間遼太郎
情報
間 遼太郎
剣:発熱ナイフ(ショート)
銃:55型機関砲改(アサルト)
装甲:汎用シールド硬(シールド)
配属されてから数日が経った。間は早くもその力を見せ始め、支部内で一目置かれるようになった。間は偵察調査に優れ、奇襲作戦も難なくこなすことができた、元々大人数で行動するのを好まない間は単独か少人数で任務にあたるのだが、効率はむしろその方が良かった。相変わらず佐々木達との連携も良く仲も良い、間は組織内でも少しずつではあるが、友人を作り始めていた。
そんな間は今、神機を手にして一人、昔赤レンガ倉庫と呼ばれていた場所を歩いていた。任務ではなく、自由探索として。
フェンリルのゴッドイーターは任務でなくとも自由に外に出ることが可能である。ただし、生死に関してはほぼ自己責任として(任務中も似たり寄ったりだが)
自由探索中にアラガミに遭遇した場合は、自己判断で報告、討伐、撤退することが許されている。
赤レンガ倉庫の周りはかなり曇っていて、昼間のはずなのに薄暗くなっていた。そのせいか、どうもあまりいい気分ではない。強くなってきた風に乗って、どこからかアラガミの雄叫びが聞こえてくる。
(……何を言っても、荒んだな…………ここも)
旧赤レンガ倉庫、アラガミが増える前は日本人はもちろん外国人にも人気の観光名所だったが、いまや廃墟同然となっている。二つある建物の間やその周りの広場には、アラガミが暴れたことによるものだろうか、そこかしこが陥没している。倉庫自体には、かつてそこにいた生存者がやったのだろうか、全ての窓や扉が鉄板で粗雑に釘づけされている。しかしところどころ破壊されているところを見ると、その文字通り薄く儚い希望も恐らくは役に立たなかったのだろう…………それも当然、アラガミの攻撃に最も有効性がある盾は、同じオラクル細胞でできた対アラガミ装甲壁ぐらいしかないのだから。向かって左側、旧赤レンガ倉庫2号館など、大型のアラガミにでもやられたのか、建物の屋上付近がかなり大きく陥没している。アラガミの強襲が来る前の赤レンガ倉庫を知っている間にとって、荒んでいるという表現は正しかった。
…………しかし、東京本部にいたときに、何回か遠方の任務にも出ていた彼にはこうも思えた。むしろ、この程度で済んでいるならまだマシな方か……と。
(まだ面影が残っているだけマシだろうな……本当に壊滅した都市はこんなもんじゃない…………)
やはり横浜支部が設立されて一帯のアラガミ対策が迅速に施されたのが功を成したといったところだろう。
「唯一以前と同じように見えるのは……海だけかな」
間は独り言混じりに神機を肩に乗せて二つの赤レンガ倉庫の間を直進し、海に面した柵の傍まで歩み寄る。
(この匂いも…………以前と違う気がする)
見渡す海は見た目こそ大して変わらないが、その匂いだけは昔とは違っていた。潮の匂いに混じって別の異臭がするのだ。
(これは多分血液の匂いとアラガミ特有の匂い……)
魚型のアラガミ、グボロ・グボロ等には海水にも適応できる個体がいるという話を聞いたことがある。避難するときに海に転落した人間を、アラガミが捕喰したと考えるのが、至極簡単な答えだろう。
海の沖合には大きなタンカーのような船舶が見える。あれがフェンリルが造った生存者隔離船。アラガミ装甲壁で外板を作っており、ある意味最先端の防護といえるその船には、この付近で集まった生存者達の一部が過ごしている。しかし聞いたところによると、あの船は富豪や政治家といったお偉いさんしか乗れていないという噂があるらしい。間自身乗ったことがないのでその真偽は未だわからない。
(私もいつかは……あそこで世界の崩壊を見ることになるのか?)
