「おらー!」
「物資寄越せー!」
「こちとらカツカツなんだよ!」
「お前らも蜃気楼に襲われろー!」
走行車両の上部に設けられた拡声器から、要領を得ない事が叫ばれている。困窮していると主張するわりには空に向けて発砲を繰り返しており、襲撃者達は進んで自分達を追い込んでいるようだった。
アビドス生達は慣れているのだろう。ガンラックから愛銃を素早く取り出し、簡易点検を始めている。
「カタカタヘルメット団です!」
「皆、いっくよー」
「は~い☆」
「応戦する」
「蹴散らしてやるんだから!」
アヤネを除く戦闘員四名が窓から飛び出し、そのまま正面入口の敵集団へ駆け寄っていく。
私は<対策委員会>のオペレーターに尋ねた。
「敵部隊はあれだけか」
「確認できる限りではそうですね。すみません、防衛システムの復旧が途中でした。私のミスです」
「逆に良いかもしれないぞ」
「え……?」
敵の目的には不明な点が多い。詳しく知りたいところだったが、今までのアビドスには敵兵を捕らえて尋問するような余力はなかったらしい。
だが、今は違う。ここで役に立つところを見せておきたい。
敵戦力は三〇人弱。全体の三割ほどでちょうど良かった。どうせこれから殲滅するのだから、ここで無力化してしまう方が良いだろう。
「迫撃砲をいくつか借りていいか」
「はい、どうぞ……というか、<シャーレ>の物資ですし」
「ついでに戦術指揮もしたい」
「はあ……ええっ!?」
アヤネの持つ戦術支援システムに”シッテムの箱”をリンクする。
『お待ちしておりました! スーパーアロナがお助けします!』
「いや、今はいい」
『ええっ!? やっと出番なのに!?』
アロナがその気になれば、敵の通信網を完全に封鎖する事も、あらゆる誘導兵器を制御下に置く事も出来る。現代戦において無敵とも言える力だ。だからこそ、私はその力に縋っていてはいけない。その力が無いと戦えないようになってはいけない。
生徒の助けがなければ戦場に立つ事も出来ない、私の最後の矜持といえるだろう。
「アロナは優秀すぎる。アロナ無しではいられないようになりたくない」
『それが目的なのに……』
「…………」
怖い。
私は体育館に向かいながら通信機の電源を入れる。
「あの、お邪魔します」
『え、先生!?』
「戦術指揮を執ります……」
『ん、どうして敬語なの?』
『なんであんたに指揮られないといけないのよ!』
「オペレーターのアヤネに負担が集中するからだ。私語は慎んでもらうぞセリカ」
『私にも敬語使え!』
セリカがきゃんきゃん言ってくるが、今は構っている余裕がない。戦闘開始と共に指揮権でごたつくのは最悪中の最悪だ。しかしもぐら叩きをいつまでも続けるのも手間である。
「ホシノ委員長。どうだろうか。もちろん従えないと思えば無視してくれていい」
『おっけー』
軽い。考慮したのか怪しいほどの即答だった。
『ちょっと! ホシノ先輩、ほんとにいいの!?』
『今までのやり方じゃダメって話だったしねー。先生のお手並みも拝見したいから』
『私も賛成です!』
『私も』
『ぐぬぬ……あ、足は引っ張らないでよね!』
思いのほか、順調に任せてもらうことができた。私は”シッテムの箱”に表示された情報を確認しつつアビドスの戦力を脳内で編成する。
戦闘員は四名。
前衛を務める小鳥遊ホシノは散弾銃と大型の実体盾を装備した、防御重視の装備を纏っている。
中衛は砂狼シロコと黒見セリカの二人。自動小銃を装備し、身体能力の高い二人は両翼に陣取り、その機動力を活かして戦線を支える。
後衛は十六夜ノノミ。七・六二ミリ口径の六連装回転式多銃身機関銃──通称ミニガンを軽々と振り回し、後方から濃厚な火力支援を行う事ができる、アビドスの要だ。
そして、この四人をオペレーターのアヤネがサポートする。彼女は一年生ながら情報支援、補給管理、ドローンを用いた遠隔治療まで幅広く担当し、指揮管制まで平行していたという。
たった五人だが、全員がしっかりと役割を全うしている。そうでなければ自治区を今まで防衛してこれなかっただろう。
