フェンリル横浜支部「team coyote」   作:ざま菓子

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奥底に眠る過去と力……人には与えられるべきではない力と本能


その本能は…………紛れもない【喰欲】


ブラック・ヴェール

   

 夢を見ていた。神機使いになる前のような気がする……。

 フェンリルの保護を受けようと横浜支部に大量の人混みが押し寄せていた。間は家族と生き別れ、飼い猫もみじを連れて周りと同じようにフェンリル支部へ向かっていたところだった。しかしあまりの人混みに耐えかね、仕方なく遠回りしようと考えたのだ。

(金港町、大野町、栄町、山内町という順番で・・・・・・大きく右回りで迂回すれば人通りも少ないだろ・・・・・・遠いが仕方ない)

 間はもみじを鞄に入れ、早足でルートを辿る。辺りでは活性化したアラガミが捕喰対象を求めて暴れまわり、時折アラガミが出す攻撃をかいくぐる事となった。

(生きて行けるかなコレ・・・・・・)

 それでもなんとか山内埠頭の近くまで来たときだった。間はどことなく異様な気配を感じた。

(!・・・・・・今までの気配と違う・・・・・・アラガミ?)

 一般人の間でもわかるただならぬ気配に全身が震えた。悪寒と鳥肌が身体を襲い、脳全体が得体の知れない何かで染められていく・・・・・・。

 間が不動の体勢で物陰をじっと見つめていると、突然そこから人の形をした何かが飛び出した!

(・・・・・・!!!)

 人のような何かは間が認識するより早く急接近し、間の両肩を強く掴んでいた。無言で取り落とした鞄の中でもみじが不安げに鳴いても、間は反応すらできなかった。

 やがて人のような「何か」はその口らしき部分を、まるで口裂け女のように大きくあけた・・・・・・間の顔より一回り大きい口の中には、鮫のような数の牙と、蛇のような舌と・・・・・・ただただ「邪悪」としか表現のできない何かが漂っていた。

 やがて両肩を掴んで大きな口を開けた「何か」は、一瞬で間の視界を覆った。

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!!」

 間は文字通り跳ね起きた。背中に冷たい嫌な汗が滴り、ベッドにはバケツの水をひっくり返したかのような水気を含んでいた。

(・・・・・・まさか、またあの症状・・・・・・)

 間は額を伝う汗を布団でふき取りながら荒い呼吸を整えようとするが、思考がまとまらずむしろ呼吸が荒くなるばかりだった。

(うぐっっ!!?)

 さらに突き刺さるような頭痛が彼を襲う。歯を食いしばり、片手でベッドシーツを強く掴む。

(まさか・・・・・・また・・・・・・・・・・・・っっ!!?)

 頭痛に加え、唐突な吐き気を催す。たまらずベッドから飛び退き、部屋の洗面所に嘔吐する。二日酔いとも食中毒とも受け取れない…………黒い嘔吐物が洗面台に広がった。

(やっぱりだ・・・・・・やっぱりあの・・・・・・)

 間はその異常な嘔吐物を睨む。嘔吐物はまるで墨汁やイカスミをさらに黒くしたような・・・・・・間はそれに見覚えがあった。

 思い出すより先にさらに数回嘔吐する。いずれも胃の内容物は一切出ず、その代りにただただ黒い液体が口から吐き出された。何処から来ているのか全く予想がつかないそれは、ゴポゴポと音を立てながら排水口に飲み込まれていく。

 やがて吐き気が収まり、頭痛も少しずつ引いていく、身体の負担が少しずつ解けていった。

(収まったか……)

 台所へ行きコップ一杯の水を飲み干す。汗ばんだ衣服を脱いでシャワーを浴び、汗を流しながら間は下唇を噛みしめた。

(ぐ……こっちに来てから全く症状が出なかったからてっきり治ったとばかり思ってたが……治っていなかった……やっぱりただの風邪じゃないな)

 東京本部に所属していた時も度々こういうことがあった。症状は主に頭痛と吐き気で、嘔吐物は大体あの黒い液体なのだ。東京本部の医療班や研究班に解析を頼んだこともあったが、何故か解答がなかった。

 しかし、この症状には不審な点があった。嘔吐するほど体調が悪いにも関わらず……。

(…………腹減った)

 食欲があるのだ、人間本来の食欲もあるのだが、それに併せて……アラガミへの食欲が強まっていた。シャワーにあたる腕輪に触れる。腕輪のついている手首が疼いているのを感じる。何かを渇望している……!