ゴッドイーターの腕輪は一度装着したが最後、生涯外すことができない。それと同様に、一度ゴッドイーターになったら二度と一般人に戻ることはできない。が、神機使いの年齢が一定を超えるとその任を解かれることとなるのが通例だ。任を解かれた神機使いは腕輪をつけたまま暮らし、新兵などのアドバイザーとしてフェンリルの機関を出入りすることになるわけだが、一部は安全地帯へ隠居するという者もいるらしい。最も、定年まで生き残れる神機使いの例がそもそも稀少なのだが。
(私は・・・・・・生き残れるのかな……)
間は、死ぬならこの横浜で……できれば地元で死にたいと思っていた。死について考えるのはゴッドイーターとしてはよくある事で、その度に自分の置かれている状況を自覚する。でも時折、むしろ生き残りたい、この世界がどうなるか、その最後の瞬間まで見ていたい。そのために生き残りたい、そう思うことがたまにある。
風が強くなり、間のロングコートをたなびかせ始めた。軽く身震いを起こしてきたので、間は神機の発熱ナイフをなぞって手先を温める。
その時……後ろから金属的な物音がした。
(ッ!)
間は直感的に神機を構えた。 しかし、どんなに警戒してもアラガミどころか、生き物一匹見当たらない。
「……気のせい?」
神機を構えたまま、物音がした方向へ近づく。やがて近くのベンチに辿り着いたが、アラガミがいるようには見えない。
「……?」
ふと、ベンチにネックレスのようなものが落ちていることに気がついた。神機をベンチに立てかけ、自分もベンチに腰を下ろす。
(……ロケット?)
ネックレスのようなものの正体はロケットだった。傷が多く薄汚れているが、中身は無事だ。
ロケットには、写真スペースに小学生ぐらいの女の子とその母親らしき女性が並んで写っている写真が入っていた。写真はまだ新しく、落ちていたベンチの様子やロケットがまだ温かい事から察するに、ロケットが落ちてから一日はおろか、数時間もたっていない事がわかる。
(私の観察が正しければ、これの持ち主はまだこの近くにいるのでは・・・・・・?)
その時、今度ははっきりとした物音が、赤レンガ倉庫の影から聞こえた。間は弾かれたように神機を手に取る。すると、倉庫の物陰から覗いていた人影がヒュッと引っ込んだのが見えた。
(…………アラガミ?じゃないよな、アラガミならすぐに襲ってくるはず……じゃもしかして……)
間は手元のロケットを見てからそれをポケットに突っ込むと、神機を持って速足で物陰へと急いだ。赤レンガ倉庫の陰で一度身を隠してから……一気に身を出す!
そこにいたのは、足をすくませて固まっていた中学生ぐらいの女の子だった。
間とて人と話すのは苦手ではないが、それはあくまでも相手が男だった時の場合。年下の女の子に話しかけるのはあまり得意ではなかった。ひとまずこちらから切り出す。
「……一般の人……だよね?」
拍子抜けした間が小声で確認すると、女の子はか細い声で応えた。
「えっと……はい…………あの、神機使いの……方ですよね……?」
間は少女に敵意がないことを察すると、構えていた神機を降ろした。緊張しているに違いない少女に間は、できる限り優しく語りかける。
「うん、いかにも私は神機使いだ……それはそうと、これは君のかな?」
そう言って間は少女の前に跪き、ロケットを差し出した。
「う……はい、その……私のです」
少女は恐る恐るそれを受け取り、首にかける。改めて見ると、ロケットには宝石……タイガーアイがついていた。
(確か……タイガーアイはアゲートとか言われていて、その石言葉は家族愛や親子愛といった意味だったはずだな……)
