先生「バキバキの記憶喪失」   作:地産地消

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第21話 対包囲戦

 足元の補給品コンテナから、いくつかの装備を取り出す。そうしながら、私は周囲の状況を確認した。

 便利屋との一件から間断なく戦闘が続いた事で、さすがのアビドス生にも消耗の色が濃くなってきている。

 いま戦っている相手はアル達と比較して、個々の戦闘力やチームワークでは大きく劣るが、最低限の統率と充分な装備、そしてなにより数が多かった。戦力差は数十倍。それを凌ぎ続けているアビドスがおかしいのだ。しかも欠員ありの状態でこれである。

 ”シッテムの箱”を見た。気分が明るくなったりはしない。

 ホログラム相手に、ノノミから手当をしてもらっているセリカが噛みつく。

 

「今さら何のつもり!?」

『いえいえ、今回の件について説明をさせて頂ければと思いまして』

「なによそれ……」

 

 天雨アコと名乗った少女は、困ったように微笑む。

 相手がホログラムを出したならこちらもホログラムの出番だ。奥空アヤネ先生が空間に投影される。

 

『行政官といえば、<風紀委員会>のナンバー2……。つまり、今回の件は貴女の指示という事でしょうか?』

『そうですね……確かに、貴女方の目の前にいる部隊へ出撃命令を出したのはこの私です』

 

 銀鏡イオリが合流してくる。彼女は私の方をキッと睨んでくるが、暴れられる状況ではないことを理解しているらしい。銃まで向けてくることはなかった。

 

『イオリ? 反省文の書き方は熟知していますね?』

「アコちゃん!?」

『確かに出撃命令を出したのは私です。ですが、周辺自治区の生徒との戦闘まで命じた覚えはありません』

「で、でもこいつらは私達の任務を邪魔したんだ! 邪魔者は排除して良いって……」

『そこには<シャーレの先生>も同席しています。そうでなくとも、誰にでも発砲して良い筈がありませんよね? ”邪魔者”の定義くらいは自分で判断してください』

「そんな……」

 

 今になって処罰される事に気づいたらしいイオリがこちらを全力で睨んでくる。彼女を落ち着かせたい一心でオリジナル笑顔を向けたところ、マジギレさせてしまった。真っ赤になって飛び掛かろうとするイオリを周辺の風紀委員が羽交い絞めにする。

 

「あの変態は殺す!」

「おちつけイオリ!」

「アコ行政官の前だぞ!」

「それに<シャーレの先生>を変態呼ばわりするな! アビドスを刺激してどうする!?」

 

 顧問が変態呼ばわりされているのに、アビドス生達に動揺した様子はない。リアクションそのものがなかった。私が動揺する。

 

『アビドス自治区には、五人の生徒のみが残っていると窺っております。皆さんの事ですね。責任者はどなたでしょうか?』

『……<対策委員会>の小鳥遊ホシノ委員長は不在です』

『あら♪ それでは、たった四人で我ら<風紀委員会>の戦力を退けたという事でしょうか。皆さんは素晴らしい力をお持ちのようですね。……問題はこちらにもあるのかもしれませんが』

 

 アコの言葉にイオリが青くなる。聞いた通りなら、命令違反の挙句に一個中隊を戦闘不能にさせられた責任者だからだろう。ゲヘナの主戦力たる<風紀委員会>が、たった四人相手に手こずったという事実はどうあっても変えられない。

 

『というより、それだけの戦力差を覆せるのが”大人”の力なのかもしれませんね』

「…………」

 

 視線がこちらに集中する。私は背後を振り向いた。誰もいない。

 アコの発言の意図が分からず困惑する私に、シロコ達が呆れた様子で息を吐いていた。

 

『つまり、今回の戦闘は不幸な事故だったと?』

『仰る通りです。今回の件はあくまで、自治区外で不法行為に及んでいる<ゲヘナ学園>所属の生徒を捕縛しに来ただけ……その点をご理解頂けると幸いです。申し訳ございませんでした』

 

 敵戦力のナンバー2が正式に謝罪をする。それを見たアヤネの表情が厳しくなった。

 

