特級呪霊・黄金郷のマハト   作:Flagile

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第五話 少女と呪霊

 老婆に(無断で)実験に協力してもらったり、軽トラに轢かれたりしながら呪術の知見を増やして来たが、それだけでは分からない事もある。それを知るためにも引き続き情報収集が必要だ。なので神社から村を観察していた時に見つけた大きな建物を目指す事にする。

 

「車に気を付けて行くとしよう」

 

 数分歩き、辿り着いた建物は村の規模と比べると非常に大きかった。どうも病院や介護施設、保健所、公民館、図書館などの公共施設を一纏めにした施設らしい。

 

「ツイてるな」

 

 病院ではないかと当たりをつけていたのだが図書館も併設されているのは嬉しい誤算だ。新聞なりパソコンなりでニュースを調べたかったのだが、この施設なら一般に解放されているパソコンがありそうだ。

 

「おじちゃん、こんにちはっ!」

 

 麦わら帽を被った少女に声を掛けられる。少女がいる事には気付いていた。とはいえどう見ても呪術師ではないので放置していたのだが、まさか俺に声を掛けて来るとは思わなかった。そもそも呪霊が見える人間などほんの一握りのハズなのだから運が悪いにも程がある。

 

「おーじーちゃんっ!」

 

 一縷の望みを掛けて無視していたのだが、トコトコと近寄ってきて、その小さな手でマントを引かれてはしかたあるまい。現実を認めよう。彼女は俺の事が見えているのだ。

 

「はぁ、俺が見えているのか?」

「当たり前じゃない! おじちゃんは何してるの?」

「……調べ物だ」

「カスミはね。入院してるの!」

 

 カスミは自分から何しに来たのか聞いてきたのに俺の返答にはさほど興味がないらしい。自分がこの病院に入院している事、母親が毎日見舞いに来てくれる事、最近新しい友だちができた事、その友達を探していた事などを一方的に話してくれる。

 

「何で俺に話しかけたんだ?」

 

 無視して立ち去る事もしのびなく、ただただカスミの話を聞いていたが、一通り話し終わったタイミングでそう尋ねる。

 

「おじちゃんがね! 見えたり見えなかったりするから気になったの!」

「そうか。良いか。これからはそういう普通とは違う見え方をしているモノには近づくな」

 

 心に寂しいものが去来する。なんやかんや言っても久方ぶりのちゃんとした人との会話なのだ。だがカスミのためにもこれは言っておくべきだろう。

 

 知り合ったばかりとはいえ少女が危ない目に遭うのは寝覚めが悪いと人間なら思うだろう。だから真っ当な人間なら呪霊のような危ない物に近付かないように説得する筈だ。

 

「えーっ、なんで?」

「危ないからだ。攫われたり、食われたりしたいか?」

「いやっ! ……もしかしておじちゃんが桜ちゃんを連れてったの?」

「桜?」

 

 何か想定していない方向に進んだ気がする。

 

「いなくなったの。……おじちゃんは呪霊なんでしょ?」

「呪霊を知っているのか?」

「うん! ゆきひろおじちゃんが言ってたの。こわ~い呪霊から桜ちゃんを取り戻して来るから出歩くな!って」

 

 不満です、と言わんばかりに手を腰に当て頬を膨らませてカスミはそう言う。それにしても唐突に危険な香りが立ち上ってきた。俺がおばけや妖怪、化け物、幽霊といった何かしら人外であると理解している事は問題ない。いや、問題ではあるのだが『呪霊』という表現を使った事に比べたら大した事ではない。『呪霊』という言葉を使ったとなるとそのユキヒロなる人物は呪術師かその関係者の可能性が一気に高い。

 

「そのユキヒロ?の言う通りだ。あとその桜の行方不明は俺ではないな」

「別の呪霊がいるの?」

「そうかもな。それよりユキヒロの言う通り出歩いてはダメだ。あと怪しいヤツに話しかけない。話しかけられても答えない。いいな?」

「むぅ……分かった! おじちゃんとわたしの約束!」

 

 そう言うとカスミは楽しそうにニコニコと笑顔で俺の手を取り、小指を絡ませ、勝手に指切りげんまんをしてくる。それにされるがままにさせておき、一段落付いた時に尋ねる。

 

「ところでそのユキヒロについて教えてくれないか?」

「ゆきひろおじちゃんはね~、お母さんを元気にしてくれた人なの! お母さんの首にいた悪いモヤモヤをエイヤって取ってくれたの!」

「……ユキヒロはまだ近くにいるのかい?」

 

 とても楽しそうに身振り手振りを交えながらカスミがユキヒロについて教えてくれる。ほとんど確定だった。そのユキヒロなる人物は呪術師だ。田舎なら呪術師は少ないと思ったのだが、これは情報収集は今度にして早急に撤退した方が良いかも知れない。そう思った時の事だった。

