特級呪霊・黄金郷のマハト   作:Flagile

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第三話 夏油傑

「人質を解放してくれないかな?」

 

 特級呪術師という呪術師の極みに至る夏油傑にそう要求される。原作で釘崎野薔薇がされたように人質を利用すれば有利を取れるかも知れない。だが。

 

「問題ない。元より人質にするつもりはない」

「おや、解放してくれるのかい?」

 

 俺はあっさりと人質を解放すると言う。夏油は本気で意外そうな反応をする。どうも断られた瞬間に襲いかかるつもりだったと見える。そこに思いがけない返答をした事で意表を突き、間を外せたらしい。

 

「解放する予定が数時間早まるだけだ。代わりに見逃してくれないか? 俺は戦いが嫌いなんだ」

「……人質を解放してくれたら考えよう」

 

 元から人質にするつもりはなかったので相手の要求を飲む事を伝える。そして俺と夏油のやり取りを固唾を飲んで見守っていた禪院橙真(ぜんいん とうま)へと警戒されないようにことさらゆっくりと歩み寄り、椅子から立たせてやる。

 

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 

 術式を発動した瞬間、夏油は戦闘態勢に入り、即座に4体のカエルのような呪霊を呼び出す。

 

「拘束を解いただけだ」

 

 言葉通り禪院燈真に付けていた手枷と足枷を外してやっただけだった。夏油が特級呪霊のような強力な呪霊を呼び出し、燈真ごと攻撃してくるのではないか、という恐れを押し殺しながら禪院燈真の背を夏油に向かって軽く押してやる。

 

「禪院燈真、君とはもう少し話をしたかったのだがな。解放だ。行くと良い」

 

 複雑な表情のまま、禪院燈真は俺に目礼だけし、夏油の方へと足早に進んでいく。

 

「おっと、悪いが君は近寄らないでくれ。その呪霊に何かされているかも知れないからね」

「そうか。では呪霊を頼む。気を付けろ、特別1級術師の扇さんを含むチームであしらわれた」

 

 禪院燈真はそう言うと夏油傑からも距離を取る。とはいえここから離脱する気はないらしい。

 

「さて、これで見逃してくれるかな?」

「……残念だが、君のような呪霊を見逃す訳にはいかないな」

 

 驚きはなかった。というか本気で見逃して欲しかったのなら禪院燈真とやったように縛りを結んでいた。それをやらなかったのは縛りを受け入れてくれるとは思えなかった事と、決裂した場合に禪院燈真を巻き込みそうだったからだ。

 

「そうか。では生きるために足掻くとしよう」

 

 こうして呪霊操術の使い手・夏油傑と戦う事になるのだった。それにしても転生してまだ1日経っていないハズなのだがハード過ぎないだろうか? 

 

「世のため人のため祓われてくれ」

 

 そう言うと夏油は大量に雑多な呪霊を呼び出しけしかけてくる。俺はマントを黄金の大剣に変え、近付いてきた呪霊を片っ端から叩き斬る。まだ様子見の段階なのか4級や3級らしき弱い呪霊ばかりだ。だからであろう。特に身の危険も感じる事もなく淡々と処理していく。

 

 とはいえ相手は『単独での国家転覆が可能である事』が条件の特級術師へと至る現代最強クラスの存在だ。余裕がある今の内にどう決着させるのか考えなくてはジリ貧になるのは目に見えている。

 

 まず夏油を黄金化させるのも殺すのもナシだ。呪詛師になってからならともかく現時点では夏油はもっとも救うべき相手だ。それに夏油の苦悩に思う事だってある。

 

「では、どうやって逃げるか、か」

「逃がすと思うかい? 扱き使ってやるから早く諦めてくれないかな?」

 

 当然といえば当然だが夏油は俺の事も呪霊操術で取り込むつもりらしい。つまり問答無用で祓われる事はないという事だ。考えてみると呪霊操術で囚われる事自体はそう悪くないのかも知れない。うまく行けば安全に人間側に加わる事ができる。問題は取り込まれた呪霊の意識がどうなっているのか分からない点だろうか。

 

「楽観はできない、か」

 

 ダンゴムシらしき形をした呪霊を剣で叩き潰しながら小さく呟く。敗北しても終わりではない可能性があるのは安心材料だろう。とはいえ取り込まれた結果、夏油が乙骨憂太に勝利し、百鬼夜行を成功させてしまう可能性だってある。だから可能性に賭けるのは最後の最後で良い。今は全力で勝利を目指す時だ。

 

「なるほど」

 

 夏油がそう言うと同時に今度は2級呪霊だろうか? 先程より明らかに強力そうな巨大な赤子のような呪霊を複数呼び出す。その動きに合わせて俺は地面に剣を突き立て、半径5m程を黄金化させる。

 

「ん? 黄金は呪力を持っていないのか……?」

 

 訝しげに細い目を凝らす夏油。それを無視し黄金となった地面を操作し、鎗衾を作り出し、順次高速で射出していく。

 

「おっと、危ないね」

 