『つまり、<便利屋68>の身柄だけが、貴女方の目的だという事ですか?』

『その通りです。彼女らは違法な組織から金銭を受け取り、その見返りとしてアビドス校舎の襲撃を企てた。証拠は全て揃っています。ですから、我々が責任をもって問題の解決に当たる所存でした』

 

 なるほど。

 アコ達<風紀委員会>は他自治区の校舎を狙う<便利屋68>を処理するためだけに現れたという。トリニティとの”エデン条約”締結を目前に控え、自治区外で問題を起こす生徒を取り締まる。それはイオリも言っていた事だ。矛盾は無い。

 矛盾があったのは他の部分だ。それは<対策委員会>の全員が即座に気付けるものだった。

 

『誤解があったとは言え、我々は同じ問題を解決する立場でもあります。幸いな事に、明確な連邦生徒会規則違反もありません。<風紀委員会>の活動と立場を、ご理解して頂ければと思います』

『なるほど……』

 

 アヤネがにっこり笑って頷いた。それにアコがほっとした表情になる。アビドス側からの協力が得られれば、目的は達したも同然だからだ。

 

『残念ですが、そうはいきません』

『えっ?』

『違反が無い? これだけ堂々と踏み込んで来ておいて、街を壊しておいて、ですか? これは明確な自治権違反です。事前通告もなく、戦闘行為が終了してから理解を求める? 話になりません!』

「そうよ! 便利屋は確かに迷惑しかかけてこない連中だけど! あいつらを捕まえるなら私達が先!」

『あらあら、それは困りましたね。こちらとしても引き下がるわけにはいかないのですが……どうしたら信用して頂けるのでしょうか』

 

 ほとほと困り果てた、といった様子でアコが首を振る。どこか演技がかった仕草だ。それがアビドス生をさらに刺激した。あの行政官は本当の狙いを口にしていない。

 陸八魔アル達が違法な金を受け取ってアビドスを襲撃したと言っているが、<便利屋68>は手付金の類いを受け取っていないのだ。邂逅時から金銭的に困窮していた事をこちらは知っているし、私はアルから直接その旨を聞いている。

 加えて、便利屋を捕縛するだけなら過剰な戦力だった事の説明もついていない。生徒相手には効果が薄いゴム弾を所持していた事も不明なままだ。

 不自然な事が多すぎる。

 アコが私の方を向きながら言ってきた。

 

『これではゲヘナとアビドスの戦闘という事になってしまいます。ね? 先生』

「アビドス生は現在、<シャーレ>として活動中だ。独立捜査部権限でもって、<風紀委員会>の作戦行動に介入している。だからこれは自治区同士の戦闘ではない」

『それでは、これは<ゲヘナ風紀委員会>と<シャーレ>の問題という事ですね?』

「ああ」

 

 行政官に臆した様子はない。このままだと私どころか<連邦生徒会>と衝突しかねない立場になったというのに、だ。むしろ想定内という様子ですらあった。

 彼女は満面の笑顔で訊ねてくる。

 

『私も、そこにいる風紀委員達もアビドスの方々と同じ生徒なのですが。先生は全ての生徒の味方ではないのですか?』

「私の活動方針については公式ホームページに記載されている。そちらを確認してくれ」

『…………。ここで戦う事に意味があるのでしょうか?』

「ない。だから引き上げて欲しい。できないなら、今まで以上の恥をかくことになる」

『それは私が、という事ですか?』

「イオリもだ」

「ええっ!?」

 

 アコは悲しそうに眼を伏せた。どうにも、こちらを頑固な怖いもの知らずという事にしたいように見える。アビドスからしてみれば、彼女は目的を明らかにしないまま大戦力を差し向けて来ている得体の知れない生徒に過ぎない。

 便利屋の存在を理由に、何かを企んでいるような相手だ。

 

『こちらの目的を理解して頂けないのなら、仕方ありませんね』

「アコ、まだ話していない事があるんじゃないのか」

『どういう事でしょうか?』

「包囲陣形の完成にはまだ時間が掛かるのかと訊いている」

『……!』

 