(このまま放置するのはよくないな……)

 シャワーから出た間は手早く着替え、髪も乾かぬまま部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

        アナグラ エントランス

 

 

 

「さて、困ったぞ。素材が足りない」

 エントランスに設置されているターミナルの画面をのぞき込みながら青桐は顔をしかめる。自分の神機を強化しようと思ったが、どうやら素材不足らしいのだ。しばらく任務に出ておらず不要素材を売却して食いつないできたツケがまわったようだ。

「あぁあ・・・・・・俺には緊急任務とか出されないからなぁ」

 攻撃力が高く強襲が得意な藤牧や、大人数での掃討戦や近接での連撃が得意な佐々木と違い、隠密行動を軸とする行動指針の青桐には緊急出撃任務にお呼ばれされることがあまりない。当然、素材面でも金銭面でも不足しがちなのだ。

「しょうがねぇな、たまには任務に出かけて素材ついでに金を稼ぐとしましょうかね」

 青桐はミッションカウンターに立つ白花にフラフラと歩み寄る。

「白花さ~ん、今発注されている任務ってある?」

「そうですね・・・・・・こちらになります」

 白花は手元のノートパソコンを操作すると、一覧を表示して青桐に見せてきた。発注任務の一覧だ。

「あんまりねぇなぁ」

「良い事じゃありませんか」

「そりゃそうだけどよぉ……」

 ふーむ、と青桐は一覧を流し読みする。その中に一つ、適当な任務を選び取った。

「よし、じゃあこれ受けるわ、手続き頼むな」

「これですね、了解しました」

 

 

 

 

ミッションタイトル:旧江の島奪還作戦

作戦地域:旧江の島

概要:対アラガミ装甲壁で守られていた旧江の島だが、先日装甲壁が一部破られた。破られた所からグボロ・グボロ多数が島内に侵入。既に陸地に上がって捕喰活動を開始している。島内に避難させていた住人達を移動させるのは危険と判断し、今は島内の大型避難場所に大半を集めている。島に上がっているアラガミを掃討し、島からアラガミを追い出してくれ。

備考:この任務は装甲壁の整備班と協力して行う。また、グボロ・グボロには雷撃や貫通攻撃が有効だ。

報酬『随時歩合』

 

 

 

 

「江の島か……」

 江の島といえば青桐達の故郷から大分近い。確かにアラガミが繁殖した際、江の島も一般住民の避難場所に指定されていたのを思い出す。

「貫通攻撃なら得意分野だ、こりゃ楽勝だな」

 青桐が依頼書にサインを押そうとしたその時、エレベーターから間が現れた。

「おぉざまさん、丁度いいや」

 間は青桐を見つけると、足早に駆け寄ってきた。青桐の手元にある書類を見て、間はすぐに青桐の行動を察する。

「なんだ? 任務か?」

「喜べ、あの江の島で討伐任務だぞ」

「正確には防衛任務ですけどね」

 カウンター内から白花の穏やかなツッコミが入る。間は依頼書を流し読みして、ふむ、と一息。

「江の島か……懐かしいな」

「だろ? もちろんお前も来るよな?」

 間は依頼書を置いて懐をまさぐりながら答える。

「よし、私も行くぞ」

「うし、決まりだ。ほれ早くサインしろサイン」

 ようやく懐からボールペンを取り出した間は苦笑交じりに依頼書へサインする。白花はそれを受け取り、内側で手続きに入った。

「じゃあ兵装を整えて20分後に出撃ゲート集合でいいか?」

「うむ、貫通と雷撃ができる装備を忘れるなよざまさん」

 二人は一旦別れ、各々ターミナルを起動して兵装の取り替え要請に入った。

 

 

 

作戦及び装備情報

 

青桐拓馬 

剣形態:ペイジ新(ショート)

銃形態:強化レールガン 改(スナイパー)

装甲:抗属性バックラー改(シールド)

 

間遼太郎 

剣:超電磁ナイフ(ショート)

銃:虎獣新(アサルト)

装甲:抗汎用シールド(シールド)

 

 

 

 

 

         旧江の島上空 北西

 

 

 

 間と青桐の二人は神機を手に輸送ヘリで旧江の島の近くまで来た。ヘリの上から旧江の島を眺める。

「ふーん、江の島も無骨になったねぇ」

「だよなぁ、これじゃ景色が台無しだぜ」

 江の島の周りの海を囲うように対アラガミ装甲壁が建っている。上空に厚い雲が出来ているせいで、真昼間だというのに非常に暗い。旧江の島西部の森の中に鎮座するように、大型の倉庫のようなものが見える。恐らくあれが緊急避難場所なのだろう。逃げ残りがないとすれば、いま島内の人間は全員あそこに固まっていることとなる。

