フェンリル横浜支部「team coyote」   作:ざま菓子

9 / 17
通すべき筋は通すべき。頭の悪い俺でもこれぐらいのことはわかる。
自分の思いを他人に押し付けて自分は何もせず生きようってのはあんまり好きじゃねぇな。


移動ヘリ内での藤牧の発言より抜粋


生きる意志

 

 砂のような地面、吹き荒れる風、暗雲、瓦礫。中部地方某所にあたるこの地はフェンリルの支部が未だに無く、ただアラガミに喰われるがままとなっていた。

 そんな新潟のある地域では、今、アラガミの雄叫びと銃の発砲音が鳴り響いていた。

「ッ!」

 アラガミは主に巨大なサソリのようなものが2体、白く、凍てつく氷を飛ばす巨大な白い虎のようなものが1体。さらに小型のアラガミが多数だった。

 それに対し、空しくもただの鉛の弾を打ち込んでいるのは、なんと小学生や中学生くらいに見える子供達だった。

 子供達はただ一心に、手に持ったアサルトライフルやサブマシンガンをアラガミに撃ち続ける。何故か? 現状それだけがアラガミに対抗できる手段だと信じているから、生きるにはこれしかないと信じているからだった。皆、死んだような目に絶望と恐怖を織り交ぜながら、アラガミに銃弾を浴びせる。しかし、その銃弾が巨大サソリの硬い鎧を貫くことは……無い。

「くそっ・・・・・・」

 子供達の一人、古田和(ふるた かず)はこの集団の中に入ってまだ日が浅かった。周りに習って銃の使い方を覚え、アラガミに銃口を向けるのに数日とかけなかった。まだ中学一年生なのに肉親はもういない。自分にできるのは、ただこれだけ。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 まただ・・・・・・また一人。アラガミにやられた。人の体などアラガミにとっては氷細工や飴のようにもろい。ゴリッ、グチャッと骨だか肉の音だかが、銃声の中からでも耳に入ってしまう。

 ここに居る子供達は皆、古田のような子供達だった。遺族を亡くし、アラガミに対する恐怖しかなくなった子供達。その恐怖を打ち消すために、こうして引き金を引くのだ。

「あぁっ! 嫌・・・・・・嫌だぁ!! ぎぇぁぁああ!!!」

 今度は小学生の男の子が一人、ツタンカーメンのようなアラガミの内部に引きずりこまれてしまった。次から次へと、一人また一人と数が減っていく。

 それでもやるしかない。何故ならあの人の命令なのだから。

 この子供達はある人間の指示に従って動いていた。逆に言えばその指示以外には特に動くことはない。いや、動けないのだ。

「アラガミに徹底的に対抗しろ! あいつらには銃弾が効かないなんてのはフェンリルの嘘っぱちだ! フェンリルの奴らは皆偽善者だッ!!」

 そう豪語するのが、子供達を取り仕切るリーダー。足立順平(あだち じゅんぺい)だった。お世辞にも紳士的とは言えない若いチンピラ風の男だ。彼はアラガミの影響で警察機関が機能しなくなったことを良いことに、銃の密輸を行っていた。元々麻薬取引をやっていたので、そちらも併用していた。

 しかし、そんな足立でもアジトを守らなくてはならない。しかし公的機関、増してやフェンリルに依頼もできない。しかしこのままでは居られない。

 そんな彼が目をつけたのが、親を亡くした小さな子供達だった。彼は子供達に銃を持たせ、アラガミの掃討を命じていたのだ。友達も家族もアラガミによって亡くし、半ば狂乱状態の子供達は、ほとんど洗脳されたかのようにアラガミに発砲する。掃討に反対する子供には、麻薬を打ち込んでまで銃を撃たせた。

 アラガミには確かに銃が効かないが、一部のアラガミに対しては足止めぐらいは可能である。といっても、足下に砂をまかれるぐらいの障壁でしかないが。

「・・・・・・」

 慣れてくると恐ろしいもので、まだ小学生かという子供でも、銃を持ち、無表情に……無感情に敵を撃つ。その様子はさながら、紛争地域の少年兵だった。仲間に入って間もない子供は皆悲鳴をあげたり、なかなか銃を扱えなかったりするものだが、慣れた子供達が悲鳴をあげるのは、アラガミに喰われる直前くらいであった。彼らの心など、とうに壊れていた。