 夏油はヌリカベのような呪霊を呼び出し、自身に飛んできた鎗を防ぐ。残っていた下級の呪霊は飛んできた鎗にロクに反応する事もできずにそのまま貫かれていく。2級呪霊達は流石に強く回避したり、弾いたり、鎗の何本かには対応してみせる。が、絶え間なく鎗を生成し続け、それらも縫い留めていく。

 

「数じゃ厳しいみたいだね。……じゃあ、こういうのはどうかな?」

 

 夏油を守り黄金の鎗でハリネズミのようになったヌリカベが耐えきれずに消えていく。その後ろから夏油は2級呪霊達があっさりと蹴散らされたのを確認し、今度は虹色の光沢を放つ白い鱗を持つ巨大な龍を呼び出す。

 

「!?」

 

 思わず一歩後ずさる。今まで感じた事のない強大な呪力を感じる。あれは原作で見た事がある。伏黒甚爾に瞬殺されていた虹龍とかいう硬い呪霊のハズだ。

 

「行け」

 

 夏油が短くそう号令を下すと虹龍は黄金の鎗衾を気にする事もなく突っ込んでくる。幾本もの鎗を射出していくが刺さるどころか傷付ける事さえできず鱗に弾かれていく。

 

「クッ!」

 

 勢いを落とす事すらできず鎗衾を突破されてしまう。慌てて回避を試みる。虹龍は刃物のような歯を煌めかせながら勢い良く突っ込んでくる。食われてはたまらないと頭部は辛うじて避ける事に成功する。

 

 だが龍はその巨体をくねらせて胴体を叩きつけてくる。視界の全てを覆う程の範囲攻撃に避ける余地はなかった。せめてもと思い虹龍に剣を叩きつけるがロクに傷つける事もできない。

 

 直後、とてつもない衝撃が全身を打ち、鋭く短い浮遊感を感じる。木を幾本もなぎ倒し、地面に叩きつけられる。痛みが全身を奔る。とはいえ呪霊としてのスペックのおかげであろう。まだ問題なく動く事ができた。

 

(こんな化け物を伏黒甚爾はこともなげに倒したのか!)

 

 僅かに原作に思いを馳せながら立ち上がり視線を巡らせる。すぐ近くに龍が突っ込んで来ているのを発見する。今度はしっかりとした黄金の壁を用意する。が、虹龍は地面ごと(・・・・)壁を引き剥がして突っ込んでくる。

 

 覚悟を決める。

 

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 

 突っ込んでくる虹龍へと術式を発動する。虹が金色に塗り替わっていく。同時に黄金に変わりながらも慣性に従い突っ込んでくる虹龍に跳ね飛ばされる。

 

(?)

 

 回避する事もせずに先程以上の勢いで跳ね飛ばされたにも関わらずダメージが明確に軽い事に気付く。ダメージが軽かった事もあり今回は地面に叩きつけられる前に空中で体勢を整え足から着地する事に成功する。

 

 なぜダメージが軽かったのか一瞬分からなかった。が、すぐに気付く。呪力だ。黄金化した事により虹龍が纏っていた濃密な呪力が失われたためダメージが軽減されたのだ。

 

「最高硬度の虹龍を黄金に変えてしまうとはね」

 

 吹き飛ばされた俺を追い、夏油がこちらへとやってくる。今までよりも楽しそうに、さらに興味深そうに夏油はこちらを観察してくる。

 

「量もダメ、質もダメ。となるとこういうのはどうかな?」

 

 そういうと夏油傑はトビウオのような呪霊を数体呼び出し俺たちの戦いに巻き込まれないように距離を取っていた『禪院燈真に向かって』突撃させる。

 

「なっ!?」

「おっ、おい、夏油傑!?」

 

 即座に剣を禪院燈真の方へと投擲する。禪院燈真の顔がさらに引き攣るのを横目に剣をマントに戻し高速で突っ込んでくるトビウオの進路を塞ぎ叩き落とす。落としたトビウオの呪霊に止めを刺すために追撃しようとする。

 

 ……が。トビウオの呪霊とは別に最初に呼び出していたカエルの呪霊が地面の中から飛び出してくる。どうやら夏油にいつの間にか良いように動かされていたらしい。飛び出して来たカエル達が四方八方から一斉に舌を伸ばして来る。

 

「ぐっ」

 

 カエルの舌が全身の各所を貫く。激痛が奔る。呪霊を隠しておき地雷のように活用するアイデアに感嘆する。同時に激痛をねじ伏せて術式を発動する。

 

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)

 

 自分を貫いた舌ごとカエル達を黄金化させる。舌を抜くついでに鎗に変えてやりトビウオと夏油に向かって飛ばす。さして強い呪霊ではなかったのだろう。トビウオは串刺しになり黒い灰のようになって消えていく。夏油の方は当然のように回避していた。

 

「彼は味方だろう?」

 

 俺の言葉にそうだそうだと言わんばかりにガクガクと禪院燈真が頷いている。

 

