軽減できない。肩を突き飛ばすような感覚がソフィアを襲う。傷口に手を当て黒服を睨む。

「ソフィア……いや、被検体。一緒に来てもらうぞ……お前も途中まで来るといい」

 ソフィアと青桐は言われるがまま、神機を置いて物陰から出る。道路には二台の車が停めたままになっていた。

「乗れ」

 指示されドアが開けられる前に、ソフィアが立ち止まった。

「一つ聞かせて」

「何だ?」

「どうして私が物陰に隠れていたと?」

「フン……そんなのは向こうについてから教えてやるよ……さぁ乗れ」

「そう……」

 数秒の沈黙……直後、ソフィアは振り向き様に左手裏拳で黒服の銃口をそらし右肘で無防備になったみぞおちを突き左フックを頬に入れ右アッパーを顎下に食らわせ面前に浮いた黒服の腕を捻り一本背負いで地面に叩きつけた。10秒とかからぬ徹底護衛だった。

「ソフィアさん!」

「逃げよう青さん!」

 何が起こったか理解したらしい他の黒服が武器を手に車から降りてきた。青桐とソフィアは神機を取って走り出す。

青桐:『タロスッ! 相手に見つかったッ! 追ってくるぞッ!』

佐々木:『マジ!? こっちもマズい! だんだんディアウス・ピターの方に近づいてる!』

 弓川やディアウス・ピターの反応はまだ埠頭南方で動き回っていた。佐々木や青桐達、さらに黒服の乗った車は徐々に弓川達の方へ近づいていっていた。

「どうしますか、青さん!?」

「どうしようかのう……」

 青桐達は佐々木と合流して逃走する。三人の後ろには、例の車が今度こそ全車両で追ってきていた。

 その時、佐々木達三人に通信が入る。

赤島:『隊長! 支部長から交戦許可が下りました! 任意の規模で迎撃してください!』

佐々木:『了ー解ッ!』

 佐々木は前方に飛び上がり、空中で照準を合わせ、爆撃系雷バレットを二発放った。バスケットボールより二回り程大きい球体が車に向かって直進し、爆発を起こした。

「よっしゃ! まずは一撃!」

「待ってください! よく見て!」

 ソフィアが走りながら車を指さす。破裂するような電撃が車を襲い、車は電子回路がショートして大破……するはずだったのだが。

「あっれぇ……?」

 なんと車は全車無傷だった。いや、微かにダメージは受けているようなのだが、オラクルバレットを真っ向から受けたにしては軽すぎる損傷だった。

「ちっくしょう! あいつら車に何か特殊な装甲を仕込んでやがる!」

「マズいぞタロス、ディアウスだ」

 三人は埠頭の南端にある工場跡地のような広場に着いてしまっていた。その中では、葵と弓川がディアウス相手に暴れまわっている。

弓川:『あ! 佐々木隊長!』

 弓川の歓喜的な無線も、今は応じる気になれない。佐々木は必死で状況を整理する。

(前にはディアウス、後ろには謎の部隊……これを同時に相手しろってか?)

 車からは早くも黒服達が降り、銃を構えてきていた。

(……無理だな)

 佐々木が諦めかけた時、ソフィアに変化が訪れた。

「……ぐ……う……あぁッ……」

 ソフィアが腕輪を抑えてうずくまる。腕輪からは、間にも見られた触手状の模様がソフィアの腕に伸びていた。

「ソフィアちゃん……?」

「良いんです、これで……この力で……皆さんを守らなきゃ……」

 ディアウス・ピターと交戦している二人は気づいていないようだが、確かにソフィアの腕と神機が黒く染まりはじめている。ソフィアはゆっくりと佐々木達と黒服達の間に立ち、黒く染まっていく神機を黒服へ突きつける。