「なぁ、あの避難場所の防護は大丈夫なのかな?」

 間がヘリの窓ガラスをコツコツと指先で叩きながら青桐に聞く。青桐はオラクルパレットを整理する手を止めて大型倉庫を眺めるが、やがて。

「知らね」

 と……また作業に戻った。最も、大型倉庫に進行してくるアラガミを食い止めるのも今回の任務の一つなのだが。

 旧江の島は北へ続く橋で本土と繋がっていたが、対アラガミ装甲壁の設立に伴い、橋の外側から見るとまるで城門のような形の装甲壁で遮断されてしまった。また、島の周りの海を少し残して、海に直接装甲壁を打ち立てることとなっているため、島の人間からすれば、箱庭の中に海が見える感覚に陥るだろう。

 間達が乗るヘリから少し離れた場所に、もう一機大型の輸送ヘリが何機か飛んでいる。対アラガミ装甲壁の整備班が乗っているのだろう。

 装甲壁を直そうとすれば、アラガミがそれを妨害する可能性がある。島の内部に潜むアラガミが妨害するのを防ぐために、間達はアラガミ達の気を引き続けていなければならない。だからこその協力任務だ。

「そろそろ作戦開始時間ですよ」

 ヘリのパイロットが教えてくる。間と青桐は山ノ丈から支給された改良型インカムを耳につけ、神機を握る。

「装甲壁の整備班が指定の場所に到着したらすぐに作戦開始です。降下準備をお願いします」

 パイロットがヘリの高度を落としていく。着地した時の身体の負担を減らすため毎回パイロットが配慮してくれる事だ。二人の着地地点、及び作戦開始地点は島の城門一歩手前、つまり本土からの橋の上となっている。二人はじっと島を見据える。

「さて、行きますか。青さん」

「お前と二人でやるのは初めてだよな、ま頑張ろや」

『こちら整備班、作戦開始場所に到達!』

「了解、ゴッドイーター、作戦を開始する!」

 間の合図でヘリのドアが開かれ、神機を握りしめた二人が橋の上に降り立った。

 暗い曇天の江ノ島へと続く橋の上に着地した二人、青桐が島全体を見回している間に、間がPDAで地図を確認する。

「ざまさん、俺は外回りで森から、お前はこのまま真っ直ぐ進まね? 多分ざまさんとこの方がアラガミ多いと思うんだけど」

「望むところだ、分担仕事は嫌いじゃない」

 江の島に延びる県道305線を進みながら簡単にブリーフィングを済ませる。ブランクのある間とは違い青桐はここらの地理に詳しいらしく。さっさと県道を逸れて住宅地に紛れていった。

(ここは比較的原形を残してるなぁ……)

 恐らく装甲壁で囲ってしまう時にアラガミの掃討作戦があったのだろう。ここは他と比べると以前の姿をほぼ完全に保っていた。島に入ってすぐ左に大きな公園が見え、正面から右方面にかけては住宅地やホテルが建ち並んでいる。装甲壁が破られる前まではここにも多少は人の気配がしたのだろうが、今は何も感じ取れない。まるで町そのものが瞬時に気を失ったかのようだ。

「おっと、先客かな?」

 間が行く手に、横から大きな影が飛び込んできた。大型車のようなでっぷりした巨体を持つ魚型アラガミ、グボロ・グボロだ。

(ッ! …………腕輪が……)

 見ると、間の腕輪から黒い気体が揮発していた。さらに腕輪から黒い何かが、まるで木の根のように腕輪や神機本体、さらには神機を持つ手に模様として浮き上がっていた。

 グボロ・グボロが間に敵意を向ける。大きな口を開けて咆哮した直後、そのでっぷりした体からは想像し難い移動速度で突進してきた。

(!)

 間はなるべく無駄のない動作で突進攻撃を避ける。そのまま回転攻撃で背後から迎え撃ち、間髪入れずに捕喰形態で食らいついた。釣り針にかかった魚のように暴れるグボロ・グボロを神機の口が強引に押さえつける。ヒレのつけ根部分に食らいついた神機を強引に引き抜くと、神機がグボロ・グボロの組織を引きちぎって黒い鮮血が散った。グボロ・グボロが早速悲鳴を上げ、口を開いた神機から逃げるように離れる。間は一旦距離を取り、バースト化した。心なしか、いつもよりバーストしたときの高揚感が強い気がする。

(よし、これでヒレの片方は思うように動かせないはずだ……!)

