先生「バキバキの記憶喪失」   作:地産地消

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第3話 最初の四人

 ◆

 

 早瀬ユウカは速足で<連邦生徒会>本部(仮)に向かっていた。

 腰ほどまで伸びた菫色の髪をツーサイドアップにした、気の強そうな少女だ。

 三大校の一つ<ミレニアムサイエンススクール>の所属である彼女は、生徒会<セミナー>で会計を担当している。今は<セミナー>会長の代理として、キヴォトスの統治機構へ雨のようなクレームを叩きつけて即時改善の言質を取るという重要な業務の最中であった。

 

(やっとこの日が来たわ……!)

 

 <ミレニアム>は科学や工学を始めとした最新技術を研究する学校であり、キヴォトスで生まれる様々な道具はほとんどが<ミレニアム>製となる。<連邦生徒会>とも浅くない付き合いがあり、ここの電子機器から防衛システム、警備ドローンから卓上扇風機までユウカの学校が開発から配備まで手配しているのだ。

 研究というのはとにかく資材と金を消費する。自治区内では賄えない物の数々は流通で補填しているのだ。だからこそ統治機関に対しては自校の技術や安全性、潔白を証明してきていたのだ。

 

 連邦生徒会長の失踪に伴いサンクトゥムタワーが機能を停止。<ミレニアム>への補助金や流通も即座にストップしてしまった。

 それに加えて中央へ管理を部分委託している発電所まで幾つか停止。こちらは今まで電力を格安で<連邦生徒会>に売ってきたというのに、だ。

 

 当然、学園の各所から不満の声が噴出した。<ミレニアム>の生徒達は<トリニティ>や<ゲヘナ>といった他校よりも比較的温厚だが、自身の領分を侵害されると燃料気化爆弾のような勢いで怒り狂う。日頃から<セミナー>の顔として様々な部活と交流してきたユウカは不満の矛先となるのは当然の流れであり、しかしそれを伝えるべき相手は自動音声による問い合わせ窓口を設置して沈黙。

 

 ミレニアムの生徒によってこの問い合わせ窓口は即座にサイバー攻撃を受け、開設から三分でその役目を終えた。今はAIによるお悩み相談窓口が勝手に設置され、学業やダイエット、恋で悩む女子学生達の受け皿となっている。

 そして、本来なら問い合わせ窓口へ向かうはずの不満もユウカへ向かい、今日に至る。

 

「ここね!」

 

 護衛以外、玄関に誰もいない生徒会本部(仮)のエントランスに大股でのしのしと踏み込めば、「説明会案内」と書かれたボードが置いてある。ここが<ミレニアム>なら案内ロボットが即座に近寄ってくる所だろう。

 二分で作られたような手抜きの地図を頼りに一階の説明会場へと足を運ぶ。

 

 カーテンとブラインドで締め切られた室内には人工の灯りしかない。特に不自由はないが、妙な息苦しさを覚えた。

 三〇人ほどが収容できるだろう案内会場には簡素な折りたたみテーブルとパイプ椅子が設置されている。中にいるのはユウカを除き、三人。いずれも三大校の生徒達だった。

 

 <トリニティ総合学園>からは二人。治安維持部隊である<正義実現委員会>の制服を纏った長い黒髪と黒い翼が特徴的な、長身の女生徒。有名人の羽川ハスミだ。

 厳しい表情をしている銀髪の少女はだれか分からない。生徒会や正実のメンバーではない事は確かだった。隙の無い佇まいからして、荒事にはなれているらしい事くらいしか読み取れなかった。

 

 <ゲヘナ学園>からは<風紀委員会>のメンバーだろう。眼鏡をかけた大人しそうな少女が出席している。腕章から<風紀委員会>所属という事がわかった。ゲヘナと言えば混沌を旨とする危険人物達の巣窟ではあるが、彼女からは理知的な印象があった。トラブルなどを警戒する必要はないだろう。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ミレニアム、トリニティ、ゲヘナ。”三大校”と呼ばれる勢力が一同に会してしまった。しかしこの場の四名とはほとんど面識もなく、また友好的な態度も感じられない。

 キヴォトスの統治機構にクレームを言いに来ただけの集団なのでなれ合う必要もないのだが、挨拶くらいはした方が良いのではないか。ユウカの中の社交性が首をもたげた所で部屋の扉が開き、白い服の男女が入室してきた。

 

