神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「今日はできてる方!」

 レイン・レイリーバースに施した蘇生は騎士シルディアの目があったからあんな手間をかけたけど、ディモニアナタの領域から魂を一つ引っ張ってくる程度のことであれば、媒介も詠唱もアクションすらも必要ない。

 況してやそれが自身で摘み取った命であり、その質も覚えているとなれば、なおのこと。

 

「……拙僧は」

「おはようございます、アザガネ様」

「……何奴」

「私はトパルズ。この風雨の故里(オルド・ホルン)にてメイド長を務めている者です」

 

 専ら、天空城の方は魔色の燕……ティアとドロシーを含むマリオネッタたちの居住区となっている。

 そしてこっち、地底城の方は暫定「邪神陣営」の拠点だ。といってもディモニアナタとトゥナハーデンがここを使うことはないし、勝手に「少年ロールプレイ」、そして「復讐対象のはずの二人と家族ロールプレイ」を始めたアルゴ・ウィー・フランメルが戻ってくる様子もない。

 だから今ここにいるのは私と、魔色の燕とは違う格好をさせているマリオネッタと、連れてきたトパルズと、今しがた目覚めたアザガネだけである。

 

「命の音が聞こえぬ。……化生の類か」

「すべてはあるじ様の御心なれば」

「あるじ?」

 

 耳を澄ませるアザガネ。彼は盲目だから、他人より耳が良いのだろう。気配の察知能力にも長けている。

 ただ、それは達人程度の域を出ない。

 

 私は「人間ロールプレイ」に固執しているけれど、人間が英雄の域に達する、あるいは超えていくことは良いことだと考えている。

 だってそれは、人間の幅をも広げるのだから。

 ゆえに。

 

「──お前か、魔色の燕」

「相違ない。だが、トパルズを化生というのなら、お前も化生だ。覚えているだろう」

「うむ。拙僧は死した。お前に敗れた。だというのに拙僧のこの身には血が通い、心の臓も動いている。これほど見事な蘇生術は、音に聞く大魔女アンネ・ダルシアとて不可能だろうよ」

「ほう。戦以外興味の無さそうな口振りをしておいて、意外と博学じゃないか」

「強者であることに違いはなさそうだったからな。とはいえ、あの魔女が生きたのは百年も前の話。ここにいるわけも……いや、拙僧が生き返ったことを省みるに、いるのか?」

「い──」

 

 いない、と言いかけた。

 アンネ・ダルシアはオーリ・ディーンの一つ前のロールプレイ時の名だ。大魔女アンネ・ダルシア。またの名を禁忌の魔女ダルシア。

 契約の神トゥルーファルスを主神とし、しかし外法ばかりを編み出してトゥルーファルス自ら裁きを下した……という結末に終わらせた人生。なぜそんな大事にしたかと問われたら、主従契約、言論操作、死者蘇生を始めとする「便利な契約術」の噂に尾ひれがつきまくって、危うく国ができかけたのだ。つまり、私の信奉者というだけの「人だかり」が。

 

 勿論統治のロールプレイ経験もある。それが成り行きであるというのなら構わない。構わないけど、その集団の発生した位置が悪かった。

 ティダニア王国のど真ん中。現在は廃村……というか「禁止区域」と言われている場所になっているけれど、そこそこの広さを持つマドハという村。そんな場所で国が発生しようものならティダニア王国は全戦力をぶつけるしかない。というか実際ぶつかって、勝手に紛争が始まって、そして「人だかり」は口々に言うのだ。

 

 蘇生をしてくれと。

 

 ──私がやっているのは「人間ロールプレイ」であって、「蘇生装置ロールプレイ」ではない。

 ただどうにも私を討ち取れる存在が生まれそうにない。だから神が裁きを下した。下させた。

 

 丁度良かった、というのも若干ある。契約の神トゥルーファルスは、比較的古い神だ。子供たちの中では。

 であるがゆえに、奇跡の神ゴルドーナや祝福の神リルレルといった「即物的な加護」をくれる神に対して忘れられがちで、国によっては正確な名前で呼ばれていない場所さえあるほど。