 グボロ・グボロの攻撃の予兆を間は見逃さない。さらに距離をとりつつ、装甲を開く。間は次の攻撃を予想する。

(多分あの溜めは砲塔からの放水攻撃だ。あの水圧をモロに食らったらひとたまりもない……)

 予想的中。グボロ・グボロの額に生えている大きな突起物から、直径2メートルはありそうな水球が数発発射された。その内被弾したのは一発だけだったが、それだけでも間の足が後ろへ滑った。

(ぐ……重い)

 グボロ・グボロの放水能力は消防車のそれを遥かに超える。当然生身の一般人が受ければただでは済まないし、例え身体能力が上がっているゴッドイーターでもかなりの衝撃を受ける。神機の装甲で受けても、使用者の力が弱いと押し負けてしまう事だってある。

 ちなみにグボロ・グボロの発射する水には特別毒性があるわけではなく、水圧で弱らせ、大量の水で獲物の行動力が落ちたところを捕喰する習性がある。

(だが、放水攻撃の後は少し動きが鈍る……!)

 海が近いという地理的都合上、横浜支部ではグボロ・グボロの討伐は極めて日常的な任務内容だ。その分横浜支部所属の神機使い達はグボロ・グボロの扱いを心得ている。

 間は水で濡れた道路を駆け、開いた距離を限りなく縮める。佐々木から学んだ『流れるような斬撃』で、大きな魚体を斬りつつ背面に回り込む。

 一瞬の判断で相手の隙を見抜き、超電磁ナイフを突き立てた。そのまま横に引き裂き、再び魚体から退く。電撃を伴う斬撃を受けたグボロ・グボロは、電気のせいか全身に痙攣を起こした。

 そんなグボロ・グボロを真正面から捉え、神機の口を大きく開ける。手首から伸びるひびのような黒い何かは、さっきよりも腕の付け根や神機の先端に近づいていた。そこから感じる嫌な感覚をなるべく気にしないようにして、神機の口をグボロ・グボロに向ける。

「さて、江の島の魚はどんな味がするのやら・・・・・・!」

 大きな口を開けた神機を、グボロ・グボロの頭部に突き刺す。口の中を舌のようにうごめく神機の刃先が食い込み、捕喰本能全開の神機は魚体を喰い裂いていく。やがて、魚体の頭は完全に食いちぎられた。

「はぁ……はぁ……」

 グボロ・グボロがすっかり動かなくなった後も、間は無心に捕喰形態の神機でそれを喰い続け、ついには魚体の一部さえ残らず食い尽くしてしまった。

(オラクル濃度が高いのか……一匹だけで大分落ち着いてきたな……)

 以前ならグボロ・グボロであれば5体前後は食い尽くしてようやく満足だったが、この一体だけでも衝動がかなり落ち着いてきた。それと同時に腕や神機に這いずる黒い物も引いてきた。しかし……何故か呼吸が荒くなる。

(落ち着け……冷静に……冷静に……)

 少しずつ、平常を取り戻す。すると直後無線が鳴った。耳元のインカムを作動させる。

間:『はい、こちら間です』

整備班:『こちら整備班、ゴッドイーターのお二方、今回は宜しくお願いします』

間:『そりゃまぁ……随分遅い挨拶なことで……』

 近くにあった車の残骸に寄りかかって悪態をつく、無線を聴いてか聴かずか、青桐が乱入してきた。

青桐:『あー整備班さーん。今回の報酬少なかったらご飯おごってくれませんかー?』

整備班:『ははは、わかりました。その代り逆だったらおごってくださいよー、可愛い子連れていきますんで!』

(なんなんだこいつらは…………)

 通信を切ってやろうかと思ったが、とりあえず我慢して先を促した。

間:『それで、ただの挨拶無線ってわけじゃないでしょう?』

整備班:『あ、はい。再確認になりますが今回の任務は私達との合同任務となっております。それについて追加情報がありまして……』

青桐:『ほほう、どういうことだね?』

整備班:『装甲壁の破損間所は二ヶ所、うち一ヶ所は水中です。よってダイバーによる修理を行うことになります。水から出ている破損間所はなんとかなりそうですが、水中の方は難航する見立てです。それに加え、島内にグボロ・グボロの反応が多数見られます。修理中のダイバーが襲われる可能性が考えられます』

間:『今、水中にいるグボロ・グボロの数は補足できてますか?』

整備班:『今の所、装甲壁内部の海中アラガミ反応はゼロ、ですが時間の問題でしょう』

青桐:『ざまさん、どうするよ?海に入られたらほとんどゲームオーバーじゃねえか』

 間は口元に指をあてて考え込んだ。瓦礫から離れて江の島をさらに南下する。

 普通神機使い達は、アラガミが陸に上がったところを討つので、海に入ることはほとんどない。水中に入る時はそれに対応した改造を神機に施すものだ、しかし今回その改造を施しておらず、この状態で海に神機を突っ込もうものなら、オラクル細胞による電撃が海中を駆け回ることになるだろう。現時点では水中戦はほぼ不可能だった。追い込んだグボロ・グボロに飛び込まれたらアウト……ということになる……そして周りは海だらけ……。