そこに私が挟まることになるのだ。
「前線の四人は弾丸を節約しつつ、二〇メートルほど後退してくれ。敵を誘引したい」
『別動隊が迂回してしまうと思いますが……』
「そちらは私がなんとかする。今は膠着状態を作ってくれたら良い」
私にも学習能力くらいある。
可能な限り前線はうろつかない。以前のサンクトゥムタワー奪還作戦で死ぬほど叱られた時と同じ轍を踏むわけにはいかなかった。
三日三晩、間近で過ごした仲だ。カタカタヘルメット団の動向については熟知している。マップ情報を見れば予想通り、相手は戦力の三分の一を迂回させ、アビドス組を後方から襲撃しようとしているようだった。
階段を降りつつ、踊り場の窓から外を確認。皆は指示には従ってくれている。散発的かつ消極的な抵抗。
カタカタヘルメット団はアビドスが補給を済ませた事を知らないから、攻勢がやや強気だ。それでも単独で前進したそばから正確な射撃を見舞われるので、攻めあぐねている。
銃撃の威力、射線の共有。それぞれの動きを補佐し、死角を常にカバーし続ける有機的な連携。戦闘力では、ホシノ達の方が遥かに上だと一目でわかる。
「余裕だな」
私がいなくても、この戦闘は易々と勝てる。それは理解できていた。このままだと本当に役立たずなので、移動を早める。
体育館から出てすぐの所に<シャーレ>から持ってきた六〇ミリの軽迫撃砲が数基用意してあった。戦力を再配備した情報も共有されているので、ここにある事はわかっている。
角度を調整し、コンテナの中から持ってきた専用の砲弾をそれぞれの砲身へ装填。発砲までのタイマーをセットし、射角の微調整を済ませた。
これで準備は終わりだ。
「さらに一〇メートル後退」
『また後退!?』
「迫撃砲を使って敵戦力を無力化する。敵を捕縛したいから<対策委員会>各位は逆襲の用意をしておいてくれ」
双方に有利と不利がある。
カタカタヘルメット団の有利はその頭数だ。ここに攻め込んで来ただけでも、アビドス生徒の役六倍の人数がいる。何人かが戦闘不能になって作戦が続行できなくなろうが、回収して充分に撤退できるほどの余裕があるのだ。彼女達に不利があるとすれば、情報格差だ。敵側の補給事情を誤認しており、また自身らの補給が満足でない状態で敵陣に攻め込んできた。
<対策委員会>の有利はそのチームワークだ。個々人の戦闘能力が高いから、短期的な戦術目標──散発的な防衛戦だけに絞れば負けようがない。しかし余裕もなかったから、半年間に渡って敵の狙いが分かっていない。色々な事情があり、捕虜をとって尋問までは手が回らなかったのだろう。
今回もいつもの調子なら、正面から敵を撃退して、しかし完全な撤退も許していたと見えた。
私がいなくても勝って当然の戦闘なら、付加価値がなければならない。カタカタヘルメット団と長い付き合いをするつもりはないのだ。
『先生、敵の別動隊が接近しています!』
アヤネの声と共に二基の軽迫撃砲が火を噴いた。初めて撃ったので私は砲声にびっくりする。しかし弾道は狙い通りだ。目標通り、六〇ミリ弾は迂回して後方からの襲撃を目論んでいたヘルメット団一〇名の下へと飛び込んだ。しかし、爆発は起こらない。
「敵主力を狙う。混乱を起こすから、それと同時に突撃だ」
残りの三基もタイマー通りに起動。腹に響く轟音と白煙。三発ともまた狙い通りに敵陣へと着弾した。
目視できる距離ではないが、アビドス組からリアルタイムのレポートが聞こえてくる。
『うわ』
『なにあれ!?』
「機動阻止システムだ」
『なにそれー』
大仰な名前がついているものの、砲弾に特殊な水溶液を詰めただけの物だった。この弾薬は着弾すると爆発するかわりに特殊な粘液を撒き散らし、それに塗れたものは大変なことになる。
『すっごいヌルヌルテカテカですね~。もうまともに動く事も出来なさそうです☆』
ノノミの言葉に私は安心した。
彼女の言う通り、機動阻止システムの被害を受けた者はその動きを封じられる。散布された粘液は接地面との静止摩擦係数を限りなく〇に近づけ──簡単に言うと、もの凄く滑る。濡れた氷の数倍滑る。戦場という不安定な環境、しかも武装した影響体幹も絶えずブレる状況で姿勢を維持することは不可能だ。立っているだけならまだしも移動など絶対に無理だろう。
