神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
無論、このパターンとて多く在った。
人間の営みにまだ慣れていなかった頃。人間が新たに開発した技術に驚けなかった時など。
そういう、まぁ、未熟な時はよくプランBを使っていた。……だから、久しぶりではあるのだけど。
コトラさんの「……勝手にしな」という言葉を受けて、私と騎士シルディアは店を出た。
剣呑な雰囲気は続いている。信用とは真逆の視線を受けながら、夜道を歩く。
「先に」
そのまま今代勇者の墓場まで無言なのかと思っていたら、意外や意外、騎士シルディアは言葉をかけてきた。
「先に、謝罪を。……頭に血が上った。後先を考えずに抜剣した。……騎士としてあるまじき行為だった」
「大事はありませんでしたから」
「それは、あなたが相当な使い手だったからだ。そうでなければ惨事が起きていた。……重ねて謝罪をする。あの場で……お婆様の店を血で汚すなどという真似を、私は」
熱しやすく冷めやすいタイプか。短気だけどナイーブ。頭に血が上ると周りが見えなくなるけれど、記憶が飛ぶわけではないので後から後悔する。
うーん、生きづらそう。
「いや、こんなことを話しても意味はないか。……歩きながらで悪いが、自己紹介だけは済ませておこう。私はシルディア・エス・ヴァイオレット。黒鉄の位置にある騎士だ」
「これはご丁寧に。先程も言いましたが、私はオーリ・ディーン。この都市で装飾品店を営んでいる者です。それ以上は必要ありませんね?」
「……ああ」
これから共犯関係になるのだから、踏み込むな、というラインを敷いた。
負い目のある人間の扱いには慣れている方だと思う。「人間ロールプレイ」をしていると、そういう人間に出会うことがままあるから。
「神は……この行いに怒りを見せるだろうか」
「どちらを恐れているのですか? 生死の神ディモニアナタ? それとも豊穣の神トゥナハーデン?」
「無論、トゥナハーデン様の方だ。彼の神の権能は私達の生活に直結するだろう。……とはいえ、常に死を隣人に置くような者にとってはディモニアナタ様の方が信仰対象になりやすいというのも理解できる」
私の子供たちは今みたいにそれぞれ違う権能を司っている。だからこそあの広場で祈りを上げた信徒の言葉に私は答えたのだ。特定の神の名を口にしなかったから。
死地に赴くとき。勝てるかどうかわからない格上に挑む時。成功率の低い作戦を決行する時。そういう時にはディモニアナタ……生死を司る神に祈り、子宝や日常における健康などへの祈願はトゥナハーデンへ行う。
与えている権能は把握しているけれど、それを人間が何と呼んでいるかまでは把握していない。正確に言うと、一般的なものは知っているけれど地方による違いなどを理解していないになるか。方言みたいなものだし。
「それでしたら気にする必要はないでしょう。トゥナハーデンの権能に雷を操る類のものはありません」
「……つまるところ、昼の裁きは別の神の」
「ええ。だとして、あなたは諦めるのですか?」
「否。レインともう一度会うことができるのなら……私は神にも刃を向けよう」
良い啖呵を切る。そういう人間は過去にもたくさんいたけれど、どれもこれも面白い人生を送った。
彼も良いサンプルになりそうだ。
さて、さらに歩くこと数刻。
鬱蒼とした森を抜けた先にあったのは、小高い丘。ぽっかりとここだけ切り抜かれたようになっているせいか、魔力の循環がすこぶる悪い。確かに景観は良いけれど、こんなところに埋めたら最悪アンデッドになるよ。
丘の上の墓標。いや、墓標だと知らなければただ石が置いてあるようにしか見えないだろうソレ。
確かに中に死体がある。今代勇者。……魂は既に離れているか。ん-と。
「では、シルディアさん。代価を頂きましょう」
「先に言っていた材料と代金か。何を支払えばいい?」
「あなたと想い人を繋ぐ、最も大事なもの。お金は後で良いです」
「……それならば、これだろう」
騎士シルディアが差しだしてきたのは、ロケットペンダントだった。何の絵画も入っていないペンダント。細工や効果があるわけでもない記念品。
