神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「私達もあの人間から学んだ方がいいのでは?」

 基本、神々は衝突することが無い。

 意味が無いからだ。権能の相性こそあれど、神々の総合的な能力は全員統一されている。生まれた順も性格も関係なく、同等。

 必ず千日手になる。疲労も無ければどちらの集中力が切れることもない千日手。終わらない戦いに意味はなく、無駄でしかない。

 神々が衝突することがあるとしたら、それは代理戦争の形を取るし、陣営を定めて陰から助力をする程度。

 

 だから。

 その「意味が無くて」、「無駄であること」をする神が現れたとしたら、現れるとするのならば。

 

「大丈夫。……君達は己が護る。驚きはあるだろうけれど、今は逃げ出さないで欲しい。信用はしなくていい。ただ己は、一万年もの間いなかった信徒と、その仲間を助けたいだけ」

 

 意味が無くて、無駄であっても。

 肩入れしたい人間に対しては──どんな臆病者でも、「神」を体現するのである。

 

 

 

 

 地龍。あるいは這龍の討伐は、一瞬で終わった。

 冷静になったレクイエムとほぼ無尽蔵の熱の魔力を操るアルフ。敵が無限に蘇るゾンビ軍団でもない限り、知性の無い大百足程度に苦戦する彼らではない。

 たとえその個体が熱耐性を備えていても、別の手法を取る。怒り狂うアルフには考える頭があり、戦場を俯瞰するレクイエムには積み重ねた歴史がある。総合火力がどうかはわからないが、組み合わせで見た場合、この二人は最優のコンビと言えるのだろう。

 

 だから、問題はそんなことではなかった。

 

「あの黒雲は……」

「ん? ああ、一雨来そうだな。さっさとけーるか」

「間違いない。アレはディモニアナタの死雨だ」

「そりゃやべぇな。とっとと素材取って逃げんぞクソガキ」

「……」

「どうした」

「あそこにあれがあるってことは、僕らに気付いたわけじゃない。オーリ・ディーンの装飾品はしっかり機能している。だけど」

「……オレ達じゃねぇ、どっかの誰かが襲われてる……ってか」

 

 アルフの目つきが変わる。

 彼とて分別はつく。全てを守り切ることなどできないし、況してやここは彼の守っていた都市から遠く離れた場所。その近辺にいた誰かが神に襲われていたとして、助ける義理などない。

 

「助けに行きてえ、ってツラしてるが?」

「……理由はわからない。ただ、僕じゃない僕が……そう、訴えかけてきている」

「意味が分からん。が、やりてぇことやんのが魔族なんだろ。その結果てめぇがおっちんじまったとしても、やらなかった後悔に耐えられねえのがお前らだって話じゃねぇか」

「……いや。やっぱりやめよう。帰るべきだ。今僕らの背にあるものは、僕らだけの命じゃない」

「辛気臭ェクソガキだなオイ」

 

 んじゃ、と。

 

「オレが偵察に行ってくる。なに、お前といなきゃ仲間とは思われねぇだろうし、そもそもオレだって神から見えなくなってるって話だ」

「君がそこまでの危険を冒す必要はないよ」

「いまさら何言ってんだクソガキ。……それに、辛気臭さで言ったらオレの方が先達さ。なんせオレの思考にあんのは贖罪ばかりだからな」

「どういう」

 

 こと、と聞く前に。

 アルフは足元から熱を噴射して、飛んで行ってしまった。

 

 レクイエムは──当然、すぐ彼に追いつく。

 

「……なにフツーについてきてやがる」

「やりたいことをしてるまでだけど? 僕は魔王だからね、プライドが高いんだ。勇者でもなんでもない"クソガキ"に守られたとあっちゃ、僕の沽券に関わる」

「はン、クソガキらしい理由で何よりだ。とっとと帰ることこそ至上だってのに、自制心を利かせられないあたりが特にな」

 

 皮肉屋と皮肉屋は互いに嫌な笑顔を浮かべて──そして、暗雲のもとに辿り着く。

 雲の範囲から少し離れた場所で、それを見た。

 

「……」

「……」

 

 黒。黒。

 黒黒黒黒。

 

