※注:装備等についてネタバレがあります。ご注意ください※
仲間の再結集を果たし、昨夜は全員で遅くまで語り合っていた。その中の一人、青さんこと青桐は低血圧のせいで朝九時起きと遅起きだ。もそもそとベッドから這い出て、朝のコーヒーを淹れる。
フェンリルも支部によって多種多様だが、ここ、フェンリル横浜支部には決まった出勤時間がない、言われて任務に出るときもあるし、発注されている任務を引き受けて出るときもある、給料は基本給+任務完了時の報酬金なので、任務をこなせばこなすほどボーナスがもらえることとなる。だから新人は発注されてる任務をいそいそと引き受けて大抵撃沈してるか筋肉痛で動けなくなっているか最悪殉職しているというのが通例である。既に伍長の位についている青桐はその辺の加減を心得ているというが、ただのサボリになってきているのが事実だ。
「ざまさん……帰ってきたのか」
改めてそれを認識しなおす、これで全員が揃った。それはこの死と隣り合わせの仕事場に付与された、代え難い喜びなのだ。
自室の台所で、熱いコーヒーに口をつけると同時に、部屋にノックの音が響いた。この時間帯にわざわざ部屋をノックしてくる人間は限られている。
「開いてますよー……」
一応、相手が誰でもいいように当たり障りのない返事を返す、返事をした後はまた正面を向いてコーヒーを飲み始めた。
「おう青さん、起きてたか」
自分の部屋かのごとく扉を開けて入ってきたのは、タロスこと佐々木だった。ジュースを片手に長袖のシャツと半ズボンでいるところを見ると、どうやらもう着替えてきたようだ。佐々木は赤縁のメガネを直しながら、興奮が冷め切らぬという様に口を開いた。
「昨日は凄かったな、皆テンション上がっちゃって――」
佐々木が昨夜の盛り上がりについて一人で喋る最中も、青桐はただコーヒーを啜るばかりだった。これが青桐と佐々木の間でたまに繰り広げられる朝の風景である。
一方、藤牧達はどうしているかというと、山ノ丈は朝7時の時点で起き出して施設内をうろうろしたりどこかに閉じこもったりしていて、藤牧といえば、起床時間はいつも早いが、今朝は自室で筋トレとのことだった。
佐々木からそれを聞いた青桐は、コーヒーの容器を置いてベッドへ身を投げた。そして、ふと思い出したように聞いた。
「あれ? ざまさんどうしたんだ?」
佐々木も困ったように返す。
「さぁ? 部屋番号は教えてもらったんだけど、今朝部屋に行ったらいなかったんだよなぁ」
他人の部屋にも関わらずタバコを吸おうとする佐々木の手を、青桐が輪ゴムを飛ばして弾いた。
横浜支部支部長室
横浜支部の支部長室、間はここに来て支部長と対峙していた。支部長室は少し広い空間の真ん中少し奥に机があり、左右の壁に沿うように棚や置物が置かれている。
「さて、昨日はご苦労だった。引っ越しの準備は疲れただろう。……いや、そんなことはどうでもいいとして、無事配属おめでとう。間少尉」
横浜支部の支部長、高堂貴久(こうどう たかひさ)凛々しいのは名前ばかりではない、如何にも英才教育を受けてきたかのような天才的な雰囲気、しかもイケメンと来た。祝辞には敬礼で応える。
「東京でさんざん聞かされただろうし、向こうとあまり変わらないから手短に説明しとこう。このフェンリル横浜支部ではアラガミの討伐、コアの回収、救出、奪取、防衛、収集など、様々な任務を請け負っている。まぁどの任務でもアラガミと戦うことになるのは避けられないがね。横浜は海が近いため、生存者の何割かの人々が母艦で海側へ退避した。その母艦へ食料や日用品等を届けたりする船が襲われないように防衛するのも横浜支部の神機使いが取り仕切ることになる」
