私の前を歩いている七神リンはどうやら不機嫌のようだった。私は眼鏡の位置を直すと、慎重に言葉を選ぶ。あまり刺激するわけにはいかない。
「どうしてそんなに不機嫌なんだ」
「…………」
「リンのやり方は悪感情を募らせる。柔らかい接し方、話し方を心掛けるべきだ」
「……柔らかい接し方?」
「そうだ」
存分に刺激してしまったらしい。
立ち止まり、振り返ったリンも眼鏡の位置をくい、と正す。そしてにっこりと笑った。とびきりの美人に微笑まれたのだから本来はもっと嬉しいのだろうが、顔に影が差していて非常に怖い。彼女からはピキピキと音がした。
「先ほどもそうでしたが、随分と私の態度に関心があるようですね?」
「そうだな」
「確かに愛想が無いのは認めますが、先生の方もなかなかの仏頂面ですよ。何を考えているかわからず、相手に警戒心を抱かせます」
「今の私はリンがとても怖いと考えている」
「…………」
主席行政官の眼鏡がギラりと光った。かなり怒っているらしい。彼女は苦労して深呼吸をすると、「相手は記憶喪失なのだから」と何度も自身に言い聞かせていた。
リンの立場が最も大変なのは理解している。統治をしている学園都市全土では秒単位で複数のトラブルが発生しており、それは今この瞬間も変わらない。日常業務は完全に麻痺し、行政能力の要であるサンクトゥムタワーは何の政治的主張も無い、その場の勢いで暴れているだけの不良達に占拠される始末。動かせる人員は枯渇していて、肝心の連邦生徒会長は行方不明。
それなのに苦労して面倒極まりない三大校の代表生徒を招集し、制御が利く範囲で戦力をかき集めた所、そこを記憶喪失の駄目人間につつかれる。キレるのも当然だった。
むしろこの状態で精神をコントロールし続けているリンの人格はもはや学生レベルではない。主席行政官の肩書に相応しい人物なのだ。決して刺激するべきではない。
それはそれとして怖いのも事実だった。
「戦力は彼女達だけか」
「<ヴァルキューレ警察学校>の部隊が集結していますが、瓦解状態です。早急に立て直す必要があります。彼女達が集まってくれるかにかかっていたのですか……」
それを私が邪魔をした。
非難がましいリンの視線を受け流しつつ、私は唸った。戦闘自体に脅威は感じないが、そこへ生徒を投入する事には極めて強い抵抗がある。
怪我人が……それどころか死人が出るかもしれない。そう考えると背中が汗でじっとりと滲んだ。それは今回の話を聞いた時から変わらない。納得する事は難しいようだ。
「──先生」
気が逸れていた。意識を戻して謝ると、リンは呆れたように息を吐き、長い黒髪を背中に流した。鋭く長い耳が覗く。
「何度も言っていますが、キヴォトスの生徒は銃撃戦くらいではびくともしません。コンビニや自販機では銃弾や爆薬が気軽に販売されていますし、未就学児が手榴弾で遊ぶことだってあります。……ほら、見えるでしょう。道路に戦車が走っていますが、あれを運転しているのは学生です」
「む……」
リンの言う通り、何度も何度も説明を受けた。私の中にある”常識”はこのキヴォトスでは通用しない。そしてその常識をこの世界に押し付けるべきではない。先生として<シャーレ>という組織を任されているのだからそれは当然だ。
──そうだ。実際の戦闘映像だって幾度となく確認した。
同席していた財務室長から『いい加減にしろ』『何度観ても変わらない』『生徒達が下着丸出しで気絶する場面を繰り返し再生するのは常軌を逸しており通報せざるを得ない』と罵倒もされた。それでも自分の中の危機感を誤魔化す事はできなかった。
私はもう<シャーレの先生>なのだ。キヴォトスの動乱を鎮めるのは私の責任。それに付き合わせる形になる守月スズミ達には頭が上がらない。参加してくれる生徒に応えるためにも、ここで足踏みをするわけにはいかなかった。
リンの携帯電話から着信音が鳴る。