「ようこそお集まりいただきました」

 

 心にもない事を言っていると一目で判るうんざりとした態度で、七神リン主席行政官がそう告げた。普段のユウカならここで反論の一つでもしていただろう。まずはこの事態への謝罪が先だろうとか、さっさと説明責任を果たせだとか、連邦生徒会長はどこへ行っただとか。矢継ぎ早にまくし立てていたはずだ。

 他の三人も、同様に沈黙している。困惑と警戒、少しの好奇心。それは七神リンではなく、その隣に立っている人物に向けられていた。

 

(大人の……男性)

 

 それはキヴォトスでは何よりも珍しい存在だった。<連邦生徒会>役員と同じ白い制服、やや癖のある黒い髪、不健康そうな無表情。背丈は一八〇センチ前後だろうか。トリニティの羽川ハスミよりもやや高いと見える。年齢は恐らく、ユウカ達とそう大きく変わらない。二〇歳くらいに見えた。

 

「そしてこちらが、以前より<連邦生徒会>から告知をしておりました。連邦捜査部──<シャーレ>の顧問を担当して頂く”先生”です」

「よろしく頼む」

「……先生」

「なんだ」

「ほかに何かないのですか」

「リンの態度からは彼女たちに対する配慮や親近感が窺えない。敵対関係なのかと危惧している。私としては当たり障りのない挨拶だったと自負しているが」

「…………」

「……?」

 

 間の抜けたやり取りを聞かせられていると、七神リンは冷たい視線で先生を射抜いた後、こほんと咳払いをした。手元の資料を参照するよう促された後、

 

「ご存知のことかと思いますが、現在<連邦生徒会>はその機能を失いつつあります。それに伴いキヴォトス全域における通信、流通の麻痺、エネルギーの枯渇、治安の悪化……様々な面でご不便をかけている事、心から遺憾に思います」

 

 ユウカのイライラは増していくばかりだった。主席行政官の口調は他人事のようにしか聞こえなかったし、連邦生徒会長が失踪しただけで学園都市全域が機能不全に陥るという、致命的な不備に関する説明や補填に全く触れられていない。さっさと本題に移りたいという意図が透けて見えるようだ。

 

「昨日の夕方に、サンクトゥムタワーが不良生徒達が結集した武装勢力によって陥落したという件についてもご存じの事と思います。つきましては──」

「ちょっと待った!」

「<セミナー>所属の早瀬ユウカさん。発言の際は挙手をお願いします」

「さっきからずっとしてたわよ!」

「視界に入らなかったもので……」

「この距離で!? 四人しかいないんだけど!」

 

 ギリギリと歯を鳴らしながら七神リンを睨みつける。彼女はユウカ達を迷惑なクレーマー程度にしか考えていない。<シャーレの先生>とやらを同伴させる事でこちらの威勢を削ごうと思っているようだが、そうはいかなかった。

 

 ユウカはミレニアムの生徒全員の怒りを背負ってここに来ている。もし何も手土産がなかったら総攻撃を受けることだろう。

 電子上で管理されているあらゆるデータを改ざんされ、所持している通信機器には濁流のような勢いでウィルスを流し込まれるに決まっていた。実行犯とそれを幇助しようとした生徒を吊るし上げていけばミレニアムから生徒がいなくなり、学園の終焉に繋がってしまう。

 

「説明が必要なのは、今の状況に対する<連邦生徒会>の対応についてでしょ! 数千もの自治区が被害に遭っているのよ! ミレニアムなんか、送金も送電もストップするわ、発電所も動かなくなるわで大変なんだから!」

「ゲヘナからも同意見です。風紀委員長が納得のいく説明を要求しています」

「トリニティ内では他自治区から来た不良生徒による被害が急増しており、治安が急速に悪化しています。連邦矯正局から停学中の生徒が脱走したという情報もあるようですが、これは真実なのでしょうか」

「ブラックマーケットから大量の兵器の流出を確認しました。歩兵用の携行火器から巡行戦車、戦闘ヘリまで、先月比で二〇〇〇パーセント以上増加しています」

 

 ゲヘナやトリニティ生からも非難が上がっている。

 