横浜については間もよく知っている、何しろ地元なのだから、それを知ってか知らずか、高堂はあまりこのあたりの地区について説明しなかった。その後もいくらか説明したが、最初の宣言通りに手短に説明を終えた。
「ところで、間少尉……」
早くも欠伸を噛み殺しそうになった間は、高堂がいきなり深刻な口調に変わったのに驚いて眠気を抑える。高堂は間の近くまでゆっくりと歩いていき、間の肩をそっと叩いた。
「君は、自分の体について、どの程度知っている?」
やはり聞いてきたか……間はわずかに顔をしかめる。確かに、自分の体が少しばかり特別なことは知っている。しかし、メディカルチェックを担当した博士に聞いた答えは、曖昧だった。
「…………私の体は、少しばかり特殊という程度です」
「…………。」
間はゴッドイーターになる前、アラガミのような何かに襲われたことがある。何とか九死に一生を得るで病院に運ばれたが、入院当初食欲が絶えず、にも関わらずたまに頭痛がしたり吐き気がしたりと解析不明な容態が続いていたが、ある日、ほとんど全快した間のもとに来たフェンリルの人間が、ゴッドイーターの適合試験に出るようにと間に言ってきた、既に家族はバラバラに逃げてしまい、いまや飼い猫と一人一匹だけとなってしまった間には、それを断ることなど出来なかった。
適合試験場で自分以外の5、6人と適合試験を受けたのだが、神機や腕輪との神経接続とオラクル細胞の注射という苦しみにもがき、倒れる人間もいる中で、間一人だけが、大した苦痛が無かったのだ。
その適合試験の後、複数人いた合格者の中から、間一人だけが隔離された、その後メディカルチェックをしつこいほど入念に受けて、東京本部へと配属。そこから今までは東京本部でゴッドイーターとして動いていた。
間は、自分の知っているこれらのことを全て話した。事前に報告がいっていたのか、高堂はさも知っているかのごとく相槌をうった。
「なるほど……それが君の知っている事の全てかい?」
「その通りです、支部長」
「そうか……」
高堂はうんうんとうなずくと、机に置いてあるパソコンをいくらかいじった後、椅子に座って告げた。
「わかった。良いだろう……君の働きに期待しているよ、試しに一つ任務を発注しておいたから、是非受けてくれ」
間は無言でうなずく。高堂は満足そうに頷いたが、また深刻な声色になって言った。
「だが……君はどうやら特殊な人間らしいということを忘れないでくれ………………下がっていいぞ」
今度は間は頷く事もせずに、背を向けて部屋を出る。廊下を重い足取りで何歩か歩いたが、やがて立ち止まり壁にもたれかかった。
(あの時の事を思い出すと頭が痛くなる、どんなアラガミだったのか、どんな異変が自分に起きているのかもわからないなんて……あんまりだよなぁ)
ため息と共に、急に溜まった不安を吐き出す。いけないいけない、あいつらの前でこんな顔はできないぞ、元々あんまりいい顔じゃないけど。
(……私宛てに任務を発注したとか言ってたっけ)
間は足取りを無理やり軽くして、任務の発注について担当する「ミッションカウンター」があるエントランスへと向かうことにした。
アナグラ ミッションカウンター
フェンリルの支部内は基本的にアナグラと呼ばれている。その中のミッションカウンターでは、主に任務の管理や手続き、その他の事務処理等を一括して行う部署となっており、時にはここから任務の音声オペレートをすることもある。
そんなミッションカウンターでは佐々木が受付にもたれかかって待っていた。佐々木は間の姿を見つけると、ふっと笑う。
「ついさっき支部長にさ、お前のミッションに付き合えって言われたんだよ、今朝からどこに行ってたと思ったら支部長室にいたの?」
