特級呪霊・黄金郷のマハト   作:Flagile

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第二話 ネゴシエーション

 鬱蒼と生い茂る木々の中を大男を担いで悠々と歩き続ける。木々の根っこや繁茂した草に遮られて歩きづらいが肉体のスペックに任せて踏破していく。どれくらい時間が経っただろうか? 

 

「……っ」

 

 担いでいた男が僅かに身じろぎをする。そして気が付いたと同時に状況を悟ったのか、気が付いていないフリをしだす。良く訓練された優秀な術師なのだと思う。だが黄金郷のマハトという大魔族のスペックの前には隠しきれなかったようだ。

 

 僅かに開けた場所を見つけ、適当な木を黄金化させる。形をこね回して、椅子と机を作り出す。芸術的なセンスがないのか、不器用なのか、術式に慣れていないだけなのか、微妙に不出来な椅子と机が出来上がる。その事に眉をひそめながら担いでいた男を椅子に降ろし、被せていた黄金のマスクを首輪に変形させる。

 

 その段階で気絶したフリは無意味だと気付いていたのだろう。全身を静かに、かつ素早く動かして状態を確認している。手枷と足枷を嵌めている事には気付いているだろうし、逃げ出す事はできないと分かっているだろうに勤勉な事だと思う。

 

 どうでも良いが被せていたマスクは術式の練習として『キン肉マンの黄金のマスク』にしてみた。こちらは椅子や机と違いちゃんとした出来だ。首輪に変えたのはもったいなかったかも知れない。

 

 元ネタがあれば大丈夫なのだろうか? という事はやはりセンスの問題なのだろうか? そんな事を考えながら向かいの椅子に座る。

 

「気が付いたようだが、どこか身体に異常はないか?」

 

 連れてきた呪術師に声を掛けてみるが睨まれるだけで返答はない。相手からしたら正体不明の呪霊になぜか拉致されている状態なのだからこの対応も仕方ないのだろう。

 

「まず俺は君を、というか人間を好き好んで傷つけるつもりはない。信じてもらえないだろうが……ああ、そうだ。『縛り』を結んでも良い」

「……条件は?」

 

 縛りを言い出した事が効いたのだろうか。最低限だが小柄な呪術師が応答してくれる。

 

「縛りの条件か。そうだな……いくつか質問に付き合ってくれたら俺は君を傷つけずに解放しよう」

「……質問に答えなかった場合はどうなる?」

「答えなくて良い。あくまで質問に付き合うのが条件だ。だが、できれば答えて欲しい」

「……質問の数に制限、いや時間だな。制限時間を条件に加えろ」

 

 なるほど。質問の数を条件にした場合に最後の質問をされず解放されない事を危惧したのか。そして時間ならその心配はないというだろう。

 

「良いだろう。では君は俺の質問に付き合う。俺は君を傷つけずに解放する。時間は日が沈むまで、という条件でどうだ?」

「手枷と足枷を外すのは?」

 

 呪術師は黄金でできた椅子に座った状態で黄金の手枷をジャラリと鳴らす。

 

「時間まで逃げない事を縛りに加えて良いのなら認めよう」

「……手枷と足枷の条件はなくて良い。代わりに解放後の安全を要求する」

 

 できれば程度の提案だったのだろう。あっさりと枷に関する要求を撤回し、別の要求を出してくる。確かに解放までは安全でも解放直後に殺されては無意味だろう。

 

 もちろん元から傷付ける気はなかったのでこの要求は呑む事にする。その後もいくらか条件を織り合わせ、男は縛りに漏れや抜けがないか、たっぷり逡巡した後、縛りに同意する。

 

「さて……それでどうやって縛りを結ぶのか教えてもらっても良いか?」

「やり方も知らずに縛りを結ぼうとしてたのかよ!?」

「他者間の縛りのリスクぐらいなら知っている」

 

 その後、小柄な呪術師に『縛り』の結び方を教えてもらい、どうにか縛りを結ぶ事に成功する。仕切り直し最初の質問を発する。

 

「では最初の質問だ。私はマハトという。君の名前は?」

「は? 名前だと?」

「おや、これは答えたくない質問だったかな? しばらく話をするのだから名前ぐらいは知っておきたかったのだが」

 

 別に名前ぐらいなら普通に教えてくれると思うが、あえて大げさな手振りで答えなくとも良いと伝える。

 

「……禪院燈真(ぜんいん とうま)だ」

 

 禪院。やはり襲撃してきたのは禪院家の呪術師だったらしい。御三家の一角・禪院家。全く良い印象はないのだが、呪霊や羂索に与していたような訳でもなさそうだったと思う。禪院真希といった関係者以外にとっては敵ではないだろう。……性格がクソなのが何人もいるので関わりたいとは思わないが。

 

そして禪院燈真、聞いた事のない名前だ。とはいえ坊主頭に揃いの道着で首まで覆うマスクからすると躯倶留隊とかいう禪院家の戦闘員の一人なのだろう。となると知らなくても不思議ではない。

 

「禪院、か。やはり私の左腕を切り飛ばしたのは禪院扇か」

「おいっ、生まれたばかりの呪霊がなんで扇さんの事を知ってやがる!?」

 

 思いの外大きな反応が返って来た事に驚く。というか俺が生まれたばかりである事も把握されているのか。

 

「答えられない、いや、どうなるか予想できないので答えたくない、か? とりあえず訳ありだ」

 