「総員、撃てぇ!!」

 再び降りかかる銃弾の雨、青桐と佐々木はまたも近くの物陰に隠れて銃弾をやり過ごしたが、ソフィアは自らの装甲を開いてその場に留まった。突然の発砲音に弓川が気づく。

弓川:『隊長、何事ですか!?』

佐々木:『いいからお前はそっちに集中してくれ! ディアウスをこっちに近づけるなッ!』

弓川:『りょ、了解です!』

 弾幕を受けきると、ソフィアは一気に距離を詰め神機を振りかざす、その神機は今や完全に黒く染まっていた。

 一人斬り、飛び上がってさらにもう一人斬り伏せる。近くの黒服がナイフを突き出してきたが、ソフィアは素早く交わして一閃をくれてやった。

「ひ、ひぃい……!!」

 殺戮兵器と化したソフィアに怯え、闇雲に銃を乱射し始めた黒服にも容赦はしない。漆黒の神機を銃へ変え、弾丸を連射する。

「な、なんだあのオラクルバレット……!」

 青桐は驚愕の声を上げた。ソフィアが放ったバレットは赤黒い銃弾に紫色の禍々しいオラクルがまとわりついている。恐らく……暴走したオラクルが気化したものだろう。

「ちっ! お前ら散開しろ!」

 黒服の一人がそう叫ぶ、すると蜘蛛の子を散らすように黒服達は辺り一帯に散った。ソフィアは近くで腰を抜かしたまま動けない黒服の前に立つ。

「ひ……た、助けて……」

「……」

 ソフィアは神機を天へ向け、捕喰形態へ変形させる。その口は、神機やオラクルバレット以上に禍々しいものだった。

「ソフィアちゃんのアレって……捕喰形態まで変わるのか!?」

 佐々木が驚く間に、ソフィアはその禍々しく開けられた神機の口で黒服をむさぼり食った。どこかから嘔吐する物音が聞こえる。

「ソフィアちゃんの様子が変だ……天野ちゃんから連絡は?」

「あの人は今回監視してねぇみたいだぞ……いや、してなくてもわかるでしょ、アレ」

 ソフィアは内から湧き出る力を抑えず、ただ湧きあがるだけ解放している。神機の接合部分から黒いオラクル瘴気が溢れてきていた。

 バババ、と銃弾が飛んでくる、ソフィアは弾が飛んできた方向を睨み、突撃した。程なくして鮮血と悲鳴が散る。

「しゃーない、向こうに加勢すると俺達もやられかねない、とりあえずこっちだぜ青さん」

 佐々木は後ろで暴れるディアウス・ピターを見やる。一見弓川達の方が優勢に見えるが、二人は今までずっと交戦してきて疲労がたまっているはず、いつまでも優勢が続くとは思えない。

佐々木:『葵ちゃん、変わってくれ。そっから先は俺らでやる、バックアップを頼むッ!』

葵:『了解!』

 葵と弓川は最後の一撃を放つと、後方ステップの繋ぎ技で大きく後退した。それと入れ替わりに青桐のレーザーがディアウスを貫く。佐々木達に気づいたディアウスは雄叫びと共に雷撃を放ってきた!

「おっと……危ないな……」

 青桐に向けて放たれたそれはギリギリの所で回避された。左右に飛び退いた佐々木と青桐はそれぞれ銃形態で応戦する。

「青さん! あいつの雷球は敵を正確にホーミングする! 避けるより装甲で受けた方が楽だぜ!」

 佐々木の助言を聞いたか聞かずか、青桐は補充用のオラクルをリロードしてオラクルバレットを入れ替える。ディアウスに有効な属性は……アラガミ発生当初から存在する解析困難な属性、【神】だ。

「とっておきをくれてやんよ……!」

 青桐の神機の銃口があさっての方向へ向けられ、一個の弾丸を吐き出した。

 弾丸は空中で球体へ変わり、しばらく停滞した後、数十本の短いレーザーを辺り一帯に散らした! 散らされたレーザーはディアウスの身体全体に降りかかり、動きを止める。

「今だぜタロス!」

「ッ!」

 佐々木は瓦礫を蹴り、高さ5メートル近く飛翔する。空中から照準を定め、爆撃系オラクルバレットを直下に発射して反動で飛距離を延ばす。着地して神機を剣に変え、ディアウスの顔面を切り裂いた!

