特級呪霊・黄金郷のマハト   作:Flagile

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第四話 修行と検証

 毒による痺れの残る身体で山の中を駆けて行く。どうにか夏油傑を閉じ込め、逃走する事には成功した。だが残穢の消し方も、呪力の消し方も分からない。だからひたすら距離を取る。救いは呪術廻戦の描写からすると探知できる範囲はそう広くないハズという事だ。

 

「まぁ、夏油傑はやってきたのだが」

 

 禪院橙真とゆっくり会話していたのも逃した呪術師達が増援を連れて戻ってくるのに時間が掛かるだろうと思っていたからだ。だが距離が足りなかったのか、夏油傑が特別だったのか、何なのかは分からないが非常に早い段階で追いつかれてしまった。だから今度はそれなりに距離を取った段階で痕跡を残さないように術式は当然として呪力もできるだけ抑えて隠れ潜む事にする。

 

 呪力を一切使わずにどれくらい時間が経っただろうか? 3日か、4日か、安全そうな洞窟を見つけてからは下手に動くのも危ないだろうと留まっていたが、とりあえず追手はないようだ。洞窟の中ではこれからどうするかを検討し、後は瞑想をひたすらしていた。

 

 そろそろいいだろう、そう思う。念のため周囲の様子をしっかり確認した後、道中で見つけた妙に呪力の濃度が高くなっている窪地に移動する。おそらく霊地とかパワースポットとか龍穴とか呼ばれているような場所なのだと思う。呪霊となったからか居心地が良かったのだ。

 

 自分以外の痕跡もないようなので、ここに腰を据えてしばらく修行しようと思っている。どうにか夏油傑からは逃げ切れたが、最初から本気で来られたらそれすら厳しかっただろう。禪院家のチームだってやりようによってはやられていた可能性がある。両面宿儺や五条悟、あるいは伏黒甚爾に至っては勝てるビジョンすら見えない。だから呪力や術式の事をもっとよく知り、練度を上げる必要がある。

 

「問題は修行方法を知らない事だ」

 

 原作の呪術廻戦でも呪力の出力を一定にするために映画鑑賞をしていたぐらいしか修行と言えそうな物は覚えていない。どこかに師匠でもいれば良いのだが……

 

「呪霊に呪術を教えてくれる先生か……」

 

 そんな人がそうそういる訳がない。仮にいたとしても見つけようがない。となるとやはり自分で訓練方法から考えてやるしかない。幸い呪霊だからだろうか? 魔族だからだろうか? とりあえず呪力を動かす事はできている。

 

「やはり念能力だな」

 

 こういった時に参考にできそうなのは他の作品の練習方法だろう。特にHUNTER×HUNTERの念能力は訓練描写が豊富で役に立ちそうだと思う。それに呪力はオーラと似たような性質を持っている気がするのでやってみる事にする。

 

 まずは『纏』

 

 纏は肉体から流れ出ているオーラを自身の周囲に留める事だ。とはいえ単純に呪力を留め纏う事はできている。となると纏っている呪力を一定にする訓練でもすれば良いのだろうか? そう思いながらできるだけ呪力が均一になるように頑張ってみる。が、意外と難しい。どうしてもムラができてしまう。

 

「まぁ、進歩の余地があるという事だ」

 

 そして『練』

 

 練は通常時以上のオーラを生み出す事だ。呪力も出力が上がれば強化の度合いも大きくなるだろうし、できる事も増えるハズだ。さっそく呪力をできる限り一気に捻り出してみる。

 

「ふむ? 維持は問題ないな」

 

 少し意外だったのだが呪力を一気に捻り出してみても維持する事はそう難しくなかった。念能力では練を維持するのは『堅』という高等技術なのだが。どうもオーラと異なり呪力は維持する事がそう難しくないらしい。もしかしたら呪力は拡散しにくいのかも知れない。

 

 呪力を最大出力で維持する訓練になると思っていたが、これでは訓練にならなさそうだ。という訳で筋トレのように一気に最大出力まで持っていき、ゆっくり戻し、また最大出力まで持っていく、という方法を試してみる。

 

「これは良い訓練になりそうだ」

 