アゲートには様々な種類があるが、その中でもタイガーアイは悪意や呪いなどの邪悪な力に対するお守りになるという言い伝えがあったと間は思い出した。
(家族愛……なるほど。やはりロケットの中の少女はこの子で、一緒に写ってたのは母親と見て間違いなさそうだな)
憶測程度の結論を出すと、間は再度少女に聞いた。
「ところで、どうしてこんなところに一人で?」
少女はうつむいたまま、喋ろうとしない。それは緊張によるものか、それとも語りたくない理由なのか。間にはわかりかねた。
風がいっそう強くなっていく。小さく震える少女を見て、間はふと、自分の神機を見た。
「やっぱり寒いよね……ちょっと待ってて」
間は近くから、建物の破片と思しき鉄の欠片を二つほど拾う。神機を横に寝かせ、その刀身に拾った鉄の欠片を乗せた。発熱ナイフの熱によって鉄が温もりを帯びていく。
強化すると軽く押し付けたりなぞったりするだけでアラガミを焼き切る事が出来ると言われるほど強い熱を持つ発熱ナイフだが、間が装備してきた発熱ナイフは初期段階のため、そこまで強大な熱を持たない――それでも充分危険ではあるのだが――発熱ナイフに乗った鉄を見つめながら、後ろの段差で座る少女に言う。
「言いたくないなら言わなくとも結構。今の世の中そういう人間で溢れかえってるんだし、元々他人の行動にとやかく言うほど私は偉くない」
少女は一言も喋らない、風は構わず冷たくなっていく。
しばらく経って、間は発熱ナイフの上で温かくなった鉄片を取ると、ポケットから取り出したタオルでそれを包み、少女に手渡した。
「焼けない程度に温めておいた。とりあえず温まろうよ」
間は自分の分の鉄片を同じようにタオルで包んで揉みほぐす。少女は空色のタオルで包まれた鉄片を両腕できつく抱きしめた。顔色がよくなり、緊張と寒さが幾分解けたように見えた。
「………………ありがとう……ございます」
お礼を言う少女に対してどう返そうか迷っていたその矢先……数体のオウガテイルが周りを取り囲んだ!
「……おっと」
即座に戦闘態勢に入る。その時、ふと少女の存在を思い出した。神機を構えて後ずさりし、少女に小声で言う。
「しばらく倉庫の中に隠れてたほうが良いと思う、見つかったら私を呼べ、ざまさんと叫べばわかる」
少女は頷き、近くの小さい収納庫に隠れた。
(数は4体……それも全部標準的なオウガテイルか……余程のことがない限り負けはしないがこっちには重しがついてる…………油断禁物)
発熱ナイフがオウガテイルを倒すのは2、3撃与えてからで、一撃で粉砕できるような攻撃力がない。とすると、敵陣に突撃しても囲まれるばかりであまりメリットがないように思える。
間は少女の入った収納庫まで下がり汎用シールド硬を開く。シールドくらいならオウガテイルの攻撃を余裕で防げるだろう。
一体のオウガテイルがしびれをきらして飛びかかってきた、シールドに防がれゴロンと弾かれたそれに、素早く切り替えた発熱ナイフで斬りかかる。
その後次々と残りのオウガテイルも襲い掛かってきたが、間の敵ではなかった…………が。
全てのオウガテイルを手早く斬り裂いた間が少女を呼びに行こうとした矢先、頭上を『何かの影』が覆った。
「……!?」
深緑の身体を持ち、光線を発することができる巨大な眼を額に持ち、さらに毒粉をまき散らすことで神機使いを翻弄する。毒を持つ蝶と人が合わさったような飛行型アラガミ……サリエルだった。
「! しまっ……!」
すっかり油断していた間は盾を展開する余裕もなく、旋回突進してくるサリエルに対応できない!
(やられる……!)