「レインが魔王を討伐し、世界に再び平和が訪れた時……私とレインの絵を依頼し、収めようとしていたものだ。気の早い話だと彼女には言われたが、私は彼女がアレを討滅し得ると確信していたからな」
「良いでしょう」
本当は何でも良いんだけど。
何でもいいと、「人間ロールプレイ」から逸脱してしまうので、想念とかがのっていた方が「ぽい」のである。
ペンダントを受け取り、墓前へと赴く。既に腐敗の始まっている身体をこっそり修復しつつ、ペンダントを地面に押し当てて──無意味な光を出す。
聖気、と呼ばれるもの。あるいは魔力と呼ばれるもの。それの混合。暗闇に近い森の中心で行うには目立ち過ぎるエフェクトだけど、監視の目がないことも確認済み。無論遠くからこちらを見ていた、とかの場合は流石に知らないけど。
ああ、で、ええと。
無詠唱はダメなんだよね。そうそう、戦闘職長らくやってないから忘れてた。
「Narea gimoy Inoko kami.」
天を衝く光。それと同時に、どこか邪悪に映るだろう黒も織り交ぜる。ネクロマンシーは決して聖なるものであってはいけない……みたいな話で昔「やらかした」ことがあるためだ。
また雑談と並行して行っていた魂捜しも終了している。引っ張って来た"レイン・レイリーバース"の魂をロケットペンダントに縫い付けて、ロケットペンダント自体には肉体の修復効果をつけて、一応「呪いの装飾品」……決して外すことができない、という効果も付加して。
「……魔色の燕?」
背後で呟かれた懐かしすぎるワード。そんなことで集中力が切れたりはしないけど、まさか伝わっていたりするんだろうかって気になって来た。
その二つ名は、まぁ、そのまんま「やらかした」時の私につけられた名前だから。でもあれ数千年前なんだけど。
さて、そんなことをつらつらと考えている内に、死者の蘇生は完遂される。
このままずぼっと引き抜いても良いんだけど、それじゃあ「ぽく」ないので、目もくらむような光と周囲の光を吸い込む黒を中空に出現させ、呪った死体をその中に転移。
「──ここに」
その黒白の中から、白いドレスを纏った少女がゆっくりと降りて来る。死者に着せるドレスだ。トゥナハーデンが着ている服でもある。
あ、という小さな呼気。
受け止めた少女の身体は……うーん、かなり魂が苛まれているな。ちょっと休息が必要かも。
「レイン……?」
「時に、シルディアさん。死後にある安寧。あなたはそれを信じますか?」
「いきなりなにを」
「これも代価の内だと思ってください」
人間の信仰する、事実とは異なる部分。
善行を成した者は死後楽園へと抱かれ、苦痛を覚えることなく永遠を過ごす、というもの。
「……信じている。ああ……だから、私は、レインを楽園から」
「逆です。──死後にあるのは果ての無い苦痛だけ。無という孤独でも、消えてなくなる恐怖でもなく──」
っぷはっ、と死体が……否、生き返った少女が口を開く。
そして荒い呼気を何度も何度も繰り返して……恐る恐る、目を開いた。
「……お、わ……った?」
「際限ない苦界。魂を苛み続ける痛みと、肉体を失ったというのに欲される生理的欲求。死後にあるものはただそれだけです。善行を行おうと悪行を行おうと、等しく」
一応自己弁護をしておくと、はじめ、私は果ての無い無を死後に設置しておいた。孤独なだけ。他の苦痛はない。
ただディモニアナタを産んでその権能を与えてから……ううん、あの子は……どうしてしまったのか、死後に苦痛をこれでもかと盛り込んだのである。私や他の子供たちが「そこまでしなくても」というまで……というか私が「それくらいにしといたら?」というまで止めなかった。
生者に何か恨みがあるとかいう話は聞いたことが無いので、単純な性格だと思う。
「終わった……解放された。解放された!」
「レ……レイン」
「ああ、ああ! 貴女が解放してくれたの? 私を……あの恐ろしい場所から、ああ、なら、あなたは私の神様ね!」
あなたのではないけれど。
そうですね。
「あなたを死の淵より呼び戻すよう私に依頼したのは彼ですから、お礼は彼に」
「彼?」
ゆっくりと視線が泳ぎ、私から騎士シルディアに向く。
して、息を飲み。
「あ……あ、しる、でぃあ……」
「……レイン」