 何か、あったのだろう。建物が。

 いや。

 

 村が。

 

「……アレが」

「うん。……ディモニアナタの死。それが液体となったもの。アレに触れたものは、生物非生物問わず、死ぬ。死んで、死と一体化する。死を与えられる」

 

 ──黒く、溶けていた。

 

 雨は降り続いている。何か目的があるのか、暗雲の中心に浮く「少女」はそこに留まり続け、死を降り注がせる。

 建物が。人が。

 ぐずぐずと溶けていき、黒い水たまりとなって地をも穿つ。

 

 何だ。狙いは。

 何だ。

 

「──呼んでる」

「あ? ……待て、突っ込むのはマズいだろ!」

 

 一瞬、意識が飛んだかのように。

 レクイエムは呟きを挟んで──溶け切った村に直進していく。死雨の中は、けれど自ら纏う結界で防ぎ、どこかへと。

 

 アルフは……咄嗟に自身の胸へと赤い光を発する魔法を突き入れ、その後を追う。『朱怒結晶』から発せられる熱波で死雨を掻き分けながら。

 でも、それは結界ではない。少しでも気を抜けば死の水がアルフを浸すだろう。

 

 十も承知だ。

 

「おい、クソガキ! どこだ! どこへ行った!」

「……」

「っと、結界は光ってて目印になるな。いきなりどうした、クソガキ。誰かいたか?」

「……」

「クソガキ?」

 

 呆然と。

 ただ一点。長細い黒を見るレクイエム。他の構造物もまた溶けているから、元がなんであったのかなど。

 

「……そうかい。そうなんだ。……君を受け入れてくれた人間が。……そうか。守りたかったか」

「……」

 

 話している、というのはわかった。

 アルフには黒長の何かにしか見えないソレと、レクイエムが。だから、もう一つも理解する。

 

 その黒長が……人間、否、魔族であったと。

 

「なんで謝るんだ。僕は……君達に何も。……そうだ、最後に君の名を教えて欲しい。僕が永遠に君を覚えておく。……マルハティカ。うん。覚えたよ」

「……」

「……うん。おやすみ」

 

 ぐずぐずと。

 黒長は、形を保てなくなり……完全な液体となって地面に流れていく。

 

「大丈夫か?」

「うん。……ごめん、一言告げてから飛び出すべきだった。……ダメだね。同胞のことになると、考えるより先に身体が動く。もう少し肉体が成長すればそんなこともなくなるんだけど」

「構わねえよ、クソガキ。……供養は後だ。今は一刻も早くここから逃げねえと」

 

 すとん、と。

 アルフの熱波をすり抜けて、黒が落ちてくる。

 

 雨じゃない。

 金属の柱のような、それが。

 

「……」

「……これは、狙われた、ってことで」

ヘブル・ハパルク(──・──)!!」

 

 土から手が形成され、空から降り注ぐものを押しとどめる。

 無理だ。相手は死。「形成されたもの」では歯が立たない。

 

「ッ、クソ女! アイツを信用したオレ達が馬鹿だったか!」

「違う、この装飾品はしっかり効果を発揮している。だからこそだ。だからこそ、ディモニアナタの死雨、その領域の中にぽつんと"認識できない空間"があったら、目立つ以外の何でもない!」

「つまりオレ達の馬鹿ってぇこったな! クソ女、すまん! これは素直に謝る!」

 

 何かが、重い何かが降ってくる。

 雨水なんて軽いものじゃない。死で形作られた塊。それがアルフたちのいる場所を押しつぶそうとしてくる。

 

 逃げないといけない。今すぐに。

 

「『朱怒結晶』──!」

「僕の出せる一番速いので行くよ、掴まって!」

「馬鹿野郎、上を対処しろ!!」

 

 上。

 だから──暗雲、その範囲内の、すべて。

 塊なんてものじゃない。

 暗雲の底面と同面積を底面にもつ円柱が、落ちてきた。

 

 

 止まる。

 ギリギリで。

 

「……なん、だ?」

「……わからない」

「驚かせたね。でも、できればそのまま止まっていて欲しい」

「!」

 

 気配はなかった。

 けど、そこにいた。

 