 動いていないのに息が切れ、丹田の辺りから疲労感が溢れてくる。本当に効果があるのかは続けてみないと分からないが、続けてみようと思える手応えがある。とはいえ今のところはどれだけ気合を入れても出せる呪力量はほとんど変わっていないように見える。しばらくは経過を見ながらの検証だろう。

 

 という訳で『絶』

 

 文字通り流れ出るオーラを完全に断つ事で、気配を絶ったり、疲労回復の効果があった。呪術師に見つかりたくない以上、呪力を隠して行動できる事は最重要事項だ。うまく呪力を消し切る事ができたのならば伏黒甚爾や禪院真希のように結界をすり抜けるようなステルスだってできるようになるかも知れない。

 

「期待薄だが」

 

 それでも若干ワクワクしながらやってみる。だがこの絶という技術はとてつもなく難しかった。というか本当にできるのかすら疑わしかった。呪力を抑える事はそう難しくない。だがどうやってもゼロにできないのだ。指先のような一部分でも実現できそうな気配すらない。

 

「期待薄か……」

 

 次に移り『凝』

 

 凝はオーラを体の一部に集中させ部分的に強化する事だ。HUNTER×HUNTERでは念を用いた戦闘では必須の技能だった。それに倣い目に呪力を集中できないかやってみる。

 

「ほぉ」

 

 世界の視え方が変わる。ヘッドアップディスプレイを装備した事で今まで見えなかった情報が見えるようになった感じだ。追加された視界内に『糸』のような物が漂っている。それは自分からゆっくりと伸びており触れると簡単に切れるのだが、回収したり消し去ったりする事はできなかった。

 

「なるほど。これが残穢か」

 

 しかし呪力の出力が安定していないためだろうか? 残穢が見えたり見えなかったり、妙な明滅をしたり、視界が安定しない。目というか脳の奥の方がえらく疲れる。それでも続けていると今度は鈍痛が強くなり出したため凝を解く。

 

 初めての体験に若干興奮していた事に気付く。ゆっくりと深呼吸をし、心を落ち着かせる。落ち着いたと思ってからさらにたっぷり10数え、改めて凝を行う。脳の奥がかすかに重くなるような感じがするが、今回は問題なさそうだ。

 

 残穢が確認できるようになったので改めて周囲に残穢がないか確認に向かう。自分以外の残穢が残っていた場合、この場所も安全ではないかも知れないという事だ。同時に自分から出ている残穢がどんな挙動をするのかを確認しようと思う。

 

 幸いにも周囲には自分以外の残穢は確認できなかった。こうしてしばらく人里離れた山奥のパワースポットで能力の検証と修行を行う事にするのだった。

 

 あれからさらに数週間。結局、夏油襲来以降、誰かに襲撃される事もなく、とりあえず残穢や呪力の気配を消せているのではないか? と思える程度になってきたので人里に赴く事にする。

 

 もちろん危険かも知れない。まだまだ技術的には向上の余地がある。だがここで引き籠もっていてもどうにもならない。それにいい加減、修行ばかりというのにも飽きたのだ。

 

「さてどこに行くかな?」

 

 呪霊は人の負の感情から生まれる。当然、都市部の方が多く発生する。という事は呪霊に対抗する必要のある術師も都市部に多いハズだ。

 

 だからまずは近くの村に行ってみる事にする。山間部にあるそこそこ大きな村だ。しばらく前に安全を確認するために周囲を探索していた時に見つけた。

 

 そんな村の山中の高台にある人気のない神社。その物陰から村の様子を観察する。しばらく見ていると一人の老婆がこちらに向かって歩いて来ているのを発見する。

 

 さっそく人間相手でないと確認できない事を実験しに行く事にする。まずは『本当に一般人に認識されないのか?』からだ。呪霊の姿は一般人には見えないハズだが、今のところ術師にしか出会っていないためそれが本当なのか確認できていないのだ。

 

 そっーと老婆の視界に映るであろう範囲に移動する。

 

 ……反応はない。

 

 今度は大胆に視界に入るように老婆の前を横切ってみる。

 

 ……これも反応なし。

 

「おばあさん」

 

 控えめにだが絶対に聞こえるぐらいの大きさで老婆に呼び掛けてみる。今回は確実に反応した。老婆は立ち止まりゆっくりと周囲を見回す。どうも呼び掛けられた事に気付いたという感じではなく何か音がした、程度の反応に見える。とりあえず「音」は多少認識されるらしい。

