神の装飾品店   作:Actueater

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総評:「ダメダメなんだけど怒る奴の手が空いてない」

 飛び起きた。

 

 気配だ。それも強大な。

 神ではない。同胞とも違う。人間とは考えにくい。

 ひたすらに凶暴で極大で、そして……レクイエム一人に向けられた気配。

 

「……誘われてる」

「みてぇだなー」

「っ、ユート。君も感じたのかい?」

「ああ。つっても俺には気配の位置とかまだよくわかんねぇから、驚いて飛び起きたってだけなんだが。……どうする、行くか?」

「……罠にしか思えない。けど、行かなかったら毎日毎日睡眠妨害される」

「ははっ、そりゃ行くしかねえな!」

 

 レクイエムは魔王の転生体だ。

 万一もあり得る。だから、同じ宿の別室に泊まっているティアとドロシーに書き置きだけは残しておく。

 

「これで良し。……行こうか、ユート」

「おう」

 

 青年と少年は。

 夜闇の星へと、走り出す。

 

 

「……行ったね」

「うん」

「……どうする?」

 

 当然ながら、仮にも魔色の燕としての訓練を抜けきった「精鋭」であるティアとドロシーは気付く。その気配こそ向けられなかったのでわからなかったけど、ユートとレクイエムが動いたのはわかる。

 特にユートは魔力暴走体質だ。装飾品でそれを抑えていると言っても、荒々しい魔力圧が消えているわけではない。

 

「追おう。ユートが警戒対象なのは間違いないけど……私、無理だもん」

「だよね。ティアはそういうと思った」

「うん。魔色の燕失格かな。……でも、初めてできたドロシー以外の友達。そんな簡単に見捨てたくない」

「失格じゃないと思うよ。長、言ってたでしょ」

 

 それは十年の修行の中で、たびたび告げられていた言葉。

 

「『魔色の燕は暗殺組織でありません。傭兵集団でもありません。魔色の燕は、黒白の光を纏いて羽ばたく、自由の鳥です』」

「そうそう。魔色の燕は、冒険者(自由の鳥)。風と奇跡に乗ってどこまでも行ける鳥。だから」

「好きにして構いませんよ、か。……うん、じゃあ」

「行こう。あの二人を助けに」

 

 少女二人もまた、夜闇の星を追う二人を追いかけていく。

 

 

 それはティダニア王国でも起きた事。

 誘われるように。そしてそれを護るように。

 

 三つが、一堂に会する。

 そして出会うのだ。

 

「──や、初めまして。僕の名前はルーン。流離の神フォルーンの使徒だ。……今日はね、君達にお願いがあって、こうして呼び出させてもらったんだよ。──邪神討滅のため、僕に力を貸して欲しいんだ」

 

 チャラチャラと、それ同士がぶつかって奏でる金属音。全身につけたアクセサリーが煌びやか過ぎて煩い青年。

 設定は詰め込まれたけど、最終的に「いつも通りのフォルーンの方が、怪しすぎて逆に良いと思う」、「フォルーンは喋るだけで胡散臭いので、それが嘘を吐いているとは思われても、演技の演技をしている、とまでは思われないかと」となった、中身は割と普段通りの彼と──。

 

 

 

 

 フォルーンと勇者たちとが紡ぐ「お話」は別に私が知っていなければならない情報ではない。

 どうせトゥナハーデンが語りたがるだろうから、後で良い。

 

 それより、今は装飾品だ。

 

 先程渡した『見過ごしのアントロジー』。神の気配をフィルタリングする機能を持つこの装飾品は、少しばかり特異な技術を使っている。

 簡単に言えばこの時代にない……というかこの歴史に無い技術だ。

 ただ、使っている素材はこちらの歴史のものなので、セーフ……にしようと思っていた、のだけど。

 

「ズル、か」

 

 アレを流行らせる気はないけど、私だけが知っている技術の結晶を他者に渡したのは事実。あるいはこの先、フォルーンがあの腕輪を外すことがあったとして、それをどこかに捨てるようなことがあったとして。

 誰かに発見されるか、あるいは後世で発掘されるか。

 とにかくフォルーン以外の誰かがアレを解析した時――こう考えるだろう。

 