 前世で物語として読んだから知っている、なんて狂人の回答なので回答を拒否する。だが考えてみると未来予知の術式みたいな物もあるかも知れないし、意外と信じてもらえたかも知れない。とはいえ明かすにしても状況を把握し、どうするのかを考えてからだ。

 

「……まさか呪いに転じた術士か?」

「呪術師が非呪術的な方法で殺害されると呪霊に転じる事があるのだったか? ……それとは違う理由だ」

 

 俺の回答拒否に何を考えたのか、燈真はそんな事を言ってくるので否定しておく。呪術師から転じた呪霊だと思われていた方が良かっただろうか? いや、これからの質問次第ではすぐに違うと分かってしまうかも知れないし無意味な嘘は良くない。

 

「燈真、君も何か気になる事があったら自由に質問すると良い。さて今度は私が質問しよう。今は何年の何月何日だ?」

「呪霊が年月日、ね。……2005年9月24日だ」

「2005年の9月か、なるほど」

 

 確か虎杖が宿儺の指を食べたのが2018年だったか? 連載開始した年と作中の年が同じだったから間違いないハズだ。だとすると原作開始の13年前か。星漿体事件が10年ぐらい前だったような気がするが、どうだっただろうか? 大まかな流れはともかく年号まで覚えているようなファンではなかったので曖昧だ。

 

 とはいえ夏油がまだ呪詛師になっていない時期ではあると思う。介入すべきだろうか? 救えるとしたら天内理子と夏油傑、夏油の起こす百鬼夜行の被害者辺りだろう。あと救うべきなのか分からないが伏黒甚爾など呪詛師達も、か? 

 

 最大限上手く行けば夏油が殺すハズだった人間や道を踏み外さない事で救う人間も含めて非常に多くの人が救われるかも知れない。だが羂索も裏で動いているかも知れないし、夏油の呪詛師落ちは遅かれ早かれな感がある。となるとネームドで救えそうなのは天内理子だけか……? あるいは夏油傑を今の内に……

 

「なんだ? 俺の殺し方でも考えてんのか?」

「疑り深いな。縛りも結んだんだ。多少は信用してくれ」

「はんっ、呪霊を信用、ねぇ?」

 

 禪院燈真の反応に肩をすくめて応じる。夏油傑の殺害を検討していたのだから何をかいわんや、なのかも知れない。それは人間的ではない。自分を戒め、夏油殺害の案は放棄する。

 

 それはそうとして転生して来た先が平安時代などではなく、原作に介入できそうな時期だと判明した事でつい考え込んでしまった。考えるのは後だ。今はとりあえず情報収集が先決だ。

 

「星漿体、あるいは盤星教は知っているか?」

「宗教だと? やっぱりただの呪霊じゃないな。何でそんな事知りたがる? ……だが、あいにくだったな。そういうのがあるな、ぐらいしか知らん。星漿体に至っては聞いたこともない」

 

 星漿体が殺されたというのはそれなりに大きい事件だと思うので、過去編の開始前の可能性が高まったと思う。だができればもっと詳細に原作のどの時点なのかを知りたい。知りたいのだが、原作で何かこの時期にあっただろうか? 

 

「……そうだ。五条悟は知っているか? 今、何年生だ?」

「五条悟だぁ? そうか呪霊、特級術師様なら貴様を祓えるし、その動向は気になるよな? 高専に入っていきなり呪霊を狩りまくってるって話題になっていたから、1年のハズだ」

 

 えらく苦々しい表情で燈真が吐き捨てるように言う。だが重要な情報が分かった。五条悟は呪術高専の1年生! 確か過去編が2年生の時だったハズだ。これでだいぶ時期が絞れた。同時に原作介入するにしても意外と時間がなさそうな事も分かった。

 

「ところで俺は人間との共存を考えている、と言ったら燈真、君はどう思う?」

「冗談にしては良くできているんじゃないか?」

「冗談のつもりはない」

 

 原作介入するかはともかくとして俺はこの世界で生きていくしかない。そして前世が人間だった身としてはできれば文化を満喫し文明的に生きたいのだ。だからこういう反応になるだろうとは思っていたが切実な思いからの質問なのだ。

 

「呪霊は人を襲う物だろうが」

「少なくとも私は自衛以外で人を傷付けるつもりはない」

「はんっ、信じられないね!」

「俺がそう考えている事だけは知っておいてくれ」

 

 冗談と思われている事を真実に変えるにはどうしたら良いだろうか? そんな事を思いながら次の質問をしようとしていた時だった。強大な呪力が、急速に接近して来ている事に気付く。

 

「……質問の時間はここまでのようだ」

「あん? まだ日は落ちてないぞ?」

 

 禪院燈真はまだ気付いていないようだ。探知範囲は俺の方が優れているらしい。これも『黄金郷のマハト』のスペックのおかげだろうか。だがそれもそこまで大きな差ではないようだ。禪院燈真の顔に喜色が浮かぶ。

 

「来た」

 

 こちらが気付いている事に相手も気付いているからだろう。その青年は悠然と森の中から現れた。その姿に驚くと共に警戒を強める。噂をすれば影というが、こんなところで出会いたい相手ではなかった。

 

「はじめまして。俺は呪霊をやっているマハトという」

「会話ができる呪霊、ね。私は呪術高専の夏油傑だ。人質を解放してくれないかな?」

 

 下をボンタンに変えた呪術高専の制服を着た糸目の青年が答える。そこにいたのは原作でも重要キャラであり呪霊操術の術式を持つ呪術師・夏油傑だった。

 

 




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