「――!」

 ディアウスは悲鳴を上げ、その巨体からは想像もつかない跳躍力で後方へ下がった、かと思うと……ぐっと脚に力を込め、佐々木に向かって猪突猛進してきた。ディアウスの大きな顔が視界の中でみるみる大きくなる。

「しまっ……!」

「タロスッッ!」

 青桐の叫びも空しく、佐々木はディアウスの突進に直撃して放物線を描きながら突き飛ばされた。咳き込み、眼鏡の位置を直す。

「先輩!」

 葵が駆け寄り手早く応急手当を行う。そんな二人を抗炎タワー改で弓川が守る。

「おらっ! こっちだピター! おらおらっ!」

 青桐はディアウスに銃口を向け、無照準でレーザーを撃ちまくる。いかに貫通性能の高いレーザーであっても、ディアウスの強靭な体躯を貫通するには至らない。ディアウスの注意が青桐に向けられ、マントに電撃が溜まりはじめる。

赤島:『お気づきとは思いますが青さん。敵が充電を始めました。直に大きな電撃か、あるいは小さな雷球の嵐が来ますよ』

青桐:『あれ? これ俺大分追い込められてね?』

赤島:『奴の攻撃はバックラーで受けきるには少々重たいものになりますよ? 全力疾走で全弾回避するか、バックラーで強引に凌いでください、急いで!』

 赤島の通信が終わった直後、ディアウスの頭上から大きな電撃が放たれた。青桐が苦し紛れに開いた抗貫通バックラーにそれが当たる直前……。

「ッ!!?」

 青桐が見たのは、ソフィアだった。

「な……何……あいつ……」

 応急手当を終えた葵が驚愕の眼でソフィアを見る。ソフィアは返り血を浴びた姿で青桐を守るようにディアウスと青桐の間に立ち、神機の剣を盾にするように側面を突き出していた。そこまでなら勇敢な女騎士なのだが……。

 ソフィアの腕輪をしている方の腕は、もはや謎の模様で埋め尽くされ、神機も腕輪も完全に色を変えていた。黒く、原型を残す程度だが形すら変わっていた。腕輪と神機の核の部分――アーティフィシャルCNS――も何がどう誤作動したのか紫色に光り、謎の模様をソフィアの腕に走らせていた。

 ソフィアの表情はほとんど無いが、その眼は猫のように瞳孔を細くし、黄緑色に灯っていた。

「ソ、ソフィア……?」

 青桐はわずかに後ずさりながらソフィアに話しかける。ソフィアは何も言わず、青桐の方にちょっと顔を向けて、無表情を曇らせた。

 ディアウスは再び咆哮し、佐々木にやったのと同じように猪突猛進を仕掛ける。狙いはソフィアだ。対するソフィア自身は神機を降ろすと、フェンシングのように構えなおし、ディアウスを待ち構える。

 ディアウスとの距離が縮まるとソフィアは神機と共に飛び上がり、ディアウスの身体を飛び越え、後ろから刺突攻撃を叩き込む!

「――!」

 ディアウスが悲鳴を上げた。馬のように蹴り上げた後ろ足をソフィアは素早くかわし、神機を振り下ろして後ろ足を一本斬り落とす。続けてもう片方の足も根元から斬りおとし、ディアウスの機動力を根本から削ぎ落した。全て空中で、一瞬の出来事だった。

「す、すごい……」

 弓川が抗炎タワー改を開いたまま素直にそう呟いた。

 ディアウスはマントに再び充電を始めた。バリバリと凄まじい電撃音がマントから鳴り出す。

「……。」

 ソフィアはディアウスの正面まで歩き、ディアウスを見据える。ディアウスは充電中あまりその場から移動することができない。ただソフィアを睨むだけ。

 ソフィアの神機が天へと突きつけられ、禍々しい【捕喰形態】が姿を現した。

「あ……あ……」

 一度遠目で見た青桐でも、驚きと恐怖を感じざるを得ない。尻餅をついてただただソフィアの神機を見つめる。

「ば……化物だ……」

 葵は一番最初に思った事を口にした。今のソフィアはアラガミ以上の化け物だ……ソフィアは禍々しき神機の口をディアウスへ向けている、細い瞳孔で黄緑色に灯るその眼はまさしく【捕喰者の眼】だった。

 ディアウスの雷撃が放なたれるのとほぼ同時に、ソフィアの神機はディアウスの頭部を噛み砕いていた……。首から先が一瞬でなくなったディアウスは何が起こったのかわからないというようによろよろと千鳥足になった後、轟音と共にその場に倒れた。

赤島:『ディアウス・ピター、活動を停止しました…………やりましたね』

「や、やった……仕留めた……」

 神機の口をしまうソフィアの後ろで青桐が呟いた。

「すげぇ……一人でやっちまった……」

 弓川もただただ驚愕の視線を向ける。と、その時。

「ッ!!」

 ソフィアが唐突に青桐を蹴り飛ばしたと思うと、数発のグレネードらしきものがソフィアに着弾した!