「ああ、ほら……配属について云々」
「なるほどね」
その時、受付から右側に見えるエレベーターから、青桐が降りてきた。
「あれ?もしかしてお前らも呼ばれてんのか?」
「うん、多分この分だとマッキーも……」
その瞬間後ろからのっそりとマッキーこと藤牧が現れた。
「呼んだ?」
「まあ、呼んだよ」
「マッキーも呼ばれたのか?」
間はふと……これが支部長の手引きなのだと気付いた。支部長は私達の仲を知っているに……からか。
「ということは、この四人でミッションに行けって事なのか」
佐々木が結論を出したかのように言う。
「間少尉ですね?配属おめでとうございます。支部長直属で発行された間さん宛てのミッションがございます」
受付嬢が営業スマイルで応対する。セミロングの髪を二つのおさげでまとめていて、身長も平均的、顔の整いも愛想も悪くない。なるほど受付嬢向きの女性だ。
間は記憶を探って人物像を構成する。
(初日に渡された資料の中にこんな顔があったな……確か白花伊吹(しろか いぶき)といったっけ)
胸元についたネームプレートを見てみると、フェンリル特製のプレートに「白花」と書かれていた。なんといってもミッションを統括して管理する立場だ、仲良くしておいて悪く無かろう。
「じゃあ……そうだな、ざまさん。お前が代表して受けてくれよ」
「うん、じゃあ白花さん、お願いするよ」
「かしこまりました……こちらです」
白花はどこからかA4サイズの封筒を間に差し出した。中を見てみると、ミッションの内容が細かく記してあった。
タイトル『装甲壁付近討伐作戦』
場所『旧横浜みなと博物館フリースペース』
特記事項「このミッションを以下の者に宛てる」
・間遼太郎
・佐々木竜太郎
・藤牧圭助
・青桐拓馬
以上四名のフォーマンセルでの任務とする。
概要『最近、小型のアラガミが装甲壁付近で増加傾向にある。装甲壁の有効性はまだ万全とは言えず、放っておくわけにもいくまい、とはいえ事を急ぎたいわけではないので、特に間少尉の体を慣らすものと思ってやってほしい、存分に暴れるがいい。健闘を祈る 高堂』
討伐対象『装甲壁付近のオウガテイル コクーンメイデン ザイゴートを主な討伐対象とする。』
報酬『1000fc マグネシウム 爆縮体』
「ほー……こりゃまた中々いいじゃん?」
ミッションについての書類を見て、佐々木が間の横でニヤニヤしている。
fc(フェンリル・クレジット)というのはフェンリル内でのみ有効な通貨である。フェンリル内にはいくつか店舗等があるため、クレジットカードで支払えるのは中々便利だ。申請すれば円に変換することも可能だという。
「この四人で仕事に行ける日が来るなんてなぁ」
青桐が感慨にふける声で呟く、藤牧がそれに同調して、増々佐々木の気合が入った。
「よっしゃ!じゃあ早速それ受けようぜ!ほれ早く!」
間はため息をつくが、まんざら嫌でもない、これが佐々木の……竜の昔からの性格だからだ。
「じゃ受注します。メンバーはこの四人で」
「かしこまりました」
用紙にそれぞれサインすると、白花がカウンターの下でパソコンのようなものをカチャカチャとやったあとに。
「では、いってらっしゃいませ。ご武運を祈ります」
軽く会釈して間はターミナルへ急ぐ。
受付の近くに設置されているこのターミナルなるものは、ここ、エントランスはもちろん。ラウンジ、一部自室にもある。いわばフェンリル内すべてに通ずるパソコンだ。アラガミについての情報や、神機の強化、合成など、腕輪認証式になっているのでセキュリティもかなり万全だ。メールも打てるという万能性も持っている。