 古田も友達の死を直視し、親の最期を見届け、さらに足立に打たれた薬物のせいもあって、恐怖という感覚が麻痺しかかっていた。正気が削れ、何もわからなくなっていく。

 子供達は廃墟群となった市街地へ退避した。それを面白がるかのようにアラガミはじわじわと後を追ってくる。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・げほっ」

 古田の後ろで、自分と同じぐらいの歳の女の子が息をあげていた。無理もない、荒野からアサルトライフルを持ってかなり走ってきたのだ。古田は手を差し伸べる。同情? そんなものじゃない、ただ戦力が減るのが惜しいだけだ。

 確かこの子の名前はなんといったか、肌がまだ綺麗だし、服もあまり汚れていないのを見ると、おそらく自分と同じで入ってから日が浅いのだろう。古田はぼんやりとした頭でそう思った。女の子の短い髪が恐怖に震える。

「げほっ・・・・・・がはっ・・・・・・はぁ」

 喘息でも持っているのか、それとも吹き荒れる風で砂でも吸い込んだのか、女の子はなかなか呼吸が安定しない。気づけば、古田はその子に肩を貸していた。他の仲間は? 少なくとも周りにはいなかった。

 市街地、商店街のような通りに出た。古田はアサルトライフルを後ろに放ちながら女の子を担いで走る。女の子は・・・・・・不思議と軽かった。

 何故、自分は足を遅らせてまで、仲間に置いていかれてまでこの子を連れているのだろう? 仲間達が自分にそうしたように置いていけばいいじゃないか、この子でアラガミの気を引いている内に逃げればいいじゃないか? 何故そうしないのだろう。古田ははっきりしない頭で自問自答しながら、反射的にアラガミに銃を放つ。

「・・・・・・!」

 カチッ、と軽い音がしたと思うと、アサルトライフルから弾が出なくなった、弾が切れた。女の子を担いでいる以上走りながらのリロードはできない。その女の子も、今は戦える状態じゃない。近くに仲間がいる様子もない。

 女の子を担ぎ直し、古田は銃を捨てて全力で走った。自分が生きるために、しかし何故、自分がこの女の子を担いでいるのかは、わからなかった。

 アラガミの攻撃を回避して一心に走り続け、ふと顔を上げると、そこは行き止まりだった。左右には5メートル以上はある商店の廃墟、今来た道は幅があったが、その先には巨大サソリがゆっくりゆっくり近づいて来ていた。古田は初めて自分のはっきりしない頭と後悔した。いつの間にか、自分達は追い込まれていたのだ。逃げるつもりが、追いつめられていたのだった。

 古田は力無くその場にへたり、女の子を壁にもたれかけさせた。何か悪いものでも吸い込んだらしく、ぜぇぜぇと涙混じりに必死で呼吸しようとしている。もはや無感情となった古田には同情もできなかった。古田は澱んだ目で、目前の巨大サソリを見る。不思議と恐怖はなかった。ただ、諦めが残った気がした。

 目前に迫る巨大サソリ、その尾の先についた柱を思わせる巨大な針が、古田に目標を定めたその時だった。

 巨大サソリの背後上空から数本のレーザーが大きく弧を描いて飛来、それらが巨大サソリの鎧を貫通したかと思うと、左右の商店の屋根から飛び降りてきた男の人が三人、古田達をかばうように立ちはだかった。男達の手には、見たことのない巨大な剣や銃らしきものが握られていた。真ん中の男が、耳についているイヤホンを押さえながら言った。

「こちらチームコヨーテ、ボルグ・カムランに遭遇! これより交戦する!」

 

 

 

装備情報

間遼太郎

剣:氷刀改(ロング)

銃:ガトリング砲改(アサルト)

装甲:抗汎用シールド(シールド)

 

佐々木竜太郎

剣:獣剣老陽序(ショート)

銃:28型ガット改(ブラスト)

装甲:強デコイシールド改(シールド)