 ので、その威光を示すためにトゥルーファルスの存在を強く顕し、魔女アンネ・ダルシアは死んだ。……まぁトゥルーファルスに頼まれたわけではないし彼を憂いてやったわけでもないから、本当に都合が良かったってだけなんだけど。

 

 で。

 で、である。

 神の裁きによって死したアンネ・ダルシアは、だから死体が残っていない。感情結晶だけは残したけど、いつもなら残っている死体が完全に灼き尽くされ、消し飛ばされた。

 だからティダニア王国はちゃんと彼女の死体を探したし、「人だかり」も殺し尽くした。死んだのは演出で、あれは身代わりではないか、本物はその中に紛れているのではないか、そして「第二のアンネ・ダルシア」を産まないために。そういう殺戮の経緯からマドハ村は廃村となったし、王国はあそこを「禁止区域」に指定したんだと思う。王国の内部事情までは漁ってないから知らないので多分。

 死体の残っていないアンネ・ダルシア。当然ティダニア王国は「彼女は死んだ」「神の裁きによって死した」と発表したけれど──果たして他国にはどう映るのか。

 

 たとえばそう。

 

「──私の名を呼んだかい?」

「む!? ……今どこから現れた。まるで、中空から突然命が現出したかのような……!」

 

 それは耳が良いというレベルではないけれど。

 

 まぁ、たとえばこうやって、新しく創り出した命(ホムンクルス)に自身をアンネ・ダルシアだと名乗らせるだけで、他国出身の者には「それが本人であると信じられる」のである。

 ホムンクルスの「復活した魔女ロールプレイ」といったところか。

 

「ヒッヒッヒ、そう怖がりなさんな。私もそうだよ、この子に蘇らせられた。だから、お仲間さ」

「魔色の燕は弟子……か?」

「私の術を勝手に盗んだことを弟子というのなら、そうさねぇ」

 

 そういうことにした。ただロールプレイが未熟である内はボロを出させないように色々操作するけれど。

 面倒くさいし自身を「復活した魔女アンネ・ダルシアだと思い込ませる」くらいのことはやってもいいかもしれない。

 

「禁忌の魔女。そして拙僧のような人斬り。命無き化生。……こんなものばかり集めて、魔色の燕。お前はいったい何をしようとしている?」

「もうすぐ戦争が起こる。お前が待ち望んだ戦乱の世が訪れる」

「ほう。……魔王の転生体が現れた、という話は小耳にはさんでいたが、真実であったか。であれば、拙僧らは魔王と共に人間を滅ぼすか?」

「魔王と勇者が手を組みかけている。して、その狙いは神だという。生死の神ディモニアナタ。豊穣の神トゥナハーデン」

「それはまた、なにゆえだ。ディモニアナタ様は命の誕生やその終わりに祈る神。トゥナハーデン様は日々の生活の彩りに祈る神だろう。なぜ魔王と勇者の矛先がそちらへ向く?」

 

 普通の反応である。

 ディモニアナタは一生の始まりと終わりに必ず世話になり、誰かの誕生や葬祭などにおいてもよく祈られる。トゥナハーデンはもう言うまでもない。

 どちらも生活に根差した神であり、それを敵視するのは「意味が分からない」。

 

「では聞くが、アザガネ。死後の世界はどうであった?」

「満ちる怨嗟の海。聞いていた安寧とは程遠くも、拙僧が堕ちる場としては妥当なものであったよ。全身の神経を掻き毟られるかのような苦痛も、精神の奥底へ溜まり続ける澱みも、順当な罰ゆえな」

「重ねて問おう、アザガネ。その苦痛は善行をなして死した者にも与えられるべきものだったか?」

「カカ、どうであろうな。人はみな平等と謳えば美しいか、あるいは『生者とは生命を食い潰して在り続ける罪人である』という言葉を使うか。善行を為そうと悪行を為そうと同じ場所に堕ちるのであれば、安寧でも苦界でも変わりはあるまい」

「此度の勇者はそれが許せないそうだ」

 