「今回、特別属性が必要なわけでもなさそうだから、万能に対処できるようにしとこうか……そういえばお前ら普段どんな神機使ってるんだ?」
間がターミナルをいじっていると、佐々木や青桐がその両隣のターミナルを起動する。
神機は本来剣形態と銃形態のどちらかで固定されているのだが、つい最近その両方を兼ね揃えた【新型神機】なるものが新たに開発された――それまでの固定型神機は【旧型神機】と呼ばれるようになった――適合者はまだまだ少ないが、激戦区であるこの地域は幸運にも適合者が集中していたので、横浜支部には新型神機使いが多い。
しかし、かつての親友グループ全員が新型適合者というのは、どこか運命的なものさえ思わせる。
ただ剣形態、銃形態といっても色々あって、剣形態を備える神機は必ず盾形態も付属してくる。
剣形態では攻撃力が低い代わりに軽量で機動力の高いショート。攻撃力、機動力、リーチ共にバランスが良いロング、攻撃力が非常に高く破砕力もあるが、重量級で扱いが難しいバスターの三種類がある。
一方銃形態も、射程が広いスナイパー、連射力があって反動も軽いアサルト、攻撃力と破砕力の高い代わりに反動が強いブラストの三種類がある。
盾形態も同様に、展開が早く取り回しが良い代わりに防御力がやや低いバックラー、極めて平均的な性能を誇るシールド、防御力、防御範囲が大きい代わりに若干展開が遅いタワーシールドの三種類がある。
銃形態だけを持つ旧型神機以外の全ての神機に共通して同じものは、神機自体の本能の片鱗を解放する…………捕喰形態だ。
「タロスが主にショートとブラストとシールド、俺がショートとスナイパーとバックラーだ」
青桐が二人の分を説明する。続けるように藤牧が付け加える。
「んで、俺がバスターとアサルトとタワーってことだ」
「重量級だなぁ、本当に以前から変わり様ないよなマッキーは」
「いや、以前より強化されたんだぞざまさん、まあ出撃すりゃわかるけどさ」
お互いに笑い合う、これから命を懸けて戦いの場に出る彼らを繋ぐ……古びた絆。
「じゃあ私は、間を取ってロング アサルト シールドと行こうか」
間はターミナルに情報を打ち込んでターミナルを閉じた。
「じゃあそうだな……20分後に出撃ゲート集合でいいか?」
佐々木がそう切り出すと、一同全員が賛成した。
作戦及び装備情報
間 遼太郎
遊撃
剣装備:ブレード改(ロング)
銃装備:50型機関砲改(アサルト)
装甲タイプ:汎用シールド改(シールド)
佐々木竜太郎
陽動・突撃
剣装備:獣剣 陽 改(ショート)
銃装備:79式キャノン(ブラスト)
装甲タイプ:サンジェルマン硬(シールド)
藤牧圭助
陽動・突撃
剣装備:肉斬りクレイモア(バスター)
銃装備:55型機関砲改(アサルト)
装甲タイプ:龍大甲改(タワー)
青桐拓馬
後攻・バックサポート
剣装備:鉄乙女剣新改(ショート)
銃装備:レールガン改(スナイパー)
装甲タイプ:回避バックラー硬(バックラー)
旧横浜みなと博物館 フリースペース
旧とついているだけあってかなりアラガミに喰われているため分かりづらくはあるが、旧日本丸のすぐ隣には確かに横浜みなと博物館があった。しかし、いまやその前の広場と、フリースペースとされている人工丘には人の姿はない、代わりにあるのはオウガテイルやコクーンメイデンといった小型アラガミの姿だけだった。
春一番の吹く中、その光景を間達はヘリの中から見ていた。フェンリルではミッションに出撃する際、アラガミに襲われる可能性を考慮してなるべくヘリを使って目的地まで行くことにしている。しかしヘリの数が足りない時などは他の手段を用いている。