 

藤牧圭助

剣:冷却チェーンソー新(ロング)

銃:獣砲陽新(アサルト)

装甲:龍大甲硬(タワー)

 

青桐拓馬

剣:鉄乙女剣新改(ショート)

銃:ヤタガラス(スナイパー)

装甲:ドミニオンズ硬(バックラー)

 

山ノ丈絃汰

剣:宝剣西施改(ショート)

銃:レールガン改(スナイパー)

装甲:強支援シールド(シールド)

 

 

 

「丼さん! 青さん! この二人を頼むッ!」

 佐々木は屋根の上でスナイパーを構えている二人に叫んだ。青桐は山ノ丈と共に二人の少年少女の前に降り立ち、一人ずつ背中に背負うと、やや苦しながらも辛うじて再び屋根の上に戻った。

「おい丼さん、女の子の様子が変だぜ。診てやってくれよぉ」

「? おっけ、わかった」

 山ノ丈は元々衛生兵として動いていたため、一般的な医療にも心得があった。早速女の子を診察しにかかる。

 一方地上では、間、佐々木、藤牧の三人がボルグ・カムランや周りの小型アラガミと交戦していた。

「速度なら負けねぇッ!!」

 佐々木はボルグ・カムランの周りを素早く動き周り、獣剣老陽序を振り回して敵の動きを攪乱しつつ、少しずつダメージを与えていく。間は隙をうかがいながら時折場所を変えて氷刀改を構え、間合いを計る。そして周りに現れるコクーンメイデンを、木こりのごとく伐採していくのが藤牧のポジションだ。

「ざまさんッ! 今だ!」

 ボルグ・カムランの後ろ脚を斬った佐々木が叫んだ。転んで地を這うボルグ・カムランは弱点である口を無防備に開けている。そこに氷刀改を下段に構え、一直線に駆け込む間。切っ先を凍らせる程の冷気を帯びた氷刀改の先が、巨大サソリの口を貫いた! 間は神機をさらに深くねじ込み、インパルスエッジを炸裂させる。冷気がボルグ・カムランを浸食していき、悲痛な叫びが響く。

 インパルスエッジの反動を利用して神機を引き抜いた間は、準備していた佐々木と同時に脚を捕喰する。四足が削がれたサソリは、必死に尾針を振り回すが、間に尾ごと一刀両断され、ついに攻撃手段を失った。そこに藤牧が戻ってくる。

「マッキー、とどめを刺せッ!」

「お? お、おうッ!」

 間はさっきの捕喰で手に入れたアラガミバレット2つを藤牧に受け渡す。リンクバーストをレベル2まで解放した藤牧は自身にみなぎる力を感じながら間と位置を交代した。

「合わせろマッキー!」

 佐々木が先に突撃、相手の両手についた巨大な盾に弱めの一撃を与えた直後、藤牧の神機が真正面から振り抜かれた。騒音と共に、ボルグ・カムランの体に大きな傷跡が残り、動かなくなった。

白花:『ボルグ・カムラン一体を撃破。あとは同アラガミ一体とプリティヴィ・マータ1体ですね』

佐々木:『あいよー』

 無線を切ると、佐々木達3人は屋根の上まで飛翔した。

「丼さん、その子は?」

「えーとね、多分肺炎か何か起こしてるね、一応持ってきたセットで応急手当はしたけど油断できない。早いとこフェンリルの医療機関に運んだ方がいい」

 跪く山ノ丈の前では、まだ女の子が横たわってぜぇぜぇやっていた。肩で息をしているところを見ると確かに息苦しそうだ。

「ふーん・・・・・・で、そっちはどうなんだ?」

 間はチラリと横を見る。女の子と似たような出で立ちの男の子だった。

(見た目から察するとこ中学生か小学生高学年・・・・・・は良いとして、問題はこの少女の手に何故アサルトライフルが握られているのかだな・・・・・・)

