神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「俺の名前、まだ勝手に使われとるんか……」

 この世界には幾つかの法則を敷いてある。

 遷移法則。万化法則。総量保存法則。廻天法則。

 その内の一つに、「換期法則」というものが存在する。

 

 属性、性格、大小、広狭。

 相反するものは互いに中心点を有し、その中心点があることによって互いが交わることのないようにしている、という法則だ。

 この法則を、世界に属するものでありながら生物として担うのが天龍。ゆえに彼らは相反の位置にある龍と接触することのない代わりに、「安定し続ける」。

 そうであるから天龍は一定の棲み処というものを持たず、周期的に位置を変える。彼らがそう在るからこそ「運命」が流れ、循環し、巡る。

 

 天龍を倒してはいけない、というのはこういうことだ。魔族や聖霊、あるいは高位の魔術師であればだれもが知る事実。

 ……だったはずなんだけど。

 

「緘口令、ですか」

「はい……。その、協会は何度も声を上げたのですが、聞く耳持たずでして」

 

 魔術師協会。

 オーリ装飾品店の名が広まり始めてすぐ、彼らの内の一人が私の店にやってきて、装飾品の品定めをした。

 その開口一番が、「素晴らしい。噂に恥じぬ、誇張に遜色なし。これからも精進するように!」だった。その後も何人も何人もやってきて、買うわけでもなく文句をつけるでもなく頷いては帰っていく者ばかり。

 段々と私の作る装飾品の効果が知れ渡って来た……そんな頃合いで彼らは私を協会に呼び出して、「協会に依頼があったけれど応えられそうにない、そちらで対応できないか」というものを渡してきた。

 協会内でどんなことがあったのか、どういう経緯でそうなったのかは知らないけれど、私はとっくのとうに魔術師協会が一目置く存在になっていて、そうして頼られる、ということが増えたのである。

 

 そもそも魔術師協会というのは、簡単に言えば「魔術をもっと極めようの会」だ。魔法という既存の言葉を組み合わせて発現させるソレとは違う、魔力操作や力を持つ言葉を探し、見つけ、時には作り出して深奥へと近づく。

 だから多種多様な依頼を受けられるし、学ぶ姿勢を絶やさない。「世界には説明のつかない奇蹟がこれでもかと眠っていて、我々はそれに一歩でも追い縋らんとする。それが魔術師だ」とは初代会長の言。

 矜持こそあるものの変な選民思想は存在せず、どちらかというと去る者は追わず来る者は拒まずで「知識」を集積し続ける、"群"としての記録装置……くらいに思っている。超劣化版世界の記録。

 

 で、騎士ニギンとの「取り決め」のあとすぐ私はここに呼び出された。

 あの爆発について根掘り葉掘り聞かれるとかかな、とか思っていたら、話題は全く別のこと。

 

 喚期が近く、そろそろ天龍が移動を開始する時期なのに、事実を周知することを王国側が禁じた、という話だった。冒頭の緘口令はそういうこと。

 騎士ニギンの胡散臭さや面倒くささはまぁ置いておくとして、確かに不信感を持たれても仕方のない国家運営をしているんだなぁ、という気持ち。

 

「それで、それを私にどうしろというのですか?」

「王族の説得は望み薄だと考えています。……その、なので、こちらで事件か何かをでっちあげて、天龍の航行ルートにある村や都市の民へ避難を促せないか、と」

「協会だけでなく、一個人の考えでそれをやるのはリスクが伴い過ぎるように思いますが」

「……やはり騎士団、ですか」

「はい」

 

 気乗りしない、というのが顔に出ている。

 そりゃそうだ。何かと距離が近いから忘れがちだけど、騎士団は都市においては「絶対権力」とでも呼べるものを有している。それは協会員に対しても発揮され、「世迷言」を嘯いて都市を混乱させようものなら──そうしようとしたと汲み取られたのなら、そこでお縄、ということも大いにあり得るのだ。

 言っちゃなんだけど、協会員は性格的に憶病である者が多い。勇気の一歩を踏み出せるほどの胆力が無い。ただし知恵はあるから、こうして二の足を踏む。

 

 ……だからと言って私に頼ってくるのもおかしな話なんだけど。

 