「それにしても、装甲壁って結構狭いんじゃないのか?横浜みなと博物館が装甲壁の外にあるなんて」
間が思った不思議をそのまま口にする。佐々木は持ってきたジュースの蓋を弄びながら解説し出した。
「あぁ、そうか。お前は知らないのか…………装甲壁を建設するとき、日本丸を海側に逃がそうって事になってて、その都合もあって海側にはあんまり装甲壁を作れなかったんだよ、お前フェンリルのここらの地図みたべ? 装甲壁は海と首都高速に沿うというか、境界線みたいにして作られてなかった?」
「…………あぁ、そういえば」
間は昨夜見ておいた資料を思い出す。確かにここはそんな地形になっていた気がする。
「高速道路も、当時避難とかで忙しかったから封鎖することができなくてさ、結局そんな地形になっちゃったってワケ」
「ここもずいぶん変わったなぁ……地元に戻ってきたから痛感するよ」
「それだよな、改めてみるとひでぇもんだ」
藤牧が隣で地上を見下ろす。
「ここらはまだいい方ですよ」
いきなり聞こえてきた機内放送。誰かと思えばヘリの操縦士だった。
「この辺は被害がかなり少ないです、もっと外へ出ればそれがわかりますよ。少尉」
「ざまさんでいいです。パイロット」
パイロットがちょっとだけこちらを向いて会釈する。間はもう一度地上を見下ろした。
(私のいない間に……こんなことになっていたのか)
「そろそろ到着です!出撃準備を!」
パイロットがハッキリした声でそう伝えてくる。一行はヘリの後部に積んでおいた自分の神機を手に取り、扉を開けて飛び降りる準備をする。準備といっても、パラシュートやスーツの類は着けない。予防接種程度に体内に入れたオラクル細胞のおかげで身体能力が常人より数段進化しているゴッドイーターであれば、体勢さえ間違っていなければ高所からの着地くらい朝飯前なのだ。
「ざまさん、高所恐怖症じゃないよな?」
「馬鹿にしてんのか?」
クスッと二人が笑う。ヘリが徐々に、着地場所へ降下していく。
主な作戦場所には必ず、ゴッドイーターを降ろすための作戦開始場所がある。高所の一角にくぼみを掘ったもので、ゴッドイーター達は主にここから作戦を開始する。ちなみに作戦開始場所がない場合、直接フィールドに降り立つのだが、基本的に作戦開始場所は任務によってまちまちである。
「オーケー……シュート!」
パイロットの合図で、4人が一斉に飛び降りた。
「しかし、オラクル細胞もすごいもんだねぇ」
着地直後、青桐が感心したように呟いた。藤牧は着地と同時に神機を地面に突き立ててしまったらしく、神機を引っこ抜こうと必死になっていた。
「皆無線つけてるか?」
「あぁ、皆つけてるよ」
佐々木の確認に、間は耳元にあるものをコツコツと叩いて応じる。ゴッドイーター達は任務に出るときに、トランシーバーと小型インカムを持ち出すのが一般的だ。(義務化はされていない)小型インカムは任務中の仲間同士の連絡に、トランシーバーも同じように使えるが、これは主にアナグラとの連絡に使う。佐々木は早速、支部にいるはずのオペレーターにつないだ。
佐々木:『オペレーター! オペレーターはいるか?』
間もスイッチを入れ、オペレーターへの周波数に合わせる。
?:『はいはい(バリバリ)こちらオペレーター山ノ丈』
佐々木&間:「「お前かよ!」」
思わず二人同時に突っ込んでしまった。三人にまた笑いが起こる。
山ノ丈:『支部長の指示で俺は今回オペレーターに回ることになったんだ(バリバリ)』
佐々木:『そうかそれでさっき姿がなかったのか…………ところで丼さん、さっきからバリバリいってるのはなんだ?』
山ノ丈:『ん……煎餅』
藤牧:『貴様……覚えてやがれよ』
山ノ丈:『え? ちょっ……なん』