「やぁやぁ、君がこの子を助けてくれたのか。勇気ある奴だ。名前は?」

 男の子はぼんやりとした目で女の子を見下ろしている。佐々木は努めて気楽そうに話しかけたつもりだったが、どうにも反応がおかしい。やがてボソリと呟いた。

「・・・・・・古田・・・・・・古田和」

 表情も変えずに口元が微かに動いただけなので、何と言ったか聞き取ることが困難だった。

「古田君・・・・・・っていうのか、一つ聞いても良いかな」

 間が佐々木に代わって質問する。藤牧や山ノ丈も、さりげなく会話を聞いていた。

「この子は何故、銃を持っているの?」

 男の子・・・・・・古田は黙ったままだった。間は肩を竦めて主導権を佐々木に返す。

「えーと・・・・・・まぁいいや、じゃあ別の質問な、ここに来る前に同じように銃を持った子供達が走っていくのが見えたんだけど、その子達については何か知ってる?」

「・・・・・・……僕の仲間です」

 いきなりはっきり話したので、間達は微かに驚き、意識を古田へ向ける。古田は気にしない様子で続けた。

「向こうに僕たちの拠点があるんです。この女の子も、同じ仲間です」

 話を聞いていく内に、佐々木や藤牧の顔色が変わってきた。真剣な面もちで古田に尋ねる。

「古田君・・・・・・君達の拠点ってやつに案内してくれる?」

 古田は無言で頷き、その場からきびすを返して歩きだした。山ノ丈が女の子を抱え、他のコヨーテメンバーは周囲を警戒しながら古田についていった。

 古田についていって大体15分、廃墟群の中のちょっとした広場のような場所に出た。その中心にいくつか大きめのテントが張ってあり、周りには女の子のような小さい子供達が、それぞれ銃を持って数人で周りを見渡していた。

(見張り・・・・・・だよな? 私でもあんな子供達に見張りなんかやらせないなぁ。信用ならんし、もう少し戦力のある人間にやらせるな、ここのボスは一体どんな奴なんだ)

 間は佐々木の煙草に火をつけてやりながら子供達を見やり、そう思った。

 古田はテントの内の一つにコヨーテを案内していく。

「おい・・・・・・なんか、あんまり歓迎されてないって感じだな」

 佐々木が間に耳打ちする。対する間の無言の頷きは、原因に大方の予想がついていると、暗に示していた。

「どうぞ、こちらへ」

 古田は自分の拠点に着いて安心したからか、先程よりかはまともに口がきけるようになった。しかし、その瞳には未だに警戒の色が見え、何よりも表情全体に生気が感じられない。

 テントの中心に、いかにもその辺の瓦礫類を流用してこしらえたようなテーブルと椅子が並んでいる。近くにひかれた布に女の子を寝かせる山ノ丈に近寄った間は、早口に、蚊の鳴くような小さい声で話した。

「丼さん、古田君の様子を観察しててくれ、後でその結果を教えてもらう」

「・・・・・・?」

 山ノ丈は一瞬戸惑ったが、拒否する理由もないのでとりあえず頷いた。コヨーテ全員が古田の向かいの席につく。佐々木の咳払いから話は始まった。

「さて・・・・・・と、古田君。ここは一体なんなんだ?」

「僕たちの拠点、いわば基地です」

「古田君達は・・・・・・ここで何を?」

「僕達は銃でアラガミを倒します。ただ、それだけです」

「・・・・・・は?」

 アラガミに普通の銃が効かない事は神機使いたるもの当然承知している。確かに子供ならその意味を信じたくない、あるいは理解できないというのはわからなくもない。

(が、どう見てもあれは普通の銃じゃない、自衛隊が使っていた銃でもあんな形はしていなかった・・・・・・あれは多分、AKー47)

 山ノ丈は女の子が抱えていた銃を思い出す。アラガミの繁栄に対抗するべく、自衛隊や各国軍隊は必死で応戦したが、結局意味をなさなかった。基本的にアラガミは何でも取り込めるので、大体は人間と一緒に装備も食べてしまうものだが、時折その食べ損じが落ちていることがある。子供がそれを拾い、未知の敵を討とうとする心理は理解できなくもない。

(しかし、いくらアラガミによる被害が甚大だからといって、この量の銃をたかが子供達が回収できたとは思えない。そもそも外国の軍隊はあまり日本入りしてなかったようだしな)