「交通室長からです。余り良い連絡ではないでしょうね……どうしたのモモカ。ええ、ええ……そう。わかった。こちらも戦力を整え次第、出撃します。防衛室長との連絡は? ……なるほど」
額を抑えたリンは通話を終えるとこちらへ向き直った。私たちは立ち止まる。ちょうど武器保管庫の前だった。主席行政官がカードをかざすと、薄い扉が開く。指向性爆薬の一撃で簡単に突破できるような強度のようだ。キヴォトスにおいて銃火器の保管はこの程度でいいのだろう。
「先生、今の連絡ですが」
「ああ」
「一時間ほど前、<シャーレ>オフィスビルへ武装集団が移動を開始したそうです。不良生徒の集団にどういうわけか傭兵が合流し、戦車と兵員輸送車両を中心とした機甲部隊が編制され、<ヴァルキューレ警察学校>の警備隊と交戦中とのことで……」
「…………」
<シャーレ>のオフィスビルは今回の作戦における第一目標地点だ。そこで鍵となる”シッテムの箱”を入手し、サンクトゥムタワーを起動。その後に占拠された施設を奪還する手はずだった。
にも関わらず、このタイミングで武装集団が先んじて<シャーレ>オフィスビルへ移動し始めた。サンクトゥムタワーの起動権に関わる話は限られた人間しか知らないはずだ。
「どこかから情報が漏れたのでしょうね」
「オフィスビルの付近は警察学校の主力部隊が待機していると聞いたが」
「その通りです。連邦生徒会長の失踪と共に機能停止をしたサンクトゥムタワーよりも、”箱”が保管されている<シャーレ>の方が重要ですので」
オフィスビルの地下には連邦生徒会長が残した複数のオーパーツが納められている。シッテムの箱もその一つだ。だからこそリンは僅かな戦力のほとんどを<シャーレ>中心に配置した。
これが裏目に出て、サンクトゥムタワーが呆気なく占拠される事にも繋がったようだが、今はそれは良い。
重要なのは、どこから情報が漏洩したか、だ。今回の武装集団の動きは明らかに誰かが背後で糸を引いている。
<連邦生徒会>に内通者がいるのか──だとしたらその理由はなんなのか。私には想像もつかない。
「<シャーレ>の開設を手配したのは私です。……疑われても、仕方がないと思います」
七神リンは失踪する直前の連邦生徒会長と最も接した生徒だ。リン自身がそう言っている。
サンクトゥムタワーとオフィスビルの戦力配置を指揮し、<シャーレ>地下にあるオーパーツ群の情報を有する唯一の人物だった。もっと言えば奪還作戦の段取りをしたのも彼女だ。こちらの動きに呼応するように武装集団を動かす事も可能だろう。
疑おうと思えばいくらでも疑える。そういう立ち位であるのは事実だ。
「疑うはずがない。リンの事は信頼している」
「…………」
「だが、今回の件に不審な箇所がありすぎるのも事実だ。作戦は予定通り行う。敵戦力を撃滅後、捕虜から話を聞けばいい。包囲戦をおこなう」
「……はい」
リンの表情は晴れない。当然だと思った。出会ってから間もない相手に何を言われても、それは芯に響かない。ましてや記憶の無い人間から出てきた言葉ならなおさらだ。どうするべきか。
私の中に焦りが生まれた。連邦生徒会長の失踪と先生の記憶喪失という絶望的な事実が重なり、最も苦労しているのはその代理である主席行政官だ。それを称える事はあっても疑う事などありえない。
言葉を重ねるしかなかった。
「その、なんだ。リンは裏で糸を引くような器用な真似は出来ないと考えている。そんな腹芸が出来るのなら、先ほどの説明会だってもっと良い雰囲気に出来たはずだ。あの冷めきった空気は間違いなく本物だ。あの場にいた私が言うんだから間違いない。スズミ達に確認するのも良いな。居心地が悪かったと、皆が口を揃えて言うだろう。だから」
「なるほど」
元気づけることに成功したようだ。リンはにっこり笑っている。顔に影が差しまくっていて目元もひくついているが、笑顔ではある。私は心から安堵した。