「ソフィアちゃん!」

「ソフィアさん!!」

 青桐と佐々木が近寄ろうとするが、煙が激しく立ち込めていて近寄ることもままならなかった。青桐は佐々木の近くまで来てもくもくと舞う煙を見ているしかなかった。

「な、何が起こったんだ?」

「知るか……」

 ふとその時、どこかで「やったか!?」「まだわからん! 煙が晴れるまで待て!」という声が聞こえてきた。佐々木の脳裏に、黒服の姿が浮かび上がった。

「……あいつらか!」

 青桐も同じ思考に至ったようだ。しかし至ったからといってどうしようもない。迂闊に動けば何があるかわからないのだ。

 煙が晴れていく……そこには……

 

 

 

 力なく地面に倒れている、ソフィアという一人のか弱い少女の姿があった。

 

 

 

「ソフィアちゃ……!」

 駆け寄ろうとした佐々木の頬を、一発の銃弾が掠める。見張られている……邪魔するな、そう言いたいのだろうか。

 やがて一人の黒服がソフィアに近づく、恐る恐る、まるで犬に怯える子供のように、恐る恐る……ゆっくりと、時間をかけながら近づいていく、ようやくソフィアの前に立ち、頬や首元、腹等に触れていく。本当に動かないのかを確認しているのだろう。確認し終えると、黒服はやっとまともに動いてソフィアを抱きかかえた。ぐったりと眠ったように瞳を閉じ、黒服に身を委ねているソフィア……さながら悪役にさらわれる姫君だった。黒服はソフィアを残っていた車へ乗せると、運転席に乗り込んで急発進させた。残っていた他の黒服も同じように撤退を始める。

「ちょ……待て!」

 我に返った佐々木は神機の銃口を車に向け引き金を引いた。真っ直ぐとんだオラクルバレットは車の後部に着弾したが、車には傷が少しついただけだった。

「な……なんで……!」

 初めての葵には驚きだが、既にわかっていた青桐と佐々木は驚かなかった。佐々木はため息ひとつつき、弓川に指示をする。

「弓川、お前は迎えのヘリを呼んで葵ちゃんと一緒に帰っててくれ。ちょっと用ができた」

「は、はい……上にはなんて言えば?」

「俺が言うから問題ねぇよ、ほれ、迎えのヘリ呼べや」

 弓川は動揺を隠しきれないまま無線でヘリを要請した。青桐はそれを横目で見てから、ソフィアの立っていた場所まで歩み寄った。佐々木は周囲一帯をインフォグラス(仮)と肉眼で確認していく。

(? なんだこれ)

 青桐はふと、キラリと光る物を見つけた。そっと拾い上げる、SDカードのようだ。ケースに入っていて中身は無事だ。

(まだ新しい……ソフィアが落としたのかな)

 佐々木はソフィアが入った路地を辿ろうとしていた。しかし、辺り一帯に漂う血の臭いに思わず鼻と口を覆う。

(ひでぇ臭いだ……アラガミでもこうはなんないぜ……)

 佐々木は黒服だった……のかよくわからない肉塊を足でどかし、血の道を歩く。するとようやくまともな死体を見つけた。腕を落とされただけで済んでいる可哀そうな死体が。

(さて……ちょっと失礼するぜっと)

 佐々木は黒服の所持品を漁ってみた。ティッシュ、財布、銃の弾薬が少々、そして……。

(! ……こいつだ)

 スマートフォンと、SDカードケース、中身もちゃんと入っている。そして……何かのIDカード、つまり会員証。身分証明書だ。血で汚れていて読めないが持ち帰って洗えば読めるはず、SDカードケースの中に血は流れ込んでいないし、スマートフォンも比較的無事だ。佐々木はポケットにそれらを押し込み、青桐の所へ戻る。弓川達は既に支部へ戻ったらしく、姿はない。

「青さん!」

「お、タロス」

「いいモンみっけたぜ!」

「俺も見つけたぜ! 帰ろうぜ! 急いでコレ調べて手がかり探しだ!」

「おうよっ!」

 直後、常勤オペレーターの白花に連絡を入れ、二人は迎えのヘリに乗り込み支部へと帰還した。疑惑と、それを解決するかもしれない鍵を持って。

 

 

 

――To be continued――

 




そういえばゴッドイーター2のレイジバーストで主人公に羽生えるみたいですね。
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