オートマタ等だったらまだしも、生徒相手に直接の火力投射をするのは断固拒否する私にとって、しかし役立たずは嫌な私にとって、非致死性兵器の存在は不可欠だ。
動揺した様子のアヤネが訊ねてくる。
『こ、こんなのどこで手に入れたんですか……!?』
「ミレニアムの購買で売っていた」
『購買……?』
「値下げされていたからな。お買い得だった」
<ミレニアムサイエンススクール>には<エンジニア部>という部活があり、そこでは様々な技術が形を与えられて世に送り出されている。
あの機動阻止システムもその作品の一種だ。画期的な発明ではあったのだが、粘液を撒き散らす都合上、小型化には限界がある。私が見た中だと軽迫撃砲の規格に合うものが最も小さかった。
値下げされていた理由としては、そもそもの値段が高かった事や、自治区内での悪戯や嫌がらせの温床になり──特に<セミナー>が居を構えるミレニアムタワーが全体的にヌルヌルテカテカになったために使用禁止令が出た事が挙げられる。
しょんぼりした様子で私にそれを説明してくれた黒髪、パンクファッションの生徒を思い出した。言伝も受けていたのだった。
「アヤネ、この砲弾が戦闘で使用されるのは初めてだから、録画した映像を後でもらいたい」
『え……!?』
「ミレニアムに情報提供をすることで更に値引きしてもらったんだ。これからも購入するから、売り手とは良好な関係を築いておきたい」
『えっと……女子高生がヌルヌルテカテカになって身動きがとれずにいる映像を、ご所望なんですか?』
「そうだ」
『こんの変態教師っ! 敵の無力化はしたわよ! すっごいヌルヌルで近づけないけど!』
セリカが罵倒しつつ状況報告をしてくる。なかなかの手際だ。
粘液の効力は数時間で消えるし、別売りの消散剤を使用すればもっと楽だ。しかし万能ではなく、雨天下であれば使用不能なほど効果は低下し、砂漠のような乾燥地帯でも乾いてカピカピになってしまうらしい。
別動隊の方はシロコとノノミが鎮圧してくれたらしい。戦術支援システムを確認すれば、逃れた敵兵はいない。三〇人近くが全て捕虜となったわけだ。後退し校舎近くで捕らえたから運ぶのも楽だ。
「よし、作戦終了だな。捕虜から事情を聞こう」
『その前にこのヌルヌルはどーすんのよ!? こらーっ!』
◆
「うぅ……っ」
カタカタヘルメット団Bは薄暗い中で目を覚ました。
あの白い蜃気楼のせいで物資を奪うどころか、移送途中の補給品が放火され枯渇するという憂き目にあってイライラしていたのだ。
一応は指揮官であるAは責任を取り、ブラックマーケットで必要な物品を手配してくると言って外出した。残されたBは周囲からの冷たい視線に晒され、『物資が無いのはアビドスも同じ。今なら戦力差でこちらが有利』と主張して三〇人近い味方と共に出撃。アビドス校舎の占領も目前であった。
最初こそ目論見通りかと思われたが、謎のヌルヌル爆撃に晒され、部隊は壊滅。アビドスの連中は何の恨みがあるのか、動けないカタカタヘルメット団に執拗な銃撃をおこない、徹底的に無力化してきたのだ。
そして、今に至る。
「ここは……」
「あら~。目が覚めたみたいですね。ホシノせんぱーい、シロコちゃーん、せんせー!」
手足はしっかりと縛られている。Bを見た爆乳の女生徒が誰かを呼ぶ。
ここは使われていない倉庫の一室らしい。自分以外にも数人が囚われているのを確認して、少し安心した。
ガタガタと建付けの悪い重そうなドアが開かれて、爆乳に呼ばれた三人が入室してくる。
不健康そうな白い服を着た男が爆乳をちらりと見て、抑揚の無い声で言った。
「私はいいが、メンバーの実名を明かすのは避けてくれ」
「えー? どうしてですか?」
「相手に情報を与える利点が特に無いからだ」
「なら、どう呼べば良いんでしょうか」
「それは考えてなかった」
「あー、コールサインとかー? 確かにおじさん達、そういうの考えてなかったなー」