 異物である、と。

 だってどの技術体系にもない。だってどの装飾品店も……私の店でさえも取り扱っていない商品。

 次第にそれは、研究対象となり、人々を唸らせるものとなり……こう呼ばれる。

 

 前史異物(アーティファクト)、と。

 

 それはよろしくない。

 よろしくあってほしくない。

 

 歴史とは振り返られることで未来を紡ぐ糧となるもの。

 "経緯"や"系譜"、"理解"に"考察"。

 (そら)から落ちてきたものだから考えても仕方ない……になられては、「オーリ・ディーン」の装飾品としてあまりにもお粗末だ。

 

 作る必要がある。

 アレを作るに至った、アレを作ることができるに至った血脈を。

 

 装飾品。鍛冶。道具。

 これらには「歴史」がある。民族の移動、宗教の興り、言語の獲得。

 

 今回の歴史における製錬技術はまず「落とされ星」の存在から始まっている。「落とされ星」というのはこの(そら)に留まり続けることが叶わず、落とされてしまった星々のことを指し、絶大な破壊と衝撃を着地点に叩きつけるもの……であると同時に、人間の知恵を加速するものでもある。

 ある地域に落ちた「落とされ星」。それに含有されていたタミルエインドという鉱石が「溶けかけであった」ことからこの歴史の人間は「鉱石が溶けること」と「その条件が高温であること」を知った。

 そこから世界中にある鉱石を熱にかけることが広まって、次第に製錬技術の形に落ち着いた。

 

 タミルエインドはこの世界にある鉱石の中でもかなりクセの強い鉱石であるけれど、こういう経緯から特別な鉱石として知られているし、この鉱石が測定の基準になることも多い。

 ここから「興り」についての諸々を振り返るのも吝かではないのだけど、結論を急ぐのなら『見過ごしのアントロジー』は「タミルエインドで作られている」というところに落ち着く。

 

 ゆえに『見過ごしのアントロジー』生成についての歴史を作るのであれば、タミルエインドの産出地でなければならない。

 タミルエインドは「落とされ星」に多く含まれていたかのだから、「この技術は(そら)から来たものだ!」なんて結論に至られかねないわけだ。

 

 さて……では、タミルエインドの産出地がこの世界のどこにあるか。

 無い。うん、そんなものは存在しない。 

 クセの強い鉱石だ。珍しい鉱石だ。産出地なんてものがあってたまるか。

 けどないと困る。

 困るので、創る。

 

 丁度いい場所は思いついている。勿論風雨の故里(オルド・ホルン)だ。あそこはもう一種の異境……時間の流れが違えば空間の広がりも違う、誰も立ち寄りたがらないし誰も視界に入れたがらない場所になっている。

 あそこが「初めからそう」であったのなら、タミルエインドの産出地として知られていないくともおかしくはない。

 仮にあそこ以外がタミルエインドの産出地になってしまった場合、今度は逆に「神の気配をフィルタリングできる装飾品」が一般流通している可能性まで出てくるからね。いや一体どういう歴史になったらそうなるのかはわからないけど。

 

 だから、誰にも知られていない場所に作る。

 

「あるじ様。おかえりになっていたのですね」

「別に、今気づいたフリ、なんてしなくていいのに」

「普段からこうしていないと、アザガネ様や他の方々の前でいつボロを出すかと不安で」

「ああ」

 

 そうか。

 このマリオネッタたちも「人間ロールプレイ」やってるのか。へぇ、良いじゃん。神だけじゃなく、どんどん広がっているんだな「人間ロールプレイ」の輪。

 

「天空でも地底でもなく、地上で何をしておられるのですか?」

「歴史作り。これ、知ってる?」

「……ええと、確かタミルエインド……ですよね? 国章などに使われることのある、特別な意味を持つ鉱石、でしたか。採掘されたままの状態で見るのは初めてですが」

 

 "改変"する。

 元からそうで在ったと。

 

「──あまり、任せっきりは良くないのでしょうか。私達マリオネッタではないゴーレムたちにばかり採掘させて……」

「いや、魔色の燕として作ったあなた達とは用途が違うから良いよ。それより、タミルエインドで作った武器って何か持ってる?」

「普段使いはしませんが、はい」

「ちょっと見せて」

「はい」

 

 トパルズは、腕の中から一本の短剣を取り出す。短剣……というよりフックかな、これは。

 