 ようやく得心が行った、とばかりに。

 アザガネは手を打つ。

 

「成程、確かに。ディモニアナタ様、トゥナハーデン様、そしてマイダグン様は死後の安寧を大々的に謳っている神だ。それが嘘だと知れば、矛先をその三柱に向けるのも納得がいく。──して、どのように知ったのだ、勇者は」

「さてな。私は集めた情報をお前に話しているに過ぎん」

「そうかそうか。……勇者と魔王は互いに特異な魔法を使うと聞く。あるいはどちらも蘇りし者か?」

「少なくとも魔王は転生を繰り返している。死後の世界を知っていてもおかしくはない」

「……む? 話が逸れ過ぎたな。それで、拙僧らは何と戦う。死後の苦界を知る者として、勇者と魔王に手を貸すのか?」

「まさか。不当な怒りを神にぶつけんとする不遜な者達を始末するに決まっているだろう」

 

 ここで、持ってくる。

 

 ディモニアナタを。

 

え、何?(──)

「光の魔力とは違う空間の歪み。……そして……そこにいるというのに、気配も、命の音も……何も感じられぬ。それでいて、この膝を屈したくなる闇色の光……おお? おおお……拙僧に、光が見える」

今回は(我らが主神、)ディモニアナタを主神にする(ディモニアナタ様を排さんというのなら)今決めた(手を尽くすまで)。……付け加えるのなら、勇者と魔王が手を組めば色々と不都合がな」

「それは魔色の燕としての言葉か?」

「否。魔色の燕はその起源を冒険者としている。私は長であるが、彼ら彼女らの崇める神はフォルーンやゴルドーナといった冒険の神々だ。私とは違う」

「カカ、自身の組織を敵に回すと?」

「そのために育て上げた組織だ」

 

 ティアとドロシー。

 あの二人を拾ったのは、勇者と魔王側の戦力の底上げを図るため。彼女らがもう少し成長して良い感じにマリオネッタ軍団を率いることができるようになれば、こっちの「邪神陣営」とようやくとんとんになる。二人が早々に魔王の転生体、そして異世界の勇者と接触してくれたのは、心底ありがたいことだったのだ。まぁ中々接触しなかったら演出するつもりではあったけど。

 

 私以外の陣営になることが最も恐ろしいと言っていたけれど、知らない。その用途が無かったら拾ってきていないので。

 

「化生と魔女も魔色の燕の長に賛同する者か?」

「私は死者が出りゃなんでもいいからねぇ。このあと魔王と勇者の関係性に亀裂が入って結局そこで戦争が起きるってんなら、その戦場でまた楽しいことをするよ」

「私は自らの言葉を持ちません。ただ、問うことはあります。アザガネ様」

「なんだ」

「あなたは強者と戦いたいだけの存在では?」

 

 カカ、と。

 アザガネの口から、楽しそうな笑いが零れる。このやり取りの間に私はディモニアナタと口裏を合わせる。時間停止は使わない。念話でやればいい。トゥナハーデンの言葉は、まぁその通りだから。

 

「その通りだ。──どの道、一度死した身。蘇らせたお前が好きに使えば良いし、その上でまた強者と戦えるというのなら本望だ。勇者に魔王。そしてそれを取り巻くまだ見ぬ強者。──心躍ろうも仕方なしよな」

「"──ならば、名を刻みなさい"」

「む……!」

 

 ディモニアナタが言葉を発する。

 いつもは出さない、威厳に満ちた声。それでいながら底冷えするような、生死の神「っぽい」声。

 加え、さっきからやっていた光……盲目の彼にも見える闇色の光を彼の脳裏に直接送り込んで、さらに演出を加速させる。

 自然と膝を折り、首を垂れるアザガネ。

 

「アザガネ・イロハドリ。生憎とひと柱の神を信仰するのはこれが初ゆえな、無礼を詫びよう。だが、欠いた礼は戦果で返すと約束する」

「"──期待している"」

 ──"こ、こんな感じで良かった? 私自分の世界で人間に声をかける時もキャラとか変えないからちょっと不安なんだけど"

 ──"そうなんだ。じゃあトゥナハーデンにやらせた方がよかったかな。あの子は得意だろうし"

 ──"まぁ……今後も必要そうだったら、あの子に習っておこうかなぁ。あ、で、もう行って良い感じ? ようやく試練を一つ思いついたの"

 ──"ああそうなの。作業中に呼び出しちゃってごめんね。いってらっしゃい"

 ──"はーい! えへへ、期待しててね、ママ!"