しかしその瞬間、突進してくるサリエルを数本のレーザーが貫いた。サリエルの狙いは大きく逸れ、悔しげに後ろに下がる。
レーザーの出どころを追うと、背後の倉庫の屋根の上に、見慣れた姿が立っていた。
「おーうざまさーん!」
「青さん! それに竜も!」
佐々木が屋根の上から飛び降りたのを合図に、間も神機を構え直す。直後、ザイゴートの大群がサリエルに追従するように現れ始めた。
「話は後だ!まずはこいつらを倒すぞ!」
佐々木の言葉に、間も頭上に浮かぶ虚栄の女神を見据えた。
装備情報
間 遼太郎
剣:発熱ナイフ(ショート)
銃:55型機関砲改(アサルト)
盾:汎用シールド硬(シールド)
佐々木 竜太郎
剣:獣剣 陽真(ショート)
銃:28型ガット(ブラスト)
盾:オセロ―(シールド)
青桐 拓馬
剣:ペイジ(ショート)
銃:アルバトロス改(スナイパー)
盾:対貫通バックラー硬(バックラー)
サリエルが佐々木と間の二人に放ったレーザーを、それぞれ左右に分かれて回避した後、地面を蹴ってサリエルの直下へ突撃する。
「叩き落としてやる!」
佐々木は大きく跳躍して正面から剣を振りおろしたが、横から乱入してきた二体のザイゴートが盾となってサリエルを守った。
「後ろなら……!」
間はこの隙にサリエルの後ろに回り込み、同じように剣を振り下ろしたが、またしてもザイゴートの突進によって突き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。
「ッッ!……いったた…………」
「ざまさんッ!」
「大丈夫! それより二人で叩き込むぞッ!」
二人がサリエルに再び挑むのを眺めつつ、青桐はレーザーを放ちながら周囲を観察する。
(ザイゴート……なんて数だ……もしかしてあのサリエルがザイゴートを統率してる?)
このまま放置しておけば周囲のアラガミがザイゴートの群れに気づき合流してくる可能性も高い。
「くそっ!邪魔なザイゴート共がッッ!」
佐々木が苛立った声をあげる。無理もない、同じショートブレードを使う二人が精一杯連撃を加えようとしても、ことごとくザイゴートに邪魔されてサリエル本体に傷一つつけられないでいた。
二人は赤レンガ倉庫の壁沿いまで後退し、青桐に指示を送る。
「青さん!銃撃を頼む!」
青桐も連射できるだけレーザーを放つが、サリエルの機動力とザイゴートの邪魔により、中々上手く当たらない。
「あのサリエル……まるで女神様だな…………ザイゴート達はその使い魔か」
間が発熱ナイフを構え直しながら呟いた。
「あぁ……逆に言えばあのサリエルを倒せば統率を失ったザイゴート達は散ってくれる可能性がある……でもあんまり長く戦うワケにもいかないんだよな…………」
佐々木が呟き返すのを聞きながら、間は少女が隠れた収納庫を横目で見る。大きさ的には少女の体がすっぽり入るぐらいだから息苦しくはないだろうが恐怖はあるはず。パニックでも起こして収納庫から飛び出してくるような事になれば、アラガミにとっては格好の獲物だ。
「塵も積もれば山になるとは言うが、ザイゴートもここまで集まると驚異的だな、多分支部にも何かしら警報が出ているだろ」
間と佐々木は空を見上げる。いまや、ザイゴート達は空を埋め尽くさんばかりに密集していた。
「嘘だろ……こんな大量のザイゴート……! ざまさん一旦逃げて応援を!……どした?」
間はこの状況にも関わらず不敵な微笑を浮かべていた。
「今日は食事に困ることはなさそうだねぇ……しかしそれにはあのサリエルは邪魔でしかない……下僕共を喰うのに主の許可を得るほど私は礼儀正しくないからな」
佐々木は間の神機が一瞬妖しく光るのを見た気がした。この状況下で頭がおかしくなったのかと思ったが、元々頭のおかしいと言われている間にその疑いは不要だった。
「何? ざまさんこいつらに勝つつもりでいるワケ……?」
「別段全てに勝つつもりはない。あのサリエルを倒し、残ったザイゴートを喰えるだけ喰えばいいだけの事だ。ああ、サリエルはお前らが喰えばいい。正直サリエルは野菜っぽくてあまり好きじゃない」