「感動の再会に邪魔者は要らないでしょう。私はこの辺りで退散させていただきます。シルディアさん、代価の話はあとで。それとそのペンダントは決して外せないようにできていますが、仮に外す方法を見つけたとしても絶対に実行してはなりません。理由は言わずともわかりますね」
「……ああ。感謝する」
ポーズとして風の魔力を纏い、空へと駆け上がって高速移動へ移行する。
二人の話とかあんまり興味がない。私が集めたいのは戦闘職の死に際のどーたらこーたらであって、色恋沙汰ではない。ただ「なぜ勇者が騎士に殺されたのか」には興味があるから、今度コトラさんか、レインさん本人にでも聞こうと思う。騎士シルディアは話してくれなさそうだし。
……さて。
これで勇者が二人になったわけだけど。だとしてもまだ魔王が過剰戦力気味。どう解決する気かなー、あの子は。
数日後、私の店に騎士シルディアが来た。流石に鎧は脱いでいる。目立つからね、「騎士が立ち寄った店」ってだけで。悪目立ちの方。
そういうところは弁えられるようで安心した。
「リコ君、イルーナさん。私はちょっとこのお客さんと大事な話があるから、カウンター頼める?」
「はーい」
二人に他の客の相手を任せ、騎士シルディアと私は奥の部屋へ。
完全防音且つ魔法阻害な作りのこの部屋は、本来「人には言えない効果を持つ装飾品」を欲する人との相談に使う場所だ。
「まず、日をあけてしまったことを謝罪する」
「構いませんよ。失踪していた勇者が戻って来た──なんて一大ニュース、騎士団の中だけで処理しきるにも中々手間でしたでしょうし」
「ご理解、ありがたく。そして代金だが──」
騎士シルディアは背負って来ていた麻袋をテーブルに置く。
うわ。
……これ、もしかしなくても「今までの稼ぎ全て」って奴だね。
「これで足りぬというのなら、私は身を粉にしてでもあなたのために働こう。口外を防ぐ呪いを付与してもらっても構わない。どんな仕事でもする」
「そうですか。ではこのお金は全額返金いたします。その代わり、やってほしいことがあります」
「……承知した」
これは思わぬ誤算である。
前述の通り、この国において騎士団は絶対だ。機構として存在する以上、彼らに目をつけられたら終わり、とまで言われている程。それの内の一人を手駒にできるというのは、中々に面白い。「人間ロールプレイ」プランB、「何か裏がありましたよムーブ」。
現在の私は架空の組織に所属しているやり手の魔纏奏者。そうである以上、それに即した組織を今から作り上げなければならない。
仮に誰かが私を探り、「そんなものは存在しない」と決めつけた時、私は突然の失踪をして二百年後くらいに新たな人生を始めるだろう。わぁ、なんてリスキー。
そうならないためにも組織を作っていくのがベストである。
「まず、前提として、あなた達が睨んでいる通り、私は他国の人間です。……いえ、他国、というと語弊がありますね。国に所属はしていませんから」
「魔色の燕。……あなたが所属しているのはそこではないのか?」
ん。
ん?
ちょっと待ってね、世界の記録を漁るからね。
……あー。
あるんだ、へえ。というか生き残りいるんだあの時のパーティの子孫が。へー。
え、すご。
「明確にどこであるかは言いませんが、それに類した組織です」
「そうか。……いや、言葉を遮ってしまい、失礼をした」
「いえ。それで、あなたにやってもらいたいことですが」
服の中で青い結晶を生成し、さも元から持っていた、というかのように取り出す。
その六角水晶は全体が青であるにもかかわらず中で黒が蠢き、そして白色に発光する……そんな性質を有している。
「それは」
「おや、ご存知でしたか?」
「……文献で見たことがあるだけだ。『紺罪結晶』、といったか。ヒトという種の罪、その全てが納められた結晶。滅んだ村や国、その中で最も罪の色濃く残る場所に生成される、感情結晶の一つ」
「勤勉ですね」
本当に勤勉だ。
これは私が人の営みに紛れて活動する時の終わり、つまり「あ、やらかした」って時に失踪して、けれど「何か証は残したいよね」って感じに残していく結晶。そして私がやらかすのは決まって悲劇の渦中であるから、怨嗟や呪詛の渦巻く空間に残りやすい。これらが『感情結晶』と人間に呼ばれていることは把握しているし、それは良い流れだと私も思っている。
今回はこれを使うつもり。伏線回収……みたいな?