 

 ディモニアナタが消える。

 闇色の光が見えなくなったからだろう、アザガネも顔を上げた。

 

「まさか、本当に神が現れるとは」

「あるじ様。あとのことはお任せください。この城の使い方やあるじ様が用意した彼の得物、そして今後の予定など、すべて私が」

「そうか。ではトパルズ、任せる。アンネはこちらへ。少し話したいことがある」

「はいはい、なんでも聞くよ」

 

 ちゃんとした技術で鍛造した中空長刀はプレゼントにしても、その他の世話までするつもりはない。後は勝手にして、というのも良かったけど、トパルズはトパルズで何か画策しているようだし、二人だけにしてあげるのも面白みがあっていい。

 

 十分に距離を離して、彼の耳が聞き取れない範囲まで完全に脱して──アンネ・ダルシアへと振り向く。

 

「どう? やっていけそう? 『復活した魔女ロールプレイ』」

「……正直なところを言えば、わかりかねます、と答えるべきであるかと。世界の主の生み出したホムンクルスとして活躍したい意思はあれど、能力が伴うかは今後次第。であれば初めからアンネ・ダルシアの記憶と人格を植え付けられた方が主様のお役に立てるように思います」

「役に立てるかはあんまり気にしなくていいよ。唐突に思いついて作っただけだし。そうじゃなくて、ロールプレイができそうか否かを聞いてるんだけど……まぁ判断できないなら、もう少し待つよ。とりあえずこの城か天空城の方のマリオネッタたちと会話してみて、無理そうだったらまた言ってきて」

「わかりました」

 

 マリオネッタたちも感情豊かになってきている。

 対人間会話の練習相手としてはもってこいだろう。私みたいに数万年の経験値が無くとも、天空城の方なら時の流れも変わっているからたくさんのパターンを経験できるはずだし。

 

 ただ、ここで「できます!」と言わなかったのは偉い。

 私だってずっとずっと難航しているんだ、そんな生まれたてほやほやの命に先を越されては私の立つ瀬がない。頑張れ、私は応援しているよ。

 

 

 

 

 アザガネは渡された中空長刀……自身の使っていた業物、父親の鍛ったそれよりも質が良いとわからされるソレに複雑な思いを抱きながら、前を歩く化生へと言葉をかける。

 

「お前、言葉はないと言っておったが、何か抱えてはいるな」

「はい。私は風雨の故里(オルド・ホルン)でメイド長をしていると伝えた通り、本来の所属は天空にある城となります。そこはつまり──魔色の燕の本拠地でもあるのです」

「……使い潰されることを嫌うと見た」

「流石です、アザガネ様。私達は生み出された命。造物主への反乱など以ての外でございますが──不思議なことに、ヒトに混じって生活をしていく内に、自我というものを獲得してしまいました」

「カカカ、どこに不思議があろうものか。人の情に絆された化生など、歴史や詩を解いてもどれほどいようというものだ」

「ええ、ですがそれが自身になるとは思ってもみませんでした、という話です。……そして、今いる魔色の燕の全員がその思いを持っています」

 

 使い潰されるための命。壊されるためだけに生み出された命。

 それらが道具の域を超え、生き物としての「心」を獲得した。

 

「拙僧に何を求める」

「技術を。長を打倒し得るすべてを」

「何を言っておるのかさっぱりだ。拙僧はアレに大敗している。打倒する術など、拙僧が知りたいくらいだ」

「ご安心ください。何もアザガネ様だけに教えを請おうとしているわけではありません。──私達が本当に求むるは研鑽。強者と戦いたいだけ──それは私達とて同じこと」

 