 アラガミが世界に広がったことにより、安全保障条約なんてものがしっかりと果たされることは無かった。最も……果たされたところで結果は同じであったろうが。

「アラガミに銃が効かないのは、知ってるか?」

 会話の切り込み手が青桐に移った。古田はコヨーテのメンバーを睨んだかと思うと、唐突に机を叩いて叫んだ。

「そんなのは嘘だッ!! 銃は効くはずなんだッ!!」

「でも効かないからこの有様なんでしょ?」

 突然の大声に間は身を仰け反らせながらも、興味深げに古田を見る。勢いを無くした古田はそこで押し黙ってしまった。

 その時、テントの入り口から物音がした。戦場慣れしているコヨーテが、物音の正体が人が地面に倒れる音だということに気づくのは一瞬だった。

「・・・・・・?」

 全員その場で動かないでいると、テントの仕切りを乱暴に押し開けて、金髪オールバックの青年が入ってきた。ぱっと見て『不良』という言葉が似合いそうな、人相の悪いチンピラ風の男だ。

 チンピラ風の男はコヨーテ達を奇異の目で睨み、その視線を古田へ移すと、凄むような口調で聞いた。

「おい、こいつらは?」

「はい、さっき僕達を助けてくれた人たちです」

 足立は佐々木達の腕輪に目を付けると、急に怒鳴り始めた。

「あぁッ!? なんでフェンリルの奴らがここにいるんだよッ!!?」

「別に来たくて来たわけじゃありませんよ」

 面倒な奴が来た、と表情で表しつつ、佐々木は冷静に言い返す。

「畜生ッ! 金が目当てかッ!? 目的はッ!?」

 男は凄んではいるが、その態度はどこか怯えたものだった。佐々木は椅子から立ち上がり、男ににじり寄る。

「本来俺達はここには来るはずじゃなかったんだが……ちょっと途中サソリに襲われてるガキを助けたら・・・・・・なんか面白い事してるみてぇだなぁおい?」

 佐々木はじわじわと追いつめるように男に近づく。男も負けじと喧嘩腰になってきた。

「おぅよ、俺ぁな・・・・・・おまえらみたいな化け物と違ってアタマがいいんだ。フェンリルなんて奴らが善を売りてぇが為に銃がきかねぇなんて言ってるのを聞いて、それが嘘だと証明してやろうと思ってなぁ?」

「それで、銃は効かず、この有様か?」

 藤牧は珍しく語気を強くして男を睨んだ。男が何か言おうとするのを、強引にかき消す。

「聞かせてもらおうじゃねぇかッ!?  銃がきかねぇのが嘘だと証明したいってのはわかった。で、なんであの子供達が銃を持ってんだ? 筋が違うじゃねぇかッ!」

 男は舌打ちしながらも、さらに後ずさった。

「だ……だがよ、ガキ共が死んでるのは俺のせいじゃねぇだろ!? 弱いあいつらが悪いん……」

 それ以上の言葉は許されなかった。神機使い特有の瞬発力をもって、藤牧が男の顔を殴りとばしたのだ。男の身体が派手に吹っ飛ぶ。

「おめぇの勝手で苦しんでッ! 死んでる奴がいるッ! それを無視してさらに他人のせいかよッ!! ふざッけんなッッ!」

 フラフラと立ち上がった男の顔にもう一発叩き込む、山ノ丈はふと、男のポケットから何かが落ちた事に気がついた。白い粉の入った袋だ。素早く手に取り明かりに照らしてみる。