「ほら! キヴォトス中で大変な事になっているのよ! 連邦生徒会長はどこに行ったの!? なんで何週間も姿を見せないの!?」

「連邦生徒会長は行方不明になりました。捜索に総力を挙げていますが、発見の目途は立っていません」

「え……!?」

「管理者の失踪によってサンクトゥムタワーがその行政機能を停止。<連邦生徒会>は制御権を有しておりませんので、現在の事態に陥っています」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 ユウカを始めとして集められた生徒達は一様に動揺していた。確かに、動乱の発生から連邦生徒会長の姿を見た者はいない。事故か事件か、または急病によるものなのか。そういった情報はほとんどなかった。それがまさか失踪とは──絶望的な状況という事だけはわかる。

 

 キヴォトスの行政能力はサンクトゥムタワーという一建造物に集中、依存している。その制御権を持つから連邦生徒会長という個人は絶大な権限を有していたし、<連邦生徒会>もまた学園都市最大の統治組織として認められていたのだ。

 しかし、その中心人物が失踪。それに伴うサンクトゥムタワーの機能停止。そしてそれを回復させる手段を、恐らく<連邦生徒会>は有していない。出来るならもうしているはずだし、主席行政官がこんなところで得体の知れない大人を連れて説明会など開くはずがない。

 

「なら、どうするつもり!?」

「サンクトゥムタワーの機能が戻らないなら、他の管制方法を再構築するしかありません。ここにはトリニティを始めとした三大校が集結しています。つまり……」

「新たな統治機構を設立する、というお考えなのですか?」

 

「いえ、全く違います。サンクトゥムタワーの行政能力を取り戻す手段は先日まで存在しておりませんでしたが、今は<シャーレの先生>がおりますので」

「ど、どういうことですか?」

「先生は連邦生徒会長から権限を部分的に委譲されています。その中にサンクトゥムタワーの管理権も含まれています」

「へ?」

 

 七神リンを除く全員が驚いた表情を浮かべていた。初耳なのか、先生自身もきょとんとしている。

 

「つまり、先生がいればキヴォトスの動乱も治められる……という事です。昨日まで先生に対する身体検査や精神鑑定をおこなっておりましたが、それも無事クリアされ──ようやく<シャーレ>の正式稼働となりました」

「…………」

「しかしながら、サンクトゥムタワーは現在、不良生徒達によって占拠されている状態です。まずはそこから三〇キロ地点にある<シャーレ>オフィスビルにてある物を入手して頂く必要があります。それを回収後、先生によってサンクトゥムタワーの行政制御権を取り戻して頂ければ、今回の騒動は収束するでしょう」

 

 集まった面々は一様に唸った。<シャーレの先生>に関しての話は散々聞いている。お役所仕事全開の<連邦生徒会>が処理しきれなくなってきていた、キヴォトス全土からの不満を一手に引き受け、それを解決するための新たな組織。凄まじい権限と予算、戦力を与えられ、それを率いるのは一人の”大人”。

 

 前々から話題の中心ではあった。それを推進した連邦生徒会長の能力を疑う者はいないが、しかし得体の知れない人間に対する不信感はある。

 それでも、最初から空前絶後の権限を与えられた先生であれば、サンクトゥムタワーの起動権くらい持っていても不思議ではない、とも思う。

 七神リンはさらに言葉を続けた。

 

「必要となるのは本作戦を遂行するための戦力。しかし<連邦生徒会>の人員は連邦生徒会長捜索にほとんど駆り出されており、<ヴァルキューレ警察学校>の大半は治安維持に全力を注いでいる状態……<SRT特殊学校>は凍結が決定しています。従って──」

 

 嫌な予感が決定的なものになる。

 

「今ここにいる皆さんの力を借りる他ありません」

「は、はあ!?」

「それは、私たちがこの自治区での戦闘を行う、という事でしょうか」

「そうなります」

「それは……即答できかねます。それぞれ組織での立場もありますし、他自治区での戦闘は明確な違反行為の一つです。最悪の場合は学園間の武力衝突に発展するかもしれません」

 

 羽川ハスミやゲヘナの<風紀委員会>所属の生徒が眉をひそめていた。当然の反応だった。彼女たちはそれぞれ治安維持組織の所属であり、生徒会の役員でもなんでもない。

 武力行使を学園側から正式に認められているからこそ、こういう時にはひときわ慎重にならなければいけないのだ。

 二人の常識的な反応にユウカは安堵した後、ある事を思い出した。

 

「あ、<シャーレ>の権限……」

「……!」

「……あらゆる学校の生徒を制限なく加入させ、活動する事ができる」

「つまり、私たちは各自治区の生徒ではなく、<シャーレ>所属の部員として活動するという事ですか」

 