青桐:『あれ? 俺ら超不利じゃね?』

 同じ思考を辿ったと見える青桐が能天気にそう告げる。間は初めて事態の深刻さを知った。

(不味い、江の島で隠れられるのは住宅密集地か森の中、町周辺はともかく森の中から海に飛び込まれたらもはや対応できない。しかも町周辺にほとんど気配がないとなると…………)

間:『青さん! そっちに気をつけろ!』

青桐:『はぁ?』

間:『私の予想が正しければ、グボロ・グボロはほとんど森の中にいる!』

青桐:『何だとッ!?』

間:『青さんの装備じゃ複数同時に相手できない! 私の指示に従ってくれ!』

青桐:『分かった! で、どうすりゃいいんだ!?』

間:『島の南部に赤レンガみたいな倉庫があるの分かるか!? そこに移動して、ヨットハーバーを見渡せるところに潜伏してほしい! そこで援護狙撃してもらう!』

 返事を待たずに無線を切った。間は神機を持って道沿いに走った。

 

 

 

 

 

 

         江の島 森林内

 

 

 間達の連絡を受けた時、青桐は忍者のごとく森の中に隠れ潜んでいた。

 無線を切り、PDAで位置を確認する。しかし・・・・・・。

「・・・・・・しまった、ジャミングされてら」

 アラガミがジャミング電波でも飛ばしているのか、はたまた森の中だからか、PDAには英語でジャミングパターンB・・・・・・敵情報認識不可を示すエラーメッセージが表示されていた。わかるのは位置情報と地図だけ。遠方からの狙撃を自らの行動指針とする青桐にとって、敵の場所が事前にわからないのはかなり辛いハンデだった。

「えーと、ヨットハーバー? ったく、こっちは江の島に詳しくねぇんだがなぁ……」

 実を言うと、青桐はあまり江の島の地理には詳しくなかった。仕方なくPDAを頼りに大体の位置を探る。

(にしても・・・・・・わざわざ俺を呼び出したってことは、この状況下でグボロ・グボロ達を一掃できるってことなのか? だとしたらどうやって?)

 グボロ・グボロ達の居場所がわからない以上、むしろ手分けして探した方が効率的だということぐらい、間でなくともわかるはずだ。にも関わらず呼び寄せたということは、間に何か策があることを示唆する。

(それにしたって折角森の中に隠れてたんだから、森の中から撃ちたかったよなぁ・・・・・・)

 青桐が愚痴をこぼしかけたその時だった、彼の周囲を多数のコクーンメイデンが取り囲んだ!

「な・・・・・・!?」

 深い地中を潜ってきたのだろう、コクーンメイデンがどこからともなく突然現れるのはよくある話だ。青桐は神機を強化レールガン改からペイジ新に切り替え、鋭く尖った先端を光らせる。

「狙撃手だからって近接戦が苦手だと思ったら大間違いだぜ、野郎共!」

 青桐はペイジ新片手に飛びかかった。

 

 

 

 

 

       江の島 ヨットハーバー

 

 

 間はいち早くヨットハーバーに着いていた。

 ヨットハーバーに置かれているべきヨットは数隻しか残っていなかった。ヨットハーバーの建物は既にほとんど壊滅していた。皆撤去されたかアラガミに喰われたかのどちらかだろう。対アラガミ装甲壁により保護された区間なので、道路陥没などの被害は限りなく少ない、所々に見られる瓦礫などはまだ出来て間もなく、今回の討伐対象によるものであることが容易に想像できた。沖合には対アラガミ装甲壁が高くそびえ立っている。その壁にへばりつくようにして修理を行う整備班の姿も見えた。

間:『こちら間、どうですか? 修理の方は?』

 無線の向こうでは、風の音に阻まれながら整備士の声が聞こえてくる。

整備班:『あぁ間少尉、現在一カ所目を修理中ですが今はまだ順調です、海中のアラガミ反応もありません!』

間:『そうですか、そのままがんばってください、こちらでも全力を尽くします』

 それだけ言って、間は無線を切った。

(さて・・・・・・あとは青さんの連絡を・・・・・・・・・・・・)

 今後の行動を確認しようとしたその時。

(ッ!!)