「おいおい、こりゃ麻薬だぞ」

「あぁッ!? てめぇ何勝手なことッ……!」

「鑑定すりゃわかる、俺だってそのくらいの鑑識スキル持ってるし、それ以前にご丁寧にも袋に『コカイン』って書いてるからな」

 男はいよいよ、顔を伝う血に嫌な汗を混ぜ始めた。テントの入り口では、武装した子供達が何事かとこちらを覗き込んでいる。

「なッ何見てやがるッッ! さ、さっさと訓練に戻れぇッッ!!」

 男の苦し紛れな指示に何人かはすごすごと従ったが、さっきの藤牧の言葉を聞いていたのか、疑惑の視線の方が強かった。これ幸いとばかりに佐々木は子供達に訴える。

「皆ー! この人は自分では何もできない卑怯もののクズだよー!」

 男はもう反論すらできない。目の焦点がブレはじめ、額や背中に汗がふきだし、歯の根が噛み合っていない。

 しかしその直後、突如大きな地鳴りが鳴り響いた。テントが震え、外から子供達の悲鳴が聞こえてくる。青桐がとっさに取り出したPDAは、至近距離にアラガミの反応を示していた。藤牧は舌打ちしながら置いていた神機を手にとって男に告げた。

「おめぇを裁くのは後だ。覚悟しとけ」

 気づけば、古田は女の子の銃を取ってテントから飛び出していた。コヨーテメンバーが追うように外へ出ると、そこには武装した子供達と臨戦態勢のプリティヴィ・マータが対峙している光景が広がっていた。子供達に勝算がないのは明らかだった。

間:『こちらチームコヨーテ! プリティヴィ・マータと遭遇! これより交戦する!』

白花:『了解、御武運を!』

 子供達はギリギリまで接近し銃を放っている。佐々木や藤牧は子供達に撤退するよう、できる限り叫んだが、何故か彼らは聞こうともしなかった。

「なんでだッ! なんで誰も逃げないんだ! あれじゃ殺されるぞッ!」

「当然ですよ・・・・・・そのために戦っているんですから」

 ボソリと、いつの間にか隣にいた古田がそう言った。藤牧は驚きと困惑の入り混じった様子で聞き返す。

「そのためッ!? 死ぬために戦ってるってのかッッ!!?」

「はい、所詮僕達は死ぬ運命です。これはそのための暇つぶしでしかない。死ぬために戦うんです」

「てんめぇ・・・・・・ッ!」

 激昂する藤牧が二の句を告げるより先に、間が異を唱えた。

「いいや、違うな」

「?」

「あそこで今、戦っている子達はどうか知らんがね、少なくとも君は今、そんなに絶望してないんじゃないかね?」

 間の異論に、古田の目がわずかに開かれる。

「いいえ、そんなことは……」

「いや絶対にそうだ。だってそうじゃなかったら、わざわざあの女の子を背負ってまで逃げないだろ? あまつさえ君は、私達が来る直前まで、女の子を守ってたんじゃないか、君の中には・・・・・・まだ生きようとする意志があるようにしか見えない……!」

 間は冷静に古田を諭した、古田は間の言うことを認めたくないかのように頭を振っている。

「違う・・・・・・そんなことは・・・・・・」

「ざまさんッ! 早くッ!」

 佐々木が急かす、間はため息をついて、氷刀改をゆっくりと構えながら言った。

「そうか……いいだろう・・・・・・なら教えてやる。世界に……神に抗う正しい姿を、そして生きたいと言うことが決して隠すべき感情ではない事を、その目で確かめるがいいさ!」

 間は佐々木達を追うように、プリティヴィ・マータへ突撃した。5人は走りながら無線で指示を出し合う。

佐々木:『おまえら! いつものやり方で行こうぜ! 丼さんは青さんと一緒に狙撃ッ!』

山ノ丈:『了解っすわッ!』

藤牧:『子供達に被害が及ばないようにしろよッ!』

間:『ああ、わかってる』

 無線を切ると、間、藤牧、佐々木を前衛、青桐と山ノ丈を後衛とする陣形が作られた。プリティヴィ・マータは雄叫びを上げると、マントから冷気を発し、氷の矢を生み出す。更なる雄叫びを上げ、氷の矢を放った!