 

「あっ、あそこにいるよ!」

「待っ……「ゆきひろおじちゃーん!!」」

「カスミちゃん、幸啓お兄さんです……よ……」

 

 頭に巻かれた包帯が痛々しい黒のスーツを身に纏った20代と思われる年若い男が少女に呼ばれて小走りでやってくる。が、途中で俺に気付き、その場で立ち止まる。そして沈黙が流れる。予想通り男は呪術師らしく俺の事が完全に見えているようだ。お互いにお互いを観察し、警戒する。

 

「おじちゃん達、どうしたの?」

「……なんでもありませんよ。カスミちゃん」

 

 幸啓と呼ばれた男はそう言いながらもジリジリと立ち位置を調整している。どうも私に敵わないという思いと、カスミと呼ばれた少女を守りたいという意思が垣間見える。

 

「争うつもりはないし、誰かを襲うつもりもない。……カスミちゃん、さようならだ」

「えっ、おじちゃん、待って!!」

 

 一方的にそれだけ告げて大きく後方へとジャンプし距離を離す。俺の方へと駆け出そうとしたカスミの肩を押さえる幸啓とそれに文句を言うカスミが見える。その間も幸啓と呼ばれた呪術師は警戒しており、私がだいぶ離れてもそれは止む事がなかった。

 

 修行していた場所まで痕跡を残さないように戻り、ようやく一息つく。予想しなかった訳ではないがいきなり呪術師と遭遇し、発見されてしまった。可能性は低いと思うが、この瞬間にも五条悟のような呪術師が飛んできてもおかしくない。

 

 そして収穫はいろいろあったとはいえ情報収集という最大の目的が全く達成できていない。そのため逃げるにしてもどこに逃げるのかという目処すら立っていない。とはいえあの村にこだわる理由は特にない。

 

 呪術師と遭遇してしまったので別の集落を探す事にする。今のところ知っているのはあの村だけだが、別の方向にだって村の1つや2つ見つかるだろう。

 

「と思っていたのだがな……」

 

 あれから3日。修行場所の周囲に新たな人里を見つける事はできていなかった。それなりに広範囲を探したと思うのだが山と森しかなかった。道すら見つからない。ここは北海道なのだろうか? それにしては植生が違う気がする。こうなると選択肢は3つだ。

 

 ①山間の村を再度訪れる

 ②最初に居た鉱山まで戻る

 ③見つかるか分からない探索を続ける

 

 まず3日間も歩き回って成果が出なかった以上③はやりたくない。となると①か②だ。

 

 ②だが、強力な術師を複数撃退した以上、俺なら絶対に監視を付ける。見つけ次第、強力な術師を呼ぶ用意だってしておく。

 

 ①も呪霊がいると認識はされてしまっただろうし、警戒もされているだろう。だが、夏油傑を撃退した呪霊だとは確信はしていないのではないだろうか? その場合、強力な術師をすぐには用意できないかも知れない。

 

「それは楽観が過ぎるか。それでも①の方が多少はマシか?」

 

 そもそも呪術師がいる可能性がある程度で避けるべきなのか? にも疑問がある。呪術師が少ないのは分かっているが、具体的にどれくらいの密度でいるものなのかは知らないのだ。基本的な情報が欠けているために何を選択したらリスクが上がるのか、下がるのかの判断すらできない。

 

「……行くか」

 

 そう呟き、再び村へと向かう事を決断する。決めた理由の一つは図書館が併設されていた事だ。情報収集にあれほど向いている施設はそうはない。そして図書館がある村というのはそう多くないハズだ。それに最悪でも逃げるぐらいの力はあるハズだ。

 

 そう遠くないとはいえ前回よりも慎重に動いたため時間が掛かる。村に入るのも太陽が稜線の向こうへと消え、暗くなってからにする。人気のない道をできるだけ目立たないように進み、目的地である図書館を目指す。

 

 閉館し暗く人の居ない図書館に辿り着く。裏口に回るがドアは当然施錠されていた。そこで鍵を一度黄金化させ、動かし解錠してから戻すという方法で施錠されたドアを開け中に忍び込む。無事、図書館に入る事ができた。そう人心地ついた時だった。微弱だが呪力の気配を捉える。緩んだ意識を締め直し、しっかりと周囲を探査する。そして前方の本棚に誰かいるのに気付く。

 

「カスミちゃんに何をされたんですか?」

 

 本棚の陰から前回出会った呪術師が出てくる。そして低く唸るような声でそう問い詰められる。前回とは違い目が血走っている。片手には呪力を纏った呪具らしき刀をだらりと下げており、抑えきれないのか闘気が溢れ出している。

 

「何も。幸啓だったか? 何かあったんだな?」

 