「天龍の航行ルートの予測図はもう出来上がっているのですか?」

「はい。一日単位でのズレはあるかもしれませんが、ルート自体はほぼ完璧に」

 

 喚期法則は法則なだけあって予測がしやすい。この世界の歴史は五万年近く、「記録をする」という手段が現れたのもかなり早めの段階だった。

 それなのに識字率が上がらなかったり文化水準が低いままで在り続けるのは、ひとえに魔王が悪逆非道を尽くすせい……とかいうのはまぁ置いておこう。

 とにかく、サンプルはかなりあるのだ。魔術師協会がどれほどを集められているのかは知らないけれど、もし完璧にデータ収集を終えているのなら、一万年から二万年近い情報が手元にあったっておかしくはない。そこから導き出される予測ルートも完璧に近いと考えられる。

 

 だとして、「オーリ・ディーン」は。

 

「……やはり、騎士団に掛け合うべきでしょう。私が一人であればまぁ協力しないこともなかったかもしれませんが、うちには従業員が三人います。私の装飾品を生命線と謳うような常連さんもいらっしゃいます。申し訳ありませんが……」

「です、よね……。……すみません、こちらこそ無茶を言いました」

 

 話は終わりだ。

 

 ディモニアナタとヨヴゥティズルシフィとの戦いはまだまだ続きそうだし、まぁ、これでようやく一段落か。記憶処理後のリコ君とイルーナさんの経過観察をして、問題が無ければ「日常」を再開しよう。

 

「おい」

「はい?」

 

 声。

 ……うん? 私に話を持って来たメガネの男性……デビットさん、ではないね、今の声は。

 

「下だ下!」

「……子供?」

「だぁれが子供だ! ワタシは今年で四十を超えるんだぞ!!」

 

 子供がいた。

 少女……だろうか。言葉の通り、出生からかなり時を経ているのはわかるけれど、それと同時に口調がかなり幼い。精神と肉体の反転……じゃなさそう。というか魔力は感じられない。

 突然変異?

 

「デビットさん、この子は?」

「えっと……その。──です。……う」

「ふん、黙っていろと言っただろ!」

 

 言論操作の契約。アンネ・ダルシアには遠く及ばないけれど、そこそこの練度。

 世界の記録は……まぁいいや。別に緊迫した場面でもないし。ちゃんと「会話」をしよう。最近「人間ロールプレイ」から逸脱し過ぎだからね。

 

「お嬢さん、お名前、言える?」

「だぁから子供じゃないと言っているだろう! 耳垢詰まってんのかこの無表情女は!!」

「く、口が悪いですよ、──! というかやめてください、魔術師協会はオーリさんに何度も救われているのですから……」

「黙っていろへなちょこメガネ!! だいたい、お前がそんなだからあんなあっさりと下がらされたんだろう!」

「そ、そんなぁ!」

 

 言論操作の契約はあるけれど、言葉の節々からこの少女がそこそこ地位のある人間である、というのは感じられる。

 しかし、無表情女か。割と表情変えてるんだけどな。まだまだ「人間ロールプレイ」が甘い。精進精進。

 

「いいか、無表情女! 貴様に命令を出す! つべこべ言わず」

「拒否します。デビットさん、大丈夫です。この程度で気を悪くしたりしませんので。では」

「あ、はい。本当に申し訳ありません……」

「待て! 馬鹿が! 待てバカ!!」

「今朝六区で爆発騒ぎがあって、従業員が巻き込まれたって聞いて焦っているんですよ、これでも。行かせてくれませんか」

「ば、爆発!? 火属性の魔力溜まりでもあったんですか!?」

「原因は不明です。……デビットさん」

 

 ワーギャー喚いている少女と、デビットさんを見る。

 デビットさんは──唇を噛み、固く意を決した顔で、少女を羽交い締めにした。

 

「あ、コラ何をする! へなちょこメガネ、レディの身体をそう気安く触るな!」

「行ってくださいオーリさん! ──は僕がここで食い止めます!」

「ありがとうございます。それでは」

 

 踵を返す。今度こそ部屋を出ようとした、その瞬間だった。

 

天座の光遮(パリスマ・ペンタ)!」

「ちょぉ、──!?」

 