「・・・・・・!!」

 間に向かって直進してきた氷を、居合い切りの要領で両断する。氷と氷がぶつかり合い、間の顔に氷の破片が飛んで頬が冷えた。

 プリティヴィ・マータの注意が間に向いた隙に、佐々木は背後に回り込んだ。マントの構造上背後はやや防御が甘い事を佐々木は経験上知っていたのだ。

「ーー!」

 プリティヴィ・マータはその巨体を素早く翻し、佐々木に向かって前足を振り抜いた・・・・・・しかしそこに佐々木の姿はない。

「こっちだ、くらいなッ!!」

 佐々木はいつの間にか、またしてもプリティヴィ・マータの背後に現れた。素早く連続で斬撃が与えられる。

「そら、今度は俺だぜ!」

 その脇を藤牧が駆ける。振り抜かれた冷却チェーンソー新は、惜しくもプリティヴィ・マータの前足で防がれた。が、それすら計算通りだった。

「もらった・・・・・・!」

 ノーガードになった佐々木は再び背後に回り込み、狙いを定め、今度は思いっきり神機を振り降ろす、プリティヴィ・マータの尻尾が一刀で両断され、悲痛の叫びが木霊した。

「ッ! タロス! 後ろだッッ!」

「!?」

 藤牧の怒鳴り声に反応した佐々木の背後上空に、巨大な影が一つ飛び出した。佐々木は一瞬走馬燈を見た。

「うぉおぉぉ!!」

 間が佐々木の脇を通り抜き、飛び出してきた影を斬り上げ攻撃で弾き飛ばした。地面に墜落してジタバタした後立ち上がったその影は、もう一体のボルグ・カムランだった。

「ざまさん! そっちは任せたわッ!」

 佐々木の呼びかけに頷き返すと、ボルグ・カムランと対峙した間は、神機をゆっくりと構え直した。そしてその巨大な針が動いたと同時に踏み込み、戦闘に入る。

 佐々木はいつも通りの素早い斬撃で相手を攪乱しつつ、藤牧の銃撃に合わせて爆撃を行っていた。顔面と両肩に銃撃を直撃させられたプリティヴィ・マータは、尻尾を切られたダメージも重なってダウンする。

「今だッ! 食いつぶせぇッ!」

 藤牧と佐々木は揃ってプリティヴィ・マータを捕喰してバースト。冷気と共に、人ならざる力をその身に宿した。

佐々木:『青さん、やれ!』

 無線に応じるかのように、超高温のレーザーが宙を縫うように飛来、プリティヴィ・マータの眉間から尻尾までを直線で貫き、氷の女王とも呼ばれたアラガミは、倒れて動かなくなった。

 その時、佐々木の目前に、間が地を削りながら着地してきた。彼が相手するボルグ・カムランも既に動きが鈍重になってきていたが、その鎧には軽い傷しかついていなかった。藤牧は間に向けて呟く。

「そうさ・・・・・・それが生きるってことだろが・・・・・・!」

「決めろざまさんッ!」

 佐々木と藤牧は、今しがたプリティヴィ・マータから得たアラガミバレットを間に受け渡す。一気にレベル3までリンクバーストした間は、しっかりと敵を見据えながら神機をガトリング砲改に変え、自分の信念を具現化するかの如く、銃口からアラガミバレットを放った! 巨大な氷の矢はボルグ・カムランの鎧を砕き、真っ直ぐに貫いた。神機を振り払い、神機使いたちは勝利を見せつける。気づけば、周りの子供達は銃を地に落とし、ぼんやりとチームコヨーテを見つめていた。藤牧は古田のの方を向いて誇らしげに言った。

「わざわざ死ぬために戦うのは生きるって事じゃねぇんだよ・・・・・・自分で考えて、自分で戦う! それが今の世界を生きるって事なんだ!」

 古田は肩に何か乗せられるのを感じた。振り向くと、さっきの女の子が古田の肩に手を乗せ、苦しそうにしながらも立っていた。あどけない顔にはまだ生気が宿っている。護りたい……そして生きたい。古田の中の『生きる意志』に火が灯り始める。

「はい、大容量の輸送ヘリを願います。はい・・・・・・了解です。討伐対象のアラガミは撃破しました。はい……お願いします」

 間は無線を切ると、ふとテントから誰かがコソコソと出てくるのが見えた。さっきのチンピラ風の男だ。

「あっ、おい・・・・・・!」

 佐々木が後を追おうとするのを間が抑える。間の視線の先には、男に銃を向ける古田の姿が・・・・・・。

「足立さん・・・・・・お前は悪だった。神機使いの人達は……フェンリルは偽善者でもなんでもなかった! 偽善者はお前だッッ!!」

「ひ、ひぃッ・・・・・・!」

 今まで奴隷として使ってきた少年の怒号に足立と呼ばれた男は情けなく竦みあがる。周りの子供達も、今や疑惑と憤怒の視線しか足立に向けていない。先ほどまでの生気のない目とは全く別物だった。

 そのとき、古田の後ろにいた女の子が銃の引き金にかかっている古田の指に自分の指を重ねた。古田に向かって無言で頷き、ピタリと照準を合わせる。自分達を縛る鎖を、今こそ撃ち抜く!