「これ、誰が作った奴?」

「ギンタウです。ああ、申し訳ありません。白ゴーレムの」

「大丈夫、名前はわかるよ。そこまで興味なくないから」

「そ、そうですか。それは失礼しました」

 

 ……ま、こんなものか。

 ここではタミルエインドが産出されているし、それを採掘するゴーレム、鋳造・鍛造・冶金をする亜種ゴーレムも存在する。

 魔色の燕はそれを当然のように使うし、加工品は持っていたっておかしなものではない。

 

 よし、まずは一段階目。次は装飾技術の発展か。

 えーと、逆算から始めていくべきかなー。

 

 

 

 

 フォルーンの招集した勇者と勇者と魔王。

 彼は持ち前の交渉技術で「話し合い」を始め。

 

「Aurs actram!」

「Le'd golgal」

「あー……話をね、聞いてほしくてねー……」

 

 現在、少女二人に襲われている。

 

「レクイエム、補助魔法とかねぇのか!?」

「僕にそれを期待したのは君が初めてだよ、ユート。……でも、確かにもどかしい。僕はどうするべきだろう。……逃げろ、と。言われたけど」

「逃げたくないんだろ?」

「……そうだね。これは罠だった。今あの二人が決死の思いでアレを足止めしてくれている。合理を考えるのなら、あの二人に礼でも吐いて逃げるべきなのに……おかしいな、本当に。人間なんてどうでもいいはずなのに」

 

 赤と黒の。

 闇色の魔力が、揺らめく。

 

「僕は、あの二人と別れることが……嫌みたいだ」

「へっ、気付くの遅ぇーって!」

「そうだね。自己分析なんて長らくやってなかったからだろう。……ユート、力を貸して欲しい。あの二人を助ける……いいや、あの二人とともに、神の使徒を倒すんだ」

「おう! そう来なくっちゃな。……で、そっちのイケメン! と、その彼女!」

「……なんだ、空き巣の保護者」

「ちょ、ディア! 友好的にって今話したばっかじゃ」

「お前らアレの仲間じゃないんだな!?」

「ああ、違う。こんな夜中にレインを呼び出し、あまつさえその力を利用とするような輩が仲間であるはずがない」

「だったらよ!」

 

 ユートの手に──巨大な剣が現れる。

 光の魔力。迸る白は、紛う方なき聖なりし金属。

 

「俺の名は結人・積川! ──お前が誰かを殺す時に名乗ることにしてんなら、俺ァ誰かに頼みごとをするとき、名乗ることにしてんだ! いやした! 今から!」

「……」

「頼む、手伝ってくれ! あの二人は友達なんだ! 俺はあの二人を助けたい。でも感覚でわかる。俺とレクイエムを合わせても、あの二人を合わせても、あの使徒とかいうのは倒せねえ、だから」

「ええ、わかったわ。──私達は騎士だもの。民草から救いを求められたのなら、手を差し伸べるのが騎士。そうでしょう? ディア」

「……ああ、そうだな。何より──魔王の転生体などより、神の使徒を名乗る奴の方が人々に害を齎しそうだ」

 

 魔纏奏者二人の攻撃を捌きながら、ようやく理解するフォルーン。

 嵌められたのだ。

 

 素のままのフォルーンで行けば、どうなるか。

 答えはこうだ。

 

「っしゃぁ、んじゃ、倒させてもらうぜ──神の使徒!」

「僕は君の思い通りになるつもりはない。そして、ありがとう、ティア、ドロシー。君達は間違いなく僕を変えた人間となった」

「ふふ、ディア。顔が硬いわ。……同じでしょう? アルフだって何かを抱えてる。でも、私達は家族で在れる。だったら」

「わかっているさ、レイン。私はあの少年を見て、災厄の化身であるなどとは思わない。友人を助けるために魔力を練っているだけの少年だ。──ああ、確かに。アルフのおかげかもしれないな、これは」

「そうね。──ユートさん! あなた、勇者なの?」

「ああ。だが、異世界から召喚された勇者だ。アンタは?」

「私はレイン・レイリーバース。この世界の勇者よ」

「そりゃあ頼もしい!」

 

 一致団結。

 フォルーンという敵を前にしての、だ。

 あの二人……「彼女」とトゥナハーデンは初めからこれをさせるためにフォルーンを「素のまま」で行かせたのだろう。

 