 突如、間は腕輪をつけた腕に苦しみを感じた。さっきのような、黒い木の根のような何かが腕や神機に浮かび始める。さらに、強烈な吐き気や頭痛が襲ってくる。

「ぐう……!!」

 朝と同じ症状が間を襲う。言い知れぬ不快感と強力な力が間を押しつぶそうとしていた。たまらず、口に上ってきた物を吐き出す。それは朝と同じく、黒いドロっとした液体だった。

 朝と同じように、少し時間を置くだけで少し頭痛が引いた。冷静を取り戻してきた意識で無理やり作戦に取り掛かる。

(あれは確か秋刀魚だったか……いくつかの魚には光に集まる習性がある……水中に潜むアラガミは当然魚を食ってるはずだから、その習性を学習しててもおかしくはない。とすれば……)

 間は上着のポケットからスタングレネードを取りだした。ピンを抜き、神機をバット代わりに野球の要領で空高く打ち上げる。数秒経って、空に太陽の如き光の球体が生まれた。

 軍用のスタングレネードを改造して作られたフェンリルのスタングレネードは二種類あり、ひとつは軍用のものをそのまま使用した、光と音を出す閃光発音筒、もう一つは音を出さず、強力な閃光だけを発する閃光手榴弾。神機使い達が任務に出るとき、基本的には後者が支給される。

 間は辺りを警戒しながら、さらに何個かのスタングレネードを打ち上げた。無人のヨットハーバーに何回も閃光が灯る。さらに十数秒後…………ようやく変化が現れた。

(予想通りだ……)

 計画通りの事態に、思わず微笑がこぼれる。どこからか微かに地鳴りのような音、それは段々大きくなり、やがて正体を現した。

 物陰から次々とグボロ・グボロの魚体が現れ始める。建物の陰、瓦礫の影、そこかしこから魚体が間に向かって突撃してくる。ついにそれらは間を取り囲むまでの数になった。

(…………えぇ? いくらなんでも多すぎないか?)

 余裕が消える程の事態だった。この島内のどこにどう隠れていたのか、ざっと見ても10体以上のグボロ・グボロが間を取り囲んでいる。

(一応、悪い状況にならないように誘い込んだつもりなんだけど……失敗したなこれは)

 間の腕輪が疼き始めた。

 

 

 

 

 

       同刻 森林入り口

 

 

 ちょうど同じ頃、青桐は強化レールガン改を担いで海沿いを走っていた。

(さっきの光はざまさんのに違いない……! スタングレネードを連発するなんて……一体何があったんだ!?)

 さっきコクーンメイデンの群れを一掃した時、町の方から閃光が上がった。その直後森の中を何体かのグボロ・グボロが脇目もふらず大地を揺さぶらんとばかりに町へ突進していくのを陰から目撃した。

 間に指示された地点に滑り込み、神機に取り付けられたスコープを通してヨットハーバー周辺を覗く。そこにグボロ・グボロが群れを成して何かを取り囲んでいる光景が映った。

(……まさか!)

 照準をつけつつ無線に触れた。

 

 

 

 

 

        ヨットハーバー

 

 

(ぐぅ……こんな時に再発かよ……!)

 腕輪を中心に広がる苦しみに顔をしかめる間に通信が入った。しかし無線に出る前に一体のグボロ・グボロが飛びかかってくる……!

(……!)

 空気摩擦で微かに放電する超電磁ナイフを振りぬき、魚体が真っ二つに分断された。まるで弾かれたように、そういう風にプログラムされたロボットのように、間は驚くべき反応速度で魚体を切り落としたのだ。

(……やっぱりこの症状が現れると、何故か戦闘能力が上がるんだな……)

 複雑な気分で無線をつける。

間:『間です、要件を手短……』

青桐:『ざまさん! どういう有様なんだ!!?』

間:『青さんか? 私が言ったところに来ただろうな?』

青桐:『あぁついたんだが……』

間:『そこから私を援護してくれ! 多分島の中のグボロ・グボロはこれでほとんどだ! 頼んだぞ!』

 間は一方的に無線を切った。青桐は背中に冷たい汗をかきつつ、再びスコープを覗く。間は周囲を取り囲むグボロ・グボロに神機を構えた。

 間は魚体と魚体の間を通り過ぎざまに超電磁ナイフで一閃する。さらにその隣の魚体が振り向くより早く、無防備な背面を超電磁ナイフで抉り、素早く切りつける。グボロ・グボロだけで構成された包囲網は、たった数秒で崩された。

 さらに、遠方から飛んできた数本のレーザーが複雑に蛇行して何体ものグボロ・グボロを同時に貫いた。全体の動きが大きく鈍っていく。

(ナイスだ青さん……!)

 普段は出せない強力な力で超電磁ナイフを振り回す、酒が回ったような高揚感が間を踊らせている。その様子に青桐は違和感を抱いていた。

(なんだ……なんなんだあの動きと戦い方は……これまでとは全く違うじゃねぇか!?)