佐々木は恐る恐る聞いたつもりだったが、間は興奮したように喋り出した。間は…………本気だ。
「しばらくそこの収納庫を守っていてくれないか? ちょっと確かめたいことがある」
間は神機で収納庫を示すと、再びサリエルのいる方に走り込み、ジャンプして神機を振るったが、今度は盾に入ったザイゴートの方を狙って叩き落とした。間は狙いをサリエルではなく、サリエルを守りに入るであろうザイゴートに変えたのだ。
力任せに振るわれた神機に抵抗できず、半死の状態で地面へ叩きつけられたザイゴートの近くに着地した間は、何を思ったかザイゴートの頂点部に蹴りを入れた。神機でない部分なので実質的なダメージは与えられないが、間はかまわず脚でグリグリといじったり、何度も蹴りを入れた。
(やっぱりか……これだけわかれば充分だ。あとは急いで……)
間はもはや瀕死となったザイゴートを捕喰してバーストし、急いで佐々木のもとへ戻った。
「ざまさん何やってたんだ? 唐突にザイゴートをいじめたりなんかして……ていうか危ねぇじゃん」
「それは心配してくれてるの? まあいいや、とにかく突破口が開けたぞ。ザイゴートの頭の部分は足で踏んでも問題ないんだ。クラゲと同じだな」
人差し指を立てて説明する間に、佐々木はつくづく不審に思わざるを得なかったが、すぐ何が言いたいかわかりかけてきた。
「ざまさん……お前まさか」
「遊び心のあるお前ならわかっただろ? そら、くれてやる!」
間が受け渡してきたアラガミ弾の効果で、佐々木がリンクバーストする。
新型神機使いは捕喰してアラガミバレットを取り込んだ後、それを再変換して他の神機使いに受け渡すことができる。受け渡された側は【リンクバースト状態】となり、通常のバーストより段違いに効果が高い。これは重ねがけが可能だが、神機使いの体を考慮して一度に三回までとなっている。また、リンクバーストした者は通常のアラガミバレットの何倍もの効果を持つとされる【濃縮アラガミバレット】を放つことが可能になる。
(確かにこいつの言いたいことはわかる……でもそんな曲芸じみた事が俺たちにできるのか?)
佐々木が考えをまとめる前に数体のザイゴートが二人に突っ込んできた。
「そら来た!受けとめてやるぜぇ?」
間はすかさず神機の刃先を目標に向け、捕喰形態へ変える。避けることをせずそのまま突進してきたザイゴートは、口を開けた神機の真ん中で舌のように震える発熱ナイフに突き刺さり、そのまま神機に食い潰された。
佐々木はリンクバーストによって強化された身体能力を生かし、素早い動きで残りのザイゴートを切り払った。再びバースト状態と化した間も狙いを定める。前衛を落とされたザイゴート達がさらに数体、一斉に滑空してくる。
二人はその位置で真上に跳ね、勢い余って彼らの真下に来たザイゴートを踏み台にさらに高く飛び上がる、今度は近くにいるザイゴートに飛び移り、間髪入れずにさらに遠くのザイゴートに飛び移り……を繰り返して、ザイゴートを踏み台にする事で巧みに空中を駆けていた。
「な……何やってんのあいつら?」
オラクルが切れて手動でリロードしていた青桐の目に、間と佐々木がザイゴートを踏み抜きながら空を駆ける光景が映った。
サリエルに近づけば近づくほど、ザイゴートの量は増えていく、それはそのまま二人の足がかりが増えることに繋がった。ザイゴートの多さを逆手に取った突撃作戦だ。
群がるザイゴート達を上手く使いながら、二人は渦を描くようにサリエルに近づいていく。慎重に……かく乱するように、二人のスピードは増していく。
サリエルも黙ってはいられない、何本ものレーザーを次々と放つが、サリエルを中心に円を描きながら移動する二人に当てるのは容易ではなかった。
二人の描く円の半径が狭まっていく……ザイゴート達も遠くからエアショットを放つが、いずれも当たることはなかった。それどころか、エアショットを放つために動きを止めた途端、青桐のレーザーの餌食となった。
(よし……充分距離を詰めた……今だ!)