「持ち主を見つけたら、私のもとへ」
「承知した」
「おや、子細は聞かないのですか?」
「想い人の蘇生に要求された代価だ。何を迷い、何を疑う必要がある」
思い切りがとてもいい。
いいね、少し気分がいい。一つサービスしてあげよう。
「Uai just ahiratuf.」
アイオイトの鉱石を取り出し、それを風の魔力で浮かべて、火の魔力で溶かし、水の魔力で整形。
指輪の形にしたそれに「それっぽい」魔力を馴染ませて、最後に分裂させる。二重にする。
「……一体いくつの属性魔法を使えるんだ」
「彫金に使うものであれば大体は。どうぞ、これはサービスです。『継手の指輪』。効果は大したものではありませんが、装着者同士がどこにいるのかを互いに知ることができます」
「必要はない。私はもう彼女のそばから離れることはないのだから」
「ですが、彼女には勇者としての責務があり、あなたには騎士として、そして私の使い走りとしての仕事があるでしょう。まぁそういうもっともらしい理由抜きに、サービスなのですから貰っておくと良いですよ」
「む。……わかった。ありがたく貰っておく」
「ええ」
騎士シルディアは麻袋と指輪を持って立ち上がり──そして私を見る。
何かを値踏みするような目。
「……相変わらず感情の無い目だ。潜入工作を行うのであれば、もう少し笑った方がいい」
「お客様や近所の方相手にはしっかりと笑えていますよ」
「そうか。──失礼する」
感情など、あるはずがない。
こんな一方的な取引に動く感情など持ち合わせてはいないのだから。
騎士シルディアが去ったあと。
リコティッシュ君とイルーナさんに詰められる……ということはない。普通に店長の商談なんてままある話だから。
何でもない時間が過ぎていく。一応ちゃんとプランは練っているけれど、どのタイミングで実行に移すかは悩みどころだ。
考えごとをしながら、けれど装飾品はしっかり作る。右手に掴んだ鉱石。それをぎゅるんと回転させて、火、風、水の魔力でグニャグニャに変形させていく。リング状になったそれを今度は捻じっていって、細くなった部分を球状に整形。小さな球体を鎖が掴んでいる、というようなデザインにしたものを、今度は氷の魔力で急冷。
土の魔力でコーティングを施したのち、最後に雷の魔力で表面を軽く焼けば……うん、いい出来。
「いつ見ても美しい魔力操作ですねー」
「そうですか? ありがとうございます」
隣で作業しているイルーナさん。彼女は水と風を得意としているけれど、火や雷といった激しいエネルギーは苦手。だから整形そのものかかる時間は私達の中で最も多い。ただし、デザインセンスは抜群だ。水と風の魔力を用いて作る彼女の造形は、私が見ても「おお」と驚くほどのもの。
魔力操作に関しては、まぁ下手に見せることもできるけれど、流石に店を構えられる程度の細工師としてはこれくらいできたって良いと思う。
「そうだ、オーリさん。もう少し先の話ですけど、友人が結婚するとかで……何か良い贈り物とかありますかね?」
「その二人の人柄を知らないことにはなんとも言えないですけど……私が思いつくものですと、エダムの宝石で作った装飾品、でしょうか」
「エダム、ですか? ……ええと、風の魔力を増幅させる宝石ですよね」
「ええ。ですが、あの宝石にその名がつけられたのには、ある呪文が由来となっていまして」
それは少々昔の話。二千年前くらいかな?
「Edamu staka wowi ratuf agihs......という、あまり聞き馴染みのない詠唱だと思うのですが」
「すみません、呪文言語の解読までの知識がなくて。どういう意味なんですか?」
「『命ある限り、この風の中で』、ですね。流離の神フォルーンに捧げる祝詞の一部にもなっているものですが、かつてはエダムを用いてこの呪文を詠唱し、互いが互いの強化をする……つまりタッグで戦う際の詩として使われていたのです。ただ現在の流行が他人の強化より自己の強化になっているためにこの文化は廃れ、宝石の名前だけが残った、と」
装飾品も武具防具も、そして魔法にも流行がある。
人間はなんでもかんでもそうだ。流行に乗っているかいないかで研究開発の速度も違うし、文化が残るかどうかも違う。これがエダムと名付けられていない頃は二人以上でパーティを組むのが普通で、だから二人以上をどうこうする魔法が多いし、その時の触媒となった宝石がその名前になっていることも多々ある。
それこそマトラトなんかもそうだ。あれは封印が関係しているからそんな綺麗な話じゃないけど。
「ありがとうございます。エダムはまだ加工したことのない宝石なので、ちょっと頑張ってみます」