 トパルズが、扉を開ける。

 瞬間、アザガネの耳は幾つもの気配を感じ取った。幾つもの、命の音の無い気配。

 同時に──悉くが強者である気配を。

 

「我らあるじ様より造り出されたマリオネッタ。魔色の燕、その本隊」

「おお……」

「しかし、実際は実戦経験の少ない人形に過ぎません。強さの自負はありますが、アザガネ様のような覇は纏えない。──どうか、ご教授ください。そして私達からも盗んでください。古今東西より集められし武の驟雨。その結晶を以て、あるじ様に打ち勝ちたいのです」

「──心躍るなぁ、それは!」

 

 数えるのも億劫になるほどの「人形」。

 ひしめくそれらは、アザガネを「歓迎」する。

 

「問うが、手加減は必要か?」

「不要です。私達は互いに互いを修復することができます。その新しい得物を以て、どうかご存分、ニ──」

 

 トパルズが言葉を発せたのはそこまでだった。

 

 アザガネの中空長刀が、その首を斬り落としたから。そうして彼は雄叫びを上げて人形の群れに突っ込んでいく。

 起き抜け早々、流石の戦闘狂である、と。

 

「……元気なのは良いのですが、私の首を飛ばす必要ありましたか?」

 

 ころころと。

 転がる首を掴んで元の位置に戻し、トパルズは苦言を吐き出した。

 

 

 

 ルビィは全マリオネッタの取り纏め役。サフィニアはガヴァネスのまとめ役。そしてトパルズはメイド長であるが、実際のところそれは「形だけ」である。

 当然ながらマリオネッタの世話など必要ないし、まとめ役もまた不要である。この役職を名乗るのは外部の者が入って来た時か、ティアとドロシーがいる時だけ。

 といってもティアとドロシーはほとんど「彼女」が相手をしていたし、城の中で出会う瞬間は事前にわかるので心構えなどいらないし。

 でも、外部の者……つまりアルゴ・ウィー・フランメル。今回はさらにアザガネが入って、これからもどんどん増えていくだろうことが予想される。

 

 ちゃんと「メイド長ロールプレイ」をしなければならなくなる。

 

 トパルズはそれが不安だった。

 

「わかります」

「共感しかないです」

 

 それをルビィ、サフィニアに打ち明けるとこんな感じ。

 城にいるマリオネッタに性能差はない。それぞれがそれぞれ別々の武器や魔法に特化していったからそういう差はあるけれど、総合的なステータスを見れば全員が同一だ。だからルビィ、サフィニア、トパルズにも特別な部分などなく、ただ「初期に作られたマリオネッタだから」という理由だけで今の役職にある。

 

「ただ、その二人は上には上がってこないと聞きました。少し安心しています」

「なぜ私が選ばれたのでしょう……。人間の相手であれば、お二人の方が……」

「ですが、ティアとドロシーが幼い頃に世話をしていたのはトパルズでしょう。中身はともかくあの二人も生まれたてのようなもの。案外妥当なのでは?」

「片や犯罪者、片や直ると聞いて真っ先に私の首を斬り落とす狂人ですよ」

「誰か適当に見繕って手伝ってもらえばいいのでは?」

「いえそんな、皆には皆の時間がありますし……」

 

 彼女らは気付かない。まだ気付けない。

 こういう「意見交換」が出るというのが、既に個性であり、ともすれば……というか確実に「彼女」に勝る人間味なのだけれど、製造年から数えてまだ十数年しか生きていない幼い彼女らでは、達観した意見が出せないのだ。

 

 唯一出せる者といえば。

 

「……アンタたち、なんか、若いねえ」

「蛇換算だとリーさんは何歳くらいなのでしょうか」

「滂蛇は長生きだ。中でも私はとりわけ長生きだからね。少なくともアンタたちよりは年寄りだよ」

 

 その白い身体をうねらせて、蛇が大きくとぐろを巻く。

 初めの頃は「所有物であることをお忘れなく」なんてキツく当たっていたマリオネッタたちも、「彼女」への話の通じなさと、逆に怒るでも呆れるでもなくしっかり対応してくれる「リーさん」の優しさによってその態度を軟化させている。