 長身瘦躯の男。ティダニア王国ではあまり見ない恰好のその男は、手を天へと向けて、直立している。

 レクイエムも、アルフも。

 理解した。一瞬で。

 

「神……か?」

「ああ、うん。そうだよ。己はヨヴゥティズルシフィ。直線の神って呼ばれてる」

 

 なんでもないことであるかのように、あっけらかんと、男は肯定する。

 それが嘘ではないことはわかる。わかるけど。

 

「神が……なぜ」

「今のところ、己の唯一の信徒。そしてその仲間である君達からも、僅かばかりの信仰を受け取っている。ディモニアナタやトゥナハーデンでは信徒が多いからね、忘れてしまったのだろうけど」

 

 ぐぐ、と。

 ぐぐぐ、と。

 

 黒が、天へと押し返されて行く。

 

「神とは……信徒を守るものなんだ。大事にする。大切にする。少なくとも己にとって、君達は」

 

 落ちてきたままに、その通りのルートをなぞって。

 死が、戻る。

 

「守るに値する人間だ。たとえ他の神々と敵対することになってもね」

 

 晴れた。

 黒柱がぶっ飛ばされて、暗雲を蹴散らしたのだ。

 

 その晴れた先にいるのは、ディモニアナタと──その眷属。

 

「己の権能には縛りが多い。だから、できればその場を動かないで欲しい。信徒がこちらへ向かってきているのもわかっている。大丈夫、君達を無事に帰すことを約束するから、今は言うことを聞いてほしい」

「構わねェが、神さんよ」

「何かな」

「手助けァ、いるか? オレもこのクソガキも守られっぱなしになれるほど気が長くねぇんだ」

「……真っすぐな目だ。良いよ、君も、そっちの魔王の転生体も。その場を動きさえしなければ、何をしてくれてもいい」

 

 そして、神と神の戦いが始まった。

 

 

 

 

 直線の神ヨヴゥティズルシフィ。

 あまりにも概念的過ぎて忘れられることの多いこの神は、けれどその実世界の法則そのものへも干渉し得るポテンシャルを有している。

 幾何学。ベクトル。運動、電磁気。……否、枚挙に遑がない。世界の文化水準が向上すればするほど、直線への信仰は篤いものとなっていくだろう。

 もっとも、「日常的過ぎて」信仰されない問題は付き纏うだろうけど。

 

 正直意外だった。

 

 ディモニアナタは多分、普通に試練の目的でアレをやっていた。私は村を滅ぼして欲しいなんてお願いはしていないので、彼女的には多分都市近辺でそういう悲惨なことをやって、勇者あたりが突っ込んでくることを待ったというだけだろう。そこに誰が住んでいたとかどんな理念があったとかはディモニアナタの知る所ではないし、知った所で興味もないはずだ。

 そんな場所の近くに素材……地龍がいて、ただ渡した装飾品はしっかり子供達の目を欺けるものなので、まぁ大丈夫だろうとか思ってた矢先。

 本当に後先を考えられないのか、アルフと魔王の転生体がディモニアナタの死雨へと突っ込んで……急遽「襲撃だったことにした」。フォルーンをルーンに再度仕立てあげて、ディモニアナタのもとへ。

 

 そもそもの話をするなら、あの平原でディモニアナタが現れたこと自体私の意思の介在が無い。アレはトゥナハーデンが「盛り上がりに欠けるから」という理由でディモニアナタに連絡を取り、ディモニアナタがノリノリでやって来たに過ぎない。

 人間ロールプレイ以前に「怪物ロールプレイ」ができてなさすぎる。危機的状況が過ぎるのだ。ディモニアナタをどう攻略するか、なんてのは最後の最後に考えるものであって、初の神とのエンカウントがディモニアナタ、なんてのは無理が過ぎる。勇者も異世界の勇者も魔王も、神への対抗手段を一つも手に入れていないのだ、どうしろと、という話。

 いつの代理戦争も「準備」があった。国同士のそれなら国力の底上げ、組織同士なら偵察や密偵。ありとあらゆる手段を用いて自陣営の人間を強化し、戦わせる。それで勝敗を決める。

 