「殺す気はなかったさ。だが戦闘に巻き込まないように気を付けていただろう? 縛りでも結んでいるんじゃないかい?」

 

 その言葉に理解する。人質にもせずに解放した事から夏油傑は『禪院燈真に傷を負わせてはならない』のような縛りを結んでいると予想したのだ。そして縛りを破らせる事で生じるペナルティを狙ってきたのだ。

 

「なるほど。上手い手だ」

「その様子だと図星だったかな?」

「いや、外れだ。俺自身が彼を傷付けなければ問題ない」

「ならば何故?」

 

 縛りもないのに俺が禪院燈真を守った事が解せないという表情でこちらを見る夏油、ついでに禪院燈真。その間もジリジリとお互いに位置を変え、出方を伺いながらつかの間の会話を続ける。

 

「俺は人間との共存を望んでいる。無為に人が傷付くところを見たくないだけだ」

「共存、共存ね。君は呪いだろう? 呪いは人を傷付ける物さ」

 

 否定できない。どう考えても呪霊は人を襲い、傷つける物だ。俺という存在が例外過ぎるのだ。というか自分でさえ例外ではないかも知れない。突然、俺の意識が途切れて普通の呪霊のようになる事だって十分に考えられる。

 

「だが俺は望んでいる。理解されるとは思わないが」

「ならばここは呪い合うしかないだろう?」

「断る。夏油傑、君を呪うべきではない理由ならあるが、君を呪う理由が俺にはまだない」

 

 夏油にそう告げ、『万物を黄金に変える術式(ディーアゴルゼ)』を発動する。今できる最大の範囲で周囲一帯を黄金化させていく。

 

「そんな事を言いながらやる気満々じゃないか」

 

 黄金から距離を取りながら夏油はやはりと言わんばかりに笑いを含ませて言う。

 

「俺もこう言おう。殺す気はない」

 

 言い返しながらも周囲をドンドン黄金化させていく。黄金化させた周囲の地面をまとめ、自分の背後に黄金の山を築き上げる。そしてその黄金の山を操り、津波のように夏油に向かわせる。

 

 その様子を注意深く見ていた夏油は呪霊を幾体も呼び出しながらさらに後退していく。そこには禪院燈真がいた。先程、俺が禪院燈真を傷付けない縛りを結んでいると知った事で、それを利用しようという腹だろう。

 

 予想通りだった。それこそが狙いだった。夏油と会話していた時から禪院燈真の付近の地下を密かに黄金化させていたのだ。それを使い前後から夏油達を覆うドームを形成し、閉じ込めてやろうという算段だ。

 

「夏油、後ろだ!」

「っ呪力反応がないのを利用して!?いつの間に!」

 

 巻き込まれないように距離を取るべきかと視線を巡らせた禪院燈真が気づき、慌てて叫ぶ。夏油は即座に反応しイエティのような如何にもパワーのありそうな単眼で毛むくじゃらの巨人の呪霊を呼び出し、黄金を吹き飛ばそうとする。

 

 が、黄金はピクリともしない。先程、虹龍に壁ごと跳ね飛ばされた反省から今度は地面の奥深くまで黄金化させておいたのだ。

 

 イエティのような呪霊の攻撃で黄金を突破できると踏んでいたのだろう。夏油傑が目を見開き初めて焦った表情を浮かべる。それを見ながらこちら側からも黄金を伸ばしドームを形成し閉じ込める。

 

「うまく行った、か」

 

 不意打ちとはいえ作戦が成功した事に安堵する。作戦が失敗していれば夏油を殺すか、夏油に囚われるか、という結末しかなかっただろう。この作戦にしても夏油がもっと経験を積んでいたり、良い呪霊を手に入れていたら普通に対処されていたかも知れない。

 

「やられたな。壊せそうにないね」

「地面は掘れる。君なら脱出できるだろう。あと禪院燈真、巻き込んですまない」

「……俺たちは敵だ」

 

 黄金越しに脱出方法と謝罪を伝える。脱出方法は伝えておかないとそれこそ縛りに抵触してしまう可能性がある。というかこれで大丈夫なのかも若干疑わしい。果たして解放したと判断されるのだろうか? 

 

「本当に殺す気はないみたいだね? すぐに見つけてやる。また会おう」

「断る」

 

 それだけ言い残して燈真を担いでいた時とは異なり全力で走り、距離を取る。残穢がどんな物かよく分かっていない以上、距離を取る以外に今のところ対処法がないのだ。

 

 そうしてしばらく行ったところで突然足がもつれ倒れてしまう。体が上手く動かない事に気付く。

 

「……毒、か」

 

 どうやらあのカエルの呪霊は毒持ちだったらしい。そして納得する。あの時、夏油が会話に応じていたのは毒が回るのを待っていたのだ。

 

「流石は夏油傑、か」

 

 一度は上回れたと思ったのだがそんな事はなかったようだ。そんな敗北感を味わいながら動きの悪い体を引き摺って移動するのだった。




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まさかこんなに早く評価に色が付き、それが赤になるとは思いませんでした。

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