 そうだ。<シャーレ>という組織はいつでも、どこでも、誰にでも介入を行う事ができる。それも、全ての自治区から人員を招集し、活動できるのだ。

 まさにいま直面している”こういう事態”が起こったのなら、ユウカ達のような生徒を集め、解決する。そのための組織。そのための先生。

 サンクトゥムタワーの奪還。キヴォトスの危機。まさに<シャーレ>のお披露目としてはうってつけの局面と言える。

 

「し、仕組んだわね……」

 

 昨日届いたこの場を設けるという連絡は、三大校にのみ発せられたものだ。でなければここには他校の生徒も大勢集まっているに決まっている。この混乱時に説明会へ大人数など寄こさないから、必要最低限の人員が選抜される。

 キヴォトスを左右しかねない勢力の、それなり以上の立場を有す者のみが集まるよう仕向けられたという事だ。

 

(し、<シャーレ>に関わっていいの……?)

 

 他の面々を見渡す。トリニティの羽川ハスミとゲヘナの風紀委員は同様に考え込んでいた。最後の一人──銀髪の少女のみは美しい姿勢のまま頷き、

 

「承知しました。トリニティの外部であっても、治安を乱す輩を放ってはおけません。協力させて頂きます」

「名前を聞いてもいいか」

「<トリニティ総合学園・自警団>所属の守月スズミです。よろしくお願いいたします、先生」

「よろしく頼む。協力に感謝する、スズミ」

 

 先を越された──そう思ってしまう。<自警団>という名前の組織はトリニティで聞いた事がない。恐らく有志の生徒のみで構成された非認可団体なのだろう。羽川ハスミがここに来るという情報を掴んで無理やり同行してきたように見える。

 

 それはトリニティの治安維持組織である<正義実現委員会>と守月スズミの<自警団>は協力関係ではない事を示していた。”正実”の行動を信用できないから、監視目的で現れたのだ。羽川ハスミはその鋭い視線をさらに尖らせている。

 同じ学園でも内部では様々なしがらみが存在しているのだ。しかし、七神リン主席行政官は構っていられないとばかりに話を進める。

 

「申し訳ありませんが、事態はひっ迫しています。ここにいらした皆さんが主張されるように、キヴォトス全体に広がった動乱は一刻も早く収拾しなければなりません。本作戦に参加される方の決を、今この場で取りたいと思います」

 

 参加するべきだ。ユウカ自慢の演算力がそう断言している。サンクトゥムタワーの奪還に協力したという事実は<連邦生徒会>への大きな貸しになる。今後の保障に向けて有利な立場を取ることができる。

 

 だが、情報が全く足りていないのも事実だ。不良生徒の集団を撃退するとして、敵側の戦力や練度、地形情報や戦闘時に発生する破壊に対する責任の行方。混乱に乗じて約束を有耶無耶にされる可能性だってある。

 

 七神リンの思惑だってそうだ。連邦生徒会長の失踪や”先生”の登場、そしてサンクトゥムタワー奪還作戦への参加。これらは全て事前情報無しで話が進められている。

 

 昨日の時点で通告していたら各校は可能な限りの人員と戦力を揃えてこの場に臨んでいただろう。そしてサンクトゥムタワー奪還よりも、その後の主導権争いが本題に据えられて政治闘争が始まっていたに決まっている。

 

 つまり、この状況は七神リンの思惑通りという事だ。厄介事を代わりに解決させられて、その後の面倒事も難なく治められる絶妙な塩梅。さすが統括室の主席行政官。ユウカは舌を巻いた。

 

 ──この場にいる四人だ。この場にいる四人に全ての選択が委ねられている。

 そして現状、<トリニティ総合学園>の守月スズミが参加を表明してしまった。この作戦が成功した場合、トリニティだけが<連邦生徒会>や<シャーレ>に対して影響力を強めてしまう。

 

 どうするべきか分かっていた。それを自身の責任と立場が軽率な言動を許さない。<連邦生徒会>や他校への不信が更に助長する。

 七神リンの発言から三秒。たったの三秒だったが、ユウカにはそれが永遠に感じられた。

 先生が手を挙げた。

 

「私から良いか」

「どうぞ」

「今回の件だが、緊急事態とはいえ参加を募るのにはやや時間が足りていないと感じる。それぞれの立場もあるだろう。この場での回答は難しい。上長からの判断を仰ぐべきだと考える。リン、三〇分ほど取れるか」