 騎士ニギンの言い方に倣うなら、盤上の駒に対して指し手が拳でそれを吹っ飛ばした、みたいなものだ。今回の「戦争」が確かに邪神討滅……指し手を攻撃せんとするものであったとしても、あまりにも段階を踏まな過ぎる。

 だから今、急いでフォルーンがディモニアナタを宥めに行っているし、どうにか説得してフォルーンが戦おうとしている……というところに現れたのが、ヨヴゥティズルシフィ。

 

 兄妹姉弟からは臆病者のレッテルを貼られている彼が出張ってきたのは勿論ティアのためだろうけど、臆病者だからといって弱いわけではない、というのも肝だろう。

 神々の総合力は誰もが同等。そうなるように作った。

 だけど、こと「戦闘」において──ヨヴゥティズルシフィに勝る神は、果たしてどれくらいいるのか。

 

 彼の権能の縛りなど、あってないようなものだ。

 この世のほとんどは直線が土台になっている。力の動き、エネルギー、魔力、言葉。

 もしヨヴゥティズルシフィが深理の神メイズタグや言語の神セノグレイシディルと組んだのなら、万象を操る神にもなり得よう。今も半ばそんな感じだけど。

 

 ディモニアナタは直情型だ。ゆえに、ヨヴゥティズルシフィのような搦め手を使わなければ絶対に勝てない相手にはとことん弱い。それを埋めるのがフォルーンではあるけれど、フォルーンも今は「人間ロールプレイ」中。大したことはできない。

 そしてやはり、どちらも疲労を知らないし、集中力も切れない。

 

 長引かないはずもなく。

 

「トゥナハーデン」

「なに、ママ」

「私が行くのと、トゥナハーデンが行くの、どっちがいい?」

「……えっとそれは、ディモ姉を止める係、って意味でいいんだよね?」

「うん」

「……難しい。ねぇママ、ちなみにママがやる場合、どうやって止める気?」

 

 ヨヴゥティズルシフィが勇者魔王陣営の味方に付いた、という事実は既に周知された。もうすぐレイン・レイリーバースたちが現地に到着する頃だろうし、それで顔合わせもできるだろう。

 であれば、それ以上は要らない。ディモニアナタには大人しく引き下がってもらう必要がある。

 

「"改変"」

「私が行ってくる! ママ、大人しく待っててね!」

「あ、うん」

 

 信用がない。

 まぁ、当然だけど。

 

 

 さて、トゥナハーデンが事態を収束させに行ったけど、半々の確率でもっとひどいことになる未来は見なくてもわかる。前にも述べたけどディモニアナタのアレな部分が外に出ているなら、トゥナハーデンは内側に出ているから。

 そのためのストッパーが必要だ。ヨヴゥティズルシフィが思い切ってアルフたちを強制送還でもしてくれたらいいんだけど、彼は彼で私を恐れている。私へ直通の転移開路なんて開かないだろう。

 うーん。

 何事にも流されず、仕事をこなせる子。

 ……うーん?

 

「いな……い……?」

 

 しまった、いない。

 いや勿論比較的マトモな神はいるけれど、私のお願いを聞いてくれそうで、且つディモニアナタたちを止めに出てくれそうな子供達は……クロウルクルウフくらい?

 でも流石に可哀想という気持ちが私にもある。あの子は一番の末っ子なので、総合力に劣りが無いとしても、ガツガツ何かを言いに行けるタイプじゃない。となると逆にトゥルーファルス……ゴルドーナ……。

 

 うーん。

 

 やっぱり私が行くのがベストでは?

 

 あ、合流した。……ああ。ああ。

 ああほら、やっぱり止められなかった。トゥナハーデンの正論は、ディモニアナタの暴論に負けちゃうんだよね。そして全員が現地に到着して……天空の神々に向かって各自攻撃を。

 何の意味があるんだソレ。見えている肉体を殺せば殺せると思ってるんだろうか。だったら神なんかとっくの昔に死んでるでしょ。

 

 とか、考えた矢先。

 

「……タイミングが、少し良すぎるかな」

 

 誰かが私の店に向かってきている。

 今日は私の休日なので、私がいない、ということはもう伝わっているはず。これはどこの組織にも伝わっていいように、休日の日がどこであるかはいろんなところで喋っている。

 それを。

 