「私は考えてある。ホワイトファング465」
「うふふ。実名が含まれていますよシロコちゃん」
間の抜けたやり取りをしているアビドスの連中を見ているしかない。武器は取り上げられ、他の仲間もどこへ行ったか判然としない。ヘルメット団Bが身じろぎすると、粘液が乾いて固形化したものだろう。白い粉がぱらぱらと地面に落ちた。
他の仲間たちも次々に目を覚ます。
「なんだここ……」
「か、カピカピだ……」
「ちょっと、捕まってるじゃないか!」
「くそ、何のつもりだ! 開放しろ!」
ギャアギャアと騒ぎ始めるヘルメット団メンバー。ライフル弾をしこたま撃ち込まれたはずだが、キヴォトスの人間は少し気絶すれば元気になる。
今までは負けてもそれで終わりだったから、自分たちがどういう状況に置かれているのか理解できていない。それは捕まった全員がそうだった。
銃声が響く。
小柄な女生徒が持っていた散弾銃を地面に向けて発砲したのだ。
「ちょーっと静かにしてくれるかなー?」
「喋って良いのはこっちが質問した時だけ」
「可哀想な気もしますが……仕方ないですね」
残りの二人はライフルと馬鹿でかい機関銃を取り出す。こちらは非武装で無抵抗なのに……。
先生と呼ばれた白い男が前に出てしゃがみ込んだ。
現状を説明しようと前置きし、
「君たちの部隊……総勢二八名は残らず捕虜になった。全員を収容するスペースを用意するつもりがなかったから、幾つかのグループに分けて待機してもらっている。今は不自由な思いをしているだろうが、君たちの態度次第で改善するかもしれないし、もっと悲惨な思いをするかもしれない。覚えておいてくれ」
「な、何が目的だ。身代金か!?」
「意見交換だ。しかし見ての通り、双方の状況には格差がある。こちらの意向に沿ってもらえない場合、君たちは苦痛や屈辱、恥辱を味わい、その様子をインターネットにアップロードされる可能性がある」
「屈辱や恥辱だと!? あれだけ粘液でヌルヌルテカテカにしておいて、まだ何かするつもりなのかっ!?」
「アビドスにはその意志も用意もあるという事だ」
先生と呼ばれた人物が後ろの三人から小突かれる。
意見統一が出来ていないらしい。少し離れたところで叱られている。
「せんせー? セクハラ行為におじさん達を巻き込むつもりなんだー?」
「尋問は威圧から始まる。これは常識なんだ」
「でも、先生は本当にとんでもないことをしかねないので不安ですね~」
「……分かった。なら信頼を取り戻そう。ここに、ミレニアムで購入したかゆみ成分を超濃縮した添加剤がある。これがあれば誰だって口を割るだろう。ホワイトファング465は撮影を頼む」
「わかった」
「駄目ですよ、ホワイトファング465ちゃん。先生のノリに感化されてはいけません☆」
「そーそー。だいたい、先生は記憶喪失なんでしょ? なんで拷問の知識までばっちりなのさ? そういうの好きなの?」
「アビドスの事を考えればこそだ。好き嫌いはない。そもそも好きそうに見えるか」
「うへ、通報しちゃおーっと」
「それだけはやめてくれ」
先生と呼ばれた男は無表情のまま慌てていた。わたわたとした騒動を傍観するしかない捕虜たちは、自分達がこんな連中に惨敗したという事実を受け入れられないまま地面に転がっている。
どうにか通報は免れたようで、四人組が戻ってきた。
「こちらの要求は二つだ。一つ、ここを襲撃している武装勢力について、その戦力と装備を知っている限り教えてもらいたい。二つ、君たちの本当の目的だ」
「…………」
「答える気はないか」
「い、言わない! 私たちはカタカタヘルメット団、名前も捨てて記号で呼び合う仲だ。誇りがある! だから、仲間を売ったりしない!」
「わかった。交渉は決裂だな」
「え……」
白い服を着た男はあっさりと立ち上がった。
「ま、待て! こ、これで終わりなのか? 拷問をする気じゃ……」
「しない。対象は他にもいる。別の部屋に転がっているグループに訊けばいい」
「答えるわけない!」
カタカタヘルメット団Fが叫ぶ。
「君たちの中には内通者がいる」
「へっ!?」