「竜! 合わせろ!」
「……!」
間が最後のザイゴートを踏み込む、一歩遅れて佐々木もそれに続き、二回の斬撃がサリエルを斬った。両羽を削がれ、身体の内部まで斬られた女神……サリエルは急転直下、地に堕ちた。
「これで終わりだ……哀れな女神様よぉッ!」
振り上げた佐々木の神機が、容赦なくサリエルの上半身を裂いた。アラガミ特有の体液を撒き散らし、サリエルはついに動かなくなった。
戦闘態勢を解いて青桐の所に戻った佐々木は、休憩がてら屋根に腰を下ろす、下では散開していくザイゴート達を、間が手あたり次第に捕喰するという(アラガミにとっての)地獄絵図が出来ていた。
「あいつも物好きだなぁ……元からか」
青桐がどこからか取り出した水筒を飲みながらそれを眺めていた。
「それ何?」
「レモンティーだが?」
「頂戴」
青桐はため息まじりに水筒を佐々木に差し出した。佐々木は青桐のレモンティーを飲みながら、ふと戦闘中の事について思い出した。
(そういえばざまさん……収納庫がどうとか言ってたけど……あの収納庫に何か入ってるのか?)
青桐に水筒を返すと、佐々木は地面に降りて間が示した収納庫に近づいた。そっと収納庫の蓋を開けると……中には空色のタオルを抱える少女の姿があった。
(……誰?)
間はザイゴートを食い尽くすことに夢中でこっちには気にも留めていない様子だ。
「……あの……あなたは?」
少女が細い声でそう言った。どう答えようか迷った佐々木は、簡潔な自己紹介をすることにした。
「佐々木竜太郎、佐々木でいいぞ。フェンリル横浜支部の神機使い……ゴッドイーターさ」
佐々木の手を借りて収納庫から出てきた少女は、広がる光景に目を丸くした。無理もない、あれほど自分たちの生活を脅かしたアラガミなる存在が、今や動きを止めてそこら中にゴロゴロと転がっているのだ。その上間が捕喰活動で忙しいのが尚更混乱を生んでいる気がする。
「あそこにいるのは……まあ悪い人じゃないよ」
流石の佐々木もこれは弁解のしようがなかった。が、意外にも少女は安堵したようだった。
「はい……わかってます。あの人は良い人だと思いますよ」
少女が空色のタオルを胸元で強く抱いたのを見て、なんとなく間が何をしたか予想がついた。如何にも彼が考え付きそうなことだ。
「ちょっと待っててね、あの人今お食事中だから」
間がほとんどのザイゴートを捕喰し終えて、佐々木の元に戻ってきた。間は満足そうに神機を振るう。
「やっぱりザイゴートは卵のような味がして良い。あれを茹でる装置があったらいいのにな、茹で卵じゃなくて茹でザイゴートなんつって、ははは」
背筋が痒くなる事を満面の笑みで口走る間は、なるほどアラガミにとっての脅威かもしれない。屋根から降りてきた青桐はレモンティーを片手に「まあ……いつものことじゃね?」とごく自然な様子。
「さて、この子について聞かせてくれたまえ、ざまさん」
佐々木が少女の頭を撫でながら間に聞く。間は少女と出会ったいきさつを話した。
「ふーん、そんなことがね……」
青桐が納得の声をあげる。間が思い出したように聞き返した。
「そういえば、お前らはなんでここに?」
「俺と青さんはたまたま近くのサリエル討伐戦に行ってたんだよ、サリエルとサリエル堕天種を討伐してたんだけど、堕天種を討伐した直後にサリエルを逃がしちゃってさ、それを追ってたらここに来たってワケだ」
「そりゃ幸運だったなぁ」
仲良さげに話しているところへ、ようやく少女が声を出した。
「あの……」
「……?」
「あの……私、城咲理絵(しろさき りえ)といいます。助けてくれて……その……ありがとうございます」
少女……城咲はペコリと頭を下げた。セミロングの髪が音をたてて垂れる。佐々木は一目で将来美人になると予見した。
「怪我はある?遠慮なく言ってくれ」
「だ、大丈夫です……ご心配なく!」
特別無理をして喋っているわけではなさそうだ。珍しく間が異性に対して友好的なので、佐々木達はしばらく任せることにした。
(名前を話してくれたところを見ると、多少は心を開いてくれたということか……ここはあまり下手に喋るべきでは無さそうだな)