山ノ丈が言い終える前に、佐々木はニヤニヤしながら通話を切った。藤牧の神機が引き抜けたところでブリーフィングの見直しを始める。
「じゃあざまさん、ブリーフィングよろしく」
「え、私でいいのか?」
「お前が受注した代表だし、少尉なんだ。それくらいやってくれよォ」
「一応お前もやってくれよ、普段のお前らのやり方なんか知らんのだ」
「しょうがねぇなぁ、じゃあ前半お前、後半俺な」
(どんだけ面倒なんだ)
間はツッコミを抑え、気を取り直してブリーフィングを始める。
「今回は小型アラガミ……詰まるとこ雑魚共の掃除だよな。装甲壁の近くにいるやつらをぶった斬る任務だ…………言うことはそれぐらいじゃねぇか?」
「まあ確かに……それくらいしか言うことないよなぁ……じゃあいいや、後は俺に任せてくれ」
佐々木は自分の神機を肩に担ぎ、オペレーターに聞こえるようにインカムのスイッチを入れ直して話を続ける。
「今回は俺とマッキーが突撃、出来れば陽動もやって……青さんには後ろに回ってもらってサポート、ざまさんは……そうだな、体慣らしだと思って自由に動いてよ、遊撃遊撃」
各々神機を構える。昼間の太陽の光が神機に当たって眩しく反射していた。既にアラガミ達は間達の足元近くにまで集まってきている。
「ほらざまさん、合図合図」
本当は合図など必要ないが、佐々木は雰囲気付けがしたいのだろう。それを察した間は神機を肩に担いでインカムを入れ……宣言する。
「殲滅部隊………………出撃!」
「センスねぇなぁ」
四人は作戦開始場所から飛び降りると同時に素早く陣形を作った。佐々木と藤牧は先頭、その後ろに間、さらにその後ろに銃形態の神機を構える青桐、作戦通りの陣形だ。
「よし、先行けタロス!」
佐々木は早速、前方のオウガテイル三体の群れに走り込む、オウガテイル側もそれに気づいて次々襲い掛かるが、佐々木の流れるような素早い動作に対応できない。佐々木の小さい剣が、確実にダメージを与える。
藤牧は佐々木達のいる位置から少し離れ、他のアラガミが加勢しないように気を引く。わざと空振りしたり、アサルトを出来る限り連射することで牽制を図っていた。
青桐は遠くにコクーンメイデンの群衆を見つけ、早速狙撃を始める。元々狙撃能力は高いが、発射するレーザーにわずかなホーミング性能がついているので、ほぼ必ず命中する。
間は青桐の後ろで青桐を守りつつ、手あたり次第にアラガミを駆逐していた。
「マッキー、そろそろいいぞ!」
「おう!そこどけぇ!」
佐々木がある程度舞い踊って藤牧に叫んだ。直後弾かれたようによそへ退き、それまで翻弄されていたオウガテイルの頭に、藤牧のバスターブレードが振り下ろされる。藤牧はそこから続けて隣り合っているオウガテイルを薙ぎ払う。
素早い代わりに与えるダメージが少ない佐々木が敵を翻弄し、ある程度翻弄したところで藤牧がとどめを刺す、これが佐々木と藤牧の間で練られた戦術の一つだった。
「……あ、ちっくしょう。オラクルが切れちったお」
突然レーザーが出なくなった神機を見て、青桐は不服そうにつぶやいた。しかしその瞬間。
「……しまッ!!?」
突如感じた殺気に後ろを振り向く、そこには自分に飛びかかってくるザイゴートが……一瞬見えて一瞬で消えた。ザイゴートが消えた方向を見ると、間が捕喰形態でザイゴートを襲っていた。
「どれ、私も手伝うぞ」
間はいかにも美味そうにザイゴートを捕喰すると、神機を一振りして神機を剣形態に戻す、直後神機や腕輪からかすかな光を、間自身からは人ならぬ気配を放出し始める。ゴッドイーターとして人ならざる力、もちろん、青桐はその力を知っている。
(神機の解放……バーストか!)