 魔法。光属性の結界。

 ……この程度なら「オーリ・ディーン」が割ったっておかしくはない強度だけど……そこまでするのか。

 

 今人道を説いたというのに、それでも引き留めるか。

 そんなに喚期が気になるなら、この少女が騎士団に掛け合えばいいのに。

 

「国は怪しい! 騎士団も怪しい! 今民草を護れるのはワタシたちしかいない! わかるだろう!」

「名乗りもせず、デビットさんに言論操作の契約をかけているあなたも相当に怪しいのですが」

「うっ」

「関係値、及び信頼度においてはデビットさんの方が遥かに上なので──彼を虐げる動きを見せているあなたには悪印象しかありません。"人に物を頼むのなら態度というものがある"という言葉がありますが、それ以前に相手の信用や信頼を勝ち取るのが先では?」

「……ぬぐぐぐ」

 

 それでも名乗らないのか。

 面倒だな。何か事情があるんだろうけど、事情ならこっちにもあるわけで。

 

 さて、「オーリ・ディーン」は如何とするか。

 

「ここまで言われて名を明かせない。つまり、名を明かすと危険に陥る……あるいは私にまで危険が及ぶ可能性を孕んでいる。なるほど、であればあなたの名前も自ずとわかりますね」

「ま……待て、言わない方がいい。というか思いついた素振りもするな、どこで誰が聞いているか」

「ウチでもトップの人気商品となります、『音吸いのシエルタ』。指定範囲の音を吸収する装飾品です」

「そんな便利なものがあるのか!?」

 

 何度も言ってるけど、『音吸いのシエルタ』は私が発明したわけじゃない。

 だからどこの装飾品店で取り扱っていたっておかしくないのに、そういえば騎士シルディアも騎士ニギンも初めて見た、みたいな顔をしていたな。

 音の魔力がそこまで周知されたものではないから、装飾品としても効果を認識し辛いとかなんだろうか。

 

「……これは、音の魔力を吸収している? どうやって……いや、まさかこれは、レソウンシエル?」

「博識ですね。はい、レソウンシエルは自身の周囲にある音の魔力を吸い取って増幅、これを獲物に当てて気絶させ、捕食をする、という生態を有しています。『音吸いのシエルタ』は吸い取る機構だけを装飾品として誂え、整えたものです」

「ほぉー……特例水域指定有害生物のレソウンシエルを装飾品に、とは……それに、状態が果てしなく良い。アレは近づくだけで危険な生物だ。なんせ、漁師らの帆船の底面を音による衝撃波で叩き割るんだからな。それをここまで傷つけずに……いや、それもそうだが、……被面に薄くかかったこのコーティング剤……まさか闇の魔力を液状に……だがどうやって……」

 

 取り上げる。長引きそうだったから。

 

「それで、ご自身の目で見てなお、この装飾品が信じられませんか。名乗れませんか、前期第三王女様」

「いや、たとえ聞かれていなくとも、知ってしまうだけで民草では己を守り切れ……言っとる!?」

「騎士団を介さず大勢を動かそうという計画を持ち掛けて来ておいて、何を今更」

「だが……その……」

「デビットさんがアスクメイドトリアラーだから、ですか? そんなに迷っているのは」

「!?」

 

 面倒が勝ったのでぶっちゃける。

 正体をバラされたデビットさんは。

 

「ああ、ごめんなさい、ごめんなさいオーリさん……」

「『潮騒のスフィラ』。『音吸いのシエルタ』が音の魔力を吸収するものであるのなら、『潮騒のスフィラ』は音の魔力をかき乱すものです。今のデビットさんに聞こえているのは、私が見当違いな推理を述べた挙句、あなたをデビットさんの娘だと勘違いしたことで、あなたがまた喚き散らかしている……という図。こちらは『幻列のヴィエ』。あなたの光魔法の結界の発動に乗じて発動させました。視覚情報への幻惑作用をカーテンのように敷き、違うものを見せます」

「……貴様、何者だ」

「名乗れ、と言っておきながら、こちらが名乗っていませんでしたね。失礼いたしました。──私はオーリ・ディーン。オーリ装飾品店の店主です」

 