 スコープの倍率を上げて間の姿を捉える。そこに映り込む間と、間の神機に青桐は目を見開いた。

(ざまさんの腕と神機に……何かひびが……いや、模様が浮かび上がっているのか?)

 間の腕輪を中心に、間の腕と神機に黒い何かが這いずっているように見えた。まるで木が土に根を張るような……そんな光景をスコープ越しに見た。

 間は狂ったように魚体を切りつけ、執拗に喰らい続けた。間の服がグボロ・グボロの返り血で染まる。

 間の狂乱と青桐のレーザーが陸の魚群を殲滅していく、やがて最後の一体を灯台の傍まで追いやった。

「ざまさん! 逃がすんじゃねぇぞ!」

 間の異変を頭の片隅に追いやって青桐が叫ぶ、捕喰形態にした神機を手に、間はグボロ・グボロの魚体に喰いついた。反撃の余地もなく、グボロ・グボロはものの一分もしないで動かなくなった。

 無我夢中の間が最後の一口分まで食い尽くした時、無線が鳴った。

青桐:『こちら青桐』

整備班:『あ、青桐伍長! アラガミ装甲壁、全て修理完了です!』

 無線の向こうから整備班の元気な声が聞こえてくる。出撃時の人と違い、若い女性のようだ。女性の声を聞くや否や青桐の口調も明るくなる。

青桐:『おお終わったのか! アラガミ反応は!?』

整備班:『水中にはなし、江の島の避難場所にも連絡を取りましたが異常なし、島内のアラガミ反応は先ほど、全て消失しました!』

 それを聞いて、青桐は安堵の息を吐いてその場に座り込んだ。

青桐:『じゃあこれで任務完了かい?』

整備班:『はい! こちらのヘリに余裕があるので、お二人もこのヘリでアナグラへ帰投していただきます』

 フェンリル支部の建物や拠点、神機使いやフェンリル所属の人間が生活する居住空間をアナグラという。横浜支部のアナグラは必然的にランドマークタワーだ。

青桐:『じゃあすまないけど迎えに来てくれ、江の島南東の灯台の所にいるから』

 そう言って無線を切って初めて青桐は違和感に気づいた。『間が何も話さない』のだ。

「ざまさん……?」

 間は先のグボロ・グボロを食い尽くした場所から一歩も動かずに立ち尽くしていた。腕や神機の黒い何かがまだ残っている。表情は見えないが、様子はどこか虚ろげだった。

「ざまさ……」

 青桐が間の身体に触れようとした直前、腕や神機を侵蝕していた黒い何かはゆっくりと消えていった。

 

 

 

 

 

 同時に、間は糸が切れた操り人形のように、その場に倒れた。

 

 

 

 

 

「ざまさん!!? どうしたおい!」

 青桐がどんなに声をかけても、間は起きなかった。幾秒か経って整備班のヘリが到着し、二人と神機を運んでアナグラに帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

     フェンリル横浜支部アナグラ  神機整備室

 

 

 

 不安と混乱に揉まれ、病室へと運ばれる間を見送った青桐は、直感に従って神機整備室へと向かった。

 神機使い達の神機を整備、調整する体育倉庫のような巨大整備室では、上下をデニム地で揃え、動く度に揺れるショートヘアから小顔を覗かせている小柄な整備員、天野雪(あまの ゆき)が困惑した表情で動き回っていた。小顔且小柄な体型の彼女はまだ大学生か高校生ぐらいにも見えるが、立派な22歳である。横浜支部では神機を壊した旨で世話になる存在であり、青桐もその節で何度か顔を合わせるようになった口だ。

 整備室に入ってきた青桐の姿を見つけると、天野は資料を両手に抱え、ぱたぱたと駆け寄って来た。

「青さん! 丁度いいところに来てくれた」

「あぁ、ざまさんの神機あるかい?」

 天野は佐々木や藤牧達とも交流があり、青さん、ざまさんのようなあだ名も教えてもらっている。といっても、まだ会って日が浅いからか自分から呼ぶときだけは少尉づけだが。

「さっき神機情報の読み取りが終わったところなんだけど…………ちょっとこれ見てくれない?」

 天野は近くの机に両手に持っていた資料を広げ、A4用紙が数枚束になった内の二枚をつまみ上げ青桐に突き出した。

「……?」

「こっちは神機内のオラクルの内訳、もう一枚は間少尉の腕輪のオラクルの内訳なの、普通に考えてこの二つからは同じオラクルが検出されるはずなんだけど……」

 神機使い達は適合試験の際、腕輪との神経接続を行う、腕輪にはフェンリルが人工的に調整したオラクル細胞や偏食因子が埋め込まれており、神機使いの体に定期的に静脈注射するのだ。神機本体も同様に出来ていてさらにリンクしているが故、この二つからは当然同じ内訳が出てくるはずなのだ。