 アロナが先ほどから警報を発してくれている。いま戦った戦力と同規模の部隊が少なくとも三つ、周囲に展開しているのだ。

 アコはこちら側の戦力を把握している。オペレーター担当のアヤネを引っ張り出せば、アビドス側の警戒網が緩くなるという狙いがあった。狙撃部隊の存在はドローンの動きを制限していたから、戦闘中も察知する事は出来なかった。

 つまり、アコは最初からアビドスとの更なる戦闘を計画していた事になる。姿を現したのは包囲陣を敷くまでの時間稼ぎだ。便利屋は侵攻の理由に過ぎず、本命はやはり別の所にあった。

 

「やっぱり騙す気だったって事!?」

「ゲヘナほどの学園が、随分と用意周到ですね☆」

「女狐」

『先生には後でお話があります』

 

 絶望的な状況だと判明した後でも、<対策委員会>の戦意には陰りが見えない。約一名、どうしてか私に対して戦意を燃やしている者もいるが、それは考えない事にした。大方、情報を掴んでいたのに黙っていた事を咎めたいのだろう。

 私にも狙いがあったのだ。アコが時間稼ぎをしたように、私も時間を稼ぎたかった。

 相手は知らないだろうが、今までアコと私との間で今後を占う重大な賭けが行われていたのだ。

 

『それを知っていて私達に挑むのですか、先生?』

「そうなるらしい」

 

 天雨アコが右手を挙げる。同時に、銀鏡イオリを始めとした<風紀委員会>が再び戦闘態勢に移行した。初戦とは違い、明確な意志を感じる。行政官による明確な指示と指揮があるという状況が、彼女達に変化を与えていた。

 こちらに接近しつつある部隊も含めて、ゲヘナ側は一〇〇〇人近い戦力だ。

 

『分かりませんね。アビドス生を危険に晒してまで……貴方にとって便利屋は何なのでしょう?』

「決まっている」

 

 それでも、賭けに勝ったのは私の方らしい。

 

「切り札だ」

 

 伊草ハルカが突入してきた。

 

 

 ◆

 

「どういう状況?」

 

 鬼方カヨコが困惑した様子で呟いた。

 

「ホントに風紀委員の連中と戦うなんてね~。なに考えてんだか」

 

 退避した<便利屋68>メンバーは、瓦礫の陰からアビドスとゲヘナの戦闘を観察している。

 銀鏡イオリを中心とした<風紀委員会>の部隊は、執拗に先生を襲撃し撃退されていた。それでも人数と耐久力で勝る彼女らは、徐々にではあるが追いつめていく。

 だが、<対策委員会>の底力は知っての通りだ。連戦に加え、欠員を抱えている状態でもゲヘナに一歩も譲らない。たった四人で防衛ラインを構築し、敵主力を先生が引き付ける事で一個中隊規模相手にほとんど勝利してしまった。

 

「…………」

「アル様……」

 

 陸八魔アルは、戦場の片隅からその様子をずっと観察していた。一言も発さず、ただ廃墟の屋上で眼下を見据えている。

 逃げろと言われ、その通りにする事は出来なかった。自分達がアビドスに与えた損害は計り知れない。にもかかわらず、何度も救われた。最初から最後まで、何も変わらなかった。

 柴関ラーメン消滅の直接的な原因となった伊草ハルカは先ほどから顔を青くして縮こまっている。何度か散弾銃を咥えて引き金を引こうとしたため、今はムツキとカヨコが両側から抑えていた。

 ハルカを御せなかったのはアルの落ち度だ。彼女の責任ではない。社長である自分が背負うべきものだ。

 だから、このままで済ませる事は出来なかった。

 

「で、どうするの? アルちゃん」

「…………」

「アルちゃん社長?」

「もう少し様子を見るわ」

 

 ムツキからの質問に答えながら、カヨコの方を見る。

 鬼方カヨコは<ゲヘナ風紀委員会>と因縁があり、特に行政官である天雨アコからは目の敵にされている。この課長の知識と情報処理能力、判断力は便利屋にとっての命綱だった。この状況では誰よりも正確な判断が下せるだろう。

 

「私は社長に賛成。風紀委員側の動きに妙な所が多すぎる」

 