 であるならば、目的遂行のためにはやるしかない。

 

「──ちぇ。人間はもっとタンジュンだって聞いてたのにな」

 

 ロールプレイ、である。

 さしずめ……「人間を騙そうと目論んでいた何者かロールプレイ」。こうなった以上フォルーンは自身に敵意を持ってほしくないから、偽装もする。

 

 彼は指につけていたアクセサリーを一つ外して、捨てる。

 それは『見過ごしのアントロジー』のオプションの一つ。母に持たされた偽装工作アイテム。

 

 ぶわり、と広がるは──苦界の魔力。

 

「……ユート。彼、フォルーンの使徒ですらないみたいだ。ティア、ドロシー! 一旦離脱してこっちに下がってきてほしい!」

 

 レクイエムの言葉に素直に戻ってくる二人。

 黒白の羽織ものにいつの間につけたか赤の面。レクイエムも、そしてシルディアも彼女らの姿に思うことがないでもないが、今はスルーする。

 

「……ぁ」

「レイン?」

「……ディア。あれは……死、よ。死の……死後の」

「死後の苦界。……隠す気は無くなった、ってことでいいのかな。──ディモニアナタの眷属」

 

 なるほど素晴らしい出来だ、とフォルーンは感心する。「彼女」のやっている「人間ロールプレイ」そのものには然したる興味もない彼は、だからこそ「彼女」が行っている職業にもそこまでの興味を持っていなかった。

 だけど、『見過ごしのアントロジー』も、今の指輪も。

 フォルーンが何を語らずとも相手が深読みをしてくれる──素晴らしい装飾品。

 

「なんのことかさっぱりだね。それに、言っただろ? 邪神討滅をお願いしたい、ってさ。僕がディモニアナタの眷属なら、ディモニアナタの討滅をお願いするなんてしないだろ?」

「ディモニアナタの討滅は私達が掲げていた目標だ。大方、それを知って使えると思ったのだろう? 私達という戦力を一か所に纏め上げるには、強大な敵というものが最も適している」

「へぇ? そう考えるのなら、じゃあ、もう成功じゃないか。僕という強大な敵を前に君達は団結した。──それが本当に僕の目的だとしたら、僕は喜び勇んで君達に討滅されていることだろうからね」

「あー、すまん。ちょいとその口閉じてくれるか。俺たちを馬鹿にしたいってのは伝わったからよ。それよか、お前を倒すための作戦会議がしてぇんだわ。だから──」

ラムド・ダムド(──・──)!!」

 

 フォルーンの足元に巨大な文字盤が現れる。時計を模したそれは──高速で回転し、そして上へと上がっていく。

 闇属性の結界。方陣から上空の円柱形、その空間内の時間を止める大魔法。

 

 たとえフォルーンが万全な状態でも、一瞬服の裾を引っ張られるくらいの拘束力がある。

 

 して、今は人間の肉体だ。

 ゆえにフォルーンは「凍結」した。「何者にも縛られない」のは神フォルーンであって、使徒ルーンではないから、と。

 

 

 彼が次に目を開けた時。

 その眼前に、タミルエインド(神抑え)で作られた短剣があって。

 

「Krinpeptra!」

「行くよ、ユート」

「おう!」

 

 魔纏奏者による「風の斬撃」。勇者二人による「光の狙撃」。騎士と魔王による「闇色の炎撃」。

 これもうやられて離脱で良いじゃーん、とか思っていたフォルーンのその身体が、短剣を掴み、斬撃と狙撃を避け、炎を無色の魔力で相殺する。

 

「……」

「クソ、ダメか!」

「いや、よくみろユート・ツガー。短剣を掴んだ奴の手を」

「……血が出てる。しかも治っちゃいねえ。つーことは」

「うん。倒せるってことだね」

「傷つくなら倒せる! 単純明快!」

「ティア、魔力残量気を付けてね」

 

 フォルーンは──彼方を睨みつける。

 今のはフォルーンの意思じゃない。確実に干渉を受けた。「何者にも縛られない」フォルーンがだ。

 

 ──その服を仕立てたの、私ですから。

 

 そんな声が聞こえた気がして。

 

「良いよ。なら、ずたずたにしてやる」

 