 ……優先度は「人間ロールプレイ」の方だ。ディモニアナタの目の前に躍り出たアルフと魔王の転生体が悪い。あとは知らない。

 人間なんだ、咄嗟の機転でなんとかするだろう。ヨヴゥティズルシフィがいれば即死することもないだろうし。

 

 私は「オーリ・ディーン」をやりましょう、と。

 

 

 滲み出てすぐ、店に魔法を放とうとしていた男二人を昏倒させる。

 不躾が過ぎる。しかも白昼堂々と。

 

 尋問とか面倒なので二人から辿って世界の記録を読めば……あー。

 

「イルーナさん……」

 

 簡単に言えば、不信感を持たれたらしい。

 イルーナさんが。元々イルーナさんがこの店に来たのが私の調査で、だというのに何日経ってもボロを見つけ出せない。平穏無事な生活を送り過ぎている。

 加えて、サラフェニア・シールベルベット、だっけ。アレが来たこともイルーナさんは報告していないらしい。していないけど、他のアスクメイドトリアラーが偽・魔色の燕が動いたのを知っていたと。

 

 となれば当然、イルーナさんに嫌疑がかかる。

 虚偽の報告をしているのではないか。

 絆されたのではないか、と。

 

「おはようございます」

「いらっしゃ……あれ、オーリさん? 今日休日ですよ?」

「はい。ただ家に居ても暇なので、仕事をしに来ました」

「……はぁ」

 

 盛大に溜息を吐くリコ君。トゥナハーデンが今出払っているから、色々と溜まっているのかな。頑張れ、明日には戻るよ彼女も。

 

「いいですか、オーリさん。休日というのは」

 

 無色の魔力でリコ君の膝を折り、強制的に仰け反らせる。

 直後、彼の頭のあった場所を通り過ぎていく矢。ちゃんと狙え。私だろう、狙いは。

 

「な……」

「……」

 

 今の対応はミスだった。矢を消してしまえば良かった。"改変"の使用を止められ過ぎて、それ以外の方法を模索してしまう、など。

 遅くはない。時間を戻して矢を消そう。

 

「伏せて!」

 

 イルーナさんの……悲痛な声。

 迫りくるものを分析。……固有魔法か。斬撃特化。というより、これは面かな。二次元平面という事象を斬撃の形で飛ばす固有魔法。心当たりはない。

 

 避けるか、防ぐか、消すか。

 消して記憶処理が一番だ。時間を戻すのもやめて、記憶処理で終わりにしよう。

 

「──時流昇(ダルク・ホップ)

 

 "平面"を消して、その斬撃を手で受け止める。

 懐かしい技だな。魔剣士なんてこの時代にいたんだ。時代遅れにも程が無い?

 

「ッ、止めるか!」

「お……オーリさん……!?」

 

 見られた。当然か。ああ、余波で破壊が起きている。記憶処理に加えて修復も……となると、今度は時間を戻した方が楽だな。

 ポイント記憶。時間遡行位置記憶。どうせだ、アスクメイドトリアラーの誰がイルーナさんを狙ってきているのかも見てから戻すか。

 あの二人の記憶には無かったからね。こいつらからも採取できなかったら、ちょっと遠回りだけど世界の記録から全体を漁る。

 

「危険度は最上位! 闇の斬撃を素手で止める! 魔力を身体強化に回せ、物理攻撃ならば」

「無駄話は好みません」

「──ガァ!?」

 

 首を掴み、地面に叩きつける。ああ、力加減が少し曖昧過ぎた。地面が割れてしまったのであとで修復しないと。

 両サイドから同タイミングで攻撃を仕掛けてくる二人。物理攻撃だ。だから、刃物でも使おうとしたのだろう、前に伸ばされた腕を掴んで折り、勢いを殺さぬままに反対側のアスクメイドトリアラーにぶつける。重なった二人の鳩尾に向けて氷柱を飛ばし、縫い留めて………。

 まだまだいるな。イルーナさん一人にどれだけ人数をかけるつもりだ。

 ……まぁアスクメイドトリアラーが裏切りを、なんてあってはいけないことだ。そういう考えが今も引き継がれているのなら、さもありなん。

 

 まぁ、良い。世界の記録を読む。

 ……下っ端ばっかりだな。全体像のわかっている奴が少なすぎる。これは、誰をやっても同じかな?