 さて──色んなことが同時に起きているけれど、私は変わらず「人間ロールプレイ」に徹すればいい。

 神々の動向も、人間の思惑も知らない知らない。勝手にやっていたらいい。

 

 いいじゃないか、その方が人間の幅が出る。

 私の意思なんて本来必要ないんだ。「魔色の燕のオーリ・ディーン」を求められ過ぎて最近過干渉気味だったけど、ここらで一旦落ち着きを、って感じで。

 

「場所を変えましょうか。お任せください、あなたを着飾る装飾品。その全てがあなたの真実を包み隠しますよ。本質を際立たせることも、隠して偽ることができるのも装飾品ですから」

 

 さぁ、お手を。

 レディ。

 

 

 

 

 騎士ニギンの真似はかなり不評だったらしい。物凄く胡散臭いものを見る目で見られた。

 この評価はそのまま彼女へのものであるとする。

 

「ラスカットルクミィアーノレティカ・ティダニア。ワタシの名前だ」

「相変わらずですね、ティダニア王国の王族は」

「?」

 

 名前が長い。とはいえこれは祝詞なのだ。

 前、イルーナさんにエダムに纏わる話をしたと思うけど、あれと同じ。昔あった出来事における流行、及び大事な詩。そこから名前を取ることもあれば、繋ぐこともある。

 ティダニア王国は繋ぐ方。ラスカットルクミィアーノレティカ。直訳すると「最後に揺らめく灯火は消えない」。意訳するなら、「託された希望の灯が消えることはない」。ティダニア王国がブレイティダニア歴から続けている名付け方法で、だからブレイティダニア歴とティダニア歴を跨ぐ頃合いにあった学院では「歴代の王族の名前」をどう暗記するか、みたいな遊びがあったりした。

 

「ルクミィさん、でいいですか」

「構わないぞ! なんだ、蓋を開けてみれば話の通じる奴じゃないか!」

「今の一瞬で何を判断したのかはわかりませんが、まぁ評価が上がったのであれば良しとしましょう」

 

 魔術師協会、第二実験管理室。

 どうにもアスクメイドトリアラーはルクミィさんの身体の位置を追跡する類の魔術を使っているらしく、「場所を変える」にしてもそう遠くへは行けなかった。それを欺く手段は存在するけど、装飾品で出来て良い効果じゃないので却下。コレを当然のように使ってしまえばアスクメイドトリアラー側も技術を上げねばならず、終わりの見えない競争が始まる。無意味な。

 というわけで場所を魔術師協会内にとどめ、且つ誰に聞かれることもない場所へ移動。監視の目はついたままだけど、そこはどうとでも誤魔化せる。

 

「さて──では、本題に入りましょう。まず、前期第三王女様がなぜここに?」

「その前期第三王女様、というのはやめてくれ。ワタシにとってはあまり良い呼び名じゃない」

「では、貰い手が見つからなかった現王妃の末妹様、と」

「悪意があるだろ悪意が!!」

 

 別に初めから彼女がそうだと知っていたわけじゃない。ただ知識として、魔術に傾倒するあまり嫁き遅れた王女がいる、というのを知っていただけだ。

 人間とは難しいもので、王族でも貰い手が見つからない──相手が拒否する、ということが発生するらしい。別に愛情ナシで良いなら箔のための結婚くらいしたって良いと思うんだけど。

 ちなみにこの国は最低十三歳から結婚ができる。する人あんまりいないけど。平均は十六歳くらいかなー。

 

「話を逸らさないでください。アスクメイドトリアラーの目を欺いていられる時間は有限です」

「貴様が言うか貴様がァ!」

「ルクミィさん」

「……ああもう! わかったよ、大人なワタシが折れてやる。……で、なんでここにいるかだが、王家がもうダメだからだ」

「もうダメ、とは」

「魔色の燕って知ってるか? 傭兵組織で、国家間のしがらみや情勢を一切汲まずに依頼を遂行する暴力集団」

「いえ、知りません」

「あー。まぁ、そういうのがあるんだよ。で、義兄さんたちと姉さんたち……つまり現国王、王妃、その弟と妹。どっちも魔色の燕って組織に洗脳されてる」

 