「はい。ただイルーナさんが言っていたように風の魔力を増幅してしまうので、風の魔力で触る際にはご注意を」
「はーい!」
……しかし、今の反応を見るに、やっぱり宝石名の由来というのは簡単に廃れちゃうんだなぁ、と。
昔はあんなに流行ってたのにネー。
三時になったので店を閉め、今日も今日とて日常を謳歌する。
今日は空き巣騒ぎもないようだし、騎士団がバタついているということもない。
だから久しぶりに市場へ行って色々なものを見たり、他の装飾品店へ行って今の流行を見たりができるなー、と思っていた。
思っていたら、これだ。
「母さ……じゃなかった、オーリ。久しぶりだね!」
「久しぶり、ルーン」
流離の神フォルーン。子供の一人が、なんでもない顔で訪ねて来た。
「どういう風の吹き回し?」
「風のうわさでね。オーリがまた失敗したって聞いて、楽しそうだなって思って来たんだ」
「へえ。誰が告げ口……ゴルドーナ? なんであの子が」
「待って待って、ナチュラルに脳内見るのやめようよ。会話を楽しもうよ、オーリ。そのために僕ら発声なんて面倒な機能を獲得したんじゃないか」
だってどうせ聞いても言わないじゃん。
という思いを飲み込んであげる。
「じゃあ、それで。なんでドーナが告げ口なんてしたの」
「そこはもう話した前提で行くんだ……。……まぁほら、ドーナって奇跡の神だろ? 祈りが届いたらしいよ。奇跡への感謝がさ」
「……あー、蘇生に奇跡を見出したんだ」
まったく。人間は祈る神がたくさんいて大変だ。
今フォルーンが言ったように、ゴルドーナは奇跡の神。奇跡や偶然を司るため、出会いや祝福の際などに名前を出される。
だから騎士シルディアは当然のように感謝を告げたのだろう。「神よ、ゴルドーナよ。あなたの慈悲に感謝を」と。
祈りは全て届く。ありとあらゆる祈りが担当する神のもとに届く。それで彼女は死者蘇生を知って、一連の流れを調べたとかそんなところか。
「まだ逸脱してないから、大丈夫」
「そろそろオーリには無理だって気付いた方がいいと思うけどなぁ、『人間ロールプレイ』」
「この世に不可能なことなんてない」
「創世神にそれを言われちゃ返す言葉がないね」
……なお、数万年に渡って「人間ロールプレイ」をしてきているけれど、老衰まで行けた事例は一つとしてない。
絶対途中で死ぬか、やらかして別の人生を歩みに行っている。
でも無理じゃない。そう信じている。
「そうだオーリ、魔王の転生体が出たって話は知ってる?」
「なんならこの目で見た」
「ああそうなんだ。なら話が早いや」
「?」
フォルーンは肩を竦めて、舌を出す。
そういう仕草の「人間らしさ」、本当に上手。
「僕、今回は魔王側につくよ。兄妹姉弟たちの中にもそうするのが多い。理由はいる?」
「いらないけど、私はいつも通りだから」
「わかってるよ。オーリはオーリでいてくれていい。それでいて、もし僕たちがオーリの妨げになったら、容赦しないでいいからね。抵抗はもしかしたらするかもだけど、今回はちょっと色々楽しそうでさ、僕達も『人間ロールプレイ』を楽しみたいんだよ」
「ああ、だから直接会いに来たんだ。……『人間ロールプレイ』を名乗るなら、その域から出ないように」
「あははっ、オーリにそれを言われちゃおしまいだなぁ」
それはどういう意味だ。
「それで一応聞きたいんだけど、人間はどこまで減らしていいものなの? 絶滅させても大丈夫?」
「作ればいいのは確かにそうだけど、培われて来た文化や技術が完全に途絶えるのは私が面白くないから、もしそれをやるというのならこっちも本気を出そうかな」
「あーっとと、別に是が非でもオーリと争い合いたいってわけじゃないからさ、ただラインを確認したかっただけ。そっか、絶滅はダメなんだね。わかったよ」
「生き死にに関してはディモニにも相談した方がいいと思うけど」
「どこにいるかわからないんだよねーアイツ。……ま、用件はそれだけ。じゃあね、オーリ。今回の戦争は楽しくなるよ。してみせる」
戦争。国同士のではなく、勇者vs魔王の戦争だ。
フォルーンの感覚で言う楽しいが如何ほどのものかは知らないけど、多分ロクなことにはならない。フォルーンも充分性格がアレだから。
……今回、か。
立ち回りどうしようかな。オーリ装飾品店は当然守るとして、生き残っているらしい魔色の燕にも接触してみようか。
そして感情結晶の持ち主の収集と……うんうん、良い感じに忙しくなって来た。
でもごめんね、フォルーン。
今回の私は邪神気味って決めてるから──実は初めから本気で行くつもりだよ。