 

「ァ゛……こレ゛が、末路だ、イ゛ル゛ーナ゛!! この脅威を、ま゛え゛に゛……絆ざれ、見逃じ、それでも゛国を゛守れるど、宣う゛かァ!!」

「背骨ごと喉を掴み潰したというのに、喋れるんですか。器用ですね」

「お前が絆ざれだの、ぁ、ごんな化けも──」

「もう少し位の高い方に出て来てもらわないと、全体が見えません。……といって出て来るとも思えませんので、探しますか。ええと」

 

 刺さる。

 背後。既に泡を吹いて気絶しているリコ君……ではなく、イルーナさんだ。隠し持っていたナイフで、私の心臓を背中から刺したらしい。アスクメイドトリアラーの危機管理スイッチが入ったのだろう。

 まぁ特に関係はない。時間を戻すわけだから、今は別に「人間ロールプレイ」でなくともいいだろう。

 

「……ああ、来ていないのですか。であれば、アスクメイドトリアラーという制度自体を……」

「死なな……嘘、オーリさん……あなたは」

「ううん、アスクメイドトリアラーを消すと色々影響が出過ぎる……イルーナさんがアスクメイドトリアラーではなかったことにする、というのであれば、まぁ最小限に……人一人分の歴史を再構築するのは色々面倒ですが、まぁまぁ、大した手間でもないですね」

「私の正体を……いえ、今、なんと」

 

 視る。

 イルーナさんという人物を。一度見た記録だ、前回は流し見だったそれを、事細かに記憶する。

 

 して。

 

逃れ得ぬ怨嗟の涯に(Tore token on nagen ogaini)一度切りの煌星を今(Caztaby set ren ocos eywockn)!!」

 

 異口同音に、詩が紡がれる。

 周囲にいたアスクメイドトリアラー、イルーナさんを含む全員がそれを口にして――起こるのは、大爆発だ。

 人一人の「使()()()()()()」を爆発に変換する大禁呪。誰でも使えてしまうが故に、編んだ魔術師自ら封印を施したそれを、受け継いでしまっていたのか。

 馬鹿なことをする。

 

 ……さて、時間を戻そうか。

 

「待ったをかけたら、君は怒るかな? レディ」

「──……騎士ニギン。あなたの大切な守るべき都市がこんな風になってからのご登場とは、良いご身分が過ぎますね」

「まさか。私はしっかり加勢を考えていたとも。アスクメイドトリアラーの、だけどね」

「でしょうね。……それで、待った、とは?」

「言葉通りさ。君は今何らかの手法で"対処"をしようとしている。そしてそれは、これだけの大惨事を無かったことにできるような、とんでもないものだ。事象の改変、時間の遡行、空間の置換。思い描くくらいなら私にもできるけれど、手の届くはずの無い奇蹟。あるいはゴルドーナにだってできやしない秘蹟」

 

 ニギンは──ニヤリと笑う。

 

「煩わしいと、思わないかい?」

「この全てをなかったことにしても、また狙われるだけ。だから、この事実は取っておいて、アスクメイドトリアラーを、ひいてはそれを仕掛けた国を共に滅ぼさないか。──そういうお誘いと見ましたが」

「そうだな、八割方の図星を突かれてあげよう。その通りだよ、レディ。命の生死を自由に扱える君だ、蘇生も殺害も思いのままに、記憶だって操れるんだろう? 肉体も記憶も魂の装飾品でしかないからね、君がそれを自在に操れるのも納得さ」

「並べる御託は以上ですか?」

「今日ここでは、謎の爆発があった。死者多数。負傷者多数。奇跡的に命を取り留めたのは、オーリ装飾品店の装飾品を身に纏っていた店員二人。休日で出ていた店主と従業員の一人はその場におらず、帰って来てから惨事を知る。理由を調べんとする。その道の先に浮かび上がるのは──国。アスクメイドトリアラー。この国の闇」