「エレベーター前でお待ちしております。携行火器くらい選んでから来てくださいね。後で後悔しても知りませんから」
驚くほど冷たい声でそう告げると、リンはカツカツとヒールを鳴らして去っていった。どうやら激怒しているらしい。
私はボソリと呟いた。
「……説明会を思い出すな」
「聞こえていますよ」
「む……」
「戦場では背中に気を付けてくださいね」
「は、はい」
扉の向こうではヒールの音が遠ざかっていくのがわかった。私は額に浮かんだ汗を拭い、電子時計を確認する。なんだか命の危機が具体的な形状を有しつつあるようだが、今は時間がなかった。指定した時間まであと五分しかない。保管庫の奥へと足を踏み入れる。
紛争地帯に赴く以上、私も多少の装備をしていく必要があった。<シャーレ>の制服には存在する限りの防弾、防刃、耐熱、対爆等の措置が施されているものの、限界はある。最低限、自身の身を守る武器くらいは持っていかなくてはならない。
(しかしな……)
財務室長の扇喜アオイからも無限に言われたが、私の銃撃はキヴォトスの生徒達には通用しないそうだ。脳天に直撃させてもデコピン程度の効果しか期待できないらしい。
反対に、私の肉体は銃弾一発で死に至る。制服で守られている首より下ならまだマシかもしれないが、頭を負傷したらもう終わりだ。
サンクトゥムタワーを奪還した後ならまだしも、特に今回の作戦での戦死はキヴォトスの終焉に直結しかねない。
「これでいいか」
私は半開きの引き出しから覗いていた銃を取る。
”ピースメーカー”と呼ばれるシングル・アクション・リボルバーだった。四五口径、銃身から機構まで一体化したソリッド・フレーム。回転式拳銃としては大型かつ重いが、男は大きさに信頼を置くものだ。
なにより──平和をもたらす者という名前を冠しているにも関わらず、安全装置すら設けられていない。それは<シャーレ>という組織に似ていて、どこか暗いユーモアを感じた。
持ってみるとこれ以上ないくらい手になじんでしまった。
これにしよう。即決する。
時間が無いし、手入れも楽だ。銃弾だってそこらへんに転がっていて手頃である。私は予備の弾丸を一掴みすると、ポケットにねじ込んだ。
「待たせた」
エレベーターの前で待っている七神リンに声をかける。満を持して時代遅れのリボルバー銃を持参した私をリンはゴミを見るような目で見て来たが、何も言わなかった。もう諦められたのかもしれない。私は不安になり、強い危機感を覚えた。
待機状態だった昇降装置に乗り込み、最上階のヘリポートへ移動する。
眼下にはキヴォトスの全景を見る事が出来た。透き通るような青い空に、整然と並んだ建築物の数々。美しい街並みだと思った。破壊行為が日常的におこなわれ過ぎて、ほとんどの建物は築年数を重ねられないまま倒壊するのだという。そのため都市開発が捗りすぎて、整い過ぎた先進的な街並みを楽しむ事が可能なのだ。
数十キロ先には奇妙な形をした巨大な建造物が確認できる。オベリスクにも似た塔。それが天と地から伸び、尖端を突き合わせる形でそびえ立っていた。
あれがサンクトゥムタワーだ。
「…………」
私は不思議な感覚に襲われた。郷愁、とでも言うのだろうか。懐かしく、物悲しい。安心するようで、同時に焦りをも感じる。こうしてはいられない。責任を果たす必要がある。そんな考えがどんどんと大きくなる。身じろぎをした拍子にポケットの弾丸がじゃらじゃらと音を立てた。
「先生?」
「なんだ」
「様子が……おかしいのはいつもの事でしたね」
「…………」
「到着します。生徒達が見ていますので、表情を引き締めてください」
エレベーターの扉が開く。通路を進み、ヘリポートに出ると人員輸送用の回転翼機が待機していた。
──四人の生徒達も勢ぞろいしている。