 

 次に石ころを学ランとかに付いている金ボタンの形にし、老婆の近くに投げ落とす。金ボタンにしたのは金色をしている物の中では金貨や金塊よりも落ちていておかしくないからだ。

 

 ボタンが落ちた音に反応し、老婆はそちらの方を向く。先程の声とは違い明確に認識している。そのままボタンの方へと歩み寄り、ごく普通にボタンを拾い上げる。やはり黄金化させた物体は実体を持っており、一般人にもしっかりと認識されるようだ。

 

「落とし物かね? ウチの中学のじゃなさそうだけんど……。金子さんに届けとくかね」

 

 老婆はしげしげと金ボタンを眺め、エプロンのポケットにしまう。横から覗き込むように見ていた俺には気付く事もなく歩き出す。それを見送りながら黄金を操ってボタンを回収する。

 

「破壊も変形もできない金のようにしか見えない物質を残しておく訳にはいかないからな」

 

 まぁ、もう術師にはバレているだろう。何せ夏油達を閉じ込めるために黄金の山を築き上げたのだ。あれ自体は大きすぎて回収できないだろう。だが坑道内で実験した時の物や尋問の時に使った机と椅子などは残したままなのだ。

 

 黄金の山はしかたないにしても他はもう少し慎重に動くべきだったのだろうと思う。とはいえ終わった事だ。そして今からでも放っておくよりは良いハズなので回収するか、できる限り元の状態に戻すようにしている。なので回収したボタンも黄金から戻してやる。

 

「んっ?」

 

 そこにはボタンの形をした石があった。確認のため再度黄金化し、十字架の形にしてから解除してみる。今度は石でできた十字架があった。今まで気付かなかったが形を変えた後に黄金から戻すと形はそのままになるようだ。

 

「また一つ理解が進んだな」

 

 何か応用できないか? と考えながら堂々と道を歩いて行く、一般人には見えないのだから、そこまで隠れなくても良いハズだ。それでも『窓』がいる事などを考えれば慎重に動くべきなのかも知れない。

 

 だが隠れてひたすら修行する生活が思いの外ストレスだったのだろうか? 道の真ん中を何も気にせずに歩く開放感に浸ってしまう。ただの田舎道に久方ぶりに文明を感じ、妙に感動する。

 

 ヒュルルルという音が背後から聞こえる。振り返ると軽トラが走ってきていた。農作業にでも行くのだろう。野良着のおじさんが歌いながら運転している。特に気にせずに道の端の方に寄り、視線を戻し歩き出す。

 

「っ!?」

 

 衝撃が背中を打ち、脇にあった田んぼへと跳ね飛ばされる。収穫が終わったばかりの硬い土へ顔面から落ちそうになるのを受け身を取り回避する。

 

 その頃になって気付く。軽トラに撥ねられたのだ。上半身を起こすと軽トラは何事もなかったかのようにそのまま去って行くのが見える。当たった背中に手を伸ばしてみる。何の異常もない。

 

「見えていないのだったな……」

 

 呪霊は非術師には見えないと確認した直後なのにマヌケなミスだった。それにしても運転手は当たった事にすら気付いていなさそうだった。思い返してみると軽トラに跳ねられたにしては衝撃が少なかった事に気付く。

 

「……呪霊は物質を透過するからか?」

 

 だが地面には立てるし、軽くとはいえ衝撃は感じた。気体のような感じなのだろうか? とりあえずまだまだ分からない事だらけという事だろう。もっと致命的な段階で気付く事になったかも知れないのだ。それを考えればダメージを負う事なく知れたのだから良しとしよう。

 

「とりあえず気を抜いてはいけないって事だな」

 

 体に付いた土と稲わらを払いながら(・・・・・・・・・・・)立ち上がる。

 

「……待て?」

 

 呪霊は見えない。それは確認できた。だが体に付いた土と稲わらはどうなんだ? 浮いて見えるのか? これが土ではなく煙ならどうだろうか? その部分だけ煙のない空白な部分ができるのだろうか? もっと言えば普段も僅かとはいえ空気にも空白の部分ができ、歪んで見えていたりするのだろうか?

 

「……もしかして『これ』を利用して伏黒甚爾とかは呪霊を認識しているのか? 本当に分からない事だらけだな」

 

 




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