 ……。

 こう。……的確な。

 

「洗脳、ですか」

「そ。手段は恐らく薬物。魔術の痕跡も見受けられたけど、頑なにワタシの診察を受けたがらなかったから真偽不明。ただ下水道からカゴタゴって花の花弁片が出てる。カゴタゴは知ってるか?」

「自白剤などに使う花ですね」

「そそ。下水はまだ調べ途中だけど、カゴタゴ以外にも出るわ出るわの違法薬物。カルヴァも検出されてる」

「マスキーの、ですか。半ばお伽噺になりつつある薬品ですが……」

「お伽噺なんかじゃない、あれは実話だよ。……ただ、時の皇帝ヨズがその手で根絶したはずなんだ。だってのに……カルヴァはさも当然であるかのように流通している」

「なぜ検出されたそれがカルヴァだと? 根絶されたはず、とまで言うのですから、本物がどういったものであるか、あなたも知らないはずでは?」

「ある日、ワタシに出されたメシにそれが入ってた。異様な酩酊状態を感じてすぐ喉に手ェ突っ込んで胃の中のモン出して、全部調べた。その中に、見たこともない物質が混じってて……それに対する研究を重ねていく内に、それがヨズとシンラに出てくるカルヴァと同一症状を引き起こすものだと理解した」

 

 非常に行動的。且つ、恐れ知らず。研究者気質。

 成程これは貰い手がいないわけだ。()()()()。薬物や化学物質に対してそう熱心になる時代は、もう少し先。今の文化水準ではルクミィさんの行動は全て奇行に見えるだろう。

 

「つまり、ご家族が魔色の燕なる組織から薬物・魔術による洗脳を受けていて、マトモではない。だから逃げ出してきた……と?」

「別に換期が近くなかったらワタシ一人でも戦うつもりだったさ。ただ今回、魔術師協会からの要請を義兄さんは蹴った。天龍の換期がどうしようもない法則で、どの歴史書を見たってそれに従って移動してきたってことまで記録されてるのに、一切聞く耳持たず。あのへなちょこメガネがアスクメイドトリアラーだから撤退が早かった、ってのは勿論あるだろうけど、民草を護るべき王族が目に見えた脅威を前に緘口令は無いだろ」

「換期に関してはルクミィさんだけではどうしようもないので、誰かを頼ろうと思った。ただどこへ向かうにしてもアスクメイドトリアラーが付き纏う。とりあえずいくつか都市を回ってみようと思った一つ目で、アタリを引いた。……そんな感じですかね」

「そそそ! いやーワタシの運は最低だと思ってたんだけどね、ここ一番に使うためだったって考えたら惜しくはない。──頼む。その技術があれば、誰がやったかを悟らせずに人々を移動させる、ってくらいはできるだろ?」

「ふむ」

 

 勿論できる。

 ただ、「オーリ・ディーン」は……これに頷くか。

 

「二、三……質問しても?」

「ああ、ワタシに答えられることならだが」

「一つ目。先程騎士団も怪しいと言っていましたね。理由は?」

「……最近、各都市の騎士が権力を振り翳す行為を控えている。王都ででさえもだ」

「良いことでは?」

「表面上はな。ただ、今までの騎士団……つまり王家の権力を笠に着た騎士団の在り方を考えると、そう簡単に全体が考えを改めるというのは無理な話だ。だというのに身の振り方を考えたというのは、何か自分たちの立場が変わるようなことが起きると知っていて、だから民草への心象をどうにか緩和しようとしている。……ワタシにはそういう風に見えた」

 

 直感混じりの観察眼。憶測が多分に入った考察。

 時代を先取りする発想と、不屈且つ気丈な性格。

 

「次の質問です。今、初対面の私にそこまでの信を置ける理由は? 言ってはなんですが、あなたの半生は裏切りと内通者に満ちたものだったでしょう。一つ目の街にアタリがいる、なんて偶然……どうしてそんなものを信じられるのですか?」

「無表情女。それはワタシに見る目があるからだし、貴様に表情が無いからだ」

「……先ほどから思っていましたが、そこまで私、顔に出ませんかね」

「いいや? 嬉しい時は笑顔にする()()()()()()()し、怒った時は()()()()()()()にしている。不快な時は不快な、面倒くさい時は面倒くさそうな。それぞれ、表情……眼球の動き、瞳孔の開き具合、脈拍、呼吸。全てに至るまでちゃんと()()()よ」