「……一〇分なら。ヘリを待機させておりますので」

「一五分だ。各員、一五分で参加するかを決めてくれ。本作戦の責任は全て<シャーレ>が取る。不信があるなら今回のみの参加……”仮入部”という形でも良い。急かしてしまって申し訳ないが、よろしく頼む」

 

 先生は発言の全てを録音、撮影しても良いと告げてから、最上階のヘリポートで待つと言って退室した。指定した時刻に現れない場合は不参加という事だ。

 守月スズミはさっさと起立し、退室しようとする。それを同校の羽川ハスミが呼び止めた。

 

「待ちなさい、スズミ」

「なんでしょうか」

 

 <正義実現委員会>のナンバー2である羽川ハスミは一八〇センチ近くあるかなりの高身長だ。美しい黒髪に大きな黒い羽が、透き通るような白い肌を際立たせるトリニティきっての美人である。そんな彼女が険しい表情で詰めよればかなりの迫力になった。

 しかしその視線を、守月スズミは真っ向から受け止める。

 

「サンクトゥムタワーの奪還、<シャーレ>への加入。どれも大きな責任を伴います。それを貴女は、即答しましたね」

「先ほど私の言った事が全てです。今この瞬間にも治安は乱れ、苦しんでいる人々がいる。学園の垣根を超えて争いを鎮められるなら、断る理由はありません」

「しかし貴女はここへ呼ばれたわけではない。ただのトリニティの一生徒に過ぎないのです」

「ただの一生徒であっても、学校の制服を着ている以上はその所属に対して責任が生じると……?」

「そうです。<自警団>の志は立派ですが、今回の件は軽率ではありませんか?」

 

 やっぱり守月スズミは勝手についてきたらしい。<自警団>という名前は、正規の治安維持組織に対する不信感をそのまま表している。

 銀髪の美少女は、赤い瞳を真っすぐ羽川ハスミに向けていた。そこには闘争心や対抗心は微塵もない。どこまでも純粋な意志が輝いている。立場や責任に縛られている人間には宿せない光だった。

 

「ハスミ先輩、貴女と私の違いはただ一つです。助けを求める手を伸ばされた時、私はその手をすぐに取る。貴女は誰かの許可を得てから取る。今回の件も同じです。時間がありません。<ティーパーティー>に連絡を取った方が良いのでは?」

「…………」

「私個人としては、貴女の参加を希望します。今回のような作戦では、優秀な狙撃手が必要ですから。……失礼します」

 

 スズミが退室し、部屋が静寂に支配される。残された三人は誰も言葉を発さない。

 

(気まず……)

 

 ハスミに何か言葉をかけるべきなのだろうが、これは学園内の話である。ミレニアムの<セミナー>所属であるユウカが口を出して良い問題ではない──いや、こういう部分が守月スズミに敵わない部分なのだろう。

 ともあれ、こうしてはいられない。ユウカは懐からスマートフォンを取り出した。<ミレニアム・サイエンス・スクール>の生徒会長へ連絡する必要がある。コール二回で繋がった。

 

『私よ。何かトラブルかしら?』

「はい。それが──」

 

 要所を抑えて説明をする。トリニティの軋轢を生で見ていたせいで時間は圧していた。ミレニアムの生徒会長はユウカの話を聞くなり返答する。即断即決。相変わらずだった。

 

『参加してちょうだい』

「い、いいんですか?」

『<シャーレ>の存在はこれからのキヴォトスで極めて重要なものになる……トリニティやゲヘナに遅れを取る事は危険よ。例の”先生”に関してもそう。一挙手一投足を観察して。全てが検討材料になるわ』

「わかりました」

『何かトラブルが起きても私が対応する。充分に注意して。無事で戻ってくること』

「……はい。ありがとうございます」

『朗報を期待するわ』

 

 通話が切れる。生徒会長との連絡で一分以上の時間を有した事は未だかつてなかった。

 ユウカは携帯を懐にしまうと、顔をパンと叩いた。これからの行動は生徒会長に提出する報告書にも関わってくる。下手な真似はできなかった。

 

「よし、いくわよ!」

 

 ヘリポートへと向かうエレベーターのボタンを押す。

 独立連邦捜査部<シャーレ>。生まれたばかりの組織が動きだそうとしていた。

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