「ここ、ここ見て」

 天野は蛍光ペンで線を引かれている部分を指さした。青桐はその部分を凝視するが、何が言いたいのかさっぱりわからない。

「……これがどうしたん?」

 青桐が素直にそう聞くと、天野は別の部分を指さしながら説明する。

「これが皆の神機や腕輪から検出される、いわゆるP53偏食因子とアーティフィシャルCNSね、普通はこれが二つの大部分をしめているの……ところが」

 二人の間に沈黙が続く、整備室に響く騒音の中で、天野はどう伝えればいいのかわからないようだった。

「ちょっとこっちへ……」

 天野は青桐を手招きしてエレベーターに乗り込んだ。青桐は整備員の休憩室へと案内された。

「ごめんね、わざわざ連れまわしちゃって」

 紙コップに入ったスポーツドリンクを二人分持って、給湯室から出てきた天野はまだ困惑した表情をしていた。

「別にいいけど……どうしたんだ? 顔色が悪いというか、胸がないというか」

「胸がないのは元からだよ失礼な」

 青桐の冗談のおかげか、少しだけ表情が明るくなった。受け取った紙コップはよく冷えていて、汗かいた身体を充分潤おせそうだ。

「まあいいや……で、さっきの話だけど」

 青桐の手に持ったままの資料を見やって、天野は丁寧な口調になって説明した。

「さっきざっくりと話したように、本来神機使いの腕輪からはP53偏食因子が、神機本体からはアーティフィシャルCNSが主に検出されるの、これはわかるよね?」

「うん、身に染みてわかる」

「また、整備室の設備で神機本体から色んなデータを検出できるんだけど……、これが青さんの能力データ、これが間少尉の能力データ……これを見て、すぐに思うことは?」

 二枚の紙を見比べて、青桐がすぐに変化に気付いた。

「ざまさんの数値が高いな……」

「その通り、色んな人の神機のデータと見比べてみたけど、間少尉の神機のデータ数値が以上に高かったの、転属してから今までは普通だったんだよ? それに……間少尉の腕輪と神機本体の両方から検出されたデータが……」

 天野はもう一枚の資料を差し出した、そこに大きく書かれた文字に青桐は思わず声をあげた。

「名称不明!?……照合不能のデータが出てきたってことか!?」

 一般的に一度検出されたデータはターミナルのデータベースに登録される、本来照合不能のデータが検出されることは極めて稀で、昨今では新発見されたアラガミのデータでもなければ大抵は既存データと照合できる。増して今回はグボロ・グボロくらいしか表立って倒していないのだから、採取されるデータは全て正体がはっきりしているはずだった。

「……解析グループや研究班に依頼したんだけど……まだ解答はないの……」

「つまり……ざまさんの腕輪や神機から正体不明の何かが出てきたってことか」

「うん、それも腕輪の方には、P53偏食因子みたいに潜在的に埋め込まれたものがあるらしいの」

「今回の任務で初めて入ってきたものじゃないってことらしいな……」

 青桐は、任務中の間の様子を思い出した、腕や神機に浮かび上がる黒い何か……異常に上がった間の戦闘能力、任務終了と共に倒れた間。これらがもし、検出された正体不明の何かと関連があるとしたら……。

(やっぱり……ざまさんはただのゴッドイーターじゃなかった?)

 天野に資料を返すと、彼女は口元に指先を当てて考え込み、真剣な面持ちで青桐に言った。

「私の方でも調べておくから、青さんはこの事を他言しないように……噂が伝染して妙な事態になられても困るからね……」

 天野はそう言って整備室に戻って行った。青桐は複雑な気分のまま、病室の扉を睨みつけ、足早に自室へ入った。

(ざまさん……一体何があったって言うんだ……?)

 青桐はしばらく考えたが、結局答えは出なかった。間を覆う黒い闇は、簡単には晴れそうになかった。

 

 

                                     ――To Be Continued――




はい、ちょっと早い気がしますが物語は動き出しました。
間に現れた謎の症状……高まった戦闘能力に異常なまでの食への欲望。さらに突然昏睡に陥ってしまうという話でした。


いやぁグボロ・グボロちゃんが殺されるの書いてて楽しいれすげへへ(^q^)
最近やや予定が立て込んでまいりまして以降投稿が遅れると思われます。どうか気長にお待ちいただければと思います。

では是非次回もよろしくお願いします。
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