 おそらくあれからカスミに何かあったのだろう。もしかしたらカスミも失踪してしまったのかも知れない。すぐにそう思い至る。そして冤罪だとも思う。だが相手はやる気のようだ。

 

「答えませんか。これでしたら前回の内に覚悟を決めておくべきでした」

「冤罪だ」

「問答無用です!!」

 

 刀を右肩の上に担ぐように構える。示現流で有名な蜻蛉の構えだ。そのまま間合いの読み合いなどをする事もなく、地を蹴り、一気に距離を詰めてくる。決して遅くはない。だが人外のスペックを持つこの身体からすれば反応し対応する事は難しくはない範疇だった。

 

 ……そのハズだった。

 

 なぜか本棚の上にあったビニール袋が舞い落ち、運悪く(・・・)視界を塞いでくる。それを反射的に手で払い除けようとしながら一歩下がる。

 

 すると運悪く(・・・)その部分の床が傷んでいたようで陥没する。驚きながらもビニール袋を払い除けようとするが静電気で手に絡み付き、そのまま持ち手の部分が近くにあった本棚から少し出っ張った本に引っ掛かる。

 

 運悪く(・・・)引っ掛かったビニール袋により予想外な方向に引っ張られ、さらにバランスを崩す。同時にこれまた運悪く(・・・)固定が甘かったらしい本棚が倒れ込んでくる。陥没した床から足を引き抜き、一歩横へステップし回避する。どうにか態勢を整えようとする。

 

 が、既に遅く、呪術師が刀を振り下ろしていた。

 

 鋭い風切り音の後、硬い音を響かせ刀が弾かれる。これだけ不自然な不運が重なって、それでもなお黄金化による防御は間に合っていた。そして幸啓という呪術師は黄金による防御を突破できなかった。俺は軽く距離を取り、仕切り直す。

 

「……運を操る術式か」

 

 思い出されるのは渋谷事変で七海健人にボコボコにされた呪詛師・重面春太の術式だ。あれは日常の小さな奇跡を貯めるという術式だったが、それと似たような術式だろう。

 

「これでも届きませんか。……そうです。私の術式・悲喜創造(ひきそうぞう)は0=(+1)+(-1)のように何もないところから幸運と不運を創り出す術式です」

「術式開示か」

 

 予想通りと言えば予想通りだったが、想像以上に厄介な術式だった。重面春太のように奇跡を貯める術式なら使い切らせれば良かった。だが、幸啓という術師の術式はその場で幸運を創り出せる。その上、もし自分には幸運を、相手には不運を押し付けられるような能力なら『無敵』と言っても良いレベルだ。だが。

 

「俺を祓える程の幸運、それによって生じる不運はお前を殺すんじゃないか?」

「私はヒーローらしいのですよ。……ヒーローなら命を懸けても勝つものでしょう?」

 

 死んでもやり遂げるという覚悟が見て取れた。そして確信する。そこまで便利な能力ではない。都合の良い能力ではなさそうな以上、冤罪なんかで使わせるべきではないと思う。どう止めるべきか、と思案し口を開く。その瞬間、微かに女の子の悲鳴が響く。

 

「カスミちゃん!?」

「冤罪だと言っただろう。ヒーローなら倒すべき悪役をちゃんと見定めろ」

 

 そう言いながら俺はさっさと構えを解き、悲鳴が聞こえた方へと向かい始める。

 

「あっ……、待ちなさい!?」

「助けに行かないのか?」

「……分かりました。一時休戦といたしましょう」

「終戦でも良いぞ?」

 

 勝てそうにないと理解した上に、犯人でもなさそうな事を理解したからであろう。幸啓は苦虫を噛み潰した顔をしながらも素直に俺に付いてくる。カスミを助ける事の方が優先という事だろう。この調子でカスミを助け、そのまま和解できれば最高なのだが。そんな事を思いながら悲鳴が聞こえた方向へと俺達は走るのだった。

 




日間6位に入っていました!やはり原作パワーって凄いですね。

明らかに実力以上に評価されていますが、これも読者や評価してくださった皆さんのおかげです。また誤字脱字報告もありがとうございます。

ほぼ書き溜めを消化してしまったので次回以降の投稿は遅くなるかも知れません。

投票者数:72人
総合評価:2926pt
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UA:36064
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・追記
前回のラスト部分でフィジカルギフテッドが呪霊を知覚している方法について触れたのですが私は五感の超強化による知覚だと思っていました。

というのも天与呪縛的に普通の呪術師が持つ『呪力視』のような物は得られないと考えているからです。

なのですが感想などを読み、考えた結果、呪力視とは別系統の『魂を知覚する能力』のような物なら可能性はあると思いました。

ですので前回のは作中の主人公がそう考えている、という事でお願いします。



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