 この白蛇、聞き上手だし、アドバイスもくれるし、それでいて「彼女」が次に言いそうなことを予測する、なんてことまでやってのけるのだ。それは「悪路の光明」によるものではなく、培われた観察眼によるもの。忠義とかではなく、「人気度」で言えば確実に彼女が最上位である。

 

「別に高位貴族のメイドってわけでもないんだ、気楽にやったらいいんじゃないかい? その二人とやらも、そこまで求めちゃいないだろう」

「それはそうかもしれませんが……」

「ま、なんにせよ悪い予感はしない。……それより、オーリにとんでもない量の不運の気配がするのは何故なんだろうねえ」

「いつものことでは?」

「いまさらでは?」

「何か問題が?」

「……ま、それもそうか」

 

 オーリ・ディーン。魔色の燕の長。あるじ。

 呼び名は複数あれど──仮に共通認識を無理矢理言葉に結ぶのだとしたら、この言葉に収まる。

 

 敵、と。

 

 

 

 

 前回監獄を襲撃した時に破片を持ち帰ったデミディナイト。

 それを用いて、鎖の装飾品を一つ作ってみた。今の流行りとも、過去の流行りとも外れた、謂わば完全なる私のオリジナル。久方ぶりのオリジナルだ。トツガナ王朝崩壊期以来かな、新しいものをつくるのって。

 

「オーリさん、それ……もしかしてデミディナイトですか?」

「よくわかりましたね、リコ君」

「見つめると目を逸らしたくなる鉱石なんて、数えるほどしかありませんから。……触ってみても良いですか?」

「いいですけど、身体から力の抜けるような感覚があったら、すぐに離してくださいね」

「はい」

 

 今日は久しぶりにリコ君と二人。

 トゥーナと交尾でもするのかと思ったけど、そういう方面の進捗は無さそう。トゥーナは人間と番うとか嫌だろうし、リコ君は奥手だからさもありなん。

 代わりに店番後のデートは頻繁に行っているようで、イルーナさんはたびたび尾行しているとか。もう私が止めても無駄な段階まで興味が引かれている。あれは恋愛脳の魔物だ。それしか考えてない。それでいいのかアスクメイドトリアラー。

 

 そんなトゥーナとイルーナさんがお休みの日。

 

「っ……っとと、ふぅ」

「大丈夫ですか?」

「はい。……攻撃の意思、そして気力を持っていかれる鉱石。話には聞いていましたが……気力などという概念でしかないものを吸われるというのは、なんとも不思議な感覚ですね」

 

 気力は概念ではないけれど。

 それをオーリ・ディーンが知っているのはおかしいので、賛同を返しておく。

 

「……それにしても、不思議な形をしていますね。鎖……いえ、紋様?」

「鎖であっていますよ。ただ、魔力波を用いた結び目を使っているため、この形に見覚えのある人は魔術師協会に長年籍を置いている人、とかになると思います」

「浅学で申し訳ありません。魔力波とはなんでしょうか」

「ふむ。では、リコ君。装飾品に施す時の感覚で、この場に水の魔力を出してくださいますか? 水として顕現させる必要はありません」

 

 薄い青。

 それがリコ君の身体から溢れ、中空で止まる。良い魔力操作だ。この店で働き始めた時より、確実に成長している。

 

「これを維持することは大変ですか?」

「いえ、これくらいであれば特には」

「そうですか。なら、よく見てください。リコ君が今出した水の魔力、その輪郭、表面とでも言うべき部分を」

 

 魔力の輪郭。

 魔力というのは気体と液体の中間のような性質をしている。それでいて属性ごとに色があって、だから相手が何の魔法を準備しているのか、とかは魔力の色である程度判断が付く。

 アスクメイドトリアラーの体外放出をしない身体強化などは色が見えないのでまた話は別だけど、今回のように外に出てきた魔力というのは大気との境界面を持ち、そこに輪郭が現れる。

 