「死ねッ! 偽善者ッ!」

 古田の銃から放たれた銃弾が、足立の背中、心臓部を撃ち抜いた。あっけない悲鳴を上げたかと思うと、足立はその場に倒れて動かなくなった。間と藤牧は古田に歩み寄り、小さく拍手する。

「見事、よくぞ自分の中の諸悪の根を壊したな」

「・・・・・・僕は処罰されるでしょうか・・・・・・?」

「それはないんじゃね? なぁざまさん?」

 藤牧が思わせぶりに間に話を振る。

「……わかったわかった」

 呆れながらも間は耳元のイヤホンをいじり、古田にも聞こえるように声をあげる。

間:『こちら間、報告し忘れたことがありましてな。ええ、一般人が戦闘に巻き込まれてしまい、不慮の事故によって死亡してしまいました。いえ、回収は不要でしょう。はい、はい……どうも』

 藤牧が古田のこめかみを小突いてみせる。まだ幼い古田にも、ようやく意味がわかった。わかると同時に、悪戯っ気のある笑いが自然に漏れ出してきた。

 間と藤牧がきびすを返して大きく伸びをしながら任務終了を感じる中、古田は銃を捨てて女の子に振り向いた。女の子は辛そうだが、安堵の微笑を浮かべていた。何故だか古田は言葉が浮かばなかったが、ふと、まだこの子の名前さえ知らないことに思い至った。

「あのさ・・・・・・君、名前は?」

「・・・・・・二条華(にじょう はな)はなでいいよ」

 そう言うと女の子・・・・・・華は再びせき込んだ。背中をさする古田の背後に、急に強風が吹き始める。上空からフェンリルマークの輸送ヘリが降りてきていた。

「はーい皆ー! 整列ー!」

 佐々木の指揮で子供達をヘリに収容する。山ノ丈達はさっさと乗り込んでコーヒーブレイクを楽しんでいた。

 古田は小さい華をもう一度背負ってヘリへと乗り込んだ。二人の瞳の中にはもう弱気な影はなかった。5人の神機使いの生きる姿が小さき命に大きな意志の力を与えたのだった。

 

 

 

 

 

       後日 フェンリル広報誌より抜粋

 

 

 フェンリルでの検査の結果、子供達の大半から麻薬の成分が検出された。子供達からの情報しか得られなかったが、足立順平と呼ばれる男は自身の武器及び麻薬密輸を円滑に行うため、子供達を使って身辺を守らせていたというのがおおまかな真相らしい。当の首謀者である足立が消失したため、銃の入手ルートなど不明な点は残ったままだが、討伐対象を撃破した上、孤児達の保護などに多大な貢献をしたとして、チームコヨーテはまたしてもフェンリル内に名前を響かせることとなった。

 そして嬉しいことに、保護した子供達を調べた結果、古田和、二条華、その他数名が神機の適合者である可能性が浮上した。確定したわけではないとはいえ、時期を重ねればいずれハッキリするだろう。将来のゴッドイーターとしての活躍を祈るばかりである。

 

 

 

―To Be Continued――

 




はいどうも、たまにはありきたりな綺麗話でも良いと思うのです(・ヮ・)
ところで推敲(校正)作業中にふと思い出したんですが、藤牧って「相棒」に出てくる亀山君みたいなイメージで書いてるんですよね。頭は良くないけど人情に厚くて周りからの信頼もある。 ……え? じゃあ杉下さんは?


とまぁそんな感じで(?)次回もお楽しみに└(┐Lε:)┘
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。