 

 朗々と語りを続ける騎士ニギン。

 彼の誘いに乗るにせよ乗らないにせよ、これ以上目撃者を増やすのは得策ではないので周囲一帯に結界を張る。

 

「さぁて、では、君達民草を護るために立ち上がる組織があるだろう。そうさ、騎士団だ。──大義は得た。自らの守る都市が襲撃されたのだ、外ならぬその都市の所属する国に。私達が剣を取らない理由があるかね?」

「──いいでしょう」

「おお!」

「ただし、協力するつもりはありません。国家転覆など、装飾品店の店主としての領分を大きく超えています。私がこの件で行うのは、"襲撃があったという事実を消さないこと"と、"襲撃によって出た被害に無力でいること"だけ。私への襲撃を好機と見るのは勝手ですが、度合いは考えてください。──禍がこちらにまで及ぶようなら、次の敵は騎士団です」

 

 リコ君にかけた結界を解くと同時、爆発四散したイルーナさんを「集結」させる。

 ほとんど抜けている魂を苦界から引き摺り出して、記憶処理。リコ君も。

 

 今騎士ニギンが言ったように、彼女らは日常的に護符系統の装飾品を身につけていたから助かった、けれど気絶してしまっていた、ということにした。

 イルーナさんにはもう少し多くの処理をしてあるけど。

 

「……死者蘇生。それも、強制暴走で四散した肉体を再構成して……いや、私の目に狂いがないのであれば、散った肉体そのものを元の場所に配置し直した、という風に見えたね」

「無駄口を叩く暇だけはあるのですね。これから忙しくなるでしょうに」

「レインとシルディアが少し前から帰っていなくてね。外出申請も来ていない。レインには失踪の前例があるから、シルディアはそれを探しに行ったか、あるいは愛の逃避行をしたか……ということになっている」

「はあ」

「アルゴの馬鹿が自滅で投獄となった以上、私達の旗印となれるのはあの二人だけだ。だから、あの二人が帰ってくるまではこの爆発の調査をしようと思う。なぁに、同時期に消えたアスクメイドトリアラーが何人も出てくるはずだから、とっても()()する調査になるだろうけどね」

「そうですか。二人が帰ってくるまでに終わっていればいいですね」

「それは心配ないよ。二人が帰ってきたら終わるから」

 

 正直、勝手にやっていて欲しい。

 騎士団と国の対立なんて本当に私には関係ないことだ。一応関係があるとすれば、今は「戦争」の準備中なので関係のない所で人間が大量に死ぬのはちょっとなぁ、ってくらいかな。

 国家転覆。革命。果たして何人死ぬのやら。

 

「ああ、そうだ。大切な都市を守ることができなかった不甲斐ない騎士として、お詫びをしないと。そうだな、何が良いかな。よし、君にこれをあげよう」

「はい?」

 

 放り投げられたものは……どこかの鍵。

 魔力が籠ったアレソレじゃない。本当にどこかの鍵だ。何、世界の記録を漁れって言ってる? そこまで知ってるならもう私は一旦世界を作り直すまで考えるけど。

 

「シスタバハルア丘陵。そこに、ブレイティダニア歴におけるティダニア王国……ティダニア伝統派らが使っていた街がある。既に廃墟だけどね。ただ、廃墟に隣接して作られた墓地があってさ。その鍵は墓地の地下にある大空洞へと繋がる扉を開けるための鍵らしいのだよ」

「……何がどうお詫びなんですか?」

「曰く、その近辺で魔色の燕の目撃例が多く上がっているとかなんとか。ああ、まぁ、オーリ装飾品店の店主にはあまり関係ないことだけどね」

 

 それじゃ、なんて言って去って行く騎士ニギン。

 決めている。今生において、彼女の世界の記録は漁らない。

 

 ……良いね。彼女がなぜあれほどまでに情報を得ているのか。その思考能力はどこから来ているのか。

 

 観客を楽しませる踊り、というものを熟知している。

 革命をするのは良いけど、変なことで死なないで欲しいな。殺し忘れで後ろから、とかさ。

 

 もう少し、あなたの踊りを見せて欲しい。

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