 恐らく、この騒動の首謀者は天雨アコだ。便利屋に対するあの行政官の姿勢は苛烈かつ陰湿であり、本当にアル達を一網打尽にしたいなら一個中隊をそのままぶつけたりしない。ここまでの規模は初めてだが、数に物を言わせた強襲は何度もされていて、こちらはそれを切り抜けている。

 本当に<便利屋68>を捕らえるなら、あの風紀委員長を連れてくれば良いのだ。

 つまりは、天雨アコの狙いは<便利屋68>ではないという事になる。

 

「別動隊はいると思う?」

「間違いなくいるはず。アビドスの防衛システムは自治区全体をカバーできる程じゃないのはすぐ分かるから、大部隊でも気づかれずに配置できる」

 

 カヨコの中では、既にアコの狙いがアビドスにあると決まっているようだ。ゲヘナがアビドスの何かを狙うとは思えない。

 そうなると、”誰”が狙われているのかはすぐに理解できた。

 

「決めたわ。<風紀委員会>に奇襲をかける」

「くふふっ! さっすがアルちゃん! これだけやらかしちゃったのに尻尾巻いて逃げるなんて出来ないよね~?」

「別にアビドスを助けるわけじゃないわ。連中とは、まだ決着がついていないもの」

「いや、もうハッキリついていると思うけど……」

「私達は孤高のアウトロー。体制側の顔には泥を塗るのが当然でしょう?」

「で、いつ行くの? 今すぐ?」

「まだよ。天雨アコが伏兵を忍ばせているのなら、その動きを掴んでからが良い」

「風紀委員長がいないかちゃんと確認して、大丈夫そうだったらアビドスがピンチになったタイミングを見計らって登場するんでしょ~?」

「…………」

 

 両者の消耗が深まったタイミングで、銃撃戦が一度落ち着いた。

 ゲヘナの一個中隊規模の戦力は行動不能になり、しかしアビドスも連戦により息切れが始まったところだ。このままだと、形成逆転は不可能だろう。<シャーレの先生>は底知れない力を持っているが、手札が切れていてはどんなプレイヤーでも盤面は覆せない。

 

「ハルカ」

「は、はいっ! アル様!」

「今のアビドスには前衛がいない。貴女が守ってあげなさい」

 

 伊草ハルカは上気した顔でこくこくっ! と頷く。

 

「私達が共同戦線を張るのは、アビドスじゃなくて<シャーレ>よ」

「先生の指揮に従えって事? 私達、いま物凄く嫌われてるんじゃない?」

「こちらが動けば先生は呼応してくれるわ。間違いなくね」

「確かに! ハルカちゃんがうろちょろしてたのには気づいてそうだったしね~!」

 

 陸八魔アルは愛銃を肩に乗せ、自信満々に社員達へ告げた。

 アビドスへ来てからは理想とどんどん離れてしまっていたが、それでも学んだ事はある。それを見てもらいたい相手がいた。

 

「私達はアウトローよ。好きな時に好きな場所で、好きなように振舞う」

 

 今は久しぶりに、風が心地よかった。

 

 ◇

 

 ハルカは突撃してきた時の勢いのまま、銀鏡イオリに至近距離で発砲した。銃口を突き立ててからの連射。流石のイオリも反応すら出来ず、地面を猛スピードで転がっていく。人身事故を間近で目撃したような気分だ。かなりの衝撃映像だった。私の額に汗が伝う。

 乱入者の勢いは止まらない。体勢が崩れた<風紀委員会>の懐に潜り込み、力の限り大暴れする。銃身で殴りつけ、蹴りを見舞い、投げ飛ばし、そして銃を乱射した。

 その戦いぶりは普段のハルカの大人しい印象からは余りにかけ離れており、至近距離から衝撃映像を立て続けに見る事になった私は思い切りドン引きしていた。状況を上手く理解できない。

 それでも責任は果たさなければならなかった。

 

「ど、どういう事!? あ、あいつ便利屋のメンバーよね!?」

「逃げていなかったんでしょうか……?」

「気づいていたんですか?」

「先生」

 

