好きな死際シチュ 作:紅茶と珈琲
死した者の魂は一体どこへ行くのだろう。
花壇の花に水を遣りながら、ふと考える。
死後の世界なんてものがあるのなら。
多分、誰も死に怯える事は無く。
身体という枷から解き放たれていて自由なんだろうけれど。
死後の世界なんていう、実際に死んでみないと在るかも分からないものを、
心の寄る辺として頼りにするのは、私には到底出来ない。
だから、生きる事を諦めないんだ。
いつか死ぬのは仕方ない、なんて到底言いたくないけど。
育てた花も枯れ果てる。生物の終点はどう足掻いても死しかない。
出来ることなら、一生死なずに生きていたい。
どれだけ苦痛に塗れても、死の恐怖から逃げられるのであれば、それがいい。
老いて朽ち、枯れ果て、嗄れて。動く事もままならない。
そうして、最後には死ぬ。そんな終わりを私は認めたくない。
でもね。確かに、死の恐怖を一生抱えながら生きるのは辛いよね。
だから、貴方は生きる事を諦めたの?
◆
「今日の水遣り、おーわり」
いつもなら、もっと早く終わってる筈なのに。
今日はゆっくりし過ぎたのかも。
「早く教室に戻らないと」
そう口にして、形容し難い喪失感を誤魔化した。
急いで倉庫に道具を片付けて、校舎に戻る。
紫色の花は風に吹かれて、静かに揺れていた。
◆◆
なんだか、馬鹿らしいよね。
死んだ人の机に花を供えるなんて。
死んじゃった事故現場とか、お墓ならまだしも、机の上だなんて。
掃除する時に机から落とさないように気を付けたり、
花瓶の水を入れ替えたりしないといけないしで、
するだけ無駄の自己満足。
まぁ、そんなこと言ったら、事故現場でもお墓でも、
死者を悼んでお供えするのは生者の無駄な自己満足なんだけど。
そんなことは当然わかっているんだ。
ただ単に、私がまだ割り切れていないだけだって事くらい。
どうして? ばかりが溢れていく。
その疑問を殺すように、私は花を供えるのだ。
「なんで、何も言ってくれなかったの? 」
◆◆◆
学校帰り。何となく、いつもと違う道を一人。
「こんなとこに神社なんてあったんだ」
誰も居ないけど、掃除や管理はされていそうな小さな神社。
ふと思いついて、階段を登り、鳥居をくぐる。
正しいお参りの作法とか知らないから、お祈りだけして帰ろう。
別に、神様の存在を信じているわけでもないし、
こんなのただの自己満足でしかないとわかってるけれど。
どうか神様。
「私の友達があの世でも、大切な人達と共に幸せでありますように」
私は貴方の生きる理由には成れなかったけれど。
どうか貴方の幸せを願う事くらいは許して欲しい。
死後の世界で安らかに、家族と一緒に過ごしていると。
そう思っていなければ、浮かばれない。
◆◆◆◆
私の大切な親友へ。
この声が聞こえますか?
もし聞こえているのなら、一生の約束を聞いてくれる?
私が死ぬまで待っていてください。
いつか必ず、私もそっちに行くからさ。
よぼよぼのお年寄りになってからかもしれないけど、絶対会えるから。
貴方のこと、絶対に忘れないから。
だから貴方も私のことを忘れないで、待っていて欲しい。
行くまでに、いろんな土産話を用意しておくからさ。
待たせた分、いっぱいお話するから。
土産話をたくさん話した後には。
どうか教えて欲しい。
貴方が何も言わずに死んだ理由を。
◆◆◆◆◆
「また、おばぁちゃんがあの小さい神社に行ってる! 」
早く連れ戻さないと……。
本当、眼を離した隙にどこかへ行くんだから。
最近は痴呆も入ってきて、どこそこへ行ったとか、あれこれをしにいったとか、
昔の事ばかりずっと話してるし。
無駄に足腰は健康だから、いろんなところへ一人で行けちゃうのが特に怖いわ。
なぜか神社に居ることが多いけど、昔は巫女でもやってたのかしら。
位置情報から、おばぁちゃんがまだ神社から動いて居ないことを確認し、迎えに行く。
車で10分くらいで、ちょっと遠いのが嫌だ。
◆◆◆◆◆◆
神社に着いて、おばぁちゃんを探す。
小さな神社だから、すぐに見つかった。
「おばぁちゃん、もう帰るよ」
「………… 」
座ったまま、返事は無い。
風に吹かれて、黄色の花が揺れる。
「おばぁちゃん! 聞こえてる? 」
その身体に触れると、もう身体は冷え切っていて。
おばぁちゃんはもう、この世には居なかった。
◆キャラ設定・背景設定
・女の子 → おばぁちゃん
死後の世界も神様も信じない中学生の女の子。
お花の世話が好き。死ぬのが嫌。
自殺した親友が何も言わずに死んだ事を引きずっている。
親友の家族も自殺していた事を親友が死んでから知った。
後に波乱万丈な経験をする。土産話を作るために。
最期まで死への恐怖に抗い続けて、寿命によって死亡。
はてさて、約束は果たされたのだろうか。
それは死者である当人にしか分からない。
・親友の子
何も言わずに自殺した子。
最近、父と母が心中しており、親戚の家で暮らしていた。
お花の世話が好き。希死念慮。
親友である女の子に心配を掛けまいと気丈に振る舞っていた。
弱みを見せない強い子。
どうして私も連れて行ってくれなかったの?
・孫
20代。3兄妹の末っ子。おばぁちゃんっ子。
おばぁちゃんの死に立ち会った。
死んでいるとは思えない程に、安らかな死に顔であった。