表情を引き締め、出来るだけ貫禄を前面に出して告げた。
「集まってくれて感謝する」
「…………」
ローターの音が私の声を完全にかき消しているらしい。私は最悪な気持ちになって四人をヘリへと促した。ドアを閉めると気密がされ、外部の音がほとんど聞こえなくなった。
「……集まってくれて感謝する」
「なんだか元気が無いですね」
理由を知っているはずのリンが傷を抉ってくる。表情はいつも通りだが、楽しそうに見えた。彼女は持っていたタブレット端末を点け、説明を始める。私にしたものとほとんど同じだった。
「やっぱり仕組んでたのね……」
ミレニアム所属の生徒、早瀬ユウカがジトリとした視線で言ってきた。リンはあっさりと頷き、
「まずは<シャーレ>オフィスにてある物を回収します。しかし現在、サンクトゥムタワーを占拠していた武装集団の一部が我々の目的地へ侵攻しているため、まずはこれを撃破して頂く必要があります」
「敵の戦力はどのくらいなのでしょう」
「集結した不良集団は三〇〇名前後。そこから三分の二が<シャーレ>へ移動をしているそうだ。オートマタで構成される傭兵部隊も合流したそうだから、二五〇名ほどという見立てになる」
<正義実現委員会>の羽川ハスミから来た質問に答えつつ、私は説明を進めた。
敵の人数自体は大した問題ではない。勢いで集まっただけの集団だ。その勢いを殺せば自然と霧散する。であるなら、その勢いをどうやって殺すのかが焦点となる。
「現在、敵戦力の後方には自走式電子戦システムが存在している。大仰な名前をしているが、高性能の通信車両と考えてもらっていい。これのせいで半径5キロ圏内の通信が完全に途絶している。警察学校の部隊が瓦解したのも、この通信車が原因だ」
「つまり、まずはその車両を破壊ないしは奪還するのが目的となりますね」
「その通りだ、スズミ。そうすれば通信網は回復し、<ヴァルキューレ>の部隊を再編できる。敵主力は<シャーレ>側に集中しているから、これを撃滅できればサンクトゥムタワーの奪還も容易い」
この通信車両は歩兵で構成された部隊が防衛にあたっている。戦車等も確認されているから、周辺に配備されているかもしれない。
破壊にしろ奪還にしろ一筋縄ではいかない──そう考えたらしい。<ゲヘナ風紀委員会>から出向してきた火宮チナツが挙手をした。赤みがかった色素の薄い髪、黒いリボンに赤い手袋、そして眼鏡をかけた、この場で唯一の一年生生徒だ。
ゲヘナと言えば世紀末的な価値観の持ち主が多い危険な学校との事だが、チナツは一目で優等生とわかる理知的、理性的な雰囲気を備えている。
「敵戦力は把握しましたが、それを我々四人で鎮圧するのでしょうか?」
「現在、敵はヴァルキューレの部隊と交戦中だ。つまり戦力を前面に集中させている。我々は敵後方から強襲をかけ、通信車両を無力化。相手からしたら挟み撃ちの形になるわけだ」
「な、なるほど」
「問題はまだあります。今回の件の首謀者と目されている生徒──狐坂ワカモ。彼女が戦場のどこにいるか判明しておりません」
リンの持っているタブレットに表示されたのは一人の女生徒だった。
その名の通り狐の面を被った彼女は<百鬼夜行連合学院>の出身であり、数々の破壊行為を理由に連邦矯正局に収監されていたらしい。キヴォトスの動乱に際して六名の生徒と共に脱獄を果たし、その勢いのままサンクトゥムタワーを襲撃した。
彼女が学園都市きっての危険人物とされているのは、その戦闘能力にある。狙撃から白兵戦、電子戦からゲリラ戦まで全てを高次元で成立させており、そこに不良集団を集結させ支配下に置き、ここまで事態を悪化させる指揮能力まで有しているのだ。
彼女の動向が戦局を左右する。それは間違いなかった。
「ワカモに関してだが、可能であれば捕縛したい」