 

 ただ、と。

 ルクミィさんは。

 

「でも、貴様の表情は何にも変わっていない。貴様のソレは持っている仮面を付け替えているだけだ。無表情で無感情で無関心で無情。ワタシの境遇、へなちょこメガネの立場、天龍の喚期、王家の失墜。それらに対して貴様は心の底から"何とも思っていない"」

「……そうですか」

「ただ、それが悪いと言っているわけじゃないぞ」

「……」

「というかそんなものだろう。ワタシと貴様は初対面。天龍の航行ルートだってこの都市に関わるものではないし、王族がどうなったって民草である貴様はほとんど変わりがない。頭が挿げ変わろうが生活が一変するほど金に困っているわけでもなさそうだしな。であれば、この件に関して感情的になれという方が無理だ。人間は誰しもが他者に対して同情的なわけじゃないし、死や悲劇を目の当たりにしたからといって必ずしも感情が伝播するわけじゃない。共感性なんてものは持っている奴が持っていない奴を糾弾し、その声が大きいからまるで常識であるかのようになっているってだけの代物だ」

 

 この人……なんだ?

 考え方が「この時代的」じゃ無さすぎる。ただ時間遡行の痕跡は見当たらないし、逆に過去から飛んできたわけでも無さそう。

 

 完全な突然変異?

 

「まぁ……そうですね。今までの話を聞いても私には"そうですか"という感想しか湧いてきません」

「問題ない! 同情を誘いたいわけじゃないからな。それなら貴様の言う通り、"人に物を頼む時の態度"をする!」

「そうですか。では、三つ目の質問をしても?」

「ああ」

 

 いやはや、人間は面白い。これだからやめられない。

 騎士ニギン。ルクミィさん。人間じゃないけどリーさんもかな。

 私が「人間ロールプレイ」をしていなかったら絶対に出会わなかった人たちだし、水晶玉を見る視点だったら存在にさえ気づかなかっただろう。

 

「──神に祈らない理由は?」

「人間が解決すべき問題だからだ」

 

 ……おお。

 

「そうでしょうか。一個人でしかないルクミィさんにできることの範疇を超えているように思いますが」

「勿論。だから人を頼っている。ただ、天龍の換期は既に人間が調べ尽くした事象であり法則。その対処法も知った上で"神様お願いします"、なんておかしな話だろ。本当にどうしようもないこと……たとえばなんらかの状況でどうしても目の前に雷を落とさなきゃいけない、ってなったらワタシも祈るよ。あの事象はまだ解明されていないし、今のところ神にしか扱えないナニカだ。でも王族が洗脳されていることも、それによって民草が被害を被ろうとしていることも、全部人間が対処すべき内容で、謂わば試練だ。それを神様に手伝ってもらうなんてあっちゃいけない。違うか?」

 

 ルクミィさんは聞いて、「あ、違ってもいいんだ」と畳みかける。

 

「別にワタシは思想を押し付けるつもりはないよ。ワタシが異端だなんてこの四十年ずっと言われ続けてきたことだし。この身体が小さいこと含めてね。ただ、ワタシはそういう考えを持っていて、だから神には祈らないし、貴様がどういう人間でも気にしないし、騎士団のことをちゃんと怪しむんだ。……質問は以上か?」

「ええ、聞きたいことは聞けました」

 

 返答をする。

 

()()()()()()

「う……そうか」

「ですが」

 

 なんかついさっき装飾品店の「オーリ・ディーン」としての日常がどうの、って述べた覚えがあるけれど、撤回撤回。

 こんな面白そうな人間のそばにいないなんて、「人間ロールプレイヤー」としてナイナイ。

 

「オーリ装飾品店の店主としてではなく──暗殺稼業も傭兵も洗脳もしない、本物の魔色の燕としてであれば、助力いたしましょう」

 

 魔王と勇者とその他諸々?

 ……ヨヴゥティズルシフィがなんとかするでしょ。

 

 今はこっちこっち。

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