「構わないよ、話せるだけ話してみるといい」
「……はい」
城咲はゆっくりと話し始めた。
城咲の一家は横浜在住で、以前はよく横浜の海を見せてもらっていた。しかしアラガミが繁栄してからはそうもいかなくなった。
一家まとまって避難していたものの、その道中にアラガミに襲われてしまった。父親と城咲本人は軽傷で済んだものの、母親は重傷を負ってしまった。幸いにも一命は取り留め意識も回復したものの、寝たきり同然となってしまった。
城咲に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかった。寝たきりになった母親に見切りをつけ、父親が蒸発してしまったのだ。
母親も守れない、父親も押しとどめられない。まだ幼さを残す城咲が自分の無力さを呪うのに時間はかからなかった。やがて、それは自殺願望へと変わった。
現状、今最も確実な自殺方法は一つ、逃げも隠れもせず丸腰で表を歩くことだ。ただそれだけを頭に入れ、城咲はふらふらとこの旧赤レンガ倉庫に来ていた。
しかし、そこで戦う佐々木達の姿を収納庫の中から見ていて、自殺願望は遠く消え去っていた。勇敢に戦う救世主たるべき姿が、城咲の心に火を灯した。自分も神機使いになりたい。若さながらの純粋さがそう思わせたのかもしれなかった。
一通り聞き終えると、ざまさんは城咲や佐々木達も連れて、最初思想にふけっていた柵の所に戻る。
「ねえ城咲さん、君はこの横浜の海を……アラガミが出てくる前の海を覚えてる?」
「……?」
「このご時世、もうあの頃の海に戻すことはできないのかもしれない……だからあの頃の……平和だったころの海を忘れないで、心に留めておきな。辛くなったときに思い出せば、何か・・・・・・こう力みたいな物を感じ取れるはずだからさ」
「珍しくいい事言うんだな……なんかしまらなかった感があるんだが」
青桐が間を見て言う。間は構わず続ける。
「神機使いに限らず、私達人間はいつなんどきこの海が見られなくなるかもわからないんだ。だから、今生きてるこの一瞬も、大事にできる。それを覚えている限り、ここに生きていたって証になる気がしてね」
間は城咲に向き直る。
「何はともあれだ……騙されたと思って生きてみろ。例えどんな状況であってもね」
「……はい!」
ようやく城咲に活気が戻る。それは城咲の想いに、何かしらの変化があった証拠だった。
「あ、これ……」
空色のタオルを差し出す城咲の手を、間はそっとおさえた。
「持っておきな、中身は捨ててもいいけど、そのタオルは……そうだな……君が大きくなった時、君自身の手で返しに来てもらおうかな」
その意味は……それまでは絶対に生きろ、生きて待ってるから。傍で聞いていた佐々木達もその意味を察する。
「さあ、そろそろ行こうぜ。送るよ」
青桐が切り出す。4人が海に背を向けて数歩進むと、間が一人、再び海の方へ振り返った。
「…………うん」
そして、間に気付かず先に進む3人の方に向き直る。青桐や佐々木に挟まれ、出会った時とは打って変わって凛々しく歩いていく城咲の後ろ姿を遠目に見た。
(城咲理絵か……君ならなれるだろうな…………ゴッドイーターに…………生きて君の上官として共闘する日を待たせてもらおうかな)
間は神機を肩に担いで、3人の後ろに続いた。
潮風が間の上着を揺らす。今日という日は、城咲理絵という少女の心に強い光を照らした日。そして4人に『海』を残した日になった。
――To Be Continued――
三話目にしてはちょっと話がご都合主義というか、いい話すぎというかありきたりすぎというか、キザに決めすぎだったでしょうか?(汗)
旧横浜とはいいますが赤レンガ倉庫が舞台です。建物がまだ原型を残しているあたりがちょっと原作と差異がありますが、ご容赦ください……
今回はちょっとしんみりした間独壇場な話でしたが、次回は戦闘メインで派手にいきます。いつまでも小型ばかりが相手じゃありません!
とまぁそんなわけで、次回もよろしくお願いします。