ゴッドイーターの特殊奥義といっても過言ではない【バースト】。アラガミを捕喰することにより、アラガミのオラクル細胞を取り込んで神機を活性化する事でできる自己増強のようなものだ。活性化すると神機の性能はもちろん、その所有者の身体能力も飛躍的に向上する。新型神機はこれに加えて、捕喰したアラガミの射撃攻撃【アラガミバレット】を数回だが使えるようになる。バースト状態では神機や腕輪から光を放出し、神機の所有者から放たれる気配も変わる。
間は目を瞑って、神機や腕輪から伝わってくる異色の感覚に微笑を浮かべながらアラガミを睨む。
「やあ、東京で喰った奴らも中々美味だったが、横浜の奴らもいい味出してるじゃないか」
青桐は一瞬呆気にとられたが、以前の間の性格を思い出した。間は昔から、どこか普通とは違う『変人』だったのだ。
(まあ……こいつならこんなこと言い出しても不思議じゃないかぁ)
青桐は一旦神機を剣形態にして、近くのコクーンメイデンを一匹喰い潰す。バーストした青桐は旧フリースペースにたむろするアラガミの群れを睨み、剣先で示した。
「行くぜざまさん!」
「おぅ!」
二人一斉に群れへ飛び込む、藤牧達とは違ってお互い連携はしないが、さりげない所で助け合う。間は主に捕喰形態でアラガミを喰らいながら戦い。青桐は剣でアラガミのオラクルを吸収し、隙あらば銃に切り替えてレーザーを撃つ。全く違う戦い方だが、二人とも息だけはあっていた。
やがてアラガミの群れを旧人工丘の一角に追いやると、間は素早く青桐の隣に降り立って叫んだ。
「青さん、神機を銃に!照準はあそこだ!」
間も自分の神機をアサルトに切り替え、照準をアラガミの群れに合わせる。青桐はすぐにその意味を察して、銃口を一角に向ける。
「一斉掃射ああぁぁぁぁぁッッッ!!」
青桐の宣言と同時に二人は雨のごとくオラクルバレットを連射する。弾丸とレーザーが一つの弾幕と化してアラガミの群れに降りかかった。怒涛の連射が終わった時には、穴だらけのアラガミ達はピクリとも動かなくなっていた。青桐は汗を拭って藤牧達のエリアを見る。
「よし、あとは向こうを……」
「ちょっと待ってくれ、こいつら全部喰ってから行くぜ」
青桐はぽかんと、あっけにとられた。やっぱりこいつは変な奴のままだ。
「タロス、そっちはどうだ?」
「ほとんど終わった!」
青桐達は佐々木達と博物館の前の広場で合流し、全員の無事を確かめ合った。
「よし、じゃあそろそろ終わりの報告を……」
佐々木がそう言ってインカムのスイッチを入れようとした時、藤牧がその腕を掴んだ。
「!?」
「タロス! あれ見ろ!」
藤牧が広場の入り口を指さす、その先には……身長2メートル以上はある人の姿に翼のような腕を生やした。鳥人型アラガミ『シユウ』の姿があった。シユウがこちらを指さすと、物陰から出てきた数体のオウガテイルが従うようにこちらへ走ってきた。佐々木がすぐさまその意味に気付く。
「あれが……あのシユウがこの辺りのリーダーなのか!?」
「下がってろタロス!!」
藤牧が一歩前へ進み出て肉斬りクレイモアを構える。オウガテイルの身体が目前まで迫った時、構えた剣を横薙ぎで打ち払った。居合切りの要領だ。しかし全てを斬り落とすにはいかなかったらしく、一体だけまだピクピクと動いていた。
「マッキー! 竜! 捕喰するなら今しかないぞ!」
間が虫の息となったオウガテイルに向けて神機の口を開く、藤牧と佐々木も続いて捕喰し、三人でバーストする。
「予定には無かったけどよ、あれも討伐しておく必要がありそうだよな?」
青桐がスナイパーに切り替えて誰ともなく聞く。三人が剣先をシユウに突き付けたのが、その応えとなった。