 フォルーンはやっと怒った。

 

 ただし。

 フォルーンに「人間との戦闘経験」なんてものはない。「人間ロールプレイ」なんてけったいなことをしているのは「彼女」とトゥナハーデンだけで、消したい人間がいるのであれば権能を使えばそれで終わりなのだ。

 さらに「ディモニアナタの眷属ロールプレイ」が発生したことで、得意といえる風の魔力が使えなくなった。ディモニアナタに風に纏わる権能は一つしかなく、それは彼らを殺しかねないものであるためだ。

 そう、手加減しないといけない。彼らを殺してしまっては元も子もない。だけど、大人しく殺されようとするとトゥナハーデンが邪魔してくる。

 

 細心の注意を払わねばならないのはまず魔纏奏者の二人。「彼女」の縁者であることもそうだけど、魔王、勇者に比べて肉体が脆い。フォルーンの風、その一撫でで全身を四散させることだって可能だろう。

 次に騎士。こちらは魔纏奏者の二人よりかは鍛えているけれど、それだけだ。フォルーンからしてみれば「脆すぎる」か「とても脆い」の違いでしかない。彼に関しては特に何も言われていないので殺しても良い気がする反面、勇者の縁者である以上はこちらの手駒であるということを考えるに、やっぱりあまり傷つけたくない相手。

 

 勇者と異世界の勇者と魔王は……。

 

「一番やりやすいのは、君かな」

「っ、レクイエム!」

 

 とりあえず、できるだけ加減をした力で拳を出してみるフォルーン。技も型もない。兄妹姉弟のじゃれ合い以外では暴力を振るったことなどないのだ。その拳は「彼女」が見れば「ナニソレ」と白い目を向けるものであったことだろうが、魔王の転生体はそれを鼻先に掠める形で躱す。つまり、ギリギリで。

 

「疾い……!」

「奴から目を離すな! 距離を詰める速度も攻撃も異常に速い!」

 

 これだけ弱めて、その評価。

 フォルーンは格闘を諦めた。そして「彼女」の評価を上げる。よくこんな難しいことを何万年も続けているものだ、と。

 

劫炎の乱舞(ヴァルズ・ジ・フィライメント)!」

 

 炎の攻撃。人間の身体がどれほど燃えたら妥当なのか。防ぐにしても、何をして良くて何をしてはいけないのか。

 闇の魔力に因る固定……は、確か危なかった気がする。ディモニアナタの眷属だから、光の魔力も使っていいはず。なら選択するのは。

 

「『敵意誘引Lv.50』」

「!?」

 

 意識が持っていかれる、という経験。思考も視線も、すべてが異世界の勇者へと向く。

 他のことを考えられない。

 

 この、「彼女」ではなく自分たちの使う"改変"の劣化版のような感覚は。

 

 直後、炎が着弾する。燃える肉体。風は使えない。思考は外せない。

 だから、フォルーンは「高速で動く」という力技で肉体の火を消した。

 

「……面倒だな」

「今だ!」

「ええ!」

 

 背後。フォルーンの背に、光の斬撃が。

 正面から、魔王の魔法が──クロスを組むようにして突き刺さる。

 

 これは死んだ。流石に死んだ。

 ようやく終わりか、と……自身の怒りよりも面倒くささが勝った心境で、空を見上げれば。

 

「……本気で言ってる?」

「──ユート、みんな! 離れて!」

 

 ディモニアナタが降臨した。

 

 

 

 

 できた。

 歴史と技術。その興り。

 

 これならここで『見過ごしのアントロジー』が作られていてもおかしくはないし、魔色の燕の長である「オーリ・ディーン」がその製法を知っていてもおかしくない。

 完璧だ。

 

「ふむ……拙僧は刀匠ではない故、技術に詳しいわけではない。だが……この工房は素晴らしいな」

「わかるか?」

「機能美に優れておる。伝統よりも実用性に特化した工房。……勿論シホサの中空長刀も良いが、他の刀も使ってみたくなるというものよ」

「ああ……だが、残念ながらタミルエインドは硬度に優れない。シホサの剣術にタミルエインドの刀を使えば、すぐにでも折れてしまうだろう」

「カカ、わかっておる。……さて、本来の用向きを話そうか、長」

「また私と戦いたい、だろう?」

「理解が早くて助かる。トガタチ殿以来、強者と呼べる者に出会えてなくてな。鈍って来たのだ」

 