自分で言っていて難しい話だという事は分かっていた。今回の状況、味方と敵の戦力差。こちらは”シッテムの箱”の回収やサンクトゥムタワーの奪還といった主目的が他にあり、あちらはただ暴れたいだけ。その気になったら不良集団を見捨てて離脱するだろう。それを阻む余力がこちらにはなかった。
「だが、作戦目標はあくまでも<シャーレ>オフィスビルだ。これはあくまで変わらない。まずは通信車両破壊までの段取りだが──」
到着までの時間は残り少ない。守月スズミ、早瀬ユウカ、火宮チナツ、羽川ハスミ。それぞれのデータを確認しながらこの場で作戦を立てる。
窓の外では黒煙が立ち上るのが見えていた。下では銃声は爆音がひっきりなし大気を震わせているのだろう。これからそんな所へ生徒達を送り込むのだ。そう考えると背筋が凍る思いだが、これは通らなければならない道だ。そう自身へ言い聞かせる。
「作戦概要は理解できました。しかし、戦術指揮は誰が執られるのでしょうか」
スズミからの質問に私は俯きながら答えた。
「私が執る」
「えぇっ!?」
「先生ご自身が、ですか?」
「しかし……」
ユウカ、チナツ、ハスミからも困惑の声が上がる。当然だ。
私はキヴォトスの外から来た人間で、銃弾一発で他界する貧弱な生物だ。それがのこのこと指揮を執るなどと言い始めるのは自殺願望を疑われても仕方がない。加えて現状、通信網は破壊されており、後方からの指揮統制など行えない。必然的に最前線へと出る事になる。
「先生として、生徒だけを危険な目に遭わせるわけにはいかない。私の事は心配も信用もしなくていい。危険だと思ったら即座に離脱してくれ」
「そんな深刻にならなくても……」
指示を出すと言っても生徒達に細々と命令がしたいわけではなかった。銃撃戦の経験は生徒達の方が豊富なのだから、撤退の判断は各自に任せた方が良い。
彼女達は<連邦生徒会>にも<シャーレ>にも尽くす必要がないのだ。リンからは咎めるような視線を向けられていたが、何の実績もない人間が指揮官になる上に、しかもぶっつけ本番ときている。集められた彼女達には同情と罪悪感を禁じ得ない。
「先生、しっかりしてください!」
<セミナー>所属の早瀬ユウカが口調を強める。
「キヴォトスの命運は私たちにかかっているんですよ! 先生がそんなに弱気でどうするんですか!?」
「面目ない……」
生徒から叱られて私はしょんぼりした。しかしどこかしっくりするような感じもする。
「私たちは既に<シャーレ>の所属なのです。納得をした上でここにいます」
「む……」
「見捨てたくなったら、いつでもそうしろというのは信頼関係の構築を最初から破棄しているのと同義です」
「はい……」
「思う所があれば、私達からちゃんと話します」
「今みたいにか」
「そうです」
「…………」
スズミ、ハスミ、チナツからも叱られて私は呻いた。責任感では彼女達に及ぶべくもない。
私は今この瞬間まで、彼女達を被害者だと捉えていた。<連邦生徒会>のゴタゴタと、<シャーレの先生>が起こしている不祥事の後始末に、何の関係もない彼女達が対応させられている。
そしてこちらには、彼女達の働きに返せるものがない。だから、こうした叱責を受けるのだろう。この四人からしたら、目の前で起きているのはキヴォトスの危機であり、自身も当事者という意識がある。
私の先ほどの発言は、それらを軽視したものだった。
「……すまなかった」
頭を下げる。
自分が何者かは分からない。ただ”先生”という椅子に座っているだけの男に何が出来るかと考えていたが、今は違う想いがあった。それは懐かしさにも似た、記憶を無くしてからは初めてとも言って良い、しっくりと来る感情だった。
生徒達に相応しい存在になりたい。
この想いはきっと、遥か昔から宿っていたものなのだ。
ヘリが到着する。ドアが開かれた。
「私に、皆の力を貸して欲しい」
この言葉から、<シャーレ>は稼働を始めた。