 ノノミとシロコから視線を向けられた私は頷いた。衝撃映像の主役である伊草ハルカが、戦場周辺をうろちょろしているのを何度か見かけていたからだ。

 アル達が離脱していないのなら、加勢に来てくれる可能性に賭けてはいた。先ほどまでの経緯から、味方をしてくれる流れは希望論に満ち溢れていたため口には出していないが、これ以上ないくらいありがたい展開ではあった。

 カヨコから新しい位置情報が送られてくる。”シッテムの箱”で処理すれば、新たに仕掛けられた爆薬群と便利屋メンバーの配置がマップに追加された。それだけで意思確認は充分だった。

 

「便利屋と共同戦線を張る。皆はそれで良いか」

 

 アビドス生達も、このまま戦闘を重ねれば勝機が無いという事を理解しているのだろう。今となっては、散々ボコボコにした<便利屋68>よりも新たに喧嘩を売ってきた<ゲヘナ風紀委員会>の方へ怒りが向いているのもあり、頷いてくれた。

 黒見セリカも含めてだ。

 てっきり態度的にも物理的にも噛みつかれると考えていた私は驚く。シロコとノノミにハルカの援護を依頼し、彼女に訊ねた。

 

「セリカ、いいのか」

「いいわよ。なんか文句あんの?」

「随分と物分かりが良いと思ってな。地雷を食らったショックでおかしくなったのかと心配になった」

「ぶん殴られたいの?」

 

 私は首を振った。

 

「よし。アヤネはラムセスで援護してもらいたい。セリカも同乗してくれ」

「分かりました!」

「はあ!? 私だってまだ戦えるけど!」

 

 いつも通りの噛みつきに安堵した。ここで頷かれていたら、セリカを偽物だと疑っていた事を口外していたかもしれない。

 

「セリカのダメージは深刻だ。ラムセスは二人じゃないと給弾が出来ない。なにかあればアヤネの護衛も出来る」

「うっ……」

 

 流石に今回は相手が相手だ。ホシノが戻って来ない以上、オペレーターのアヤネすらも前線に投入せざるを得ない。ラムセス2型を前に出す気は無いが、当てにはしたかった。

 これからは鬼方カヨコがオペレートを補助してくれるようだが、それでもアヤネの負担は大きい。護衛を兼ねた同乗者は絶対に必要だった。

 セリカは渋々と頷き、親友に手を引かれ戦車へと向かって行く。

 

(まだ油断は出来ない……)

 

 アビドス生は元気そうに見えるが、連戦に次ぐ連戦の消耗は決して無視できなかった。セリカ以外のメンバーにも無理をさせ過ぎている。

 輸送車に満載してきた武器弾薬はまだ余裕があるものの、ここからは<便利屋68>を中心に戦闘を組み立てた方が良い。

 私は新しく追加されたチャンネルに呼びかける。

 

「アル、感謝しても良いのか」

『駄目よ。私達はただ通りかかっただけだもの。たまたま風紀委員を見かけたから、ついでに蹴散らしているに過ぎないわ』

「ふーん」

『なによ!?』

「ありがとう。本当に助かった」

『だから感謝はいらないってば! さっさと指揮を執ってちょうだい!』

「ああ」

 

 一陣の風が吹く。

 知らず知らずのうちに、笑みが浮かんでいた。

 味方が増え、危機が遠ざかった事もそうだが、それよりもアル達の様子が嬉しかった。

 出会ってから今までの、思い詰めて苦しんでいた感触が随分と消えている。悩みが晴れて見えない足枷が外れたのなら、これからようやく<便利屋68>の真価を見る事が出来るのだろう。

 胸の奥から何かが燃え上がってくるのを感じた。怒りとは全く真逆の力だった。もはや負ける気がしない。

 その勢いに任せて、<対策委員会>と<便利屋68>を集めた通信チャンネルへ呼びかけた。

 

「便利屋にメインを張ってもらう。アビドス生は援護をしてくれ」

『浮気ってこと?』

『なるほど~☆』

『私達には飽きたんだ?』

『今日の反省会が楽しみですね』

「…………」

 

 顧問をしている生徒達から信じられないほど冷たい声が返ってくる。

 湧き上がってきていた力はどこかに消え去ってしまった。

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