 確かに、今のアザガネを超える剣士など、中々いないだろう。

 マリオネッタたちでは相手にならないだろうし、アルフは帰ってこないし。まぁ帰って来たとしてもアルフじゃアザガネには勝てないだろうけど。

 

「良いだろう。だが、加減はしないぞ」

「カカカ、そう来なくては!」

 

 人間ロールプレイにおける最強格。そのそれぞれを魔纏奏者の形に落とし込んで、いざ勝負。

 あくまで人間を逸脱しない程度に、それでいて格上であることを忘れないように。

 神ではなく人間として。化け物ではなく戦闘者として。

 

「──魔色」

「ほう? 見様見真似で覚えたか」

「白羽!!」

 

 まだ扱い慣れていないのだろう、黒白の粒子は量が少ないし、そのほとんどが彼に追従していない。

 ベースは水の魔力でしかなく、これでは闇と光の魔力がノイズにしかならないだろうに。

 

 それでも、一度食らっただけの……あの刹那、自身は自身の剣に集中していたはずのその一瞬を、ちゃんと記憶していたか。

 

 なるほどなるほど。

 そう言うこともしていいんだな、人間って。

 

「飛王」

「穿夢」

「清浄!」

 

 上段からの振り下ろし……に見せかけたソードブレイク。ちゃんと巧い。でも、それだけだ。

 聞けばトガタチには負け越していたらしいし、やっぱり彼が強くなるには。

 

「お前には自己流というものが足りんな、アザガネ」

「む……ぬぅ。それは、自覚しておる」

「そうか。……そうだな、まずシホサの剣の弱点が何であるかを考えてみろ。少しくらいなら指導をしてやる」

「ほ……ほほう? お前の指導は……良いな」

「あの、あるじ様。それ私も受けたいです」

「私も良いですか」

「わたしも!」

 

 わらわらと。

 いやなんか集まってきてるなぁとは思ってたけど。ただアザガネと私の死合いを見たかっただけじゃないのか。

 

「待て待て、拙僧が先だ!」

「教師一人につき生徒一人は効率が悪いです! あるじ様、今すぐ城の一部を学舎に作り替えますので、そこで色々教えてください!」

「……」

「学舎だと? 待て、拙僧に案がある。王国風ではなくシホサの形に倣った道場を作れ! その方が良い!」

「長からの直々の指導を受けられる日が来るなんて」

 

 いや。

 

「なんだか面倒なことになってきましたね……とか、思ってんのかい?」

「リーさん。いえ、面倒だとは思いませんが、妙だな、とは思っていますよ」

 

 だって。

 

「みーんな、アンタを目の敵にしていたくせに、って?」

「……知っていましたか」

「まぁねえ。アンタもわかってて行動してるだろ?」

「そうですね。いつものことなので」

 

 私の創造物たちは、たいてい私に反感を持つ。

 人間性の獲得が著しいし、その情緒を用いて私と敵対する。ぶっちゃけ人間も創造物のようなものだから、製造年数と世代交代に差があるだけで、なるほど普段通り、ではあるから放置気味だけど。

 

「いずれ牙を剥く予定があっても、こうも純粋に相手を慕えるものですかね」

「そんだけアンタにゃ価値があるんじゃないのかい?」

「……私の技術に価値があるのは重々承知ですし、私の技を盗みたいと彼女らが思っているのもわかっています。ですが」

 

 思い出す。

 アランを始めとして、「私と敵対する結果に至った時、私と情を交わし過ぎたせいでその顔に苦痛を浮かべていた人間たち」の姿を。

 そんな顔をするなら、初めからやめとけばいいのに、って。

 

「不思議かい? あの子たちの行動は」

「不思議というより、不可解ですね。効率的ではありません」

「それが生き物だ、ってことまで、アンタはわかってんだろうね」

「それが心であるということくらい知っていますよ」

 

 まぁ、断る気力が「オーリ・ディーン」には存在しない。

 せいぜい付き合って……心行くままに裏切ればいい。

 

 そうあれかしと、創ったのだから。

 あなたたちも、人間も──子供たちでさえも。




明日(2/25) 12:00の更新はありません。

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