「先ほどの襲撃だが、どうしてあっさりと敗北したのか考えてはみたか。”あの”カタカタヘルメット団が惨敗を喫したんだぞ」
「…………」
先生と言われた男の言葉には不思議な説得力があった。ヘルメット団Bは考え込む。……そうだ。泣く子も黙るカタカタヘルメット団が、どうして弱小校のアビドスにこんなやられ方をしたのか。
スパイの存在があったのなら、説明がつく。
そうだ、こんな五人しかいない学校がどうして半年以上も耐えていられるのだ。むくむくと不安感が大きくなっている。
「そ、そんな……」
「先ほど記号で呼び合う仲だと言っていたな。ヘルメットの下の顔……素性を知る間柄ではないんじゃないのか。何者かが紛れ込む可能性は考慮したのか。物資不足での襲撃に異論を唱えた者はいなかったのか」
疑心暗鬼を仄めかす悪魔のささやきだった。
アビドスの三人組も先生の後ろでこそこそと『あいつヤバい』という旨の話をしている。
「そして残念なことに、君たち以外のグループから既に話は聞いている。君たちのように精神力の強い者ばかりじゃない。ここに来たのは情報の擦り合わせのためだけだ」
「なんてやつだ……この悪魔め!」
「君たちの背後にいる黒幕の事も知っている」
「ふん、依頼主の事なんて吐くわけないだろ!」
「やはり依頼主がいたのか」
「はえっ!?」
クソ大人はアビドス生に『やっぱり黒幕いるって』などとどや顔で伝えているが、彼を見る女生徒たちの視線はとても冷ややかだった。
口を割るつもりなんてなかったのに誘導尋問に思い切りひっかかったヘルメット団Bはフルフェイスの奥で顔を真っ赤に染めた。
「よくも舐めた真似してくれたな! ここから出たらお前ら、全員ぶっ殺してやる!」
「……へー?」
「面白いこと言うね」
今度はピンクのちっこいのと白銀の怖そうなのが歩み寄ってくる。オッドアイの二人組は誰かに似た無表情でしゃがみ込むと、
「なんで無事に帰れると思っているの?」
「こんだけの事やっといてさー」
「え……」
二人の瞳には明確な怒りが炎となって燃え盛っていた。当然だと、ようやくヘルメット団Bは思い至る。
彼女達は半年以上もの間、カタカタヘルメット団から襲撃をされ続けてきた。それも一方的にだ。
「ここにいる連中がいなくなっても、私たちは困らない。むしろありがたいくらい」
「心証っていうのかなー。あんまり悪くしない方がいいと思うけどねー」
「え? え?」
殺す気なのか? キヴォトスは銃撃戦が日常茶飯事だし、強盗やテロも頻繁に起こる。しかし、”殺人”だけは別だ。それをやる奴はいない。──いないはずだ。それは不良の領分を遥かに超えている。どんなワルでも、殺しだけは考えもしない。
だが、この二人にはそれをやりかねない”凄み”があった。
なぜなら彼女らには動機があり、そして自分達を帰す理由を探す方が難しいくらいなのだ。
カタカタヘルメット団の総員は一〇〇名ほど。全体の三割がここで捕虜となっている。それを開放して再び危機に陥るか、さっさと処理して残りの七割と正面対決するか、考えるまでもない。
逆の立場だったら、自分だって同じ選択をするだろう。選ぶのは後者だ。
「…………」
いじめられている側からしたら死活問題でも、いじめている側は問題を軽く捉えているものだ。
ヘルメット団Bは、というよりは団員のほとんどがそう考えていた。アビドスの連中は手強いが、別に追いかけたりしてこないから、『今日こそは落とすぞー』などと軽い気持ちで襲撃を繰り返していた。
仲間たちと協力して、大きな目標を達成しようとあの手この手を考えるのは楽しかったし、お金も装備もたんまりともらえた。やめようなどと思った事もなかった。
パン、と音が鳴った。白い服を着た先生が手を鳴らした音だった。
「今日はここまでにしよう。明日になったら気が変わるかもしれない」
こちらに睨みを利かせていた二人は立ち上がり、倉庫を後にする。残りの二人も退室し、機関銃を持った爆乳が倉庫の扉を力づくで閉じて、また室内は暗くなった。
「…………」
日付が変わるまで、口を開く者は誰もいなかった。