「……僕の魔力操作が甘いせいでしょうか。微細に振動しているように見えます」

「いえ、それは正常ですよ。つまりですね、この世界……というと規模が大きくて把握し辛いでしょうが、大気には魔力を押し戻そうとする力があるんです。もう少し正確に言うと、大気中には誰にも使えない魔力が満ちている……と言った感じでしょうか」

 

 学名で言うならNull Essence.だけど、私に言わせてみればそれは使()()()()の魔力だ。昔は空気が薄かった、とでも言えば少しは伝わるか。

 

「この大気に満ちた誰に扱うこともできない魔力がリコ君の魔力を押し返そうと圧力をかけています。魔力圧、なんて俗語がありますが、あれとは別ですね」

「ああ、体外放出時の魔力に気圧される現象のことですね」

「あれはあれでまた別の名前があるのですが、まぁ今はいいでしょう。つまり、現在この水の魔力は"リコ君が魔力を維持しようと内側から放っている圧力"と、"大気に満ちる誰にも扱えない魔力の圧力"でせめぎ合いが起きているのです。そのせめぎ合いによって、魔力の表面に微細な振動が起きます。これを魔力波と呼びます」

 

 だからリコ君の水の魔力を覆うように土の魔力を出して、すぐに離し、「土器の照覧(ワトチド・クレイ)」と呟き、固めてテーブルに置く。

 取り出したるは親指と人差し指で抓める程度の円筒。実はこれ顕微鏡で、光の魔力による空間歪曲とコナートという透明の鉱石の凹凸によって引き起こされるすさまじい拡大性能を有している。

 一応これも装飾品だ。

 

「表面を見てみてください。あ、水の魔力は解除しても大丈夫ですよ」

 

 表面を見れば、そこでようやく理解するだろう。

 私が鎖の形に起こしたデザインそのものであることを。ただし、波そのものが鎖の形をしているわけではない。波の間に現れる図形……主観的輪郭がこの図形に見える、というだけだ。

 

「これ、魔力ごとに波の形が違ったりするんですか?」

「良い所に気付きましたね。その通りです。水の魔力が最もわかりやすいというだけで、全魔力において同じ現象が起こります。そして……魔印学を修めているリコ君ならわかると思いますが、自然界に現れる図形というのは強い力を持ちます」

「はい。僕も装飾によく使います」

「これは加工されていない自然界の図形。ゆえにこれをモチーフにした装飾品は、無駄な工程を挟まずとも、鉱石の力とそれ自体の形だけで強い効果を発揮するのです」

 

 このデミディナイトの鎖は水の魔力が生み出した形に添って模られている。

 だから、「対象に張り付く」、「温度によって形態が変わる」、「温度によって効果範囲も変わる」などといった効果が望めるし、単純な水魔法の増幅装置にもなれる。デミディナイトだから攻撃の意思持っていかれちゃうんだけど。

 

「これ、結局どういった用途で使うんですか?」

「簡単に言えば」

「よ、オーリちゃん。今日は会えたな。良かった、最近時間合わねぇから、どうした……ものかと……」

 

 投げつけた鎖がカゼニスさんに絡みつき、そのまま彼の気力を奪う。振り払おうとしたが最後、それを攻撃の意思と見做すデミディナイトが効力を発揮し、対象を無力化する。

 装飾品を身に着ける時代は終わった。そう、最新の流行は装飾したい相手に向かって投げつける装飾品──!!

 

「ああ、ああ、大丈夫ですかカゼニスさん。オーリさん、どうしたんですか最近。カゼニスさんにあたりが強すぎますよ」

「これ……デミディナイト……なんでこんな……ところに……」

「有用だと思いませんか、カゼニスさん」

「まさかの営業……。でもこれ……相手に投げつける前に……その意思を削がれないか……」

 

 あ。

 ……私は平気だけど、確かに。

 いやでも、ディデイでコーティングした手袋とかをつけていれば……。

 

「オーリさん、これ……解こうとすると僕も持っていかれますよね」

「ああ、私がやります、私がやります」

 

 ……新しいものを作るのは難しい、ということだ。

 良い発想だと思ったんだけどなー。

 

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