三人が先行してシユウに向かって走る。青桐は後ろからレーザーを連射しながら少しずつ位置を変えて近づく。レーザーがシユウを貫き、動きが鈍くなった一瞬に佐々木の連撃が入る、隙を見て間も捕喰を繰り返し、アラガミ弾を顔面めがけて撃ち込んだ。藤牧は一度戦線を離れ、旧博物館の屋上、つまり旧人工丘の最上層に移動してアサルトを連射していた。
「竜! しゃがめ!」
いきなりで戸惑ったが、直感的に佐々木はその場でしゃがみこんだ。その頭上ギリギリをシユウの腕と間のロングブレードが交差する。
「危ねぇなッ!」
佐々木が文句を言った直後、今度は青桐が放ったレーザーがシユウの顔面を直撃した。シユウはたまらず両腕で顔を押さえる。
「今だ皆!」
佐々木は藤牧と間に合図する。佐々木と間は文字通り『跳ねた』。
「合わせろッッ!!」
二人同時に、交差するように、シユウに斬撃。そこから一歩遅いタイミングで藤牧も飛び降りた。
「うぉらぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
縦から分断されるように斬られたシユウは、藤牧の一撃で見るも無残な姿になった。直後に三人のバーストが解ける。
「さて……じゃあ、いただきますっと」
間がシユウの残骸を捕喰し始め、佐々木は今度こそインカムにスイッチを入れる。
佐々木:『おーい丼さん、丼さん!』
煎餅を食べる音と共に、丼さんこと山ノ丈が応答に出た。
山ノ丈:『はいはい、大体わかってる、シユウ撃破したんだ?』
佐々木:『あぁ、これでもう帰還するぜ。ヘリを寄越してくれよ』
山ノ丈:『OK、じゃあなるべくわかりやすい所に居てくれ』
佐々木:『はいよー』
インカムを切った辺りで、佐々木は間に問いかける。
「なぁざまさん、それそんなに美味しいか?」
「ん?あぁ、なかなか美味だ。海が近いからか、ほんのり潮の風味があるな」
神機をシユウの骸に噛ませながら、間は上機嫌に答えた。ふーん、と佐々木もそれに便乗して捕喰回収を始める。
(捕喰の感覚は決して気持ちの良いものじゃないはずなんだけどな……まぁこいつなら珍しくないか)
その後、数分経ってから迎えのヘリが到着した。こうして…………間の受けた大量討伐任務は終わった。
「いやぁ皆お疲れ! ナイス連携だったぜ!」
佐々木は横浜支部に帰投してすぐに、間達を部屋に集めてお疲れ様会を開いた。テーブルの上には佐々木が溜め込んでいたビール缶が数本置かれ、オペレーターとして参加していた山ノ丈もいる。
「報酬も手に入ったし、良かったよな」
「にしてもざまさん中々やるじゃん、これなら少尉でも納得だわ」
青桐や藤牧も素直に喜ぶ。各自持ち寄った菓子や飲み物を開けて宴会気分だった。昨日の語り合いの延長戦、それは紛れもなく、笑いの絶えない、高校時代にこっそりやっていた宴会の再現だった。
この時、青桐はひそかに間を見ていた。青桐の直感は何かを予感していた…………。
(ざまさん……本当に普通の神機使いなのか……?)
青桐はすぐに疑念を取り払ったが、それでも心の奥にひっそりと雑念が残っていた。
はい、記念すべき初戦闘です。どうだったでしょうか? え、アラガミが弱すぎ……? だって公式アニメではゴニョゴニョ……
ところで、小説情報の一体どこに書けばいいのかわからず、うっかり装備などのネタバレがある事を書き忘れていましたが、この先神機が出てくるときは今回のように各々の装備情報を予め書いておくこととしています。
ゲームが手元にある方はゲームで、無ければ攻略サイト等で装備を把握しておけば、本作がもっと楽しめると思います…………多分。
ではそんなわけで、また次回お会いしましょう